「物語の作法」課題提出板 (0043)


物語の作法ホームページへ ▼「物語の作法」雑談板へ ▼課題と連絡へ うさぎアンテナへ
使い方・過去ログ一覧 ⇒このログの目次スレッド別 ⇒検索 ⇒課題を提出する 

雨宮弘輔 批評9/甘いお菓子のフルコースでした 2004年10月20日(水)16時08分39秒
▼課題と連絡:批評課題9/千田由香莉小説作品の批評 への応答

【忘れ霜】
 千田さんは文章が上手いですね。文体が最後までしっかりとしていて、漢字とひらがなのバランスもとれている。私小説として、客観と主観の距離も巧みに描いている、という印象を受けました。これは他の三作品にも言えることです。
 ぼくが『忘れ霜』を選んだ理由は、登場人物の男性の言動が一番自然に見えたからです。映画や漫画等で、誰かが作った固定的なキャラクターの枠に嵌らずに、ちょっとズレた部分がある。そのズレに最初、幽かな嫌悪感を受けましたが、読んでいる内にその感情がじわじわと好感に変わっていきました。人物の評価が第一印象と読後でズレている。これって、凄く自然な人間を描いているっていうことですよね。わかりますか? なんか上手く表現ができなくて、すみません。
 後〈あぁこの人は、仕事が出来なくてきっと解雇されたんだろうなと思った。〉という箇所に「どうして、こういう結論にたどり着くの?」という疑問を持ちました。これは多分、僕の読書力が足りないせいなので、授業の際に詳しく教えてください。
 千田さんは「ちょっと暖かい恋愛話」を書きますね。Oヘンリの作品とか好きかな?

圓山絵美奈 批評課題9/千田由加莉小説作品の批評 2004年10月20日(水)15時55分14秒
▼課題と連絡:批評課題9/千田由香莉小説作品の批評 への応答

檸檬【檸檬】
が一番好きです。なんか自分が大学生という事もあって、すごく共感
できるような所もあるし、なんか全体的にかわいらしいかんじがしました。
あと少女マンガのような印象も受けました。なんか読んでて具体的な情景
が浮かぶせいかもしれません。私は千田さんは短編の方が好きです。あと
日常的な恋愛ものをどんどん書いてほしい気がします。

菊池佳奈子 合評報告/音の箱 2004年10月20日(水)13時56分48秒

【音の箱】

提出が遅くなってごめんなさい。

●掲示板に提出された批評について。

【城所君】
 早くの課題提出ありがとうございました。
授業で次に私の作品をやると決まった時からずっとどきどきしながら掲示板を覗いていたので
最初に城所君の批評が出されているのを見た時、ほっとしてすごく嬉しかったです。
指摘していただいた【ん】の真中が弱いという点について。
城所君の見通していた通り、五十音順でやるって決めた時点で【ん】はどうしよう?!と焦り
早くから頭においていて少しずつ少しずつ作った作品です。
実は最初書いた時点では上のふたつしかなく、最後の「ん。」は後からつけたしたものです。
なのでつけたしてからあまり読み返しをしなかったので真中が弱いというのは特に気にならなかったのかもしれません。
一番上の「ん?」は疑問符というのは文脈どおりで、一番最後と真中の「ん」はほとんど同じニュアンスの音のイメージなのです。
そして何故最後にだけ「ん。」としたかというのは終止符という意味をつけたかったからです。
五十音順の最後の音の最後の「ん。」ということで。どうしてもつけたかった。
そして違いをだすために真中の「ん」には何もつけなかったのです。
これはもう一度検討してみます。ご指摘ありがとうございました。

【露木君】
 <良い目>を持っているという考え方、非常に良いですね!
私はそこに到達するまでに今自分をどうにかコントロールしようと模索中です。
今回、読む人の主観というものをあまり考えずに書いてしまっていて、露木君の批評にはっとさせられました。
というか自分の言葉をどう誠実に表すか、どうわかりやすく書くかということでいっぱいいっぱいで
そこまで頭が廻らなくて…
ありがたいご指摘どうもありがとうございました。
次回作品を書くときは、もっと読み手側を意識して書いていきたいと思います。

【五十嵐さん】
 共感したというお言葉、また、選ぶのが難しかったと。。本当にありがとうございます。
本当にうれしかったです。
将来の事とか、これからの進路とか、四年生の皆様には及びませんが、私も今迷いの渦中の真っ只中です。
いろいろ不安に思うことも、自信を無くすこともありますが、それでも自分を信じていたら、
自分に責任を持ってやっていけたら、結果がどうあれ、どうにかなると思うんです。
【鐘】なんかはそこにいたるまえのことで、人のためという意識で何かをしていると苦しくなってしまう。
だから、なんのために自分はあるのかというような疑問を持って答えを掴み取れない時に書いたものなので、疑問のままという感じで残ってしまったのだろうと思います。
自分に責任を持つというのは自分というものを孤独と共にしっかり抱えなければならないということもかかってきて…
そうですね。【ほんとう】とかは少し哲学的なのかもしれません。
最後の「無理をせず納得のいく作品作りをして下さい。」というお言葉、本当にうれしかったです。
ハイ。納得のいく作品を作っていきたいと思います。

【千田さん】
 愛しい空気。ありがとございます。今回は五十音もあるのでずっと同じ感じで作ってはいけないなと思い、いろいろと試みを変えながらやってみたのですが
それでも全体を包む空気を読み取れるってすごいなぁ。
でもそれが、もしかしたら私の作品の持っている雰囲気なのかもしれません。
「矛盾だらけで今にも壊れそうなほどに脆い「願い」が、「カタチ」になった感じ。」
「些細な衝撃で、水面がぶれて見えなくなる。そんな風に脆くても、何度でも映し出す。そんな掴めない鏡」
ああ、そうかもしれない。
そうやって私は一つ一つ詩を作ってきたかもしれない。
自分という人間を再発見したとともに、自分という人間が作品に現れていることを、すごく感じることができました。
ありがとうございます。

【土橋さん】
 始めにキャッチコピーの「成さぬ脳」という言葉の意味がわかるようなわからないような…
つかみかけている気もするのだけれどどうにも雲のようにかすめてしまうのです。
授業でお聞きする機会をもてなかったので、今度是非お尋ねしてみたいです。
すごく私の中でひっかかっているので。
【最終電車】の批評で平仮名と漢字の選び方ということがあがりましたが、私は表記にした時にどちらの方が伝えたい思いにより近いかということで選んでいることが多い気がします。
たまに遊び心で漢字や平仮名でトリッキーな罠をしかけることをやろうと思ったりしますが、
基本的にはどちらの方が自分の気持ちが伝わるか、ということを意識して選んでいます。
「たったひとつあたたかな僕」についても、平仮名の方があたたかく、そして最後に僕だけ漢字で落ち着く感じのイメージで書いたのですが、一文一文で見ていて全体の中で浮いているといことは考えたことがなかったです。
ご指摘ありがとうございます。これからもっとそういうことも考えていきます。
【縫い目】に関しては私の中では少々批判的というか…。この世にはベトドク願望というのがあるらしく、あのシャム双生児のベトちゃんドクちゃんからついた名前なのですが、
自分を個としてつかめないような、人に依存して生きていくような…。
そんな人々のことらしく。
高校生くらいまでそんなものはあったと思うのですが、今でもそういったものを如実に体現しながら生きている人達への少々の批判をこめて作った詩です。
ただ、そこまでは伝わりにくいかなという気もするのですが…。

【滝さん】
 滝さんの批評はとても優しくしかし的確に私の弱点を見つけてくれた気がします。
ありがとうございます。
【うわばみ】については私は吐き出すまでにとても苦しんでためてしまうので、限界が来てようやく吐き出して…吐き出すことがつらいのに、あんたは何故そんなに簡単に飲み込んでしまうの的な。
ベクトルの方向は自分の中ではあっていたのですが、わたしのつもりだったのかな。
【存在】は結構吐き出して書き殴ってしまった感じで、さ行を提出する時に他に「そ」が思いつかず、出してしまったという思いも強く、こんなに選んでいただけるとは思いませんでした。
やはり、根底にある想いの強さは文章にでるのでしょうか。
そんななので、全体のシェイプとかをほとんど整えずに出してしまったので、もう一回検討をしてみようかなと思います。
【おしまいの音】のタイトルについて、嗚呼!と思いました。ここで題名を【音の箱】とかにすれば良かったかなと。
「どこかで聞いた事のあるようなフレーズ」を多用しているということ。本当にはっとしました。
全然意識をせずにそういった言葉を安易に使っていた気がします。
もっと私らしさ、私独特のものを、生かしていきたい。と思いました。
鋭い指摘ありがとうございます。

【高澤さん】
 「全体的に暖かくて可愛い感じの詩が多くて癒されました。」というお言葉ほんとうにありがとうございます。
私自身暖かく可愛い感じのものを意識してはいなかったので、かなり意外でした。
でも今回全ての詩を読み直し、ポストカァドに起した時にそうかもしれないと、思いました。
少女的なようなでもそこに留まらないような。ファンタジーにも近く。
暖かくて可愛い、そういったものを私は素敵だと思うので、もっともっとそういうベクトルの方向へも手を伸ばしていきたいなと。
【を】について。これは本当に苦し紛れに作ったというか…。最後にきて「わ」も「ん」もできてたのですが「を」から始まる単語がほとんどなければ(古語とかあさらなければ)「を」についてのネタもない…ということで。
をでとめることであえてその先を隠すことにして、まとめに向かう前のワンクッションの意味で作りました。
なので「終わるひとつ前のことを」というのはご察しの通り五十音順で終わりのひとつ前だからです。

【前澤君】
 優しい批評ありがとうございました。
「夜明けは時に、あぁ朝が来たんだなー。今日もがんばろーっ」って思える前澤君なら、きっとそんな作品が作れるはず。
私なんかはああ朝が来たー。また一日始まるのかー。憂鬱ーってタイプの人間なので。苦笑
【誓い】と【印】が対をなすということは、前澤君の指摘で初めて気が着きました。
そうですね。私はプレゼントというものに異常なほどに敏感に反応するのかもしれない。
だからふたつも詩をつくっているのかなぁと思いました。
自分のその手で未来を掴み取るため、がんばりましょう。

【松本さん】
 「真っ暗な影があるからこそ、そこに光が差したとき明るいと感じ、自分以外の人がいるからこそ、嬉しくなったり悲しくなったりするんだと全部を通し思った。表があるところには必ず裏はある。」
すごく鋭いご指摘ありがとうございます。
本当にそういうことなんですよね。表と裏があって、影と光があって、自分と他人がある。
いろんなことがそういうところから始まっている気がする。
その中でどのようなものを掴み取っていけるのか。
それは自分の力量でもある。
そういうことを、私はこの音の箱を作っている丁度真中あたりで気が着きました。
【道化】について、土橋さんの批評のところでも書いていますが、私はどのような表記にしたら自分の言いたいことを一番的確に表してくれるかということを考えながら一文一文書いています。
なので、上二行がひらがななのは、道化が難しい言葉とか感じを使うイメージがなかったからです。
わざと愚かなふりをして、笑っている。だからひらがな。
それが下三行は実は仮面の下で思っていることなんです。
だから漢字も使ったりしたのですが…「まぶたにそっと」に漢字をいれなかったのは瞼って漢字にしてしまうと読みにくいじゃないですか。
普段あまり多用する漢字じゃないから、瞼って表記すると私は普通に自分のまぶたをすぐに想像できないのです。ワンクッションついてしまうので…。
そういう漢字は今回なるべく避けるようにしたので、あえて平仮名にしました。

【加賀さん】
 大変力の入った批評ありがとうございました。
本当に色んなことをご指摘してくださって、いろんなことを考えさせられました。
ありがとうございます。
【モノトーン】について指なのは、そこまでこだわってはいないのですが、ただ手のどこかということは決まっていたような気がします。
私にとって世界はモノトーンで誰かを通して初めてカラフルになるもので。
そういった誰かを一番リアルに感じることができるのが体温なのです。
なので、どうしても手とかぬくもりとか、そういったもので世界がカラフルに変わる。
またそこで手にこだわるのは、そこまで小さな物にしないと、「この手のひらに」というところに帰ってこないということがあります。
しかしながらこのご指摘はごもっともだと思います。
「囚われる」「お日様」「花火」の単語が目立つのは、私のカラー半分、書いていた時期半分というところでしょうか。書いたのがほぼ春から夏だったので、お日様を当然意識したのだろうし、花火なんかは今年の夏にすごい感動して三回くらい見に行ったので(苦笑
囚われるというのは本当に私のカラーなのかもしれない。
「私」と「僕」の使い分けに関しては、私は誰かに向けて思う詩を書くことか、自分の中のことを言葉にすることが多いのですが、自分の中に「僕」というのが根付いてしまっている気がします。
私というと菊池佳奈子本人になってしまう気もして、女の子というイメージや堅いイメージがあります。一方僕というのは私にとって何者でもあり、何者でもないのです。
私という一人称を使う人は世間一般に多く、僕という一人称を普段日常会話の中で使っている人は少ない気がします。
だからこそ僕は誰でも使えるし、そして誰にもならないのだと。そんな思いがあります。
だから「僕」を多用してしまうのだと思います。
あとは漢字一文字に対して僕は読み二文字。私は読み三文字ということから言葉のリズムの中にはめていくときに僕を選んでしまうことが多いかなとも思います。
【無色透明】に関しても言葉のリズムやテンポ感といったことからなにげなく、「みんなみんな」と始まって「なのに」で終わる。あえて言うならみんなみんなと重ねたのは強調したかったからで、「なのに」で終わったのには憤りや悲しみみたいなものがあったので、逆説。で止めたというところでしょうか。
詩に色があるというご指摘ありがとうございます。
私は特に意識をしているわけではないのですが、自然と色をつかっていたり、つかわなくてもイメージがあったりします。

【越智さん】
 キャッチコピーの「淡々とした物語の数々」の的確さに思わず「そうです!」と頷いてしまいました。決して激情ではない、日常の些細な物語の数々です。
越智さんは雑談板のほうに、書いてあったことが本当にうれしかったです。
誰かに共感してもらえること、誰かの心に触れることができることが、私にとって何よりも嬉しい。
越智さんの毎日書くという決意に負けないくらい頑張ってこれからも作品を作っていきたいです。
がんばりましょう。

【雨宮君】
 詩についてどのような批評をしたら良いのか、ということは私もいまだよくわかりません。
にも関わらずきちんと批評を書いてくれて本当にありがとうございます。
言葉が具体的で文芸的なところから離れてしまっている、というのはそのとおりですね。
前回(去年の授業)で合評をしていただいたときにあまりにも自分の言葉の伝わらなさ…というか、至らなさを痛感させて頂いていらい、
どうやったら相手に私を理解してもらえるだろう。
言いたいことを的確に表すにはどうしたら良いだろう。
そういったことを考えながら作っていったので、わりと生の声になってしまっているのですね。
でも今回その中で、どれだけ人に伝わるのかどきどきしていたら、わりとあるところまでは的確に表現できるようになってきたのではないだろうか、というところまで来た気がします。
というか自分の中の土台作りのとっかかりをつかめた気がします。
しかしながらその時点では確かに、雨宮君や露木君のおっしゃる通りその先の読み手を意識した文芸的な作品にはならない。
これから目指すべきポイントを教えていただいたような気がします。
ありがとうございます。

【野島さん】
 響くということに関してこんなにも敏感なのは、楽器をやっているせいかもしれません。
でも色んなものが届くというよりは響くほうが、私は強いしきれいだと思っています。
そこをうまく汲み取ってくれてありがとございます。
【ここにいるから】の「夜が怖い」といったのは君であり、僕であり。両方です。
どちらかに限定したくはなかったのであえてわかりづらい書き方をしてみました。
どちらでも、思うほうで良いと思います。
【手紙】のゴロは合わないというか…「今もピアノの上」で1回流れを止めてしまっていて、最後の一行で余韻を残すという感じで作りました。言いたいことと全体のプロポーションが伴わないというのをどうやって折り合いをつけていくか、これも今回の合評で見えた私のヒトツの課題です。
【ナイフ】はいささか夢見がちな言葉をいう女の子への批判的な目がありますね。
こういう女の子の言葉って重いなぁと私は感じがちなのですが、実は男の子たちはそんなことはないのかもしれませんね。
【モノトーン】の僕は…そうですね。自分のことって感じであまり説明をするということは思いつきませんでした。再検討してみます。

【瓜屋さん】
 共感するものが多いといって下さってありがとうございます。
私は瓜屋さんの作品に共感することも多く、非常に大好きなので、すごくうれしいです。
何か思ったときに私は言葉にしてしまわないと自分の中でうまく消化ができないのですね。
だからいろんなところにひっかかっては止まって咀嚼消化、また一歩進んで、ということを繰り返しているのかもしれない。
これからもそういった些細なことを大切に書いていきたいと思います。

●授業で合評していただいたことに関して。

多く上がったのは「共感」という言葉。
私が作品を作るのは自分のためという意味合いが強く、日々の中でひっかかってしまった想いを消化するため、言葉にし、そこで止まっていたくないため、形にして世に出すという、ひとつの自己満足でもあるので、そこで誰かの心に少しでも触れられるということは、ほんとうにほんとうに嬉しいことなのです。
今回の合評で多くの方にそういっていただけたことは本当に涙が出るほどうれしく、
これから作品を作っていく糧になります。
ありがとうございます。
そして「考えさせられる」ということもいくつか上がっていました。
これは実は意外で、すごく新鮮な評価でした。
私はよく無駄なこととかどうでも良いことまで細かく細かく考えてしまう人で、よく考えすぎと言われるのですが、正体を掴みとって自分のものにするまで、時間がかかるんですが、それをしないと先に進めなかったりいつまでもひっかかったままだったりします。
そんな正体を掴み切れないという状態の詩には何かそんな力もあるのかなと。
初めて思いました。
またタイトルと本文のギャップや、言い回しの日本語の妙など、指摘されて、私にとってわりと自分の言葉なので妙に感じないところを、ああこれって実はおかしいな。と考え直させられたところもあります。
しかしそれが魅力になる場合とマイナスに働く場合とをきちんと見定めて計算して作らなければならないという新たな課題も浮かび上がってきました。

●まとめ
この作品は約一年に渡って書きつづけた詩を、五十音順にタイトルをつけたものです。
詩をヒトツの詩集という束にまとめあげるのにはどうしたら良いんだろうと模索し、
五十音順にタイトルをつけてエッセイ漫画を書いた楠本まきさんの「耽美生活百科」や
今KERAという雑誌でPlasticTreeというバンドのボーカルさんが「五十音式」という連載をしていて、これはまさに五十音順に詩をひとつずつ書いていくということなんですが
それにヒントを得て、やってみようと思って始めたものです。
最終的に「おしまいの音」もいれて47作品になりましたが、
批評にあたり、こんなにたくさんを読んでいただき、その上5つ選んで批評して頂いて本当にありがとうございます。
本当に嬉しいです。
今後の課題として
●「どこかで聞いたフレーズ」に頼らないこと。
●漢字と平仮名などの表記の選び方。
●全体の形を考える。
●自分のくせを客観的に見る。
●読み手を意識する。
ということなどがあがってきたと思います。
そういったことを意識しつつ、しかしながら今ある土台の力強さや今ある魅力も殺さないように、今以上のものを作っていきたいと思います。
多くの批評感想、ありがとうございました。
これを糧に次はもっと飛躍したいと思います。

露木悠太 批評9/センシティブ、センス! 2004年10月20日(水)04時16分14秒
▼課題と連絡:批評課題9/千田由香莉小説作品の批評 への応答

 【あめ色の坂道】
『私は、横に立てかけていた赤い傘を侍のように右手に持ち、席を立った。』というのがおかしくて笑ってしまいました(センス良い!)。
二、三度読み返しても突っ込みどころがわからない。作品の完成度が高い。かといってまだまだ成長しそうな勢い。少し途方に暮れました。でも、がんばって探しました。

『驚いた。昭和を切り取った世界に佇んでいたのは、おじいさんではなく、見たところ23歳くらいの若い青年だった。』というところ。23歳くらいってすごく微妙。20歳(はたち)くらいとか、22、3歳とかだったらわかるんですけど。読者の僕はその年齢から思い描くイメージを持っていませんでした。それってちょっと大事なことのような気がします。

『雨が降った日のことだった。私はいつものようにその店に吸い寄せられていた。今日はいつもより授業が早く終わったせいもあって、少し早めに駅に着いたのだけれども、いつもの時間に合わせるために、店の近くにあるミスタードーナッツの2階で時間を潰すことにした。
 《中略》
 いつものように彼を見る。本を探すふりをしていつもの棚に辿り着く。ここからが一番よく見えるという事が、何度も通った結果、唯一わかったことだった。彼はいつもの格好でセピア色の中で本を読んでいた。』
長いですけど、ここ。繰り返して印象を強めたのだとしても、「いつも」がしつこくなってしまっている感じがしました。丁寧に書いているのがすごく伝わってきたので、繰り返し読んでみると目立って見えました。

敢えて難を挙げるならば、どこか憶えのあるような、と錯覚してしまうストーリーや展開が少々残念でもありました。でも、おもしろい。よく感情を抑えて書けていますね。僕も見習いたいです。


 【檸檬】
小さな小さなひずみ。一回だけ大きく鳴った心音。その機微を捉えることのできる、繊細な感性。すばらしいです。『…知ってるよ。』のところで、微かに共鳴するように僕も、感情が波立ちました。梶井君ではなく、主人公の女の子に感情移入したんです。大講堂の後ろの方の席で、緊張の色を浮かべながら授業に臨む姿。梶井君を見つめる姿。そのしぐさや表情までもが想像として広がって、心地良ささえ感じることができました。眺めの良い階段教室、あの不思議な空間に、やはり僕も同じように自分の存在が小さく思えたりして、浮き足立ってしまっていた入学当初を思い出します。語り手としての主人公が良いですね。その語り口が穏やかで、ゆったりと流れるように進むストーリーによく合っていると思います。梶井基次郎の『檸檬』もすごく気に入ってしまいました(表題作もいいんですけど、他の短編も良かった!)。


四作品通して見ても、とても魅力ある物語。好きな世界観をどんどん追求していって、たまにはマニアック受けされるくらいのものでもよいと思います。日常の、胸の高鳴る瞬間に耳を澄ませて静かに記録していくような、紗のかかったきれいな映像が浮かぶような、千田さんの作品。これからも期待しています。

土橋明奈 批評9/カテキン入り清涼飲料水。 2004年10月20日(水)03時48分42秒
▼課題と連絡:批評課題9/千田由香莉小説作品の批評 への応答

安定した世界観。押し付けがましくなく、爽やかな読み心地でした。
読んでいて不安感を持たなくて済む、書き慣れている文章。
【あめ色の坂道】
【忘れ霜】が良いと思いました。
10分位のテレビドラマの様な。「忘れ霜」は着眼点が良いなぁと思いました。あまり書かれない処だと。
単に取り違いのエピソードだけでなく、傘の思い出とかまとまりの良さが大人っぽい。
「あめ色の坂道」は可愛いなぁ、爽やかだなぁ、と。店主さんがどう云う人なのかもっと見てみたいと思いました。
後は、()括弧はちょっと浮付いているように見えました。
千田さんのお話はちょっとドラマチックで日常に隠れているものを掬い上げた様な、息切れしない安心感がありました。
今後にも期待です。

城所洋 批評9/鮮やかな心象・青やかな印象 2004年10月19日(火)21時53分21秒
▼課題と連絡:批評課題9/千田由香莉小説作品の批評 への応答

【檸檬】

 うわぁ、だめだ、どれもこれも面白いよ・・・。というのが、全部に目を通した時の素直な印象でした。
 いや、千田さんのは物凄くツボにはまる物ばかりでした。言い換えれば、自分に無い部分が千田さんにはある、とも言えます。
 それは趣向性の違い、だと自分は思っているのですが、千田さんのはまさにエンターテイメントだと思うのですよ。気軽に見れてグッとこれるような、そんな雰囲気が作品に漂っていました。
 一方、自分の書く物とはそうではなく、何だか説教臭くて、胃の腑にズンと落とすはいいが少々胃もたれさせてしまうようなものばかりです。(あえてそうしているのですが)
 う〜ん、この辺は良し悪しではなく、感性の違いなのでしょうか?ストーリー重視とか、フレーズ重視とか、色々ありそうですね。(でも、最近の傾向としては千田さんのようなあっさりとした味が好まれていそう・・・?)

 さて、そんなこんなで大分迷ったのですが、一番最初に見て、一番衝撃を受けた、という事で今回は檸檬を取り上げたいと思います。
 それでいきなり誉めたいのですが、最初の出だしの高校生の頃の定期券と間違えるシーン。いや、こんなに上手い出だしは中々ないですよ。上がり立ての初々しさ、季節感、それに共感や高校への名残惜しさとか、切なさとか、それらが重なって何とも言えない気持ちになりました。いや、ほんと、見事です。
 
 次に、全体的な流れを見ていくと、少し、起承転結の転と結の部分の印象が弱いと思いました。と言えばあれですが、実際、この短さでそれをやれと言うのも酷ですよね。
 ただ、なんとなくもう少しボリュームが欲しかったかな?と思いました。
 例えば、転の時の「心臓が激しく飛び上がった」っていうのも、それだけではなくてもう少し彼女の妬みとか焦りにも似た感情みたいなのを二言三言加えると、「あ、変わったんだ」とステップを楽に踏めるようになると思います。
 それに結の時の「通り過ぎた夏の〜〜〜」をちょっと切り離して書いたり、そのフレーズに辿り着くまでのプロセスをもう少し工夫したりすると、さらにグッと引き締まると思います。
 あと、駅が見えてきた〜〜〜、も、少しボリューム不足かな?と思いました。ここで!一番最初の出だしと対象になるような事を書いていたら、もっと後味というか、余韻が残るような気がします。例えば、ピンコン!と道を閉ざされた人を横目に通り過ぎた〜〜、とか、そんな感じでしょうか。
 
 こんなもんかな?基本的に千田さんは描写のセンスも良いですし、巧みさもあり、文章のバランスも問題無いです。
 いや、この青々しさというか、鄙(ひな)びた感じというか、う〜ん、自分にとっては、羨ましい限りです。

 

五十嵐 舞 批評9/これって…何処かでみたような 2004年10月19日(火)14時56分08秒
▼課題と連絡:批評課題9/千田由香莉小説作品の批評 への応答

千田さんの作品は全体的に等身大の私たちの年代の迷いや心の揺れ動きなどうまく表現していると思います。その中でも私は個人的には【あめ色の坂道】です。私自身が『本』大好きというか古書店の雰囲気が好きだからでしょうか。この物語のように店主が青年というのは珍しいというか、私は読んで真っ先に浮かんだものはタイトルが思い出せませんが台湾の監督の映画で浅野忠信、歌手の一青窈出演した作品で浅野さんが店主の青年で一青さんが主人公の女の子で…話の内容は観ていないので判りませんが醸し出す雰囲気というかこの作品が描きだす世界が似ているな〜と感じました。また、全体的にはどこにでもありそう日常を描きながらちょっとした非日常を織り交ぜて主人公の内面の動きを小出しながら嫌味のない青春っぽいテイストに仕上げている感じがうまいなと思いました。恋愛というか青春小説と言われるジャンルが苦手な私でもすごく読みやすい、喉越しがよかったのが最大の要因かもしれません。
 あまり、うまくまとめられませんでしたが、千田さんの次回作を期待しています。千田さんはこのぐらいの量の短編がちょうど良いかもしれませんね…全体的に上手くまとめれている印象を受けました。では、無理をせずこれからも頑張って下さいませ!!

児玉武彦 批評9/モチーフへの思い入れ 2004年10月16日(土)10時24分27秒
▼課題と連絡:批評課題9/千田由香莉小説作品の批評 への応答

【あめ色の坂道】
千田さんの作品の中でこの『あめ色の坂道』が特に良かったと思う。
何故そう感じるのか考えてみると、自分の趣味との共通点がある事に気付いた。
僕も昔から古本屋に目がなかった。古本屋といっても漫画の古本屋なのだが。
つまり、筆者の古本屋に対する思いが、自分にもダイレクトに伝わってきて、とても自然に物語の中に入りこんでいくことが出来たのだ。特に冒頭の本屋の描写が強く心を捉えた。

「引き戸を開き、足を踏み入れると、床板が、ぎしりと鈍い音をだす。かび臭い匂いと、小さな窓から入り込む光を反射した埃がちらちらと舞う。狭い店内に窮屈そうに立ち並ぶ本棚が、私の行く手を阻む。未開のジャングルに踏み入る感じ。身体を上手く捩りながら店の奥を目指す。」

この描写は本当に本屋好きでなければなかなか表現出来ないだろう。
あの古本屋独特のかび臭さや、天井近くまで積まれた本の山の中を進んでいく時の妙にワクワクする感じなどうんうんと頷きながら読んでしまった。それだけにどの様な本が並んでいたかなど人が知らない名前でもいいから複数挙げて欲しかったのが惜しかった。
主軸として店主の若者との展開には現実感が薄く、あまり引き込まれるには至らなかったが、昭和30年代にあったような古本屋という設定が、非日常的な展開を最後まで読ませてくれる架け橋となってくれていた様に思う。また、最後に彼女が何と言ったのか読者に想像させてくれる余地を残してくれていたのがとても瑞々しい作品にしたてていた。

松本紗綾 作品9/室井滋に憧れて。 2004年10月15日(金)00時56分10秒

【ケータイ】
 小学校、中学校と、私の通っていた学校はそのまま持ち上がりだった。そのため、高校入学と同時に、初めて9年間ずっと一緒だった友達と離れ離れになることになった。
 高校に入学したとき、友達はいなかった。同じ中学校から、この高校に入学したのは、女の子では私ただ一人だったのだ。9年間も一緒だった友達と離れ、一人ぽっち。そんな私は、何としてでも友達を作る必要があった。3年間過ごさなければならないのだから。
 そこで大活躍したのがケータイだ。「ケー番教えて」が「友達になろう」を意味し、お互い連絡先を交換することが友達の証のようだった。いかに、ケータイのメモリーを増やすか。みんなが必死になっていた。私も含め。
 そして現在。今も連絡を取り続けているメンバーは決まりつつある。必死にメモリーを増やしても、ボタン1つでキレイさっぱり。削除。そこがケータイの長所でもあり、短所でもある。人間関係がケータイのようになるのではなく、ケータイに人間らしさが入れば…いいのか!?

【駅弁】
 新横浜、名古屋間を少なくとも年4回は新幹線で一人往復している。
 最初、一人で乗車したときは、駅弁を買うことが出来ず、カロリーメイトを手に景色ばかり見ていた。駅弁は、出張社会人。いわゆる大人がビールを片手に購入するものであり、学生の私が大人と一緒に購入するものではないと思っていた。
 しかし、今、新幹線に乗る一つの楽しみが駅弁になっている。新横浜では中華街弁当。名古屋ではみそかつ。駅弁に加え、雑誌も1冊購入する。オヤジ達と同じスタイルだ。
 時に、流れる景色を見ながら、雑誌に軽く目を通し、駅弁を食す。隣には、いつかの私のような子が一人。その子もいつか私のようになり、私はいつか片手にビールの素敵な女性になるのだろう。

【旅行】
 私は、海外旅行に行ったことがない。パスポートすら持っていない。小学生の頃、子供料金で行けるラストチャンスだからと、海外旅行が計画された。が、気付いたら私は、中に日本人が入ったミッキーの隣で笑って記念撮影をしていた。
 最近、再び海外旅行の話が出た。が、すぐに20歳になってからパスポートを取ったほうが得だという話になり、また海外旅行は流れた。
 私が20歳になったら、妹は17歳。家族揃っての海外旅行は、妹が20歳になってから再び話題になることだろう。そのとき、私は23歳。両親は46歳。
 南の島で家族4人、砂浜を走り、バナナボートに乗り、スキューバーダイビングを楽しむ。こんな海外旅行は、とても行けそうにない。

【ガーデニング】
 花、鳥、月。最近、テレビ番組でよく明石家さんまが「人間年取ると花、鳥、月の順に興味を持ち愛しく感じるようになる」と言っているのを耳にする。
 祖母の家は、たくさんの花たちに囲まれている。祖母は花が好きらしい。花に対する知識も豊富だ。母は、花が好きやら、癒されるやら、やたら言うが、花を育てている姿はあまり見たことがない。母の花は、いつの間にか祖母の家へ持ち込まれ、花たちの仲間になっていることが大半なのだ。その前に、残念ながら息絶えてしまった花もいくつか見たことがある。
 そして私。私は花に興味がないと言い切ることが出来る。花がなくても、私の生活になんら支障はない。
 こんな私がいつか花に囲まれて生活する時が来るのだろうか。母が祖母のようになり、祖母は鳥が好きになる。祖母には、ずっと花好きな若い祖母でいて欲しい。しかし、鳥や、月が好きになっても卓球やボーリングに励み、ふらっと夫婦で旅行へ行くような素敵な祖母にも会ってみたい。

千田由香莉 作品6/「忘れ霜」 2004年10月14日(木)14時06分39秒

 小さな頃、私はお姫様だった。というより、正確に言うと、そう思い込んでいた。
 自分は多分、何処か遠い国の姫の生まれ変わりであるに違いない。当時私たちの間で流行っていた「魔法使いサリー」を見た瞬間、私は自分の運命に気づいてしまったのだ。理由や根拠なんて一切ないのに、そう信じて疑わなかった。
 いつだっただろう。普段使っていた黄色いアヒルの絵が描いてある傘が突然壊れてしまい、近くのスーパーに母と二人で新しいものを買いに行った。売り場に着くなり、私は、迷うことなく、あるひとつの傘を指差した。
「傘はピンクのレースがついたやつじゃなきゃ駄目なの。あれがいい」
 黄色い鞄をたすき掛けにした園児が、生意気そうに口を尖らせる。母は、傘の大きさと私を見比べて、「ちょっと大きいわよ」と言った。でも、私の意思は揺らがない。それでもこれじゃなきゃ、だって私はお姫様なんだから。

 西永福〜
 はっ、として辺りを見回した。開け放たれた扉は、誰もくぐることなくぽっかりと、ただ無駄に風を吸い込むだけだ。しまった!の、「し」の字が浮かんだ時点、鞄と資料の入った茶封筒を、まるでタイムサービスに目の色を変えた主婦のように、がっしと掴んで、転げるようにホームへとダイブした。お姫様の生まれ変わりなんかじゃないと気づいたのは、いつだっただろう。重たい足を引きずりながら、行きすぎた駅を引き返す。不様だなぁ、と階段を上る音が、ぼてっぼてっ、と気だるそうに虚しく響いた。
 
 坂の下にある1DKのアパートが私のお城。日当たりは、まぁまぁ。上京して3年。大学へ通うのに借りたのは良いけれど、電車で乗り換え込みで6駅はかかる。電車通学に思いを馳せたのは最初だけ。今考えると、どうして徒歩圏内にしなかったのだろうと、この選択を悔いている。階段を上るたびに近づいていた「希望」は、最近はまったく逆で、上るたびに遠のいていっているような気がする。最近は学校に行くことさえ、はぁ…
「めんどいのよねぇ」
 手荷物をベッドへ放り投げた。散らばった鞄と封筒を見下ろしながら、黄昏ている頭の隅で、「あぁ、ご飯を食べなくては」と、思った。こんな自分に嫌気がさす。現実は映画みたいにはいかないんだ。そういえば、完璧な主人公の映画を見るのが嫌いになったのは、いつからだったか。シンデレラって、あれは何だ?私は、冴えない日常を繰り返す主人公の映画のほうが好き。というよりも、安心できる。そう言う傍で少し後ろめたいのはきっと気のせいじゃない。
 じゃがいもがあったはず。今日はカレーにしようと決めた。正確には、今日“は“ではなく、今日から一週間ぐらいは毎晩カレーになる。すべて余ってしまう。一人じゃ食べきれないカレーも、一人じゃ使い切れない時間も。私は、一体いくつのものを無駄にしただろう。いっそのこと、足らない人にあげられたらいいのにと思う。私の持て余してしまった何かを。伸びきった気分を、なんとか奮い立たせて、芋を剥くために台所へと向かった。
 じゃがいもの皮を剥く音とテレビの音が部屋に響く。丁度ニュースの時間で、「闇金業者悪徳手口その全貌」などという特集がやっていた。あの、ものまねでよく見る「音声を変えて」ってやつ。モザイクの。あれが聞こえた。「本当にびっくりしましたぁ」と、被害者の割には随分と張り切って応答するモザイク声に混じって、私の携帯の「三分間クッキング」音が、モザイク声と同じくらい間抜けに鳴り響いた。
「誰、これ」
 携帯を覗きこむと、知らない番号が表記されていた。あまりにしつこく鳴るものだから、包丁を片手にしばらく考えてしまったけれど、やっぱり無視することに決めた。しばらくすると音が止んだ。胸をなで下ろし、背を向け、じゃがいもに意識を集中させた瞬間、再び「三分間クッキング」が鳴り響いた。
「びっくりしたぁ!何?今度は誰よ」
 再び覗きこむと、さっきと同じ番号が。思わず息をのんだ。あの軽快な「三分間クッキング」のメロディが、「ゲゲゲの鬼太郎」のテーマソングのようにおどろおどろしく、恐怖じみて聴こえた。通話ボタンに親指をかざす。知らない番号と、固まったままの指先を交互に見つめ、親指をゆっくりとボタンに押し付けた。
「もしもし」
 尋常でない心臓音の中、それとは裏腹に、歯車が動く音がした。しばらく耳にしていなかった、ずっと聴きたかった音。わざと遠ざけていた音。
「もしもし?あの、封筒。君、封筒間違えて持ってない?」
 冷静な口調の割には慌てたような感じで、声の主は唐突に話を切り出した。
「は?封筒…?」
 男の人だ。私も、何故か彼につられて慌てて部屋を見回した。ベットの上に視線を定めると、中身の紙が出かかっている茶封筒が飛び込んできた。電話を片手にそれに近づき、中身を確認した。
「…あ」
「あった?」
「はぁ…」
「よぉかったぁ〜」
 彼は、風船の空気を一気に抜いたように情けない声をだした。
「これ、どうしますか?」
「あー…どうしようかな。君は今何処にいるの?」
「家です」
「あぁ、井の頭?」
 そうです、と言おうとした瞬間、耳に入ってきたテレビの音が、怪談話をする時のような声で、「あなたの側にも恐怖の手が忍び寄っているかもしれない」と、言い放った。その言葉にはっ、とする。
「っていうか…何で知ってるんですか?そうだ…番号だって…何で?!」
 胸がきりきりする。不穏な音に目がくらむ。そんな心境など構わずに、声の主はあっさりと言った。
「君の封筒が僕の手の中にあるんだよ。手がかり探す為に、履歴書見せてもらっちゃったけど。悪いね」
 絶対、悪いと思ってない。私は声を低めて言った。
「井の頭公園駅で待ってますから。早く来て下さい」
 世の中は随分と物騒になったもんだ。私は、靴をはいて勢いよく玄関を飛び出した。

 井の頭公園駅は人通りが少ない。私は、敵地に乗り込むアクションヒーローのように、街灯が照らす夜道を駆け抜けた。声の主と思われる人は見当たらない。仕方がないから駅前のコンビニを眺めて暇を潰した。
 やがて、いくつか靴音が聞こえてくると、音の数だけ人が私の横を通過していった。少し遅れて切符が改札を通過する音が聞こえた。茶封筒が目印。顔をあげた。男の人が一人、方々に、きょろきょろと目を泳がせていた。私がしかめ面でちょい、と片手を挙げると、その人は小走りで駆けてきた。
「寒くて暗い中、悪かったね」
「いえ、別に」
 スーツを身にまとったその人は、人懐っこそうな笑みを浮かべて、「申し訳ない」と、封筒を差し出した。
「どうぞ、草野薫さん」
 嫌味ったらしく返答した私をみた彼は、肩をすくめて、くすくすと笑いながら
「見たんですね、履歴書」
 と、小学生のように口を尖らせた。

「お礼に何かご馳走するよ」と、彼は言った。警戒心を剥き出しにする私に、彼は困ったように笑った。
「先に間違えて持っていったのは君だよ」
 歩きながら、ささやかな反抗と言った感じで彼は言った。この時間、店は何処も閉まっていて、なかなかご馳走にありつけない。
「社会人なら普通それくらいわかりますよね…」
 何軒ものシャッターを巡りつづけた末、遠い目で呟く私に、彼は、申し訳なさそうに「ごめんなさい」としおれた。恐縮して少し丸まった背中があまりにも哀しそうに見えたので、さすがに私も何だか哀れに思えてきてしまった。
「じゃあ…肉まん奢って下さい」
 私の声に、彼は、背中を向けたまま、親指を肩からひょこっと立てて小学生のように笑った。あぁこの人は、仕事が出来なくてきっと解雇されたんだろうなと思った。

 ブランコに腰掛けながら肉まんをかじる。湯気が冷えた鼻をくすぐる。鼻をすする音が二人分、公園に響いた。
「君さ、就職するの?」
 彼は唐突に切り出した。
「えぇ、まぁ」
 言った後に、何だか噛み砕けない異物がある気がした。
「美大通ってるんならさ、やりたいこととかあったんじゃないの?」
 ブランコを軽く揺らす。きぃきぃと、変に甲高い錆びついた情けない音がする。私は言葉を探すふりをした。本当はすぐに浮かんだくせに。
「叶うわけないし」
 飲み込んだ言葉の代わりに肉まんを頬張る。温かさが胸に痛い。彼は、ブランコを揺らしながら言った。
「俺は、ウルトラマンになるはずだったんだ」
 はぁ?と笑いそうになった。でも、何処かくすぐったい。照れ笑いを浮かべながらも目をきらきらと輝かせている彼は、「本当だよ」と呟いた。
「それを言うなら、私なんか、遠い国のお姫様の生まれ変わりだったんだから」
 冗談に本音を委ねた。笑われると思った。でも、彼は「うん」と頷いて微笑んだ。それを見た私は、何だか後ろめたくなって、俯くことしか出来なかった。
「って、思い込んでただけだけど…自分は特別なんだって。根拠もないのに」
 馬鹿みたいに、まっすぐに信じていた。小さなことですぐに怯えて眠れなくなるくせに、それだけは恐れることもなく、疑いもなく信じていられた。
「俺もだよ」
 私の横から柔らかい声がした。遠くのほうで虫が鳴いている。彼は、言葉ひとつひとつを選ぶようにゆっくりと口を開いた。
「どうせ出来るわけないし」
 押しこめた言葉を掘り起こされた気がして、指先が少し動いた。
「って思って、去年なんとなく就職したんだ。でもさ、どんなに頑張っても、良いことがあったり、上手くいっても、気がつくとふと思ってた。もしも、って」

 ふと、あの日のワタシが浮かんだ。手には壊れたアヒルの傘を持っている。あの傘は、壊れたんじゃなくて壊したんだ。私が。お姫様になるために。すると、手のひらの感覚が急に鋭くなったように、突然冷たさを感じた。手を開いて見てみると、ブランコの赤茶色い錆びが泥遊びをして、しばらくたった時のようにかさかさとまばらについていた。鉄の匂いがする。
「履歴書ってことは、再就職するんですか?」
 私の問いに、彼は誇らしげに微笑んだ。
「そうだよ」
「…M78星雲ですか?」
 彼は、くっ、と笑って、繋げた。
「それよりもっとすごい星をみつけるんだ」

 彼と別れ、夜風に触れながら家路を辿った。ふと、視線を感じて振返ると、あの頃のワタシがついてきていた。街灯に照らされた幼いワタシを見つめた後、空を見上げた。東京の空も、見上げればこんなにも数え切れないほどの星が輝いている。そんなことに、今更気づいた。その半面、途方もなく、黒く広い空が恐ろしくも思えた。
 深く息を吸いこみ、向き直る。私は、私をただ睨みつけるだけのあの頃のワタシに、相槌をうつと、微かな光を頼りに、再び歩き出した。

千田由香莉 作品5/「あめ色の坂道」 2004年10月14日(木)14時00分24秒

 南口の改札を抜けて、緩やかな坂道を真っ直ぐ下っていくと、若者向けに新しく改装された店舗が立ち並ぶ。それと同じならびに一軒だけ古びた古書店があった。そこは、まるでその一角だけ昭和30年代から切り取ってきたみたいで、そこだけ別の時間が流れているような感じがした。その店の出で立ちは、時代遅れだとかそういった類の雰囲気を微塵も感じさせないで、凛としていた。どんよりとした雲が空を覆ったあの日、私は、その店に吸い寄せられるようにふらりと立ち寄ったのだった。
 
 引き戸を開き、足を踏み入れると、床板が、ぎしりと鈍い音をだす。かび臭い匂いと、小さな窓から入り込む光を反射した埃がちらちらと舞う。狭い店内に窮屈そうに立ち並ぶ本棚が、私の行く手を阻む。未開のジャングルに踏み入る感じ。身体を上手く捩りながら店の奥を目指す。やっとの思いで潜り抜けた先には、セピア色の景色があった。
 この景色は何処かで見たことがある気がする。何だろう、映画だっただろうか。と、しばらくの間惚けていたら、店の人と目が合ってしまった。あっ!と思うと同時に、すぐさま近くにあった本を掴み取り、咄嗟に本を探している風を装った。私の陳腐な考えを見抜かれないように必死に読むふりをする。店主の視線が外れたのを背中で感じ取ると、本の隙間から、ちらりと様子を伺ってみた。本の隙間、セピア色の中に浮かび上がったのは、くたっ、としたアイボリーのシャツ。さらにゆっくりと目線を上にずらす。首、顎…と、パズルを完成させてゆくように慎重に。やがて、店主の顔のパーツがすべて揃った。
(?!)
 驚いた。昭和を切り取った世界に佇んでいたのは、おじいさんではなく、見たところ23歳くらいの若い青年だった。私は、驚きと好奇心から彼を食い入るように見た。
 客には見向きもせずに本をうつむき加減で読んでいる。彼は、首を少し右に傾けたスタイルで、淡々とページをめくっていく。指は細いくせに節がごつごつとしていて、長めの前髪の奥から時折覗く涼しげな目に、ちらちらとした睫毛がたまにゆっくりと動くだけだった。ふいに、彼が動いた。瞬間、私はむせ返り、どうしようもない焦燥感に襲われた。急いで本を棚に戻し、逃げるように店を出る。息の仕方を忘れた。頭や他の感覚は真っ白なのに、胸だけがばくばくと音をたてて私の足を動かす。坂を駆け下り、曲がり角を曲がったところでようやく止まることが出来た。そして、ようやく息を吹き返してはじめて思った。何で走ったんだろう?

 次の日も、また次の日も同じようにその店へと向かった。というよりも自然と足がそこを目指している。相も変わらずタイムスリップしたような空気が漂う店の奥には、相も変わらず客に見向きもしない店主がいた。そして、相も変わらずその睫毛が動くのを、本の隙間から横目でちらちらと覗き見る私がいた。
雨が降った日のことだった。私はいつものようにその店に吸い寄せられていた。今日はいつもより授業が早く終わったせいもあって、少し早めに駅に着いたのだけれども、いつもの時間に合わせるために、店の近くにあるミスタードーナッツの2階で時間を潰すことにした。窓側の席に腰掛け、2階から見下ろす見慣れた街は、赤や紺、黄色、様々な色がまばらに彩っていた。灰色の空も悪くないと思いながら、オールドファッションをかじった。あの独特のもそもそとした食感の中から、ほのかに甘い味が口いっぱいにひろがった。夕日が傾く。私は、横に立てかけていた赤い傘を侍のように右手に持ち、席を立った。

 密林を潜り抜けると、彼はいた。雨のせいで、かび臭さの中に湿った雨の匂いも混じって、秘密の場所はさらに怪しさを増し、湿気を帯びた木造の柱は、時代をさらに5年くらい古びてみせていた。
 いつものように彼を見る。本を探すふりをしていつもの棚に辿り着く。ここからが一番よく見えるという事が、何度も通った結果、唯一わかったことだった。彼はいつもの格好でセピア色の中で本を読んでいた。今日は灰色のシャツだ。思わず店の外に目を向けて、空と彼のシャツの色を見比べた。そっくり。私は、ばれないように本に隠れてくすり、と笑った。笑いをおさめて視線を戻した瞬間、目が合った。合ってしまった。あの日以来、再び私は空白の中に突き落とされた。真っ白だ。私は店を弾丸のように駆け抜け、逃げた。坂道を一気に下る。曲がり角を曲がるとき、横目にあの店主が、彼の姿が映った。
(何で?!)
 私はさらに速度をあげて走った。雨が頬にあたる。水溜りを踏んだ足元やスカートの裾は鈍い色に変わり、重たい。
「あっ!」
 ようやく事態に気づいた私は、びたっ、と足を止め、道の真ん中に立ち止まった。
(傘!)
 振り返ると同時に、赤い傘をリレーのバトンのようにして走ってくる彼を見つけた。

「君、足…はやいね」
 私の前に辿り着くなり、がっくりと頭を垂れた彼は、大きく息をついた。
「あの、すみません…ありがとうございます」
「おーい、って呼んだんだけど、この雨だろ?」
 彼は顔をあげて、不器用に笑った。そして、はい、と傘を手渡した。
「それから、これは返してね」
 何のことやら?と彼の指先を辿ると、本がしっかりと私の左手に握られていた。
「えっ?…あっ!すみません!」
 彼の手から傘を受け取り、本を返した。恥ずかしすぎるうえにあまりに無様で目が見れない。
「盗ろうとしたわけじゃないんです。本当です」
「うん、あんなに堂々と盗る人いないしね」
 彼は、ははっ、と声に出して笑った。初めて聞いた彼の低めの声を耳に受けるたびに、私の胸はじんわりと波紋を描いた。それじゃあ、と傘をさした瞬間、お互いの「あ」という間の抜けた声が雨音の中に響いた。傘はべこっ、と見事歪な形に変形し、本は雨の中の激走の末、ぐしょぐしょに濡れていた。顔を見合わせ、しばらくの沈黙の後、ぶっ、と噴き出した。

「悪いね。傘壊しちゃって」
 タオルと温かいココアを器用に右手に持ちながら、左手でドライヤーを持った彼は、申し訳なさそうに言った。店の奥、彼はいつもの居場所の横に小さな椅子を置いてくれて、私をそこへ座らせてくれた。タオルとココアを受け取ると、甘い匂いが鼻を掠めた。彼はドライヤーのスイッチを入れて、その熱を本に吹きかけた。ドライヤーのごぉー、という音がセピア色の中に響いた。
 かび臭い匂いがする店内をぐるりと見渡すと、今までにない発見がたくさんあることに気づく。黄ばんだ本の背表紙が不揃いに前ならえをしていて、旧漢字で表記されたいかにも難しそうな哲学の本の横に、「素敵な奥様今晩のおかず」なんていうカラフルな料理本が並んでいる事。壁にえらく達筆な厳つい文字で貼られた「本は友達」という手作りの標があるという事。
「それ書いたのじいちゃん」
 彼は、視線を本から離さずに言った。その涼しげな目は、周りを見ていないようでしっかりと見ている。カップを持つ指先が熱くなる。顔を標語に向けながらも、私には彼の動作が手に取るようにわかる。彼は、あの華奢でごつごつとした指でドライヤーを小刻みに揺らしながら続ける。
「つい最近、死んじゃったけど」
 思わず彼を見た。
「頑固でさ、いつもむすっとした顔でここに座ってたんだ」
 彼は今まで以上に柔らかく笑った。横顔が凛として見えた。私は、何か言葉を探そうと地面に視線を泳がせ、焦点が合った先の柱に、落書きを見つけた。下手で稚拙な落書き。古びた柱の低い位置に小さく青いマジックインクで描かれた絵は、しわしわの誰かの顔。時が経つにつれ色が褪せたのだろう。所々消えかかっている。私は、そこに彼の欠片を見つけた気がした。
「よし、乾いた」
 かちっ、という音に振返ると、彼はドライヤーを片手に顔をしかめてしばらく本を睨んでいた。本は、めくるとバリバリッ、と煎餅を砕くような音が出るほどハードな仕上がりに変身していた。彼は、苦笑いを浮かべて「これじゃあ売れない」と肩をすくめ、リザーブシートの下に、細長い身体を屈めて一冊取り出し、私の前に置いた。
「お金はいらない。これと同じ本なんだけど、こっちのは改訂版だから、削られてる箇所がいくつかあるんだ。だから内容が微妙に違くなっちゃってるんだけど」
 煎餅本と新しい本を並べ、交互に見比べながら彼は説明した。私は、しばらくほうけていたが、言葉の意味を理解すると首を横に振った。
「そんな、いいです」
 新品同様の綺麗な本の隣に、あの不細工な本が、飴色の照明にさらされた。微かにつく陰影が、本を浮かび上がらせる。彼は、ドライヤーを持ったまま不細工な本を軽く撫でた。その指先を見ていたら、息が苦しくなった。
「よかったら…これ、ください。こっちがいいです」
 彼は驚いたような顔をした。そして、私と本を交互に見ると、本を指先で軽く弾き、キリンのような首を撫でながら嬉しそうに微笑んだ。
 店を出て、傘をさした。彼は、「やっぱり傘も弁償する」と言ってくれたのだが、私はそれをどうしてもと断った。灰色の空にぽっかりと浮かび上がった歪な赤い円を誇らしげに掲げて、それじゃあ、と緩い坂道を数歩、駅へと進んだ。
「…あの」
 振り返ると、彼は「?」を浮かべた顔で私を見た。どうにかして言葉を吐き出そうとした瞬間、息の仕方を忘れた。まるで、あの日のように。彼は、「ん?」と、言う感じで、なかなか切り出さない私の言葉を、傘もささずに待ってくれていた。身体が熱い。傘の柄をぎゅう、と握りしめ、少しだけ爪先立ち、心なしか前屈みになる。口を開いた。

 雨が降る。彼は、「え?」と、聞き返した。ばたばたと傘を叩く雨粒の音が耳に響く。アスファルトが、鈍い光を反射した。私は、彼の顔をはじめて真っ直ぐにとらえ、深く頭を下げると、緩い坂道を歩きだした。傘の先から滴る雨粒が、風をきる私の後方へと流れていく。景色に、仏頂面で本をめくる彼の姿が浮かんだ。思わず口元が緩むと、鞄に詰めたかび臭い匂いと、微かな温かさが、悪戯に胸をくすぐった。

瓜屋 香織 批評8/いつか誰かが思ってたこと 2004年10月13日(水)18時10分19秒
▼課題と連絡:批評課題8/菊池佳奈子「音の箱」批評 への応答

【ここにいるから】

「自分が嫌い」と 笑顔で泣く君
そんな悲しい目をして笑わないでよ

「君が好きさ」と 僕が言っても
君まで届かない まだ君まで響かない

「夜が怖い」と 憂鬱な目で
孤独を怖がる 寂しがり屋で

「人が怖い」と 泣き出した僕に
君の声は届いたから あの日 君の声は響いたから

「君が好きさ」 「僕がいるよ」

僕の想いが 君に届くまで
ここにいるから 僕はここにいるから

 ○誰かにこういうことを言ってもらえる、もしくはこういうことを言ってあげたい誰かがいる、そういう人ってこの世の中で、どのくらいいるのだろうと思いました。

【存在】

誰か
私の悲しみを否定して下さい

この酷い想いを
この陳腐な考えを
その根底にある 存在不安を

否定して下さい

私はここにいて良いのだと
私はここにいるのだと

誰か 教えて

 ○「私はここにいて良いのだ。」と誰かに言ってもらう、もしくは思ってもらうために、明日も明後日も生活しているような気がする日があります。


【紡ぎ歌】

きれいなことばを吐きましょう
どんなにみにくい私でも
つむぐことばがきれいなら
少しはきれいに見えるやも

きれいなことばを吐きましょう
どんなにみにくい感情が
ことばの裏にあったとて
ことばの面のきれいさに
ごまかされるやもしれません

きれいなことばを吐きましょう

きれいなことばを吐いたなら
こんなに醜い内側も
いずれきれいになるやもしれぬ
いずれきれいになって欲しいと

きれいなことばを吐きましょう

 ○人からは、内側はなかなか見えないものだから、表面だけきれいにしておいたらきれいにみえるかもしれないけど、なんだかさみしい。けれど、本当に大切なのは、みにくくてもきれいになってほしい、と願う心かもしれないな、なんて思いました。

【ほんとう】

この世界 正解なんてないけれど
僕に見えるもの
僕の耳に届くもの
僕が思うこと
僕に触れた君の手や
昨日 君と見た花火が とてもキレイだったとか
そんなことが
いちばんのほんとう

 ○ほんとうのことは、ひとの数だけあるのかもしれない。だれかのほんとうは、じぶんかもしれない。なんてことを考えました。


【ん】

私が小声でささやくと
あなたは少し目を細め
「ん?」とひとこと
やさしくたずねる

私が好きよと泣き出すと
あなたはつられて泣きそうで
「ん」となんども
やさしくうなずく

私が別れを伝えると
あなたは全てわかったように
「ん。」と一度
終わりを告げた

 ○実際の場面が思い浮かぶというよりは、言葉でつくられる世界がひろがる感じがしました。全体から、やさしいかんじが漂っていて好きです。

 菊池さんの作品は共感するものが多かったです。
誰もが心の中に思いながら、ながしてしまう感情を言葉の中に残している気がしました。

野島明菜 批評8/私に響いた詩を選びました。 2004年10月13日(水)16時14分53秒
▼課題と連絡:批評課題8/菊池佳奈子「音の箱」批評 への応答

【ここにいるから】

「自分が嫌い」と 笑顔で泣く君
そんな悲しい目をして笑わないでよ

「君が好きさ」と 僕が言っても
君まで届かない まだ君まで響かない

「夜が怖い」と 憂鬱な目で
孤独を怖がる 寂しがり屋で

「人が怖い」と 泣き出した僕に
君の声は届いたから あの日 君の声は響いたから

「君が好きさ」 「僕がいるよ」

僕の想いが 君に届くまで
ここにいるから 僕はここにいるから

批評:「響く」という言葉がすごくきれいだという事に気付かされました。タイトルにその言葉を入れたほうが、この詩に合うかも。「夜が怖い」といったのは彼女?それとも僕?

【手紙】

綴じた封筒
わたすことができなくて
あの時言いたかった
ごめんなさいと
ありがとうは
今もピアノの上
時を止めたまま

批評:最後の一文はゴロが合わない気がします。だけど内容に共感できるのでこの詩が好きです。

【ナイフ】

「赤い屋根の
 白いお家で
 茶色い犬をかうの
 それが夢なの」
カラフルな君のナイフ
となりの男の子につきささった
君は満面の笑みで
彼の鮮やかな血に気づかないから
思わず指差して
ゲラゲラ笑ってしまった

批評:なぜナイフがつきささったのか意味が分からないけど、「カラフルな君のナイフ」という言葉がすごく美しくて格好いい!ひと目惚れじゃなくて、ひと耳惚れしちゃった!ゲラゲラという笑い方も下品で好きだなぁ。

【モノトーン】

僕のモノトーンの世界を
まるで魔法のように
鮮やかに彩る君の指
色とりどりの世界を
この手のひらに

批評:魔法、鮮やか、彩る。この言葉は色とりどりの世界をほんとイメージさせてくれます。きれいで好きだなぁ。タイトルを「モノトーン」にするならば、僕についての文章をもう少し付け足してもいいかも。

【おしまいの音】

私の中に
脈々と流れる旋律は

君に合わせて
彼に合わせて
あの子にあわせて
空にあわせて
風にあわせて
お日様にお月様に あわせて

テンポを変えて
リズムを変えて
時にハーモニー
時に独奏
移調転調
B、F、C、G、

終止符知らず
たまにリピート
コーダはまだまだ
先のこと

あらゆるものに共鳴しながら
身体をめぐり 欠片を唄う

この身体朽ち果てるまで。

批評:人生を詠ってる感じがいいですね。「独奏」「終止符知らず」という部分が、共感できるので好きです。作品全体のタイトル「音の箱」もすごくきれいな響きが聞こえてきそうな感じで好きだなぁ。 

雨宮弘輔 批評8/言霊の幸ふ所 2004年10月13日(水)16時14分28秒
▼課題と連絡:批評課題8/菊池佳奈子「音の箱」批評 への応答

【鐘】

黒い人の群
白い人の群
誰がために鐘は鳴る

君のため
彼のため
あの子のため
誰がために鐘は鳴る
誰がために我は在る

〇<人の群>に色をつけているところが衝撃的でした。「十人十色という言葉はあるけれど、群れになってしまえば皆同じ」という印象を受けました。『群』って、それ自体が一つの思想を持っているような存在に思えて、不思議ですよね。
ついでにこれを読んでいて、ヘミングウェイ原作の『誰がために鐘は鳴る』の映画を観たくなりました。

【印】

ピアスをプレゼントするので
耳につけていてください。
ゆびわをプレゼントするので
薬指につけていてください。

僕がいない間も
身につけておいてください。
僕がいない間にこそ
見せつけておいてください。

それは僕のハンコです。
「僕のもの」という
印です。

○人にアクセサリーを渡すことって難しいですよね。趣味の問題もありますけど、渡された人が、そのアクセサリーを身に着ける度に自分のことを思い出しそうで、気が引けます。でも、やっぱ好きな人には「何か印を付けたい」という願望が沸いてきますよね。なんて言うか……汚したい欲望? あっ、それはちょっと違うか。

【ストマックエイク】

『ぐちゃぐちゃ』
『どろどろ』
『わけがわからない』
『もう駄目だ』

弱音で膨れた腹が痛い

○最後の一行が新鮮でした。あまり聞かない言葉だから。でも、共感を呼びます。
弱音は『甘え』を求めることに似ています。「弱音って、お菓子と一緒で時には必要ですけれど、求めすぎるとお腹を壊す」という考えを起こさせてくれる作品です。


【Happiness】

Always Mummy said,
"I love you, Baby,
I love you.
So U must be happy!"

Oftentimes Daddy said,
"I love mum, and
She love you.
So U must be Happy!"

Sometimes Grandma said,
"I love dad, and
He loves mum, and
She loves you.
So U must be HAPPY!"

『人に愛されることは、幸せなことだから』

I must be happy...HAPPY?

○COCCOの曲を思い出しました。名前は忘れてしまったのですが、豚を屠殺する曲です。
家族の愛って無条件で保障のあるものだと、よく言われますが、それって見方によっては怖いことですよね。そんなことを思い出しました。<人に愛されることは、幸せだから>という箇所も、自分が幸せであることに疑問を持たせてくれる文で好きです。


【LIE】

痛みの数だけ優しくできる なんて
なんて酷い嘘

うけた痛みの分だけ
人は必ず傷つくはずで
傷の深さの分だけ
人は苦しんでしまうのに

もし君が傷ついた分
僕に優しいのだとしても
なにも嬉しくはない

泣いた分だけ優しくなれる なんて
泣かせた誰かの
酷いまやかし

○傷ついた分だけ優しくなれる人もいますけど、僕は傷ついた分だけ他人に厳しくなってしまう人しか知りません。「優しさ=厳しさ」とは思えない厳しさです。
「本当に傷の人は深さだけ、優しくなれるのか」という疑問に<酷いまやかし>という結論をつけた部分が印象に残りました。ついでに僕は、傷ついた分だけ優しくなれる人間が、どこかで存在することを信じています。

 露木さんも述べているように菊池さんの詩はストレートなものが多いと感じました。メッセージ性が強いということではなく、言葉が具体的で文芸的な部分からかけ離れていってしまうのが、個人的に惜しかったです。でも、五十音で一つひとつ詩を創るのは、大変な能力と労力がいることだと思います。凄いことですよね。あの蜷川幸雄も『オイル』という劇で同じようなことをやっていたのですけれど、それに衝撃を受けた記憶があります。
 最後に、普段あまり詩を読まないせいか批評が難しかったです。批評というよりも感想になってしまいましたね。もし的外れな意見を述べてしまっていたら、ごめんなさい。『詩』というものは、どこに注目して読むものなんでしょうか? 未だにわかりません。今度、皆さんに訊いてみたいと思っています。


越智美帆子 批評課題8/淡々とした物語の数々 2004年10月13日(水)16時04分00秒
▼課題と連絡:批評課題8/菊池佳奈子「音の箱」批評 への応答

【ストマックエイク】

『ぐちゃぐちゃ』
『どろどろ』
『わけがわからない』
『もう駄目だ』

弱音で膨れた腹が痛い


「弱音で膨れた」というのが、とてもおもしろくかつ頷いてしまうような言葉で、その的確さにはっとしました。

【軒下】
激しい雨に
ぐっしょりやられて
げっそりなって
雨宿り

遠くのほうから
走ってくる君
ぐっしょりで
からっと笑顔で
こんにちは

やあやあひどい雨ですね
まったくひどい雨ですね
いったいどちらに行かれるのです
私は私へ
君は君へ

どうやら大分やんできたのか
私の行く先 雲間が見えた

ではこのへんで
どうかお元気で
君よ どうかお元気で

激しい雨の中
もう一度足を踏み出した


これはとても好きです。短いのにちゃんと物語のようになっていて、言葉の単調さも雨の中という陰鬱な背景にマッチしているように思えます。

【メール】

君に出したメールの返事を
待ってる自分が歯がゆくて
そっと指で 電源を切る。


こういうことってある! と思い選びました。待つもどかしさに耐えきれない夜ってありますよね。

【モノトーン】

僕のモノトーンの世界を
まるで魔法のように
鮮やかに彩る君の指
色とりどりの世界を
この手のひらに


菊池さんのサイトにもこの言葉がありますが、それを見たときから「おお、すごい!」と思ってました。モノクロの世界が他者の指によって彩られる。他者への依存のようにも思えますが、それほどその「君」を愛おしく思っていることが感じられます。

【LIE】

痛みの数だけ優しくできる なんて
なんて酷い嘘

うけた痛みの分だけ
人は必ず傷つくはずで
傷の深さの分だけ
人は苦しんでしまうのに

もし君が傷ついた分
僕に優しいのだとしても
なにも嬉しくはない

泣いた分だけ優しくなれる なんて
泣かせた誰かの
酷いまやかし


共感しました。傷ついた人間が優しくなれる、というのは諦念がつくりあげた幻想です。そう思わないと悲しすぎるじゃないか、というような。感情に直視することは、痛みをえぐり出すという厳しい作業になりますが、そうすることで癒されるものもあるはずです。



加賀麻東加 批評8/100%自分好み選択 2004年10月13日(水)15時44分09秒
▼課題と連絡:批評課題8/菊池佳奈子「音の箱」批評 への応答

 批評の順番は印象に残った順とさせて頂きました。
 全体的な感想は、物凄く印象に残った詩と、さらりと流してしまう詩との差があると感じました。
 だからこそ自分好みの詩が余計に目立ち、菊池さんご本人とはまた違う意味合いや気持ちだとは思いますが、共感出来た詩や何だか泣きそうになる詩もありました。
 個人的に、どうしてここでこの言葉を入れたのだろうと気になり、良い言葉が中にあるにも関わらず選択からはじいた詩もありました。
 例を挙げると【モノトーン】の場合。

僕のモノトーンの世界を
まるで魔法のように
鮮やかに彩る君の指
色とりどりの世界を
この手のひらに

 率直に素晴らしいと思いました。
 色の無い世界にこの短い文で一気に鮮やかなイメージが頭に浮かび、魔法の世界のようなものを想像出来ました。
 だからこそ「君の指」が気になってしまいます。
 世界という大きなスケールの中、指という単語は小さい気がして不釣り合いに思えました。こだわる理由があるとしたら構わないと思いますが、意図を是非知りたいです。

 そして読んでいくと、全体的な特徴というか菊池さんカラーが見えた気がしました。
 「囚われる」「お日様」「花火」などの単語が目立つ事、そして「私」ではなく「僕」をほとんど使う事などが特徴でしたが、菊池さんが好きな言葉なのでしょうか。勘違いだったら申し訳ないのですが、【浴衣】とかは実話に感じました。もし実話だったら、もっともっとリアルに出来るはずですし、そうでなくても【浴衣】に関してはもっと泣ける詩に出来ると思いました。(偉そうに…)
 では選んだ五作を。

【鐘】

黒い人の群
白い人の群
誰がために鐘は鳴る

君のため
彼のため
あの子のため
誰がために鐘は鳴る
誰がために我は在る


 初めて読んだのが確か結構前?確か六月頃。
 「誰がために鐘は鳴る 誰がために我は在る」のフレーズが格好良くて、実はこのフレーズが今日の今までぼんやり頭に浮かぶ位印象に残った詩です。私の中ではダントツでした。とにかく格好いい。私の頭には浮かばない文です。すごいと思います。何か、昔っぽい渋い詩だなぁと感じました。
 昔といえば、ゲームで確か「カエルのために鐘は鳴る」だったかなぁ?そんなゲームがあったと思い出しました。

【無色透明】

みんなみんな『個性』という枠に囚われて
自分を青や赤や黄色に やたら染めたがるけれど
その中で 己を透明だと嘆く君は
僕の目に強くまぶしく こんなにも鮮やかなのに


 目立つ!すごくいい。
どんな詩よりもひと際光ってますよ。
 透明という単語をうまく使い、更に詩全体を美しい印象に仕上げてます。
 「みんなみんな」と繰り返した事、「鮮やかなのに」の「なのに」で終わらせたとこを知りたいです。

【未来】

なにが正しくて
なにが悪いのか
そんなことひとつもわからないけれど
この先の道を
選んで掴み取っていく
それは私のこの両手


 シンプルでいいですねー。
進路ややりたい事が分からずに昨日は考え事をしていたので、丁度共感出来る詩。
 【未来】の前後の詩とはまた違うから、何か目立ちますね。


【ほんとう】

この世界 正解なんてないけれど
僕に見えるもの
僕の耳に届くもの
僕が思うこと
僕に触れた君の手や
昨日 君と見た花火が とてもキレイだったとか
そんなことが
いちばんのほんとう


 これ泣きそうになりました。
 詩の内容とは関係ないけれど、片思いをしていて、なかなか会えないし気持ちも届かない時や恋で切ない思いをしている時にこれを読むと、多分、ぼっろぼろ泣けて来ると思いますよ。好きな人の大きな手や、ささいな会話さえも愛おしいと思う事実はほんとうで、そしてずっと一緒にいたいと想うこともほんとうなんだろうなぁ。

【晴天】

見上げたら
空はどこまでも青く青くあって
其れは変わらずに遠く広くあって
それだけで僕は…

本日は、晴天なり。


 きれい。これが印象。
 菊池さんの詩は色を出すものが多く、中でもこの詩は自分の一番好きな水色を放っていたので選びました。詩に色を持たせる事が出来るのは菊池さんの良さだと思います。
 夏に何度も見上げた真っ青な青空を思い出させてくれた詩です。

 普通にこれだけの詩を書いて、すごいなぁという感想が一番です。
これからも頑張って下さい!





松本紗綾 批評課題8/受け手送り手 2004年10月13日(水)15時20分28秒
▼課題と連絡:批評課題8/菊池佳奈子「音の箱」批評 への応答

【ここにいるから】

「自分が嫌い」と 笑顔で泣く君
そんな悲しい目をして笑わないでよ

「君が好きさ」と 僕が言っても
君まで届かない まだ君まで響かない

「夜が怖い」と 憂鬱な目で
孤独を怖がる 寂しがり屋で

「人が怖い」と 泣き出した僕に
君の声は届いたから あの日 君の声は響いたから

「君が好きさ」 「僕がいるよ」

僕の想いが 君に届くまで
ここにいるから 僕はここにいるから

最初の2行がグッと来ました。もし、目の前の人が笑顔で泣いていたら、悲しい目をして笑っていたら・・・と考えると、なんともいえない気持ちになり。もし、自分が必死に笑っているとき、そんな言葉を言われたら・・・と考えると、これはこれでどうすればいいのかわからなくなる。

【存在】

誰か
私の悲しみを否定して下さい

この酷い想いを
この陳腐な考えを
その根底にある 存在不安を

否定して下さい

私はここにいて良いのだと
私はここにいるのだと

誰か 教えて

相手に言われたい言葉がある上で、問う。言ってくれるだろうと信じているからこそ、問う。その言葉を言われたら妙に安心しきって、言われなかったら・・・。

【道化】

みんなのまえで
ぼくがじょうずにわらえたら
閉じた右目
まぶたにそっと
哀れみのキスをください

最初の2行がかなのみで構成されていて、最後の3行には漢字も使われている。その違いが、表と裏のように感じ、「ぼく」についていろいろ考えさせられた。私なら、4行目にも漢字を入れただろうなと思った。(まぶた→瞼など)

【ほんとう】

この世界 正解なんてないけれど
僕に見えるもの
僕の耳に届くもの
僕が思うこと
僕に触れた君の手や
昨日 君と見た花火が とてもキレイだったとか
そんなことが
いちばんのほんとう

正解と、ほんとう。似たようなモノかと思いきや、それらは違うモノなんだと気付かされた。改めて、言葉の魅力を教えられた。

【約束】

毎日スケジュールを埋めて
約束と約束を
繋ぐように生きる

終わることのない約束に
うんざりして
約束がなくなってしまうことに
おびえながら

誰かに囚われながら生きる
そんな君が悲しくて

少しは自分のために生きてもいいよと
伝える為に
僕はもう一度 約束をする

最後の1行が選ぶ決め手となった。彼らの関係や、彼らの背景など勝手に想像しては思わず笑顔になってしまった。

真っ暗な影があるからこそ、そこに光が差したとき明るいと感じ、自分以外の人がいるからこそ、嬉しくなったり悲しくなったりするんだと全部を通し思った。表があるところには必ず裏はある。

■一つ前の過去ログ:「物語の作法」課題提出板 (0042)


管理者:Ryo Michico <mail@ryomichico.net>
Powered by CGI_Board 0.70