2007年9月18日
東京地方裁判所 御中
原告訴訟代理人
弁護士 福井健策
当事者の表示
別紙当事者目録の通り
著作権侵害差止等請求事件
訴訟物の価額 金306万4,000円
貼用印紙額 金2万1,000円
1 被告は、別紙作品目録記載の文章の全部若しくは一部を、同目録記載の書籍及び同ウェブサイトを含むあらゆる媒体を介して、複製、公衆送信、口述、譲渡その他利用してはならない。
2 被告は、原告に対し、金750,000円及びこれに対する本訴提起から完済に至るまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は、別紙謝罪文目録記載の新聞及びウェブサイトに、同目録記載の内容の謝罪文を同目録記載の方法にて掲載せよ。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 仮執行宣言
1 当事者及び本件著作物
(1) 原告は2005年度泉鏡花文学賞受賞などの実績のある小説家であり、「父は空 母は大地 インディアンからの手紙」と題する絵本(1995年パロル舎刊)の文章部分(以下「本件著作物」という。)の著作者・著作権者である。なお、本件著作物は1854年にアメリカ先住民の首長がおこなったとされる著名な演説(1931年に米国雑誌に収録されたもの)を、原告が独自に翻訳及び再構成したものである。よって、本件著作物は当該原籍の二次的著作物と評価されるべきものであり、原告はその著作者・著作権者である(著作権法第2条第1項第11号)。本件著作物は出版後度々重版され、現在は第8刷に及ぶ人気作である(甲1)。
(2) 被告は、前参議院議員であり、現在は社団法人国土政策研究会会長の職にある者である。
2 被告による著作権侵害と責任
(1) 被告は、遅くとも2003年4月から現在に至るまで、別紙作品目録記載の被告のウェブサイト(以下「被告サイト」という。甲2の1、2)に、「父は空、母は大地」と題する同目録記載の文章(以下「被告文章」という。)を原告に無断で掲載している。同目録で比較を示す通り、被告文章は、本件著作物から恣意的に部分を抜粋して順番を入れ替え、(ひらがな表記を漢字に入れ替えるなど)単純な改変を加えただけの文章で、出典は一切記されていない。この点、米国の非営利ウェブサイトで、インターネット上のさまざまなデータを蓄積しつつ過去の状態を閲覧できる「インターネットアーカイブ」によれば、被告文章は遅くとも2003年4月22日には被告サイトに掲載されていたことが示されている(甲3の1ないし3)。
(2) 更に、被告は2004年7月に別紙作品目録記載の書籍(以下「被告書籍」という。)を出版したが、同目録記載の同書籍第29頁末尾から31頁部分に(更に句読点など若干の改変を加えた)被告文章を無断で掲載した(甲4)。また、被告文章は、2005年4月頃におこなわれた社団法人空知建設業協会主催の講演でも無断で利用されたことが確認されている(http://www.jiti.co.jp/graph/toku/0504iwai/0504iwai.htm。甲5)。いずれの場合にも、出典たる本件著作物は一切記されていない(以上を総称して、以下「本件侵害行為」という。)。
(3) 本件侵害行為は、著作権のうちの複製権(著作権法第21条)、公衆送信権(同第23条第1項)、口述権(同第24条)及び譲渡権(同第26条の2第1項)、並びに著作者人格権のうちの氏名表示権(同第19条第1項)及び同一性保持権(同第20条第1項)の侵害である。よって、被告は原告に対して差止(著作権法第112条)、損害賠償(民法第709条、著作権法第114条ほか)、及び謝罪広告などの名誉回復措置(同第115条)をおこなう責任を負う。
3 損害の発生及び内容
(1) 被告の本件侵害行為により原告が蒙った財産的損害の額は,一般的な書籍出版、講演及びネットワークでの利用への許諾等において著作権者の受けるべき許諾料額(印税額)を参酌したうえで、本件の事情を加味して算定するのが相当である。
(2) ところで、一般的な書籍出版においては、印税額は書籍定価に発行部数を乗じた金額の10%と定められるのが通常である。よって、出版における原告の使用料相当額は、当該計算式に、本件著作物の被告書籍に占める割合を乗じた金額と考えるのが相当であるが、被告は下記の通り原告の抗議に回答しないため、同書籍の発行部数は不明である。
(3) 他方、講演における利用については、原告の所属する社団法人日本文藝家協会の使用料規定は、もっとも近いもので「定員500名以下の劇場での上演使用」(同第24条第3項)において、「第1項の金額の50%、すなわち200万円を上限として利用者と同協会が協議して定める額」と規定するのみである。しかしながら、現状では被告が被告文章を無断で利用した講演の規模、回数、講演全体における無断利用の割合、入場料の有無と金額、被告の受領した報酬の金額、のいずれも不明であり、相当な対価は算定困難である。また、ネットワークでの利用については、同協会の使用料規定に明記はなく、かつ、被告サイトにおける被告文章の閲覧数及びダウンロード数は不明なため、やはり相当な対価は算定困難である。
(4) よって、原告は上記(2)及び(3)記載の損害部分を請求額から除外し、損害の一部請求として本訴を提起する。
(5) 著作者人格権の侵害については、被告文章は本件著作物のひらがなを勝手に漢字に改めたり、文章の順序を変え、「中略」の表記もなく部分と部分をつなぎ合わせたことで、原告が意図し苦心して創作したものとは全く異なる態様で公表された。しかも、被告文章では、本件著作物14頁に記載された「はただの水」なる語を脈絡なく脱落させたため、その部分は本来の文意が伝わらないものとなっている。被告書籍には当該文章がシアトル酋長の手紙の一節であるという説明があるだけで、また被告サイトにはそうした説明すらなく、原告の氏名はおろか、日本で出版された既存の書籍からの転載であると想像させる情報は何ら提供されていない。被告書籍の末尾には多数の参考文献が挙げられるが、原告の絵本への言及は一切ない(甲2)。
しかも、被告書籍は、旧建設省OBで国土交通副大臣や自由民主党道路調査会副会長などを歴任した被告が、原告とはまったく異なる開発工事観や憲法改正論を展開した著書であり、原告は賛同できない被告書籍の主張を補完するために無断で自らの著作物が利用されたことで、大きな精神的損害を蒙った。かつ、本件著作物のファンが被告文章を目にした場合、原告の了承を得て本件著作物を転載したものと考え、あたかも原告が被告の主張に賛同したかのように誤解するおそれは十分にある。
以上を踏まえると、本件侵害行為による原告の精神的損害は金60万円(氏名表示権侵害について30万円、同一性保持権侵害について30万円)を下回ることはない。
また、本件訴訟に要する原告の弁護士費用は金15万円を下回らない。
(6) なお、被告書籍はすでに出版されてから3年以上が経過し、上記講演は遅くとも2005年4月以前にはおこなわれ、かつ、被告文章は上記の通り遅くとも2003年4月からの4年間以上にわたって、先日まで現職参議院議員だった被告の、アクセス数は相当に高かったと推定される被告サイトに掲載されている。
この間、依頼者は本年6月29日到達の自己名義の内容証明郵便により、更に同7月20日到達の原告代理人名義の書留郵便により、本件侵害行為に抗議し、しかるべき告知及び謝罪を求める文書を送付した(甲6、7)。しかし、被告は同6月30日、第1回目の抗議書に対して、「父は空 母は大地を見たことがありません。当該部分は知り合いから教えてもらったものです」という、わずか5行の誠意の片鱗さえ見えない返答をおこなったのみで(甲8)、以後も本件侵害行為を継続して来た。
かかる長期にわたる侵害の継続の結果、単に将来に向けて本件侵害行為を差し止め、過去の損害について賠償を受けても、すでに被告書籍や被告サイトに触れた人々を介した被告文章の波及、不本意な二次的被害の拡大を防止することは到底できない。かかる被害の拡大を多少なりとも防止し原告の名誉を回復するためには、被告サイトと共に認知度の高い新聞などの媒体に、被告文章は本件著作物の無断改変を伴う転載であった旨を告知するほかない。
4 よって、原告は、被告に対し、著作権法第112条に基づき、請求の趣旨記載のとおりの本件損害行為の差止、民法709条に基づき、本件侵害行為によって原告がそれぞれ被った損害の一部の賠償を求めるため、請求の趣旨記載のとおりの損害賠償金の支払、及び著作権法第115条に基づき請求の趣旨記載のとおりの名誉回復措置を求め、あわせて本訴提起から完済に至るまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めて本訴に及んだ。
1 | 訴状副本 | 1通 |
1 | 証拠説明書 | 1通 |
1 | 甲第1号証ないし第8号証 | 各1通 |
1 | 訴訟委任状 | 1通 |
別紙
〒630−**** | 奈良県奈良市**** 原告 寮美千子 |
〒107−0062 | 東京都港区南青山5−18−5 南青山ポイント1階 骨董通り法律事務所(送達場所) 電 話 03−5766−8980 FAX 03−5466−1107 原告訴訟代理人 弁護士 福井健策 |
〒1**−**** | 東京都**** 被告 岩井國臣 |
別紙
1 被告文章 | (参考)本件著作物の該当部分。 ただし、借用された部分のみを抜粋。また、 比較のため改行箇所などは被告文章と揃えてある |
1854年、第14代大統領ピアスは、インディアンたちの土地を買収し、居留地を与えると申し出た。1855年、インディアンの酋長シアトルはこの条約に署名。これは、シアトル酋長が大統領に宛てた手紙である。 | 1854年 アメリカの第14代大統領フランクリン・ピアスは インディアンたちの土地を買収し 居留地をあたえると申しでた。1855年 インディアンの首長シアトルは この条約に署名。これは シアトル首長が大統領に宛てた手紙である。(本件著作物4頁) |
ワシントンの大酋長へ そして 未来に生きる すべての兄弟たちへ | ワシントンの大首長へ そして 未来に生きる すべての兄弟たちへ(同3頁) |
どうしたら 空が買えると言うのだろう? そして大地を。 私には わからない。風の匂いや 水のきらめきを あなたは一体 どうやって買おうと言うのだろう? | どうしたら 空が買えるというのだろう? そして 大地を。 わたしには わからない。風の匂いや 水のきらめきを あなたはいったい どうやって買おうというのだろう?(同6頁) |
あらゆるものが つながっている。私達が この命の織物を織ったのではない。 私達は その中の一本の糸にすぎないのだ。 | あらゆるものが つながっている。わたしたちが この命の織り物を織ったのではない。 わたしたちは そのなかの 一本の糸にすぎないのだ。(同34頁) |
すべて この地上にあるものは 私達にとって 神聖なもの。 松の葉の 一本一本 岸辺の砂の 一粒一粒 深い森を満たす霧や 草原になびく草の葉 葉かげで羽音をたてる 虫の一匹一匹にいたるまで すべては 私達の遠い記憶の中で 神聖に輝くもの。 私の体に 血が巡るように 木々の中を 樹液が流れている。 私は この大地の一部で 大地は 私自身なのだ。 | すべて この地上にあるものは わたしたちにとって 神聖なもの。 松の葉の いっぽん いっぽん 岸辺の砂の ひとつぶ ひとつぶ 深い森を満たす霧や 草原になびく草の葉 葉かげで羽音をたてる 虫の一匹一匹にいたるまで すべては わたしたちの遠い記憶のなかで 神聖に輝くもの。 わたしの体に 血がめぐるように 木々のなかを 樹液が流れている。 わたしは この大地の一部で 大地は わたし自身なのだ。(同8及び10頁) |
川を流れる まぶしい水ではない。それは 祖父の そのまた祖父達の血。小川のせせらぎは 祖母の そのまた祖母達の声。 湖の水面にゆれる ほのかな影は 私達の 遠い思いを語る。 川は 私達の兄弟。 渇きを癒し カヌーを運び 子供達に 惜しげもなく 食べ物を与える。 だから 白い人よ どうか あなたの兄弟にするように 川に優しくして欲しい。 | 川を流れるまぶしい水は ただの水ではない。それは 祖父の そのまた祖父たちの血。小川のせせらぎは 祖母の そのまた祖母たちの声。 湖の水面にゆれる ほのかな影は わたしたちの 遠い思い出を語る。 川は わたしたちの兄弟。 渇きをいやし カヌーを運び 子どもたちに 惜しげもなく食べ物をあたえる。 だから 白い人よ どうか あなたの兄弟にするように 川に やさしくしてほしい。(同14頁) |
生れたばかりの赤ん坊が 母親の胸の鼓動を慕うように 私達はこの大地を慕っている。 もし 私達が どうしても ここを立ち去らなければならないのだとしたら どうか 白い人よ 私達が大切にしたように この大地を大切にして欲しい。 美しい大地の思い出を 受け取った時のままの姿で 心に刻みつけておいて欲しい。 そして、あなたの子供の そのまた子供達の為に この大地を守り続け 私達が愛したように 愛して欲しい。いつまでも。どうかいつまでも。 | 生まれたばかりの赤ん坊が 母親の胸の鼓動を したうように わたしたちは この大地をしたっている。 もし わたしたちが どうしても ここを立ち去らなければ ならないのだとしたら どうか 白い人よ わたしたちが 大切にしたように この大地を 大切にしてほしい。 美しい大地の思い出を 受けとったときのままの姿で 心に 刻みつけておいてほしい。 そして あなたの子どもの そのまた 子どもたちのために この大地を守りつづけ わたしたちが愛したように 愛してほしい。いつまでも。どうか いつまでも。(同36及び38頁) |
2 被告書籍 「劇場国家にっぽん わが国の姿のあるべきようは」(新公論社刊)
3 被告サイト http://www.kuniomi.gr.jp
(該当ページは、http://www.kuniomi.gr.jp/togen/iwai/titisora.html)
別紙
「私、岩井國臣は、寮美千子編・訳 篠崎正喜画「父は空 母は大地 インディアンからの手紙」(パロル舎)中の文章を無断で改変した上、上記出典を一切明らかにすることなく、私の著書「劇場国家にっぽん わが国の姿のあるべきようは」(新公論社)やウェブサイトに無断掲載し、また、講演において無断で利用いたしました。ここに、関係者に謝罪いたします。」
本訴判決後1ヶ月以内に、下記(1)及び(2)の双方を実施
(1) 毎日新聞の全国版社会面に、2段×3センチメートル以上のサイズで1回掲載。
(2) 被告サイトを含む、本訴判決後1年以内に被告が管理する全てのウェブサイトのトップページに、通常の文字サイズで本訴判決後1年後まで継続して掲載。上記期間中は被告サイトを閉鎖してはならない。