「物語の作法」掲示板 (0023)


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島本 和規 課題2/「かっこわるい恋とか愛」感想 2003年05月08日(木)11時30分38秒
水落麻理 作品1A かっこわるい恋とか愛 への応答

うーんかっこわるい。課題の提出もせずに、そのうえ寝坊してしまいました。
これから行っても間に合わないので感想だけ言わせて下さい。

この作品を読んでおもしろいなと思ったのは、語り手としてのあけみの言葉。
彼女の語る言葉はとても冷静で、遠くから自分の姿や他人を見ているという感じがする。
それなのに、あけみの感情、健太に対する愛情はとても感情的。こういった言葉と感情のギャップにあけみの健太に対する想いの濃さが表されていると思った。

それと作品を読んでいて引っ掛かったのが、英子のキャラクター。
英子は他の人とは少し違うイイ奴として描かれているように思ったのだけれど、
どうも典型的なイイ奴をしすぎな気がした。せっかく名前を持った数少ない登場人物なのだから、もっと特徴付けをして、役者で言うなら竹中直人や松尾スズキのような、変なキャラを持った人物にしてみたらもっと話が膨らんでいくのではないかなと思った。


杉井武作 課題2/「かっこわるい恋とか愛」感想 2003年05月08日(木)00時33分02秒
水落麻理 作品1A かっこわるい恋とか愛 への応答

恋愛にアイデンティーを捧げる女性がどういうものか以前から知りたかったので、とても興味深く読みました。この女性の心情は、今のところ自分とは相容れないものですが、それでもなにか伝わってくる気迫が文から感じられました。水落さんの以前の情景的で冷たい靄がかかったような作風とはまるで別物ですね。リアルで熱い、生命力が感じられます。
↓特にこの部分。

「さわんないでよ。」
この言葉で片付けられてよかった。同じ会社の人だもの、手なんかあげたら会社で合わす顔なくなっちゃうしね。
 でもそんなこと考える必要なんてなかった。その場面で出るのは手じゃなくて涙だったから。
 吐き出した一言は自分で思ったよりずっと低く息だけの声だったみたいで、彼は、え?と聞き返すときの顔をしていた。私はそのまま足の力も抜けてお酒のにおいが漂ってそうな地面にしゃがみこんでしまったのだ。ひざにひたいをのせたら口から出る自分の生暖かい呼吸を感じた。そのとたんから涙は止まらなくなったんだ。もうそれは、ほほを伝うよりも前に私のヒザにはたはたと落ちて、一生懸命涙を出そうとする体は小刻みに震えた。これは涙じゃなくて、涙とは違う成分でできてて、この成分をたくさん排出することは私の中のどんよりした、違ってしまった感情を排出することになるんだ。きっとそうだったらいい。だって私本当はわかってるんだ。男がすべての私なんてちっともステキな私じゃないこと。男のことしか考えられない私なんてかっこいい女にはほど遠いこと。
 突然の私の発作にあわててる隣の男もほんとは健太なんかよりぜんぜんいい人なんだろうね。だってこの人は健太みたいに私を泣かさないし、健太みたいに嘘つかない。きっとマニュアル通りの幸せを私にくれる。マニュアル通りの幸せがほんとは一番幸せなのかもしれないってこと、私最近わかってきたもん。だけど、だめなの。だってこの人は健太みたいに笑わないし、この人は健太の体温じゃない。健太じゃない。わかってる。私の心はチクチクとかむくんでるとか、そんなこととっくに通りこしててもうグチャグチャに膿んでるんだ。

ここで、「しゃがみこんだ自分」→「自分の涙」→「理性により分析された自分」→「隣の男」と、あけみの語り口はテンポよく客観性を帯びます。
感情的になったとき、人間はふと左脳で物事を考えて、そこに救いを求めます。「自分がどれだけ間違った方向に行ってるか」を見極めて理性との距離を確認しないと壊れてしまう。けど、それがわかってもどうすることもできない主人公。その心情描写のリアリズムに、なにか神がかったようなものを感じずにはいられません。
一般に恋愛依存と言われる女性に、僕は理由を求めていたことがありました。しかしこの文の有無を言わさぬ説得力は理由というものを排します。感覚であり本能、健太を必要とする根源的な生命の力です。
↓あけみは、そんなグチャグチャに膿んだ自分を最終的に肯定してしまっています。

「男のことしか考えられない私なんてかっこいい女にはほど遠いこと」→「かっこ悪いけどたぶん私は今すごくかっこいい」

あけみは自分が、理性で考える「かっこいい女」から遠く離れてしまったことを理解した上で、そんな自分を「かっこいい」と言い切ります。
これは開き直りともとれます。はたから見て、あけみが幸せそうとはとても思えないし、かっこいいわけないからです。
しかし、僕にはそこまで言い切れるあけみが「生きてく強さ」を持った女性に見えるのです。
健太を失ったとき、あけみはどうなってしまうのか?案外大丈夫なような気がします。落ち込むところまで落ち込んでから、起き上がり子法師みたいに、どんな状態でも自分を肯定する生命力でそれを吹っ切る。そしてなにか努力するか、また人を好きになるかするのではないでしょうか。そんな自分をがむしゃらに楽しむ余裕が実はあるんです。
僕がこう思うは必ずしも経験からでなく、中島みゆきの曲に教わったものです。そういった女性の生命力は自分には理解できない代物ですが、なにか強く惹かれるものがあるんでしょうね。

ところで、恋愛依存症と言われるものは、典型的な現代病のひとつではないでしょうか。
案外、一度寺か山にでも篭って断食すればいいかもしれません。どれだけ他人に心奪われても死なないけど、なんか食わないと死にますからね。自分を見失ったときは、精神を原始に返すと、人間本来の本質がよりクリアに見えてくるんです。

高橋阿里紗 課題2/「かっこわるい恋とか愛」感想 2003年05月08日(木)00時03分19秒
水落麻理 作品1A かっこわるい恋とか愛 への応答

遅くなってスミマセン;
水落さんの作品の感想です。

最初読んだ時、一人称のせいかドラマの脚本のようだなと感じました。
それにしても、文章でここまで情景をしっかり思い浮かべられるものを表現できるのはすごいなと思いました。
読んでるというより、観ている感覚に陥りました。
正直、友人に愚痴を延々と聞かされているような辛い感覚を味わいましたが、何だか最後には苦笑しながら「しょうがない子だな〜」って言ってしまうような説得力がありました。
あと、会社の人がカサブタを触った瞬間の感情の変化、すっごく良く解ります!
それまで普通に仲良く話していた人が、何でもないようなふとした仕草で急に顔も見たくなくなるような感覚。
それと、健太がカサブタに触れる瞬間の細かい文章表現。
それだけで、健太のゴメンナサイが伝わってきました。
本当にドラマのようだな〜って思いました。
多分、健太は甘えん坊でいじっぱりな子供のような人なんだろうな〜。
それを愛しいと思って許容してしまうあけみは、まるで親バカの母のよう。
これも一つの恋愛の形なんだろうけど、いつか限界がくると思いました。
女の人って、結局最後にはシビアだしな…。(笑)
こういうドラマ的な作品を、もっと読んでみたいと思いました。
それこそ月9ドラマのように、12回の続き物で☆




滝 夏海 作品2A「タイトル未定/プロット1(あらすじのみ)」 2003年05月07日(水)23時58分06秒

<あらすじ>
 ある日こだまは学校をさぼる。何が嫌だというわけではないが、なんとなく何もかもが嫌でつまらなかった。気の向くままに自転車を走らせていると、見知らぬ道に入り込んでしまう。霧の立ちこめる道の先には青い扉と青年。近づいてきたこだまに青年は言う「扉を潜ると違う世界へ行ける。気に入ればずっと暮らす事も出来る」と。考える期間は3ヶ月、それまでに決めるという約束でこだまは扉を潜る。
 扉を通り抜けたこだまは、不思議な世界を目にする。扉の前にいた青年が住むというどこに居ても見えるほど高い、真っ白な塔。一年中雨の森。世界を一周する、端のない川。赤い煉瓦の街。猫の耳や犬のしっぽの生えた、人では有り得ない住人達。そしてこだまと同じように迷い込んだ人々。こだまはそこでのどかで楽しい日々を過ごす。
 その世界でこだまは1人の少年と親しくなる。少年はこだまのことを「エコー」と呼び、自分も彼女も元々この世界の住人であると言う。しかしこだまにはそんな記憶は無い。住人だったと言い続ける少年と、否定するこだま。だがなんとなく見覚えのある風景や住人、何故か知っていた場所・習慣に出会い、段々とこだまは自分の記憶に疑問を持ち始める。
 さらに、知れば知るほどはっきりとしてくる、世界の不自然さ。霧に囲まれて一定範囲から出られない世界、成長しない住人、存在しない死。あとから教えられた住人になる条件「なりたい体を得る代わりに、今までの記憶を消すこと」。
 悩むこだまを置いて、他の迷い込んだ人々は帰る者と姿を変えて残る者に分かれていく。
 期限が迫り、あの青年なら、一番知りたい事を知っているのではないかと思い、こだまは塔を登る事を決める。最上階の部屋は壁一面に本が並び、中央には白い扉が置かれている。そこに居たのは最初にあった青年と、こだまのことをエコーと呼ぶ少年。真実を知りたがるこだまに、青年は一冊の本を渡す。開くとエコーと呼ばれていた時の事が、断片的に映像として頭に浮かんでくる。自分はこの世界の住人だった事、迷い込む人々に興味を抱き、人の体を得て彼らの世界へ出ていった事など、全てではないが思い出すこだま。そして本来戻るはずのないこだまを、少年の想いが呼び寄せたことを知る。その上で、こだまはエコーではなくこだまとして生きる事を選ぶ。
 別れを告げ、白い扉を潜るこだま。また少年も世界との別れを決め、後を追うように扉を潜る。
 気が付くとこだまは元の道に戻っている。時は動いておらず、脇には倒れた自転車。不思議な世界の事を忘れ何もなかったように自転車をこぎ出すこだま。世界の記憶は無いが、扉を潜る前よりも気持ちは前向きで明るくなっていた。

外島理香 課題2/「かっこわるい恋とか愛」の感想文 2003年05月07日(水)23時25分21秒
水落麻理 作品1A かっこわるい恋とか愛 への応答

おそらく、語り手の年齢と私の年齢が近く、10代後半から20代前半の女の子がする感じの「かっこわるい恋とか愛」という題材だったので、全体的に親近感を覚える内容だった。

「何、あけみ!どうしたの、それ!」と、朝声をかけてきた同僚を描写する時のあけみの、いかにもその同僚が嫌いという感じの乱暴な口調と、健太を目の前にした時の、恋している女の子らしい口調の差。それは良い波があってあけみの感情が露わで、それにつられて読み手の感情も移入される。

ただもう少し、肉付けしたら、もっと良かったと思う。物語における、年齢・場所・時間の設定を明確にして、登場人物同士の関係を膨らませると良いのではないでしょうか。健太とあけみの関係はどっからで、舞台はどこで、いつからいつの期間を語った話なのか。
会話をもっと増やして、それで登場人物の関係性を醸し出しても良さそう。その時、英子はきっともっと重要な人物になるはず。

それから、さっぱりしている水落さんの感性も良いのだけど、見せ場をもっとドロリとさせると、後味が濃厚になると思う。私だったら健太よりも「ヒゲはやしたら似合いそうな顔立ちしてる人」との幸せとるけどなーとか、もっと“同僚”にOLが語りそうな理想の結婚を含めた恋愛観を語らせて、“同僚”はうざいこと言っていたけど一理あるなーとか、読み終わった後に考えたい。そういうドロリさはジャンルが違うかもしれないけど、そのドロリさって、きっと読み手をグンと物語に引き入れるものがあると思う。

「声にもなってない健太のゴメンナサイは声にだすよりはるかに重い。」この言葉と入れ方は好き。

西村 和(にしむら わたる) 課題2/「かっこわるい恋とか愛」感想 2003年05月07日(水)23時23分54秒
水落麻理 作品1A かっこわるい恋とか愛 への応答

女性にだって傷の勲章があってもいいはず。あけみの唇にできた傷は、きっとあけみの勲章なんだろうなぁ……と思った。
あのカサブタは、あけみの健太への気持ちの表れであり、露骨で不器用だけど、絆の表れなのだろう。そうでなければそのままに放ってはおかないはず。決して「謝ってよ」なんて言わない。傷も痛むけれど、それ以上に心が少しだけチクチクする。そんなあけみの心情を、あのカサブタが表現していたように思います。そして、それを悟ったからこそ、健太も言葉ではなくカサブタにキスするという方法で自分の気持ちを表現したのだろう。
恋愛にマニュアルなんてないと、僕は思う。自分なりの表現で気持ちを形にするものだと思う。他人には歪に映るかもしれないが、あれがあけみと健太の恋愛なのだろう。あけみの気持ちに気付き、健太らしい表現で愛情を示した健太はかっこいいし、そんな健太をわかってあげているあけみもまた、かっこいい。

紺野暁広 課題2/かっこわるい恋とか愛を読んで 2003年05月07日(水)21時45分31秒
水落麻理 作品1A かっこわるい恋とか愛 への応答

読み終わった後にはさっぱりとしていて不快感はなかった。健太という男が主人公、あかねによって魅力的に語られたからだろう。
ミッキーとマロリーがお互いの暴力に依存しあっているのに対して、こちらは健太が暴力をふるいあかねはそれを嫌い、しかし健太に恋をしている。初めて読んだ時は二作品をつづけて読んだためそんな印象が強かった。だが改めて読んでみると、健太のふるった暴力の結果の「カサブタ」がうまく働いて二人を書いていることに気づいた。
まず最初の場面では、同僚の言葉に対するあかねの心の中の答えがこれから書かれるすべてを凝縮されていたのに気づいた時にははっとした。
つぎに「カサブタ」について。場面が変わり英子が登場し軽くカサブタにふれる。が、それからしばらくは一切カサブタはあらわれない。背の高い彼があかねのカサブタに触れた瞬間、それまでの落ち着いた雰囲気から一転、あかねのどろどろの内心が、どんなに痛いかが一気に描かれる。健太につけられた傷、カサブタが、スイッチのような役割をはたすところが上手いと思った。またあけみがただ泣くのではなく、息を吐き体を震わせ泣くといったところが慟哭といった感じでぐっとひきこまれた。
そして場面は二人の住む部屋。明るい言葉と笑顔、入り口で立ちすくむあけみの目を覗き固まる健太の目、近づいてきた健太の手に思わず身を硬くしそれに止まる健太の手。これらによって健太はぐっと身近な人間として、また不器用な愛されうる人としてあらわれる。
そしてカサブタ。健太があけみのカサブタに触れ、キスをする。男のごめんという気持ちが何とも美しく書かれていてため息がもれそうだった。男が、自分で女につけた傷にくちづけをするというのは何やら艶な雰囲気をかもしだしていた。またここまで読み進めた時には名無しの彼が健太と指や手、笑顔などで比較され、いい引き立て役にもなっていた。彼の笑顔は好かれそうな笑顔で、健太の笑顔はすごく好き。
自分は基本的に女性に暴力を振るう男なんぞは好かんのですが、この健太は憎めず嫌えずでした。

菊池佳奈子 課題2/感想文【かっこわるい恋とか愛】 2003年05月07日(水)21時23分29秒
水落麻理 作品1A かっこわるい恋とか愛 への応答

最初読んで思ったのは文章がすごくすんなりと入ってくるなぁと。
凄い文章力があるってわけでもないのに素直に入ってくる文章でした。
でもところどころ凄い良いっていう表現があって
例えば『首の周りいっぱいに〜悪くないのかもしれない。』とか
『あんなに大喧嘩のあとでもこうして〜何倍も健太だけなんだね。』とか
さりげない部分で凄く光ってるなぁと思いました。
あと、最後の方の『目から入り込んできた夜は私の体のおなかの部分まで下りてきて』
って部分が凄く良い!!
此処は素晴らしく光ってました。

ただ最初に読んだときに、短いからかもしれないけれど、背景が少し説明不足なんじゃないかなっていうのは感じました。
健太との今までのやりとりとか、重要だと思われる朝の喧嘩のやりとりが書かれていない。
そこが良いのかもしれないけれど、私は読んでいていまいちすっきりしない感じを受けました。
どれだけこの『私』が『健太』のことを好きなのかというのを、もっとエピソードまじえて書いたらどうでしょう。

あと、この短さの中でも『英子』の存在をもっと生かすことはできたんじゃないか。と。
これだけ中盤で主人公に関わってくる『英子』が話にいまいち絡んでこない。
そこが中途半端で気持ち悪い感じを受けました。
ここまでキャラを途中まで立たせているのだから、もっとこの話のなかで『英子』の存在を大きくしてしまった方が良いと思います。

http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Apricot/1583/

滝 夏海 課題2/かっこわるいかっこよさが見える文 2003年05月07日(水)18時44分52秒
水落麻理 作品1A かっこわるい恋とか愛 への応答

すらっと読めるし気持ちいい。女性向けのコミックにありそうだし、9時台や10時台のドラマにもなりそう。でも、まだ物足りない。読み終わった後の印象が、薄いんです。キレイで透明で、だけど手で掬っても指の間からこぼれ落ちてしまってあまり残らない、水みたいな文章だなと思いました。もう少し細かい部分(地の文の言い回しなど)に気をつけたり書き込んだりするだけで、だいぶ良くなると思います。
例えば年齢。OLの幅は広すぎますから、だいたい何歳くらいなのか見当の付くキーワードを入れた方が主人公が見えやすくなります。他に、健太とつき合って長いのか、とか想像出来るようなほんの小さなエピソードを加えてみたり。
そうすれば、コップといわずにピッチャーや盥で掬って飲み干して「あぁ、満足した」と言える所までなるんじゃないでしょうか。

古内旭 課題2/水落麻理作品1『かっこわるい恋とか愛』 2003年05月07日(水)17時41分10秒
水落麻理 作品1A かっこわるい恋とか愛 への応答

文章が主人公の一人称で書かれていて、一般的な認識と主人公の認識がずれています。これが一つのテーマとなる部分だと思います。そしてその二つは、本作では残念ながら交わることがありません。
冒頭近くの主人公の友人が、彼女を心配してあれこれと言いますが、ごく当たり前の正論です。それを「ちょっと笑えた」とまで残酷に否定しています。勿論、この「笑えた」には自嘲的な諧謔が込められているのでしょうが。
一般的な認識、と書きましたが、主人公はそうした一般的な認識をとにかく嫌悪しているようです。最初の友人にしてもそうですし、後に出てくる「マニュアル通り」も。「普通」とか「一般的」、という言葉の定義もなかなか難しいものですが、主人公はそれを明らかにマイナスの言葉として捉えていて、頭では色々考えているようですが、そういう見方しかできないでいます。
そして、そういった「普通さ」の象徴であるかのような会社の男が現われ、彼が彼女のカサブタに触れた瞬間に、思いが爆発するようなところがあります。その爆発は攻撃的なものではなかったのですが、「普通」の侵入に対する精一杯の防御であったことは確かです。
そして、そのアンチテーゼとしての健太に主人公は惹かれ、ラストには自己肯定に結びつきます。

最後に個人的な感想を言えば、作者による朗読がとても良かったと思います。
若者言葉のような舌足らずな文章がなかなかに雰囲気がありました。

東條慎生 課題2/境界線の影 2003年05月07日(水)16時05分42秒
水落麻理 作品1A かっこわるい恋とか愛 への応答

暴力の影がちらついているところが、奇妙に越智さんの作品との類似性を思い起こさせます。
恋愛の暴力的側面が、ともに相手への依存関係を際だたせる素材となっていることや、それがおのおのの登場人物なりの本当の愛や幸福へと繋がっているところが、また相似を形づくっているとも言えます。
なにも、両者の作品の相似性をとやかくいうつもりではなくて、その意図するところが、マニュアルもしくは凡庸さからの脱出という意味を与えられているところが、面白いなと思ったのです。恋愛小説、それも一人称の恋愛小説が、このようなプロセスを踏んで、自己の特殊化を図るものなのか、と。
語り口の相違を示すこの両者の作品が、そのような形で類似性を示すのは、恋愛小説のジャンル的な問題によるのか、書かれる時代によるものなのか、または単に書き手の精神性の類似によるものかは判断できないところです。ただ、気づいたところを書いてみました。

作品それ自体について。
一人称を意識的に助詞を省いた文体で書いて、親密さを感じさせるような文章にしているのは効果があるのですが、単語の選択に違和感がある部分もあります。宮田さんも指摘していましたが、「周囲」という言葉はわたしも引っかかった部分です。ここで単語の水準が三人称描写の水準になってしまっていると思いました。
後半の健太と遭遇する場面は結構緊迫感があって面白いです。相手との距離が壁で隔てられているような気がしているところに、健太からの言葉を聞く、するとすっと主人公の緊張が解ける。
言ってみれば、主人公が健太という人間に対して、どのように距離を取りうるのか、それを試行錯誤するという物語なのでしょう。健太との境界線の幻影に怯える彼女の姿は、物語のイメージを鮮明に描き出していると思います。また、その境界線が幻影である故に、つまりは語り手であり主人公である「あけみ」が一方的に思い、感じている境界線であるが故に、ことは全て一人称でしか語り得ないものであるのでしょう。これが、三人称で書かれるならば、滑稽譚です。
だからこそ、末尾の一言はこの作品の最後に付け加えられねばならないものとなります。三人称的な視点で見れば滑稽である関係を、自身の主観のうちで転換させているというわけです。ここで、かっこわるいが三人称=客観的であり、かっこいいが一人称的=主観的言葉として位置づけられているのを見るのはたやすいでしょう。
健太という人間の印象が多少希薄であるとも思いましたが、これはやはり一人称であるので、あけみの主観を通した彼しか存在しないため、明確にキャラクタを描くことは難しいのでしょう。あくまであけみによって健太をみることがこの作品の行き方であると思うので、そのようにしてあけみ的健太像をもう少し書きこんでみるというのも手でしょうか。三人称的にカチッと描くのではなくて。

気になる点もないではないです。主人公がそのように自身を好意的に位置付け直す部分には、自己を批判的に見る回路の欠落を指摘することも可能ですし、関係を捉える眼が一元的であるとも考えられるのです。宮田さんがこれは愛ではなく恋ではないかと書いていましたが、わたしがその意見に同意するのは、上記の点においてです。それはもちろん宮田さんとわたしの判断が同じだということではないのですが。
また、「マニュアル」という言葉にも、違和感を感じました。「マニュアル通り」がすでに批判対象となりうるのかという疑問なのですが。マニュアル通りであることを批判するのはたやすいのですが、それが簡単でありすぎるため、それを導入することはかえって作品を平凡なものにしてしまいかねないとも思うのです。今は、すでにマニュアル通りであることがかえって羨望の対象になっているのではないかとも思うのですが、どうでしょうか。

宮田 和美 課題2/それでもやっぱり恋へゆく 2003年05月07日(水)15時17分56秒
水落麻理 作品1A かっこわるい恋とか愛 への応答

好きになったもん負けな感じがよかったです。
両思いなのに片思い。
どうにもならない思いの重さの違い。
あーせつねえ。
伝わってきました。
具体的には
「それを越えることは健太に嫌われることなのかもしれないと思う」
「あんなに大喧嘩のあとでもこうして笑える健太はやっぱり私より一枚上手で、
うつむいてしまう私は健太より何倍も健太だけなんだね」
「この人も少しはドキドキしてくれてるのかな?」
とか、あー。わかるわかる
わたしは、「健太が帰ってきてる」からラストにかけてが特にすきで、
二人の思いが近づいたような近づいてないような、よくわかんないけどキスがきもちよくて幸せー
なかんじがすき。
水落さんは恋愛体質なんだなあと思いました。
わたしには書けません。(だからダメなのかちら?)

ラストが気持ちよかったのに対して、
出だしが弱い印象をうけました。
時間の移動、というか、回想への移動というか。
8行目の「何、あけみ!どうしたの、それ!」から回想に入っていますが
それがわかりづらくて、
その後の「朝の挨拶変わりに」の朝という言葉で
えっ、朝なのーって思ってしまいました。
提案としては回想のひとつ手前の文章「周囲の反応は意外に大きかった」の
「周囲」を、職場、とか、出勤したときの、とかに変えてみたらどうでしょう。

人物描写とあけみの感情が混ざってしまっている感じがしました。
具体的な情報が少ないというか。
感想がわるいとかそういうんじゃなくて
もう少し描写がほしいなーと思いました。
同僚の、「心配してるときの顔のお手本みたいな顔」
っていうのがすきです。このひと生き生きしてる感じがする。

あ、「かっこわるい恋とか愛」の愛、に違和感を感じました。
愛じゃーねえなーって、読んでから思った。

長くなっちゃった。
こんな感じです。
水落さんの言葉が持つ、
それでもやっぱり恋へゆく前向きさがすてきです。

室橋あや 課題2/かっこわるい恋とか愛 感想。 2003年05月07日(水)15時03分26秒
水落麻理 作品1A かっこわるい恋とか愛 への応答

母が毎月8日に発売するヤングユーって雑誌をいつも楽しみにしているんですが、
この作品は本当にその雑誌を読んでいる気分になりました。
全体的にOLさん向きの恋と仕事のストーリー。ヤングユーけっこう好きですが、私はあまりそっち方面の経験が多くないので、どうも違う世界の話だなと思って読んでしまい、感情移入するまでには至りませんでした。前のときも感じましたが、暴力をアクセサリーとしてつけることは一つの技法なんでしょうか。
私的に始めの方の「健太はなにもわるくないのかもしれない〜」というセリフが好きです。

瓜屋香織 課題2・感想 2003年05月07日(水)13時48分02秒
水落麻理 作品1A かっこわるい恋とか愛 への応答

私は最後の、「かっこ悪いけどたぶん私は今すごくかっこいい。」って表現好きです。
なにがかっこいいとかって人によるけれど、かっこ悪いことをかっこいいと感じられる自分だけの価値ってすごくいいなとかんじます。それが、てさぐりでも。
だからあけみって羨ましいな。
綺麗とか、汚いとか、幸せだとか不幸せだとかって、両極にあるもののような気がしていたけど、背中合わせにあるものなんじゃないかなって、思います。
人にはわからない気持ち、誰とも分かち合わない自分だけの気持ち、私だけの気持ちを持てることって、本人にはつらいこともあるのかもしれないけど、いいなあって思うのです。

文章は読みやすくて、ドロドロしたかんじがなくて、爽やかでした。
そこがよいところでもあるし、ちょっぴり物足りないところでもあるような気がします。
もっと、健太のどこが好きでたまらないのか具体的に知りたい気もするけど、「好き」ってことに、あんまり理由とかきっかけとかって関係ないかもって思うので、「好き」は好き、みたいな今の表現でも、いいのかなとはおもいました。

宮田 和美 作品1A/ワンモアタイムワンモアチャンス 2003年05月06日(火)15時30分33秒

 ナガオに何度もうたってとせがんだ山崎まさよしの曲がのっているページには、いっしょに山崎邦正の「ヤマザキ1番!」と山崎ハコの曲ものっている。私はその人たちの曲は一度たりとも聞いたことがなかったし、山崎ハコにいたっては男か女かも知らない始末だ。ただ、ナガオがうたっている間、このページにちらちらと視線をおとして今日は何をうたってもらおうかなーと考えてたころの私、のゆるんだ頬をこの人たちは知っている。三人の山崎、略してサンザキ。
 ナガオは自分がうたっている最中に私が席を立つと、決まってふきげんになった。だから私は自分のうたを一曲、ぎせいにしなくてはならない。だだっこで、怒りっぽいくせに、思っていることを口に出さないナガオのわがまま、口に出せないナガオの弱さ。

 「まいちゃん」
 ふいに呼ばれて顔を上げると、それとほぼ同時にギターの音が耳をつんざき、私はなんだか後悔した。いずみくんは私の顔をのぞきこんでいる。うたう気になれなかったので、「ごめーんおしっこー」と言い残して部屋を出た。
 トイレの水道をおもいっきりひねる。水の勢いは痛いほど強くて、ちょっとでも気をゆるめると負けてしまいそうになる。いそがなくちゃ次の曲にいっちゃうと思いながら、目の下に落ちてるマスカラを無理やり指でぬぐい、髪を直す。あぶらとり紙で鼻とかおでことかをふいて、グロスをつけて、全身鏡で全身をチェックする。なんだ私捨てたもんじゃないじゃんとか思って、ちょっと微笑んだりなんかしてたら、入り口のドアを押すおねえさんと目が合った。はずかしいので逃げるようにそそくさとトイレを出て、212番の部屋を探す。

 あの日もこうやっていそいで部屋に戻った。ナガオは目をつぶっていて、私がただいまと言っても目を開けてはくれなかった。心臓がざわざわするのをこらえて隣に座り、ナガオの髪をゆっくりとかす。ただいま。ほっぺたをそっと、肩にくっつけてみる。
 ナガオは目を開けた。目を開けて、じっと私をみつめた。怒ってはいなかった。けれどその目を見て私は、もう二度と許してもらえないような気がした。
 それから三週間、ナガオとは連絡がつかない。私は一日のほとんどを前と変わりなく過ごしている。けれどふとしたきっかけでこのことが頭をかすめた瞬間、途方もない後悔でぐらぐらする。
 どうしてナガオひとりと向き合えなかったんだろう。どうしてだれにでもいい顔をしようとしたんだろう。
 ごめんなさい。ナガオ、ごめんなさい。

 ドアにはめ込まれているガラスから中をのぞくと、いずみくんが大変なことになっていた。ソファーの上に立ち、ジャンプして頭をぶんぶん振りながらうたっている、ひとりで。なんでか知らないけどマイクはアイドルみたいな両手持ちになっている。ドアを開けると私が入れた「Over Drive」がどっと耳に入ってきた。へたくそ。てゆうかもう歌じゃないし。
 いずみくんは優しい。とんちんかんで、激しくずれてるけど、まっすぐにやさしい。私は笑って、申し訳なくなって、もうひとつのマイクを取るとソファーにのぼってうたい始めた。
「あー!ゆめはー!いつまーでーもーさめなーいー!うったっうっかっぜっのようにー!!!」
 いずみくんは私をみて、よれよれになりながらソファーに座った。肩で息をしながら笑ってるいずみくんをみて、私も笑った。そして、恩返しのようにうたい続けた。いずみくんが私をすきでいてくれることに、その存在に。

愛しい日々も  恋も  優しい歌も
泡のように  消えてくけど
あぁ  今は  痛みとひきかえに
歌う  風のように

 本当はわかっていた。ナガオじゃなくちゃだめだってことに。優しくもない、大切にもしてくれないナガオ。でもそれを考えるとどこまでも落ちていけそうなきがしたので、とりあえず今はいずみくんに捧げるロケンロールに専念することにした。 
 テーブルの上のかどの折れた本から三人の山崎略してサンザキが、じっとわたしを見つめていた。
 

奥野美和 作品4/季節の集まる日 2003年05月05日(月)11時53分37秒

守れない約束をしたさよならは またねに変わるむくんだ魔法

いつのまにはぐらかされてばかりいて でも運だけは良いと信じて

あきらめることは未来をふさぐこと そう思ってた二十歳の夏に

さかあがり誰のためでもなくて そう 星に見せたのレースのパンツ

温度差を感じたままでそばにいる覚悟もなくて ヨーイ の姿勢

繰り返し練習をしたアリガトウ      ゴザイマシタを付けて過去形

気に入ってくれているのはわかってるでも欲しいのはコイアイヒトミ

定規では切れないことを知りながら手首に当てる動かしてみる

ゆっくりとあきらめていくことなんて できるのかしらできてるかしら

圓山絵美奈 課題2 2003年05月02日(金)17時11分44秒
水落麻理 作品1A かっこわるい恋とか愛 への応答

感情移入しやすいかんじのお話だと思いました。
日常にありそうで何かしら共感してしまう部分があると思うし、
個人的には同じ会社の彼にカサブタを触れられた時の

「なぜかその瞬間、彼の背の高いところも、よく笑う所も、何より
彼の指に一番腹がたった。私の顔はきっとその時すごくゆがんでいたと思う。
頭の中で彼に対する印象なんてすべてふっとんで、目の前の男は
へらへら笑ってる芯のないバカだとしか思えなくなった。」

のところが好きです。その時の情景がすごく目に浮かぶし、
読んでいる私にまで指の感触が伝わってきそうでした。
それにこのシーンは特に日常にもありそうなリアリティを感じます。
また、健太のことが本当に好きなんだという主人公の気持ちが
鮮明に伝わってきました。
あと前半カサブタでだいたいの健太の人間性を伝えようとしてる
と思うんですが、もう少し健太のキャラが分かるような事を
いれてもいいと思いました。全体的に個人個人のキャラが薄い気がしたので。
あと文章的な部分で気になったのが
「うつむいてしまう私は健太より何倍も健太だけなんだね。」
ここは、言葉が足りない気がします。
健太が私を想う気持ちより何倍も・・・って事でしょうか?
ちょっと気になったので。

全体的にテンポがよくて、すらすら読めました。
これから健太とどうなっていくのか楽しみにしています。



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管理者:Ryo Michico <mail@ryomichico.net>
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