ハルモニア Voice/寮美千子の詩

寮美千子がSt.GIGAで発表した[voice]と、新作の詩を載せていきます。
★=星の時 ○=水の時 ▲=新作
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○ 永遠の海/風と砂

Thu, 30 Dec 2004 22:09:02

風が
乾いた砂の城を
少しずつ運ぶように
わたしは
少しずつ風にさらわれ
ここでじっと
青い海と
砕ける白い波を見つめながら
光る海へ
透明な風のなかへ
巨大な雲のなかへ
きらめく億のかけらになって
ゆっくりと飛び散っていく

        Copyright by Ryo Michico


○ 永遠の海/千億の鏡

Thu, 30 Dec 2004 22:07:40

まだ何者でもないから
何にでもなれる海が
小さなやわらかい鏡を
百億千億と揺らしながら
空を映し海を映し
宇宙の一瞬映して
ほどけては結び またほどけ
波のかけらに映った永遠を
映すもうひとつのかけらが
果てしなくどこまでも連なりながら
ふと 止まる 一瞬

        Copyright by Ryo Michico


○ 永遠の海/溢れる光

Thu, 30 Dec 2004 22:01:03

永遠には はじまりはなく
だから 終わりもなく
はじまりのない命を 生きるものには
どこまでも 終わりがない

真夏の海が 揺れている
眩しく透明に 光っている

彼方からやってきた
まだ 名前のないものたちと
ここから去ろうとする
もう 名前を失ったものたちが

ただ光になって
かってに溢れかえる
眩しい 夏の 午後の 海

        Copyright by Ryo Michico


○ 隠された星

Thu, 30 Dec 2004 20:13:59

白い雲の波の果ての
青い青い空の底に
隠された星の数を
わたしは 知らない

その星をめぐる惑星の数を
わたしは 知らない

惑星のうえに生まれた命の数を
わたしは 知らない

  その生命は
  わたしたちと同じように
  歓び 哀しみ
  宇宙にある孤独を 
  感じているだろうか

青い空に隠された
無数の思いは 聴こえない
けれど わたしは 呼びかける
青く透明な空に

わたしは ここにいます
わたしは ここにいます

あなたが そこにいてよかった

        Copyright by Ryo Michico


○ 航海

Thu, 30 Dec 2004 14:24:19

オーロラの帆をかかげ
粒子の風に吹かれながら
もう四十五億年 旅を続けてきた

羅針盤もなく
船長もいない
サファイア色の方舟

ゆらめく闇の波を越え
きらめく星の海を渡り
どこへいこうとしているのか

羅針盤もなく
船長もいない
サファイア色の方舟

        Copyright by Ryo Michico


★ Eternal Moment

Thu, 30 Dec 2004 02:11:34

過去もない
未来もない
ここにあるのは永遠のいま
一瞬ごとに生まれおちるいまが
わたしの睫毛をにきらめき
わたしの唇を濡らし
わたしの肩を滑り
わたしの掌からこぼれ
こぼれおちるそばから掌を満たす
わたしを満たす

ここにあるのは永遠のいま

        Copyright by Ryo Michico


○ 鳥たちの天国

Thu, 30 Dec 2004 02:01:36

鳥たちに
天国はあるのだろうか

あの雲の彼方に
さらに透き通った風が渡り
金や銀や薔薇色や
夜明けの紫をした花びらが
光のかけらのように舞っている
蜜と乳の川の流れる
遠い国はあるのだろうか

こんなに青く澄みきった
空を翔ける鳥たちに
この空よりも美しい楽園など
あるのだろうか

        Copyright by Ryo Michico


○ 風のタペストリー

Thu, 30 Dec 2004 01:51:50

いちめんの青い稲穂に結んだ
朝露をふるい落とした風を縦糸に
鏡のように静まりかえった湖を
きらきらと光らせた風を縦糸に

海原をはるばると吹きわたり
波をうねらせた風を横糸に
渚に忘れられて乾ききった
砂の城を吹きちらした風を横糸に

過ぎ去った夏を紡いで
空いっぱいに織りなす
透明な風のタペストリー

        Copyright by Ryo Michico


★ Quiet Jungle

Thu, 30 Dec 2004 01:38:11

忘れられていた百万の草の種と
思い出されることのなかった億万の木の実が
眠りの底のあたたかい暗闇で目覚める

音もなく芽をふく草
音もなく伸びていく枝
音もなく絡まる蔦
音もなく開く花

色も形も闇に埋もれたまま
音もなく育っていく密林

黒豹が頬をかすめ
しなやかに通り過ぎても
大蛇が首をかすめ
なめらかに滑り去っても

きみは
月明りのなかで
静かな寝息をたてたまま

        Copyright by Ryo Michico


○ 波の歌

Thu, 30 Dec 2004 01:25:07

ここから 
どこまでも まっすぐに歩いていけば
いつか 海岸に出る
そこからは きっと 水平線が見える
水平線の向こうにも 海は広がっていて
その海の彼方に また 陸がある
その渚にも 波が打ち寄せている

白い雲の湧く海 夕焼けの消え残る海
月に照らされた海 星を映しこむ海
霧に包まれた海 嵐にゆれる海
珊瑚のしげる海 氷河の崩れる海

ひとつとして おなじ色のない海で
ひとつとして おなじ形のない波が 
いまも 砕けている

耳を澄ませば 聴こえる
地球を包む 無数の波の歌が

        Copyright by Ryo Michico


○ ガラパゴスの方舟

Wed, 29 Dec 2004 22:55:39

その島は 方舟
太平洋の波に 何万年も揺られながら
遺伝子は夢を見る

さまざまな羽根の色
さまざまな嘴の形
いくつもの夢を描いて
いくつもの夢の形になる ダーウィンの小鳥たち

ひと時も 停まることなく
いま この瞬間も
あたらしい夢を見て
あたらしい形になろうとしている ガラパゴスの方舟

何万年何億年の後
方舟は どこへ行くのか
わたしたちは どこへ行くのか
宇宙を漂う
さらに巨きなサファイア色の方舟に乗って

        Copyright by Ryo Michico


○ 海の瞳

Wed, 29 Dec 2004 22:48:10

海を見つめる わたしを
海が 見ていた

ゆらゆらと揺れる その青い瞳で

空を見あげると
海も 空を見あげた

きらきらと光る その青い瞳で

空の果てを探すと
海も 空の果てを探した

星の海に浮かぶ その青い瞳で

        Copyright by Ryo Michico


○ 初夏

Wed, 29 Dec 2004 22:20:49

乙女がうすぎぬをまとうように
野も丘も山も
やわらかな緑の衣をまとうのは
日に日に
太陽の眼差しが熱くなるから

ほら 太陽がたくましい腕を伸ばし
風の掌で 
ゆっくりと 乙女の胸を撫でてゆく

        Copyright by Ryo Michico


○ 風の便り

Wed, 29 Dec 2004 22:01:27

海は光を溜めているんだ
あのまぶしい夏の光を
その青い深みに
隠しきれないほど

誰もいない秋の海が
時折まぶしくきらめいたり
どこかで子どもの笑い声がするのは
そのせいなんだよ

洩れだした海の光が
空のまんなかで
波になって砕けるから
ほら 
空いっぱいの鱗雲だ

        Copyright by Ryo Michico


○ 時の翼

Wed, 29 Dec 2004 21:22:38

どの一瞬も
見知らぬ未来に わたしを連れてゆく

翼ある鳥のように
時のなかを翔けてゆく わたし

新たに生まれくる世界が
一瞬ごとに 目の前に広がってゆく

この瞬間も また
Beautiful Journy

        Copyright by Ryo Michico


○ White Magic

Wed, 29 Dec 2004 20:42:32

雪が降りてくるのか わたしが昇っていくのか
わたしが昇っていくのか 雪が降りてくるのか

空が ゆっくりと降りてくる
大地が 音もなく昇っていく

やがて 
ひとつに重なる 天上と地上

ここはもう どこでもなく
わたしはもう だれでもない
ただ 限りないまぶしさに 満ちているだけ

        Copyright by Ryo Michico


★ 結晶都市

Wed, 29 Dec 2004 20:14:18

都市が 夢見ているから
夜は美しい
まるで 光でできた森

光の森で
やさしい獣は眠る
かなしい獣も眠る
あたたかい闇にくるまれて

獣たちは
夢のなかで 森を歩く
もう二度と戻ることのできない 遠い森を

いつから ここにいるのだろう
どこから やってきたのだろう
なぜ ここにきたのだろう
こんなにまぶしい 光の森に

ほんとうに 戻りたいのは 
この森ではなくて
まだ地上に 鉱物しか存在しなかった
遠い 遠い時間

だから 都市は結晶する

都市が 夢見ているから
夜は美しい
まるで 光でできた水晶

        Copyright by Ryo Michico


○ 宇宙の迷子

Wed, 29 Dec 2004 19:52:00

強い日射しのなか
あなたは 白く光る地図から
ふいに 顔をあげ
まぶしそうに 目を細めて
途方に暮れた顔をした

まるで 宇宙の迷子

        Copyright by Ryo Michico


★ ひとりの夜に

Wed, 29 Dec 2004 19:44:53

わたしのなかには 海があって
ときどき 無闇に溢れだすから
わたしは 波にさらわれて
あてどなく 漂流しはじめる

月もなく 船もなく 陸も見えない 
空で 星だけが光っている

  なつかしい人々が
  やすらかな寝息をたて
  あたたかく眠る町も
  きっと おなじ星の光のなか

呼んでも 聴こえるはずもないから
波にゆられて 黙って泣いている
すると 星は何重にも滲み 海はさらに広がる 
見知らぬだれかの 夢のなかにまで

  夢のなかに
  波の音が響くことは ありませんか

        Copyright by Ryo Michico


○ 光あふれ

Wed, 29 Dec 2004 18:23:53

ひかり あふれ
そらに あふれ
つちに あふれ
うみに あふれ
ひとつぶの 露に
つゆやどす 蔦に
つたからむ 樹に
さきほこる 花に
とぶとりの 翼に
ひるがえる 鱗に
うずくまる 虫に
くちてゆく 屍に
かけぬける 風に
くだけちる 波に
ながれゆく 川に
わきいずる 泉に
すくいとる 掌に
こどもらの 頬に
ただおしげなく
ただひたすらに
ひかりあふれ
あふれかえる この一日

        Copyright by Ryo Michico


○ Aquasky

Wed, 29 Dec 2004 17:38:15

空は ほんとうは底のない海
だから あんなに青い

希薄な水に満ちた空を
希薄な魚たちの群れが泳いでいく
光が揺らいで見えるのは
そのせいなのに

あの雲の入江で 遊んでいるのは
生まれる前のわたし
まだ 魂だけだった頃の記憶が
雲の縁で 金色に光っている

空は ほんとうは時間のない海
だから あんなに遠い

        Copyright by Ryo Michico


★ 光の記憶

Wed, 29 Dec 2004 17:08:27

はじめに 光があった

光の海のなかで
生まれては消え 消えては生まれた
物質という名の 子どもたち

限りなく巨大な爆発が
子どもたちを 遠く 
果てしなく遠くへと 吹き飛ばす

さようなら さようなら
もう 会えないかもしれない
どこまでも 行くのだから
時間の果てまで 行くのだから
さようなら

だけど きみに会いたい
いつか きみに会いたい
どんなに遠い時間の果てでもいい
きみに 会いたい

だって 
わたしたちは ひとつだったのだから
はじまりの光のなかで
すべては たったひとつだったのだから

引き合う力が 引力になり
遠去かるだけの 宇宙のなかで
散らばりゆく粒子を 結びつけた

巨大な分子の雲のなかで 
はじめての星が 生まれた
星の放つ まばゆい光
銀河が めぐりだす

けれど 時は
星にも 死をもたらす
やがて 星は燃えつき 
再び 宇宙に砕け散った

けれど また会える
きっと また会える
星のかけらは 
いつかまた星となり 惑星となり
遠い旅を 続けていくのだから

  そして いま ここにいる
  あなたの形をして
  わたしの形をして
  ここに この地球に

  目を閉じて抱きあえば見える
  まばゆい光
  遠い遠い はじまりの記憶

  すべてはひとつだった
  どんなに遠い星雲も 巨大な銀河も

無限の光に抱かれて わたしは宇宙になる

        Copyright by Ryo Michico


★ ペルセウス座流星群

Wed, 29 Dec 2004 16:56:10

かつて流星だった
ぼくは流星だった

宇宙を旅していた
無数の小さな星のかけらとともに

宇宙は暗く そして冷たい
永遠のように 長い旅
いつも 手が届かない遠くに
星の光が 瞬きもせず
凍りついたように光るだけだった

だから ぼく さみしかったんだ

けれど ぼくたちの軌道は
とてもすてきなところを 通っていた
太陽から一億五千万キロ
黒いビロードに浮かぶ
サファイアのような惑星を かすめるように

どんなにこがれただろう その惑星に
青い色を見るたびに ぼくは胸をときめかせた
体が熱く溶けるほど

そして やってきたんだ
惑星になる日が

引力が ぼくを捕らえた
いや 
ぼくの引力が 惑星を引きよせたんだ

まっしぐらに駈けていった
体が燃え 溶けて 光になる
ぼくは流星だった

気がつくと
大気の底から 空を見あげていた
惑星の空は まぶしい青
白い雲が ゆっくりと流れ
緑の森は 風にざわめく

なんてきれいな世界
光に満ちた空間

ぼくは死んだ
けれど 
ここで 再び生まれた
あたらしい命の形をして

そしていま めぐりめぐって
ぼくは ぼくだ
この宇宙で たったひとりのぼく
はじめての ぼく

ぼくは 空を見あげる
かつて ぼくがやってきた空を
今宵 星が流れる

ペルセウス座流星群
惑星になるために 真夏の空を 
燃えながら墜ちてくる 星のかけらたち

  地球へようこそ
  ずっと きみを待っていたんだ

  地球へようこそ
  歓びも哀しみも輝く 命の惑星へようこそ

        Copyright by Ryo Michico


★ 月の祈り

Wed, 29 Dec 2004 03:01:42

繰り返し 繰り返し
美しい夢が 生まれるように
たとえ 形を変え 姿を変え
時に 見失うことがあっても
永遠に変わらぬ
たったひとつの 美しい夢が
きょうも 大地を照らすように
ふたたび わたしに訪れるように

海に 祈りを捧げる

やがて 昇りくる 
途方もなく大きな
途方もなく美しい
円かな 月

        Copyright by Ryo Michico


★ 翼風

Tue, 28 Dec 2004 23:35:50

大天使はばたく風に晒されてわが脳髄の笛鳴りやまず
大天使はばたく風に晒されてわが脳髄の笛鳴りやまず
大天使はばたく風に晒されてわが脳髄の笛鳴りやまず
大天使はばたく風に晒されてわが脳髄の笛鳴りやまず

        Copyright by Ryo Michico


★ 新しい天使  ――ベンヤミンの稚拙なる反復

Tue, 28 Dec 2004 23:34:32

楽園からの風に晒されて
天使はもう 羽根を閉じることができない

過去の果て
時の消失点にあったはずの
楽園を遠く見つめながら
吹きすさぶ風を羽根いっぱいに孕み 
刻一刻と押し流されていく
遠く さらに遠くへと

一瞬ごとに 背中から墜落する 天使
一瞬ごとに 未来へと墜落する 天使

        Copyright by Ryo Michico


★ Tenderness

Tue, 28 Dec 2004 23:26:51

言葉よりも  やさしい 声

声よりも   やさしい 眼差し

眼差しよりも やさしい その腕のなかで

わたしよりも やさしい わたしになる

        Copyright by Ryo Michico


★ Good tymz

Tue, 28 Dec 2004 23:11:25

美しい過去 ではなく 美しい未来
美しい未来 ではなく 美しい現在いま

ノスタルジア ではなく 遠い憧れ
いつかどこか ではなく いまここ

いま ここで 憧れを
憧れそのものを 生きる

        Copyright by Ryo Michico


○ 緑の風

Tue, 28 Dec 2004 22:56:04

風が かわるがわるに
緑の鍵盤を 叩くので
木は 巨きな 楽器になる

風が かわるがわるに
光の飛沫しぶきを 立てるので
木は 明るい 渚になる

        Copyright by Ryo Michico


○ 颱風

Tue, 28 Dec 2004 21:24:56

灼熱の太陽に灼かれ ゆらり
と 空へ立ちのぼる海

雲の頂で 透明な波が音もなく砕けると
希薄な水たちは 遠い記憶を呼び起こされ
失われた名前を 思い出そうとする

記憶の形に沿って 動きだす水 水 水
見知らぬ けれど 懐かしい力
すべて 始まりにあったものの形を求め
螺旋の水は 巨大な渦を巻き
海を泡だたせ 森を呑みこみ
荒ぶる力で 町を太古の海に沈める
記憶のなかの
たったひとつの名前を探して

  けれども 水は 思い出せない
  中心に 空白を抱いたまま
  いつしか力尽き 空にほどける
  呼ぶことのできなかった名前の
  空白だけを残して

失われた名前の透明なきらめきが
空一面に広がる 夏
雲の果てで 波が砕け
遠い潮騒を 響かせる

        Copyright by Ryo Michico


★ 光の化石

Tue, 28 Dec 2004 20:26:32

空のどこを見ても ざわめきが聴こえる

絶対温度三度 
光の化石の微かなぬくもり
物質のすべてが 
針の尖の一点に集まっていたころの
ほのかな思い出

森も 森の向こうの海も 海に湧きたつ雲も
すべてが ひとつだった
月も 太陽も 何億光年離れた星や銀河でさえ
たった ひとつだった

そして ぼくも

波の音も風の音も 懐かしく耳に響くのは
そのせいだろうか
遠い星の光を いとおしく思うのは
そのせいだろうか

きみはぼくで ぼくはきみだったから
ぼくはきみで きみはぼくだったから

  絶対温度三度
  宇宙に満ちる 光の化石
  わたしに満ちる 光の記憶

        Copyright by Ryo Michico


○ 真昼の星

Mon, 20 Dec 2004 20:57:02

青空に 望遠鏡を向けると
あふれかえる白い光のなか
きらり と針の先で突いたような
煌めく光の点が見えた 
ダイヤモンドのような

青空のただなかの 真昼の星

こんなに明るい真昼の青空は
億という星を隠している
吹きわたる透明な風に
無数の宝石を織りこんでいる

そう知った瞬間 
わたしが変わる 世界が変わる 
もっと美しく もっとまばゆく

        Copyright by Ryo Michico


○ 満ちたりた夢

Mon, 20 Dec 2004 03:55:35

水平線の果ての果て
ここからは見えない遠い海で
満月が 皓々と輝いている

波のなか 
微かに伝わってくるのは
その月の光

青く澄みわたる真昼の空の下
水は もう月を宿している
海は もう夢を孕んでいる

今宵生まれる 満ちたりた月を
今宵見られる 満ちたりた夢を

        Copyright by Ryo Michico


★ 盈ち虧け

Thu, 16 Dec 2004 03:00:39

追いかけて 追いかけて
影をつかまえれば 満月
輝きのなかに 光は影を見失い

追いかけて 追いかけて
光をつかまえれば 新月
暗闇のなかに 影は光を見失う

わたしはあなたで あなたはわたし
あなたはわたしで わたしはあなた
果てしない 光と影の鬼ごっこ

        Copyright by Ryo Michico


★ 月はいつも空のなかで半分だけ輝いている

Thu, 16 Dec 2004 02:35:14

月はいつも空のなかで半分だけ輝いている
光は影を
追いかけて
追いつけない
影は笑いころげ
笑いころげながら
どこまでも逃げれば

          いつのまにか影が鬼
           ぐるぐると円描き
            光を追いかけて
             抱きしめれば
              もぬけの殻
               光はなく
月はいつも空のなかで半分だけ輝いている

        Copyright by Ryo Michico


★ オーロラ

Wed, 15 Dec 2004 01:04:15

空で 光が 揺れている
いつか 揺りかごのなかで
まどろみながら見た 風景

光のカーテンの裾は
ゆったりと揺れ
時に はげしく翻る
太陽からの風に吹かれて

その風に晒されて 
生物は 生きられない
地磁気が 命を守っている
やわらかな掌のように
荒ぶる風を そっと迂回させ

空に燃える炎は その証

オーロラが燃えあがる
暗い宇宙に
ここに生命はあります と示す
たいまつのように

その炎は
カシオペイア輝く 北の空を照らし
サザンクロス輝く 南の空に乱舞し
氷河さえ赤く染める

空で 光が 揺れている
生命の揺りかごで
まどろんでいる 子どもたち
夢見つづける わたしたち

        Copyright by Ryo Michico


○ 夢幻空華

Mon, 02 Aug 2004 01:50:33

ゆめうつつ そらのはな
たえまなく ふりそそぐ
いちめんの しろいはな

  微かな 天の楽音は 
  微かなまま 
  青き大伽藍に 隅なく響き

ゆめうつつ そらのはな
かがやきの ただなかで
くだけちる ときのゆめ

くだけちる えいえんが
はてしなく まいおりる

        Copyright by Ryo Michico


○ 貝の舟

Mon, 02 Aug 2004 00:03:55

その夜明け
海岸には
白い貝の舟だけが流れ着いた

アフロディーテは
いまだに行方知れず

もしかしたら きみの隣で
こっそり笑っているかもしれない

        Copyright by Ryo Michico


○ 水の楽器

Wed, 28 Jul 2004 10:52:24

それは小さな火口ほどの大きさ
星の欠片にえぐられた
半球状の地球のくぼみに
なみなみと水が張られ
やがてあふれだした一筋の流れを
はじめて遡ってきた一匹の魚が
空に焦がれ
その湖の中心で
銀の鱗をきらめかせて高く跳ねると
見えないスティックで
水面みなもを叩いたように
水紋は同心円状に広がって
波となって岸に打ち寄せ
また返し
湖のまんなかで 
水は盛りあがって
少しだけ空に近づき
その青を
少しだけ濃くする

まるで
わたしが空だといわんばかりに

        Copyright by Ryo Michico


★ 青い幻燈

Tue, 27 Jul 2004 22:38:42

夜の底に積まれた書物の山々の
大気も希薄な高原に
過冷却の水の湧きだす
ひとつの小さな井戸があって
そのなかを
深く降りれば 降りるほどに
透明な青は
さらに濃く さらにまぶしい
まるで
青空の果てに 墜ちていくように

その井戸は
アリスの兎穴よりも深く
ヴェルヌの地底洞窟よりも遠い
底なしの井戸のその果てで
揺れる 一枚の青い幻燈

  「ごらん、そら、インドラの網を」
  「ごらん、そら、風の太鼓」
  「ごらん、蒼孔雀を」

おや あの映写技師は……

        Copyright by Ryo Michico


○ 忘れ得ぬ人

Tue, 27 Jul 2004 22:11:28

たったひとりの忘れ得ぬ人に 語りかけるために
あなたは太陽をつくり 空に月を掲げた

海といわず 山といわず
砂といわず 水といわず
万物に降りそそぐ言葉たち
それは 
大地をあたため 海原を輝かせ
世界を より美しく 
いとしいものに 変えていったけれど

ほんとうに それをわかるのは
あなたから 遠く去っていった
あの人だけだった

それを思うとき
切なさに 世界は透きとおる
まるで 永遠が見通せるほどに

たったひとりの人に伝えようとしたからこそ
その言葉は いまも
痛ましいまでに美しい

各々のなかのすべてに 響きつづける
――宮澤賢治『春と修羅』

        Copyright by Ryo Michico


○ エーゲ海の真珠

Tue, 27 Jul 2004 17:16:41

太陽は 遺跡から昇り
葡萄酒色の海に 沈む

少年は裸足で
オリーブの小道を駈けてゆく

いま まさに飛びたとうと
翼を大きくひろげた女神も

王の迷宮で
迷いつづける怪物も

なにひとつ変わらずに 時は流れ

きょうも また
海で イルカが跳ねる

千年前のきょうと 同じように

        Copyright by Ryo Michico


★ 月の井戸

Tue, 27 Jul 2004 03:26:02

月には 石英の砂でできた砂漠があり
その砂漠のはてに 
水晶で囲まれた 小さな井戸がある
深く降りれば降りるほど
まぶしさの増す 光の井戸

地上をはなれたすべての魂は
青い透明な翼をつけて
その井戸にかえっていく
真実 明るい月夜の晩には
水を満たしたような空に
翼の縁が わずかに光る

月の井戸には 底がない
どこまでも深く
どこまでもまぶしい光の洪水のなか
魂は みな微塵のかけらになり
あらゆる記憶とともにまばゆい渦を巻き
底なしの井戸を いっぱいに満たして
満月の晩に 溢れだす

だから 月の光にひたされる夜

あらゆるものは
この地上で傷ついた魂を
その光で癒すのだ

木も草も 鳥も獣も 人も魚も
ひと粒の砂さえも
だれかの魂の微塵をもらって
だれかの輝く記憶をもらって

        Copyright by Ryo Michico


★ 流星群

Mon, 26 Jul 2004 18:23:13

星のかけらたちが
遠い宇宙をめぐり
再びここへ もどってくる夜

燃えながら
美しい光の尾を描いて
この惑星に 堕ちてくる
無数の星のかけら

もう 戻れない 空に
もう 戻れない 星の海に

だけど ここに 来たかった
青く光る空と
白く砕ける波を
風にそよぐ緑と
空を渡る鳥たちを
見たかった

大気に満ちる光と
光に満ちた音楽を
聴きたかった

だから やってきた
ここに やってきた

流星群
いま
この惑星になる 星のかけら

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○ 老水夫

Mon, 26 Jul 2004 17:07:14

その年老いた船が
おかに引きあげられてから
もうどれくらいたったのか
だれも知らなかった

船は いつも嗅いでいた
海の匂いを
船は いつも聴いていた
波の音を
かつて 見知らぬ港へと導いてくれた
星々を 遠く見あげながら

ある夜のこと 
なじみの水夫がもどってきた
船のようにひどく年老いてはいたが
たしかに あの水夫だった

水夫は錨をあげ 帆をかかげた
月の光を いっぱいに帆にはらみ
船は 漕ぎ出した 
空へと

その夜 町の人々は夢のなかで
星のあいだを
ゆっくりと航海してゆく船をみたという

その日からもうだれも あの船を見ていない

ほら 港の片隅の あのがらんとしたところ
そこに あの船はいたんだ
いまは 日が射しているだけだけど
たしかに あそこにいたんだよ
いまごろは どこの港だろう

そういって 老水夫は
まぶしそうに 空を見あげた

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○ 青いパパイヤの香り

Mon, 26 Jul 2004 16:54:44

パパイヤの枝から 
白い樹液のしたたる朝
少女は
ふたつに割った青い実のなかに
いっぱいに詰まった白い種を見つけて
そっと指を触れる

繰りかえし 繰りかえし 訪れる朝に
繰りかえし 繰りかえし 火は起こされ
中庭に 煙はあがり
いつもの朝餉が 用意される
その いち日ごとに
おとなたちは 少しだけ年老い
こどもたちは 少しだけ背が伸びて
少女の胸が かすかに膨らむ

パパイヤの枝から 
白い樹液のしたたる朝
乙女は
つややかに実った種のひと粒を
そっと指でつまんで
満月の皿に落とす

        Copyright by Ryo Michico


★ 宇宙の森

Mon, 26 Jul 2004 16:16:03

光の樹木に囲まれた
まぶしい都市も

月の光の降り注ぐ
乾いた草原も

波の音の響く
白い砂浜も

そこは
星をちりばめた宇宙の一角
深い宇宙の森のなか

たった ひとりでいても
いとしい人とふたり
眠る赤ん坊を見つめていても

ここは
星をちりばめた宇宙の一角
深い宇宙の森のなか

        Copyright by Ryo Michico


○ 風の城

Mon, 26 Jul 2004 00:10:57

この空の色の消えるところ
砂の国の果ての どこかに

百年をかけて
砂に埋もれた城が
千年をかけて
再び砂から現われる

もう誰もいない
王も
王妃も
戦士たちも

開け放たれた窓と
朽ち果てた扉から
光と風だけが行き来する
風の城

  その崩れかけた壁のなかから
  かすかに微笑む翼ある天人の顔が
  あなたにそっくりだということを
  まだ だれも知らない
  きっと だれも気づかない
  世界が 終わるまで

この空の色の消えるところ
砂の国の果ての どこかに

        Copyright by Ryo Michico


★ 忘れられた音楽

Sun, 25 Jul 2004 23:19:29

ただ一度 歌われたきりで
忘れられてしまった 
やさしい歌が
どこかで眠っている

ただ一度 奏でられたきりで
忘れられてしまった
美しい旋律が
どこかで眠っている

この夜の どこかで

        Copyright by Ryo Michico


○ 太陽の舟

Sun, 25 Jul 2004 22:30:48

いま 空のただなかに
まぶしく輝く太陽は
光の東の果てで
海に 沈みゆく太陽

いま 天のただなかで
燃えさかる太陽は
光の西の果てで
新しい夜明けを 生みだしている

千の顔を持つ 太陽の舟が
美しい真昼の顔をして
わたしのうえを
青い空の海原を 
ゆっくりと 漕ぎわたっていく

        Copyright by Ryo Michico


○ 水のグラデーション

Sun, 25 Jul 2004 22:09:55

深い海の 深い青から
立ちのぼる ひと粒の泡

鏡のように
銀色にきらめき
ただ まっすぐに
光へ 光へと
のぼりつめる

暗い水底から
水の向こうに揺れる太陽へと
青い水のグラデーションを
一気に駈けぬけ

いま
光のなかで はじけた

空に消える ひと粒の泡
空に漂う 青い水の記憶

        Copyright by Ryo Michico


○ 夏の朝

Sun, 25 Jul 2004 20:27:28

目覚める前に 
もう 
目覚めている

気づく前に 
もう 
わかっている

心よりも魂よりも すなおな命が
少年のなかで目を覚ます 夏の朝

生まれる前に
もう
はばたいている

        Copyright by Ryo Michico


○ 夏の岬

Sun, 25 Jul 2004 17:18:24

その岬の尖には
人のいない灯台があって
真夏には
短くなった濃い影を
堅い岩盤の上の
白い砂の上に落し
東から昇る太陽が
西の水平線に沈むまで
日時計のようにゆっくりと
音もなく
影をめぐらせている

        Copyright by Ryo Michico


○ Summer Rain

Sun, 25 Jul 2004 17:12:52

夏の雨が
いたずらっ子のように
街を水びたしにして
あわただしく駈けぬけた後

木立ちの
どのひと枝も
どのひと葉も
いっぱいにしずくをつけ
そのひとつひとつに
ぬけるような青空と
まぶしい太陽を映しこんで
きらきらと光っていた

まるで
そのために

夏の日の雨がある 
とでもいうように

        Copyright by Ryo Michico


★ 月の夢

Sun, 25 Jul 2004 16:58:25

打ちすてられ 朽ちはてた遺跡の
もろく崩れがちな 大理石の螺旋階段を
ゆっくりと 降りていくと
目の前に突然 美しい入り江が開けた

縁を虹色に光らせた雲の切れ目から
月の光が射している

波が揺れる
光が揺れる
夢が揺れる

まだ 出会ったこともないのに
もう 忘れ去ってしまったものたち
まだ 出会ってすらいないのに
すでに 失ってしまったものたちが
いっせいにささやきだす 夕べ

ささやきは 波の音になり
入り江の隅々にまで 響きわたる

砕ける波に ひるがえる白い欠片
思わずひろえば それは小さな釦
幼い日に失くした 白い貝の釦

おどろいて顔をあげれば
階段は すでに崩れはて
水平線から 淡い月の虹が立ちあがって
わたしを 招く

気がつけば 凍るような月光のなか 
はるか空の高みから
わたしは 遠い入り江を見ていた

眠りの底でいつも 夢は月に帰る
眠りの果てでいつも 夢は月に帰る

        Copyright by Ryo Michico


★ 月の記憶

Sun, 25 Jul 2004 16:52:58

どれだけの 滅びた種族が
月を 見あげただろう
空に浮かぶ 真珠のような月を

滅びた鳥
滅びた魚
滅びた恐竜たち

いまはもう 
石に刻まれた記憶となった者たちは
青い月明りのなかで
夢を見る

滅びては 甦り
欠けては 満ちる 
永遠の 夢を

どれだけの 新たな種族が 
さらに 滅びゆくのだろう
記憶に満ちた 時の井戸を 
ただ 声もなく見あげながら

        Copyright by Ryo Michico


○ 風は森で生まれる

Sun, 25 Jul 2004 16:49:12

風の生まれる場所がある

朽ち果てた古い木と
生まれたばかりの若い芽との隙間
透明な水の湧く岩陰や
光を透かす木の葉の裏の
幾億もの小さな日陰で生まれた
無数の森の吐息が
集まり
大きなうねりになって
吹いてゆく
森を超え 世界へと

風が死んでいく場所がある

砂漠を吹きわたってきた黄色い風も
草原を波打たせた緑の風も
都市を震えさせた銀色の風も
海原を旅してきた青い風も
あらゆる風が
吸いこまれるように そこに集まってきて
樹木と樹木の間で ふっと消える
そんな風の死に場所が
深い森には 確かにある

深い森の緑に癒され
岩に湧く水に癒され

風はまた 森で生まれる

        Copyright by Ryo Michico


○ 泳ぐ

Sun, 25 Jul 2004 13:30:11

泳ぐ
揺れる 光
肌を滑る なめらかな 水
水を滑る やわらかい 記憶
とおく青い 影
いにしえの 海
満ちてくる 潮
あたたかな 浅瀬
銀色の 泡
成長する 石
石が吐く 虹
たゆたう 波
光に満ちた 時間
ひるがえる 背びれ
無数の アンモナイト
水のなかの 太陽
時の彼方の 日射し

泳ぐ
肌をすべる やわらかい 水
記憶をすべる なめらかな 流れ
揺れる光 揺れる時間

泳ぐ
三十五億年を

        Copyright by Ryo Michico


★ Perfume Garden

Sun, 25 Jul 2004 04:05:38

赤い薔薇
青い薔薇
微かに琥珀の色をした薔薇
悲しみよりも白い薔薇
血の色の薔薇
咲き乱れる野薔薇
星のように硬いつぼみ
こじあけられる花びら
ひらかれた花びら
散ってゆく花びら
薔薇の木のあいだを足音もなく歩く麝香猫の
やわらかな足の裏が
黒い土にこぼれた花びらを踏む

めまいに似た強い香りのなか
薔薇のなかに棒のように倒れこむ少女

        Copyright by Ryo Michico


○ 未来のための呪文

Sat, 24 Jul 2004 23:36:13

世界は 少しずつ美しくなる
世界は 少しずつ美しくなる
世界は 少しずつ美しくなる

何ものにも傷つけられることのない結晶が
恐ろしくゆっくりと育つように

何ものにも傷つけられることのない結晶が
途方もなくゆっくりと育つように

世界は 少しずつ美しくなる
世界は 少しずつ美しくなる
世界は 少しずつ美しくなる

        Copyright by Ryo Michico


★ 木をたたく

Sat, 24 Jul 2004 23:31:07

深い夜 孤独な人は 木をたたく
音は夜風に乗り 森を越え 畑を越え
水牛の耳をかすめ 闇を渡って 隣人の耳に届く
すると その人は 寝床から起きあがり
答えるように 木をたたく

わたしはここにいます
あなたがそこにいて よかった

そう応える 槌の音は
孤独な人に届き そうでない人にも届き
村のなかを さざなみのように 広がり
闇のなか 人々は 起きあがり
木をたたいては 呼びあう
村は 木をたたく音で 満たされ
やがて 波が静まるように 静まる

もう 孤独な人は いない
あたたかい眠りと やわらかな夢に
人も 島も 包まれている

        Copyright by Ryo Michico


○ 繰りかえす名前

Sat, 24 Jul 2004 23:27:04

はじめの子は ワヤン
つぎの子は マデ
三番目は ニョマン
四番目は クトゥ
そして 五番目が生まれれば
また ワヤン

ワヤン マデ ニョマン クトゥ
ワヤン マデ ニョマン クトゥ
ワヤン マデ ニョマン クトゥ

ここでは名前さえ
波のように繰りかえし
繰りかえし打ちよせる

めぐる名前
めぐる時間
めぐる生と めぐる死

そして
再び生まれる わたし

        Copyright by Ryo Michico


★ 光と闇

Sat, 24 Jul 2004 23:25:34

魔物も 時に愛らしく
神は 時に怒りくるう

サクティ
ともに強い力を持つ者たち

善は悪に 悪は善に
光は闇に 闇は光に
めまぐるしく移り変わり
狂おしく明滅し

いつしか溶け合い
ひとつの混沌になる

光と闇とが満ちる島

ここは 地上の楽園
地上こそが 楽園

        Copyright by Ryo Michico


★ 神々の島

Sat, 24 Jul 2004 22:56:43

まぶしいほどの 月の光が
神々の濃い影を 暗い海におとし
影が ゆっくりと盛りあがって
ひとつの島になった

だから
この島のすべては 神々の影
森も川も山も 鳥も獣も人も

漂いはじめた夕闇のなか
人である 神々のため
神である 人々が
ガムランを奏でる

影は 時に
神そのものより軽やかに
踊り 舞い 歌う

踊り疲れた人々が 
倒れるように 眠りにつき
静寂が 島を満たすと
神々は 深く満ち足りて
さらに濃い 闇の森の底
水のように 笑いさざめく

波紋は 幾重にも幾重にも広がり
花の香りの闇に 隈なく行き渡り
きょうも 島をすっぽりと包む
神々の やわらかな掌になって

        Copyright by Ryo Michico


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