■物語の作法ホームページへ ▼「物語の作法」雑談板へ ▼課題と連絡へ ▼うさぎアンテナへ
雨宮弘輔 課題10/意欲「マイナス」から 2005年01月12日(水)15時51分29秒
▼課題と連絡:課題10/なぜ書くのか? そして二十年後 への応答
【なぜ創作を志したのか】
「なぜ書くようになったのか?」
その過程を語るためには相当な文章量が必要になってくる。だから、今回、自分が書くことへの持続力となっている出来事の一つを記し、簡単にまとめていきたい。色々とした出来事が複雑に絡まり合って、僕をパソコンの前に座らせる動機をつくらせている。それが一人の人物を通して、少しだけでも見えてくればいいと思っている。
僕の通っていた高校では『文芸』という選択授業があった。それは生徒が小説や詩を書き、互いに採点しあう授業で、僕は二年間その科目を受け続けた。
書き始めの頃、僕はどちらかと言うと「授業の課題だから」という気持ちでやっていた。今考えてみれば、前述されている『物語の作法』の受講生の方々とは違い、「書くきっかけ」はあまり能動的なものではなかった。
自主的に書こうとする気持ちになったのは、色んな人達から刺激を受けてからだった。良書を薦めてくれたり、「書きなよ」と言ってくれた人達がいて、ようやく小説らしきものを苦悩しながら書くようになった。
そんな背中を押してくれた人たちの中に、Nさんという女性がいる。彼女とはクラスが違ったが、『文芸』の授業で一緒だった。僕の目には彼女の姿が、絵に描いたような優等生に映っていた。いつも笑っていて、周囲には大勢の友達がいた。おまけに頭も良く、学業の傍らで雑誌やCMのモデルをこなしている。そんな彼女を教室の片隅で見て、漠然と「凄い人なんだなぁ」と思っていた。そう思っているだけで、話しかける気にはなれなかった。
男女問わず自分に自信のある人は眩しく見える。太陽とヒマワリの関係と同様に、Nさんに顔を向ける生徒達もいたが、当時、自分にあまり自信が持てなかった僕は、それを避けた。彼女の放つ光に負けて、チョコレートのようにドロドロに溶けてしまうような気がしていたから。
Nさんと長い会話をした記憶は、二回程度しかない(多分、もっとあると思うが覚えていない)。一回目は、高三の時。冷たい雨が降っていて、彼女が差していた蛇の目の紅色が今でも印象に残っている。
二回目は高校を卒業してから、しばらく経ってからのことだった。
友人のライヴを観に行った時、たまたまNさんもそこに来ていた。満面の笑み。「相変わらず眩しいのかな?」と思いながら話をした。その時、彼女は僕が『文芸』の課題で書いた小説の感想を述べてくれた。発表してから二年ほど経っていたにも関わらず、内容を覚えていてくれたことが凄く嬉しかった。
何かを書くことは、自らの存在を他人の中に残すことに繋がるのかもしれない。そう思った僕は、しばらく休んでいた小説を再び書き始めるようになった。授業の課題ではなく、自分のために書いたのはこの時が初めてだった。
この前、高校時代からの友人と話していたらNさんの話題が出てきて、こういった出来事を思い出した。現在、彼女はブランド・ファッションを立ち上げ、マスコミに取り上げられているという。きっと今でも、眩しい光を放ち続けているのだろう。
【二十年後のわたし】
何十年か先の世の中や、自分のことを予想してみる。しかし、それはほとんど当てにならない、と僕のゼミの教授は言っていた。確かにそうかもしれない。二十二年しか生きたことがない自分にはあまり実感がないが、一日先でも未来を予想することは難しいと感じている。
自分がどうなって、どんなことを考えて生きているのか分からない。でも、愛する人達と何らかの形で繋がっていたらいい、という希望はある。そして現在、身の回りにいてくれる愛する人達や、これから出合う愛すべき人達を、現在のように(もしくはそれ以上に)大切にしていける自分でありたいと思っている。
千田由香莉 作品2B/「檸檬」 2005年01月12日(水)15時10分02秒
「レモン、って漢字で書ける?」
「緊張」という二文字を額に貼り付けて、私は、初めての「講義」に挑んでいた。広い教室…いや、講堂という未知の空間に、自分という存在を小さく感じながら座っていた。周囲の話し声や雑音がやたらと響いて聞えていた。
右耳に、突如として聴きなれない低音が入り込み、ぐるぐると渦巻き模様を描き出す。この声は…どう考えても男の子だ。声のした方向へ恐る恐る目を向けると、見事に的中。いつのまにか、席を横ふたつ空けたところに座っていた黒いシャツの彼は、出席表をトントン、と人差し指で叩いて答えを促していた。“トントン”と紙を叩くその小さな音が、ざわついた部屋の中で際立って響き、まだ制服の頃、進路希望調査書の小さな枠の中に、精一杯の未来を描く私を浮かび上がらせた。
4月。私は大学生になり、これまでの生活は一変した。でも、そこにあったのは、知らない建物、知らない顔、知らない景色、知らない匂い。これまで見ていたものからは、遠く離れた場所のような気がしていた。入学式の帰り道は、新しさを主張するかのように薫る桜の匂いを、複雑な気持ちで嗅ぎながら歩いた。
駅の改札では、ピンコン!と道を閉ざされた。赤いランプの横で、”NO”と受け付けてもらえなかったのは、高校のときの定期券。うっかりしていた。慌てて新しい定期券を探した。鞄にはない。焦ってポケットに手を突っ込むと、発見。あった。突き刺さる沢山の視線と溜息が背中に注がれる。行き先は以前とは全く逆方向。未だ乗り換えには慣れず、やたらと人の多い列車に足をもたつかせながらなんとか乗っている。逃げるように改札を潜り抜け、定期券を新しいものに入れ替えた。
トントン、という音が答えを急かす。
「…書け、ません」
ようやく搾り出した声に、彼はふうん、と言った別段興味がないかのような顔をし、ゆっくりとした動作で頬杖をつくと、机に向き直った。
「え…?」
当たり障りのない「何で?」を投げかけると、彼は黒板を眺めながら
「俺、目悪くて」
と、眠たい目のままで言った。彼の視線を点で繋ぐように辿ると、そこには何やら難解な字が二つ並んでいた。私は、改めて黒板の文字を食い入るように見たが、“檸檬”という漢字であると読めても、やっぱり書けないということに改めて気付かされただけだった。
「すみません…」
「いやいやいや、ありがとう」
彼は、日だまりにいる猫のような目をしながら、丸まった背中を再び黒板へと向けた。この場所にすでに居慣れた感じがした。年上の先輩だろうと思った。いまだに緊張が解けないまま、私も彼にならって前に向き直ろうとしたとき、彼の後ろ髪が少しだけはねているのが見えた。その瞬間、何だか段々と話し掛けられたのが嬉しくなって、何とか会話を繋げようと必死に”つなぎ”を搾り出した。これは、友達を増やすチャンスかもしれない。勇気を振り絞った。そして、
「バラ、は書けますか?」
彼は「?」という顔をした。しまった、すべった。瞬時に体から全身の血が引いていくのが分かった。穴があったら入りたい。今なら絶対顔から火がだせる。そして、数十秒沈黙を置いた後、真剣に考えた様子で彼は、答えた。
「…書けない」
妙な間が滑稽で、思わず噴き出してしまった私を見て、彼は、不思議そうな顔を浮かべながら首を掻いた。自分の、少し堪えたような笑い声がはじめてざわざわの中に聞こえた。回ってきた出席表に目を落とす。彼は「梶井」と言うらしい。そして、同じ一年生だという事が分かった。私はその隣に自分の名前を書き込んだ。
講義は何だか難しい話を延々聞かされているだけのものだった。周囲の反応は様々だけれど、まったく聴いちゃいないというところだけは皆共通しているようだ。寝ている人、机の陰に隠れてメールをしている人。ふと、右隣が気になった。気付かれないように、周りを見るふりをして横目で見てみると、…彼は寝ていた。しかも、私が見た瞬間は決定的で、頬杖が見事にかくん、と外れて、それはそれは漫画のように、それはそれは強力な頭突きを机にお見舞いしていた彼の姿。私の数えた限り、合計3度。尋常な戦数ではない。
終業ベルが鳴り、「長かった〜」と誰もがベルと同時に帰り支度を始めた。そんな言葉を聞きながらそうかな?と首を傾げた。私は不思議と退屈していなかった。
以来、この授業が始まると、決まって彼は、私の視界に存在していた。私は、彼の目の先にあるものを追いかけた。彼の興味の対象は様々で飽きなかった。あくびする猫、きらり、と光る先生の頭。天井、無造作に描かれた机の落書き、窓の外。そして、彼はペンを器用にくるくると回す癖があった。それは決まって講義が中盤に差し掛かる頃で、それが合図であるかのように眠りに落ちていった。
今日は何を見ているだろう。講堂の扉を開けるたびに、何となくそんなことを考える。そして、広い講堂の隅に彼の姿を見つけては、淡い光が灯ったような軽い足取りで、窓側左端を目指し、窓側右斜め後ろに座る。気付かれるか気付かれないかの距離で、いつものように彼の視線を辿っていく。瞬間、胸にどすん、と何かが落ちたような鈍い音をたてた。空席をひとつ空けた前の席。視線の先にあったのは、女の子だった。彼女の手には、文庫本が握られていた。その表紙に、見覚えのある、でも、ちゃんと書く事の出来ない二文字が、濃紺色に浮かび上がった。「檸檬」
指の綺麗な女の子だった。その日、彼の横顔は机に戦いを挑むでもなく、ただ一点を見つめていた。私は、砂埃に晒されたような鈍い気持ちを抱いたまま、ただそれを見ていた。
何だかお腹が痛い。今日の授業はやたらと長かった。ベルと同時に誰よりも先にこの部屋を出ようと出口を目指した。と、私より先に誰かの手がドアノブに伸びた。
「あ」
梶井君だった。
「ああ、」
私たちは特に話すでもなく坂を下った。彼は、ちょっと、と言って駐輪場へ向っていった。彼の猫背を見送りながら、再び、お腹に鈍い痛みを走らせた。しばらくして戻ってきた彼の右横には自転車が。何でもない姿なのだけれど、どうしても彼が”自転車”というイメージとは程遠く、その異様なコラボレーションに笑えた。
「これで毎朝来てるの?」
「うん、そうだよ」
「あんまり…似合わないね」
「何だよぉ」
噴きだす私を前に、そう言って彼は照れくさそうに笑った。
歩きだした足音と、カラカラと響く車輪の音がこそばゆくて、お腹をさすった。すると彼は、ふと立ち止まって言った。
「腹痛?」
思いがけない事に、息を飲んだ私は、思うように動かない身体をようやく動かして、彼と自転車を視界にいれながら、頷いていた。 自転車の後ろに乗るのは何年ぶりだろう。まずは乗り方に困った。あんまりもたもたしてもいられないから、脳内シュミレーションでの試行錯誤の末、結局、とある映画を真似て横に座ることに決めた。
「いくよ」
彼は、蹴りだした足をすぐ元に戻した。何でだろう?と、思うより先に、はっとした。
「あっ、重い?」
今更、ダイエットしておけばよかった。そんなどうしようもない事を考えた。そもそも、こんな場面に遭遇すると分かっていたなら、もう少し考える事が出来たのに…微かに自分を呪いながら降りようとした。
「ん、いいや、そうじゃなくて。ちゃんとつかまってないと落ちるよ」
彼の目線は私の手元に落ちていた。サドルの下を掴んでいた手を、彼の背中に近づけた。
「そうそう、いくよ」
私には心臓の音しか聞えていなかった。地面を蹴り上げると、景色が流れだした。
加速していく。景色は流れていくのに、時間は普段の3倍くらいゆっくりと息を潜めながら流れていくように感じた。私は手に少しだけ、力を込めた。
「梶井君…」
「バラ、って漢字で書ける?」
風が前髪と袖を揺らしていく。背中越しに、彼が笑った。
「書けない」
少しはねた後ろ髪を見つめながら、さっきから呪文のように反芻していた言葉を呟く。
「…じゃあ、レモンは?」
多分、数十秒。車輪の音だけになった。
「書けるよ」
…知ってるよ。
彼の視線の先には、「檸檬」と彼女がいたのだから。通り過ぎた風に夏の匂いを感じた。気がつけば春は終わりを告げ、景色は綺麗な青に染まっていた。生温い風を受けながら、速度を上げて坂を下ってゆく。何だか心地よい匂い。風も、景色も、何もかもが鮮やかに彩られて見えた。
舌の先が、甘く酸っぱい。飴玉のように音もなく縮んで無くなってしまったのに、いつまでも留まり続けて消えない残り香に、鼻の奥がつん、とする。潜り込むように坂を駆けていく車輪の音に耳を傾けながら、ふいに、微かな残り香の味の名前と、書けない漢字の事を想った。
千田由香莉 課題10/「吹けば飛ぶような…だけれども。」 2005年01月12日(水)14時34分34秒
▼課題と連絡:課題10/なぜ書くのか? そして二十年後 への応答
【なぜ創作を志したのか】
この問いには少し困りました。志した、というと「私はこれで!」と腹を括っているような感じがしますが、私のはどうもそれとは違う気がします…。ただ、小さい頃からストーリーが好きだったのかな、と思います。ぬりえやボール遊びよりも、おままごとやきせかえ人形遊びが好きだったんです。本当は人形よりもぬいぐるみのほうが好きだったけれど、遊ぶときの相棒は人形でした。近所の友達と、自分の人形の境遇や性格を好き勝手に設定して、好き勝手に喋って遊ぶのが大好きでした。ちなみに、一番多かった設定は、「両親のいない」というもの。それが多かったのを思い出します。何故なら、母という立場の役だと自由が利かないから。今考えると淋しい設定なんですけど(笑)
「言葉」というものを考え始めたのは、多分高校に入ってからだと思います。小学校の創作のそれとは違う、国語の先生が俳句を作る人で、頻繁に授業で作らされた思いがあります。私にとって俳句は得意ではなかったし、名前を伏せて俳句の人気投票をやったら、一票しか入らなかったという苦い記憶もあります。表現が認められなかった悔しさを目の当たりにしても、何故か「私には向いてないんだ、やめよう」と思うことはありませんでした。(向いてないのかな?と少しは思ったりもするけど)でも、私にとって、していて一番楽しいのが創作や表現で、一番負けたくないと思えるのもまたそれなんです。多分、勘違いや思い込みでここまできたんだと思います。
【二十年後のわたし】
勘違いや思い込みはそのままで、それに上乗せして「志」も抱いていたいと思います。それが私の決意です。あと、人間としては、どこまでも柔らかい人になりたい。「何か、いい」というような、数あるどの言葉を持ってしてもあらわすことの出来ないような「何か」を持った人になりたい。文章にしても、何にしても、決して巧くはないのに惹きつけられてしまうような、そんな技をも越えた魂で描くつながりを持ちたい。そう在りたいと思います。
野島 明菜 課題10/自分を表現したかったからです。 2005年01月12日(水)13時55分18秒
▼課題と連絡:課題10/なぜ書くのか? そして二十年後 への応答
【なぜ創作を志したのか】
私は高校のころまで、文章を書くときは自分が読んでいて面白いと思えるように書いていた。その面白さは、ガハハと笑える面白さであったり、ジーンと感動できるものであったりしていたかった。そして読み手を惹きつける作品を目指したかった。だから、文中の言葉使いも、自分の個性がだせるように変わった言い方をするように心がけていた。変わった言い方が人を惹きつけると思っていた。
大学に入り、今回の授業で文章を書いているときは、自分の思ったまんまをストレートに書いていた。言葉を遠まわしに言ったり、飾りたてることが面どくさかった。だから、創作したというよりも自分の思った事を吐き出したという言い方のほうが正しい。だから、読んでいる人は理解に困ったと思う。説明的な要素がひとつもないから。また読み手の気分を害する場合もある。
読み手を気にしないで文を書き、それをアップすることはいいことかわからないが、どんな文章であれ、「表現」だということは間違いない。唯一無二の「表現」。
【二十年後のわたし】
結婚をして、子供がいたらいいなと思う。仕事も持っていたらいいなと思う。そして自分にプライドを持っている大人になっていたい。自分で自分を「いい人間」と思える人になっていたい。
越智美帆子 課題10/ぼんやりと空想する 2005年01月12日(水)13時44分43秒
▼課題と連絡:課題10/なぜ書くのか? そして二十年後 への応答
【なぜ創作を志したのか】
楽しいからです。
小さいころからいつもいつももう一つの世界を空想して、楽しんでいました。他の子がゲームをしたり友達と遊んだり本を読んだりしている時間に、私は空想していました。漫画もアニメも本も大好きですが、やっぱり自分でつくった世界をひたすら考えて時間が過ぎていくのは楽しかったです。一人遊びが上手な子だったのかもしれません。
けれど年をとって周りと協調しなければならない現実を突きつけられ、最近は現実に目を向けるようにはなりました。
現実も楽しいです。友達と遊んだり学校へ行ったり、そういう時間は大切です。実際、パソコンのキーをかたかた叩いて物語を書いている私も現実のものなのだし。
モノを書いているとき、わーっと頭の中でいろんなものが溢れます。次はどうしようと考えなくても自然に話が進んでいきます。ちょっとストップをかけて立ち止まって調整して、また書いて。進まないところは考えて、細かい設定まであれこれ決めて、そういうことをするのが大好きです。
小さいとき、漫画家になりたいという夢がありました。次は弁護士、中学時代は医者。高校時代は美容師。でもやっぱり物語をつくる仕事をしたいなあとぼんやり思い、今に至ります。
【二十年後のわたし】
41歳です。
誰かが産んだ子供を友達数人と一緒に育てているかもしれないし、普通に家庭を築いているかもしれません。小説を書くお仕事は続けています。願わくば、仕事が増えているといいなあ。
もしかするとどこかに就職してるかもしれません。漫画編集者とか。
それから、18禁エロ小説家になってるかもしれません。それとも、SMクラブの女王様になってるかもしれません。
未来に何があるかわかりませんが、きっとニ十年後の私も楽しく暮らしていることでしょう。
高澤成江 課題10/キラキラ感 2005年01月12日(水)13時14分57秒
▼課題と連絡:課題10/なぜ書くのか? そして二十年後 への応答
【なぜ創作を志したのか】
私が何故創作を志したか、実のところ私にもよく分かりません。ただ創造し、それを形にするのが好きなのです。
私はものすごく飽きっぽく、大抵のことが長続きしません。小さい頃から、習い事も、趣味も、バイトもずっと同じことをやり続けてはいられませんでした。始めたばかりの時は気合十分に意気込んでいるのですが、時間が経つにつれて冷めていってしまい他のものに興味を奪われてしまうのです。
その中で細々とですが長年続いたのは物を作ることでした。自分の考えたものが形になるのはとても気持ちが良く満足感があります。私は、文章だけでなく絵を描くことも好きです。その二つはとても似ている気がします。これからも物を造ることは続けていきたいと思います。
【二十年後のわたし】
二十年後の自分。四十二歳でもう立派な大人。ものすごく想像しがたいです。理想としては好きなことをやってご飯を食べれていたいです。結婚もできればしてたいなあ。現在二十一歳の自分が幼い頃からあまり変化していないのだから、予想としては二十年後の自分も甘ったれで我儘で泣き虫な今のままなのでしょう。いつまでも女の子でお姫様気分を忘れずにはいたいと思います。
城所洋 課題10/理解しちまった世界へ 2005年01月11日(火)21時26分32秒
▼課題と連絡:課題10/なぜ書くのか? そして二十年後 への応答
【なぜ創作を志したのか】
もうほとんどをこの掲示板に書いてしまったのですが、もう一度反すうする意味で。
初めて書こうと思ったのは、中学三年の一学期、クラスでの自己紹介の時、以前から作文が上手いというアイデンティティを築いていた自分は、半ば出任せ気味に小説家になるのが夢、と答えた時からだった。
そして時は経って高校一年、作詞をしたり、演劇の台本を書いたりしていたが、そうした中で最も影響されたのが、塾の講師の先生だった。
その先生は小説家だった。
その当時はひどく憧れたものだった。それが例え、本屋でも目にする事は出来ないほど売れてはいない人だったとしても。
ほんの僅か、その人に色々な技術や手法を学んだ。そうしてその冬に、長編を一本書き上げた。それはそれは拙い文章だった。
そうして着実に自分の存在証明を組み上げている最中、運命的な、まさに、こういうのは嫌いなのだが、まるで神様のお告げ、啓示、そう、世界を救え、と、ふと学校の帰り道、自分の頭にそれが降り注いできた。
高校二年の冬だった。
革命的としか言えない。自分はその時、自惚れだが世界を理解した。
この若さで、ここに来て、自分は世界の先駆者になれた気がしたのだ。
それは今も変わらない。それどころか、その欲求は益々強くなるばかりだ。
「分かってない。こいつら、全然分かってないよ」
それを口癖に自分は、今日も文を綴り続ける。
【二十年後のわたし】
親御さんは就職しろと言う。しなければ勘当するとまで言った。それは、社会に出ずして偉そうな口を叩く資格は与えられない、と。
自分の息子を普遍化するのがお好みですか?と、一度は口にしてみたい。
それは、確かに社会勉強も大切だ。少なくとも、一度くらいは社会の歯車を演じてはやる。
でも、無理だろう。自分にはその社会が何たるかを理解している。そもそも、社会云々という概念にすら、懐疑の念を抱くほどだ。
そんな自分が大人しく、無機質な歯車を演じ続けることは無理だろう。少なくとも、そこにいては自由に小説が書けないとなれば、すぐさまそこから抜け出してやりたい。
パンが無ければケーキを食べればいいんだ、という考えかもしれない。
でも、小麦粉と牛乳と卵と砂糖さえあれば、ケーキを作れる自信はある。
そんな自分の二十年後は、想像に難い。ホームレスも有り得る。その願望はあるから。小説が軌道に乗って、しかしその過激さから各所のPTA辺りのシャレの通じない輩に名指しで批判を受けているかもしれない。
あるいはこの世に絶望し、どこかの暗い森の中で夜な夜な木に縄を掛けて、そこに首だけでぶら下がっているかもしれない。
一般の人の幸せという方向には、どう希望的観測を持ってきても入る余地は無いかもしれない。
でも、結末はどうあれ、自分が本当に納得をして、悔いの無い行為をしていたという自信だけはある。自分を貫く事に対しての、自信だけは、ある。
五十嵐 舞 課題10/ 気の向くまま・・・生きる 2005年01月09日(日)23時50分56秒
▼課題と連絡:課題10/なぜ書くのか? そして二十年後 への応答
【なぜ創作を志したのか】
私の創作のきっかけは中学三年時から時たまに綴る詩でした。些細なもので、それは悲しみだったり喜びだったり。ただその時はその時の想いを忘れたくなくて夢中でノートに書きなぐっていたもので、詩と言うのもおこがましい感じのシロモノであり景色やふとした季節の移ろい、本などの自分自身の体験・実感などに触発されて、その時「書きたいというより書かなければ忘れてしまう〜〜」という強迫観念に近い感じのものが多く、それでもそうなるのは気の向いた時でその感情を表現するにいい【言葉】が浮かんだ時にノートに書きなぐっているといった感じのもので作品というより私の生の感情が出ていているただの言葉の羅列に近いと思っています。それも結構身近な知人の死、戦争や災害の報道などがテーマでありその当時の青臭いなりの私の考えが表れているものですが、どうしても詩はかなり内容が暗く重いものになっています。
しかし、やはり人目に晒すほど作品の創作を作りはじめるきっかけとなったのは、とても遅いのですが大学に入ってからであり、俳句の授業を受講してからでした。その先生は古典俳句をやるプロの俳人でその先生に「場を詠む句はうまいし、面白いよ」と褒められたのが私の中に眠る創作意欲に火をつけちゃんとしたものを作ろうという気や人目に晒すへの勇気が起きるきっかけになりました。俳句は私の感性にあったらしくそれが終わってからも時々思うと書いたりしたりしていました。元々、何か書きたいという思いは小さい頃からあったのですが、中々踏み切れず書いていませんでした。それから寮先生の授業に出会い受講することで自分に少し自信が持て、俳句や詩だけではなくいろんなものに挑戦してみてみる勇気がもてるようになりました。またこれから小説には挑戦しようと思っています。たぶんこれからも何らかの創作をし続けていくつもりです。これが私が創作を志した訳です。
【二十年後のわたし】
それははっきりいって思い描けないですが確実に言えるのは死んでいるか42歳になっているでしょう。仕事や主婦をしているかどうかなど先のことを考えているよりも今を生きるほうが楽しもうというほうが強いせいか、また希望通りになっているかどうかなど甚だ疑問であり、まして何かの創作のプロやそれに関わる仕事をしているかどうかまで私には想像できません。あまりにも私にとってこのテーマは現実過ぎてイメージが湧かないっていいのいかもしれません、まあ計画性のなく学生時代を送っていたからかもしれませんが。それでも、将来に向けてはたぶんそれなりに自分の進みたい方向に進めるよう努力はしていくつもりです。でも、どんな未来だとしても私はマイペースに生きていると思いますし楽しんでることでしょう。また、なんらかの創作活動している未来であって欲しいし続けていたいなと思っています。こんな感じで宜しいでしょうか?
最後になりますが寮さんこの2年間有難うございました。無事にいけば卒業だけは出来ます。その後の予定は未定です。皆さんも一年、いや二年有難うございます。なんらかの形で皆さんが創作活動していくことを願ってやみません。これからも頑張って作品作りをしていってください。では、最後の授業で会いましょう。
菊池佳奈子 課題10/私であるために 2005年01月08日(土)00時17分26秒
▼課題と連絡:課題10/なぜ書くのか? そして二十年後 への応答
【なぜ創作を志したのか】
表現しないとと息がうまくできなかった。
もともと感情を内に内にと閉じ込める傾向が私にはあったのですが、それをうまく人に伝えることができず、感情ばかりが積もっていました。その発散となったのが中学生までは音楽や絵で、高校になってやたら物事をつきつめて考える所謂思春期になってしまった私は、ますます内にこもり、でも音楽も絵も技術がそれに追いつかず、爆発寸前でした。そんなおり授業中に、思っていることの断片をルーズリーフのはしっこに書き始めたのがきっかけでした。それからただ淡々と書き溜めて、やがてサイト運営をしだしてから、ネットに乗っけてみたら、意外と反応してくださる方がいて…それからは意識的に詩を書き始めました。
それ以来創作というのはいつも意図的ではなく、何か私の中に生まれたものを整理したり、言いにくいけれどとても伝えたいことを形にしてみたり、そういった意味合いのものになりました。何かが確実に私の中にはあって、それを表現したい欲求もあって、きちんと満たしてあげないとどうやらうまく息ができなくなってしまうので、ほぼ必然的に表現をしてきました。ようやく最近自分の外へ向かう感情も出てきたし、まだまだ内にあるものもたくさん人に伝えたいと思うようになったので、これからは外へ外へと向かっていきたいと思っています。それは必ずしも創作の形ではないかもしれないし、それでもたぶんずっと何かを作りつづけていくとは思います。
【20年後の私】
20年後。41歳。卒業はどうにかできると思うけれど、就職もできるかわからない。結婚してるかもしれない。意外と主婦をやっているかもしれないし、キャリアウーマンでばりばりに働いているかもしれない。ものすごい駄目なことやってるかもしれない。どんなことをやっていて、どんな状況なのかもわからない。でも素敵な人になっていたい。色んな人に魅力的に見える人になっていたい。自分らしく、生き生きと生きていたら良いと思う。悩んであがいて、それでも諦めないで、20年後もまだまだ進み続けていたい。
圓山絵美奈 課題10/なぜ書くのか?そして20年後 2005年01月06日(木)00時26分22秒
▼課題と連絡:課題10/なぜ書くのか? そして二十年後 への応答
【なぜ創作を志したのか】
私が書き出したのは、いわゆる思春期と言われる時期からです。
いろんな事を考えたり、見なくていいものまで見えてしまって、
それに苦しんだ時があって。そんな自分にコンプレックスを感じていたので
なんとかそれをプラスにできないかなぁと思ったのがきっかけです。
そういう感情があるからこそ、できる事だからマイナスがプラスになるなと思って。
でもそれはほとんど自分のためのもので、人に見せたいとは思わなかったです。
今でも、作品を見られるのは苦手だったりします。作品があまりに「私」なので、
人が人に対して、「この人にはここまで話しても大丈夫」と思うのと
似た感覚かもしれません。だから創作は私にとって「自己満足」でした。
書き出して自分自身確認したり、すっきりするもの。
ちなみに最近は、まったく書けなくなってきました。創作が私にとって
ただの思春期を通過する為の道具なのか、
それともまったく違うものになっていくのか、
今ちょうど通過点に居るのかもしれません。
【二十年後のわたし】
私はどっちかというと未来の自分を想像する事はあんまりないです。
でもこうなっていたいなあと思ってそれに向けて努力するのは好きなので、
20年後はそういう努力をちゃんと続けられて、それがみのってるといいなと思います。
あとはほんと世の中が平和だといいなあと。去年がいろいろあったので。
書籍、映画や音楽で自分の考えを表現している人もいるし、
そういうのが無駄になって欲しくないです。
だから20年後私がどうなっているかより、
世の中がどうなってるのか気になってしまいます。
最近周りもそういう人が多いです。なんか悲しいですね。
土橋明奈 合評報告/ショート・ショート。 2004年12月21日(火)11時28分59秒
遅くなりましたが、掲示板での指摘を中心に。
五十嵐さん>ただ、最初の入りの「黄緑のラインの入った銀色の乗り物」の表現するものが見えてこない?これはバスor電車なのかな??地域によって違うからこの表現するものが判らなかった…これが唯一気になった点でしょうか。
そうですね。地域性というものを考えてはいませんでした。抽象的に書く事によって与える印象をどう、コントロールするか考えねばと課題になりました。
露木さん>意識しているのかもしれませんがインターネットの掲示板というものに合った書き方ですね。逆に言ってしまえば、紙面に載せるものとすると弱い気がします。改行や行あけも紙の上で見たらやたら白くなってしまうのでは、と思いました。あと、どうしても気になってしまったのは、人物(と語り手)がみんな似た感じの人のように受け取れてしまったところ。作品が変わっても人が変わらないような。これは少しもったいない気がしました。(登場)人物のおもしろさももっと見たいなぁ、と。
その通りで、パソで見る用に書いた文達です。しかし、声に出して読むつもりで書いたり、文字の見た目を意識して書いていたりしていたので、不安定な読み心地になってしまいましたね。登場人物の似た感じさは、一人称では特にですが、目線が一方向に偏るのは改善したい事項です。
城所さん>何と言えばいいのか、土橋さんの作品はどことなくアメリカンジョークのように感じました。>文章にしてしまうと「・・・?あ!これがオチか!」などと、芸人気質な自分には落とし所が分かり辛く、耐え難さに落ち着いてはいられませんでした。
ユーモアよりウィット気味であると自覚しています。笑いを取るなら「明確なオチを分かりやすく的確に」が、基本的な事ですが何よりだと再認識です。
菊池さん>今までこういうものをあまり読まなかったので、他にこういった作品があるのかどうか、わからないのですが、でもすごい楽しいなぁと思って読みました。
「冬の行事」や「フライパン」はどこか納得がいかない点があり、「ベートーヴェン」と「9.81m/s」はちょっと尻切れな感じがしました。
それと「ベートーヴェン」と「ベンK」が会話という同じ形式で進んでいくので、少し変化が欲しかった。
余談ですがベートーヴェンは病気でだんだん耳が聞こえなくなってしまったはずです。
作品と云うより、ままネタの様な物なので作品と云える位に完成した質を上げてと思っています。ベートーヴェンの病気については認識していますが、一般的イメージを切り取って使用しました。誤った情報として伝わってしまうかもしれない事を、考えなけばならないと思いました。
雨宮さん>しかし捻りが弱く、読んでいる途中でオチがわかりました。一遍だけならいいけれど、それがいくつも続くと読者は飽きてしまうかもしれません。もっと後半が予想できないような設定にしてもいいのではないでしょうか。例え不条理で、人によっては憤慨させてしまうようなオチでも、僕なら一か八かで賭けにでます。でも、この手法は好き嫌いの要素が含まれており、作者個人の問題でもあります。いち意見として受け取ってください。
先にオチを気付かれても気付かれなくても、筋の通った心を掴むものを書く。最大の課題です。際どいネタも多いのですが、踏ん切りは無く中途半端さが目立つのはとても直したいと思っています。際や切れを精進しようと苦心しています。
滝さん>全体的に見ると、土橋さんの作品は軽いコントのようで面白いのですが、ショートショートとしては少し物足りない。ネタ自体は良いので、もう一捻りあったりもう少し違う書き方(まとめ方)をするとそれが光ってくると思います。
そしてとっても個人的な感想を最後に。何故、益岡。山田だとあれですが、佐藤でも渡辺でも小林でもなく、益岡。ちょっと気になる、益岡。
やはりネタの薄さや、文章の短さは物足りなさが出てしまいますが、短くとも満足感が得られるものが目標です。益岡は私の書くものの中に何度か顔を出している主役にはならずちょい役専門の人で、好きな某俳優がモデルなのです。
松本さん>土橋さんの作品は、小説じゃないし、詩ともなんか違う気がするし…と、私の中で何のジャンルかわからないものでした。だからこそ、どんな場所に目をつけて批評をすればよいのか、はっきりとわからなかったというのが素直な感想です。
皆さん通して、批評し辛かっただろうなぁ、と。つくづく思いました。短いし、主題が無いし、ほぼ自己完結型なので。その中でもオモシロイと思って頂ければ何よりです。
加賀さん>短くて素朴で、アンガールズ(でしたっけ?細い二人組の男の人の芸人。エンタの神様に出ている人)のショートコントをみたような感覚と似てると思ったのは私だけでしょうか。この作品、かなり気に入ってます。このようなシリーズをもっと書いてほしいです!たとえば泉の精がすごい妙な奴だったバージョンとか、泉の精が異様に筋肉質だったりとか。
ちなみにこのような作品はどのジャンルにあてはまるのですか?
>かといって何の言葉がいいのかと聞かれるとなかなか思いつかないのですが…オチには迷いましたか?
アンガールズに例えられるとは意外でした。バージョン変えして、シリーズを作るのも楽しいかもしれませんね。ジャンルはショート・ショートでしょうか。べンKのオチは迷いました。話の流れとしてと読みものとしてと音としての妥協点は難しいですね。とても褒めて下さって嬉しいです。
越智さん>ただ、短くてもおもしろいのですが、やはりそれだけは物足りなさも感じてしまいました。たしかにこれはポンと短い物語を提示して、さらりと読めるものなのだけれど、おもしろいがゆえにもっと長くして一つの物語として完成させたらどんな作品になるのだろうと期待してしまいます。
高澤さん>ベンKは会話の小気味よさが楽しめました。馬鹿っぽいのにけっこう知的。こうゆう会話する人、好きです。
ベートーヴェンは最後の落ちが面白いです。噛み合ってるようで噛み合ってない会話。もっとそこを引き立てるとより面白くなると思いました。
馬鹿っぽいのに知的って、凄く嬉しいです。短ければ短い程ポイントを明確に仕上げていきたいと日々精進です。
物足りなさの克服が目下の問題点です。長い文章も書きたいのですが、文才不足というか表現力に欠陥があるもので、中々難しいのです。挑戦はしたいと心より。
松永さんの指摘の時代考証のズレや例えの不確かさ、先生の指摘の鈍さ、ブレ、不鮮明さ等、練り込んだり磨くべき所が沢山見えてきました。
今回指摘を中心に返答しましたが、親切なコメントが多く顔がにやけました。
批評を終えて一番思ったことは、今後の課題として読み手を意識して書く事に打開点があると云う事です。
ありがとうございました。
野島 明菜 作品1/ダレカノヒトリゴト 2004年12月19日(日)12時16分46秒
人と自分は同じじゃない
違いは私をホッとさせるけど(つまり私は唯一無二の存在)
違いは私を孤独にもする(こんなに苦しいのは私だけ?)
人と自分は同じかもしれない
同じは私をホッとさせるけど(つまり私はひとりじゃない)
つらくもさせるわ(真似しないで。私の価値が消えていくから)
千田由香莉 課題9/「4864」 2004年12月16日(木)04時34分05秒
▼課題と連絡:課題9/稲生モノノケ光之巻【二十一世紀妖怪カタログ】 への応答
春が近づく頃、それは必ず現れる。
桜の色に、目がちかちかする。目頭が熱くなってぼんやりと重たい感じ。それに何だろう、この人の群れは。何度か目を擦ったけれど、それは消える事が無く、はらはらと散る花霞の中に、相変わらずたくさんの背中が見えた。
方々へ散りながらも、皆迷うことのない足取りで、霞の奥へと消えていく。不揃いな足音が、土煙をあげながら私を追い越した。
「あの、何処へ行くんですか?」
問い掛けてはっとした。私などには目もくれず、どんどんと追い越していく足音の主は、みんな私の知っている顔たちだった。足音に消されたのか、誰も何も答えてはくれなかった。私のいる場所だけを綺麗に、まるではさみで切り省くように避けては、霞の奥へ歩を進めていく。胸の奥が鉛のように重くなった。
目が霞む。桜の色も、匂いも、大嫌いだ。はさみで切り取られた空間には、分厚いガラスの壁が張られていて、外の景色がやけにきらきらと眩しく映る。足音が、背中が、私をどんどん追い越していく。いつまでも動きだせない私を、桜が笑った。足音、うるさい。
「どうして私を置いていくの?どうして何も言ってくれないの?」
そんなみんなの態度に苛立った私は、ガラスを思い切り叩いた。がしゃん、
ガラスが、割れた。強く握った拳には、真っ赤な血が一筋だけ、流れて落ちた。つんつんと尖った欠片のうえに落ちた血の色が、ガラスの鋭利な光を包み込んだ。手が痛い。苛立ったのは、悔しかったのは、歯痒かったのは、私自身だった。
割れたガラスの小さなひびから、呟くように今にも消えそうな弱々しい声が聞こえた。
「おいていかないで」
誰の声だろう、と一瞬耳を疑ったが、それは紛れもない私の声だった。
足音は止まらなかった。でも、雑踏の中でようやく聞こえた私の声。何故だろう、何だか懐かしい。
野島明菜 課題9/かゆみくんと泡の子供 2004年12月15日(水)15時55分20秒
▼課題と連絡:課題9/稲生モノノケ光之巻【二十一世紀妖怪カタログ】 への応答
1.僕はかゆみくん。姿はないけど存在してる。
小さな子供から大きな大人まで、皮膚の下からジワジワジワ・・・僕のアピールタイム
は始まる。
かけ、かけばいいんだ。きみは自分を傷つけることで自分を解放してやるんだ。
モヤモヤしたストレスが少しはなくなるだろう?
かいた後、自己嫌悪になっちゃいけないよ?
かいたのはきみのせいじゃない。僕のせいなんだ。
僕のせいにしていいんだよ。
僕はかゆみくん。
よろしくね。
2.僕は泡の子供です。
ふわふわとかるいです。
中には何が入っているのでしょう。
きっとこんなかるい僕の中にも何かが入っているのでしょう。
それが何かなのか知るとき、僕は消えてなくなるのです。
露木悠太 課題9/我に問う蝙蝠(こうもり)の類 2004年12月15日(水)03時41分52秒
▼課題と連絡:課題9/稲生モノノケ光之巻【二十一世紀妖怪カタログ】 への応答
正午過ぎ、床の上、昨晩空けた焼酎の瓶の中ほんの数滴あるかないか。そこに奴は居た。波の一つも立たない鏡のような泉の水面。その真ん中に佇む、おそらくは蝙蝠の類の者。
『君、どうだ、今日はどうだ』
鼻梁から抜ける金属の如き高い声。私に問う。
『君、わたしの目が悪いのは知っているだろう。さぁ、早く教えてくれ』
私は目を擦り、窓の方をぼんやりと見た。
――青だ。
『ほう、青か。さてどんな青だ。真冬に吹きすさぶ風のような青か、夏のたおやかな渓流のような青か』
――ガラスを百枚も重ねたような青だ。
私は窓を開け放ち、目を細めた。
『それはどういうことだ。遠いのか、高いのか、澄んでいるのか』
――遠くて高くて澄んでいるんだ。
私は欠伸した。いつ頃からこんな問答をする羽目になったのだろう。一人暮らしを始めてからか、学校を卒業してからか、それとも生まれた時からだっただろうか。ひとり嘆息し首を傾げた。
流しで顔を洗った後、瓶を覗いてみたが、既にその姿は無かった。
夕暮れ時、私は商店街を歩いていた。いくつかの閉じられたシャッターの灰色が目に付く中、花屋のきらびやかな色彩が私の足を止めた。その店先に置かれたバケツの水の中に、奴は居た。
『君、夕べの空はどうだ、今日はどうだ』
――赤だ。
私は見もせずに言った。
『赤か。さてどんな赤だ。傷口から流れ出る鮮血のような赤か、喜びに上気した頬のような赤か』
――偽りのような赤だ。
私は飾り付けられた金の鈴がきらきらと輝くポインセチアを見ていた。
『それはどういうことだ。君、それはどういうことか教えてくれ』
――今しがた塗り変えられたような、そんな色だ。
『ほう、何故そう感じたのだ』
――夕暮れに豹変した空は、澄み切ったがらんどうの青空とは対照的に、充溢している。その、色の原液のような光線は時として私の狂気を、底に沈殿する狂気を、照らすのだ。
だから私はあの光線から逃げるように、背いているんだ。
私は言いながらがっくりと首を垂れた。奴はしばらく黙っていた。黙っていたが確かに、翼で体を覆い、影か実体かも判別のつかない黒いものがじっとしてそこに居ることを私は感じていた。
『そうだ、君、光に背くのだ』
深夜、私は焼酎を一瓶空けてから風呂に入った。体をたたみ狭い浴槽に浸かっていた。玉になって天井に張り付いた水蒸気。そこに奴は居た。
『君、夜空はどうだ。今日はどうだ』
――いつもと変わらないだろう。
風呂場に低く反響する声で、私はそう言った。
『ほう、いつもと変わらないとは、それはどういうことだ』
――真っ暗闇だよ。
『闇とは、黒か、墨色か』
――闇は闇だ。何色かはわからない。
『しかし君、例えてくれ、わたしは闇を知りたい』
酒と湯でのぼせていた私は天を仰ぎ、独りごちるように言った。
――私の、心のような色だ。
虚ろな目で笑った。
『そうだ、わたしは闇を好む者だ。君の心に巣くう者だ。しかし君、君はまた明日にでも忘れるだろう』
戦慄した。私は抗うように力を入れ、身を起こしかけた。波打って溢れ零れ落ちる湯のどれもに蝙蝠が居た。いや、映っていたのだ。首を振りどちらを向いても私の眼前にそれは現れた。私は頭を壁にもたせた。唇が震えていた。
『君、わたしをご覧よ。この鏡のような泉、その上に立つ者、下にぶら下がる者、どちらが本当で、どちらが偽りだと言うのだ』
水面の揺れが治まり、平衡が保たれた。
私は黙っていた。黙っていることが答えだなどと言うのではではない。なす術も無く、ただ黙っていたのだ。
沈黙か、静寂か。堪えきれなくなった私は素っ裸のまま風呂場を出た。体中から白い湯気が立ち上り、顎の先、指の先から床へ水が滴り落ちていた。
奴は空の色を問う、空の色を例えろと言う。くるくると表情を変え、色を変える空の色。私は空が青から赤へと変わる夕暮れの中、いつか、狂ってしまいそうになった。赤く染まっていく街、やがて闇に覆われていく街、そこに在るはずの本当の色がわからないのだ、偽物の色がわからないのだ。どれもが本当で、どれもが偽りのような、いや、何もかもが違っているような。そう、何もかもわからないのだ、見出せないのだ――私。そして言葉さえも疑わしいと塞ぐのだ。
やがて暁闇に近づいた頃、蝙蝠の類は言うだろう。
『光を見ずともよい。光に惑わされるな。光に背いて生きるのだ。そうすればその首も、そこに落ち着いて居るだろうよ』
城所洋 合評報告/7つの詩 2004年12月13日(月)20時04分23秒
色々と諸問題が重なり、提出が遅れました。
さて、どうして小説派なのに、この時期にして詩の批評をしていただいたかというと、主に2つの理由があります。
1つ目は、単純に作成が間に合わなかった事。夏の半ばに雑談の方で報告したのですが、本来、最悪でも9月中旬には長編小説の下書きが書き終わると踏んでいたのですが、3分の1ほど書いた後にまったく別な方向性を見出してしまい、考えた末、全てをバラして再構想し直し、1から書き上げる事を決心しました。
それで10月から再始動し、今日現在、ようやく下書き(の下書き、つまりメモ帳上での)が書き終わったという体たらくです。
これをPCに書き直すとなると、どう頑張っても今年中に出来るかどうかの所です。
そういった理由で止むを得なく、7つの詩の方を批評していただいた次第です。
2つ目は、人はどのような趣向のものが好まれるか、を知りたかったからです。その結果は予想に反し、歴然と見せ付けてくれました。おかげ様で大分、方向性が定まってきました。
さて、そのような事から、報告に入りたいのですが、もうすでに言うべき事は授業&雑談掲示板の方で言い切った感があるので、細々としたものだけを。
自分の7つの詩の内、3つ、「ボクらを〜」と「LOST ME」と「ローレライ」(ある意味、色眼鏡も)は、しっかりと文字数を規定し、韻も踏み、いわゆる「歌詞的」な作りに。残りを「詩的」に作りました。
「歌詞的」は言葉も飾り、歯切れ良く、「詩的」は、あるがままの感情を吐き出したつもりです。
それが、どちらかというと後者が圧倒的に支持されたのは驚きでした。
さて、その中で色々と言われてきたのですが、その中でも数多いのが、「言葉に頼りすぎ」とか、「本当の○○くんが見えてこない」といったものでした。
これは、そうですね、かなりカミングアウト的な事なのですが、これも主に2つの理由があります。
1つは、言いたい事が膨大過ぎる。おそらく、「倒錯する虚構」という一言にも、原稿用紙数十〜数百枚必要になると思います。そういう一切合財を体よく纏めた言葉が、それなのです。ある意味、それ以上縮められませんというくらい縮めた言葉です。ですので、頼りすぎというか、詰め込み過ぎなのだと思います。
2つは、自分を客観視しすぎる。要するに、自分をあるがままに感じている自分をさらに傍観している自分がいて、そこには何の境界線も引かれていない、といえばある程度は伝わるのかも知れません。
自分はもはや、どの考えが自分なのか分からないでいます。最初は2つの考えが頭の中にありました。「動物(この頃は本能と呼んでいた)的見地から立った自分」と「人間(理性)的見地から立った自分」。今で言えば「主観」と「客観」にあたるのでしょうか?あるいは、「内部観察」と「外部観察」。
しかしながら、年を経るごとに二つの距離が接近し、ついにはそれが融合して、今の自分が何なのかが自分でも全く分からなくなってしまいました。
例えば、人を好きになるにしても、本能に突き動かされつつ、それを冷静に解析する自分。怒りを覚えつつ、その怒りのプロセスを順序良く見直そうとする自分。
ある意味、どれが自分だか分からないというより、自分が分かり過ぎてて分からないのかも知れません。
そんな自分の不思議ワールドでしたが、それが今後、どのように成長していくか、もしそれを見届ける機会があったとしたならば、どうか生暖かい視線で見守っていてください。
菊池佳奈子 課題9/ピーナッツの怪 2004年12月12日(日)18時04分58秒
▼課題と連絡:課題9/稲生モノノケ光之巻【二十一世紀妖怪カタログ】 への応答
カチ…カチ…カチ…
時計の秒針の進む音がする。
今何時だろう。
学校から帰ってきたのが八時ぐらい。
やたら疲れてしまっていて、夕飯を知らせる母親の声も無視して、ベッドにもぐりこんだ。
すぐに下へ下へと落ちて行く感覚がして、意識は遠のいた。
あれからどれくらいたったのだろう。まったくわからない。窓は雨戸が降りていて外が見えないし、部屋の外から何の音も聞こえない。たぶんもう深夜になっていて、家族も皆寝ているんだろう。顔についたままの化粧や、はいたままのジーパンをどうにかしなくちゃと思いながらも、うとうとと、夢と部屋を行ったり来たりしている。
部屋にいるかと思ったら夢の中だったり、ありえないことが起こって夢だと気付いたり。
夢なのか現実なのか、よくわからない。追い詰められているような、妙に緊張する夢ばかりで、身体がたまにビクッとする。
相当疲れているのだろう。そう思ってもう一度曖昧な意識の中に潜っていく。
カチ…カチ…カチ…
ふと、違和感に気付く。
ドアの向こうになんだか人の気配がする。
それまで濃厚な夢の霧に包まれていた空気がぴっとしまる。間の空気がきんっと鳴る。
瞬間、身体が一気に痺れる。悪夢から無理矢理逃れて目を覚ます直前の感覚に似ている。
ガチャ
誰かがドアを開けた音がする。その音は神経質で丁寧でまるで泥棒がこっそり部屋に入ってくるような音で、私は恐怖で目を瞑る。自然に自然にばれないように。でもしっかりと。瞼に力をいれた。
ギシ…ギシ…
部屋の床が少し軋む。うちって結構ぼろくなっているのかな。どっか冷静らしい。
ギシ…
ベッドの足の部分が軋む音がして、足2本分、ベッドが沈む。
早く消えろ早く消えろ早く消えろ。
ベッドの上に立っている何かがしゃがんだ。さっきより近くなった視線がずっと腹のあたりを見ているのを感じる。
早く消えろ早く消えろ早く消えろ。
身体は何ひとつ動かない。目を開けて何がいるのか見てみたい思いと、同時に見ちゃいけないという思いが頭の中でぐるぐるする。頭の中の密度がこくなって、脳みその真中あたりが痛む。
パラ…
視線の主は何かを私の腹の上に撒いたようだ。何か軽くて細かくて…
ポリポリ…
食べてる。夕飯の前によく聞く音。父親が満面の笑みでワインと一緒に胃の中に突っ込むもの。
バラッ
もう一度私の腹にピーナッツを撒くと、主はごく普通に立ち上がって今度はすたすたとドアへ向かった。そうして気配が消えた。
…カチ…カチ…カチ…
私は一気に部屋の中に戻される。空気は緊張しているどころかどこか面白さを含んだものに変わっていた。起き上がって周りを見る。いつもの自分の部屋のままだった。
どうして腹の上にピーナッツを撒かれたのだろう。それは全く謎だが、あの生きものが持っていたのは父がいつも満面の笑みで食べているあのピーナッツだ。それだけは何故か確信していた。
児玉武彦 自由課題2/ 2004年12月10日(金)22時58分43秒
1.初めての映画
生まれて初めて観た映画
憶えてる人なんかいるのかな
確か・・・無理だ、思い出せる訳がない
テレビで観た『白い馬』だっけか・・・
あの時僕は小さくて
字幕は親父が読んでくれたっけ
それだけはハッキリ憶えてる
2.ビデオデッキ
ばあちゃん家にあったビデオデッキ
小学生の頃
正月に従兄弟たちと観た映画
今想えば安っぽいアニメだった
ビデオデッキが夢の道具に思えた頃だ
3.我が家にビデオデッキがやってきた日
中学に上がる頃
家に帰るとビデオデッキがテレビの下に
その晩 夕食後8時
家族全員で観た映画
『プラトーン』
姉ちゃんは寝ちゃって
僕がトイレに行こうとすると
親父が停止ボタンを押して言った言葉
「ビデオは便利だ」
それが我が家にビデオデッキがやってきた日
4.映画マニアの始り
中学を卒業する頃
ファイルに溜めた映画感想文
家族に自慢すると親父が笑って言った
「アクション映画ばっかりだな」
僕も負けずに
「殆ど親父が借りてきた映画だよ」
5.空白の3年間
高校に上がって寮に入った
ラグビー部は皆入る
それが決まりだ
部活に勉強に恋愛と
忙しい日々だったけど
確かに僕は映画を渇望していた
空白の3年間
6.デ・ニーロと僕
浪人時代、僕はデ・ニーロに恋をした
バイト先のビデオ屋で片っ端から観まくった
『ディア・ハンター』に『ミーン・ストリート』
『タクシー・ドライバー』や『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』
『ゴッド・ファーザー』のコルレオーネには痺れたし
『血まみれギャングママ』を小さなビデオ屋で見つけた時の感激
勉強は全くしなかったけど
あの頃は今の僕の肥やしとなっている
7・映画と僕
僕ももう22歳になろうとしている
今でもほぼ毎日映画を観ている
相変わらずの僕だ
どこか変わったかな
世の中にはまだ観てない映画がごまんとある
どんな映画と出会うんだろう
モラトリアムもそろそろ終わる
どこが変わったかは解んない
でも 映画を観続けていくってことは解ってる
それでいいじゃない
高澤成江 批評課題14/体も白けりゃ尾も白い 2004年12月09日(木)07時16分11秒
▼課題と連絡:批評課題14/土橋明奈作品の批評 への応答
【作品3/ベンK】
【作品5/ベートーヴェン】
どれもこれも上手い作りでこの中から二つだけを選ぶのに苦労しました。これだけ短い文章なのに飽きずに何度も読めました。上手いなあ、と唸ってしまうほどの作品たちだと思います。
ベンKは会話の小気味よさが楽しめました。馬鹿っぽいのにけっこう知的。こうゆう会話する人、好きです。
ベートーヴェンは最後の落ちが面白いです。噛み合ってるようで噛み合ってない会話。もっとそこを引き立てるとより面白くなると思いました。
滝 夏海 課題9/ペットボトル返し(と愉快な仲間達) 2004年12月09日(木)00時54分54秒
▼課題と連絡:課題9/稲生モノノケ光之巻【二十一世紀妖怪カタログ】 への応答
【ペットボトル返し 来る】
ふと気付くと机の上にあった水筒代わりのペットボトルが立っていた。蓋を下にして。そんな事をやった記憶は無いが、あまり気にしなかった。
次の日、風呂の後に自室に帰るとやはりペットボトルが立っていた。蓋を下にして。首を傾げる。
その次の日、わざとペットボトルを横倒しにして出掛ける。帰宅後、部屋の扉を開ける。ペットボトルは立っていた。蓋を下にして。
これはおかしいと次の夜ペットボトルを倒して退室した後、廊下で待機。扉は細く開けておく。暫くすると部屋の中からかたかたと微かな音が聞こえてくる。そっと扉を押すと、小さな子どもが背伸びをして机の上のペットボトルを掴み、立てようとしているところだった。蓋を下にして。部屋に飛び込み、怪奇現象どころか家宅侵入の現行犯として捕獲。
「あ、あのっあの、僕、怪しい者じゃなくて」
「そんなボケの基本を抑えなくて良いから」
「え、えっと、ど、泥棒なんかじゃなくて、それで」
「要点だけ言いなさい」
「妖怪です」
「妖怪はアヤシイアヤシイって書くの。解る?」
「えーと、だから、その」
それから1時間かけて聞き出した情報をまとめると、つまりそいつ(男物の格好をしているので、以降は便宜上「彼」という人称代名詞を使う)は妖怪であって、ペットボトルをひっくり返す為だけに存在するらしい。普段は街を徘徊しているが、うちにあった使用済みペットボトルが好みにぴったりだったので、毎日返しに来ていたそうだ。
「僕、人が苦手なんです。最近は夜でも人の居るお店が増えて、やりにくくて困ってるんですぅ」
とは『彼』の談。
今でも何故かうちに居る。どうも懐かれたようだ。
【中断爺 遇う】
昼休み、学食でぼーっとしていると「ちょっと待って」という大きな声が聞こえた。何気なく声のした方を見ると、席を探している女の子と、その後ろから小柄な老人が立ち去る姿。どこぞの教授がセクハラでもしたのかと思ったが、女の子が老人を見ていないようなのでどうやら違うらしい。数十秒後、「ちょっと待って」今度はさっきの女の子から少し離れた席から聞こえてきた。そちらを見ると、そこにも同じ老人の姿がある。品の良い身なりの老人だが、どことなく怪しい。その場からまた立ち去ろうとしたので、目で追う。ゆっくりと入り口の方へ歩き携帯で話しをしている学生の後ろを通る瞬間、老人が手を動かした。そっと学生に触れる。「ちょっと待って」学生が声を荒げた。
これはどう考えてもおかしな事で、老人が関わっているとしか思えなくて、触れる事が切っ掛けのようで、でもそれって普通の人間じゃありえなくてってことはつまり
「ちょっと待って」
言ってから慌てて口を押さえる。おそるおそる振り向くと、あの老人が笑顔で立っていた。
【家守大王 求む】
「なんかこっち引っ越してきてから、変な事が多いんだよね」
ぼそっと呟くと、部屋の隅にいた『彼』がとことこと近付き、どんな事かと尋ねながら隣に座った。
「例えば、キャベツの千切りを一生懸命細く細く切っていたら、後ろから突然「下手」って聞こえてきたり。靴紐が左右纏めて固結びになってたり。2階に誰も居ないのに足音がしたり」
「あー、それ、小鬼ですねぇ。ここの家族って、そういうのに懐かれやすいみたいですよ」
「キミとか?」
「まぁそうなんですけど、それはちょっと置いておいて」
「でも、こっち来てからよ、こういうの」
「うーん、そうですねぇ、前の家はもっと別なのが居て近づけなかったとか」
「別なのって言われても…」
「なにか、ほら、居着いた動物とかいませんでした?」
そういえばあの家の周りにはヤモリが生息していて、部屋にも一匹住み着いていた。そんな事を告げると『彼』は大きな目をくるっと動かして明るい声で言った。
「家守大王ですね」
説明するところによると、家守大王とは名前の通りヤモリの親玉で小鬼を喰うらしい。そんな素晴らしい生き物だと知っていたら、何が何でも連れてくるんだった。
「こっちにも来ないかな」
「……ごめんなさい、役立たずで」
【電波喰い 現る】
夜、友人と携帯電話でメールのやり取りをしていた。会話の途中で、向こうからの連絡が途絶えた。風呂にしても「また後で」の一言も無しに途切れるのは彼女らしくないので、不思議がっていたところ隣に居た『彼』が無言で窓の外を指差した。その先に目を凝らすと、斜向かいの家の屋根に何かが乗っているのが見えた。
「豚? いや、それにしては鼻が細いような」
「電波喰い。夢喰い貘の亜種です」
「で、なんなのあれ」
「無線やラジオや携帯電話の電波を食べる妖怪です」
「食ってどうするのよ」
「さぁ……糧なんじゃないんですか、それが」
「糧ねぇ。じゃあ、喰った電波ってもう出てこないワケ?」
「たぶん」
しょうがないので友人には開けなかったとでも言って、もう一度送ってもらおう。
「で、いつまで居るの、キミ」
「……そうですよね、邪魔、ですよね、僕」
「ま、いいけど。大した被害は無いし」
越智美帆子 課題9/人魚 2004年12月08日(水)20時29分11秒
▼課題と連絡:課題9/稲生モノノケ光之巻【二十一世紀妖怪カタログ】 への応答
1.
静かな放課後だった。窓から差し込んだ夕日が異様に赤くて、鞠子の白い肌を朱に染めていた。鞠子以外の友人だちの顔は影に隠れて表情が見えなかった。たしか私と鞠子を入れて五人ほどいたと思う。けれどその場に誰がいたか、思い出すことはできない。もしかしたら私と鞠子以外は全て影で、私はその場にいない人間と会話していたつもりになっていたのかもしれない。
放課後の談話は、空想話や噂話といった他愛ないものばかりでいつもと変わりはなかった。
誰かの言葉が蘇る。
「不老はいいけど、不死は嫌だな」
たしか最初は深海の話だった。誰かが、海底では海が降っていると言い、それから深海魚の話になった。深海魚って浅瀬に上がってくると内臓が破裂して死ぬんだよ、と誰が言った。そして他の誰かがふいにベニクラゲについて話し出し、不老不死の話になったのだ。
海の底にいるベニクラゲは、死ぬことがないと言う。老衰し動かなくなっても、しばらくじっとしていたら新しい体に変化することができる。たしかそういう話だった。
「それって、不老不死ってこと?」
私は思わず声を上げた。
それからしばらく不老不死についての、ちょっとした論議になった。
「不老不死になったら、何でも好きなことをするなぁ」
「あたしも。若いままずっと死なずにいるんなら、いろんな世界を渡り歩く」
「死なないってことは病気にもならないし、怪我をしたとしてもすぐ治るんでしょ。それなら、ちょっとくらい危ないこともしてみるかも」
みんな笑いながら口々に言った。
私は、不老不死になってもならなくてもよかった。別に、途方もなく遠い先に待っている死は恐怖ではなかった。このまま自然に老いていき、いつか死ぬのが一番いいと思った。
人生が長過ぎると、きっと途中で飽きてしまうだろうから。
「死にたくても死ねないっていうのは辛いだろうね」
私は言った。その瞬間チャイムが鳴り響き、最後の音が空に溶けても誰も喋りださなかった。
「それは嫌。不老はいいけど、不死は嫌だな。好きなときに死ねるのがいい」
ようやく、誰かが小さな声で言った。
私は、リスクあっての不老不死じゃないのという言葉を飲み込んだ。そんなこと誰だってわかっている。現実に起こり得ないから、夢のある想像ができる。少しでも現実に触れるような思いは遊び心でする空想ではない。
「人魚の肉を食べて不老不死になった人間は、首を落とせば死ねたそうよ」
滞った空気を震わす鞠子の声が響く。鞠子と視線が重なる。朱に染まった顔は寂しそうに笑っていた。
その日、私は鞠子と手を繋いで家路を歩いた。
吹き荒む風が何度も頬を掠めていった。二人でその日習ったばかりの合唱曲を口ずさみ、たまにつかえて照れくさそうに顔を見合わせた。脇の、少し小高い位置を通っていく電車に声がかき消される。瞬間、ふと隣を歩いている鞠子の存在が消えたかのような感覚に捕われ、私は横を向いた。鞠子は不思議そうな顔をして小首を傾げる。電車がすっかり通り過ぎ、遠くのほうでガタンゴトンという音が聞こえていた。再び二人の歌声が蘇り、私は何ごともなかったかのようにして首を横に振った。
鞠子の手がひんやりと冷たかったことを、今でもしっかり覚えている。あのとき、私はこの瞬間がもう二度と戻らないなんて、ほんの少しも思っていなかった。一秒でも先に起こる未来のことなんて誰にもわからない。起こってしまってから、過去を回想して後悔する。しかし何をどう後悔していいかもわからず、私は鞠子のことを思い返しては過去の時間をまたなぞっていく。
2.
繋がれた手が少し汗ばみ、私は思わず顔を赤くする。熱気でむっとした空気の中、額にもうっすらと汗が滲んでいる。繋いでいないほうの手でしきりに汗を拭う。暑いね、と言った声はちょうど横を通りすぎた子供の声でかき消される。彼は私のほうを向き、笑いながら首を傾げる。寂しい既視感だった。私は首を横に振り、小さく笑った。
空気が紺に染まるくらいから、お祭りは普段よりもわずかに昂揚した客で埋もれる。大の大人までも浮き世を忘れてヨーヨーや的当てや金魚すくいに没頭する。屋台に備えつけられた小さな白熱灯が、そこ一体の空気を浮き立たせ柔らかな光の中で夢を見ているような心地にさせる。
普段履き慣れない草履の鼻緒が、足の指の股に食い込んで痛い。
「ちょっと待って」
私はそう言い、彼の手を離してしゃがみ込んだ。鼻緒を人さし指で持ち上げ、当たっている部分をずらしてみる。赤い鼻緒に敷かれていた箇所は赤くなっており、少しだけ皮膚が水膨れのようになっていた。私は立ち上がり、また彼の手を握った。
「大丈夫?」
彼は言い、私はうん、と返事した。
お面が大量に並んでいる店先を通り過ぎる。ゆっくりと歩きながら、一つずつ屋台を見ていく。あれやろうよ、あれもいいね、などと口々に言い合いながら私と彼はすっかり童心に返っていた。
「子供のころ、お祭りに来たら必ずヨーヨーを買ってたわ」
私は幼いころの記憶を思い起こしながら言った。浅いビニルでできた水色のプールの中に、色とりどりのヨーヨーが浮かんでいる。それを針金と紙でできた釣り糸で慎重に釣り上げるのだ。しかし大抵は紙の部分が水につかってしまい、ヨーヨーを引き上げる瞬間に重みでちぎれてしまう。ちぎれた紙を眺めながら悔しそうに顔をしかめると、店のオヤジさんが苦笑しながらどれでも一つ取っていいよと言ってくれた。私は透明のヨーヨーが一番好きで、ゴム紐の部分が掬いにくい場所に潜り込んでいても、必ず無理にでも掬おうとした。
「僕も好きだったな。いつも透明のヨーヨーを取ろうと必死になるんだけど、結局は紙がちぎれてしまって」
彼は懐かしそうに顔を綻ばせた。
「偶然ね。私も透明のヨーヨーが好きだった」
「あれって中の水がはっきり見えるよね」
「そうそう。取った後、必ず手で持って思いきり振って、中の水が泡立つのを楽しんでた」
私と彼は顔を見合わせ笑った。
忙しく並んだ屋台の中に、私はふとリンゴ飴の店を見つけた。彼の手を引いて店先に寄る。
「二つください」
店番をしていたおばさんは大量に発砲スチロールにさしてあるリンゴ飴を二つ引き抜くと、私に渡した。引き換えにお札を差し出すと、手際良くお釣りを渡してくれた。
私と彼は繋いでいないほうの手でリンゴ飴を持ち、舐めながらまたゆっくりと歩いた。姫リンゴを包んでいる真っ赤な飴は薄く、すぐに中のリンゴが覗いた。齧るとすっぱい味が口の中に広がる。お祭りでしか味わうことのない風味を噛み締めながら、私は次第に昂揚してくる気分を楽しんでいた。
彼の手が、一瞬強く握った気がした。私は不思議に思い彼のほうを向く。彼は相変らずリンゴ飴を齧りながら、脇に並ぶ屋台に見入っていた。
「さあさあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい、ここにあるは一見普通の娘と思いきや、その実天から授かった奇妙な天賦の才、タコ娘とは名ばかりじゃございません、皆様の言われる望まれるがまま、体のあちこち折って畳んでまた伸ばす、そんな摩訶不思議な技を披露いたします、さあさあ、そこのお嬢さまおぼっちゃま、これを逃したら次に見れるはいつになるかわかりゃしません、もちろん紳士淑女のみなさまも、ただただぼんやりと眺めているだけでこのタコ娘、あっと驚くことをしてみせましょう、その他へび女にくっつき、ふたなりにふつむり熊男、ここには何でもございます、それからそれから当団一番の人気もの、人の体に魚のしっぽ、神の罰かいたずらか、どちらにしても目を見張る珍妙さ、さあさあ、どうぞどうぞこれから始まるは夢か幻かはたまた妖術か、世にも奇妙な珍芸の数々、篤と目に焼きつけてくださいまし……」
幾重にもなった鈴の音と、太鼓や笛の音に混じって饒舌な呼び込みが目の前を横切っていく。私は呆気にとられ、しばらくチラシをばらまきながら通りすぎるそのちんどんに目を奪われていた。先頭で縦に二つ並んだ太鼓を抱きかかえるようにして叩いていたのは小さな男だった。体に合わせたモーニングを着て、リズミカルに二つの太鼓を打っている。それから笛を吹きながら躍っていたのは、やたらと髪の長い女だ。顔に派手な化粧をし、ときどき口から覗く舌が長く蛇のように見える。その後ろに続くのは、小さな女の子を両手の上で逆立ちさせている大男だった。別段苦しそうな顔もせず、軽々と女の子二人を持ち上げている。二人の女の子は大男の手の上で逆立ちしながら、ときに片手だけで体を支えたりしている。
「へえ、おもしろそうだな。行ってみようか」
彼は言った。私が軽く頷くと、そのままちんどんについて彼は歩き出した。
3.
その秋一番に冷え込んだ朝、起きてパジャマのまま台所に行くと母が青い顔で私を凝視した。
「おはよう」
そのとき私は、別段不思議とも思わずにテーブルについた。用意されていた朝食はまだ湯気をたてていて、早速みそ汁に手をつけた。
「あのね」
同じ場所で動かずにいた母はようやく口を開いた。
「鞠子ちゃんが昨夜亡くなったそうよ」
私はゆっくりと箸を置き、母の顔を見た。
「え?」
「昨日、電車に轢かれたらしいの」
そう言うと、母は堰を切ったようにして泣きだした。私のほうが戸惑うような泣き方だった。その場にしゃがみ込み両手で顔を覆い、呻きながらしゃくり上げていた。私はどうしていいかわからず、とにかく普段のまま生活をなぞらなければならないと思ったのか、気づいたら制服をちゃんと着て学校の教室の、自分の席に座っていた。
チャイムが鳴り、教室でざわついていた生徒たちは各自自分の席に着いた。けれどざわめきは治まらず、ようやく教室のドアが開き担任が帳簿を片手に教卓に着くと静かになった。
担任がハンカチで目頭を抑えながら、震える声で事実を伝えていく。再びざわめきが起こり、口々に噂が飛び交う。
休み時間、前の席に座っていた友達が振り向いて言った。
「鞠子ちゃんの死体、首が見つからないんだって」
その言葉に反応して、周りから女の子たちが集まってくる。
「そうそう。線路の近くに沼があるでしょ、あそこに入ったんじゃないかって」
「えーカワイそう…」
「早く見つかるといいよね」
私は立ち上がり、そのまま教室を後にした。
4.
目くるめく興業は、奇妙の連続だった。
口から蛇を入れ、蛇の顔が鼻の穴から覗く。ステージの両脇にいた二人の大男が同時に火を吹くとそれが輪になり、その間を小人がぴょんと飛んでくぐった。まるで骨がないかのように自由自在に体を折り曲げられる愛らしい少女は、観客に笑顔を振りまきながら首を足の間に入れてみせる。背中を反ったと思ったら、頭が地面にぴったりとつく。それから、右側が男左側が女の格好をしたパフォーマーが、矢で的を射る。五本ともが全て的のまん中に当たり歓声が湧く。
華やいだ舞台が鎮静し、一端辺りは静かになる。
「ここにありますは、神の仕業か悪魔のいたずらか、人の体に魚のしっぽ、まがいもんじゃございません、西の海で泳いでいたのを、わたくしの兄の友人の叔父が連れてまいりましたは年の暮れ、八丘比久尼の孫の孫のそのまた孫、さあさあみなさま前のほうへ、一切嘘なし偽りなし、本物の人魚にございます」
黒いシルクハットを被った興行師が舞台に現れて、饒舌に言う。その口調がいかにもらしく、私と彼は小さく吹き出した。
舞台袖から黒い布が掛けられた箱が大男二人によってかつがれてくる。舞台上に下ろされると、興行師がかけ声を始めた。
「3、2、1、」
布が一気に剥がされ、ガラス張りの水槽が現れる。その中を、たしかに一匹の人魚が遊泳していた。人魚は観客に向かって水の中から手を振り、しっぽを器用に振ってみせた。
人魚の顔には見覚えがあった。見覚えがあるどころかそれは、確かに鞠子の顔だった。
「さ、もっと近くで見たいというお客様は、どうぞどうぞ舞台に上がっていただきじっくりと見てやってくださいまし」
興行師の声が響く。私は彼の手をほどき、他の客を押し退けて舞台に上がった。
人魚は上半身を水から出し、水槽の縁に手をかけていた。私は彼女の前に立った。
「鞠子なの?」
小さな声で私は言った。人魚はにこにことしながらしかし首を横にも縦にもふることはせず、ただ私を見つめていた。そして、そっと片手を前に差し出した。私はその手を握った。とても冷たく、ひんやりとした。
5.
静かな放課後だった。窓から差し込んだ夕日が異様に赤くて、友人たちの顔を朱に染めている。どこかの運動部がグラウンドを走っているのか、かけ声が聞こえてくる。廊下からも下校する生徒たちの声がときどき聞こえてきて、私たちの談笑に重なる。
「そう言えばさ、海底では雪が降ってるんだって」
「海底で雪が降るわけないじゃん」
「じゃなくて、マリンスノーってやつ。プラクトンの死骸が海底に沈んでいくのが、雪みたいに見えるんだってさ」
「へぇ、一度見てみたいな」
「深海魚にでもなれば見れるでしょ」
笑いが起こる。それと同時に、今日何度目かのチャイムが鳴る。
「深海魚と言えばさあ、あれって浅瀬に持ってくると内臓が破裂して死んじゃうんでしょ?」
「え、まじで?」
「あたしは目が飛び出すとかって聞いた」
「ふぐってたしか深海魚でしょ。深海では膨らんでないんだよね」
「あ、海底で思い出した」
「何なに?」
「ベニクラゲって知ってる?」
「キクラゲなら知ってるけど」
私は言い、笑いながら軽く肩を叩かれる。
「なんかね、不死の生物らしくて、テレビで特集されてた」
「え、すごくない? それ」
「そう、すごいよねえ。老化しても、さなぎみたいになってまた新しい細胞を自分でどんどんつくって、48時間で再生できるんだってさ」
みんな口々に感嘆する。
「人魚がたしか不老不死だったよね」
私がそう言った瞬間、チャイムが鳴る。チャイムの音に混ざり、誰かが何か言った。
「ごめん、チャイムで聞こえなかった」
チャイムが鳴り終わってから私は言った。
「え、別に何も言ってないけど」
友人たちはうんうんと首を縦に振った。
「でもさあ、不老はよくても不死は嫌じゃない」
「たしかに。ずっと生きてたら、飽きてきそうだしね」
「あ、でも、人魚って首を切り落としたら死ねるんじゃなかったっけ」
「えー、それって何か嫌」
「だよねえ。やっぱ自然が一番」
「でも老いるのは嫌だな」
再び笑いが起こる。
そろそろ帰ろうと誰かが言いだしたころには、もう空は半分闇に沈んでいた。私は友人たちに手を振り、家路を歩いていった。
小高いところを走る電車が通り、轟音を響かせる。突風に髪を乱され、私は思わず立ち止まる。ふと、また誰かの声がしたような気がして振り返るが誰もいない。
弱い風がすり抜けていったとき、右手だけが少し冷たいような気がした。不思議に思い右手を目の前にかざすと、わずかに水に濡れていた。左手の人さし指でその水滴を拭うと、たちまち乾いて消えた。
完
管理者:Ryo Michico
<mail@ryomichico.net>
Powered by CGI_Board 0.70