▲2005年07月の時の破片へ


■21 May 2005 「鎌倉ビーチコーマーズ」の会で陶片の館へ


漂着物学会のML参加者「鎌倉ビーチコーマーズ」の5月の会合で、鎌倉に行く。集合は3時半。そのまえにビーチコーミングをと、少し早く出て、小田急江ノ島で降り、江ノ島東浜から腰越漁港を超え、七里ヶ浜を歩いた。収穫はささやかな陶片とビーチグラス。七里ヶ浜には、たくさんの海牛とその卵である海ソーメンが打ちあがっていたが、これは拾わなかった。

海藻も山ほどあり、テングサ集めをしている女性がいたので、どれがテングサなのか教えてもらった。図鑑にも書いてあるが、見分けがむずかしい。要点は次の通り。
・茎や葉の平たいものがテングサ。丸いのは別種。
・色が少し紫がかった上品な色ものがテングサ。鮮やかな赤は違う。
・細かい木の枝のようになっているものがテングサ。
 葉の端が、きれいに切りそろえたようになっているのは別種。
午後3時半、集合場所の生涯学習センターに行ってみると、机を囲んで怪しい物々交換をする一団が。机の上には、砂まみれの馬?の大きな骨。さすがビーチコーマーズの面目躍如。みな、集合時間前にそれぞれ海岸を一巡りしてきたようだ。

メンバーは、山田海人さん、逗子の服部陸男さん、エマさん、そして武州博物館という個人博物館の館長さんである白井孝昌さんとわたし。集合したところで、バスに乗って九品仏に向かう。九品仏から山の方へとちょっと迷いながら歩くこと15分。ようやく本日の目的地、T山さんのアトリエに到着。

アトリエは、材木座の海岸を一目で見渡せる山の上の、茅葺きのゆったりと大きな古民家。ご主人は陶芸家。そのご夫人が10年来、鎌倉の海岸で陶片を拾ってこられた方なのだそうだ。陶芸家の妻だけあって、きっと詳しいに違いないと期待が高まる。

ご夫人が出迎えてくださったとたん、わたしの顔を見て「あら、以前お目にかかりましたわね!」 わたしも、思い出した。数年前、材木座で陶片を拾って歩いていたら、同じく陶片を拾っている方がいて、どちらからともなく声をかけあった。ポケット中の砂まみれの青磁の欠片を見せてくださって「家には、もっとすごいのがいっぱいあるのよ」とおっしゃった、あの方ではないか! 蛇の道は蛇。あの時、見てみたいと心から思った陶片の館に、わたしはそうとは知らずに、足を踏み込んでいたのだ!

富士山を見るためにわざわざこの山の上に移築したという古民家の座敷に座ると、白井氏が「わたしはこんなものを持ってきたのですが」と、鞄から青磁の欠片を取り出した。すると、自己紹介もそこそこに「わあっ」「きゃあ」などの声があがって、座は既に興奮のるつぼ。さらに、奥の間の座敷いっぱいに置かれた箱に、無造作に詰めこまれた山のような陶片の数々を拝見させていただき、われわれは、金銀財宝の洞窟に迷いこんだ探検家さながらに、くらくらとしてしまった。

「これが白い粘土の象眼模様のあるもの」「こちらは黒い粘土の象眼」「蓮華紋の彫りがみえるでしょう」などなど、すばらしい陶片にため息が出る。やはり、美しいものは、欠片になってもすばらしい。「偽物の青磁のお茶碗より、小さな欠片ひとつのほうが、ずっと気品があって、凛としているでしょう」とご夫人。ほんとうに、その通りだ。

「欠片のいいところは、中の粘土の色や厚さ、釉薬の厚さなどがわかるところです。完品は、割ってみるわけにいきませんから、中の様子がわからない。断面を知ると、その時代の技術の高さなどが、手に取るようにわかるのです」とのこと。そうやって、構造を知った後に、骨董屋などで青磁を見ると、すぐにそれが本物か偽物か、判定できるようになるとのこと。なるほど。

ひとつの欠片だけ見たのではわからないが、今回のように数多く見せていただけると、なんとなく、本当に古い時代の青磁と、そうでないものの区別が、わたしにもおぼろげながらつくようになった。いいものを数多く見る、ということは、それだけでほんとうに勉強になる。古い青磁片を見分ける要点は以下の通り。
・つるつるとやたら光るものは新しい。
・古いものは手触りがあたたかい。新しいものは冷たい。
・釉薬が厚がけしてあるものは古い。
・中の土が灰色のものは古い。白いもの、青いものは新しい。
・きれいに貫入のはいったものは古い。古くても貫入のないものもある。
そうこうしているうちに、外はすっかり夕暮れ。すばらしい陶片の数々をすっかり堪能させていただいて、心満ち足りて帰路に向かった。

わたしには、目も眩むようなお宝の山。しかし、万が一、泥棒がはいったしても、たぶんお宝には見えないはず。「なんだ、これ?」ときょとんとしている泥棒の顔が思い浮かんで、帰りの電車で思わず一人笑いしてしまった。夢に見た陶片の館を訪れることができて、夢のように楽しい一日。みなさんに、感謝!

▼2005年01月の時の破片へ


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