「物語の作法」課題提出板 (0022)


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古内旭 作品1/『るりえの帰還』 2003年04月30日(水)23時09分42秒

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越智美帆子 課題2:感想 2003年04月30日(水)17時25分05秒
水落麻理 作品1A かっこわるい恋とか愛 への応答

 水落さんの作品は、前からとてもキレイで、何がキレイかと言うと、文章に無駄なく登場人物の心というか人間性というか、それがとてもキレイだと思います。この話の主人公も、健太も、飲み屋で知り合った男も毒がない。たしかに、主人公は心の中でことあるごとに皮肉を言ってみたり、健太は女の匂いを首の周りにいっぱいつけて帰ってきたり、飲み屋で知り合った男は変にうざかったりするけど、みんながとてもいい人に思えます。それがいいなぁと思う反面、少し物足りない気もします。
 物語の中で、すごい、と思ったのは、主人公がかさぶたに触られて怒る、というところです。健太への気持ちがすごくよく表れていると思いました。口で言うより、例えばキスするとかの行動で表すより、ずっと強烈に伝わってきました。
 

奥野美和 課題2/大切な作品にして欲しい『かっこわるい恋とか愛 』 2003年04月29日(火)02時23分36秒
水落麻理 作品1A かっこわるい恋とか愛 への応答

全体のリズムが心地良く、キラリと光る描写が魅力的な作品で
とても感じが良いと思いました。これは、とても楽しみなお話です。
そしてこれからの水落さんに、期待しちゃうお話です。
このまま大変だとは思うけど、
鍛錬、修練、このお話を大切に1つの作品にして欲しいと思います。

さて、ちょっと提案です。
主人公は、どんな服装の子なんでしょう?
そして彼との出会いは、どんなはじまりなのでしょう?
(最初は彼からの熱烈アッピールだった、とかでも温度差があって良いかもしれないですね)
彼は働いているのかな、同棲中なのかな、もともとはどっちの部屋だったんだろう。
そんな部分を足していったら、また主人公が生きてきそうな気がします。
どうでしょう?

あとあけみはOLなのかな。その会社での場面をもう少し取り入れても良いかもしれません。
仕事をバリバリこなしている感じではないですよね。

『男がすべての私なんてちっともステキな私じゃないこと。男のことしか考えられない私なんてかっこいい女にはほど遠いこと。』

って部分がありますもんね。かっこいい女に憧れているのですよね。。
いやしかし、あけみの気持ちわかるなあ。今のわたしは男の子中心じゃないけど、
19歳の頃は恋、恋、360日好きな男の子のことを考えていた。
バイトもしていなかったし、で、心のどこかで「こんなんじゃ駄目だあ」
とも思っていました。

では、提案に戻ります。

最初の場面は「日が暮れ始めている」のですよね。
そして英子と待ち合わせの場所に向い、その後回想で、
会社のロッカーでの会話になる。ちょっとわかりづらいから
もう少し工夫をしたらどうでしょう?

あと『さわんないでよ。この言葉で片付けられてよかった。同じ会社の人だもの、
手なんかあげたら会社で合わす顔なくなっちゃうしね。』と言う場面。もうちょっと盛り上げてみても良いかな、と思いました。
きっともっと切羽詰ってるんじゃないかなあ。
でも、この冷静さが良く笑う同じ職場の男性を『よく笑う人って絶対人から好かれるんだろうな。私にはできない芸当だわ。』と思わせるのでしょうか。この職場の男性が、もっとあけみちゃんに馴れ馴れしくしても良いかもしれませんね。なんて、わたしの妄想もかなり入ってますが。参考として聞いて下さい!

では、最後に好きな個所を抜き出します。
『職場の近くだから会社の人間に会うことなんて珍しくもないけど、いいタイミングでいい人みつけた。』の『いいタイミングでいい人みつけた』の部分のリズムが好きです。
水落さんの朗読の感じも、ここの個所、とっても良かったです。まだ耳に残っています。

あとは『冬の夜は濃くて、目の奥へ夜がじわじわと入り込んでくる。その夜の中にある明かりは夜の濃さと一緒に力強さを増す。』。
とても表現が豊だと思いました。暗闇から見える光は本当に強い。
夜中にトイレで目がさめて、電気をつけたときの見えなくなる感じを思い出しました。

で、最後に『これじゃまるで今朝の健太を責めてるみたいだ。またケンカのむし返しになっちゃう。』の部分。
映画「blue」をどなたかご覧になりましたか?
そこの場面でも、この「責める」という言葉が出てきて、私の気になる言葉でもありました。
自分の気持ちでは、どうしようも動かせない相手の気持ち。
その相手を責めたくないのに、責めてもしょうがないのに
「どうして?」という気持ちが湧く。なんでわかって貰えないんだろう、と思う。
でも、このあけみちゃんは相手を「責めたくない」と思ってる。そこが、謙太への恋に落ちている感じをよく表していると思う。
そして暴力を振るわれても好きだという気持ちも。



長くなりましたが、個人的な思い入れもたくさん書きました。
それほど、この作品がわたしは気に入り、希望溢れるものだと思ったからです。
治す所はあるし、これはまだ始まりだとも思います。

ああ、本当にこれからが楽しみです。
あ、あとタイトルが「かっこわるい」と言ってしまっているけど、
あけみちゃんは最後に「かっこ悪いけどたぶん私は今すごくかっこいい。」
と言っています。なにか意図はあるのでしょうか?


これからも楽しみにしています!

あと暴力を振るう男性が出てくる小説(と言うのも変)で、
山本文緒「ブラック・ティー」(角川文庫)
の中にある「少女趣味」と

あとはセックスをする時に痛くする(と言うのもまた変)
川上弘美「溺レる」(文春文庫)
の中にある「可哀想」という短編が参考になるかどうかわからないけれど
面白いので良かったら読んでみて下さい。






川村彩乃 課題2/水落麻里 作品1A かっこわるい恋とか愛 2003年04月28日(月)14時13分08秒
水落麻理 作品1A かっこわるい恋とか愛 への応答

 かさぶたがついてくる。どこを読んでもついてくる。かさぶたからものを見ているように感じた。人物の気配はあるのだが、顔が見えない。飲み会の後に男の子に傷をさらわれた瞬間にふとその男の子の本来の顔が現れ、ゆがんで消えた。

五十嵐 舞 課題2:かっこわるい恋とか愛の感想 2003年04月28日(月)13時19分30秒
水落麻理 作品1A かっこわるい恋とか愛 への応答

 こんにちは、五十嵐です。初めて批評しますので、気分悪くされたらすいません。 
とても文章の構成などはいいのですが、キャラの設定がいまいち不完全だと私は思います。別に主人公がOLでなくても大学生でも言い訳じゃないですかOLだとKISS
などの漫画雑誌によくあるパターンで私的にはあまり面白くないと思います。
また、決してストーリーの内容が悪い訳ではないですが、読後にあさっりしすぎて印象というかイメージがあまり残らないのがとても残念です。すごく内容の構成はいいのに、どこか決定力がかけるというか印象がないんです。
 又場面ヤ時間の転換がはっきりしない部分があるのと、ところどころ説明不足かな?と思われる部分がありますので、そこのところはもうちょっと書き込んでいいと思います。後半部分はとても読みやすかったのですが、私の中で導入部のところがかなり上のところで指摘した点があるので直した方がいいと私は思います。健太って働いているのですかね。雰囲気としては年下思えるのですが・・。
 でも、総合的にいうと作品自体の仕上がりはいいので、あとは細部の手直しをすればぐんといい作品に仕上がると思います。あと、もっとキャラの細かい部分の設定をしたほうがもっとこの作品にいい味でると私は思います。
 今度、私が作品をだしたら、ビシバシ厳しい批評をして下さい。では。

菊池佳奈子 作品1A/青い旋律 2003年04月27日(日)16時00分09秒

 外は雨が降っていた。しとしとしとしと…。冷たい静寂の中でその音だけがただひたすら響きつづけていた。千里は思う。何故にこんなに寂しいのか。
 家族には恵まれている。両親は千里を大切に思ってくれているし妹の真奈美もそうだ。時折千里が塞ぎこんでいると妹の真奈美はいつもでは考えられないくらい優しい。恵まれているのだと思う。少なくとも両親家族全員そろっていて、それなりに生活できる財産もある。時折テレビで流れる今にも死にそうな子供達。民族騒動で争っている人々。そんな人のことを思うとやりきれなくなる。千里は自分の全てをその人達に与え渡したいとさえ思う。恵まれているのだ。自分に言い聞かせるように何度もくりかえす。それでも漠然とした寂しさは消えない。
 何故こんなに寂しいのか。
幼い頃から時折切に寂しくてたまらない瞬間があった。歳をとっていくにつれてその度合いと頻度は増えていった。十九の今、それは溢れんばかりに千里の心の中を埋め尽くしている。歳をとっていっても何故寂しいのかはわからずじまいだった。寂しい。ただそれだけ。その感情が溢れんばかりに支配し、何も手につかなくなる。その終わりは何処にも見つからなかった。おかげで大学には通えなくなる。家の中に引き篭りぼんやりと外を眺めているばかりだ。しかし景色のヒトツも千里の心の中には入ってこない。寂しさで埋め尽くされた千里の心には何も入ってこなかった。
 しばらく窓際で幾千もの雨粒を眺めていた千里の耳にふとかすかな音が聞こえた。最初は気付きもしなかったが、それは強く脆弱に少しずつ少しずつ千里の意識に入ってきた。何の抵抗もなく、千里はその音を受け入れた。その音は糸のように細く、届かないあの空の星屑達よりも高く、しかし決してかすれることなく、硝子球のように美しく脆い旋律を奏でていた。何の楽器かもわからない。ただ音のなぞる物語だけが千里を包み込んでいった。雨と寂しさに埋め尽くされて何処にも隙間を見せようとしなかった千里の意識の中にやわらかくやわらかく少しずつ領域を広げる。
 不思議な感覚だった。恋人に抱きしめられた時のように、甘く切ない。何もかも手に入れたような、それでいて不安定な雲を掴んでいるような。嬉しいとも悲しいともつかないその感情は、しきりに千里の中の何かを掻き立てるように、しかし千里のすべてを受け入れるように、千里の意識の根本に訴えかけた。
 「あたしは此処に居るのよ。あたしは此処に居るのよ。あたしは此処に居るの…」
 千里は呟いていた。意識することなく、絶え間なく続くココロの音が少しずつ漏れていく。しかしそれはたったひとつの旋律だけを唄っている。
 
あたしは此処に居るの。
 
 ただそれだけを認めてほしかった。あたしがあたしであることを。それはシンプルでとても簡単なこと。だけれどまわりの人の目の中の千里は、千里の中の千里と少しずつ違っていて。千里は千里でしかないのに。人の前に立つとその瞳には違う千里が映っていて。あたしはあたしでしかないのに。全てを認められている気分にはなれなかった。それを認めるには千里は幼すぎたし、まわりに全部をさらけだせるほど強くなかった。だけれども、ココロの奥底までもみつけて欲しかった。贅沢な願い。ただほとんどの人がそれを探し求め続けている。
 頬に冷たい感覚を覚え千里の意識は一息でリアルに戻る。何かどこかが開放されたような。感覚。何が変わる気もしなかった。ただ、何かを変えるかもしれない予感に少し胸がざわざわしていた。
 窓際で千里はまた幾銭もの落ちていく雨粒を見た。さっき聞こえた音はもう聞こえることはなかった。静かに涙がながれていった


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奥野美和 作品3「スカートの裏地は空」 2003年04月26日(土)21時45分28秒

君のそば近づくたびに心臓がここにあること確認してる

目の前にある情けないはえぎわをどこまでもずっと見守るでしょう

これからは君のちっちゃなハナウタがわたしの恋のテーマソングよ

今晩の月はきれいと真っ先に伝えたくなるそんな彼です

試しにさあの子浮かべていいからさ練習台で抱きしめてみて



いつの間に落としちゃうのを恐れてるわたしのパンツ穴があいてる

離せない落としとたんヨーヨーのように慌てて引き戻しては

動けずにアナログ時計にらんでた微妙な針をよめないでいた

にぎってたいちばん好きな色合いのぬるいビー玉わたせないまま



島本 和規 課題1/星兎の感想文 2003年04月24日(木)04時18分38秒
▼課題と連絡:課題1/感想文と自己紹介 への応答

うさぎって結局なんだったのだろう?本を読み終えて心地よい気持ちと共に疑問が残っていた。うさぎはなぜユーリを選んだのだろう?ユーリはなぜうさぎを受け入れられたんだろう?そしてうさぎはなぜいなくなってしまうんだろうか?頭の中に疑問が残った。
 
 ぼくなりの解釈ではこうなる、ユーリはうさぎを待っていたし、うさぎはユーリに会いにきた。もちろんユーリはうさぎが来るのを待ちのぞんでいたという意味ではなく、現状の自分からの解放を待っていた。そして、それをもたらしたのがこの物語ではうさぎだった。そういう意味でユーリはうさぎを待っていたとぼくは考える。
 ユーリはうさぎと出会うことで自分は「ぼく」のふりをしていることに気付く、ユーリの心がうさぎとの交流のなかで解放されて行ったのが、出会ったころの話と、別れの日の話を同時に進行されていることによってよく見える。二回目を読んだときにユーリの「ぼくといっしょにいきたいんだろ」という言葉がなんだかとてもいいなと思った。ユーリのうさぎに対する安心がにじみ出ている気がした。別れの日のユーリはうさぎと出会った頃よりもきっと優しくなっているんじゃないかと思う。
 こうして考えるとやはりうさぎは、ユーリの為に現れたんじゃないかと考えてしまう。うさぎは別れの日のお祭り(これもうさぎ、もしくはうさぎのいう馬鹿野郎が用意したものだと思う。)でユーリの波の音のバイオリンをきっかけに自分が星うさぎであるということ、帰らなくてはいけないということを思い出す。バイオリンを弾くということは、今まで逃げていたものと向き合うということでもあり、それを弾きたいと思うようになったというのは、自立、演じていた「ぼく」からの解放を意味しているのではないかと思う。そしてうさぎの役割は「ぼく」からの解放であり、だから役目を終えたうさぎはどこかへと行ったのではないかと思う。
 
 この物語は読んでいて、心地よさを感じることができた。心が温まるとでも言えば良いのかもしれない、あまり経験が無いのでよくわからないけど本当にそう感じた。うさぎの弱虫みたいなのに芯のある強さには心惹かれた。「忘れなくてすむんなら、宇宙が終わるまで忘れない」やっぱりこの言葉がとても良かった。うさぎのくせにと野次りたくなるぐらいかっこいい言葉だと思った。この言葉にはうさぎの強さ、やさしさがぎゅっと詰められている。そんな気がした。
 ぼくはこの物語から「自分」というものを考えるきっかけを得たのではないかと思う。

高橋阿里紗 課題1:自己紹介/感想(本当に遅くなってしまいました;;) 2003年04月24日(木)02時44分53秒

※自己紹介※
遅ればせまして、表現文化学科の四年の高橋阿里紗(タカハシアリサ)です。
「物語の作法」は一昨年受講していました。
以後お見知りおきを…。

自分の中でモヤモヤしている言葉。
それらをどうにか形にしてあげたくて、「物語の作法」を受講しました。
一昨年は、自分の作品をしっかり自分で解説できない未熟さをとても感じました。
その時、どういう気持ちでその作品を作ったのか、何を伝えたかったのか…。
書いてる時は、特に何も考えずに言葉を吐き出している感覚なので、後から考えると上手く説明できないことばかりになってしまうのです。
でも、今年はその部分をどうにか解消したいです。
自分の作ったモノを、しっかり責任を持って考えたいです。
一昨年は、いかに平凡なテーマを、自分の言葉でどこまで綺麗に飾れるかばかりを考えていた気がします。
誰にでも考えうるテーマ。
それが、とても優しいモノのような感じがしていたのです。
…疲れてたんだな…自分;;

今まで、詩とか、ショートショートしか書いたことが無かったのですが、今年は少し長いモノを書いてみたいと思います。
構想だけが頭の中で二年程、消えることなくグルグルしていたのです。
腐ってしまう前にいいかげん形にしてあげたいと思います。
卒論やらゼミやらで中々忙しくて、今から先が思いやられますが、できるかぎりがんばっていくのでよろしくお願いします…!!!



※感想<小惑星美術館>※
この世界はとっても広いのだから、必ず何処かに、今の自分と同じ顔、同じ服、そして同じ両親に囲まれて、全く同じことをしている子供がいる。
本気でそう信じていた子供が、母親にそのことを言ったら、とても変な顔をされて悲しい思いをしたそうだ。
幼稚園児の私なんですがね。(笑)
あの頃は本気でそう思っていた。
何故かは解らないけれど、そのくらい世界は広いものだと思っていた。
今の私には、そんなことは無いだろうと頭で理解できる。
しかし、異世界とか全然知らない頃にそんな概念があったとは、子供とは恐いモノだなと感じる。

ママと出逢った時のユーリは、また、もう一人のユーリがパパと逢った時と全く同じ気持ちだったのだろう。
失われたモノに逢える悲しくも不思議に幸せな空間。
でも、人はやはり還るべきところに還るのだろう。
どんな遠くに行っても、迎えてくれる人がいるところへ還るのだろう。

忘却は幸せなのか。
忘却は過ちを繰り返さない術になるのか。
それとも、忘れないことこそ過ちを繰り返さない術になるのか。
人間が生きていく上で一番忘れないのは「傷み」だ。
「傷み」を繰り返さないように、人は敏感になる。
「傷み」はけして痛いだけの存在では無い気がする。
大事な感情なのだ。
「傷み」を忘れることが、必ずしも幸せなことだとは言いきれないのだろう。

何だか、感想と言うよりも、感情をだらだら箇条書きにしてしまったような気がします;;;
読んでいるうちに、色々なところへ考えが飛んでしまいました。
最後に、「ガイア思想」について。
「ガイア思想」とは、地球を大いなる母と考えること…(だったかな?)
でも、地球は何もかも許してくれる母性の塊ではない。
確かに、自己再生能力を持っている地球は生きているかもしれない。
だからといって、最近の人間はこの地球の母性に頼りすぎているような気がする。
私達も、地球に「守られている」ことを忘れてしまうと、ガイアと同じ結末を迎えるのだろう。
私は、「小惑星美術館」を、大きな危機感と共に読み終え、そこに忠告を見出した。





奥野美和 課題1/『星兎』の感想 ポン・デ・リングからみた月 2003年04月24日(木)02時41分52秒
▼課題と連絡:課題1/感想文と自己紹介 への応答

 わたしはまだすきだったけど相手にはもっと好きな人が出来てしまい恋人ではなくなってしまった男の子にミスタードーナツの新作「ポン・デ・リング」を食べてみな、と言われました。その子とは、恋にはもうなれないと思って、大好きで側にいたかったのに恋をしているその子を見ているのが辛くて逃げてしまいました。でも、なぜか最近1年半ぶりに連絡をとるようになりました。でも「イマサラ」だよな、なんて思ったりもしています。

 そんな次の日に読んだ「星兎」。ユーリとうさぎがこの物語には登場します。ふたりの気持ちが引き寄せられるところが、なんだかとっても甘酸っぱくてどきどきしてわくわくします。そしてそわそわして「あー恋がしたーい」なんて思ったりして。そう、このうさぎの素直な甘え方、ユーリへの向き合い方がかわいらしいのです。そんなうさぎのペースに「まきこまれちゃう」ユーリは、なんだか困りながらも嬉しそう。お互いを見ている間は、そう2人の宇宙だから。ユーリの感じる「ぼくたち、ふたりっきりで暗い宇宙に浮かんでいるみたいだなって」気持ち、わたしもわかります。そして、手を伸ばして確認したくなること。そういえば、恋に憧れていたとき好きな人の心臓を聞くのが夢だったな。そばにいる。ふれる。聞こえる? 好きな人の心臓の音。瞬間の中の永遠。寂しさの中の安堵。手を繋ぐ瞬間、空気がとろりと揺らぐ感覚。聞こえたけれど、もう一度言って欲しくて聞き返したセリフ。
 
 この「星兎」の中には、ドーナツ屋さんが出てきます。このお店の「あつあつのドーナツ」が美味しそうでたまりません。物語の中に美味しそうな食べ物が出てくるのはとても魅力的で、こんな風に書けるなんてすごいと思います。だって本当にドーナッツが食べたくなるもの。あの子の好きな「ポン・デ・リング」だけは食べたくないけど。

 
 ねえ、もしもわたしが明日うさぎみたいに、誰かに……そう、うさぎとユーリの「あいつ」に言われたように星に帰らなくちゃいけなくなったら、後悔がたくさんあると思います。うさぎのように、わたしだってわたしもわたしの主人なのにうまく動けないのはなんでだろう。どうして素直になれない? 怖がる? 掴むことを恐れる? きっと、明日も明後日も明々後日も続いている気がするのだろうな。明日が来るのが当たり前だと思っているのだろうな。

 どこか、ココロの隅っこで会いたいと思っていた、君に会いたかったよ。でも、一緒にはいられない気がしています。

 ユーリはうさぎに出会い見つめることを知りました。想う気持ちに触れることを知りました。ヴァイオリンの音色を知りました。自分の音色を探し始めました。

 わたしはどこに行くのだろう。

 とりあえず、その子に誘われた映画を一人で観に行くことにしました。「ポン・デ・リング」を買って。でも、その映画館は飲食禁止で食べることは出来ずに持って帰ることになってしまいました。帰り道おなかが空いて紙袋に入った「ポン・デ・リング」を取り出すと、ペっしゃんこになっていました。

 わたしはぺっちゃんこの「ポン・デ・リング」をひとつ出し、歩きながら食べました。
お月様はまんまるです。

 もう君に傷つけられたなんて言わないよ、でももう会えないの。どうやら君はあの子と別れたみたいだね。ねえ、思うんだ。初めて一緒に観た映画のこととか、七夕を東京ドーム巨人戦で盛り上がったこととか、スヌーピーの型でホットケーキ作ったこととか、真夜中の電話で別れを告げられたこととか。ぜんぶ、いまのわたしのもとだって。「星兎」を読んだわたしは言えます。







「わたしと出会ってくれて、ありがとう」






どこかでまたあいさつするよ。
そのときはまた、お互い素敵な恋をしていたいですね。

川村彩乃 小惑星美術館を読んで 2003年04月24日(木)02時21分28秒

回転木馬という文字を見たときに、寺山修司の詩の一つにある燃えて回る回転木馬のイメージが浮かぶ。読み進めると、ママの思い出と『見知らぬ国から』というオルゴールに乗せて回る回転木馬が現れる。燃えて回る回転木馬が消えない。頭の隅に燃えて回る回転木馬がくっついてる。船長の秘密に迫るころには、燃えて回る回転木馬は知らないうちにいなくなっていた。「星が浮かぶ真っ暗な宇宙のまんなかで、回転木馬に乗っているの。ぐるぐると回って止まらない。降りたくても、降りられない。降りるところもないの。恐くて恐くて、わたし夢中で泣いたの」と言うニニの恐い夢のの話の一節で、燃えて回る回転木馬がかすむ。次々に繋がり、曲に乗せて回転木馬が回りだす。地球の未来、小惑星美術館の正体、摩擦の起こらない循環するシステム、ノアの箱舟、アンモナイト、ママのいる世界、パパのいない世界。別の世界にいる時の元いた世界にあるものがそのまま違う存在として突如として現れた印象。そのことが最後の終わり方に、物語のあり方に、筆者の思いの一端を帯びているように思えた。現れてくる夢から現実へと醒めた。ではなく、元いた世界と別の世界をきりはなさず、両方あってこそ一つだと。

室橋あや 「星兎」感想。 2003年04月23日(水)23時35分01秒

白状すると、ページ数が少ないことと、字が大きいというだけでこれに決めました。
今度は自分のペースでノスタルギガンテスを読んでみたいです。

読み始め、このうさぎは人間で、にんじんみたいにへんなあだ名をつけられている人だと思いました。例え赤い目玉と書かれようと私はひねくれた性格のせいか絶対人間だと、13ページあたりまで思いこんでいました。
しかし毛並みや歯や耳の話になるとこれはうさぎがいるんだとやっと理解し、
そこからはかなり早いペースで読み進めることができました。
熱中しすぎて授業が始まったことにも気がつかないくらいでした。
ぼくとうさぎの世界はすぐに広がり、言葉は簡単なのに、ドーナツを食べる二人がガラス窓に映る様がありありと浮かんできました。
しかしうさぎが喋ったりする描写を読んでいて、とても可愛いなと思う反面、
大人びたうさぎの口調にギャップを感じ、ぼけてしまった私の祖父と話しているときの、無防備な寂しさを感じました。
とても創造的な世界が広がっているのに死のイメージがつきまとうのもそのせいでしょうか。
また読み返して、今度は素直に世界に浸りたいと思います。


余談ですが、先生は天沼春樹氏とお知り合いなんですか?
天沼さんの本に名前が出ていて驚きまして・・・。

ではでは、室橋でした。

菊池佳奈子 課題1/感想文と自己紹介文 2003年04月23日(水)20時54分12秒
▼課題と連絡:課題1/感想文と自己紹介 への応答

ハジメマシテ。
02X026…表現文化学科2年の菊池佳奈子と申します。
前回は自己紹介文をUPしないまま授業に参加してしまって本当に申し訳ありませんでした。
しかもこの記事も投稿するの遅すぎですね…。
ごめんなさい。
どうぞ履修させて頂きたく思います。
よろしくおねがいします。

*自己紹介*
僕(こんな一人称を使いますが女の子です)は菊池佳奈子…たいていの人は佳奈子と呼びます。
物語というよりも言葉が好きです。
例えば日本語という言葉、英語という言葉…。なんでも良いのですが。
自分のことを他人に伝える第一歩に言葉があって、それはとても素晴らしい物に思えるのです。
もちろん、音楽、映像…etcも大好きです。
とにかく多趣味。基本的にキレイなものが好きです。
でも好きって思ったらどんなものでも好きになります。
そこに理由はほとんどなく。好き。だから好きってかんじです。
表現者としては漫画家の楠本まき氏を尊敬しています。
あの人の描くものは本当にすばらしいと思います。
PlasticTreeというバンドが大好きです。
彼らも素晴らしいです。
機会がありましたら是非作品に触れてみてください。
最近は球体間接人形にはまっていたりします。
ロリィタファッションが好きでたぶん木曜日は毎週ロリィタだと思いますが
こわがらず是非是非お声かけてやって下さい。
ヨロシクお願いいたしますvv

*感想文【星兎】*
自分が自分であってそれを何の抵抗もなく受け入れるというのはとても難しい。
だけれどうさぎはうさぎのまま。ただ自分であることをありのままに等身大に一生懸命にそこに在る。うさぎは自分が自分に正直である人…というかそういたいという願望の象徴だと考えました。ありのままの自分に正直であることはとても難しい。マワリの目とか常識だとか自分のプライドだとかそんなものにとらわれて…特に現代の人間にとってめまぐるしいほど速い時の流れの中で自分を自分だと正直に生きるってとても困難なことだと思います。
でもユーリはうさぎに出会います。僕らもこの物語を読んでうさぎに出会えます。そうすることで少しでも自分らしく生きることができるのではないでしょうか。
文章も難しいわけではなく、とても素直にココロに入ってくるこの物語は、生きるためのひとつの糧として多くの人に愛されるべき作品だと思いました。

http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Apricot/1583/

宮田和美 課題1/『星兎』の感想 2003年04月23日(水)20時14分37秒
▼課題と連絡:課題1/感想文と自己紹介 への応答

匂い、味、感触その他。
恋愛っていうのは相手の生々しさを見つめる行為かもしれないなー
と、最近気づいた。
『星兎』を読んで、こりゃー恋愛小説だ、と感じた。
うさぎのピンク色の歯茎を、ひくつく鼻を、瞳を、ひげをユーリは臆せずにまっすぐ見つめている。
だから『星兎』は、ある限られた時間を共有した恋人たちの戻ってはこない物語なのだろう、と、わたしは勝手に決めつけた。

時間は淡々と過ぎてゆく。
そしてその思い出たちは、いつかは忘れ去られてしまう。
私は、過去の出来事を思うと「あれは全部夢だったのかしらん?」と考えてしまう。
それくらい、遠くのものになってしまうのだ。
それがあまりにもかなしくて、それを思うだけでかなしいと感じたときに、
私はことばを書き残す。
夢ではなかったということを、日々がきらきらと、まんざらでもなくかがやいていたということの証として。
そして時々読み返して、あーこれから先、こんなことが待っているのなら生きてくのも悪くないなあー、と思ったりするのだ。

ユーリは、この本を読み返して一体何を感じるだろうか。
ふっと獣の匂いが鼻をかすめ、胸の奥をわしづかみにされたような思いで泣くだろうか。
意外とけろっとしてたりして。
いづれにせよ、ユーリがまた、しょうこりもなく誰かとの出会いや恋や別れや、そういったこと全部ひっくるめた、これからの日々に向かっているといいな、と思う。
そして私も恐れずに、幸せになることへ向かってゆけるような、向かわずにはいられないようなことばを紡いでゆきたい、と思う。

滝 夏海 作品1A「蝶の名前」 2003年04月23日(水)18時53分33秒

<Side:A>
 カーテンから透ける9月の光が煩い。顔を顰め避けるように寝返りを打つ。ついでに薄手の毛布から手を伸ばし、目覚ましを叩く。細めた目で表示を見るとセット時刻より幾分早い午前六時四十一分。その中途半端な時間が何となく嫌だ。嫌だったが、二度寝するには時間が足りない。やっぱり遮光カーテンを買おう。そう心に決めながら渋々ベッドから抜け出す。もう二ヶ月で不要になるかもしれないが。
 そういえば、夢を見ていたような気がする。内容は憶えていないから、大した夢じゃあないのだろう。

<Side:B>
 セピア色の風景。
 剥き出しのコンクリート、見覚えのある大きな建物。
 無機質なステージで、白い影が踊る。

<Side:A>
 流れる水の音で意識が戻る。取り落としそうになる歯ブラシを握り直し、慌てて蛇口を閉める。口から垂れる歯磨き粉入りの唾液を手の甲で拭い、鼻からゆっくりと息を吸い、吐く。
 棚に放り投げた腕時計を見ると、鏡に向かってからゆうに十五分は経過。電車に乗り遅れないよう、支度に戻る。
 けれども、あのイメージが頭から離れない。

<Side:B>
 セピア色の風景。オフィス街のビル群。
 エントランスを抜けると、剥き出しのコンクリートの
 壁、壁、壁。
 四方を囲まれた無機質なステージで、一人の少女が踊る。
 白いスカートが、舞い揺れる。

<Side:A>
 激しい揺れに続く頭部への鈍い痛みで目が覚める。どうやら急カーブでの揺れに対応しきれず、額を電車の扉に打ち付けたらしい。車内のあちこちで似た状況が見えたが、どうでもよい。網棚から落ちかけている茶の革鞄を奥へと押しやり、体制を立て直し再び手摺りに凭れ目を閉じる。

<Side:B>
 少女が足を上げる。スカートが持ち上がる。
 少女がくるくる回る。スカートが円形に広がる。
 少女が高く飛び、音もなく着地する。スカートがふわりと靡く。
 少女が手を伸ばす。

<Side:A>
 発車ベルに急かされながら人の流れに逆らわずに車外、そして駅の外へ。秋といえども蒸し暑い日本、狭い空間で熱源に揉まれていれば汗もかく。ネクタイは緩めずワイシャツの襟首に人差し指をかけ、僅かながら風を通す。依然、休むことなく人波に流され続け、その波も横断歩道で一度止まる。

<Side:B>
 少女が手を伸ばす。
 抱き上げられるのを待ち望むように。
 落ちてくる物を受け止めるように。
 否、其れは

<Side:A>
 人は歯車に過ぎない。それは全体主義の話ではなく、個人主義への批判でもない。事実だ。
 信号が青になる、止まっていた群れが動き出す。一方向へ、同方向へ。本流から支流へ分かれビルに飲み込まれもするが、逆流は許されない。しようとも思わない。全体の意思。
 ふと、振り返る。後ろから前へと流れていた波が、今度は此方に向かって襲いかかってくる。いやそんな事はない。襲いかかるほどの関心など、波は持っていない。追い越す人々に肩を肩で押され、波の一部に戻る。そういえば、何故振り返ったのだろうか。分からない。理由などないのだろう。

<Side:B>
 エントランスの真上には、多角形の空。
 飾り気のない吹き抜けから少女を見下ろす、天の蒼。
 セピアを彩る、透明な蒼。
 少女が手を伸ばす。
 抱き上げられるのを待ち望むように。
 落ちてくる物を受け止めるように。
 否、其れは

<Side:A>
 歯車は全体であり個である。単体では役に立たず、一つ抜けただけで全てを無に変える。全体に動かされ、全体を動かす。連動。
 流れの傍らに一カ所、無人の空間があった。ビルとビルの隙間、エアーポケットに身体を滑り込ませる。何かをしたい訳ではない。して言えば気紛れ。其処から覗く流れは、笛吹に導かれる鼠の行進のようで滑稽だった。うっすらと嗤いを浮かべ天を仰ぎ見る。真上には多角形の空。
 あのイメージを思い出す。
 少女の真似をして、手を伸ばす。
 抱き上げられるのを待ち望むように。
 落ちてくる物を受け止めるように。
 否、其れは

<Side:A&B>

 解放

<Side:C>
 流れのざわめきが途切れた。訪れる静寂。無。セピア色のあのイメージが、朝から脳裏を離れないあのイメージが襲ってくる。強烈な不安。辺りを見回すが、取り囲む無機以外に何も見えず。流れは何処へ消えた。彼らは何処へ行った。空を見上げれば、同じ多角形の蒼。其れが急に遠のいたようで。取り残されたようで。
 堪らず、大通りへ走り出る。

<Side:B>
 少女は手を上方へ広げたまま、ゆっくりと此方へ振り向く。
 顔の辺りがぼやけていて、表情が分からない。
 静かに手を下ろし、二三歩近付いてくる。
 スカートが足にまとわりつく。
 肩口に乗っていた黒い髪が、背中へと流れ落ちる。
 そして、口を開く。声が、聞こえない。

<Side:A>
 ビル間から抜け出ると、途端にぶつかるざわめき。横から押し付ける人波。岸辺に引っ掛かった枝のように流れを分断する自分に気付く。振り返れば、其処には人の居ない隙間。前を向けば人の波。
 と、視界の端にひらひらとはためく白い影が映る。邪魔者への迷惑そうな視線を受けながら波を掻き分け、其方へと渡ってゆく。逃げるような、誘うような影を追い。先へ、もっと先へ。

<Side:C>
 先へ、もっと先へ。
 先へ、もっともっと先へ。
 影を追って十字路を右へ曲がる。流れの抵抗が消える。はっとして周りを見回す。また、だ。また誰も居なくなってしまった。それを確認している間に、影も見失う。不自然な静けさに自分自身の呼吸音が煩く焦りが怖れになる。目を閉じ、胸元のシャツを握りしめる。シャツが、駅へ降りた時よりも汗ばんでいる。

<Side:A>
 十字になった各道路に別れ人は流れる。信号で止まり、落とした荷物を拾う或いは靴ひもを結び直す誰かを飲み込み、そうしながらも決まったリズムで流れ続ける。その内の何人かは気付いただろう、群れの中にほんの小さな隙間があることに。流れに逆らい移動するような、空気の点があることに。けれども一人として気が付きはしないだろう、その点を避けるように己が動いていることに。全ての人がそうであることに。

<Side:B>
 手を下ろして少女が近付く。
 肩に乗っていた長い髪が、動き共に揺れて背中へと落ちる。
 目の前で足を止める。
 表情は見えないが、此方を見つめているくらい判断出来る。
 そして口を開く。声が
 ああ、声が聞こえない。
 何を言っている、いや、言っているのかも分からない。
 唇が動く。声が、音が

<Side:C>
 呼ばれた気がする。実際に声が聞こえた訳ではないが、何かが呼んでいる気がする。眉を寄せ薄く目を開け、荒い呼吸のまま蹌踉めきながら足を進める。静かすぎて耳鳴りすらしてくる。歩いているのか躰を引きずっているのか曖昧な意識で、道を曲がり角を横断歩道を移動してゆく。しているのだと、思う。
 いくつもの分岐点を過ぎ、やがて知る事実。
 膝に手を置き上半身を支え、辿り着いた建物を見上げる。あのイメージの建物を思い出す。なんだ此処だ。職場じゃあないか。無意識に口元が疲れた笑いを刻む。
 一つ深呼吸をして、エントランスを抜ける。
 耳鳴りが、止む。

 エントランスを抜けると、剥き出しのコンクリートの
 壁、壁、壁。
 四方を囲まれた無機質なステージで、一人の少女が踊る。
 白いスカートが、舞い揺れる。
 少女が足を上げる。スカートが持ち上がる。
 少女がくるくる回る。スカートが円形に広がる。
 少女が高く飛び、音もなく着地する。スカートがふわりと靡く。

 そして少女は此方へゆっくりと振り返る。

  「待ってたわ。お帰りなさい」

 待たれる理由はさておき、お帰りなさいと言われる覚えはない。
 そもそも、彼女は誰だ。
 その黒い髪を白い服を人形のような顔を、何処かで見たような気がする。でも思い出せない。引っ掛かったまま、出てこない。

  「あなたは私を知らない。でも、私は知ってる。
   いつも、見てる。
   此処で、この場所で」
「君を見かけた事など、無い」
  「でも私はずっと此処に居た。
   此処に居る。
   誰も気付かない、でも居る」

 少女は舞を再開する。手を揺らめかせ、足を伸ばし、スカートをはためかせる。お帰りなさいお帰りなさい、と口ずさみ。

  「ねえ、あなたは其処に居ると思う?
   コギト・エルゴ・スム
   それは本当の事だと思う?」
「君が居るというなら、俺も居るのだろう」
  「私という世界の端末は居るわ。
   でもそれが私という個体とは限らない。
   私の世界に私は居るわ。
   それが存在の有無の決定的な証拠にはならない。
   あなたの世界に私は居ないわ。
   それが存在の有無の決定的な証拠にはならない」
「思春期の子どもでもあるまいし、今更何故そんなことを考えさせる。俺の世界に俺が居る。君の世界に君が居る。それで充分じゃあないか」
  「でも他の人は居ない。それが怖かったんじゃないの?」

 大きく手足を動かし同じ振りを繰り返し飛び舞う彼女の他に、誰も居ない。そう、確かにさっきまではそれが怖く思えた。今は?……もう何も感じない。何も考えたくはない。

  「誰もが認識する世界。
   誰も認識しない世界。
   どちらも同じ世界。
   今、あなたは此方側を見ている。
   今まで、あなたは彼方側だけを見ていた。
   ただ、それだけ」

<Side:A>
 オフィス街のとあるビルに、何人もの人が流れてくる。ロビーにエレベーターにと人は分散し、不規則な規則でを形作る。彼らは自分の意思で若しくは仕事上やむなく、ビル内を行き来する。縦横無尽に。
 ある一カ所を除いて。

<Side:C>
  「見ているのかしら?
   見るように仕向けられているのかしら?
   あなたは考えているの?
   私は考えているの?
   それとも」

 単調な踊りに段々と意識が霞んでは戻りを繰り返す。間近で振られる少女の手が輪郭を失い、また形作られ。なにがどうなっているんだ。

  「人は歯車。
   世界を構築する物の一つに過ぎない。
   けれども、世界とは何かしら?
   一体何の事なのかしら?」
「何が言いたい」
  「答える必要があるの?
   あなたは、解っているのに」
「解らない。だから訊いているんだ」

 解らない。違う、解りたくない。
 解っているということを知りたくない。

  「世界と個が、表裏で。
   個の意思は全体の意思で。
   ねえ、それじゃあ個って何なのかしら?」
「君は此の世界唯一の個であり、全体。俺はあの世界の全体の一部分であり、個」
  「唯一の個は、存在していると誰が証明してくれるの?」
「世界が」
  「世界って、ねえ世界って何?
   個の集合体が世界なら、私は私にしか証明出来ない」
「それで良いんだろう。確かなものなど、何も有りはしない。存在すると信じ込む事しかできない」
  「信じているの?
   信じ込まされているの?」
「自分の意思で信じている、と信じる」
  「存在しないかもしれなくても?」

 縋るような声に、目を見開く。
 その瞬間、少女が、見えた。意識が澄んでゆくのが分かる。
 真正面から向けられている彼女の瞳が、滲み。
 そこに映っていた男の姿が、瞳に滲み。
 広い世界に一人きりで居た彼女と世界に溶け込んでいた自分が重なる。かけ離れているようでいて、本当は同じ存在なんだと気づかされる。
 と同時に思い出す。彼女は、あの少女だ。朝から何度も見ていた、あのイメージの少女だ。
 そして。
 込み上げる笑いを抑えるよう深く息を吸う。

「分かった、言ってあげるよ君の欲しい言葉を」

 そう知っている、彼女が何を望んでいるのか。

「完全に思い出したよ、君は夢に出てきた少女だ。毎日毎日夢に出て来ては、同じ事を繰り返して訊く少女だ」

 少女がそっと目を伏せ、唇に笑みを掃く。呼吸に合わせて、スカートが揺れる。
 短い沈黙。
 答え合わせをしようか。

「真実は、関係ない。本当の事など、どうだって良い。信じていればその間だけは必ず存在する」

  「ありがとう」

 少女の声と共に、足の力が抜けてゆく。重力に従い崩れるように膝をつき、頭は首の据わらない幼子よろしく後方へと凭れ、仰向く。
 エントランスの真上には、多角形の空。
 飾り気のない吹き抜けから少女を見下ろす、天の蒼。
 セピアを彩る、透明な蒼。
 少女が手を伸ばす。
 抱き上げられるのを待ち望むように。
 落ちてくる物を受け止めるように。
 否、其れは

  「戻りなさい、あなたの世界に」

 解放

  「きっとまた、私は迷い、あなたを呼ぶ。
   あなたは私を忘れる。夢だと思う。
   けれどまた、答えをくれる」

 少女は手を上方へ広げたまま、ゆっくりと此方へ振り向く。
 顔の辺りがぼやけていて、表情が分からない。
 静かに手を下ろし、二三歩近付いてくる。
 スカートが足にまとわりつく。
 肩口に乗っていた黒い髪が、背中へと流れ落ちる。
 そして、口を開く。声が、聞こえない。
 声が、声が、声が、あああああああ

<Side:A>
 鞄が足元に落ちる。意外に響く音に我に返る。握っていたはずの右手が強張ったように痛い。大体、何故エントランス脇なんかで膝をついているんだ。自分が何をやっていたのか疑問に思い記憶を探るが、どうにもはっきりしない。近くから呼ぶ同僚の声に左手を挙げ合図し、僅かに首を傾げ腑に落ちぬまま鞄を拾いエレベーターの方へと向かって行く。まあ良い、この感覚も直ぐに消えるだろう。



 俺は世界の夢を見る
 世界は俺の夢を見る


(完)

横田裕子 課題1/感想文「星兎」 2003年04月23日(水)14時32分16秒

うさぎという生き物は、独りきりにされ続けるとあまりにも淋しすぎて死んでしまう、という話を聞いたことがある。「うさぎ」がユーリのところに転がり込んできて、夜中しきりにドーナツを食べに行きたがったりしたのは、そうたした淋しさに怯えていたのだと思う。死ぬことはなくても淋しさを紛らすため、あるいは忘れるために、心のどこかに自分と似たような孤独を抱えたユーリを選んだのだ、と。「うさぎ」はユーリと一緒に居られたことをとても嬉しく思っていたのだろうけれど、長いような短いような時間を過ごしてきた後に、「忘れなくてすむんなら、宇宙が終わるまで忘れない」と心から言って貰えたことが一番嬉しく、そう思ってもらえたことが月へと向かう力になっていたのかも知れない。ユーリと出会った時から月へ帰るその日がこないようにと願っていて、共に過ごした時間を通して最後に自分へ向けられた言葉をまっすぐに信じたことが、「うさぎ」にとって孤独を飛び越えることのできる絆になっていたのだ、と思った。自分の隣にいなくても、自分を忘れないでいてくれる相手がいるのが本当の絆なのではないかと、独りになるのが耐えられなくて淋しさをなめあっているようにしか見えない人間が教室中に溢れていた高校時代をうっすら思い出した話だった。

古内旭 課題1/感想文『ラジオスターレストラン』 2003年04月23日(水)13時44分57秒
▼課題と連絡:課題1/感想文と自己紹介 への応答

 宮沢賢治『銀河鉄道の夜』とか、エンデ『果てしない物語』のようなファンタジー、というよりは、例えば手塚治虫の一連の『火の鳥』のような形而上SFに属するものだと思う。
 勿論、『銀河鉄道の夜』との類似性はかなり多い。物語の始まりはまるで宮沢賢治へのオマージュで作られている。十一月の町、星祭り、固有名詞にしてもイメージは重なるし、父不在の家庭などの設定もしかりだ。高原列車なんて、確信犯的である。世界の終わりを巡る旅をするという点はエンデ的であるし、またエンデは名付けることによって再び世界を取り戻していくが、そうしたところも寮先生の作品群と合致するイメージがあるかも知れない。もちろん牙虎の存在も。
 また、主人公ユーリとラグは時空を超越して世界の終わりまで見てしまうが、そこには核戦争とか生態系破壊の話が絡んでくる。滅びた種族はいかにして滅びたのか、という話も登場し、それらは人類への警鐘であり教訓物語としての側面を強調しているが、『ラジオスターレストラン』はただそれだけでは終わらないし、本質はここではない。

 『火の鳥』的であるというのは、何もモリモ博士が人類最後の一人として世界の終焉を見つめるからでもないし、ラグが世界の終わりを経て数千年も孤独を過ごすからでもない。それよりももっと大事なのは、SF的な表現で語られる物質(無機物さえも)の記憶と連鎖、死と生による輪廻(ミクロレベルでの)についての部分である。
 すなわち「全てのものは一つである」ということだが、これは、モリモ博士の謎めいた言葉(括弧書き)によって物語の始めの方から少しずつ語られている。
(わたしたちは、色んな時間の中に、いっぺんに存在しているのだ)
 というのが最もよく表した言葉であろう。もちろん、ここには時間だけはなく空間という意味も含まれる。全てが一つだった頃、すなわち宇宙の始まりの時、針の先のようなたった一つの部分に全てが存在していた。それが時間と共に拡がっていった。その記憶をどこかに持ったまま(そしてそれに気付かぬまま)。つまり、自分自身は時空を超越して一度に全ての場所に存在している、というあまりにもスケールの大きな理論である。
 『ラジオスターレストラン』は、世界の終わりを見せる物語であったが、なぜか温かく希望が見えるのは、この辺りの理論による。ラグとユーリ(あるいはモリモ博士)は離れ離れになり、ラグは数千年の孤独を彷徨う運命を背負う。しかし、それでもラグは寂しくないと言う。とても切ない。
 そもそも「ラグ」という名は「地球」と「ボロ」の二つの意味を持つ。完全に調和された奇跡的な地球という理想像と、くたびれて使い物にならなくなったボロ、全ては一つにして一つは全てである。

「ラジオスター・レストランへようこそ。ずっと君を待っていたんだ」に始まり、
「ラジオ・グリーンへようこそ。ずっと君を待っていたんだ」で終わる。
 これはもしかしたら作品の特色を最もよく表しているかも知れない。そして、星祭りの歌。
「めぐれ、めぐれ………」


 以下、雑感。

 表紙の恐竜はブロントサウルスだが、何と尻尾を引き摺っている。そもそも、ブロントサウルスという名前自体が、すでに失われて久しい。今ではこの恐竜はアパトサウルスと呼ばれている。別々の恐竜だと少し前まで思われていたが、実は同じ恐竜だったというわけだ。しかし、私が子供の頃、すなわち恐竜に熱中していた頃、まだこの首と尾の長い恐竜はブロントサウルス(もっと言えばブロントザウルス)として知られていた。勿論、恐竜が尾を引き摺っていなかったなんて説が主流になったのも最近のことである。
 だからこの恐竜は非常にノスタルジックなのだ。もしこれがアパトサウルスで尻尾と首がほぼ一直線になっている絵だったら、全然雰囲気が出ない。私はこの表紙が大好きだし、こうでなくては、と思いわくわくしてしまう。
 牙虎にしたって、学名スミロドンでは駄目だ。俗称サーベルタイガーさえもあえて避け、子供時代に勝手に図鑑を見ながら名付けたような「牙虎」となっているのが嬉しい。
 そう考えると、ラグだって絵を見る限りさらに古いブリキのロボだ。
 『ラジオスターレストラン』が近未来SF(的)でありながら、過去の記憶を封印し読者を懐かしい時代へ誘うのはそうした小道具も一役買っている。

 また、幼少時代に誰もがプラネタリウムに連れて行ってもらった経験があるだろうが、私は特にそこが大好きだった。ギリシャ神話も好きだったし、専門的な話を分かりやすく噛み砕いて解説してくれるお姉さんも好きだった。おそらく我々は初めて世界の大いなる謎に触れて心を震わせたのだと思う。『ラジオスターレストラン』がプラネタリウム用にアレンジされて上演されたということだが、それを観た子供たちは幸せである。

 ところで、主人公が小学校中学年ぐらいの年齢であり、彼の一人称で語られていながら、SF用語(科学用語)が頻出する。私は「熱力学の第二法則」を習ったのは高校の理系クラスでの物理だったし、本格的に学んだのは大学の「熱力学」だった。しかし、これがまた変なうんちくにはならずに世界観としてすんなりと受け入れられる。十一月の町は不思議なファンタジー世界になっている。


 以上、読了直後の瞥見ながら感想とさせていただきます。




紺野暁広 課題1 星兎を読んで 2003年04月23日(水)13時09分08秒
▼課題と連絡:課題1/感想文と自己紹介 への応答

 うさぎは自分が兎だと分かっているけど、自分が何故兎なのかを知らない。
 名前も、家も、過去も、記憶をうさぎは知らない。けれどうさぎはそれを苦に思わない。むしろ気持ちいいことだとも言っている。
 唯一うさぎが知っているのは、目を閉じると浮かぶ音。それは人には聴こえない砂や空だった。
 うさぎは嘘をつくけど、寂しがりやでいたずら好きなにくめないやつ。
 そんなうさぎとユーリは出会い、お互いにかけがえのないもの同士になる。
 うさぎは、うさぎを兎だと分からない町の人達に無視され、認められず悲しい思いをする。
 だがユーリと出会い、友達になる。
 そしてユーリと行った祭りの最後に、うさぎは自分が星うさぎであることを知り、星へと戻る。

 読み終わった後には何とも言えない気持ちになりました。切なくもあり、心地よくもありました。
 自分が星うさぎであることだけを知り、空を越え宇宙へと跳び帰っていったうさぎ。うさぎとの最後の思い出と宝物のソーダの王冠を抱き、何年目かの満月にヴァイオリンを弾くユーリ。彼らの触れれば壊れるような物語に心を痛く締めつけられました。
 うさぎは初め、この町にいるのがつらかったようですが、中華街に入るとすっと楽になります。もともといた所と似たものを感じたのかもしれません。あの煩雑として、すべてが混沌とした場所で元いた宇宙を思ったかもしれません。中華街の住人はうさぎをうさぎだと認めます。でも中華街でもうさぎは自分がまっとうな兎ではない、この世界での異端児である事を知ります。
 全編でうさぎは自分が異端児であることを悩みますが、またそれをはねのけ自分を自分のものともします。ユーリはそのうさぎの姿を見る度に憧れを感じます。憧れを抱きつつ、うさぎと友になり、うさぎを時には支え、語り、だまされ、遊ぶ。この二人の姿を頭に思い浮かべると、なんとも二人がうらやましくなります。
 そしてうさぎとユーリが最後に訪れる摩訶不思議で美しいお祭りは、全ての出店を頭に思い浮かべるたびに心がわくわくし胸おどるものでした。

 けれど一番心に残ったのは、「馬鹿野郎」で「ひどいやつ」な「あいつ」でした。
 自分も何度あいつを馬鹿野郎と罵ったことか。何度ひどいやつと呪ったことか。そして、ほんの数回感謝をしたことでしょう。うさぎをこの星へとおくり、ユーリと出会わせ、うさぎに自分は星うさぎだと思い出させ、帰らせたのもあいつでしょう。
 あいつは、「運命」はすべてを知り、すべてを操ることができ、けれどふと気まぐれをおこしたように奇蹟をおこす、厳しく冷たくちょっと優しいやつだと思います。運命はいつも厳しいもので、時には非情でさえあります。あいつが目の前に立ちはだかったりしたものなら、おそらく自分は逃げ出すかゆるしを乞うしかないでしょう。けれど逃げ出しても許しを乞うても、あいつは一度きめたことは頑として変えないでしょうし、それを行うでしょう。
 けれどいつもみんなに嫌われているあいつも、たまに優しいことをします。うさぎにはユーリとの僅かな時間を与えました。いや、そもそもうさぎとユーリを出会わせてくれました。けどひょっとしたらあいつはそんなたいそうなことはしなかったのかもしれない。何もしなかったのかもしれない、見ていただけかもしれない。やっぱりひどいやつかもしれない。自分はそんなよく分からないあいつのことを今でもぼんやりと頭の中で考えてしまいます。
 さてこの先、うさぎがユーリとの約束を果たすことが出来たのかどうか。一読者としては出来たことを願ってやみませんが、やはりそれを知っているのはあいつだけなのでしょう。

外島理香 課題1/感想文「ノスタルギガンテス」 2003年04月22日(火)21時39分12秒
▼課題と連絡:課題1/感想文と自己紹介 への応答

詩的で抽象的な表現と、ストレートな表現を交錯させ、ひとつの物語を完成させている書き方にまず感動した。例えば、「ぼくは、川底に埋もれた恐竜の骨だった」というところなどは詩的で抽象的な感じを受けるが、メガザウルスの目の青さを表現する時に、「あの色を見れば、ほかのどんな青だって青と言えなくなるくらいの青」と言い切ってしまうところは、非常にストレートである。他の青いものに例えることをしない淡白ともいえるような表現。しかし目を閉じると、ものすごくどこまでも深く青いメガザウルスの目の青さが浮かぶのだ。それは「すてき」という表現法にも通じるものがある。草薙櫂、つまり語り手は言葉を多様に知っているのに、「すてきさ」を表現する時だけは、ただ「すてき」としか言わない。多様に言葉を尽くせる櫂が突然淡白になって、ただ「すてき」とだけいうこと。そのギャップがあるから不釣合いな感を受け、印象に残る。その例えのない「すてき」という言葉に、私は今まで経験してきた私のすてきな事・物とその時の気持ちを思い起こし、櫂のいわんとしている「すてきさ」を重ねて理解した。夏の青空のように青いとか、メカザウルスの銀色のボディは、真っ暗な闇の中でキラキラ輝く星のようにすてきなのだとか、いくらでも言葉は尽くせるが、他に例えを広げないことによって、枠におさまらないようなイメージを思い起こさせたり、読み手を作品に近づけたりすることができるのだ。詩的で抽象的な表現を使うところ、ストレートな表現を使うところと、その分け方というか、選び方が絶妙だった。

西村 和(にしむら わたる) 課題1/感想文「ラジオスターレストラン」 2003年04月22日(火)18時05分38秒

 人間は数多くの恩恵を与えられながら、その全てを自らの手で葬ろうとしている。作中では、それらに対する数々の作者の意見が述べられていた。「この水晶をハンマーで砕いて持ってまいりましたら、また育つのに、何万年、何億年とかかってしまいます」「人間くらいなんでも食べる生き物はいません。だから、そのうちそのうちひとつを滅ぼしたとしても、生きのびていけたのです」「牙虎の牙のせいで滅んだのは牙虎だけでしたが、人間によって滅びるのは人間だけではありません」といったように、ラグやマジロ博士がそれを代弁している。

 ヨルに案内される中でユーリが見たものは、そっくりそのまま私たちが生きているリアルの地球に当てはまるように思う。ユーリが見た、全ての生命の息絶え、過去の残滓だけが幻想的に点在する文字通りヨルの世界が、明日には私たちを多い尽くさないとは断言できない。この本が書かれてからまだ10年余りだが、ヨルを生み出す脅威はそこいらじゅうに存在している。

あの星屑だらけの世界が未来で、“計算はできるけど応用は苦手”な人が人類の形であってほしくない。「ヒル」に生きてる一人として、考えさせられるファンタジーだった。
 

滝 夏海 課題1/感想文「小惑星美術館」 2003年04月21日(月)23時38分33秒
▼課題と連絡:課題1/感想文と自己紹介 への応答

 私たちは一体何歳頃から、当たり前という言葉を使い出すのだろうか。

 「知らない」ということと「知ろうとしない」ということは別物である。知らない事は知れば良い。例え答えに辿りつけなくても、知ろうとした時の経験・課程は違う答えを与えてくれる。でも「知ろうとしない」は「思考しない」と同じこと。余計な事は知らなくて良い。それで充分生きられる。温室の中で幸せに暮らせる。
 それって本当?
 たしかに、それで幸せだと感じる人は居るだろう。現代では、少なくないかもしれない。だけど私には耐えられない、知的好奇心を抑えられた世界なんて。れんがの月の子ども達だって、そう。表に現れていないだけで、心の奥底には「知りたい」が沢山積もっている。
 別の世界の『ユーリ』と出逢い、小惑星美術館の謎を解き、真実を知り、彼らはマザーに飼われたヒトから人間になった。過ぎた親切から解放された。
 記憶を消す事を決めた人々を非難する事は、私には出来ない。失った物に対する幸せな記憶が、時には残酷であるということを知っているから。けれど、ガイアを殺したのはその人々だから、自分たちがやった事なんだから、逃げては欲しくなかった。本当はたぶん、記憶を持ったままでいなければ、いけなかった。ガイアを取り戻す為に。新しい死の星を創らない為に。
 『ユーリ』の住んでいた世界が、もう一つの世界で言われた箱船かどうかは分からない。別の宇宙の話や遠い未来の話なのかもしれない。『ユーリ』は彼なりの答えを見つけた。手を伸ばして精一杯の答えを掴んだ。それでいいんだと思う。

 私たちは多くの事を知り、多くの事を学び、その経験から自分の真実・現実そして植え付けられた「当たり前」を見直した上での新しい当たり前を捕まえる。それが成長というものなのだろうか。

越智美帆子 作品1:ミッキーとマロリー 2003年04月21日(月)20時24分10秒

 彼は私をマロリーと呼び、私は彼をミッキーと呼ぶ。もちろん本名ではない。二人が付き合うきっかけになった映画、ナチュラルボーンキラーズのイカれたカップルの名前が、ミッキーとマロリーだったからだ。名は体を表すと言うが、二人の場合はまさにそうだ、と友人達は言う。
  彼の誕生日、愛を込めて軽い時限爆弾を送った。半分は本当に軽いジョークだったのだが、予想を遥かに上回る威力を発揮したその小型爆弾は、危うく彼の指をふっ飛ばすところだった。
 その三日前の出来事。私と彼の言い争い。
「つうか、なんで毎日、そんなに爪に気合いれてんの」
「私の勝手でしょ」
「俺が言いたいのはさ、金もないのに、なんでそんなバカ高いマニキュアばっか買ってんのかってこと」
「だから、私の勝手だって言ってんの」
そこでキレた彼が投げたマグカップが、見事私の目に命中。瞼がぱっくり割れて、血が流れる。あぁ、視界が赤い。
 さらにその一週間前。彼に浮気相手がいることが発覚。しかも、その相手は私がこの世で一番嫌いな女だった。
「浮気してるでしょ」
「してねーよ」
「浮気相手から電話あったんだけど」
「だから知らねーって」
「……死ね」
「あ?」
「むかつくわ、死んで」
「あぁ?」
キレた私、彼の髪の毛を掴みおもいきりひっぱる。が、やはり力では男に勝てない。反撃してきた彼にあえなく殺されかけて、全治一週間の怪我を負う。
 私たちの喧嘩は、上げたていったらきりがない。これが一番最近のもので、そのときに負った怪我はまだ治っていない。別に過去最高にひどい喧嘩だったわけではなかったが、積もり積もった鬱屈が、気付いたら私に爆弾をつくらせていた。
 爆弾の作り方なんて、インターネットやサブカル系雑誌を読んだら、すぐ見つかる。材料も、意外に簡単に手に入るものだ。爆弾を送りつけてやろうと、心の中では恨みつらみが煮えたぎっていても、表面では冷静だった。その証拠に、殺すつもりはないのだから、ちょっと驚かすだけだから、という思いは常に健在していた。
 半田ごてと銅線とにらめっこすること約二日、ついに私は小型爆弾をつくりあげた。小型と言っても、小型カメラのように小さいものではない。ティッシュ箱の半分くらいの大きさはある。起爆装置は、箱の蓋を開けたときに作動するようにつくった。
 意気揚々、私は早速彼の自宅宛てに小型爆弾を送った。もちろん、送り主の名前は私にして、だ。彼の驚く顔が今にも目に浮かぶ。
 計画は成功だった。彼は送られてきた私の爆弾入りプレゼントを、嬉しそうに開けたらしい。その瞬間、大きな爆発音と共にプレゼントは熱と光を発して爆発した。彼は驚き、しかし次の瞬間には私がやったことを理解したのだった。
 これはその日の彼と私の会話だ。
「お前、俺を殺す気だったの?」
「まさか。殺す気なら、もっと火薬を多くしてるって」
「そういう問題じゃねぇだろ」
「じゃあどういう問題よ」
「やっていいことと悪いことがあるだろ」
「へぇ、暴力や浮気はやっていいことで、爆弾送りつけるのは悪いんだ」
そこで彼はしばらく黙った。そして、ふいに大きな声で言い放った。
「とにかく、お前謝れよ。そしたら、許してやるよ」
彼に押し付けられた煙草の火傷痕がかゆい。ミッキーとマロリーの最後ってどんなんだっけ。謝れって、私が謝ってほしいんだけど。彼を威嚇するために、彼に反省してもらうために爆弾を送ったのに、これでは何の意味もない。
「ほら、謝れよ」
体全体が心臓になったようだ。どくどくと脈打ち熱いものが皮膚のすぐ下で渦を巻いている。
 そう言えば私が彼と喧嘩するたびに、友達の多くは何で私たちが別れないのかを不思議がった。好きだから、という理由を通り越して、私たちは痛みを共有しすぎていたから別れられなかったのだ。私は彼の首をしめ、右腕の骨を折り、背中をカッターで切りつけた。彼は私の腕に煙草の火を押し付け、ことあるごとにものを投げつけ、痣が何日も消えないくらいに殴った。普通、どちらかがどちらかに暴力を振るうカップルがいたとしたら、それはすぐ別れるものだろう。しかし、私たちはお互いがお互いを肉体的に傷つけあっているので、別れようという概念がない。おかしなことだが、別れる気がしないのだ。
 今回もきっと私たちは別れないだろう。私は今、くすねてきた希硫酸入りの瓶をそっとバックに隠し持って彼の家に向かおうとしている。ほら、謝れよ、という彼の言葉が脳内で駆け巡り、小さな頭痛を引き起こしている。ほら、謝れよ、ほら、謝れよ、ほら、謝れよ、ほら謝れよ、ほらほらほらほらほらほら、謝れ謝れ謝れ謝れよ!硫酸は彼の皮膚を焼くだろう。焼かれた皮膚は、香ばしい臭いを発するのだろうか。その部分はもう二度と再生されないかもしれない。彼は今度こそ後悔するだろうか。でも、もし彼が後悔して反省したら、私たちはもう終わってしまうのではないだろうか。憎しみと彼を失ってしまうのではないかという不安が入り交じった気持ちの悪い感情。そうか、これが愛憎というものなのか。映画の中のミッキーとマロリーは、二人で殺戮を繰り返すことで絆を深めていったが、私たちはお互いに刻んだ傷で繋がりを濃いものにする。エスカレートする行為は、どちらかが殺されるまで続くかもしれない。そして、どちらかが死んだあかつきには、やっと二人は一心になれるのだ。

■一つ前の過去ログ:「物語の作法」課題提出板 (0021)


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