■15 Dec 2006 流星群きらめく星兎の夜
「うさぎ、忘れなくてすむんなら、
宇宙が終わるまで忘れないよ。きみのこと」
うさぎはひと言「さよなら」とつぶやくと、ぐっと深くかがんだ。
うさぎの脚が、埠頭のコンクリートを蹴った。
まるで、地球という惑星を蹴っとばすみたいに。
うさぎの体が宙に飛んだ。
うさぎがぐんぐん遠くなる。
その時、ぼくは、うさぎが空に跳んだんじゃなくて、
まるでぼくの方が、
うさぎに蹴とばされた地面といっしょに、
どこまでもどこまでも墜ちていくように感じたんだ。
世界といっしょに、果てしない宇宙の深みに。
再びめぐってきた双子座流星群。
『星兎』は、セント・ギガの伝説的なプロデューサー
桶谷裕治氏に捧げた物語だった。
オケさんが遠い世界に旅立ってから、もう八年。
わたしはオケさんよりずっと年上になってしまった。
それなのに、いまでも、オケさんの方がずっと大人に思える。
わたしがオケさんを年下に思う日なんか、来るのだろうか。
病床のオケさんに草稿を見てもらった「夢見る水の王国」。
今年になってから、ようやく連載を開始できた。
きょうは、五回目の連載の締切り日。
一昨日、書き上がり、それから怒濤の推敲。
結果的に、細部しか直さないのだが、
その細部を読むたびにどうしても少しずつ直したくなる。
五十枚の原稿を通算五〜六回読んだだろうか。
へとへとになるが、それでも、細かい粉で磨きをかけたように、
美しく仕上がっていくのがうれしい。
「おじいさん」と孫娘の「マミコ」の別れが刻一刻と近づいている。
死者はどこへ行くのか。
死者の記憶のなかの「わたし」はどこへ行くのか。
ほんとうに消えてしまうのか。跡形もなく。
それを追いかける物語だ。
オケさんと宇山さんに、読んでもらいたかった物語。
これは、オケさんや宇山さんを探しに行く物語かもしれない。
連載が終わるまでは、この地上の人でいたい。