▲2011年09月の時の破片へ


■31 Aug 2011 ひとにぎりの塩


ひとにぎりの塩
           作詞:寮 美千子
           作曲:谷川 賢作

潮の香りが こんなに なつかしいのは 
いつか かあさんの お腹のなかの
小さな海に いたから

波の音(おと)が こんなに なつかしいのは 
いつか かあさんの 胸の鼓動
ずっと 聴いていたから

人は 遠い昔 海に生まれた命
赤い血潮に いまも
波が 打ち寄せている

人は はるか昔 陸(おか)に上がった命
ひとにぎりの塩が
この命つなぐ 

人は 時を超えて 海を抱(いだ)いた命
ひとにぎりの塩が 
人の心つなぐ つなぐ つなぐ


映画「ひとにぎりの塩」公式サイト
映画「ひとにぎりの塩」公式ブログ

能登半島の塩田のドキュメント映画「ひとにぎりの塩」が10月に金沢で公開されるが、その音楽を作曲家の谷川賢作さんが担当し、エンディング曲を金沢ジュニアオペラの子どもたちが歌うという、という。「それならわたしに書かせて」と強引に頼みこみ、金沢滞在中にホテルでラッシュのDVDを見て一晩で作詞。その曲が早くも完成!子供たちが歌うのが楽しみ。9/17には、金沢で聞ける予定。

追記:監督とプロデューサーが激しく感動し、映画主題歌に格上げされた!録音後はぼろ泣き。


■ 5 Aug 2011 すべてがいとしく思えた不思議な午後


京田辺での「ふるさと怪談」の帰り道のことだ。急に不思議な気分に襲われた。なんだかすべてがいやにやさしく、きれいに見えるのだ。車窓から見える緑の大地や古い家並みはもとより、駅を降りて歩いた東向き商店街の雑多な風景も、なんだかすべてがいとおしい。町を歩く人々、働いている人々、子どもも若い人も年老いた人も、みんな切なくなるほどいとおしい。

なぜだかわからないけれど「すべてを許せる」という心持ちになった。世の中には許せないことが山のようにある。津波の被災地の今後を、政府はどうするつもりだ。原発依存のエネルギー政策をどうしていくつもりだ。なぜこんな世の中になってしまったのか。経済人も為政者もひどかった。民衆もその暴力を「無関心」により看過してきた。クソッタレな世の中だ。

この世界は、911と311を経て、どこへ向かおうとしているのか。よき世界を目指そうという志はあるのか。アメリカには反省がなかった。戦争は止まらない。日本は? 日本はどうなるのか? どうしたいのか? どこへ着地するのか? それを見届けたい。見届けて死にたい。まっとうな方へ歩もうと努力する姿を見て安心して死ねたらいいが、その努力虚しくまたもバカバカしい愚劣な結果となり、絶望して死ぬのかもしれない。あるいはまたその行方定まらぬうちにわたしの寿命が尽きるのか。いままで、そう思っていた。

それなのに、なんだかすべて許せるように思えてきた。クソッタレなバカヤローも含めて、みんな許せるような気がしてきた。

ああ、死期が近いのかもしれないな、と思った。いままで、この世界の行く末を見て死にたいと思っていたけれど、こうやって生きているすべての人を愛しいと思えるなら、いまここで死んでも構わないのかもしれない、と思った。

そんなふうに感じたのは「ふるさと怪談」で青森在住の作家・黒木あるじ氏が制作した震災レポートの映像を見たからかもしれない。いままで、震災の映像は何度となくテレビで見てきたけれど、黒木氏のそれは違った。まるで自分自身がその場にいるように、その風の匂い、皮膚感覚まで伝わってくるような映像だった。それは報道ではなく、黒木氏自身が受け取ったそのままの「心に映った風景」だったからかもしれない。

根こそぎ持っていかれる。家も職場も、家族も友人も。町を丸ごと持っていかれる。そこにはいろんな人がいただろう。ささやかに暮らしていた善良な人々もいれば、悪い奴もいただろう。そのすべてが一瞬に持っていかれる。

その風景を見たから、いまここにある「日常」が限りなくいとしく思えたのか。

そして思った。わたしは生きている。ならば、やはりこのクソッタレな世界を、少しでも美しいものにするために生きなければならないと。すべてを許せる。みんなみんないとしい。いとしいからこそ、無関心な心と醜い心が生みだす悲しいこと、おぞましいことを少しでも消滅させ、美しいものを見ることのできる世界に近づけたい。

間違ったこと、非道なことに対して、怒りに肩震わせるのではなく、声高に叫ぶのではなく、ふんわりと微笑みながら「それは違いますよ」「それは間違っていますよ」と、言いしたい。静かに声をあげていきたい。人の心に、深く深く届く声を。

怒りから解放された、不思議な午後だった。


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