「物語の作法」課題提出板 (0046)


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雨宮弘輔 合評報告/『暖かい受信』 2004年11月30日(火)01時53分45秒

 初めて、軽い文体で解り易い物語に挑戦したので、自信がなかったです。それでも、こういったバシバシと批評をくれる授業なので、自分の未知の分野に挑戦してみる価値はあったと思います。
 大方の作品の意図は授業で(多分)喋ってしまったと思いますので、授業で発言されなかった批評を中心に記述していきます。

加賀さん>勝手な想像ですが、この話をドラマ化すると主人公の男の人は「ウォーターボーイズ」に出てる男の子達の中の一人か、森山未来(だったかな?最近確か「世界の中心で愛を叫ぶ」の大沢たかおの青年時代の役をされた若手俳優さん)がピッタリです。
お相手役の女の子は土屋アンナ(モデルさん)でしょう!ちょっと気が強そうな所なんか彼女のイメージに合ってます。(知らない方はぜひファッション雑誌を!)/BGMはスピッツの「空も飛べるはず」とかどうですかね!?

 読み終えた後に、ここまで想像力を働かしてくれたことに感謝します。自分の作品の登場人物を俳優さんに当てはめられると、嬉しいような、恥ずかしいような、申し訳ないような……ついでに、僕は土屋アンナのかったるそうな口調が気に入っています。
「空も飛べるはず」は、かなり良い曲なので僕の作品の質の悪さをより露呈する形になりそうです。

五十嵐さん> −その反抗的な表情は悪くない。
これから彼女はどんな表情をぼくに見せてくれるのだろうか  というような感じで文章をいれればもうちょっと違うで雨宮君の雰囲気を壊さずに締めくくれるような感じするのですが、こんな感じは駄目ですか。

 最後にこのような文章を付けることに、疑問を持ちました。確かに、この一文を加えることにより、作品の恋愛の要素が上がると思います。でも、僕はあまりに安定的な関係、恋愛要素を作品に入れることを避けて書きました。しかし僕の力不足で、この終わり方以外に納得のいく方法が思いつきませんでした。

松本さん>素人の作文なんか読むより、プロが書いたものを読むほうが、比べ物にならないぐらい面白いからです。アマチュアは、プロには勝てないとずっと思ってきたし、これからもその考えは変わらないと思います。

 僕はプロでもつまらない作品ばかり書く人もいると思います。逆にアマチュアや、あまり文章を書いたことのない人でも、面白い作品を書き上げる人はいます(個人的な見解ですけど)。インターネットの普及で、誰しも自分の文章を世に出せるようになりましたね。それによって、プロ・アマの隔たりが減少するかどうかは判りませんが、今後、読者各個人の趣味に応じた作品をさらに細分化して選べるようになると思います。読み物をプロ・アマで判断する考え方を変えると、文学や芸術作品に対する見識も広がってくると思いますよ……と言っても、実は僕にもこういった偏見的な考えはあります。それは、いわゆる巨匠と呼ばれている歴代の作家に勝る作品を、現代作家はもう書けないのではないかというものです。

千田さん> <彼女はスカートの上に両手を置きながら、うなずく。>
 という姿。杉山さんならではの雰囲気が無くなってしまったな、と思いました。

 これはどういった雰囲気なのでしょうか? この行動に千田さんがどういった感想を杉山さんから掴んだのか気になりました。
 
>それから、私も言えたものじゃないのですが、「台詞」の後に改行が入ってない所がいくつかありました。注意です。

 千田さんは小説を書く方なので伝えておきます。必ずしも台詞の後に改行が必要というわけではないと思います。現代の作家では台詞の後に必ず改行する方もいます。そうした方が読みやすいし、書きやすいと思います。でも、改行をしない現代作家も多くいます。また、ちょっと古い作品になると、あまり改行がなされてないんですよ。カフカとか……正直読みにくいときもあります。
 僕は「台詞の後の改行」は、必要に応じて判断します(飽くまで自己的にですが)。

城所さん>杉山さんは主人公から見て可愛いのか可愛くないのかもはっきりとは分かりませんでした。

 判断できないと思います。僕も自分で書きながら判断出来ませんでしたから。もう少し、杉山さん(女の子)の特徴を描けばよかったと思っています。それでもやはり、安易に「曲線を描いた白い頬、首筋から覗ける初春の草原のような産毛」みたいなことは書けませんよね(ちょっと安易過ぎる文章ですが)。でも、作品を書き終えてから「もう少し上手いやり方があったなぁ」と後悔をしました。

菊池さん>今回の作品は、男性視点の恋愛もの(?)ですが、やはり読み終わってちょっと「うっ」としました。

 この「うっ」という気持ちよくわかります。僕もよく小説を読んでいて「うっ」というより「うわっ……」って感じることがあります。どんな作品かは、この場では関係ないので伏せておきます。ついでに僕は今回の作品を恋愛ものだと思っていません。恋愛ものと思われる要素は、考えてみればいくつかありますが……菊池さんはどこを見て、恋愛ものと予想(判断?)したのですか?

>「じゃあ、どうすればいいんだよッ、と」のッがカタカナというところにひっかかってしまう。

 これは、見慣れない表現ですよね。正直、違和感があると思います。でも僕は「!」を使いたくないので「ッ」や「っ」を使ってしまうのです。これでしか科白の力具合を表せられないのです。未熟なんですよ。

>あと「自分がいい人だということを彼女にアピールするのだ。」という部分。
この一文で主人公の心理状態についての思いが混乱してしまいました。
杉山さんは魅力的には書かれていない一方で、どうして主人公が「いい人」でなければならないのか。
またなにを「彼女にアピールする」のか。
読んでいて困惑してしまいました。

 自分の中では、主人公は杉山さん(女の子)を意識しているという関係があったのですが、それを書かずに終えてしまいました。どこに挿入しても、文章のリズムが狂ってしまうような気がして。このリズムは自己的なもので、上手く説明できないのですが。
もし、主人公が杉山さんの対応に腹を立てたら、ますます二人の関係が悪循環になって余計面倒くさいことになるのは、予想できますけど。

>漫画で言えば人物のアップばかり。

 「あぁ、なるほど」と思いました。周囲の描写が少なすぎですよね。どうりで、すぐに話が進むと思ってたんです。大事なことを気づかせてくれて、ありがとうございます。

滝さん>「二通目のメールは夜中に送られてきた。ベッドに寝転がり、眠りにつこうとしていた途端の出来事だ。」
 これは「二通目のメールは夜中に送られてきた。ベッドに寝転がり、眠りにつこうとした途端、携帯が震えだした。」くらいの方が、情景が見えやすくなります。

 確かにそうですね。でも、前文に「震えた」という単語を使ってしまっているので、これ以上、この動詞を出すと文章がしつこくなるのではないか、と判断しました。
 この作品では携帯電話の扱い方に苦労しました。「振動音をどうやって表現しよう」とか「携帯電話とケイタイ」の使い分けとか。

 土橋>言葉の格好良さや雰囲気が読み処で内容は目標地点と着地点を何処に定めたかったのかイマイチ掴めませんでした。

 目的地店を定めないで書いたから、そう感じたのでしょう。文章を書きながら、次の展開を考えるという、行き当たりばったりな方法をとっていました。短編を書くときは何故か、そのケースが多いです。ちゃんと設定しなきゃならないとは、思っているのですけど。

露木さん>『「日本の高校生は気楽でいいですね。世界には小学校にさえ通えずに、日々労働を強いられている子供たちがいるというのに……」と教師はマイクを使って、あからさまな皮肉をぶつけてきた。日本の高校生は気楽だ? そんなわけないだろ。俺たちだって様々な苦悩を押し付けられている。やりたくないことを遣らされたり、笑いたくないのに笑わせられたりしている。それに……別に好きで学校に来ているわけではない。』/気楽でしょう、と突っ込みたくなってしまいます。というのは教師への反抗心をあらわにした後半の部分が弱すぎる。
 
 確かに主人公の反抗心は弱すぎでした。一応、具体的な心情はこのときに書いたのですが、あまりに思想的になりそうだったので、削ってしまいました。やはり足りなかったですね。ついでに「日々労働を強いられている子供」と「笑いたくもないのに笑わせられる日本の高校生」。果たして「どっちが気楽」という比較の問題なのかどうか、僕には判りません。 
<日本の高校生の気楽さ>、<十字架のストラップ=ゴス系>の文章もそうですが、学校内での強引と思われるくらいの極端な偏見のやりとりを書きたかったので、書いてみました。

圓山さん>特に一番気になったのが、主人公が最後のほうでメールを送っていたのが
杉山さん本人だと知っていたこと。それまで本人が送ってると気がつくそぶり
もなかったし、むしろ他の女の子からきてると思っていたのが、最後のどんでん返し。
 
 気づく素振りは挿入したつもりだったのですが、伝えきれていませんでしたね。僕はこの作品で、どんでん返しを狙ったつもりはなかったです。「読者が気づくか、気づかないか」などということに関係なく書いていました。
 どんでん返しを狙う手法は、多少なりとも読者を惹き付けるので、実は使わないようにしようと思っているんですよ。

>あと登場人物のキャラが確立されていないかんじがしました。

 物語を書く上で「キャラをどこまで成立させるか」ということは難しいですよね(僕だけか?) 圓山さんの小説、もしくはマンガのキャラに対してどんな考えがあるか聞かせて貰いたいです。
 
野島さん>「数学とブロッコリーが嫌いな男子高校生」という部分は、表現が可愛らしくて好感が持てましたが、後の「罪悪感で胸の奥が痛んだ。」という文の前にこの可愛らしい表現は軽すぎる気がして、残念でした。

「数学とブロッコリー」に対する意見が多くて驚きました。この箇所、僕も本当は入れない方がいいと思っています。書いている最中「入れたら主人公の心情の邪魔になるのではないか。でも、入れた方がリズムがあるような……」と迷ったため、受講生の意見を聞こうと考え、敢えて書きました。「この文章に対する批評が一つでも出たら『御の字』だな」と思ったのですが、色々な意見が出てきて嬉しかったです。

 越智さん>この物語は、人に読ませるということを意識して書いたんだろうな、と感じました。/まず、冒頭。主人公がスライドで見ているという映像と、主人公のいる場所の交差から始まります。そのことによって、読み手に何が起こるのだろうかということを期待させます。/中盤、杉山さんの待っている大切なメールについても、謎として、一体どんなメールなんだろうと続きが気になります。/そして、意外な終盤。もしかすると途中で気づいてしまった人もいたかもしれませんが、私は全く気づきませんでした。/ラストシーンは、笑わない杉山さんが笑い、それから主人公の軽快な対応、再び普段の流れに戻るという一連の流れの後、すっきりと「その反抗的な表情も悪くはない。」という文章に繋がります。

 書いた本人がいうのも変ですが「なるほど」と思いました。パソコンのキーを叩いている時には、人に読ませることをそれほど意識していなかったから。こうやって理論的に作品を分析してもらえると自分の作品ながら、新たな部分が発見できたようで参考になります。

>主人公が妙に饒舌でユーモアのあるところも、おもしろく読めました。

 個人的な感想になってしまいますが、今回ユーモアを前面に押し出す表現方法を採ることに少し躊躇しました。「ユーモア」「笑い」は諸刃の剣です。自分では「面白いだろう」と思って書いているつもりでも、読者にとってはツマラナイ。そんな最悪の結果が待ち構えているかもしれないからです。書こうと決めた時は何とも感じなかったのですが、今更ながら「やっぱり、結構危ない手法だったな……」と思っています。
 
室橋さん>数学とブロッコリー、数学と国語じゃ普通ですから。普通のものとちょっとずれたものをあわせると引き立ちますが、ピエロみたいにズレが大きすぎると浮きすぎてしまうし、挑戦しがいのある表現だな、と思います。

 前述した通り、入れるかどうかで悩んだ箇所です。確かに〈数学とブロッコリー〉の響きは良いですよね。語り手の柳田は本気で悩んでいるのに、読者にとっては滑稽に写る。この表現方法は良いのか悪いのか、賛否両論で悩んでいます。

 授業に出る度に思うことですが、やはり自分の作品に対しての批評、感想を貰うと嬉しいものですよね。知人に作品を見せても、「面白かった」「よくわからなかった」等の一言で返されるケースがありますから。
 感謝の気持ちを抱きながら、自分もなるべく他の作品の批評、感想をしっかりと伝えていきたいと思います。

露木悠太 合評報告/「不肖の空」、「セルフィッシュ・フィッシュ」 2004年11月28日(日)00時50分52秒

【作品4/不肖の空】【作品4A/セルフィッシュ・フィッシュ】

授業では答えられなかったところを中心に書きたいと思います。

〈改稿前の方が良い〉
 野島明菜さん
改稿後の作品は急に主人公が怒りだしたように思え、ついていけなかったです。騒ぎ出すことについての主人公の心情の前触れ表現が少ないので、急な展開だと感じられたのです。

・基本的なことを書くのを忘れてしまいました。「ダイブ」というものは怒ったからやるものではないんです。ライブハウスには「ダイブ禁止」とかよく張り紙されてるんですけど、ライブを盛り上げるためのものだったらある程度は許容されていることが多々あります(例えば機材を壊したり、ライブに支障が出るものはダメです)。暴力的なことであっても、ライブ(バンドやジャンル)によっては特別な行動でもないんです。それを楽しみに行く人もいます。もっと読み手を考えなければいけないと思いました。

 児玉武彦さん
しかし。やっぱりここで終わるべきではないと思う。読み手は常にドラマを期待しているし、カタルシスを求めている。この手の話は展開次第でとてつもなく安っぽくもなるし、とても優れたエンターティメントにもなる難しいものだとは思う。

・そうですね、読んで頂いた方にわだかまるものを残してしまったかもしれません。もっと自分で自分の作品を読みこむことをしっかりやりたいと思います。

 滝 夏海さん
書き直しの前と後では雰囲気が変わっているので、どちらがどうと比べるのも難しいのですが、個人的な印象でいうと、作品としては前者に軍配が上がるのではないでしょうか。好みの問題ではありますが。
あと、露木君の狙いとはずれるかもしれませんが、「セルフィッシュ・フィッシュ」はストロボを焚くように全体は曖昧で部分部分のみを鮮明に描いても面白いかも。

・「ストロボを焚くように」という書き方は「セルフィッシュ〜」の世界観に本当によく合っていると思いました。暗く見えづらい店や主人公の心の中で、パッと現れる画を鮮明に表していくことでリアルな感じが出せそうです。

 高澤成江さん
でも内容があまり何を言いたいのかがわかりにくいです。主人公の心のもやもやはわかるのですが、なんだかものたりない感じがしました。何もないまま物語が終わってしまってるように思いました。もう少し何か印象に残る場面があるといいと思います。
個人的には「不肖の空」のほうが好きです。「セルフィッシュ・フィッシュ」のほうがより言葉がハードになっていてインパクトはあるのですが、ハードすぎてちょっとわざとらしい感じがします。

・ダイブから洗面台の前まで、ここはもっと厚くするべきでした。印象に残したかった重要な場面でした。

 五十嵐 舞さん
改稿後は視点が第三者的でこちらに訴えかけるものが前者よりなく説明というか心情を分析しすぎてこの主人公の生の声というか叫びが聞こえなくなってしまった。私も好き嫌いでいえば改稿前の主人公の心情が文章にコモっている「不肖の空」のほうが好きです。

・心情を分析しすぎて主人公の叫びが聞こえなくなってしまった。これはきっと描く力の無いせいです。距離を置いてもなお、主人公の生の声を出せるようにがんばりたいと思います。

〈改稿後の方が良い〉
 土橋明奈さん
『不肖の空』を読んでから『セルフィッシュ・フィッシュ』を読み、すごく読み易くなっていると思いました。
『不肖の空』は何だか忙しなく飲み込み辛い感じです。若く勢いがあって急き立てる様な先走り。いい意味でも悪い意味でも文章がごちゃごちゃとしている。『セルフィッシュ・フィッシュ』は文章構成的にも少しスマートになって主人公の精神年齢も少し上がった感じ。しかし、痛い。

・今、時間をおいてから見ると「不肖の空」の方はやはり強引さが目立ちます。それがごちゃごちゃしてしまった原因だと思います。

 千田由香莉さん
露木さんの作品には、読みやすさと読み手をのせてしまうという強みがあると思うのですが、「不肖の空」では、せっかくの魅力が半減してしまっていたせいか、それを見いだすことが出来ませんでした。が!改版を読んで安堵しました。

・そう感じて頂いたのならありがたいです。ロックの話、とても楽しく読ませて頂きました。「深く潜ったセルフィッシュ」、そうなんです、深く潜ったんです。この、た、が大事ですね。防音扉を開けたシュウの睨む先には、空がありました。そこが何かはわからないけれど、行ってみようじゃないかという気持ちでした。

〈どちらがどうとも言えない〉
 城所洋さん
後者を見た後だと、前者には少し物足りなさというか、安っぽさを感じますが、逆に、後者も、前者を見たという経験があるから何となく後者のこのシーンがここを語っているというのがイメージ出来ただけで、実際の所、少し省きすぎているような所もありました。

・「不肖の空」を作った契機はお話しましたが(シュウとシノダを主人公に二つの物語にしようとしました)、それがあって(二人を対極的に作ろうとしていました)ある程度の会話や進行は先に決めていました。「セルフィッシュ〜」は独立したもの(シュウ一人のものとして)を作ろうとして書いたため、余計だと思っていた部分はどんどん削ってしまいました。それで墓穴を掘ってしまいました。

 越智美帆子さん
最初から最後まで読んでも、メッセージが伝わってこない。予想として、現実にイライラしている若者が鬱憤晴らしにダイブして怪我して、それでも現実は何にも変わらない、というメッセージが含まれているんだろうなと思いましたが、格好良さを意識した描写や格好よく修飾された言葉がメッセージを埋もれさせているように思えます。それに、目立つ描写が多いけれど、その反面肩透かしをくらうような言葉もまた目立ったりしてしまい、うまくバランスが取れていません。
物語の中心に通る一本の筋を、他の表現に埋もれさせてしまうのではなく、もっと明確に感じ、それでようやく物語を書くということしようと感じさせられました。

・本当にそうだ、と思いました。「明確に感じ」という言葉、しっかり覚えておこうと思います。研ぎ澄まされた感覚とそれを描写する力、どちらも全然足りなくて、「もっともっとがんばる」としか言えないことがもどかしいです。越智さんに言って頂いた僕の姿勢を、作品すべてに行き届かせるよう、やはりがんばります、としか言えないです。

 菊池佳奈子さん
「不肖の空」では階段を上がった上に解放があるのに、「セルフィッシュ・フィッシュ」ではその力が昇華される場所が無く、だからこそ重く、鋭いのだと思います。どちらが良いかというのは露木君がどんなものを伝えたいかによると思うのですが「セルフィッシュ・フィッシュ」はこの話だけで終わってしまうと少しきついなと思います。

・世界観に合った文体にしようとした結果、皆さんの意見を聞いてみると、やはり思惑とは少し違ったものでした。ライブハウス、クラブ自体に出したい雰囲気(うまく言えないんですけど漂うムードみたいなもの)があったのですが、狙ってできるほどの技量は全然ありませんでした。僕が伝えたいもの、〜かもしれない、とたくさん考えてみるんですけど、何をするにも足りないものばかりだとずっと思っています(当然そこにばかり目がいってしまいます)。とにかく段飛ばしせず、ステップアップしていけるようにやっていきたいと思います。

 雨宮弘輔さん
両作品とも一人称であるにも関わらず、主人公の心情、思考が書かれている箇所が少ない。何故、そこまで自虐的なのか、という理由を説明する箇所が必要であったと思います。夜の新宿の風景、ライヴハウスの様子から、主人公が抱く嫌悪感にもっと私的なイメージを重ねてもよかったのではないか。そうでなければ、ヒネクレタ若者の単なる奇抜な行動でしかないとみられてしまう可能性があります。具体的でなくても、読者に大方のイメージを浮かばせられるような過去の断片が欲しかったのですけれど、これは敢えて書かなかったのでしょうか?

・「セルフィッシュ〜」の方では特に僕の解釈をなるべく避けました。しかし先生にも言われたとおり風俗的なものとすると弱すぎる。なのでここは読み手に委ねず書くべきだったのかもしれないと、今、思います。シュウが首を引っ掻くのは篠田が笑ったところ。これはすなわちシュウが笑えないところでした。楽しければ良い、狂ったように忘れてしまえばいい、というシュウには(後に気付く)盲目的と感じる場所にいることが「盲信」と言わせたものでした。けれど楽しめる人を非難しようと思うことはなく、一人その場を去ります。ここにいるべきではない、と感じたのはシュウたった一人(として)の葛藤でした。正しいか正しくないかを頭で考えたのではなく(わかるはずもなく)、心が悲鳴を上げました。それが苛々として現れ、やっと正面から見つめたのが洗面台の場面でした。
何かを伝えるためには、やはり文章量が必要だと改めて感じました。例えばシュウと篠田を単純に「店の常連」というような書き方をしてしまうのではなく、シュウに苛立ちを起こさせた経過としてきちんと、さかのぼったところから書くこと。これからテーマにあった分量で書くこともしっかりと頭に入れてやってみたいと思います。

 松本紗綾さん
私自身、ロックが好きでも、興味があるわけでもないので、正直わからない部分が多く共感出来る出来ない以前に「わからない」というのが正直な感想です。
どんなものでも10人中10人が面白いや、好きだと感じるものはないと思っています。なので、この作品に関しては、私は10人中1〜2人に入ったのかと思います。

・「読者」というものを考える時に、より多くの人のことを浮かべなければならないと思いました。

 室橋あやさん
読み終わって、途中で終わったと思いました。
この長さで完結させるなら足りないし、むしろこれから続きかくから序章です、という勢いでした。
「セルフィッシュ・フィッシュ」は突然文学的になりました。飾りものだったロックを社会的に、テーマ性を引き上げて書くことにしたのか、重たく厚くなったぶんスピード感とセリフ回しの小気味よさは消えました。この嘔吐シーンを「不肖の空」にそのまま持っていってほしいのですが。前者よりも後者のほうがテーマも重くのしかかる風味になってますが、でもロックって最初はカッコイイー!から入ると思うので、テーマはいつも考えつつも懐の大きい作品であって欲しいと思います。

・難しいですね。あれもこれも、とやってしまうと失敗します。自分の描ける幅を見極める自己批評の目を、しっかり持ちたいと思います。


皆さん批評して頂きありがとうございました。どの意見も一つ一つよく読み返してこれからのものに生かして行きたいと思います。

城所洋 作品9A/ローレライ(脱字・改行等) 2004年11月25日(木)19時36分14秒
城所洋 作品9/ローレライ への応答

月の光が揺れるワンピース 纏った君は少し無口で
背中を向けて空を仰いだ

ガラスの指でなぞり 満天の 瞬く星に意味を授けて
乙女や双子が君と奏でた

僕を震わす遥かな旋律

君が生まれるずっと ずっと前に星は輝いて
そして光はもっと もっと後に此処へと届いた

長い旅を経て 辿り着いたのは 夜空のオーケストラ


冷たい風が君を軋ませ 小さな雫 一粒生まれて
飾った頬を洗い流した

僕を惑わす月夜の歌姫

君の瞳がじっと じっと弱く僕を見つめたら
僕は思わずぎゅっと ぎゅっと強く君を抱きしめた

零れ落ちたのは 嘘つきな君で 素顔は腕の中に


歌声に 魅せられた 舟人は
立ち尽くし 音も無く 沈んでいく


君がゆっくりそっと そっと腕を払いうつむいて
顔を見せずにスッと スッと僕の横を通り抜け
何時の間にやらパッと パッと君は既に消えていた
僕が見たのはきっと きっと君の中の夜の精

多分もう二度と 歌は聞こえない 陽の無い海の底へ

静かに 夜は 明ける・・・・・・。

室橋あや 批評課題12/え?途中? 2004年11月24日(水)20時49分43秒
▼課題と連絡:批評課題12/露木悠太「不肖の空」と改稿作品の批評 への応答

読み終わって、途中で終わったと思いました。
この長さで完結させるなら足りないし、むしろこれから続きかくから序章です、という勢いでした。ぜひ続きを。完結したものを読みたいです。

「不肖の空」はちょっと乱暴すぎる言葉もありますが、スピード感と若々しさ、独特の言い回しとセリフ回しは読んでいて小気味よかったです。漫画のBECKを読んでいるときのページが止まらない快感と同じものを感じました。ただ、嘔吐するシーンは軽すぎて少し残念に思いました。

「セルフィッシュ・フィッシュ」は突然文学的になりました。飾りものだったロックを社会的に、テーマ性を引き上げて書くことにしたのか、重たく厚くなったぶんスピード感とセリフ回しの小気味よさは消えました。この嘔吐シーンを「不肖の空」にそのまま持っていってほしいのですが。あとインクの羽は消さないで欲しかったです、好きだったので。

前者よりも後者のほうがテーマも重くのしかかる風味になってますが、でもロックって最初はカッコイイー!から入ると思うので、テーマはいつも考えつつも懐の大きい作品であって欲しいと思います。露木さんが愛しているであろう格好良さは最大の武器で、読者も一緒に楽しめる暖かい要素です。適度な専門用語の解説と格好良さで突っ切って下さい!そして続きを!続きを!

松本紗綾 批評課題12/100%はありえない。 2004年11月24日(水)19時34分18秒
▼課題と連絡:批評課題12/露木悠太「不肖の空」と改稿作品の批評 への応答

私自身、ロックが好きでも、興味があるわけでもないので、正直わからない部分が多く共感出来る出来ない以前に「わからない」というのが正直な感想です。
どんなものでも10人中10人が面白いや、好きだと感じるものはないと思っています。なので、この作品に関しては、私は10人中1〜2人に入ったのかと思います。
改稿前と後の作品では、前の作品の方が私は読みやすかったです。登場人物の名前が漢字に変わっていたことも、私はカタカナの方がよかったなぁと思いました。
露木さんは、このジャンル(ギターが好きな若者たち…というような)の作品が多いので、露木さん自身が好きなんだろうと思います。が、露木さんが書く全く違うジャンルの話も読んでみたいなぁと思いました。

千田由香莉 批評12/「深く潜ったセルフィッシュ」 2004年11月24日(水)16時54分13秒
▼課題と連絡:批評課題12/露木悠太「不肖の空」と改稿作品の批評 への応答

 「迷彩」という感じがしました。「ろくなことねーよ」という、その気持ちは私にも分かるもののような気がします。が、どうにも今ひとつ消化しきれなかったのが本音です。最後まで物語に入り込めなかったというか…。「吐いて幾分か軽くなった身体」という表現が私は気に入ってたのですが、このラストとこの場面が私の中で結び付かなくて、しばらく頭抱えてしまいました。
 以前発表された「ラジカル・ラジオ」は読みやすく疾走感があり、読後の私に満足感がありました。しかし今回のは、やや不満足で…うまく評論出来なくて申し訳ないのですが。かつてどこかのミュージシャンがロックンロールとは?という問いに対して言ったという言葉なのですが、「俺は元気がない、って事を元気よく言うのがロックなんだ」こんなにも皮肉で擦れて、どん底まで落ちても、血が循り続ける感覚。言い表わしようもないけれど、確かに感じるその生命の温度。その根底にある熱こそがロックンロールなのだろうと私は勝手に感じています。
 露木さんの作品には、読みやすさと読み手をのせてしまうという強みがあると思うのですが、「不肖の空」では、せっかくの魅力が半減してしまっていたせいか、それを見いだすことが出来ませんでした。が!改版を読んで安堵しました。「セルフィッシュ〜」ちゃんとロックしてるんです!えぇ、やばいくらい。同じ作品なのに、色彩や景色が違う!血が沸いてちゃんと呼吸して踊りだしてる!これだー!!私が露木さん作品に求めていたのは!抱えた頭が再起し、またまたガッツポーズを決めさせて頂きました。

雨宮弘輔 批評12/地下ライヴと言えば…… 2004年11月24日(水)16時35分37秒
▼課題と連絡:批評課題12/露木悠太「不肖の空」と改稿作品の批評 への応答

 良くいえば、読者のイメージを上手く利用した物語。悪くいえば、イメージに頼りすぎている物語だと感じました。
 シュウが世の中に対し、悲観的で憤りをおぼえるあまり、身体がおかしくなるほど呑んだくれ、ライヴ会場での攻撃的なダイブ。これらの自虐的な態度を採る気持ちはわかったような気がしました。でも、ただ「気がする」だけです。大部分は僕のイメージです。ヤケ酒の上、暴れまわって、虚しくなる。こういった物事を現実なり物語なりで、見てきたからだと思います。
 両作品とも一人称であるにも関わらず、主人公の心情、思考が書かれている箇所が少ない。何故、そこまで自虐的なのか、という理由を説明する箇所が必要であったと思います。だからといって「○○時に、○○という場所で、○○と一緒にいて、○○な体験をしました」と書く必要はもちろんないですけど。夜の新宿の風景、ライヴハウスの様子から、主人公が抱く嫌悪感にもっと私的なイメージを重ねてもよかったのではないか。そうでなければ、ヒネクレタ若者の単なる奇抜な行動でしかないとみられてしまう可能性があります。具体的でなくても、読者に大方のイメージを浮かばせられるような過去の断片が欲しかったのですけれど、これは敢えて書かなかったのでしょうか?
 それともっと個性が欲しかったです。
『不肖の空』『セルフィッシュ・フィッシュ』の両方とも、会話、刺青、ニオイ、服装、物事の流れ、が典型的な若者を主人公としたロック小説となっているように感じました。これも『なんとなく心情がわかる』『なんとなく毒があってカッコイイ』というイメージを抱かせる要因にもなっていると思いますが。 

 露木さんは物語しっかりと書けていると思うので、少し冒険してみることをお勧めします。登場人物には思いっきり個性的な癖をつけてみたり、物語の最後の方で型に外れてみたり。もしくは、ロックへの憧れを抱く若者以外を書いてみるとか。
 もちろん得意分野を伸ばすことも大事ですが、敢えて方向性の異なるものを書いて失敗するのもアリだと思います。この授業では、どんな失敗作でも受講生が読んでくれます。そして、違和感をもった部分を指摘してくれます。こういった形で授業を活かしてみるのも、物語に対して新たな見解を得る良いチャンスだと思うのですが……ダメですか?



五十嵐 舞 批評課題12/モガイテ・・・五里霧中状態? 2004年11月24日(水)13時49分08秒
▼課題と連絡:批評課題12/露木悠太「不肖の空」と改稿作品の批評 への応答

 とても後ろ向き思考の主人公だけどなにか見つけようとモガイテイル姿がいいなと思います。何か焦燥感みたいのを抱いている印象を受け、それをうまくないけど感情がコモっていて読み手に訴えかけるものが改稿前にはありましたが、改稿後は視点が第三者的でこちらに訴えかけるものが前者よりなく説明というか心情を分析しすぎてこの主人公の生の声というか叫びが聞こえなくなってしまった。私も好き嫌いでいえば改稿前の主人公の心情が文章にコモっている「不肖の空」のほうが好きです。
また、気になったのが友人と思われるシノダ君が篠田に変わっているのですが、私としてはシノダというカタカナ表記のほうがいいと思うのです。理由としては、漢字にするとある程度この人物の像や主人公の少年とのつながりをもうちょっと描かなければいけないように思えるのですが、その点カタカナ表記にすると不特定多数というか浅い関係で遊び仲間な感じで今のままでのいい感じにするので、この表記はカタカナのまま使ったほうがいいように私には思われますがどうでしょうか?
 確かに暗くてマイナスな心情というか思い通りに動かない自分の環境や境遇に打開したいけどどうしていいかわからなくてモガイテ叫んでいる少年(青年?)がとても生き生きしているんですよね。これも今の若者の心を描いているのかもしれないし露木君自身が内面にもっている葛藤がこの作品に表れているのかなと思いました。私は音楽のことはからっきし判らない部類というか縁のない人間なので想像でしかわからないのですがなんとなくこの文章の表したい舞台の雰囲気、その中にいる人の表現が好きです。
でも、作品としてはやはり技術的な面でも梃子入れが必要ですし、文全体の印象としても
物語のある一部分を切り取ってきた感じで終わり方今一歩というような感じを受けましたけど、これ以上文章増やすのも…って感じでした。
では、授業で

高澤成江 合評報告/夏の足音 2004年11月24日(水)12時27分18秒

合評報告が遅くなってごめんなさい。
皆さんから色々な意見が聞けて本当にためになりました。自分自身、設定をちゃんと考えないまま文章にしてしまったことを反省しました。今後はもっと設定を練って読者の心に入り込むような文章を作りたいです。

【越智さん】モノローグが説明くさい。確かにここで一気に説明的な文章をいれてしまいました。最後に詰めてしまう癖が出てしまって反省です。今後は流れで表せるようにしたいです。
【五十嵐さん】死の扱いが軽い、という指摘は確かにそうだと思います。もう少し孝紀の死について描写を入れればよかったです。軽く扱ってはいけないシーンなのに軽くすませてしまって反省しました。
【土橋さん】何処の時点からの目線だかわかりづらい。目線を一つに統一して読者が読みやすい文章を心がけたいです。

あと、色々な人から指摘された最初の始まり方。自分でも読み返すと違和感がありました。狙い過ぎにも見えるし。インパクトをつけようとしてわざとらしくなってしまいました。それと、「うわあああ」「ジージー」などの言葉選びも今後は文章の中から浮いていないかしっかり考えていきたいです。
自分自身では気づかないことをたくさん指摘され、たいへん勉強になりました。本当にありがとうございます。今後よりいい作品を作りたいです。

高澤成江 批評12/見れました 2004年11月24日(水)12時02分21秒
▼課題と連絡:批評課題12/露木悠太「不肖の空」と改稿作品の批評 への応答

先ほど、作品4Aが見れなかったのですが自分の批評を投稿したら作品4Aが見れるようになりました。パソコン、、、扱いが難しいですね。
4Aについて批評させていただきます。
個人的には「不肖の空」のほうが好きです。「セルフィッシュ・フィッシュ」のほうがより言葉がハードになっていてインパクトはあるのですが、ハードすぎてちょっとわざとらしい感じがします。
でもどちらの作品にしても言葉のセンスは素敵です。

高澤成江 批評12/目に見える空気 2004年11月24日(水)11時48分49秒
▼課題と連絡:批評課題12/露木悠太「不肖の空」と改稿作品の批評 への応答

作品4Aが何故か見ることができなかったので申し訳ないのですが作品4のみで講評させていただきます。
言葉の使い方がロックな感じを表してて、文章の内容とも合ってる感じがします。雰囲気もよく醸し出されていて情景が浮かびやすいです。最後の「それだけ言って、〜」からラストまで歌詞のような流れが素敵です。
でも内容があまり何を言いたいのかがわかりにくいです。主人公の心のもやもやはわかるのですが、なんだかものたりない感じがしました。何もないまま物語が終わってしまってるように思いました。もう少し何か印象に残る場面があるといいと思います。
言葉選びのセンスにはすごく尊敬します。もっと勢いのある物語も読んでみたいです。
作品4Aについて批評できなくて本当に申し訳ないです。

土橋明奈 批評12/味噌辛子高菜。 2004年11月24日(水)02時09分29秒
▼課題と連絡:批評課題12/露木悠太「不肖の空」と改稿作品の批評 への応答

あぁ、また何だか好きなタイトルです。
『不肖の空』を読んでから『セルフィッシュ・フィッシュ』を読み、すごく読み易くなっていると思いました。
『不肖の空』は何だか忙しなく飲み込み辛い感じです。若く勢いがあって急き立てる様な先走り。いい意味でも悪い意味でも文章が
ごちゃごちゃとしている。
『セルフィッシュ・フィッシュ』は文章構成的にも少しスマートになって主人公の精神年齢も少し上がった感じ。しかし、痛い。
前者と後者ではアルコールの入り方が違う様で、前者の方が若く悪い深酔いで後者は精神的深海の導入剤として、いったイメージを
受けました。『不肖の空』も『セルフィッシュ・フィッシュ』も良い点そうでない点があり、双方があって成り立っている半身の様な。
今後?一体になれば楽しみです。両方ともラストが少し薄い気がします。もしくは説明し過ぎかも。
若人の焦燥感や衝動や悲哀や自己中が直球で込められていて、面白かったです。
内容的には足りない様に思いますが文章の長さはこの位で良かったと思います。これ以上になるとウザったくなってしまいそうで。
好きなんですけど、そんなに沢山だと喉が渇いてしまう。そんな感じです。

背中に生えたインクの羽を幼い笑顔で自慢する女の子。が好きです。


滝 夏海 批評12/視点の移動 2004年11月24日(水)00時47分26秒
▼課題と連絡:批評課題12/露木悠太「不肖の空」と改稿作品の批評 への応答

 書き直しの前と後では雰囲気が変わっているので、どちらがどうと比べるのも難しいのですが、個人的な印象でいうと、作品としては前者に軍配が上がるのではないでしょうか。好みの問題ではありますが。
 「不肖の空」は書き手の目線が比較的主人公に近い所にあります。そのおかげで、作品内での格好付けた言い回しが多少浮いていても「主人公の青さ」として受け止められ、主人公の味となってます。「セルフィッシュ・フィッシュ」ではわざとなのか改稿作業のせいなのかわかりませんが、書き手が主人公から離れています。背後から見ているように。そのせいで、改稿前には主人公に付随されていた青さが書き手の方へと移ってしまいました。若いな、というよりは、頑張って使っているな、という感じで。それがもっと自分のものとして、しかも効果的に使用できたら、もの凄い格好良い作品が書けるのではないかと、密かに期待してます。
 この2作をもっと長い作品にするとしたら「セルフィッシュ・フィッシュ」は主人公に焦点を当てた長編だけど、「不肖の空」はこのクラブハウスを中心にして、ここに集まる人々の事を切り貼りした短編集的な作品でも成り立ちそうですね。あと、露木君の狙いとはずれるかもしれませんが、「セルフィッシュ・フィッシュ」はストロボを焚くように全体は曖昧で部分部分のみを鮮明に描いても面白いかも。

菊池佳奈子 批評12/粒子 2004年11月23日(火)21時22分24秒
▼課題と連絡:批評課題12/露木悠太「不肖の空」と改稿作品の批評 への応答

改稿前の「不肖の空」は提出されたくらいに読んでいて、この批評課題が出た後に「セルフィッシュ・フィッシュ」をすぐ読んで、その印象の違いにびっくりしました。
「不肖の空」は「ラジカル・ラジオ」からも感じられた若者っぽさとか、そのころのいらだちや反抗心などを格好良く読めて、ちょっと憧れる感じもあったのですが
「セルフィッシュ・フィッシュ」はもっと暗いものを、塊でどんっと押し付けられた感じで、少し苦しくなってしまいました。
「不肖の空」はその世界の中に書き手が入っていて、その中から書いた感じがあって、露木君ってこんな人なんだろうかと安易な想像をしがちでしたが
「セルフィッシュ・フィッシュ」はそこにある感情を深く追っていって、その上で作者としては一歩引いてその世界の外から書いている感じがします。
それによってか「セルフィッシュ・フィッシュ」は重く「不肖の空」は軽い。
淡く漂っていた気体の粒子が、一気に凝縮して固体の塊となったような。
「不肖の空」は「羽の生えた天使は、背の高い男に腰を抱かれキスをしている。」っていう表現が大好きで、どちらかというと終わりに向けてベクトルが向いている気がします。
「セルフィッシュ・フィッシュ」は「行けども行けども闇で、ぼんやり見ていた俺は、そこに夜の海に浮かぶ、白い腹を仰向けた魚の死骸を想い描いた。」というところと「真っ直ぐ前に鏡を見つめると表情の無い、悟り顔の老人にも似た、青白い透き通ってしまいそうな人間が、俺が映っていた。」という表現が好き。ベクトルが文章の真中に向かっている感じがします。
「不肖の空」では階段を上がった上に解放があるのに、「セルフィッシュ・フィッシュ」ではその力が昇華される場所が無く、だからこそ重く、鋭いのだと思います。
どちらが良いかというのは露木君がどんなものを伝えたいかによると思うのですが「セルフィッシュ・フィッシュ」はこの話だけで終わってしまうと少しきついなと思います。というか続きが読みたい。(笑

城所洋 批評12/善し悪しの相対化 2004年11月23日(火)20時59分57秒
▼課題と連絡:批評課題12/露木悠太「不肖の空」と改稿作品の批評 への応答

 第一印象としては、「うわぁ、毒っぽいよ、コレ」と思いました。(誉め言葉ですよ)
 いや、自分にはこういった毒っぽい表現は(狙い所のせいもあり)控え目にしているので、何だか逆に新鮮に感じました。こういう表現もあるんだなぁ、と、ついついレシピ集に加えそうになったくらいです。

 それでこの作品は一回手直ししたというので、比べてみましたが、自分流に簡単に言い表すと、前作は減塩醤油、後作は一年置いた醤油、という感じがします。
 というのも、前者と後者を対象的にしてみた時、前者はどうもあっさりとし過ぎているような、それでいて後者は少し塩っ辛いような、そんな気がしました。
 後者を見た後だと、前者には少し物足りなさというか、安っぽさを感じますが、逆に、後者も、前者を見たという経験があるから何となく後者のこのシーンがここを語っているというのがイメージ出来ただけで、実際の所、少し省きすぎているような所もありました。
 例えばモッシュダイブという単語一つとっても、後者ではいきなりダイブしたと言われても「?」と思うしかありませんでした。
 ようするに、煮詰まってはいるがその分、大味になってしまった感が否めない、といった所です。

 一番残念だったのは、前作の「東京は祈る人が多すぎて、星がなくなっちまったみたいだ。」というフレーズ。これが後作には消されていた所です。
 いや、このフレーズはかなり気に入っていて、これで詩が一本書けそうなくらいのメッセージが込められているのに勿体無い、と思った訳です。
 ですので個人的には、全てはこのフレーズに持って行く為の伏線、という書き方も、あるいは面白かったかも、と思いました。

越智美帆子 批評課題12/汗と原色と 2004年11月23日(火)17時51分32秒
▼課題と連絡:批評課題12/露木悠太「不肖の空」と改稿作品の批評 への応答

 この作品は、何かの物語の一部を切り取ってきた話のように感じました。
 反対に言うと、これだけで完結しているとすれば物語として成立していないように思えます。
 最初から最後まで読んでも、メッセージが伝わってこない。予想として、現実にイライラしている若者が鬱憤晴らしにダイブして怪我して、それでも現実は何にも変わらない、というメッセージが含まれているんだろうなと思いましたが、格好良さを意識した描写や格好よく修飾された言葉がメッセージを埋もれさせているように思えます。それに、目立つ描写が多いけれど、その反面肩透かしをくらうような言葉もまた目立ったりしてしまい、うまくバランスが取れていません。
 例えば、「地下へと続く階段から連なって歩道まで、兵隊のようにブーツを鳴らす、時代遅れの反逆者たち。」というところ。
言いたいことはわかるのですが、その言葉の大仰さに受け入れがたさを覚えます。「反逆者」に「時代遅れ」を修飾し、皮肉めいた言い回しで読者の抵抗を緩和させようと試み、この話の口調や思想に順応させているのだろうと思いますが、やはり格好良さが際立ってしまって失敗しているように感じます。だから、例えばの話ですが「時代遅れの反逆者きどり」としてみれば、皮肉に皮肉がかけられて気恥ずかしさが軽減されると思いませんか。
 次に「俺はきっと盲信するタイプの人間だ。」というところ。
めちゃくちゃなことをして吐いて、でも笑えてきたりして、ぐるぐる回る風景に囲まれての一言。上手いな、と思ったのですが、その前に書かれた描写の甘さが惜しい。吐くと気持ちが悪いし、内臓がぐちゃぐちゃになってしまったのではないかと思うくらいに体の中が妙になる。吐いたことで体温が下がり、特に酒を飲んで吐いたときは熱された体が急激に冷やされて震えだします。しかし、良いシーンであるのにも関わらず、ここはたった数行の上に簡潔すぎるくらいに軽くしか描かれていない。文章の量と書いてある内容の不一致に違和感があります。
 少し戻って、「つまり、酔いが回ったのだ。」のところ。
 ここは、他の描写や言い回しの中でかなり浮いています。酔いが回ってきたことはその前でちゃんと描写してあるのだから、と思ったのですが、多分書いてあることだけでは酔っぱらってきたことがわからないから、説明の言葉を付け加えたのだと思います。でもそれでは、やはり惜しい。つまり〜とせず、前に書かれている言葉のみで酔っぱらっているということを読者に伝えられるような書き方のほうが、私はいいのではないかと思います。

 指摘ばかり書いてしまいましたが、露木さんの小説はいつも実験的(とは言わないかもしれませんが)な表現に満ちていて、パンクロックな世界感を独自に描こうという試みがとても見られます。話一つ書くことに手を抜かず、懸命に取り組むという姿勢も伝わってきます。ただそれが、全てに行き渡るということが難しいだけで、露木さんの姿勢に見習うところは本当に多くあります。
 物語の中心に通る一本の筋を、他の表現に埋もれさせてしまうのではなく、もっと明確に感じ、それでようやく物語を書くということしようと感じさせられました。
 


 

児玉武彦 批評課題12/いい!  が、しかし・・・ 2004年11月23日(火)00時45分26秒
▼課題と連絡:批評課題12/露木悠太「不肖の空」と改稿作品の批評 への応答

始めに、個人的な意見としてとても良い!そう感じた理由を分析してみると、まず読み易い!スラスラと読めるから苦痛じゃない。そして月2ペースで新宿や下北でライブをやってた経験上とても共感できた。特に秀逸だと思ったのは、
 
 「バンドを見ればくやしくなり、ビートに乗れば空しくなる。焦燥や劣等、綯い交ぜ  になってよくわからない」
 
この文章は僕ら若者世代にしか描けない。世界観はよくあると言ってしまえばそれまでだけど、文章がとにかく冴えててカッコイイ!ラストの「それでも夜は続くんだろう」は結末のない話なのにどこか寂しくて、荒涼とした感じが素敵だ。
が、しかし。やっぱりここで終わるべきではないと思う。読み手は常にドラマを期待しているし、カタルシスを求めている。この手の話は展開次第でとてつもなく安っぽくもなるし、とても優れたエンターティメントにもなる難しいものだとは思う。映画の『キッズ』などを参考に観てみてはいかがだろう?監督のラリー・クラークは赤裸々に淡々と若者の生活を追っているが、やはりそこにもドラマがあるしカタルシスとは違うが刺激的な映像で惹きつける力を持っている。(その後の『ブリー』や『ケン・パーク』では廃れてしまった感もあるが・・・)正直、続きが読みたいのだ。主人公をもっと深く掘り下げて、脇役を登場させて群像劇にするも良し。青春モノは挫折と成長があってナンボだと思っているので下手にアドバイスするべきじゃないかもしれないけど。
とにかく結論は、これが小説の一部なら文章表現に関して完璧だと僕は思う。
是非続きが読みたい。

野島 明菜 批評課題12/憂鬱 2004年11月22日(月)23時26分33秒
▼課題と連絡:批評課題12/露木悠太「不肖の空」と改稿作品の批評 への応答

ライブハウスやクラブハウスの中で、楽しそうに騒いだりしている人々の群れから外れてみる。すると「あたし、この先何があるんだろう」とこれからの自分の人生に対する不安や「ここでこんな事してていいのか」と焦りがでてくる。急にひとりを意識する。
ライトの熱さ、あかるさ。暗くて、閉じ込められたような個室。そんな要素が日常から離れた空間をつくる。
私を不安にさせた原因はきっとそこには時間が存在していないからでしょう。今、昼なのか夜なのか、それとも朝なのか、そんな疑問も持たない空間。
でもそんな空間ずっとは困るわけで。
でもそこにいると、ずっとこのままなんじゃないかみたいな気分になるわけで。
だからわたしはこわくなったんだわ!


なぁんていう事を今回の露木くんの作品を読んで思い出しました。

私は改稿前の方が、物語としての流れがしっかりしていて主人公の気持ちがわかるので好きです。改稿後の作品は急に主人公が怒りだしたように思え、ついていけなかったです。騒ぎ出すことについての主人公の心情の前触れ表現が少ないので、急な展開だと感じられたのです。
二つの作品とも、難しい熟語や想像しにくい間接的な表現が目立ちました。『不肖の空』の初め、『空は低く、じっとりとした熱帯夜にうなだれている』。この空の様子は想像できるようで想像できないと思いました。語彙力の乏しい私には難しいと感じられ、他の文章でも途中で立ち止まることが何度もありました。でも、かたいナゾ解きをしているような、新鮮な思いにもなれたことは良かったです。私からは「かたい」と感じてしまう表現は、主人公が少し憂鬱で自虐的になっているから、自分一人の世界の見方、独自性の強い表現になったのかもしれませんね。
スタッズ、スパイキー、テンホールブーツの説明もほしかったです。恥ずかしながら、わからない。
初めの会話は誰がどの台詞をいっているのかわかりませんでした。何度も読みかえしたらわかりましたが。
『ささくれ立ってしまった心。鬱々とした感情は酒のせいではなく、常日頃付きまとう亡霊だった。行過ぎると知りつつも、いつだって晴れた空には雲がかかりそうで、曇り空には雷鳴が轟きそうだった。消化できないものは沈殿するだけ、波が立てば浮いてくる。』この文章、いいなと思いました。ささくれた心、亡霊、波立てば浮いてくる。わかるなぁと共感でき、そして、心情を露木くんの言葉でセンス良く表現していると思いました。

野島 明菜 批評課題10/ことばのちから 2004年11月21日(日)20時49分55秒
▼課題と連絡:批評課題10/高澤成江・短編「夏の足跡」の批評 への応答

もう一度、高澤さんの作品の批評をしたいと思いました。良かったら読んで下さい。

みっちゃんとの会話のとき、「・・・ちゃんと探せば見つかるで しょ」とスペースをあけた言葉の表現が可愛らしくて好きです。

『一瞬目が眩んだ。』の後に『蝉の声がまだする。・・・』とくるのは合わないような気がします。蝉がけたたましく鳴く中で事故に遭ったからだと思いますが、次の文『蝉の声が止んだ。夕日の色も消えた。・・・』の三文の印象を強くしたいのならば、どちらかの文を削除した方がいいと思いました。そうすれば、効果的な美しさが文に表れると思うのです。 

『おばさんの声と共に蝉の声とオレンジ色と丸い夕日が戻った』とありますが、おばさんに話かけられる前はショック状態にあるということですよね。そういう時は使えたとしても視覚(それも狭い範囲)ぐらいしか働いていないような気がするのです。だからお線香の匂いは鼻につかないのでは・・・と思いました。もし鼻についたら、そこで我にかえるような気がします。

文中でよく出てくる夕日を表現する言葉は、夕日事体に意味が込められたりしているのか、その言葉が使われる場所は意図的に考えて使っているのか、という事が知りたくなりました。

ショックな出来事をその部分だけ忘れる時ってあるんですね。このような記憶喪失を物語にした視点がいいと思いました。記憶喪失を経験した人って少ないと思うから、何か未知の世界が覗けて、そのような点で新鮮でした。あと、高澤さんは実際にファミレスバイト経験があるのかなと思わせるほど、主人公がバイトをしている姿にリアルさを感じました。


 私は作品を一度も提出したことがなく、それは言い訳にならないけど、批評される側の気持ち(たぶんすごく緊張するし、作品は自分の内面が多かれ少なかれ出てしまうから、それを人にみせることは勇気のいることだと思う。そのぶん人の反応にビクビクしてしまうと思う。)を全く考えず、批評していました。だから言葉は乱暴だし、まず読むことに関しても、しっかり行えていないことが多々ありました。課題となると、あせって早く済ませたいと思い、しっかり読み込めていませんでした。「ことばをよむこと、ことばをつかうこと」を乱暴でガサツに行っていました。それが批評される側を傷つけるということに、今回先生に注意され、はじめて気づいたのです。高澤さん、私の批評に嫌な気分がしたと思う。ごめんなさい。また、いままで私が批評した人達の中にも嫌な思いにさせてしまった人はいると思う。申し訳なかったです。
 
 

城所洋 作品9/ローレライ 2004年11月20日(土)16時57分55秒

月の光が揺れるワンピース 纏った君は無口で
背中を向けて空を仰いだ

ガラスの指でなぞり満天の 瞬く星は意味を授けられ
乙女や双子が君と奏でた

僕を震わす遥かな旋律

君が生まれるずっとずっと前に星は輝いて
そして光はもっともっと後に此処へと届いた

長い旅を経て 辿り着いたのは 夜空のオーケストラ


冷たい風が君を軋ませ 小さな雫一粒生まれて
飾った頬を洗い流した

僕を惑わす月夜の歌姫

君の瞳がじっとじっと弱く僕を見つめたら
僕は思わずぎゅっとぎゅっと強く君を抱きしめた

零れ落ちたのは 嘘つきな君で 素顔は腕の中に


君がゆっくりそっとそっと腕を払いうつむいて
顔を見せずにスッとスッと僕の横を通り抜け
何時の間にやらパッとパッと君は既に消えていた
僕が見たのはきっときっと君の中の夜の精

多分もう二度と 歌は聞こえない 陽の無い海の底へ

静かに 夜は 明ける・・・・・・。

露木悠太 作品4A/セルフィッシュ・フィッシュ(不肖の空、改題) 2004年11月20日(土)04時15分42秒
露木悠太 作品4/不肖の空 への応答

 凪いでいた。目深に被ったハンチングの下は汗で湿気ている。さっきから話す話題も少なくなって、組んだ腕の形で右脳と左脳の大きさの違いが判るとか、どうでもいいことばかり話している。
 深夜零時、新宿の空は低く、じっとりとした熱帯夜にうなだれている。第三土曜日のオールナイトイベント。頭上では『club ABYSSAL FISH』と書かれた看板の真空管が白んだ緑色を放電し、その下には長く曲がりくねった列が出来ている。
 後ろの方で突然ばか笑いした女の甲高い声が車の往来にかき消され、煙草の灰がスローモーションのように落ちていくのを見た。白い肌、肩の刺青はダガーの突き刺さったハートだった。地下へと続く階段から連なって歩道まで、兵隊のようにブーツを鳴らす、時代遅れの反逆者たち。
「ろくなことねーよ」
 階段の上から二段目。地上の三十センチ程下に俺達はいた。
「何かあったのか」
 篠田は派手なボーリングシャツの前を掴んで、胸元に風を送っている。
「別に」
 とそっけなく放つ口調、いつもと変わりなく。
「週末だろ、楽しめよ」
 口の端に笑みを浮かべた篠田。目の端で見ていた俺は、首を引っ掻いた。
「ああ」

 だらだらと進む列に従って、分厚い鉄の扉の中へ。中へ入ってさっき千切ったばかりのチケットを捨てた。店内は汚れを隠すように暗く、天井のぼやけた乳白色の光より非常口の灯りの方が強かった。慣れた道を進みバーカウンターまで辿り着くと、二人して格好だけのバーテンに強い酒を注文した。自虐的と言っていいほど、空きっ腹を痛めつけるようにアルコールを流し込んだ。臨戦態勢を整える。
「今日のバンド、知ってるか?」
 言いながらカウンターに片肘を着いて、胸ポケットからメンソール煙草を取り出した篠田。
「知らね」
 ヂッ、ヂッと百円ライターを何度も擦る。
「ガス、無いのか」
「いや、酸素濃度が低いんだよ」
 聞いている風な顔をして持っていた何杯目かのグラスを逆さまにし、滴で舌を湿らせた。緩慢になるつつある動作。身体を巡る血液の、リズムがウラを叩きだす。篠田の煙草から現れた煙が脳に溜まっていくように感じられ、かといってそれが嫌ではない。つまり、酔いが回ったのだ。
 回転する丸椅子を軋ませて、反対隣の方を向いた。快活に喋る男のグラスから垂れ落ちた、銀色の水滴がテーブルを叩いた。耳鳴りがしていることに気付いた。男は身振りを交え、何かを熱弁していたようだった。そうだ、と相槌をうった奥に座っていた男が、二十年近く前に解散したイギリスのパンクバンドの名を口にし、その伝説を見ていたかのようにやはり熱っぽく話した。
 篠田が肩を叩いた。フロアの方が騒がしくなっていた。
「行くか」

 ベース音がビリビリと腹に響く。轟音の中、熱気が渦巻く嵐の中、酸素不足をものともせずビートにまかせ、若さを武器に競うようにして狂うこと、何かを忘れることを望む。
 「FUCK、SOCIETY!」、ヴォーカルは金色の短髪をトゲトゲにして、社会を嘆き、怒っている。かざした拳を高く上げて、Oi!Oi!と、マイクを向け観客に同意の声を求める。
 先月は救急車が来た。そのせいもあってか今日はセキュリティーが入っていた。セキュリティーといってもアルコールで頬の紅潮したローディで、汗も拭わず、ライダースジャケットに身を包みステージの両脇で仁王立ちしている。俺は人をかき分けスピーカーの横からそいつに向かって歩み寄り、力いっぱい両腕で突き飛ばし、ふらつきながらもステージに上った。
 胴を回し背中からダイブした。ステージ前中央に固まっていた観客から怒声と悲鳴が同時に起こった。三列目、後ろあたりからは煽動の雄叫び。下敷きにされて背中を殴りつける奴がいる。すぐにそれとわかる形のはっきりしたゴツイ指輪が喰い込んだ。鈍い痛みが、鈍った感覚の中やけに鮮烈に突き刺さる。
 ライトの消された観客側の天井は、煙ったような闇だった。いや、天井を透かした空も、きっと闇があるだけだと思った。遠く、果て無くそれは広がっている。行けども行けども闇で、ぼんやり見ていた俺は、そこに夜の海に浮かぶ、白い腹を仰向けた魚の死骸を想い描いた。
 波間に漂うようにしてステージに押し戻され、二度目のダイブを試みた時に、後ろに立っていたローディに羽交い絞めにされた。バンドは俺と目を合わせることもなく演奏を続けていた。それに苛立ちを覚え、後頭部で勢いよく頭突きし、肘を突き立て突っ撥ねた。
 両手を広げ頭を下に、もう一度ダイブした。深く潜る、そんなイメージだった。

 シュウ!

 血が溜まっているのか。こめかみの上あたり、手をあてると大きく腫れている。
「やり過ぎだ、シュウ」
 しゃがみ込んだ篠田の間抜けづら。
「大丈夫か」
 白い光。目眩がする。シャツの襟が汗を含んでいた。動悸が、異常に早い。
「…便所、行ってくる」
 混乱した頭で今自分がどこにいるのかを考えた。右だか左だか知らないが、脳に働きを求めることで吐き気が増した。ノイズの吹き溜まるフロアの端から壁づたいに歩く。虚ろな目とともに首に力が入らず、揺れながら赤く反射するフローリングを見ていた。すれ違う誰もが自分を見ている気がした。額の傷を確かめるように押さえ、帽子を無くしたことに気付いたが、どうでもよかった。
 ドアを開けて奥の個室へ入ると途端に激しくもどした。赤い吐瀉物だった。輪郭を縁取り、顔の端が痺れていくのがわかる。
 ドアを後ろ手に閉めて、寄りかかる。頭の奥が太く脈を打って痛んだ。
 白い光。右へ左へ、揺れている。
 引付けを起こしたように、口角が上がった。笑ったのかもしれない。そしてもう一度吐いた。
 揺れて揺れて、回りだした光。天井、壁、便器。
 俺はきっと盲信するタイプの人間だ。

 よろよろと片手を洗面台について、もう片方の手に蛇口から滴る水を溜めた。顔にぶつけて浴びせ、何度か同じ動作を繰り返す。額の腫れは痛みを越えて痺れている。触るとぶよぶよした肉が、俺の一部ではないと主張するように、ただそこにある。真っ直ぐ前に鏡を見つめると表情の無い、悟り顔の老人にも似た、青白い透き通ってしまいそうな人間が、俺が映っていた。
 シャツで顔を拭い、嘆息した。もう一度鏡に向かう。…強く、唇を噛んだ。
 ぼやけた乳白色の光はやけに眩しく、目を刺した。フロアに戻るとDJの軽快なMCとともにオールドポップスが流されていた。篠田は口の端に笑みを浮かべ、よろめきながら下手くそなステップを踏んでいる。俺は首の辺りを引っ掻こうとしたが、すんでのところで止めた。歩み寄って、篠田の手から煙草を抜き取り口元に運ぶ。
「シュウ、大丈夫か」
「ああ」
「踊れよ」
「勘弁しろ」
 それだけ言ってかわすと、バーカウンターの前を通り過ぎ進み、鉄の扉に手をかけた。上に引き上げる特異な取っ手の防音扉。肩をあてて、寄りかかる格好になって開く。渦を巻いてなだれ込んだ空気で久しぶりに息をした気がした。深く肺を満たし、階段を一つ一つ上る。煙草から細く糸のような煙が後ろへ続き、ゆっくりと立ち昇り消えた。前に向きなおし中空を睨む。止むことのない青梅街道の往来が煩かった。夜が明けるまでどれくらいだろう、そう思った。





 ※ローディ(ボウヤ) …バンドの付き人のようなもの。楽器のセッティング等を手伝い、主にミュージシャンを目指す若者がやることが多い。

城所洋 作品8/LOST ME 2004年11月18日(木)19時39分43秒

誰もが此処でうろたえて 自分の軌跡振り返り
確かな道を模索する・・・・・・。

昨日の明日を夢見ては 明日の昨日に落胆し
今日の自分を見失う・・・・・・。

僕らは一体、何を見ているのだろう
何処に向かって、歩いていると言うんだ

It’s Campus life!
残りの少ない執行猶予
It’s only time!
二度と通れない足跡を残す

それでも僕はやっぱり今日も前と似た道選択しては・・・・・・。


最大公約数求めても 小数点は含まれず
余りと呼ばれ弾かれた・・・・・・。

踏み出し切れずにいた足も 押し合いへし合いするうちに
何かによろけて出しただけ・・・・・・。

それでも僕の、大事にしてきた切符に
小さな穴を、空けられてしまっていた

It’s painful life!
夢見る為の現実を見た
It’s only chance!
二度と貰えない片道の切符

後ろを見たらまだまだ手は届くのに足だけが先に離れていって・・・・・・。


ああ、戻りたいよ
あの頃の僕らは夢を持っていた
ああ、掴みたいよ
砂つぶの未来は指をすり抜けた

ただ死ぬ為に生きているような
現実という現実逃避を
お金を稼ぎ夢を買うだけの

そんな人生 望んだ訳じゃない!!


振り向いては呟いて 前を向いては息を溜め
自分を見ては憤る・・・・・・。

下を向いては嘲笑し 上を向いては目を細め
耳を塞いで口つぐむ・・・・・・。

何時かは僕も、「僕」を何処かに落として
「ワタクシ」として、死んでしまうのだろうか

It’s ・・・・ life!?
僕らの過ごす人生って何だ!?
It’s only ・・・・!?
どんな事だって一度きりなんだ!!
It’s only life!!
掛け替えの無い「僕」が生きている!!


誰か助けて! さっさと此処から出して!

ねえ、お願いだ!

ああ、もう  僕が   消え て   い く      。

室橋あや 批評課題11/カタカナ遣いは邪道なのか? 2004年11月17日(水)22時35分38秒
▼課題と連絡:批評課題11/雨宮弘輔「暖かい受信」批評 への応答

最初の教師の皮肉、似たようなことを何度か聞いたことがあります。
あのときの言い返せない辛さを思い出しました。そういえば転校生が女子だったとき、なぜか他のクラスの男子が覗きに来ていたなぁ、とかあの頃の、”男子はわけわからん”という気持ちが蘇って面白可笑しく読めました。
ところで、杉山さんは結局主人公の友人が予想していたとおりのゴス系だったんでしょうか。てっきりそうだと思いこんで読み、また読みかえしてみたら、あれは友人とのふざけて言ってみただけのところか?とも思い、まだよく分かっていません。ぼくが僕でなくひらがななのは、幼さを出すためでしょうか?俺とおれとオレも全然印象違いますよね。会話文の語尾につく「ッ」ですが、あれが杉山さんがゴス系でつんつんした女の子なら合うと思いました。「っ」だと相手を受け入れている女っぽさが出るけどカタカナだと突っぱねながらも相手を見ている感じがする。・・・これは私のイメージですが。
で、雨宮さん独特のブロッコリーですが、すごい面白かったです。数学とブロッコリー、数学と国語じゃ普通ですから。普通のものとちょっとずれたものをあわせると引き立ちますが、ピエロみたいにズレが大きすぎると浮きすぎてしまうし、挑戦しがいのある表現だな、と思います。でもお笑いコンビのネタ並みのインパクトが作れるのではないかと。思わずマネして普段使ってしまうような。

越智美帆子 批評課題11/爽やかで饒舌な語り口 2004年11月17日(水)20時02分35秒
▼課題と連絡:批評課題11/雨宮弘輔「暖かい受信」批評 への応答

 饒舌な語り口も爽やかな描写も、丁寧な文章も、とても読み易かったです。
 先に提出した人の書いていた「描写のひっかかり」も「思考の不一致」も、私には気にならなかったです。むしろ、何の変哲もない文章よりも個性があっておもしろい。主人公が妙に饒舌でユーモアのあるところも、おもしろく読めました。
 ただ、「舌をまくしたてる」という表現は初めて聞きました。私が知らないだけかもしれませんが、そういう言い方があるのでしょうか。
 
 個人的な話になるのですが、私は、高校生は気楽ではないと思います。まだ学生という身分である自分が言うのは何だと思いますが、どこにいる人間も、それぞれが気楽でない理由を持っています。作中で社会人で教師という身分である先生がそういう嫌味を言う気持ちはわかります。彼も彼なりの状況の中そう判断して言ったのだし、彼は自分の状況が気楽ではないのでしょうから。
 例えば高校生や中学生だった場合、毎朝定時に登校して長い間机に向かう。授業を受け、挙手を強制され、円滑な友人関係を築く。それがとてつもなく困難に感じる人間はいます。だから、学生が気楽だと思う人は本人が現在の状況と照らし合わせてそう思うのであって、主人公の高校生が気楽でないと感じるのは至極自然です。本人が気楽ではないという状況にいるのでしょうから。

 この物語は、人に読ませるということを意識して書いたんだろうな、と感じました。
 まず、冒頭。主人公がスライドで見ているという映像と、主人公のいる場所の交差から始まります。そのことによって、読み手に何が起こるのだろうかということを期待させます。
 中盤、杉山さんの待っている大切なメールについても、謎として、一体どんなメールなんだろうと続きが気になります。
 そして、意外な終盤。もしかすると途中で気づいてしまった人もいたかもしれませんが、私は全く気づきませんでした。
 ラストシーンは、笑わない杉山さんが笑い、それから主人公の軽快な対応、再び普段の流れに戻るという一連の流れの後、すっきりと「その反抗的な表情も悪くはない。」という文章に繋がります。まるで、口触りのいい酒のような、さらりとした読みごたえがありました。
 さらに全体的に、きっちりとした構成とシンプルな文章に附随する、雨宮さん独特の言い回しと描写が、この物語をより良いものにしていると感じました。
 ただ、終盤、杉山さんがあっさりと白状してしまったところは、もう少し工夫が欲しいと思いました。杉山さんの性格から言って、ここは「さあ? 何のこと?」と言いそうな気がします。何のこと? と言っていても、目を逸らして頬を上気させているとか。それで主人公は、気づいているけど気づかないふりをする。そんな感じにすると、ラスト一行がより際立つような気がしました。
 
 十字架のストラップについて。露木さんが指摘していた部分について、ちょっと思ったことを書きます。
 やはり、重たい十字架のストラップと言えば、私もゴス系を思い浮かべました。ファッションに詳しい人なら、そうは思わないかもしれませんが、ファッションに詳しくない人間が見たら、やはりゴス系だと思うのが自然ではないでしょうか。
 ステレオタイプな考え方は嫌いな方がいるかもしれませんが、小説は多くのステレオタイプを器用して、そこにある異質と比較されて存在なり事柄なりを際立たせます。全てがそうではありませんが、やはりこれだけ人間が多くいる世界でステレオタイプな考えはとても有効利用できるものです。
 それを逆説的にとらえるのも、皮肉として描くことも。

 最後に、やはり小説を書く上で、人に読ませるということはとても大切なことだな、と学びました。雨宮さんの次回作にも期待します。
 
 提出時間を過ぎてしまってすみませんでした。
 

野島 明菜 課題11/個性を表現する難しさ 2004年11月17日(水)16時54分26秒
▼課題と連絡:批評課題11/雨宮弘輔「暖かい受信」批評 への応答

すらすらと物語が進んでいて、あっという間に読めました。
しかし途中で、つっかえてしまう部分に何度か当たりました。それは、「夢の国へといざなうフルコース」や「下半身の力が風船の空気のように抜けていき・・・」や、秋の空を「宇宙まで見えてしまいそうなほど」と例えた雨宮くん独特の表現の所でした。「数学とブロッコリーが嫌いな男子高校生」という部分は、表現が可愛らしくて好感が持てましたが、後の「罪悪感で胸の奥が痛んだ。」という文の前にこの可愛らしい表現は軽すぎる気がして、残念でした。
上記で指摘した部分がなぜ文をつっかえさせたのか考えたところ、用いる場所が読み手の私がすらすら読んでいたいところ、つまり物語の核心にふれていないところに存在していることに気が付きました。物事を「のような」と比喩すると、作者の物の見方に対する個性が現れて、その文の印象が強く出ます。物語が盛り上がっていない部分で、それを使うと、目立ちすぎてしまい、盛り上がりにいくまでに読み手が疲れるのではないかと思うのです。
しかし、盛り上がりに使ったからといって、合うときと合わないときがあると思います。なぜだろう。自分から指摘しといて悪いですが、今の私にはわかりません。
主人公の高校生について。杉山さんが人に言いずらい悩みを打ち明ける相手としてなぜ彼を選んだのか解からないと私を疑問にさせるほど、彼のキャラクターがつかめません。どこらへんにもいそうな普通な高校生を描きたっかたのかもしれませんが、「普通な高校生」と思わせるような個性も感じられないのです。私だったら、彼に相談したくない。読み手の私も相談したくなっちゃうような主人公を次回期待しています。

圓山絵美奈 批評課題11/暖かい受信の批評 2004年11月17日(水)16時44分59秒
▼課題と連絡:批評課題11/雨宮弘輔「暖かい受信」批評 への応答

文章自体のテンポはよくて、読みやすかったのですが、
内容の方でどうしてもひっかっかってしまう部分が多かったです。
特に一番気になったのが、主人公が最後のほうでメールを送っていたのが
杉山さん本人だと知っていたこと。それまで本人が送ってると気がつくそぶり
もなかったし、むしろ他の女の子からきてると思っていたのが、最後のどんでん返し。
読者側としては意表をつかれて、おもしろいと思うというよりは、どうしても違和感
の方を先に感じてしまいました。あと登場人物のキャラが確立されていない
かんじがしました。つかみずらくて、悪い意味で何を考えているか分からないような
所があるというか・・。でも言葉の使い方がおもしろかったりして、そこは雨宮君の個性
を感じました。

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管理者:Ryo Michico <mail@ryomichico.net>
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