「物語の作法」掲示板 (0007)

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東條慎生　改稿しました。 2002年02月28日(木)22時09分16秒

全体的に表現の不備をいくらか訂正と、最終章の加筆を行いました。
終章以外は大幅な変更はないので、面倒な人は10章だけ読むのが良いと思います。

　　　水のエンパイア

　1.

　夜は雨の予感に湿っていた。空気も、木々も、そして空も僕も月も星も。中天にかかる三日月は空を覆う灰色の曇り硝子の向こうにあるおかげで、水に滲んだ絵具のようにその輪郭をぼやかせている。雲は滲んだ月を中心にして、光がそこから広がっていくように微かに光っているように思えた。それは、雲の裏に潜んでいる無数の星たちがかろうじて放つことが出来た光なのかも知れない。視線を落として、部屋の窓から眺められる隣の畑からは、土が湿っているためか冷たい感触を伝えている。そして薄ぼんやりとした月明かりは木々の葉に落ちて、ささやかに月を反射している。―明日は雨が降るだろう。僕は空を見てそう思い、寒い空気の入り込んでくる硝子窓を閉めた。遠く見える住宅街の、人がいることを主張してやまない輝く灯は、硝子に浮かぶ水滴で散らばりながら砕けている。
　僕は窓のそばを離れて机の上にあるオブジェの電源を入れた。スイッチが入り装飾用の電球がそれぞれの虹色の光で、透過プラスチックで出来た骨組みを中から照らし出した。本当はこのオブジェは全体を氷で作っていれば完璧なものになっただろうと思う。光が歪んで散ってキラキラと瞬くオブジェ。しかし、そんなものは部屋の空気が常時氷点下であるような、とてもじゃないが居住には適さない部屋でしか満たせない条件を必要とする。
　ゆっくりとモーターの音が聞こえ始め、オブジェの中の青い水は音を立てて緩やかに流れ出した。水は傾斜のついた水路の中を余裕の体で遡って流れていき、その頂上に行き着いた後、小さな滝となって緩やかに、浮き上がるように流れ落ちた。滝壺は水路の一番最初の地点に落ち込んでいて、そこからまた水路を遡って流れ出す。永遠の流れの中で水は定められた水路を流れ続ける。このオブジェは、あの有名なエッシャーの「滝」の忠実な再現なのだった。しかし忠実というのはもちろん不可能だ。エッシャーの絵というのは二次元空間を認識する際に用いる枠組み(遠近法などの)の矛盾をつくことによって、その枠組みが後天的に造られたものに他ならないのだと言うことを証明しているように思える。そんなものをどうやって現実に移し替えることが出来るのだろう。ことは絵の内部で行われている。しかし、だからこそ絵の内部において、額縁の宇宙の中で無限を構築することが出来たのだ。翻ってこのオブジェは、その絵の中の無限を無理矢理に現実に移植しようとした苦心惨憺の成れの果てでしかない。絵の中では、上っているのか下っているのか決定されることのない水路はこのオブジェにあっては上りであることを決定されてしまっている。そして、水は何らかの動力の力により水路を上り、流れ落ちる滝となって元の場所に戻る。余りにもあんまりな事態ではないか。これでは現実の力に対して僕は失望するしかないのかも知れない。しかし、やはり、ここには無限があると言うことを僕は大きな感動をもって実感する。微かな動作音、僅かな滝の音、小さな永劫。それは僕が手に入れた唯ひとつの無限。
　見れば見るほど不思議なオブジェだった。全体はドーム状の厚い硝子に覆われ、内部は水で一杯に満たされ、水路を流れるものも青色がかかった多少粘性のある水だ。為に、かなりの重量がある。買って持ち帰るのにかなりの苦労をした覚えがある。ビニール紐の手に食い込む感覚が残っている。

　2.

　そういえば、あの店は今どうなっているのだろうか。僕がこのオブジェを買ったあの不可解な店。駅を出たところにある正面の通りから、幾分か裏にまわったところにそれはあった。あの時は学校が終わると、いつも友人たちと三人ほどで街をうろついていた。何が理由というわけもない、それでも僕らの間には何故か重い孤独が横たわっていて、それは独りでいるときよりも大きさを増していくのだけれど、かといってすすんで独りになることは出来ず、とにかくそう言うわけで僕らはいつも一緒にいた。そんな中、次第に彼らとの空気が弛緩して来、誰にも受け取られることのない言葉たちが三人の上に漂う日常という茫漠の中で上滑りして今にも流れ去ろうとしている時、路地の裏手にふと仄見えた、その暗い影と金属の匂いのようなものを遠くから感じさせる店構えに僕の心は惹きつけられた。茫漠そのものが僕の中から掻き消えて、友人と共に歩き去る間にも、その印象だけは強くその場所と僕の間の水路を無理矢理にこじ開けてしまっていた。僕だけが独り振り返って眺めていたのを覚えている。
　それから僕は何度かその店を一人で訪れた。店の入り口は居並ぶ軒先の連なりに消えてしまいそうなほど幅が狭く鰻の寝床式の縦長商店だった。入った店の中には不可解な代物が数多く埋もれていた。熱力学の法則で否定された永久機関をモーターで動かして、無理矢理見た目にそれが本当に永久機関であるかのように錯覚させるインチキ歯車に、回転するメビウスの輪の立体的なホログラムを投射する機械、支柱の中を通して底から砂を汲み上げ永久に落ち続ける砂時計などなどが、無造作に重なり合ってぎゅうぎゅうに押し込まれていた。そんなテクノロジーの力業で夢を無理矢理叶える、機械仕掛けの粗雑な店。その一角にそれはあった。そういえば、その店の奥に入る襖の上には横に大きく「Deus Ex Machina」―機械仕掛けの神、なんて書いてあった。仰々しいその文字と店の中の不釣り合いはこの店のごく的確な要約に思えた。それとも、神を人造しようという店主の絶望的であるが故にふくれあがる希望なのか。それも、滑稽なほど誠実な。
　―兄さん、エッシャーがお気に入りかい？
　店の主人は薄笑いを浮かべて話しかけてきて、僕が何か応えて喋るまえにその主人は独りで滔々と語り出した。
　―エッシャーは人気があるんだが再現するのが難しくてねえ、何しろ絵の中の錯覚を使って描いてるだろう？そうすると易々と立体化するわけにはいかないのさ、まあ、それでも絵の中の何分の一、いやいや何百分の一か、それくらいならこんな風にして触れる形にすることも出来るんだが、彼の絵にある完全性というヤツはもう全くなくなってしまうから、絵の人気に比べてこの立体オブジェは人気が薄いのさ。それでもやっぱり絵の人気はあるわけだからそれでも買う人はそりゃいくらもいるわけだけども。で、君が見ているそれだけど、それは今一番新しく出来たヤツで、今までのものより遙かに完全に近づいたものだよ。何しろ全体をドームの硝子で覆うことによって、内部の水流の成分を変えて……
　店の主人の話に曖昧に頷きながら僕はずっとその水の中の滝を眺めていた。その時には僕はもう、この無限を何とかして手に入れたくなっていたのだ。バイト代を貯めてそれを買った後はあの店を訪れていないことに今更気づいた。このオブジェがあればそれで良かったために、道具としての役目を終えたあの店には関心が消えてしまったのかも知れない。至極当然の成行きだ。しかし、あの店主は僕の中で絶望的な希望をひたすらに追い求めるという若々しい野蛮さをなお自分に課す強靱な人物像として捏造されている。それには今も好意を持っているのだけど、本人から得た印象ですらなく、あくまで想像の中の人物像でしかない。もしかしたら、彼も彼の店に数多く並べられている機械仕掛けのインチキの一つなのだろうか、そう、彼こそが機械仕掛けの神なのかも知れなかった。

　3.

　水。水を眺めていたためにふとある本を思い出し、どうにもそれを読み返したくなって机の脇にあるこの部屋のただ一つの本棚―組み立て式でその分安いが、途中で組み立て方を間違えて、一部の棚板の上下が逆になっている―から、薄緑色の背表紙の文庫本を取り出す。安部公房「デンドロカカリヤ・水中都市」。高校の頃、友達に勧められてから一時期この作家の本を読み漁っていたことがある。いわゆる日本の作家にない特異な作風で、その世界の奇妙な設定や変なリアリティにはとても惹かれるものがある。開かれたページには「水中都市」と不思議なタイトルが踊る。読み進むと初めから三行目で既にこんな台詞が出てくる。「ショウチュウを飲みすぎると、人間は必ず魚類に変化するんだ。現におれのおやじも、おれの見ている前で魚になった。」
　僕が特に読みたくなったのは後半の都市が水に沈むところで、僕はそれを読んでからというもの街の中を歩いているときによくその街が水に沈んだ光景を想像の中で思い描いていた。そこでは地べたを這いずり回るように歩き、肩をぶつからせて苦み走った顔をしながらこんがらがっていた人々が自在に水中を浮游しているのだった。そしてその僕の世界に夕暮れの陽射しが射すと、それは時間に閉じこめられ時間から解放された永劫の今に在る生きる琥珀細工であるかのように思えた。現在は決して過去にならずにその時をとどめながら結晶と化す人々は、未来も過去も持たずそれ故に時間を持たず、またそれが故に決して終焉を思い知ることがない。事象の特異点がそこにポカリと黒い穴を開けて人々や僕を飲み込んで、蠕動を続けるその食道はメビウスの輪なのでまた空から還ってくる。僕は太陽が砕け散って光の粒と渦の中に巻き込まれている光景を夢想し、水中に浮かんでいる感触を想像しては、恍惚とした感覚の中に溺れてみたいという願望を消せなかった。
　「水中都市」は一体どういう物語だったのだろうかと考えると、いつもその先が壁に閉ざされているような無力感を味わい、進むことは出来ない。幾つかの断片的なイメージが脳裏をよぎっては、一つにまとめることの出来ない魚の群れのようにあわただしく岩下に隠れようとしている。死を産む親父、間木の描く絵、水に沈む都市、死に変貌した親父、親父に喰われる念珠屋。そして、最後の文章を読み終えるときにはまた何かとんでもないものが通り過ぎていったような感慨に襲われる。その最後の文章がまた意味が分からないのだった。「この悲しみは、おれだけにしか分からない……」と作品は終わっている。僕にもさっぱり分からない、と内心叫びたくなるのだ。

　4.

　目が覚めた朝はやはり雨が降っていて、休日のだるさが僕を布団の中にとどめていた。昨日よりも何かをたくさん積みかさねて重みを増した雲の塊から、耐えきれない水の屑が零れ落ちてしまっていた。雨の日には雪の時と同じように、降るものたちが音を吸収してしまい部屋の中は一種隔絶した異空間かと思えるほど静かになっていく。音が内にこもって外の音は聞こえない。雨の音はするのだけれど、それ以外の音が入ってこないためにより静けさが深まっていくようだ。そうして寝床の中でまだ尾を引いている眠気を引き留めながら、外の景色をじっと眺める。自動車が一台窓の下を走っていった。自動車は遠くの幹線道路へと流れ込んでいき、都市の動脈に合流していて、その流れは自動的に動いているオートメーションの工場を思わせる。道路に立ち並ぶビルや商店は雨の中でも光を放っていて、昨日の水滴にぬれた硝子窓から見た街の風景とは違う感触だった。滲むように輝くわけではなく、霧で遠くへ引き込まれるように遠のくのに灯のせいでそこだけが強調されて僕に訴えかける、微かな存在感。通りを歩く人がとても少なく店の中にも人が見えない。道路には車が走っているが乗り物はいつも人間性を刈り取るものとして僕には映る、だから外の景色は霧に襲われて機械だけが生き残り細々と活動を続けている人間の廃墟、機械たちの墓場のように思われ出した。
　雨の音が聞こえてきた。それは自分の体の中から響いている音だった。ずっと外を眺めていたせいで、僕の心が次第に空へ溶け出して外の雨と同じものになってしまった。僕の殻の中で降る雨が、外の雨と同じだと言うことに気づいて、われもわれもと急速に同化し始めている。しかしそれはずっと快い感覚で、雨の鳴る心は水が水平を保つために色んな所へ流れ込んでくるように、僕と世界との平衡を作り出していた。もしくは僕から外へ、上下の区別なく安定を得るまで延々と流れ込んでは引いていき、「滝」の形態に到達するまで続けられた。倦怠とうだつのあがらない安定に満たされて僕は前後不覚に眠りに落ちた。

　5.

　手を動かすのにひどく難渋する。10センチ動かすのにもポリタンク一杯の灯油を持ち上げるときのように筋肉を緊張させなければならず、しかしそれでも確固とした目的地がありそこへと向かう弛まぬ努力を己に強いるとことが必要であることだけは崩しようのない事実として知っていた。足を動かすことが出来ない。何故動かないかというと厚さ1センチのゼリー状の物質が僕の足下を固めた上に、また2センチの厚さのよりゼリー性を増したゼリー状物質が足袋のように足を固めている上に、3センチの厚さの前よりもゼリー性をいや増したアロンアルファ状となったゼリー状物質二乗が踝までを固めた上に、4センチの厚さを持つ、よりゼリー性を格段に増しアロンアルファというより固まりかけたセメント状物質が脛まで折り重なって意地悪く僕を足止めしているからで、その上にも様々の多層構造の邪魔者が連綿と連帯して僕を立ち止まらせ続ける。手には何かが握られているのだが、伝わるものは過去の思い出したくない記憶を想起させられるような汗みずくの掌と、握られているものが折り曲げられていく歪みだけ。目的地と焦燥感が激しく責め立てながら僕を一歩でも歩かせここから他の場所へと向かわせようとするのだが、蜘蛛の巣の粘ついたいやらしい鬱陶しさで僕を取り囲み包囲網を固め囲繞する、水のように透明ではあるがその実バラと棘の関係のように期待を裏切る厳しさを持つゼリーが、一歩も動くことを許さない。教師たちが千人集まって僕に対して今から説教を始めようとしているという危険な前兆を感じながらも、手に握った疎ましい過去を落とさないように、腕を上げて足を先に出そう、膝を蹴り上げるように動かそう、腰を負けないように持ち上げよう、胸を突き出すように張り出そう、肩を怒れる猪のようにいからせよう、頭を闇雲に投げ出すように振り回そうと努力を重ねている3.2.4.8.9と数字がカウントダウンされていき、さらなる焦燥が僕を包み込む中に背後からカウントダウンと同じテンポで足音が多重に積み重なった重低音が重く腹を共鳴させる。それは次第に近づいて来るのがはっきりと分かるようになり、カウントダウンも45.70.88.25.31と少しずつ終焉が近づいていくのがひしひしと感じられ、気も狂わんばかりの焦りに侵されて固められている途中の大仏のような僕や私やおれや我らは、足音の近づいてくる時間を圧縮され、押し固められ、重くなって飛んできては害をなす雪の塊のように感じていた。そして、ついには背後から無数の人間の気配が足音と共に強まり、砂浜に首まで埋められたような情けない状態にいる僕のようなものの首のそばを太股から下だけの足の群れが怒号と轟音を轟かせながら行き過ぎていった。音にぶれる景色が歪んで渦巻いて落ち込んで少しずつ釉薬を剥げ落とされていく。
　39.99.87.66.46.001.54……

　6.

　しかし、目が覚めたときの光景は虹の中に住んでいる仙人が眠気覚ましに僕に見せてくれた千里眼の映像かと思われた。尾だけしか見えない彗星のような物足りなさを感じさせる、消えゆく夢の記憶に苛まれているのだけれど、体は言いようのない心地よさに包まれていた。心と体がまるで全然別の場所にいるのだとでも言うような感覚の乖離が仙人の好意などと言う訳の分からない想像をもたらしたのだろうが、眠気の去った目で見た僕の部屋は仙人幻想よりも非現実的だ。
　僕の部屋は水に沈んでいた。部屋が水に満たされて、安アパートの狭い部屋は水で一杯だった。体を動かそうとしても水の抵抗でゆっくりとしか動かず、生温く体と同化するような感触と相まって小学校のプールでの友達との喧嘩を思い出させた。そして焦燥感だけがさっきの夢から取り残されて僕の中に根を張り出している。千里眼の映像と思われたのは窓から射す昼日中の光が水にぶつかり、砕け散ったその欠片が部屋の壁や家具やらをバラバラに跳ね回るように照らし出し、その反射が僕の目を様々に突き刺したせいだろう。光の源を探るように部屋の隅々まで眺め渡して、「滝」のオブジェがいつもよりも光を放つ強さが増しているようなのを見つけた。錯覚だろうか。しかし錯覚と言うなら、この部屋の景色すべてが錯覚と言ってもいいようなものであることを考えれば何も不思議に思うことはないのかも知れない。オブジェの放つ光もまた壁や机の反射に突き動かされて飛び跳ねるように部屋の中を散らばっては、虹色の風景にまた一つのアクセントを添えている。もう一つの光の大本である蛍光灯の明かりは、海の中でダイビングをするものが上を見上げたときに目に映る、バラバラに射す揺動する光の剣となって僕を突き刺し、血の流れないことがひどく不思議に感じる。オブジェはまた、ぼんやりとした光であるが故に周囲の埃や夾雑物を浮き上がらせる形で光らせ、その周囲は冷たい光を放つ深閑とした闇の中のひかりごけが宙を漂っているように見えた。
　うごめく静止画のような光景を映し出す、この水は一体どこから来たのだろうか。光の元を探しに、世界を確認するために窓の外を見ると、どんな景色でもこれほどの驚きを僕にもたらすことは出来ないだろうと言うくらいの驚くべき景色が広がっていた。快晴だった。白く泡立つ雲もなく、真上の逆しまの椀の底に行くに従って濃くなる青が湛えられた空は鮮やかで、流れ落ちてくるような空の下には陽光の中で浮かび上がる街並が広がっていた。遠くに見える道路にも赤血球や白血球が流れていて、そうか道路は白血球が多いのか、それはそれで健康上害があるのではないだろうか…。
　外から見ればこの部屋の中は壁にはめ込まれた水族館の水槽のように見えることだろう。僕は泳ぐ魚だろうか。「水中都市」に出てきたように腕を水平にして北海のミジンコの亜種みたいなクリオネのまねをしてみるとゆっくり体が浮き上がっていくので、僕はじっと動かずに水の中に揺られていることにした。そうしていると体が水の中に溶け出して、あたかも自分が部屋全体に広がってしまっているような感覚が湧き上がってくる。それは時間の感覚を忘れさせ、それが天秤の片方であったのか反比例するように何故かデジャビュの感覚が強く感じられ出した。過去こんな事態が自分を見舞ったことなどあるはずもないのだけど、何故かこのようなことがあったような気がしてしまう。何かこれに近いことが本当はあったのだろうか。しかし、そんなはずは。いや、しかし、自分の記憶ほど実は自分自身にとって曖昧なものなどないのではないだろうかとも思う。三島由紀夫の「仮面の告白」じゃあるまいし自分の産まれたときの記憶など当然ないし、僕に記憶が始まった時というのがいつなのかもさっぱり思い出すことが出来ない。過去の事実の断片はそれこそぼろぼろと零れ落ちてくるのだけれど、それは果たしてどこの隙間に填めれば僕のパズルは完成するのだろうか。そして完成したとしてもそれは一体何が、誰が完成を保証してくれるのだろうか。自分で自分の記憶を過信している人間こそ要注意な人間ではないだろうか。僕は何も覚えていない。幼い頃に父親に蹴り飛ばされたあの世界がぐるぐる回る記憶が僕の最幼児の記憶なのだろうか。くるくるぐるぐる世界が廻る。ぐるぐるくるくる記憶が廻る。くるくるとぐるぐるはどちらが世界が廻る擬態語だろうか。ぐるぐる。くるくる。狂う狂う？狂うが記憶の擬態語として適当なので世界はぐるぐる廻るものという風に決定されました。
　ぐるぐるぐるぐる世界が廻る、くるくるくるくる記憶も廻る。

　7.

　携帯電話を持つのはやめた方がいい。自分でもそう思うのだけれど、この時勢、持っていないと言うことはそれだけで罪悪になってしまうという状況下にはそれも叶うまい。鳴りだした騒音をとるために水の中を泳いで机に向かう。そういえば何で呼吸が出来るのだろう。しかし、その考えはこの水の部屋が夢であった場合に、夢から覚める鍵になるような気がして考えを広げる前に奥底に押し込んだ。電話をとると友人からだった。
　―今から行っていい？というか、今オマエの家の前の道路にいるんだけど。
　ずいぶん唐突だった。そしてそれはちょっと待って欲しい類の頼みだった。ジャストアモーメント。
　―え、やあ、いきなりだな。どうした。
　―いやちょっと、近くまで来たからついでにな。本返すし。
　来ること自体は問題はないのだけれど、果たしてこの状況である。それまで考えが及ばなかったが、自分の部屋は水で一杯のためにまるで世界の時が停止したかのように錯覚していたのだけれど、実はそれは僕だけに訪れた訳で自分以外の人々は日常生活をごく平凡に送りつつあることは当たり前のことなのだった。そして、その演繹としてこの学校のない日曜日に彼が訪れてくる目算が非常に高いものであることに気がつけかなかったのは失敗だった。
　―じゃ、行くわ。
　との言葉を残して電話は切れ、すぐ後にアパートの階段を上る金属質の足音が響いてきて、それをカウントダウンのように感じた僕はひどく狼狽えながら何をして良いのかわからず、ただ震えて破局の時を待つ心境だった。
　不用心にも掛けていなかった鍵を開けて扉が開く音がして、台所を抜けて部屋の引き戸を開けたときの彼の顔を見たときの僕の目はさぞ不安に押し広げられて瞳孔を力の限り開けていたことだろう。しかし、彼は何に驚くわけでもなく、強いて言えば僕の表情の方に僅かな異変を感じたらしく怪訝な顔をしてやあ、と挨拶をした。
　その後、彼と僕が貸した本やCDの話を一くさり、そして次に何を貸そうかなどとごく普段の会話を行っていた。しかし、何故彼にはこの部屋に充ち満ちた水が見えないのだろうか。僕の部屋を見たす水と光の散乱した光景に何も反応を返さないなんてことは彼の性格上あり得ず、ということは彼にはこの光景が見えていないと言うことに他ならない。どういうことだろうか。僕の今までの体験すべてが何かの夢だと、幻だとでも言うのだろうか。それこそ仙人の見せた幻像だったとでもいうのだろうか。あの奇妙な夢が今でも続いているのだろうか、あの焦燥感にまみれた夢、どこかに行きたいのだけれど足はおろか体全体が何かにねっとりと絡みつかれて身動き取れないという屈辱と絶望が。あの泥にまみれた夢の微かな記憶が僕の中でまた流れ出して、僕はひどく不安になり狼狽えていた、その時、突然に彼が狂暴な唸り声をあげて激しく怒りの満ちた姿勢で僕に襲い掛かろうとした。とっさのことに轟然と吹き出してきた戦闘の空気に張りつめた僕の部屋は緊迫の度合いを増し、僕は彼に殴られまいと大上段から振り下ろされようとしている彼の腕を力一杯にはねつけて、その反射のように僕の右拳は彼の顔をぶん殴っていた。よろけて畳の上に倒れた彼。眼は血塗れのナイフのように鋭い憎悪とどんよりとした悪意が渾然となって僕を突き刺した。僕はその目線に耐えきれず、彼を口の限りに罵り部屋から追い立て、追い出した。彼は僕を視界に据えたまま恨めしそうな顔で、僕を睨め付けながら引き戸を閉じた。扉を開ける音がし、彼の階段を下りる足音がゆっくりと、断続的に鳴った。

　8.

　何が起こったのだろうか。瞬間に起きたその事態にひどく狼狽え部屋の中でうずくまり、唐突な不和の理由を探し出そうとしては挫折していた。一体何が彼をして僕に殴りかからせたのか。そして僕はその時突然、恐慌にも似た感情に押し流されて力の限り彼を殴ってしまっていた。明らかに過剰な防衛だった。何故この部屋の水は彼には見えなかったのだろう。それは問題を解く鍵なのかも知れない。彼はこの部屋の中の水が見えず、それの引き起こす物理現象にも彼は頓着していなかった。ここに二重の現実があり、彼と僕の住んでいる現実が齟齬を来し、それが彼の突然の行動の原因なのかも知れない。しかし、それならば何故僕の部屋だけが水に没しているのか。この水は果たしてどこから来たのか。この混乱は何なのか……

　9.

　そして彼は部屋の中でぼんやりと光っている「滝」に眼をやった。それは、性質を転じ彼に何か言いしれぬ不安を感じさせるものとして映り出した。ドクドクと心臓の音が高鳴るのを感じ、彼はゆっくりと「滝」に近寄った。硝子のドームと光る水路に流れる水、全体にまとう光の渦、無限と永劫の結晶体。彼はそれから出て机の脇のコンセントに繋がるコードの中程にあるスイッチを手に取った―OFF―パチンと音がして部屋の中は空気で満たされた。彼の唇は震えて声も出ず、手も震え、彼は地蔵のように固まった。しかし表情は穏和ではない
　―つまりはこの「滝」こそが問題だった訳か、これこそが水の元凶、そして彼の暴力の元凶だったのか。
　それは現状の変革という形で彼に幾ばくかの安心を与えはしたが、それだけであった。水の出現は彼に安息を与え、また水の消滅は彼に安息を与えた。しかし、彼がふと快晴の外を見ようと窓を見やったときに、彼の見通しや今までの現実に対する解釈が全く的外れであったことを見出し、愕然とした。
　外の世界は今さっきまでの彼がいた部屋の中のように水の中に没し、太陽の光が水の中で砕けて輝いていた。水の中の街並はがらりと色合いを変え、感触穏やかに思えるものになった。遠くに見える道路には車が地面だけではなく、空中―水中をゆっくりと駆けていた。人々は思い思いに水中を泳ぎ回り、どこへでも行ける自由を甘受しているようだった。軒を連ねる家々の窓から、それまで怯えていた小魚の群れが、天敵の不在を確信して意気揚々と小石の影から泳ぎ出るようにして、水中へ飛び出していった。
　彼は鏡のように映る自分の顔を硝子窓に発見して、さっきの友人の奇行の原因を見た。そこに映っている自分の顔はさっき自分に殴りかかろうとした、憎悪と嫌悪とに満たされた悪鬼の顔そのものであった。そして彼は思い出した。以前、ずっと前に彼と泥のような殴り合いの喧嘩をしたときのことを。自分に殴りかかろうとしたのは過去の自分で、その反撃として殴ったのは彼の友人に他ならない。鏡の中での哀れな自家撞着。それは、彼を深い絶望の底にたたき込んだ。「滝」は時間のみならず、自他の境界すらも越えて彼に過去の記憶を見せたのだった。
　彼は一撃、硝子窓を殴りつけた。しかし、硝子窓は外に湛えられた水のためか、何十センチもの厚さを持つ水族館の特殊な硝子のような堅さを示し、彼の拳を逆に痛めつけた。外には魚のように、人魚のように人々が泳ぎ回り、その様は彼一人の空気の牢獄にいることを嘲笑しているのだと彼には感じられた。そしてまた、彼は窓を殴りつける。まるでそれが牢獄の忌まわしい鉄柵をうち砕かんとするかのように。彼の部屋の壁のあらゆる面に部屋の中へ向かう指向性を持った爆弾が取り付けられており、その導火線がちりちりと燃え、確かな速度でもって火薬に着火しようとしているという焦燥感。まるで彼が重大な犯罪者であるかのように堅固な牢獄に閉じこめられ、死刑執行人にも見放された孤独に陥っているという絶望。何故自分がこんな事態に陥っているのか分からず、世の不条理に昂然と燃え上がらす怒り。彼は窓硝子を殴りつけた、殴りつけては右拳で殴り、右の次には左の拳で力一杯に殴りつけ、右、右、右、と来て左、と感情の流れるままに幾度も殴りつけ、殴りつけては殴りつけ、うち砕かんとばかりに殴った直後に殴りつけ、またさらに殴り殴り殴りまくってはまた殴りつけ……

　10.

　その時、彼の背後で「滝」が水面の鏡像が風に揺られるように、揺らめいた。スイッチを切られたはずのそれは穏やかに光を放ちながら内部の滝を猛烈な速度で流れさせ、その流れは次第に色を変え外の景色を映し出しはじめた。景色は虹にまみれた極彩色の変貌。揺られる水の瞬く光。現実性を失い始めた「滝」、それは現実と空想との境界線を跨ぎ越えて、またあらゆる境界を乗り越えて世界を満たし始めた水の断片。
　と、「滝」は誰かの産まれるような水音を立てて、潰れた。微少な何千もの水滴と化したそれは、われもわれもと生き急ぐ稚魚のように机の上から床に滴り落ちた。それらは欠陥住宅で転がるビー玉のような滑稽さで皆一様に部屋の中を走り去り、外へと繋がる扉の下の隙間から外の世界へと、水の帝国へと、脱出していった。元々同じものが一つに戻るような堅固とした正当さで。
　硝子窓の彼は、流した涙さえもが自分を裏切り外の世界へと脱出するために床を転げて走り去っていくことにも気がつかず、窓硝子を、今はもうそれしか見えていないために彼の全世界となった窓硝子を、殴りつけては嗚咽を零している。それでも彼の世界は未だ空気の中にあった。しかし、彼の部屋の壁は次第に水に溶けだして、空気を守る最後の城塞も用をなさなくなり、空気は水の浸食にじっとりと湿りだし、それは怒濤の予兆を全体に漲らせ、確かな水の圧力が押し寄せてきた……
　パシャンと何かの産まれ落ちる音がして、世界は水になった。

東條慎生　終章追加 2002年02月25日(月)22時59分15秒
▽長い。への応答

　10.

　その時、彼の背後で「滝」が水面の鏡像が風に揺られるように、揺れた。スイッチを切られたはずのそれは穏やかに光を放ちながら内部の滝を猛烈な速度で流れさせ、その流れは次第に色を変え外の景色を映し出しはじめた。
　と、「滝」は誰かの産まれるような水音を立てて、潰れた。微少な何千もの水滴と化したそれは、われもわれもと急ぐ稚魚のように机の上から床に零れ落ちた。落下した後、床に落ちた水滴たちは欠陥住宅で転がるビー玉のような滑稽さで皆一様に部屋の中を走り、外へと繋がる扉の下の隙間から、水の帝国へと外の世界へと、脱出していった。元々同じものが一つに戻るような確固とした正当さで。
　硝子窓の彼は、流した涙さえもが自分を裏切り外の世界へと脱出するために床を転げて走り去っていくことにも気がつかず、窓硝子を、今はもうそれしか見えていないために彼の全世界となった窓硝子を、殴りつけては嗚咽をこぼす。

奥野美和　自由課題 2002年02月25日(月)22時59分13秒

『パレード』

川を見ながら歩いていると
もうひとりのわたしがいた
わたしが歩くと川の中のわたしも歩く
それに続いて太陽と雲も追いかけてくる

川の流れに逆らって
歩くわたしはなんだか勇ましい

みんなと一緒に歩いている
そんな気分になって
思わず泣きそうになった

わたしは歩く
まえむきでも
うしろむきでも
少しずつ進むんだ

『空気の触れ合う時間』

いじけるのはやめたんだ
伝える努力をするんだ

暗いとか、地味だとか
のろいとか、間が悪いとか、
うざったいとか、うっとおしいとか、

そんなふうに言われてしまう自分に
いじけるのはやめたんだ
伝える努力をするんだ

いつのまにかあきらめて
優しくされたくて優しくしてた

手を振り払われるのが怖くて僕は

僕はわかりたい
あらゆる感情を
僕の君の羊の
ここに広がる無数の可能性を

『待合室』
久しぶりに行った
病院の小さな待合室

わたしのことをじっと見るおばあちゃん
ずぼんの短いおじいちゃん

わたしはすとんとすわって
週刊誌をペラペラめくる

その優しく穏やかな時間に
うっとりと目を閉じた

『解決法』

踊って忘れようとしたのに
この退屈なＤＪは
くだらないことを思い出させるので
お酒を飲んで
見知らぬ人とハイタッチ

さよなら
夢みるわたし

ハートでとじたラヴレター
やぶって捨てた

『旅行①』
幼い頃
旅行に行くときは必ず
らくがき帳と原稿用紙を
イトーヨーカドーで買ってもらって出発した

もしくは旅先のイトーヨーカドーで
それを買ってもらった

「あなたは旅行にきても楽しいのか、楽しくないのかわからない」

母は、わたしにそう言ったけれど
わたしのらくがき帳も原稿用紙も
虹色でうめつくされていたのだ

わたしは旅行が好きだったのだ

『旅行②』

旅は寂しい

居場所がなくて
気持ちをどこに向けたらいいかわからない

時間の流れが恐ろしくて
取り残されてしまうんだ

いつのまにか
旅が楽しめなくなっていた

また旅を楽しめる日が来るといい

わたしは、また日々の生活に帰る

『洗濯物』
たくさんのボーダーのＴシャツが干してある家がある

色とりどりのボーダー
大きさもまちまち

お父さん用？お母さん用？
お兄ちゃん用？お姉ちゃん用？

そして小さなわたし用？

そんな風に考えるととても楽しい

『洗濯物②』
日曜日、
その家の前で
ボーダーを着たおじさんが
釣りの練習をしていた

東條慎生　長い。 2002年02月21日(木)22時56分50秒

　　　水のエンパイア

　1.

　今日の夜は湿っていた。空気も、木々も、そして空も僕も月も星も。中天にかかる三日月は空を覆う灰色の曇り硝子の向こうにあるおかげで、水に滲んだ絵具のようにその輪郭をぼやかせている。雲は滲んだ月を中心にして、光がそこから広がっていくように微かに光っているように思えた。それは、雲の裏に潜んでいる無数の星たちがかろうじて放つことが出来た光なのかも知れない。そこから視線を落として、家の窓から眺められる隣の畑には、土が湿っているためか冷たい感触を遠くから伝えている。そして薄ぼんやりとした月明かりは木々の葉に落ちて、ささやかに反射している。―明日は雨が降るだろう。僕は空を見てそう思い、寒い空気の入り込んでくる硝子窓を閉めた。遠く見える住宅街の、人がいることを主張してやまない輝く灯は、硝子に浮かぶ水滴で散らばりながら砕けていた。
　僕は窓のそばを離れて机の上にあるオブジェの電源を入れた。スイッチが入り装飾用の電球がそれぞれの色で、透過プラスチックで出来た骨組みを中から照らし出した。本当はこのオブジェは全体を氷で作っていれば完璧なものになっただろうと思う。しかし、そんなものは部屋の空気が常時氷点下であるような、とてもじゃないが居住には適さない部屋でしか満たせない条件を必要とする。ゆっくりとモーターの音が聞こえ始め、オブジェに湛えられていた水は音を立てて緩やかに流れ出した。水は傾斜のついた水路の中を余裕の体で遡って流れていき、その頂上に行き着いた後、ちょろちょろという音と共に小さな滝となって流れ落ちた。滝壺は水路の一番最初の地点に落ち込んでいて、そこからまた水路を遡って流れ出す。永遠の流れの中で水は定められた水路を流れ続ける。このオブジェは、あの有名なエッシャーの「滝」の忠実な再現なのだった。しかし忠実というのはもちろん不可能だ。エッシャーの絵というのは二次元空間を認識する際に用いる枠組み(遠近法などの)の矛盾をつくことによって、その枠組みが後天的に造られたものに他ならないのだと言うことを証明しているように思える。そんなものをどうやって現実に移し替えることが出来るのだろう。ことは絵の内部で行われている。しかし、だからこそ絵の内部において、額縁の宇宙の中で無限を構築することが出来たのだ。翻ってこのオブジェは、その絵の中の無限を無理矢理に現実に移植しようとした苦心惨憺の成れの果てでしかない。絵の中では、上っているのか下っているのか決定されることのない水路はこのオブジェにあっては上りであることを決定されてしまっている。そして、水は何らかの動力の力により水路を上り、流れ落ちる滝となって元の場所に戻る。余りにもあんまりな事態ではないか。これでは現実の力に対して僕は失望するしかないのかも知れない。しかし、やはり、ここには無限があると言うことを僕は大きな感動をもって実感する。微かな動作音、僅かな滝の音、小さな永劫。それは僕が手に入れた唯ひとつの無限。
　見れば見るほど不思議なオブジェだった。全体はドーム状の厚い硝子に覆われ、内部は水で一杯に満たされ、水路を流れるものも色がついて多少粘性があるだけで同じ水だ。かなりの重量がある。買って持ち帰るのにかなりの苦労をした覚えがある。ビニール紐の手に食い込む感覚が残っている。

　2.

　そういえば、あの店は今どうなっているのだろうか。僕がこのオブジェを買ったあの不可解な店。駅を出たところにある正面の通りから、幾分か裏にまわったところにそれはあった。あの時は学校が終わると、いつも友人たちと三人ほどで街をうろついていた。何が理由というわけもない。それでも僕らの間には何故か重い孤独が横たわっていて、それは独りでいるときよりも大きさを増していくのだけれど、独りになることは出来ず、とにかくそう言うわけで僕らはいつも一緒にいた。そんな中、次第に彼らとの空気が弛緩して来、誰にも受け取られることのない言葉たちが三人の上に漂う日常という茫漠の中で今にも流れ去ろうとしている時、路地の裏手にふと仄見えたその暗い影と金属の匂いのようなものを遠くから感じさせる店構えに僕の心は惹きつけられた。茫漠そのものが僕の中から掻き消えて、友人と共に歩き去る間にも、その印象だけは強くその場所と僕の間の水路を無理矢理にこじ開けてしまっていた。
　それから僕は何度かその店を一人で訪れた。店自体は居並ぶ軒先の連なりに消えてしまいそうなほど幅が狭く鰻の寝床式の縦長商店だった。そして店の中には不可解な代物が数多く埋もれていた。熱力学の法則で否定された永久機関をモーターで動かして、無理矢理見た目にそれが本当に永久機関であるかのように錯覚させるインチキ歯車に、回転するメビウスの輪の立体的なホログラムを投射する機械、支柱の中を通して砂を汲み上げ永久に落ち続ける砂時計などなどが、無造作に重なり合ってぎゅうぎゅうに押し込まれていた。そんなテクノロジーの力業で夢を無理矢理叶える、機械仕掛けの粗雑な店。その一角にそれはあった。そういえば、その店の奥に入る襖の上には横に大きく「Deus Ex Machina」―機械仕掛けの神、なんて書いてあった。仰々しいその文字と店の中の不釣り合いはこの店のごく的確な要約に思えた。それとも、神を人造しようという店主の絶望的であるが故にふくれあがる希望なのか。
　―兄さん、エッシャーがお気に入りかい？
　店の主人は薄笑いを浮かべて話しかけてきて、僕が何か応えて喋るまえにその主人は独りで滔々と語り出した。
　―エッシャーは人気があるんだが再現するのが難しくてねえ、何しろ絵の中の錯覚を使って描いてるだろう？そうすると易々と立体化するわけにはいかないのさ、まあ、それでも絵の中の何分の一、いやいや何百分の一か、それくらいならこんな風にして触れる形にすることも出来るんだが、彼の絵にある完全性というヤツはもう全くなくなってしまうから、絵の人気に比べてこの立体オブジェは人気が薄いのさ。それでもやっぱり絵の人気はあるわけだからそれでも買う人はそりゃいくらもいるわけだけども。で、君が見ているそれだけど、それは今一番新しく出来たヤツで、今までのものより遙かに完全に近づいたものだよ。何しろ全体をドームの硝子で覆うことによって、内部の水流の成分を変えて……
　店の主人の話に曖昧に頷きながら僕はずっとその水の中の滝を眺めていた。その時には僕はもう、この無限を何とかして手に入れたくなっていたのだ。バイト代を貯めてそれを買った後はあの店を訪れていないことに今更気づいた。このオブジェがあればそれで良かったために、道具としての役目を終えたあの店には関心が消えてしまったのかも知れない。至極当然の成行きだ。しかし、あの店主は僕の中で絶望的な希望をひたすらに追い求めるという若々しい野蛮さをなお自分に課す強靱な人物像として捏造されている。それには今も好意を持っているのだけど、あくまで想像の中の人物像でしかない。

　3.

　水。水を眺めていたためにふとある本を思い出し、どうにもそれを読み返したくなって机の脇にあるこの部屋のただ一つの本棚―組み立て式でその分安いが、途中で組み立て方を間違えて、一部の棚板上下が逆になっている―から、薄緑色の背表紙の文庫本を取り出す。安部公房「デンドロカカリヤ・水中都市」。高校の頃、友達に勧められてから一時期この作家の本を読み漁っていたことがある。いわゆる日本の作家にない特異な作風で、その世界に繰り広げられる超現実的な光景にはいつも驚愕を覚えたものだ。開かれたページには「水中都市」と不思議なタイトルが踊る。読み進むと初めから三行目で既にこんな台詞が出てくる。「ショウチュウを飲みすぎると、人間は必ず魚類に変化するんだ。現におれのおやじも、おれの見ている前で魚になった。」
　僕が読み返したくなったのは後半の都市が水に沈むところで、僕はそれを読んでからというもの街の中を歩いているときによくその街が水に沈んだ光景を想像の中で思い描いていた。そこには地べたを這いずり回るように歩き、肩をぶつからせて苦み走った顔をしながらこんがらがっていた人々が、自在に水中を浮游し、夕暮れ時ともなればそれは全体として活動を続ける生命の根源、時間に閉じこめられ時間から解放された永劫の今に在る琥珀細工そのものであるかのように思えた。現在は決して過去にならずにその時をとどめながら結晶と化す人々は、未来も過去も持たずそれ故に時間を持たず、またそれが故に決して終焉を思い知ることがない。事象の特異点がそこにポカリと黒い穴を開けて人々や僕を飲み込んで、蠕動を続けるその食道はメビウスの輪なのでまた空から還ってくる。僕は太陽が砕け散って光の粒と渦の中に巻き込まれている光景を夢想し、水中に浮かんでいる感触を想像しては、恍惚とした感覚の中に溺れてみたいという願望を消せなかった。
　「水中都市」は一体どういう物語だったのだろうかと考えると、いつもその先が壁に閉ざされているような鬱屈した感じを味わい、進むことは出来ない。幾つかの断片的なイメージが脳裏をよぎっては、一つにまとめることの出来ない魚の群れのようにあわただしく岩下に隠れようとしている。死を産む親父、間木の描く絵、水に沈む都市、死に変貌した親父。そして、最後の文章を読み終えるときにはまた何かとんでもないものが通り過ぎていったような感慨に襲われる。その最後の文章がまた意味が分からないのだった。「この悲しみは、おれだけにしか分からない……」と作品は終わっている。僕にもさっぱり分からないよ、と僕は内心叫びたくなるのだ。

　4.

　目が覚めた朝はやはり雨が降っていて、休日のだるさは僕を布団の中にとどめていた。昨日よりも何かをたくさん積みかさねて重みを増した雲の塊から、耐えきれない水の屑が零れ落ちてしまっていた。雨の日には雪の時と同じように、降るものたちが音を吸収してしまい部屋の中は一種隔絶した異空間かと思えるほど静かになっていく。音が内にこもって外の音は聞こえない。雨の音はするのだけれど、それ以外の音が入ってこないためにより静けさが深まっていくようだ。そうして寝床の中でまだ尾を引いている眠気を引き留めながら、外の景色をずっと眺めている。自動車が一台窓の下を走っていった。自動車は遠くの幹線道路へと流れ込んでいき、都市の動脈に合流しては自動的に動いている工場を思わせる。道路に立ち並ぶビルや商店は雨の中でも光を放っていて、昨日の水滴にぬれた硝子窓から見た街の風景とは違う感触だった。滲むように輝くわけではなく、霧で遠くへ引き込まれるように遠のくのに灯のせいでそこだけが強調されて存在を訴える。通りを歩く人がとても少なく店の中にも人が見えない。道路には車が走っているが乗り物はいつも人間性を刈り取るものとして僕には映る、だから外の景色は霧に襲われて機械だけが生き残り細々と活動を続けている人間の廃墟、機械たちの墓場のように思われ出した。
　雨の音が聞こえてきた。それは自分の体の中から聞こえてきた。ずっと外を眺めていたせいで、僕の心が次第に空へ溶け出して外の雨と同じものになってしまった。殻の中で降る雨が、外の雨と共通点を見つけだして、われもわれもと浸潤し始めている。しかしそれはずっと快い感覚で、雨の鳴る心は水が水平を保つために色んな所へ流れ込んでくるように、僕と世界との平衡を作り出していた。もしくは僕から外へ、上下の区別なく安定を得るまで延々と流れ込んでは引いていき、「滝」の形態に到達するまで続けられた。倦怠とうだつのあがらない安定に満たされて僕は前後不覚に眠りに落ちた。

　5.

　手を動かすのにひどく難渋する。10センチ動かすのにもポリタンク一杯の灯油を持ち上げるときのように筋肉を緊張させなければならず、しかしそれでも確固とした目的地がありそこへと向かう弛まぬ努力を己に強いるとことが必要であることだけは崩しようのない事実として知っていた。足を動かすことが出来ない。何故動かないかというと厚さ1センチのゼリー状の物質が僕の足下を固めた上に、また2センチの厚さのよりゼリー性を増したゼリー状物質が足袋のように足を固めている上に、3センチの厚さの前よりもゼリー性をいや増したアロンアルファ状となったゼリー状物質二乗が踝までを固めた上に、4センチの厚さを持つ、よりゼリー性を格段に増しアロンアルファというより固まりかけたセメント状物質が脛まで折り重なって意地悪く僕を足止めしているからで、その上にも様々の多層構造の邪魔者が連綿と連帯して僕を立ち止まらせ続ける。手には何かが握られているのだが、伝わるものは過去の思い出したくない記憶を想起させられるような汗みずくの掌と握られているものが折り曲げられていく歪みだけ。目的地と焦燥感が激しく責め立てながら僕を一歩でも歩かせここから他の場所へと向かわせようとするのだが、蜘蛛の巣の粘ついたいやらしい鬱陶しさで僕を取り囲み包囲網を固め囲繞する、水のように透明ではあるがその実バラと棘の関係のように裏切る厳しさを持つゼリーが、一歩も動くことを許さない。教師たちが千人集まって僕に対して今から説教を始めようとしているという危険な前兆を感じながらも、手に握った疎ましい過去を落とさないように腕を上げて足を先に出そう、膝を蹴り上げるように動かそう、腰を負けないように持ち上げよう、胸を突き出すように張り出そう、肩を怒れる猪のようにいからせよう、頭を闇雲に投げ出すように振り回そう。3.2.4.8.9と数字がカウントダウンされていき、さらなる焦燥が僕を包み込む中に背後からカウントダウンと同じテンポで足音が多重に積み重なった重低音が重く腹を共鳴させる。それは次第に近づいて来るのがはっきりと分かるようになり、カウントダウンも45.70.88.25.31と少しずつ終焉が近づいていくのがひしひしと感じられ、気も狂わんばかりの焦りに侵されて固められている途中の大仏のような僕や私やおれや我らは、足音の近づいてくる時間を圧縮され、押し固められ、重くなって飛んできては害をなす雪の塊のように感じていた。そして、ついには背後から無数の人間の気配が足音と共に強まり、砂浜に首まで埋められたような情けない状態にいる僕の首のそばを太股から下だけの足の群れが怒号と轟音を轟かせながら行き過ぎていった。音にぶれる景色が歪んで渦巻いて落ち込んで少しずつ釉薬を剥げ落とされていく。
　39.99.87.66.46.001.54……

　6.

　しかし、目が覚めたときの光景は虹の中に住んでいる仙人が眠気覚ましに僕に見せてくれた千里眼の映像かと思われた。尾だけしか見えない彗星のような物足りなさを感じさせる消えゆく夢の記憶に苛まれているのだけれど、体は言いようのない心地よさに包まれていた。心と体がまるで全然別の場所にいるのだとでも言うような感覚の乖離が仙人の好意などと言う訳の分からない想像をもたらしたのだろうが、眠気の去った目で見た僕の部屋は仙人幻想よりも非現実的だ。
　僕の部屋は水に沈んでいた。部屋が水に満たされて、安アパートの狭い部屋は水で一杯だった。体を動かそうとしても水の抵抗でゆっくりとしか動かず、生温く体と同化するような感触と相まって小学校でのプールでの友達との喧嘩を思い出させた。そして焦燥感だけがさっきの夢から取り残されて僕の中に根を張り出している。千里眼の映像と思われたのは窓から射す昼日中の光が水にぶつかり、砕け散ったその欠片が部屋の壁や家具やらをバラバラに跳ね回るように照らし出し、その反射が僕の目を様々に突き刺したせいだろう。光の源を探るように部屋の隅々まで眺め渡して、「滝」のオブジェがいつもよりも光を放つ強さが増しているようなのを見つけた。錯覚だろうか。しかし錯覚と言うなら、この部屋の景色すべてが錯覚と言ってもいいようなものであることを考えれば何も不思議に思うことはないのかも知れない。オブジェの放つ光もまた壁や机の反射に突き動かされて飛び跳ねるように部屋の中を散らばっては、虹色の風景にまた一つのアクセントを添えている。もう一つの光の大本である蛍光灯の明かりは、海の中でダイビングをするものが上を見上げたときに目に映る、バラバラに射す揺動する光の剣となって僕を突き刺し、血の流れないことがひどく不思議に感じる。オブジェはまた、ぼんやりとした光であるが故に周囲の埃や夾雑物を浮き上がらせる形で光らせ、冷たい光を放つ深閑とした闇の中のひかりごけが宙を漂っているように見えた。
　うごめく静止画のような光景を映し出す水は一体どこから来たのだろうか。光の元を探しに、世界を確認するために窓の外を見ると、どんな景色でもこれほどの驚きを僕にもたらすことは出来ないだろうと言うくらいの驚くべき景色が広がっていた。快晴だった。白く泡立つ雲もなく、真上の逆しまの椀の底に行くに従って濃くなる青が湛えられた空は鮮やかで、流れ落ちてくるような空の下には陽光の中で浮かび上がる街並が広がっていた。遠くに見える道路にも赤血球や白血球が流れていて、そうか道路は白血球が多いのか、それはそれで健康上害があるのではないだろうか…。
　外から見ればこの部屋の中は壁にはめ込まれた水族館の水槽のように見えることだろう。僕は泳ぐ魚だろうか。「水中都市」に出てきたように腕を水平にして北海のミジンコの亜種みたいなクリオネのまねをしてみるとゆっくり体が浮き上がっていくので、僕はじっと動かずに水の中に揺られていることにした。そうしていると体が水の中に溶け出して、あたかも自分が部屋全体に広がってしまっているような感覚が湧き上がってくる。それは時間の感覚を忘れさせ、それが天秤の片方であったのか何故かデジャビュの感覚が強く感じられた。過去こんな事態が自分を見舞ったことなどあるはずもないのだけど、何故かこのようなことがあったような気がしてしまう。何かこれに近いことが本当はあったのだろうか。しかし、そんなはずは。いや、しかし、自分の記憶ほど実は自分自身にとって曖昧なものなどないのではないだろうかとも思う。三島由紀夫の「仮面の告白」じゃあるまいし自分の産まれたときの記憶など当然ないし、僕に記憶が始まった時というのがいつなのかもさっぱり思い出すことが出来ない。過去の事実の断片はそれこそぼろぼろと零れ落ちてくるのだけれど、それは果たしてどこの隙間に填めれば僕のパズルは完成するのだろうか。そして完成したとしてもそれは一体何が、誰が完成を保証してくれるのだろうか。自分で自分の記憶を過信している人間こそ要注意な人間ではないだろうか。僕は何も覚えていない。幼い頃に父親に蹴り飛ばされたあの世界がぐるぐる回る記憶が僕の最幼児の記憶なのだろうか。くるくるぐるぐる世界が廻る。ぐるぐるくるくる記憶が廻る。くるくるとぐるぐるはどちらが世界が廻る擬態語だろうか。ぐるぐる。くるくる。狂う狂う？狂うが記憶の擬態語として適当なので世界はぐるぐる廻るものという風に決定されました。
　ぐるぐるぐるぐる世界が廻る、くるくるくるくる記憶も廻る。

　7.

　携帯電話を持つのはやめた方がいい。自分でもそう思うのだけれど、この時勢、持っていないと言うことはそれだけで罪悪になってしまうという状況下にはそれも叶うまい。鳴りだした騒音をとるために水の中を泳いで机に向かう。そういえば何で呼吸が出来るのだろう。しかし、その考えはこの水の部屋が夢であった場合に、夢から覚める鍵になるような気がして考えを広げる前に奥底に押し込んだ。電話をとると友人からだった。
　―今から行っていい？というか、今オマエの家の前の道路にいるんだけど。
　ずいぶん唐突だった。そしてそれはちょっと待って欲しい類の頼みだった。ジャストアモーメント。
　―え、やあ、いきなりだな。どうした。
　―いやちょっと、近くまで来たからついでにな。本返すし。
　来ること自体は問題はないのだけれど、果たしてこの状況である。それまで考えが及ばなかったが、自分の部屋は水で一杯のためにまるで世界の時が停止したかのように錯覚していたのだけれど、実はそれは僕だけに訪れた訳で自分以外の人々は日常生活をごく平凡に送りつつあることは当たり前のことなのだった。そして、その演繹としてこの学校のない日曜日に彼が訪れてくる目算が非常に高いものであることに気がつけかなかったのは失敗だった。
　―じゃ、行くわ。
　との言葉を残して電話は切れ、すぐ後にアパートの階段を上る金属質の足音が響いてきて、それをカウントダウンのように感じた僕はひどく狼狽えながら何をして良いのかわからず、ただ震えて破局の時を待つ心境だった。
　不用心にも掛けていなかった鍵を開けて扉が開く音がして、台所を抜けて部屋の引き戸を開けたときの彼の顔を見たときの僕の目はさぞ不安に押し広げられて瞳孔を力の限り開けていたことだろう。しかし、彼は何に驚くわけでもなく、強いて言えば僕の表情の方に僅かな異変を感じたらしく怪訝な顔をしてやあ、と挨拶をした。
　その後、彼と僕が貸した本やCDの話を一くさり、そして次に何を貸そうかなどとごく普段の会話を行っていた。しかし、何故彼にはこの部屋に充ち満ちた水が見えないのだろうか。僕の部屋を見たす水と光の散乱した光景に何も反応を返さないなんてことは彼の性格上あり得ず、ということは彼にはこの光景が見えていないと言うことに他ならない。どういうことだろうか。僕の今までの体験すべてが何かの夢だと、幻だとでも言うのだろうか。それこそ仙人の見せた幻像だったとでもいうのだろうか。あの奇妙な夢が今でも続いているのだろうか、あの焦燥感にまみれた夢、どこかに行きたいのだけれど足はおろか体全体が何かにねっとりと絡みつかれて身動き取れないという屈辱と絶望が。あの泥にまみれた夢の微かな記憶が僕の中でまた流れ出して、僕はひどく不安になり狼狽えていた、その時、突然に彼が狂暴な唸り声をあげて激しく怒りの満ちた姿勢で僕に襲い掛かろうとした。とっさのことに轟然と吹き出してきた戦闘の空気に張りつめた僕の部屋は緊迫の度合いを増し、僕は彼に殴られまいと大上段から振り下ろされようとしている彼の腕を力一杯にはねつけて、その反射のように僕の右拳は彼の顔をぶん殴っていた。よろけて倒れた彼の眼は血塗れのナイフのように鋭い憎悪とどんよりとした悪意が渾然となって僕を突き刺した。僕はその目線に耐えきれず、彼を口の限りに罵り彼を部屋から追い立て、追い出した。彼は僕を視界に据えたまま恨めしそうな顔で、僕を睨め付けながら引き戸を閉じた。扉を開ける音がし、彼の階段を下りる足音がゆっくりと、断続的に鳴った。

　8.

　何が起こったのだろうか。瞬間に起きたその事態にひどく狼狽え部屋の中でうずくまって、唐突な不和の理由を探し出そうとしては挫折していた。一体何が彼をして僕に殴りかからせたのか。そして僕はその時突然、恐慌にも似た感情に押し流されて力の限り彼を殴ってしまっていた。明らかに過剰な防衛だった。何故この部屋の水は彼には見えなかったのだろう。それは問題を解く鍵なのかも知れない。彼はこの部屋の中の水が見えず、それの引き起こす物理現象にも彼は頓着していなかった。ここに二重の現実があり、彼と僕の住んでいる現実が齟齬を来し、それが彼の突然の行動の原因なのかも知れない。しかし、それならば何故僕の部屋だけが水に没しているのか。この水は果たしてどこから来たのか。この混乱は何なのか……

　9.

　そして彼は部屋の中でぼんやりと光っている「滝」に眼をやった。それは、彼に何か言いしれぬ不安を感じさせるものとして映っていた。ドクドクと心臓の音が高鳴るのを感じ、彼はゆっくりと「滝」に近寄った。硝子のドームと光る水路に流れる水、全体にまとう光の渦、無限と永劫の結晶体。彼はそれから出て机の脇のコンセントに繋がるコードの中頃にあるスイッチを手に取った。パチンと音がして部屋の中は空気で満たされた。彼の唇は震えて声も出ず、手も震え、彼は地蔵のように固まった。
　―つまりはこの「滝」こそが問題だった訳か、これこそが水の元凶、そして彼の暴力の元凶だったのか。
　それは現状の変革という形で彼に幾ばくかの安心を与えはしたが、それだけであった。水の出現は彼に安息を与え、また水の消滅は彼に安息を与えた。しかし、彼がふと快晴の外を見ようと窓を見やったときに、彼の見通しや今までの現実に対する解釈が全く的外れであったことを見出し、愕然とした。
　外の世界は今さっきまでの彼がいた部屋の中のように水の中に没し、太陽の光が水の中で砕けて輝いていた。水の中の街並はがらりと色合いを変え、感触穏やかに思えるものになった。遠くに見える道路には車が地面だけではなく、空中―水中をゆっくりと駆けていた。人々は思い思いに水中を泳ぎ回り、どこへでも行ける自由を甘受しているようだった。軒を連ねる家々の窓から、それまで怯えていた小魚の群れが、天敵の不在を確信して意気揚々と小石の影から泳ぎ出るようにして、水中へ飛び出していった。
　そして、彼は鏡のように映る自分の顔を硝子窓に発見して、さっきの友人の奇行の原因を見たように思い、さらなる驚きに体を震わせた。そこに映っている自分の顔はさっき自分に殴りかかろうとした、憎悪と嫌悪とに満たされた悪鬼の顔そのものであった。そして彼は思い出した。以前、ずっと前に彼と泥のような殴り合いの喧嘩をしたときのことを。自分に殴りかかろうとしたのは過去の自分で、その反撃として殴ったのは彼の友人に他ならない。鏡の中での哀れな自家撞着。それは、彼を深い絶望の底にたたき込んだ。「滝」は時間のみならず、自他の境界すらも越えて彼に過去の記憶を見せたのだった。
　彼は一撃、硝子窓を殴りつけた。しかし、硝子窓は外に湛えられた水のためか、何十センチもの厚さの水族館にあるような特殊な硝子のような堅さを示し、彼の拳を逆に痛めつけた。外には魚のように、人魚のように人々が泳ぎ回り、その様は彼一人の空気の牢獄にいることを嘲笑しているのだと彼には感じられた。そしてまた、彼は窓を殴りつける。まるでそれが牢獄の忌まわしい鉄柵をうち砕かんとするかのように。彼の部屋の壁のあらゆる面に部屋の中へ向かう指向性を持った爆弾が取り付けられており、その導火線がちりちりと燃え、確かな速度でもって火薬に着火しようとしているという焦燥感。まるで彼が重大な犯罪者であるかのように堅固な牢獄に閉じこめられ、死刑執行人にも見放された孤独に陥っているという絶望。何故自分がこんな事態に陥っているのか分からず、世の不条理に昂然と燃え上がらす怒り。彼は窓硝子を殴りつけた、殴りつけては右拳で殴り、右の次には左の拳で力一杯に殴りつけ、右、右、右、と来て左、と感情の流れるままに幾度も殴りつけ、殴りつけては殴りつけ、うち砕かんとばかりに殴った直後に殴りつけ、またさらに殴り殴り殴りまくってはまた殴りつけ……

奥野美和　自由課題（2） 2001年12月19日(水)21時41分39秒

『パレード』

学校に行く途中に大きな川があります。
1人で川を見ながら歩いていると、もう1人の私が川の中にいました。
後ろからついて来た太陽が、川の中に私の影をうつし出したのです。

わたしが歩くと川の中の私も歩く。
それにつづいて太陽と雲も追いかけてくる。
川の流れに逆らって歩くわたしは、なんだか勇ましい。
まるでみんなと一緒に歩いているような気分です。

この泣きたいような笑いたいような時間。
ずっと、もどかしかった自分のこと。
見ていてくれたある日の風景。

高橋阿里紗　自由課題？（２） 2001年12月16日(日)19時04分57秒

『記憶の海』

　瞳を開くと、白よりも白い世界が広がっていた。
白い海、白い空、白い砂浜、白い…僕。
遠くで微かに汽笛の音を聞いた。
あの船に乗って僕は此処に降り立ったと言うのだろうか…？
軽い既視感を覚えながら、僕はただずっと誰かを待っていた。

　気が遠くなるような、永遠よりも永い一瞬。
君は音も無く其処にいた。大きな化石の卵を抱いて。
白い海は相も変わらず白いままで、空との境界線さえも見失いそうだった。
僕はひどく耳鳴りを覚え、少し険しい顔で君を見やった。
「その卵には何が入っているの？」
静寂を破った自分の声に少し驚きながら訊ねると、
「全ての源、世界の記憶。」
少年とも少女ともつかない声で君は言い放った。
けれど僕は世界の事など興味は無く、およそ何も映していないだろう君の瞳ばかりが気になっていた。

　一瞬のような永遠の時の中、僕等は砂浜に座り込んで卵の鼓動だけを聴き続けていた。
「卵が、孵るよ。」
化石の卵にひびが入り、隙間からは少しずつ光りが溢れ出していた。
それとほぼ同時に君の姿もひび割れ、この世界と一緒に壊れていってしまった。
世界で最初の別れは、僕の中に正体不明の喪失感と共に記憶という名の傷を刻みつけた。
やがて光りは全てを包み込み、僕を白い闇の彼方へと連れ去って行った。

そうか、すべては此処から産まれ来るんだ。
海に降る雪、夜空を翔ける星、僕の存在さえも…。
けれど、化石がなぎさに流れ着くように、僕等は何度でもあの場所へと還るのだろう。
限りなく悲しみ色に近い白の世界で。
空の呟き、波の羽ばたき、君の溜め息を聞く為に。

東條慎生　自由課題(3) 2001年12月11日(火)22時11分18秒

　　　闇の左手

　三日前、爪が黒く染まった。左手だった。中指。原因などは分からない。いや、果たして原因自体あるのかどうか。因→果という概念自体が、人間の慣習による錯覚だという話を聞いたことがある。なら、この自体には原因がないと考えたい。原因、つまり私に非があるせいでこの事態に陥ったなどという考えは気に食わない。
　五日前には気がつくかどうか微妙なほどに小さい点であったのだが、気がつくとそれは次第にはっきりとした輪郭を持ち始め、少しずつ大きくなっていくのが分かった。痛みを感じることはなかった。ただ、不安な気持ちが自分にも分からないどこか底の方から、フツフツと湧き上がってくるのを感じていた。
　四日前には傍目に見てはっきりそれと分かるほど、爪の黒さは目立っていた。直径一センチほどになっていた。大学にいる間手は常にポケットに入れるようにしていた。しかし、授業の時にはそういうわけにも行かず、他学生や講師にそれを見咎められないか、酷く神経質になっていた。咎める。何故かこの黒い点は私にとって、罪にも似たものとして感じられていた。
　その日、バイト先の友人であるIにその左手の爪を見せてみた。ほら、この爪何か変なんだけど。そう切り出すと、それまで出来るだけ見られないようにしていた手をスッと差し出した。「何それ、やばくない？どうしたの」私は、分からない、いつの間にかこうなってた、と言った。「見せて」そう言って、彼は私の左手に顔を寄せ、矯めつ眇めつ穿つような真面目さで観察した。「これ、内出血じゃない？血が固まったみたいに見えるけど」そう言われて、私も改めて自分の爪を観察した。確かに爪そのものよりは爪の下にある真皮の部分が変色しているように見える。さらに見ると、爪には縦方向に無数の細い線が走っているのが分かった。自然に出来た皺のようなものなのだろうか。黒い染みはその縦筋に沿って滲み出していた。ならば、これは彼の言う通り、内出血の凝固して黒く変色したものであろうか。そうかも知れない。「そうだよ」彼は言った。話題はそれで終わった。
　しかし、彼には言わなかった致命的な事実がある。先にも書いたように、この染みは少しずつ広がっているのだ。成長しているとも言える。凝固した内出血が成長するというのは、寡聞にして耳にしたことがない。恐くなり、病院に行こうかとも思った。しかし結局行かなかった。面倒だったからだ。それに、彼に話したのも別に助言を求めてのことではなかった。ただ、話をしたかっただけだ。
　二日前、つまり一昨日、中指全体が、付け根から上全てが黒くなっていた。通常のやり方では最早隠すことは出来なかった。為に、中指に白い包帯を巻き付け、何とか隠すことに成功すると、内心戦々兢々としつつも大学へと向かった。途中の電車の中では、苦痛で張り裂けそうだった。自分の奇妙な病が日常から蹴り出されるに充分な欠陥に思え、車内に押し込められた人々が嬉々として自分を視線で、物言わぬその雰囲気で欠陥をこの場に暴き立て、私のここにいることが出来なくさせる時機を窺っているのだと、感じられて仕方がなかった。電車の中には、堅固な、頑丈な鉄の日常がある。
　家族から隠すのも一苦労だった。別に、バイトで指を挟んだんだ、と言ってしまえばそれで済んでしまったのだが、それでも私の中には重い、嫌な感じがわだかまっていたのだった。それには、確かな重さがあった。
　昨日、朝起きると最早事態を何とかしようという気など起こりようもないほど、病は進行していた。左手全体が真黒く染まり切ってしまったのだ。夜の間に世界の闇を遍く寄せ集め、左手は一夜にして元の形など面影すら残さない、醜悪ななにものかへと変貌を遂げていた。バルンガ。ウルトラQにそんな怪獣がいる。というか、そもそも私はウルトラQはもとより、ウルトラマンですらまともに見たことはないのだが、家に昔置いてあった、怪獣大図鑑みたいなものを貪り読んでいたので、どんな怪獣がいるかだけは知っているのだ。バルンガ、その怪獣はあらゆる物理的なエネルギーを吸収して、無限に成長していくという。ウルトラQにはウルトラマンが出てこない。それなのに、無限に成長していく無敵の怪獣をどうやって倒すというのだろう。子供心にそのイメージは焼き付くように刻印され、あたかもバルンガが空にいて、取り返しのつかない状態が今にも出来するのではないかと、バルンガの存在を思い出すたびに押し潰されるような恐怖を感じた。しかも、本編を今に至るまで見ていないので、その不安は解決されることなく燻り続けている。
　闇の左手は終いに私の言うことを聞かなくなっていた。人差し指を動かしたかと思えば、親指が動いてしまったり、より強く握ろうとすれば力は弛んでしまい、持っていたものを取り落としてしまう。見た目にも、手首から先は最先端科学で作り上げられた特殊な樹脂製の義手を填めているように見えた。というより、これは私の手ではないという身体的な実感、何か脳を素通りして直感するような特殊な正しさでもって、それを感覚していた。
　その日は大学を休んだ。母親には、今日、創立記念日なんだ、と言った。母はそれだけ聞くと気のない返事をして、すぐに部屋の前から立ち去った。階段を下りる足音が虚ろな部屋に残った。昼、食事時になり寝ることにした。起きると夕食の用意が出来たらしく、母親が呼びに来たが、寝たふりをしてやり過ごした。そのまま寝続けていたかったが、夜に叩き起こされた。腹は空きまくっていた。夜に起きたのは空腹のせいや、寝過ぎて眠くなくなってしまったのではなかった。部屋から一歩も出ずに、出ることも出来ずに、部屋の隅々にある様々な陰影、いろいろの家具の為に出来るそれに追い詰められていた。気を抜けば、私の手を目駆けて一斉に正体を現し、私のものであった体を全て彼ら自身の領土に取り込んでしまおうとしている。ユラと影が揺れる。クラウチングスタートの姿勢。駆け出そうとする目付き。弾ける硝煙。怒濤の来る気配。J・G・バラードの短篇に、気付かぬ内に周囲の壁が段々押し寄せてくるというのがあった。タイトルは忘れてしまった。白い恐怖。闇は白い。その雰囲気、しかし鉄のように強固な塊に叩き起こされたのだった。
　染みとも呼べなくなっていた左手の黒みは、眺めていると目に見える早さで成長しているのが分かった。幾何級数的だか、二次曲線だか、そんな数学的概念のように素速く成長に成長を重ねていた。夜は、寝ることが出来なかった。朝が来て、また昼が来て。母は、なんだか不審がっていた。
　私の知らぬ内に、体の各部分が既に黒ずんでいた。両足、右手から徐々に浸食しながら。自分の体が自分のものでなくなる瞬間というのは、自分では分からないものなのだと気がついた。覚醒から睡眠に入る瞬間、死に行くまさにその時。全部、ことが終わってから初めてそれと気付くものばかり。今ここに。永劫たどり着けない永遠の過去。よく、分からない。上手く、言葉にならない。
　やはり、病院には行かないのが正解だった。病院に行ったところでこの病、もしくは闇そのものは治癒不可能なことに間違いはなく、ことさら騒ぎ立てられて目も当てられない状況に陥る羽目になっただろうと思う。そろそろ母親が不可解だと思い始めて、私に大学を休む理由、食事をとらない理由を聞き質してきた。答えられない。だから、黙ってくれ。段々、言葉がだらしなくなってきた。右手すらも闇に染め上げられ、言うことを聞かなくなり始めているのだ。この文章は、全てが終わり始めた時に書き始めた。闇に怯える自分に嫌気が差し、どうせなら意識を全て一点に集中し、それで闇から逃れられると思ったのだ。確かに、逃れていた。しかし、やはり、逃避は誰かに追いつかれるセツリ。カンジが上手く書けていない。手が、巧く動かない。この手記はちゃんと書けているだろうか。私の思ったことはチャンと書き表されているだろうか。大丈夫か。以前の文章に自分が書いたとは思えない文章が幾つかある。私が本当に書いたのだろうか。右手がかいたのではないだろうか。しかし、昔の日記なんかは時が経ってから見ると、まるで別人が書いたもののように見える。その時のイワカン、または懐かしさ。そこにいるのは過去の自分ではなく、他人なのかも知れない。今現在以外に自分は居ないとも言える？だとしたら、結局自分は自分自身には、捉えられないものだということになる。エイゴウがどうとか書いたから。自分、自分、ムスウの自分。自分を追い求める自分。イヤ気がサす。　

高橋阿里紗　自由課題 2001年11月29日(木)23時01分01秒

『消・失・点』

空をただよう雲の欠片が
またひとつ融けて消えていく
走り去る季節（トキ）とりのこされた
僕らは何処へ歩けばいいの…？

この場所はまだ僕らを
捕らえて離さないけれど
空を泳ぐあの鳥のように
孤独な自由は欲しくない

白い太陽照らされて
僕は此処にいるから
もう消えたキセキの行方を
探そうとしないで

海平線に僕らの船が
またひとつ遠く霞んでいく
すべての愛を消してしまった
僕らは何を信じればいいの…？

あの船はもう二度と
迎えには来ないけど
籠の中の鳥のように
風の歌を奏でよう

この太陽が沈んでも
君の傍で眠るから
もういない天使の吐息に
耳を澄まさないで

白い太陽照らされて
僕は此処にいるから
もう消えたキセキの行方を
探そうとしないで
もういない天使の吐息に
耳を澄まさないで

鈴木一業　自由課題 2001年11月29日(木)02時38分51秒

「魂」

失くなった部分は、重なった部分。
分かり合った気分は、間違った自分。
たぶん半分は、そんなもんで。
変わる方法も、そんなふうに。
状況だけが、全てじゃない。
構想だけは、捨てちゃいない。
内側は、青でいいや。
無自覚で、行けるところ。
愛や期待に。寄り添い合う時代は。
近い未来へ。ひとりだけにはしないと。
憧れる？　これは君でもあるし。
合せてる？　それは意味のないこと。
そう、誰にだって。
もう、どこにだって？嘘。

「37℃の部屋」

どんなに不愉快な夜にも／戻るのはいつもの部屋／浮遊する体はスロー
小声に魔力は宿らないし／思い込みは始まらないし
ここにいるのも今日で最後／これを繰り返す神経がにくい
ゴミ箱から忘れ物が出たら／すこしだけ裂け目ができる／そこにまた部屋ができる
ぼやけたエピソードに憧れ／追い求めた部分は白と黒だけだ
それでも両手には残らない
期待の半分で愛だろう？／恥ずかしいけれど平熱でいる

「話の話」

静寂とこだまする　深い空気が伝えている
かすかな呼び声に　戸惑うリズムと想いがある
羊の口から泡がゆらゆら　気付けばふたりきり
またここにいた
静寂とこだまする　知らない顔が伝えている
わずかな引力と　都会の孤独と想いがある
命の道から一瞬落ちてた　気付けばひとりきり
またここにいた

「日常と非日常」

交差点に立っていた信号待ちの僕らの前を
ぼんやりと幾つも重なった人影が
花束を抱いて横切っている
箱庭に逃げ込むべきだと言う人
洪水がやって来るらしいと言う人
周波数を合せれば分かったつもり
幸福のシンボルマークが形を変える
底に沈んだ感覚はいつまでも回収されず
静かに時計の音に支配され続けるだけだろう
全てが極端な部分で交わるという
唯一の確証を頼りに生きるしかない
それは哀しいことでもあるが
日常はそうできている希望
一つの場所にあるいはすぐ近くに
さよならと別れには花束を送る

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[奥野美和] 自由課題（2） (2001/11/12 23:33:30)
[奥野美和] 自由課題 (2001/11/12 23:19:55)
[杉山千絵] 自由課題 (2001/11/08 18:30:29)
[宮田和美] 自由課題 (2001/10/30 14:57:21)
[横田裕子] 自由課題 (2001/10/24 17:35:42)
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[寮美千子] 連句「水草生うの巻」十一句目決定 (2001/10/18 20:14:45)
[コハシミカ] 課題2（2） (2001/10/18 15:24:10)
[松永洋介（アシスタント）] 課題３（１２）連句「水草生うの巻」第十一句選句 (2001/10/13 23:51:31)
[松永洋介（アシスタント）] 課題番号は何番かというと (2001/10/13 19:23:13)
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[松永洋介（アシスタント）] 課題３（１１）連句「水草生うの巻」第十句選句 (2001/10/08 23:48:48)
[松永洋介（アシスタント）] 連句第十句締切は日曜に延期 (2001/10/06 20:22:01)
[寮美千子] 連続テロ事件／アメリカによる報復　を考えるための資料 (2001/10/03 01:01:00)
[松永洋介（丁稚）] “雑談板”スタート (2001/10/02 02:36:53)
[寮美千子] 九句目決定／課題３（１０）十句目募集 (2001/10/02 02:09:59)
[寮美千子] 連句「水草生うの巻」九句目選評 (2001/10/02 02:05:11)
[ネモト　サヤカ] 課題５（２） (2001/09/30 20:29:07)
[松永洋介（アシスタント）] 課題３（９）第九句の選句 (2001/09/29 01:56:48)

管理者：Ryo Michico <mail@ryomichico.net>
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