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今年、インターネット検索大手グーグル社のプロジェクト「ブック検索」が、ネット時代の「黒船」として日本に襲来した。
グーグルは考えた。「古今東西の本という本を、ともかく全部スキャンしてデジタル化しちゃおう。その検索とか印刷でお金が取れればビジネスになる」。このアイディアに従い、現在、協力図書館とともに、片っ端から世界中の書籍の全頁スキャンを進めている。
これに対して、米国内で「それは著作権者軽視じゃないか。著作権侵害だ」という訴訟が起こされた。そして「和解」となった。
その和解内容が衝撃的だった。なんせ、訴訟に参加しなかった世界中の「著作者」たちも、和解に応じる当事者に含まれてしまうのだ! もちろん日本も含まれる。なぜこんなことになるのかというと、米国の裁判の「クラスアクション」という集団訴訟では、「そういう人」すべてが裁判に参加したのと同じ扱いになるからだそうだ。
⇒福井健策弁護士による解説「全世界を巻き込む、Googleクラスアクション和解案の衝撃」2月10日
今年に入って
グーグルから告知が出て、日本の出版界は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。ともかく最初は、何が起きているのか理解することすら困難だった。
⇒毎日新聞4月27日「書籍全文デジタル化・グーグル和解案 作家や出版社、反発強く」
その後、いろいろ情報が出てきたりグーグルが説明をしたりして、騒動としては沈静化しつつあるが、今後どうなるかは予断を許さない。
⇒毎日新聞5月28日「文芸家協会:グーグル和解案受け入れ 絶版書籍デジタル化」
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ところで、その
ブック検索である。
試しに「寮美千子」と入れてみた。
結果はこんな感じ。てっきり「米国のサービス」だと思っていたのに、驚くほどの冊数が出てくる。しかも、著書だけでなく、アマゾンの
「なか見!検索」のように、他の著作者による本文中の記載もピックアップされている。OCRで文字データを起こしているため、認識ミスも見られるが、なかなかすごい検索力だ。
続いて、「寮佐吉」と入れてみた。
検索結果を見ると、リストアップされた冊数も多いが、それよりも内容に驚いた。寮佐吉についての明確な言及が、「桐生悠々」についての複数の本にあるようなのだ。
桐生悠々といえば、山本夏彦のコラムでその名を知った反骨の人である。信濃毎日新聞の主筆として
「関東防空大演習を嗤う」という論説で、“関東への敵機飛来に備えるというが、帝都上空に敵機が来た時点で既にして敗戦確定なので、防空大演習はナンセンスの極み”と主張して軍の怒りを買い、信濃毎日を追われた。昭和8年のことである。
この論説をあらためて読んでみると、目につく箇所があった。
特にそれが夜襲であるならば、消灯しこれに備うるが如きは、却って、人をして狼狽せしむるのみである。科学の進歩は、これを滑稽化せねばやまないだろう。何ぜなら、今日の科学は、機の翔空速度と風向と風速とを計算し、如何なる方向に向って出発すれば、幾時間にして、如何なる緯度の上空に達し得るかを精知し得るが故に、ロボットがこれを操縦していても、予定の空点に於て寧ろ精確に爆弾を投下し得るだろうからである。この場合、徒らに消灯して、却って市民の狼狽を増大するが如きは、滑稽でなくて何であろう。
特に、曾ても私たちが、本紙「夢の国」欄に於て紹介したるが如く、近代的科学の驚異は、赤外線をも戦争に利用しなければやまないだろう。この赤外線を利用すれば、如何に暗きところに、また如何なるところに隠れていようとも、明に敵軍隊の所在地を知り得るが故に、これを撃破することは容易であるだろう。こうした観点からも、市民の、市街の消灯は、完全に一の滑稽である。
一方、
寮佐吉の著作に『近代科学の驚異』という本がある。これはサンデー毎日、週刊朝日、中央公論、改造、新青年、若草、工業大学蔵前新聞、読売新聞、東京朝日新聞などに執筆した記事をまとめた本で、昭和9年に単行本化された。中には、無人操縦の話も、赤外線暗視装置の話も書いてある。(信濃毎日の「夢の国」欄は誰が書いたのだろう?)
ブック検索で上がってきた岩波新書『抵抗の新聞人 桐生悠々』(井出孫六、1980初版)をさっそく入手した。
桐生悠々は、寮佐吉より18ほど年長である。二人は名古屋で過ごした時期が十年ほど重なっている。太平洋戦争開戦前に反戦論を述べてメジャーの仕事を干された点が共通している。また二人ともプランクの本を訳している。
具体的にどんな仕事をしていたのか、寮佐吉が寄稿を続けていたという桐生悠々の個人誌『他山の石』(復刻されていて、奈良教育大の図書館にも入っている)を調べてみることにしよう。
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今回、寮佐吉の未知の業績の糸口が見つかった。孤独な戦いでなく、考えを同じくする仲間がいたこともわかった。
グーグルのブック検索を「とんでもない」として拒否しようとしている著作者たちもいる。
しかし、今回の発見を前にすると、考え込んでしまう。これはむしろ、公共図書館でやってくれてもいいようなサービスなのではないだろうか? 日本の図書館ではサービスの対価を取ることが禁止されているからビジネスにはなりようがないけど、企業が実施して、著作権者へ適切な対価が支払われるなら、知の共有とビジネスが両立する、すばらしい仕組みではないか?
ブック検索の破壊的パワーを見れば、それが「黒船」と呼ばれることに違和感はないが、これまでになかったチャンスも与えてくれる。いったいどんなものなのかは、今後よく見極める必要があると思う。
それにしても、寮佐吉のことは、調べれば調べるほど面白い。
年月が経つにつれ、国会図書館の蔵書検索が充実し、昭和館の雑誌記事検索が充実し、グーグルのブック検索が始まり、佐吉の仕事内容がどんどんわかるようになってきた。この進歩、この感動。“一人ディスカバリーチャンネル”だった佐吉にも見せたいぐらいだ。
http://ryomichico.net/sakichi/