ハルモニア Voice/寮美千子の詩

寮美千子がSt.GIGAで発表した[voice]と、新作の詩を載せていきます。
★=星の時 ○=水の時 ▲=新作
Voice一覧へ ⇒最新の記事へ ⇒検索


○ 呼びかわす

Sat, 24 Jul 2004 21:50:10

呼びかわす 人 と 風
呼びかわす 風 と 鳥
呼びかわす 鳥 と 空
呼びかわす 空 と 海
呼びかわす 海 と 島

波の音が
鳥の歌が
風の音が
人の声が

呼びあい 応えあう

すべてが すべての鏡となって
すべてが すべてと響きあう

呼びかわす 人 と 神

        Copyright by Ryo Michico


★ 星座

Sat, 24 Jul 2004 21:48:35

月夜の晩 天まで耕された田をゆけば
わたしの影が くっきりと稲穂に落ちる

切り抜かれた黒い影のなかで
蛍が 光っている 
まるで 星座のように

風が 穂波を ふいにうねらせると
蛍が いっせいに舞いあがった
わたしの影を 連れて

空に昇る わたしの影
空に昇る わたしの魂

  いつの日か 
  燃えさかる炎のなかで
  空へ還る わたしの魂

ふと見れば 静まりかえる水の面に
星たちが こぼれている
まるで 蛍のように

天なる星も 地なる蛍も 
甘い夜を 呼吸して
ともに 願わしい脈を打つ

        Copyright by Ryo Michico


○ 楽園

Sat, 24 Jul 2004 21:34:08

いつか どこか
ではなく
いま ここ

いま ここが 楽園

朝ごとに 供えられる花は 
夕暮れに しぼみ
砂岩に刻まれた神殿でさえ
花のように しおれ 
樹木のように 朽ちては
また 刻まれる

よせてはかえす 波のように
めぐりくる 生と死
そのすべてが いのち

だから

一瞬は 永遠
永遠の 一瞬

いつか どこか
ではなく
いま ここ

いま ここが 楽園

        Copyright by Ryo Michico


○ 渚にて

Sat, 24 Jul 2004 20:46:47

地上はすべて
光と風の打ち寄せる渚
透明な空の底にひしめく遥かな時間の波が
わたしをこの美しい星に運び
わたしを彼方へとさらう

        Copyright by Ryo Michico


○ Kenji Blue

Sat, 24 Jul 2004 19:17:11

空を まっすぐに截った
鳥の航跡は 残らない
海の底で 揺れていた
魚の思いは 残らない

遥かな地層に刻まれた化石を
発掘することはできても

いま ここにある 思いは残らない

北の果ての海でつぶやいた あなたの声も
ひとり森を歩いていた 胸のさみしさも
光に溶け 風に消えた

けれど
あなたは残した
青い惑星のうえに生まれた
哀しみと歓びの 明滅を
言葉
という 美しい化石にして
書物
という 地層のなかに

だから
わたしたちは いまも見ることができる
この青のただなかに
空いっぱいの 透明な孔雀を

Blue Blue Kenji Blue

見あげれば
惑星の空は
きょうもまぶしい Kenji Blue

        Copyright by Ryo Michico


▲ 出逢い

Sat, 24 Jul 2004 19:08:50

あの日 あの街の あの角を曲がらなければ
きみと 出逢うことさえなかったかもしれない

毎日 決まり切った日常を生きているように見えて
運命は いつだって無数に枝分かれしている
人は 一瞬ごとに そのどれかを選びながら 
繰り返しのきかない 人生という名の道を歩く 
ただ前へ 前へと
踏みだす一歩ごとに 道は交叉する
見知らぬ人々が歩む 透明な道と

世界は 見えない道で覆われている
無数の他者が一瞬ごとに選びとる 無数の道で

あの日
もしきみが あの街のあの角を曲がってくれなかったら
ぼくはきみと 出逢えなかっただろう
人生という名の 長い長い道の果てまで

星がないのに 星のないことを知らずに 生きていたかもしれない
月がないのに 月のないことを知らずに 生きていたかもしれない
太陽がないのに 太陽のないことを知らずに 生きていたかもしれない
きみがいないのに きみがいないことを知らずに 生きていたかもしれない

きみは 空を満たす星 欠けても必ず満ちる月 日ごとに昇りくる新しい太陽
そして なによりも
きみが きみであることの静かな喜びが
ぼくを 深く照らす

苦しみに満ちた日々さえ
きみへと通じる道だったと思えば
過去のすべてが いとしくまぶしい

きみと出逢わせてくれた あらゆる分かれ道と
きみに出逢わせてくれた すべての人の名に
限りなく祝福されながら

いま 新しい一瞬を選びとる

        Copyright by Ryo Michico


○ 太陽と月の婚礼

Sat, 24 Jul 2004 18:28:36

どこまでも透きとおる 真昼の青い空
冥界の女帝は 見えない軌道を音もなく滑り
天空の王者を 無言で抱きしめる

光が死んでいく 影に飲みこまれ
命が消えてゆく 闇に飲みこまれ

獣たちは ざわめき
鳥たちは ねぐらに急ぎ
虫さえも 姿を消し
地平線は 燃える血の色
世界は 深い水の底
時間さえも 失われ
真昼の闇の光の底を
長い脚の夜の使者たちが
ゆうらり揺れる死者たちが
一足飛びに駈けてくる
鋭い叫び声のような光芒を最期に
空に 息絶える王

宙空に浮かぶ 喪の太陽の
真っ黒なその縁から
いきなり 無限コロナが溢れでる
その縁にルビイの宝玉をきらめかせ

見えないものが 見える瞬間
太陽と月の結婚は 祝福され
真昼の空に 星々が燦然と輝く

  (コロナは八十三萬四百……)
  (コロナは八十三萬四百……)

太陽と月とわたくしとが
この無辺の宇宙のなかで
いま 一直線になる
荘厳な祝福の楽の音のなか
美しき幾何の旋律になって
世界の誕生を待ちわびる

        Copyright by Ryo Michico


★ 月蝕

Sat, 24 Jul 2004 16:32:40

真空の闇に引かれた 見えない軌道を
太陽と地球と月とが 音もなく運行していく

軌道は いつも少しずつずれ
 満月は いつもわずかに歪む
  軌道は いつも少しずつずれ
   満月は いつもわずかに歪む

空にかかる歪んだ満月

月が 完璧な真円になるのは
太陽と月とが
地球をはさんで一直線に並ぶとき

そのとき
地球の影が 月に落ちる

完全な円
だからこそ 欠ける月

完全な円
だからこそ 欠ける月
落とされる 深い影

        Copyright by Ryo Michico


★ 影

Sat, 24 Jul 2004 16:29:16

太陽と 地球と 月とが
ひとつに並ぶ 聖なる刻

太陽からの光が
月に
地球の影をおとす


急ぎ足で舗道をゆく人々に
ひとつひとつ影を寄り添わせた
太陽の光が

真昼
草原に生える巨きな樹に
やわらかな木陰をつくった
太陽の光が

夕暮れ
渚を駈ける少年に
どこまでも伸びる長い影をつくった
太陽の光が

いま
はるか 真空の闇をくぐり抜け
遠く月に
地球の影を 落とす

わたしの影を 落とす

        Copyright by Ryo Michico


○ Dawn Chorus

Sat, 24 Jul 2004 16:19:56

地上で 鳥たちがさえずるころ
空にも 透明な鳥のさえずりが満ちる

  太陽から吹いてくる 粒子たちの歌は
  まるで 双子のように
  鳥のさえずりに 似ている
  まるで 宇宙を翔ける透明な鳥に憧れて
  地上の鳥たちが さえずりはじめたかのように

  宇宙は わたしたちに似ていて
  わたしたちは 宇宙に似ている

地上で 鳥たちがさえずるころ
はるばると 真空の闇をわたってきた
見えない小鳥たちの歌が 光とともに空に満ちる

        Copyright by Ryo Michico


○ The Rising Sun

Sat, 24 Jul 2004 16:12:53

太陽が
わたしに さわりたがるから

水平線の向こうから
光の手を伸ばして
海にさわり
波にさわり
渚にさわり
貝殻にさわり
海へつづく小道にさわり
小道にしげる夏草にさわり
草に咲く花にさわり
花に結ぶ朝露にさわり
触れるものすべてを
歓びに満ちた金色に輝かせ
朝露に足を濡らして海へと駈けてゆくわたしを
まっしぐらに抱きしめる

その透明な光の腕で

        Copyright by Ryo Michico


★ 宝石のささやき

Sat, 24 Jul 2004 15:54:38

夜明けには
神々が 空に隠した宝石が
いっせいに ささやきだし
遠い天上の消息を伝える

セレスタイト 失われるものの予感のなかで
オパール 歓びにふるえていた
アメジスト 許されることのない火と水の結婚に
エメラルド 湖よりも深い憂いを秘め
ルビー はげしく燃えさかる命
そして 空は砕け
あふれだすトパーズの光
サファイア色の天上の さらなる天上世界から
湧きおこる 限りない祝福の歌

天にひしめく 無数の宝石たちの
まばゆい光のささやきを
もう だれも 止めることはできない

        Copyright by Ryo Michico


○ 失われたものたちの国

Sat, 24 Jul 2004 03:48:06

翼をひろげ
風をはらんで
ゆるやかな螺旋を 描きながら
鳥が 舞い降りていく光の底に

ひとつの島があった

遠い日につくった 砂の城が
いまも 少しずつ風にさらわれている島

岩のうえに置き忘れた 貝殻が
いまも 朝ごとに打ち寄せられる島

書きかけのまま 打ち捨てられた手紙が
午後の光のなかで ひるがえり

渚で拾った 小石は
ふと離したまま 二度と握ることのなかった
やわらかな手の ぬくもりを宿す

失くしたことさえ
忘れられてしまったものたちが
波の音に 抱かれて
ひっそりと息づいている 島

翼をひろげ
風を感じて
ゆるやかな記憶を 滑りながら
舞い降りていった 心の底に

失われたものたちの国があった

        Copyright by Ryo Michico


○ Beach Glass

Sat, 24 Jul 2004 03:36:41

硝子の欠片が
波に洗われて
いつしか
やわらかな円みを帯びるように

波にさらわれた貝殻が
忘れられたころに
ふたたび
打ちあげられるように

千の欠片に砕け散った心は
波と砂とに 惜しげなくあずけよう
時の流れに さらわれゆくままに

それは きっと もどってくる
やわらかな 円みを帯びた
億の 美しい記憶になって

いつか きっと もどってくる
わたしの この手のなかに

        Copyright by Ryo Michico


○ 波の音楽

Sat, 24 Jul 2004 03:06:31

母親の声に包まれた 胎児のように
波の音楽に 包まれている

たとえ 平原のただなかにいても
地平線の果ては すべて海だから

たとえ ビルのはざまにいても
あの空の彼方は きっと海だから

母親の鼓動に包まれた 胎児のように
いつも
波の音楽に 包まれている

        Copyright by Ryo Michico


○ 宇宙の渚

Sat, 24 Jul 2004 02:57:57

海からは 波が打ち寄せ
空からは 光が打ち寄せる

そして
わたしのなかから 打ち寄せる
果てしない夢

ここは 宇宙の岸辺
わたしは 小さな渚

        Copyright by Ryo Michico


○ 処女航海

Sat, 24 Jul 2004 02:52:51

帆にはらむ はじめての風
舳さき切る はじめての波

みあげれば はじめての空
ふりそそぐ はじめての光

出会うもの すべてが
いま 
ここに 生まれおちたばかり
いま 
世界が 生まれる

風をきる はじめての鳥
現われる はじめての島

すべての瞬間は 処女航海

        Copyright by Ryo Michico


○ Talk to the Wind

Sat, 24 Jul 2004 00:09:38

いつも 風が
切れ切れの物語を 運んでくれるから

いつも 風が
見知らぬ音楽を 届けてくれるから

午後の陽射しのなかで
きょうは わたしが語ろう
過ぎ去った日々の 物語を
低い声で うたおう
いつも響いていた 歌を

空を吹き抜けていく
この風のために

        Copyright by Ryo Michico


○ 風のフーガ

Sat, 24 Jul 2004 00:08:04

追いかけてゆく
風が
追いかけてゆく
風を
追いかけてゆく

朝露をふるわせ

遁げてゆく
風が
遁げてゆく
風から
遁げてゆく

水面みなもを光らせ

はじまりから 終わりへ
終わりから はじまりへ

翔けてゆく
風が
翔けてゆく
風と
翔けてゆく

ここから 彼方へ
彼方から ここへと

        Copyright by Ryo Michico


○ 風の歌

Sat, 24 Jul 2004 00:05:13

風が 運びさった砂を
風がまた 運んでくる

風が さらっていった時を
風がまた 連れてくる

  失わなければ
  得られないものを
  いつも 
  風が 運んでくる
  きらめく光のなかで
  終わりのない歌を うたいながら

風が さらっていった夢を
風がまた 連れてくる

風が さらっていった季節を
風がまた めぐらせる

        Copyright by Ryo Michico


○ Outlands

Fri, 23 Jul 2004 23:19:27

王が そう望んだので
城壁のなかの街は
すべてが 赤い砂岩の色
市場に向かう通りには
人と車があふれ
その間を縫うように
裸足の男が 人力車を引く
麻袋を積んだ荷車が 軋んで止まり
喧噪のなかで
駱駝は ふと
遠い空を 見あげた

空は
砂漠の空と同じ色
どこまでも
どこまでも深い 青

鞭が 鳴り響いて
駱駝はまた
ゆっくりと
重い荷車を引く

        Copyright by Ryo Michico


○ Someday My Prince will come

Fri, 23 Jul 2004 23:12:44

眠り姫は 夢を見ていた
だれよりも 美しい夢を

夢は 王子の眠りに滑りこみ
耳許で やさしくその名を呼ぶ
王子は 何度目を覚ましただろう
まだ見ぬ恋人の姿を くっきりと見て

夢見る力が 呪いの言葉を破り
王子を呼びよせる
龍は深い眠りにおち 茨は自ら道を開き
王子を招きよせる

だれよりも強く 夢見る者が
だれよりも美しい いまを 手に入れる

きっといつか もうすぐに

        Copyright by Ryo Michico


○ アンモナイトの夢

Fri, 23 Jul 2004 22:57:34

螺旋の階段を めぐり
ゆっくりと降りていく 過去に
はじまりの時は 見えるだろうか

螺旋の迷路を ほどき
ゆるやかに伸びてゆく 空の果てに
未来は 見えるだろうか

掌のなかのアンモナイトは
遠い時間を旅して
いまも 夢見ている

六億年前に
消えていった音楽を 聴きながら
六億年後に
聴こえてくるはずの 音楽を
わたしの掌のなかで 夢見ている

        Copyright by Ryo Michico


○ Summer Lullaby

Fri, 23 Jul 2004 22:55:59

体じゅうを
金色の血が 駈けめぐるほど
しあわせな日々
夏は
永遠に終わらないと 思っていた

木洩れ陽のハンモックで
子どもは目を覚まし
ふと
空の色が変わっていることに気づく

砂の城を置き去りにして
遠く駈けていくのは
あれは
すっかり日に灼けた少年

海を怯えて泣いた子どもは
もう どこにもいない

空に消える 永遠の夏

        Copyright by Ryo Michico


○ 悲しい夢

Fri, 23 Jul 2004 22:52:10

悲しい夢を見た

光のかけら砕ける空を
どこまでも昇っていく
まぶしい夢を 見た

空の高みは
淡い光を放つ 紗の雲で覆われ
永遠のように
幾重にも幾重にも 織りなされ

天上からの光は
微かに屈折しながら 虹色に霞み
鳴りやまぬ音楽のように
天蓋に満ちていた

真珠色の微粒子の散乱する空を
どこまでも昇ってゆく
水のなかを駈け昇る ひと粒の泡のように

淡い雲を一枚 また一枚と くぐり抜けると
紗を 脱ぎすてたように
わたしは さらに軽く
さらに 透きとおり
いつしか
透明な一対の翼になり
翼のたてる はばたきの音だけになり

昇るほどに
光は さらにまぶしく
それでいて さらにやわらかく
最期の雲を くぐり抜けると

なにもなかった
なにも

美しい夢を見た

        Copyright by Ryo Michico


○ Voice in My Mind

Fri, 23 Jul 2004 22:45:24

わたしのなかに 広がる海に
打ち寄せる 波の音

わたしのなかに 萌えたつ森に
鳴き交わす 鳥の声

わたしのなかに 輝く砂漠は
いくつもの 滅びた王国を抱き

時の彼方で うたわれた歌は
いまも 響く
わたしのなかの 果てのない空に

なにひとつ 失われていない
なにひとつ 失ってはいない

星の彼方を 見つめるように
じっと 耳を澄ます
わたしのなかから 聴こえる声に

        Copyright by Ryo Michico


★ 月の神殿

Fri, 23 Jul 2004 22:42:15

そこには
石英でできた神殿があって
果てしなくつづく巨大な柱の列の
いちばん奥まった場所に
石の卵がひとつ 
大理石の台座のうえに 置かれている
 
まるで蛍石のように
卵のなかに 
淡い緑が透ける

それは 透明な翼
森を吹き抜けてきた
そよ風を織りなしてつくった
かろやかな紗の翼

翼にくるまれて
ひとりの少女が眠っている

少女は 夢見ている
時のはじまりから ずっと
世界よりも 巨きな
宇宙よりも 永い時を
じっと 夢見ている

すべて 夢は
そこから やってくる
月の神殿に眠る
少女の夢のなかから

眠りのなかへ射しこむ
月明かりになって

        Copyright by Ryo Michico


★ 星の楽譜

Fri, 23 Jul 2004 22:28:57

きらめく星は
あれは 
ほんとうはオルゴール

北極星を軸に 
ゆっくりと回る
水晶の円盤に埋めこまれた
金と銀のピン

耳を澄ませば
ほら 聴こえる
星座たちの旋律

        Copyright by Ryo Michico


★ 月の音盤

Fri, 23 Jul 2004 22:26:30

あの まんまるい月に
水晶の針を そっと置いて
三十三と三分の一回転で 廻すと
ほら 聴こえてきた
Whitenoise 楽団のジャズ

        Copyright by Ryo Michico


★ 月への翼

Fri, 23 Jul 2004 22:15:10

月夜に 遠く夢見る者は
背中に 青い翼が生える
月の光に 透けて煌めく
海より青い 翼が生える

月夜に 遠く夢見る者は
羽ばたきもなく 夜空を翔ける
夢より速く 夢より遠く
遥かな月へと 闇夜を翔ける

月夜に 遠く夢見る者は
星の奏でる 音楽になる
羽根も体も きれいに透けて
羽ばたきだけの 音楽になる

        Copyright by Ryo Michico


○ 地球

Thu, 22 Jul 2004 02:04:45

水でさえ 語る
風でさえ 歌う
いのちないものでさえ
音楽を奏でる惑星に
わたしたちは 生まれた

  だから
  悲しみさえ 輝いている
  歓びは さらにまぶしい

光たちは 笑い
闇さえも 微笑む
いのちないものでさえ
心を交わす惑星に
わたしたちは 生まれた

        Copyright by Ryo Michico


○ 流れる水

Thu, 22 Jul 2004 01:50:49

ひとときも 留まることがないのに
流れる水は いつも 川と呼ばれ
一瞬も 同じものではないのに
揺れる水は いつも 波と呼ばれる

わたしが 眠っている時も
川は 流れつづけ
わたしが 生まれる前から
波は 打ち寄せつづけた
この惑星のうえに

浮かぶ水は 雲と呼ばれ
わたしが いなくなっても
空を 流れつづけるだろう
ゆっくりと 形を変えながら

うつろいつづける
永遠に 変わらぬもの
流れてゆく 水

        Copyright by Ryo Michico


○ 蜜蜂のささやき

Thu, 22 Jul 2004 01:46:56

草原に降りそそぐ 琥珀色の光のなか
蜜蜂の羽音だけが かすかに聴こえるとき

時間は 止まる

そして
永遠
が 
少女に語りかける

  世界の秘密を 教えてあげよう
      (きみだけに)
  深い井戸のなかに 棲んでいるのは
  あれは 地に墜ちた 流れ星
      (きみに 会いたくて)
  森の木の葉のささやきは 
  きみを呼ぶ 精霊の声
      (世界の はじまりから)
  湖のほとりの洞窟には
  怪物が 隠れていて
  きみが 見つけてくれるのを
  もう百年も 待っている
      (じっと 息を凝らし)

                       きみに
                きみだけに会いたくて
                 世界のはじまりから
               じっと息を凝らしている

草原に降りそそぐ 琥珀色の光のなか
蜜蜂の羽音だけが かすかに聴こえるとき

風の声に
少女は目覚め

世界のまぶしさに
思わず
手をかざす

        Copyright by Ryo Michico


○ 花影

Thu, 22 Jul 2004 01:44:16

微かな光に満ちた大気の底で
そこだけ
さらに明るい

淡い緑の山に割いた
ひと群れの花の影

まるで
はなびらの一枚一枚に
光の粒子を呼びよせる
引力がある とでもいうように

やわらかな大気の底で
そこだけ
さらに明るい

        Copyright by Ryo Michico


○ 風のゆりかご

Thu, 22 Jul 2004 01:42:21

水を
ゆるやかに揺らしながら
風が
吹いてくる

山を
やわらかく揺らしながら
風が
吹いてくる

生まれおちたばかりの
春を
いとおしむように

両腕にいだいた世界を
やさしく揺すりながら

風が
吹いている

        Copyright by Ryo Michico


○ 春の旋律

Thu, 22 Jul 2004 01:40:39

まだ だれも聴いたことのない音楽が
花びらとともに 舞い降りてくる

何千回 何万回 めぐろうとも
その春は いつも はじめての春
めぐりくる音楽は
いつも はじめての旋律

まだ だれも見たことのない輝きが
空に 響きわたり
まだ だれも知らなかった歓びが
大地を 満たしてゆく

        Copyright by Ryo Michico


○ ふりしきる花びら

Thu, 22 Jul 2004 01:39:35

ふりしきる ふりしきる 花びら
ふりしきる ふりしきる 光のなかを
たゆたう たゆたう 春

やわらかい風が 
光に透けた 少女の耳をなでる
きれぎれのささやきを 残しながら

春風に溶けこんだ音楽が
うす紅色に透けた 少女の耳にすべりこみ
心の奥の 見知らぬ記憶を 奏でる

いつか どこかで こうして 
風に舞う花びらを 見ていた
やがて来る なにかを 待ちながら

遠い光のなかで
春風よりも やさしいぬくもりに いだかれていた
強い花の香りに 包まれて

少女は 目を閉じて
光に 顔を向ける

まだ見ぬ恋を 思いだそうとして

        Copyright by Ryo Michico


○ 溶けてゆく光

Thu, 22 Jul 2004 01:38:43

溶けてゆく光

溶けてゆく時

溶けてゆくあなた

溶けてゆくわたし

ゆったりと流れる
春の一日

        Copyright by Ryo Michico


★ 闇の色

Wed, 21 Jul 2004 21:34:57

夜に包まれて
色は 眠る

闇に 目を凝らせば
眠る色の 息づかいが 聴こえる

海は 青くうねる闇をたたえ
その縁は 微かに白く波立ち
浜辺で
舟は 闇よりも濃い影になる

闇に包まれて
人は 眠る

夢のなかの
一片の花びらは
闇のなかの 花びらよりも 赤い

        Copyright by Ryo Michico


★ やさしい夜に

Wed, 21 Jul 2004 21:33:49

空が 海と
星が 森と
月が 湖と
抱きあう 深い夜

わたしのなかに あなたがいて
あなたのなかに わたしがいる

海が 空と
森が 星と
湖が 月と
溶けあう 深い夜

あなたのなかに わたしがいて
わたしのなかに あなたがいる

        Copyright by Ryo Michico


○ After the Rain

Wed, 21 Jul 2004 21:32:18

たったいま 水からあがったばかりの野獣のような
たったいま 海から隆起したばかりの陸地のような

雨あがりの都市

        Copyright by Ryo Michico


★ 夜の虹

Wed, 21 Jul 2004 21:30:38

回転木馬にまたがって 終わりのない音楽を廻りつづける 幼子の夢
歓声に包まれて ゴールのないトラックを走りつづける 走者の夢
半音階の螺旋階段を どこまでものぼりつめていく 恋人たちの夢
鏡のように凪いだ 記憶の海へ漕ぎだそうとする 老水夫の夢

夢は 廻りながら 空の高みにのぼり
月光に晒されて 夜の虹になる

        Copyright by Ryo Michico


○ Light as a Feather

Wed, 21 Jul 2004 21:29:01

見えない
木洩れ陽のなかで
きみが よく見えない

思いだせない
夢で鳴っていた音楽のように
思いだせない

確かに そこにいるのに
風景を透かすほど きみは透明
半分は 粒子になって
かろやかに 風に散ってゆく

抱きしめようと 手を伸ばしても

つかまえられない
風のなかの羽根のように
きみを つかまえられない

        Copyright by Ryo Michico


★ 抱擁

Wed, 21 Jul 2004 21:27:40

名づけることで
失われてしまっていたものたちが
いま
還ってくる

深い闇のなかで
すべての名前を失い
夜明けの光のなかで
すべての言葉を忘れて
ただ
無垢な輝きになって

いま
ここへ
戻ってくる

        Copyright by Ryo Michico


○ 永遠

Wed, 21 Jul 2004 21:25:44

かつて 失われたもの
これから 失われるものの
すべてが
いま
ここにある

わたしを抱きしめる
あなたの腕のなかに

        Copyright by Ryo Michico


○ 見つめていると

Wed, 21 Jul 2004 21:24:54

見つめていると 消える
世界が 消える

この場所が消え
窓硝子が消え
通りが消え
街が消え
地平線にかすむ山
山にたなびく雲も消え
雲を浮かべた空も
空に隠された幾億の星
星を宿す二百億光年の広がりと
膨張する宇宙の
孤独が 消える

あなたを
見つめていると

        Copyright by Ryo Michico


★ 波

Wed, 21 Jul 2004 21:21:52

たゆたう波に
ゆっくりと 溶けてゆく
わたし という境界線

わたしは あなたになり
わたしたちは 夜になり
闇をなでる 風になり
またたく億の 星になり
無辺の 宇宙になり
永遠の 時になる

        Copyright by Ryo Michico


★ やわらかな海

Wed, 21 Jul 2004 21:19:52

きみは やわらかい 小さな 海

いのちの記憶を たずさえて
結晶都市を さまよっている

夢のなかで きみに会う
きみのなかで 海に会う

人は やわらかい 小さな 海

あたたかい眠りのなかで
同じ 波の音を 聴く

二十億年前の 波の音を 聴く

        Copyright by Ryo Michico


★ 人魚の夢

Wed, 21 Jul 2004 21:17:13

その夢は 明るくて
途方もなく 眩しく
なにも見えないほど
光り輝いているから

青く揺らぐ大気の底の
結晶都市の人魚たちは
眠らずに 夢を見る
目を明いたまま 夢を追う

ひとかけらの 闇を探して
あたたかな 闇を求めて

        Copyright by Ryo Michico


★ 星の少年 月の少女

Wed, 21 Jul 2004 21:15:28

星を見あげて 少年は思う

ぼくのなかに
どこまでも はいっていくと
きっと 小さな宇宙がある

その宇宙にも
太陽があり
太陽をめぐる 惑星があり
惑星のうえに
星を見あげる 少年がいる
ぼくのような

ぼくの時間は
もうひとりのぼくと比べたら 永遠だけど
きっと おなじひとつの いのちの時間

月を見あげ 少女は思う

わたしのいる この宇宙が
たったひとつの原子のような
そんな巨きな 宇宙がある

その宇宙にも
太陽があり
太陽をめぐる 惑星があり
惑星のうえに
月を見あげる 少女がいる
わたしのような

わたしの時間は
もうひとりのわたしと比べたら 一瞬だけど
きっと おなじひとつの いのちの時間

いつの日か めぐりあう少年と少女は
遠く離れた 同じ夜に
同じ空を 見あげている

        Copyright by Ryo Michico


○ 夢見る力

Wed, 21 Jul 2004 21:13:04

天にそびえる梢を 夢見なかったら
どうして ひと粒の種が
固い土のなかで
やわらかな芽を 出すことができるのだろう

咲きほこる花を 夢見なかったら
どうして ただ緑一色の草むらが
暗い夜の底で
色とりどりの蕾を 用意できるのだろう

世界が 夢を見ているから
未来が 運ばれてくる
まだ見ぬ場所から 吹いてくる
新しい風のように

夢を見よう
透きとおった夢を

美しい夢を 見ようとしないで
どうして
美しい明日を
招くことができるだろう

        Copyright by Ryo Michico


○ いつか聴いた歌

Wed, 21 Jul 2004 21:11:09

いつか聴いた歌が
ふいに 響きだす
どこかの街角で

忘れていたはずの
けれど
忘れることのできなかった歌が
ふいに 鳴りはじめる

あの時よりも
もっと あざやかに
あの時よりも
もっと まぶしく

そして もう
鳴りやまない

いつか聴いた歌が
いまも 響いている
わたしという楽器のなかで

        Copyright by Ryo Michico


○ 真珠貝

Wed, 21 Jul 2004 21:08:56

わたしは 大気の海の底の
小さな貝だ
どうしても 抜き去ることのできない
棘を抱えた

わたしは いつか
それを 悲しみ という透明な輝きでくるみ
ひと粒の真珠にすることが できるだろうか

遠い年月の果てに

        Copyright by Ryo Michico


○ 青空

Wed, 21 Jul 2004 21:07:40

風に とぎれとぎれに
天の音楽が 聴こえてくる

わたしが まだ
あの雲の入江を泳ぐ 小さな魚だったころ
かなしみ
という言葉さえ 知らなかった
地上は
透明な青い大気の海の底
わたしは 目もくれなかった

地上のかなしみは
天上のよろこびと
同じ色をしている

ただ
いまは それを
大気の海の底から 見あげているだけ

きょうも 空は
どこまでも青い

        Copyright by Ryo Michico


○ 青い輝き

Wed, 21 Jul 2004 21:02:52

その青い
輝きのただなかで
海をわたる
風になる

その青い
輝きのただなかで
空を翔ける
鳥になる


という名の翼に
どこまでも さらわれて

その青い
輝きのなかに
果てしなく
溶けてゆく

        Copyright by Ryo Michico


○ Silent Blue

Wed, 21 Jul 2004 21:01:38

空は
無数の星の輝きを隠して
青い

数えきれない宝石を隠して
沈黙する

そんなにも眩しく
そんなにも饒舌な
天の大伽藍

目を凝らせば
聴こえてくる
音のない音楽

        Copyright by Ryo Michico


○ 青空の星

Wed, 21 Jul 2004 21:00:10

空の散乱反射の光の海に 星が埋もれている
カシオペイアは いま あの青空のただなか
どんなに明るい真昼でも
わたしは 見えない無数の星の光を浴びている

星の光の森を 歩いている

        Copyright by Ryo Michico


○ 夜明け

Wed, 21 Jul 2004 20:37:04

光は フォルテシモで歌い
星を 強く抱きしめたので
星は 光に溶け
いまは 青い空
どこまでも 青い空

見えない星を さわって
透明な風が 吹くから
空に鳴る 風の竪琴
わたしを震わせ 
わたしを満たす 見えない音楽

        Copyright by Ryo Michico


○ 結晶の眠り

Wed, 21 Jul 2004 20:35:09

砂漠に
泉が隠されているように

青空に
星が隠されているように

大地の底で
結晶が眠っている
きらびやかな その眠りを

まだ だれも見たことのない
美しいものたちが 
声もなく眠る 地球という惑星で

まだ だれも見たことのない
美しい夢たちが
人々の胸のなか 音もなく息づく 

        Copyright by Ryo Michico


★ 眠る火の呪文

Wed, 21 Jul 2004 20:22:10

貝の螺旋の果ての国
神々の降りるところ
火は石のなかで眠る

        Copyright by Ryo Michico


★ 水の庭園

Wed, 21 Jul 2004 20:14:27

その森は 水の庭園

月の光が 細い銀の糸になって 降り注ぐ夜
森は 徐々に透きとおる

樹木は 大地から静かに立ちあがる 緩慢な噴水 
ゆるやかに揺れるその枝先から 葉脈のしぶきが飛び散る 
そのひと滴ひと滴が 月光にきらめき 満天の星を映す

幾千もの透明な樹木が並び立つ 月光の森
ただ 水だけが きらめている

耳を澄ませば 聴こえる 水の音楽
すべて森は 夢見る水

        Copyright by Ryo Michico


▲ Je voudrais crever/ボリス・ヴィアンに捧げる

Sat, 17 Jul 2004 03:06:08

ぼくは くたばりたい
いっそ くたばってしまいたい
この花の森の奥の奥
千の迷路を抜けてたどりつく
有史以前から生きてきた巨きな樹の根本で
ぼくは くたばりたい
いっそ くたばってしまいたい
どこかで知っていたはずなのに
どうしても思い出せない
せつなすぎる花の香りに包まれ
香油を塗りたくられて 薄っぺらな永劫をまどろむ
エジプトの 哀れなミイラを思いながら
ぼくは くたばりたい
いっそ くたばってしまいたい
赤ん坊だったぼくの頬に
やわらかく触れた乳房の感触で
ぼくを執拗に撫でまわす春の風のなかで
まだ見えなかったぼくの目が 微かに感じていた
生まれる前にいた場所に満ち満ちていた
淡い光の渦巻くなかで
ぼくは くたばりたい
いっそ くたばってしまいたい
軽薄な歓びが
生きている不安を足早に追いこす前に
ぼくは くたばりたい
地球とぼくとが
苦痛にすっかり麻痺してしまう前に
完全なる満月に落ちる 都市と人の影が
月を 真空の闇に溺れさせてしまう前に
愚かなことばたちの群れが 
空を覆い尽くして
星々の名をすっかり明らかにしてしまう前に
ぼくは くたばりたい
いっそ くたばってしまいたい
花々が季節を忘れ果ててしまう前に
風と波との区別のつかない一瞬の時間のなかで
四角く区切られた絶望を
まだ いとしいと感じられるうちに
透明な痛みを感じられるうちに
ぼくは くたばりたい
いっそ くたばってしまいたい
生け贄の山羊のように
頭のない首から 空高く太陽を噴きあげ
祝福の打ち上げ花火になって
ぼくは くたばりたい
いっそ くたばってしまいたい
開ききった瞳孔の奥で
真昼の星の輝きを網膜に感じながら
人々の恐怖の叫び声を
遠い海のざわめきだと勘違いして
至福の微笑みを
この春の日にゆるやかに舟のように浮かべ
きみの名前を呼びながら
失われたきみの名前を
だれも聴きとることのできない 
かすれた声でつぶやきながら
ぼくは くたばりたい
いっそ くたばってしまいたい

だから だれかぼくを屠殺してくれないか
ゆるやかに磨滅させるのではなく
絶望を降りつもらせるのではなく
この一瞬に
ぼくを 奪ってくれ
ぼくを 葬ってくれ
永遠に
永遠のなかに

        Copyright by Ryo Michico


○ 水の鏡

Thu, 15 Jul 2004 03:06:49

水が 帰っていく場所がある
すべての水が

花だった水
鳥だった水
草だった水
虫だった水
幼い子どもの頬を輝かせ
その頬を流れおちた水

すべての水が
せせらぎになって
流れこんでいく 湖がある

そこから 流れだす川もないのに
湖は 溢れることなく
いつも 鏡のように静まりかえり
遠い空を 映している

あらゆる魂がやってきた彼方を
あらゆる魂が戻ってゆく彼方を
映している

欠けることのない月を浮かべて

        Copyright by Ryo Michico


■一つ前のVoice/寮美千子の詩(0000)


Copyright by Ryo Michico
Powered by CGI_Board 0.70