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■相対性理論百年「四次元幻想」源泉への時間旅行/第15回宮沢賢治研究発表@宮沢賢治イーハトーブ館 2005年9月23日   26 Jun. 2007


相対性理論百年
「四次元幻想」源泉への時間旅行
寮 美千子

■1

1-1
すべてこれらの命題は
心象や時間それ自身の性質として
第四次延長のなかで主張されます  >『春と修羅』序

1-2
「これは三次元空間の方からお持ちになったのですか」
「こんな不完全な幻想第四次の銀河鉄道なんか、
 どこまでも行ける筈でさあ」   >『銀河鉄道の夜』

1-3
巨きな人生劇場は時間の軸を移動して不滅の四次の芸術をなす
                 >『農民芸術概論要綱』

■2

宮澤賢治「四次元幻想」の源泉を探る書誌的考察  
和光大学表現文化学部 2004年紀要 掲載
        寮美千子

■3 賢治年表/アインシュタイン来日前後

大正10年(1921)25歳 1月 家出 東京へ
8月 花巻に戻る 革トランクいっぱいの童話の原稿
11月 稗貫郡立稗貫農学校の教諭になる
大正11年(1922)26歳7月6日頃 トシ 療養のため下根子・桜の別荘へ移る
【11月10日 アインシュタイン ノーベル物理学賞受賞】
【11月17日 アインシュタイン来日】
11月27日 トシ 永眠
【12月3日 アインシュタイン仙台講演】
【12月29日 アインシュタイン離日】
大正12年(1923)27歳 7月31日 サハリン旅行へ出発
大正13年(1924)28歳 1月20日 「春と修羅」序 の日付
3月20日 「春と修羅」刊行

■4 大正年間出版 相対性理論関連本(棒グラフ)

大正年間に出版された相対性理論関連の本の冊数 大正十年(1921)7冊/大正十一年(1922)27冊/大正十二年(1923)4冊/大正十三年(1924)2冊/大正十四年(1925)0冊/大正十五年(1926)2冊

■5  大正十一年(1922)に出版された相対性理論関連本

5-1
[物理学書]8冊
石原純『アインスタイン全集 第一〜四巻』改造社、大正11〜13
石原純『相対性理論の諸断面 第一輯』改造社
石原純『相対性理論の諸断面 第二輯 空間及時間概念』改造社
石原純『相対性原理』大阪毎日
池邊常刀『相対性原理』岩波書店

5-2
[科学啓蒙書]3冊
寮佐吉訳『通俗相対性原理講話』(通俗科学講話叢書第一編)黎明閣 エル・ボルトン他
寮佐吉訳『通俗第四次元講話』(通俗科学講話叢書第四編)黎明閣
寮佐吉訳『アインスタイン要約』九十九書房 ティリング他

5-3
[宗教・哲学・科学思想史関連]6冊
ノルマン『アインスタインの哲学と新宇宙観』(通俗科学講話叢書第二編)黎明閣
井上秀天『アインスタインか達磨か』(東洋文化叢書第一編)宝文館
亀谷聖馨『華厳の哲理と相対性原理』名教学会
柳井和助『科学と哲学 ガリレオよりアインスタインまで』中央出版社
ハーロー『ニウトンからアインシュタインまで』(新生会叢書第一篇)下出書店
モスコウスキ『アインスタイン―思索の跡をたどりて』改造社

5-4
[大衆向け解説本]8冊
浅野利三郎『アインシュタインを聴かざりし友へ』世界思潮研究会
三枝彦雄『相対性への道』厚生閣
コルンブリユム『相対性理論の基礎フイルムになつたアインスタイン』大阪学校映画協会
岡邦雄『相対性原理読本』(新学芸講座臨時増刊)春秋社
加藤美侖『アインスタイン相対性も是なら分る』(ゼントルマン叢書第一編)朝香屋書店
織田俶子編『相対性原理の話』(婦人パンフレット第三号)婦人文化研究会
山本一清『アインスタインの相対性原理』警醒社
水野敏之丞『相対原律』丸善

5-5
[相対性理論批判]2冊
土井不曇『アインスタイン相対性理論の否定』総文館
鈴木傳七『普選論の駁撃 附録アインスタイン批判』曙光社

■6 賢治蔵書目録 分類(円グラフ)

文系1063冊+α/理系52冊+α/実用26冊

■7 宮沢賢治蔵書目録[理系]52冊の内訳 (円グラフ)

数学17冊(うち洋書1冊)
地学・鉱学・土壌学12冊(うち洋書4冊)
肥料・農学・園芸学09冊(うち洋書3冊)
化学09冊(うち洋書2冊)
物理学02冊(うち洋書1冊)
工学01冊

■8

宮沢賢治蔵書目録[理系]52冊の内容

8-1
[数学]17冊
『微分積分講義』
『ペリー初等実用数学』
『平面三角法』

[地学・鉱学・土壌学]12冊
『大鉱物学』上・中・下 佐藤傳蔵 大正3〜7
『土壌学講義』関豊太郎 大正15

8-2
[肥料・農学・園芸学]9冊
『稲作肥料設計法』岩手県立農事試験場
『肥料学』川瀬惣次郎 大正10
『最新菊の作り方』石井勇義 昭和4

[化学]9冊
『化学本論』片山正夫 内田老鶴圃、大正4
『化学工業全書 全八冊』高松豊吉他 南江堂書店、丸善書店、明治47
F.S.Kipping & W.H.Rerkin "Inorganic Chemistory"

8-3
[工学]1冊
『電気工学 附機械工学・蒸気機関』工学研究会 成光館、大正3

[物理]2冊
『通俗電子及び量子論講話』ジョン・ミルス、寮佐吉訳 黎明閣、大正11
"Four Lectures on Relativity and Space" Charles Proteus Steinmetz
McGrawHill Book Company,Inc., New York, 1923 大正12

■9A 寮佐吉訳『通俗電子及び量子論講話』はしがき

 オリオン星座のベテルギウス星について
 ベテルギウスは、私共の地球を照してゐる太陽と同じ一つの太陽
 其の直径が、私共の太陽の三百倍

9A-1
ベテルギウスは、全宇宙から見れば、一つの点に過ぎない。其の宇宙の真中に、それよりも小さい一個の太陽があって、其の一つの惑星上に、バートランド・ラッセルが、小さな不純な炭素と水の塊と、旨く言った塊がうようよとしてのたくってゐるのである。此等の炭素化合物が、ベテルギウスと比較したる数的無意味を認識したら、其の自己中心性は、どんな感動を受けることであらう。

9A-2
自我の意識は個人から集団社会宇宙と次第に進化する
      宮沢賢治『農民芸術概論要綱』より

9A-3
若し、私共が、生命の満足なる定義を得たならば、死は其の反対であらうか?、生命と死とは、連続的変化の広い過程中の現象に、漠然と与えた名に過ぎないのか?、其の変化の間、恒存される実在は、何であるか?

最後の疑問には、今日の科学は、明かに解答を与へ得る。其の実在は、量によって恒存せられる、エネルギー及び電気の二実性を有してゐる。

9A-4
わたくしとして感ずる電子系のある系統
      宮沢賢治 詩ノート「黒と白との細胞のあらゆる順列をつくり」より

9A-5
夫々に、かけ離れてゐる科学の各分派は、総べて、電気とエネルギーの同一根本問題を取扱ってゐると言ふことが、今日では、わかったのである。人類の歴史あって以来始めて、天才の手によって、一個の普遍科学に総合せられる材料が現はれたのである。物理学も、化学も、生物学も、地文学も、総べて、其の個人性を失って、普遍科学中の共通なる原理の群に没入するのである。

■9B

黎明閣「通俗科学講話叢書」シリーズ/大正十一年(1922)刊行

第一編『通俗相対性原理講話』エル・ボルトン他、寮佐吉訳
第二編『アインスタインの哲学と新宇宙観』シヤール・ノルマン他、高瀬毅訳
第三編『通俗電子及び量子論講話』ジヨン・ミルス他、寮佐吉訳
第四編『通俗第四次元講話』
寮佐吉訳輯

■10 『トムソン科學大系』(表紙写真)


『トムソン科學大系』(第五巻)

■11

『トムソン科學大系』
  第七巻/大正十二年発行(1923)発行
  第三十三編 アインシュタインの相対性理論

参考書目(洋書6冊・和書3冊)

石原純著 相対性理論其他
エル・ボルトン著 寮佐吉訳 通俗相対性理論講話
池辺氏著 相対性原理(岩波書店)

■12 『トムソン科学大系』(英語頁写真)


『トムソン科学大系』全8巻/大正十一年〜十五年(1922〜26)刊行
THE OUTLINE OF SIENCE
A PLAIN STORY SIMPLY TOLD

■13

【第一巻】
第一編 天界のローマンス
第二編 進化物語
第三編 環境への適応
第四編 生存への奮闘
第五編 人類の進化

【第二巻】
第六編 行はれつゝある進化
第七編 心意の黎明
第八編 宇宙構造の基礎
第九編 顕微鏡の驚異
第十編 人體機械の其の働き

【第三巻】
第十一編 今日のダーウィン説
第十二編 博物學 鳥類
第十三編 博物學 哺乳類
第十四編 博物學 昆蟲界

【第四巻】
第十五編 精神學
第十六編 心靈學
第十七編 博物學 植物學
第十八編 生物の相互關係
第十九編 生態學

【第五巻】
第二十編  生物の特性
第二十一編 化學のローマンス
第二十二編 造物主としての化學者
第二十三編 気象學
第二十四編 応用科學 電気の驚異
第二十五編 応用科學 無線電信電話
第二十六編 応用科學 飛行

【第六巻】
第二十七編 細菌の驚異
第二十八編 健康の科學
第二十九編 地球の出来方。岩石の話
第三十編  海洋の科學

【第七巻】
第三十編  海の科學(続)
第三十一編 発電生物と発光生物
第三十二編 博物學 下等脊椎動物
第三十三編 アインシュタインの相対性理論
第三十四編 四季の生態
第三十五編 生命、精神及び物質
第三十六編 人種學
第三十七編 家畜動物の話
第三十八編 科學と現代思想

【第八巻】
第三十九編 発生に就いて

■14

『トムソン科学大系』第四巻/第十六編 心靈學
サー・オリヴァー・ロッヂ執筆

心靈學の目的 心靈學の立場

第一章 心靈的研究
第二章 研究の初穂
第三章 説明的例證の引用について ―妄想又は幽靈
第四章 死者の幻影或いは幽靈 ―千里眼又は透視 神通力
第五章 心靈の物質的表現 ―念冩 直接書記と直接談話
第六章 占杖術 ―移動千里眼 物體の震動
第七章 死後の生存の證據 ―初歩の方法
第八章 約説

14-2 オリヴァー・ロッジ写真


14-3
SPR
The Society for Psychical Research

心霊研究協会
1882年にケンブリッジの著名な学者グループによって創立

■15 心靈學の目的>オリヴァー・ロッジ

【物心の一体化】
今日現存の科學は、超常現象(正常を超越した現象)を一概に斥けはしない。寧ろ今日の科學は、全然新たな方面に於いて種々なる発見が行われ得るだろうといふことを暗示している。

学問の二部門、即ち『精神』の研究と『物質』の研究とは、普通、別々に取り扱はれて来た。そして種々なる事実は、異なる研究家・即ち心理學者と物理學者とに依って吟味されて来た。しかし、一見異なる実在と認められてゐる之等両者の研究が渾然融合さらざるを得ない時期が段々近づいてゐる。

■16

盛岡高等農林所蔵図書 心霊関係書(大正十年前後)

『心霊現象の問題』小熊逓之助
『心霊学講話』デゼルチス 高橋五郎訳
『迷信と宗教』井上円了
『死後の生活』ファヒネル 平田元吉訳
『心霊生活』オリヴァー・ロッジ 藤井白雲訳
『世の終わり』マッケーブ 武者金吉訳
          >大塚常樹『心象の宇宙論』より

■17 賢治年表/科学上の新発見と流行

明治28年(1895)【12月 レントゲン X線の発見を発表】
明治29年(1896)00歳 8月27日 賢治誕生
【日本ではじめてレントゲン写真の撮影に成功】
【催眠術の大流行】
【伊マルコーニ 無線電信を発明】
明治31年(1898)02歳【キュリー夫妻によるラジウムの発見】
明治34年(1901)03歳【レントゲン X線の発見により第 1 回ノーベル物理学賞】
明治35年(1902)06歳【無線による太平洋横断通信の成功】
明治38年(1905)09歳【アインシュタイン 相対性理論を発表】
明治43年(1910)14歳【ハレー彗星大接近>仏・天文学者フラマリオンの予言】
【千里眼の大流行>福来友吉】
大正元年(1912)16歳【逓信省技師の鳥潟右一らがTYK 式無線電話機を発明】

■18 科學の急速な発展=超常現象解明への期待

X線→透視
無線電信→テレパシー・千里眼
相対性理論→時空の超越・死後の世界の実在

■19 19世紀末 西欧心霊主義の台頭

心理学者ジェームズ
文学者メーテルリンク、イェーツ、コナン・ドイル
哲学者ベルクソン
コヒーラ検波管の発明者オリバー・ロッジ
陰極線管の発明者ウィリアム・クルックス
ノーベル賞受賞の生理学者シャルル・リシェ
進化論のウォーレス

■20

大正十一年(1922)に出版された相対性理論関連本

[物理学書] 8冊(石原純7 池邊常刀1)
[科学啓蒙書]3冊 (寮佐吉3)
[宗教・哲学・思想史関連]6冊(井上秀天 亀谷聖馨など)
[大衆向け解説本]8冊
[相対性理論批判]2冊

■21 寮佐吉訳輯『通俗第四次元講話』(写真)


■22 寮佐吉訳輯『通俗第四次元講話』はしがき

 第四次元は、人間を知覚の三次元空間から解放するものである。此を取入れると、精神の視界が拡大して、人生の問題、生命及び死の問題、霊魂の問題、神の問題其の他人間に関する総べての問題は、不可解、神秘或は奇蹟等ではなくなって、四次元空間に於ける一個の自然現象となるのである。要するに第四次元の観念を知らない人人は、知覚の三次元空間に束縛せられてゐる人人である。新しき自由人と云ふことは出来ない。

 加ふるに、近時世間の興味を引いてゐるアインスタインの相対性原理はミンコフスキーの四次元世界(空間と時間の結合せる世界)と深い交渉を有してゐる。此の点に於いても第四次元の観念の深い洞察は、大なる意味を有する。是によって見れば、第四次元の観念は、数学者物理学者に取って有用なるばかりでなく、あらゆる人人に取って興味の深いものである。

■23

成瀬関次『第四次延長の世界』 大正十三年(1924)昿台社

 私が『超立方体』といふやうな事に思ひをひそめた抑々のはじめは、明治四十一年頃、桑原といふ人の著『精神霊動』を読み、続いて福来博士の講演を聴いた頃に端を発する。其の後たしか大正二年頃と覚えてゐる、リテラリイダイゼスト誌上で、フォースデイメンションの解説といふやうなのを見て、線と平面と立方体といふ風に説いてあるのを非常に面白く思つたから早速その読後の印象を私の考へに加味して「第四延長の説明」と題し、大正三年の夏頃、日本師範学会の誌上ほか二三に発表した。

■24 成瀬関次『第四次延長の世界』のルーツ

24-1
「桑原」桑原俊郎
明治三十六年(1903)に『精神霊動』を刊行、
催眠術と神通力による病気治療で一世を風靡した。

24-2 福来友吉写真


24-3
「福来博士」福来友吉
東京帝国大学の心理学助教授。催眠術を研究。
明治35(1902)にウィリアム・ジェームズ『心理学精義』を翻訳出版。
透視と念写の実験を行い、日本の心霊学の祖ともいうべき人物。

■25 成瀬関次履歴

成瀬関次(1888〜1948)
東京外国語学校修学の後、教員、宮内省付記者、豊島区区議会議員を経て、
古武術の道に入る。日中戦争の時には日本刀の修理者として満州に渡り、
日本刀二千振りを修理、この方面で有名。
根岸流手裏剣術と桑名藩伝山本流居合術の師範。

■26 宮沢賢治書簡より/キーワード

一個のサイエンチストとしては認めていただきたい

或る心理学的な仕事

歴史や宗教の位置を全く変換しようと企画

  死の世界を旅する『銀河鉄道の夜』も
  ごく自然な延長線上にあった

■27 賢治の言葉

まづもろともにかがやく宇宙の微塵となりて無方の空にちらばらう
             >『農民芸術概論要綱』

  原子核融合により生まれた「KENJI」という元素は、
  微塵になって未来へと飛び散った
  生物学者ドーキンスのいうところの「ミーム」となって

■28 寮佐吉(1891〜1945)写真


(明治24年生 昭和20年没 享年53歳)

■寮佐吉 訳書・著書

  1. アインスタイン要約 / ティリング[他]. -- 九十九書房, 大正11
  2. 通俗相対性原理講話 / エル・ボルトン[他]. -- 黎明閣, 大正11. -- (通俗科学講話叢書 ; 第1編)
  3. 通俗電子及び量子論講話 / ジヨン・ミルス[他]. -- 黎明閣, 大正11. -- (通俗科学講話叢書 ; 第3編)
  4. 通俗第四次元講話 / 寮佐吉. -- 黎明閣, 大正11. -- (通俗科学講話叢書 ; 第4編)
  5. 精神分析学 / ヒングレー[他]. -- 聚英閣, 大正12
  6. 希望は斯くの如くにして達せよ / 寮佐吉. -- 京文社, 大正13
  7. 生命の謎 / ジヨン・アーサー・トムソン[他]. -- 新光社, 大正13
  8. 原子のABC / バートランド・ラツセル[他]. -- 新光社, 大正14
  9. 物的世界の本質 / アーサー・エヂントン[他]. -- 岩波書店, 昭和6
  10. 科学は何処へ / マクス・プランク[他]. -- 白帝書房, 昭和8
  11. 近代科学の驚異 / 寮佐吉. -- 中央公論社, 昭和9
  12. 新しい錬金術 / ラザフォド[他]. -- 共立社, 昭13
  13. 研究社時事英語叢書. 第6. -- 研究社, 昭和14

初出:2005年9月23日、第15回宮沢賢治研究発表にて口頭発表 於:宮沢賢治イーハトーブ館


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