ハルモニア 物語の作法/夢の標本箱2002

2002年10月19日(土)〜26日(土)
於:和光大学附属梅根記念図書館 梅根記念室

⇒課題内容

⇒夢の標本箱2003


展示風景


標本箱2002


クリックで拡大


標本解説(学生作品)

⇒「物語の作法」掲示板の投稿

かえうた仙人

宮田 和美

中学2年のころ仲良くなった仙人がはいっています。
文明堂とハトヤのCMソングは若いころの仕事で、
一時期は小林亜星が弟子入りしてた、という自慢話を
さんざん聞かされました。
仙人の特技はかえうたなのです。
じゃあなにか作ってと私がねだると、
ゴッドファーザーの主題歌のかえうたで「いかの塩辛のテーマ」
というのを歌ってくれました。
私があからさまにイマイチだなあって顔をしたので、
仙人は機嫌を損ねてとなりにあった箱の中に入り、
中から鍵をかけてしまいました。
それ以来出るタイミングがうまくつかめないらしく、
仙人はずっと入ったままです。

海が隠していた時間

滝 夏海

人間が海で生きる為に必要なもの
人魚の国特製機械仕掛けの心臓を一つ
その中に月の光を二粒 星の光も同じく二粒
真珠貝の溜息を三粒 幼い人魚の涙を一粒

けれどもどうしても見つからない あと一粒の何か
時間切れになった王子様は 海の底に消えました

代わりに入った一粒は 彼に恋した人魚のこころ

桜色の猫目石

水落 麻理

桜色の島から来ました。
桜色の陽の中でゆっくりゆっくり育ちました。

その島にときどき降る、悲しい色の雨粒たち。
悲しい色は桜色にかぶさって、桜色は色を失う。
だけど、雨はいつかまた陽を生み出して、島は桜色を取り戻す。

桜色の島から来ました。
その島のすべてが育ててくれました。
陽も雨もすべてが育ててくれました。

願い

麻生 摂子

川の中の居心地は悪くなかった
仲間の石もいたし、何より魚と話すのが楽しかった

彼らは動けない私に色々な話をしてくれた
川の深い所に行って、誰が川底までいけるかと競った話や
川サギに狙われて危うく食べられそうになった話とか

今の私はなんと惨めなんだろう
私は川に遊びにきた人間に拾われてしまった
乾ききってしまったこの身体

戻りたい、もう一度あの川へ

夢の雫

斎藤 多佳子

一口のむと一晩だけ 好きな夢が見られる薬

現在の想い人と結ばれる世界
君にとっての平和な世界
誰もいない静かな世界
何でも君の思うが侭、一夜限りの世界

くりかえすけど、効果は一口ごとに一晩だけ
二口以上のんだなら 二度と夢からさめない薬
この世にあるのは一瓶だけ、薬の残りも二口だけ

宛先は、世界想い出回収所

山口 文女

必要なものは……。
みどり色の封筒。迷子の想い出。切手はいらない。
そっと封をしたら、あとは風にのせるだけ。

満面の笑みに閉じ込められたわたしは。
みどり色の封筒に包まれて。
ゆっくり夜空に溶けてゆく。

証拠物件

奥山 伸太郎

2年前に起こった軽井沢連続殺人事件で
犯人が使用したと思われる凶器。
極めて異例なこの犯行は、日本中、世界中を混乱させた。
犯人の「スースーさせてやった」という台詞は
あまりにも有名である。
また、このことにより、全国のドラッグストアから
ウナが消えるという事件が発生。
日本中の短パン小僧が厳しい夏を過ごした。

勲章

奥山 伸太郎

先日、愛知県で徳川家康が所持していたと思われる勲章が発掘された。
専門家によると、江戸時代初期、家康が征夷大将軍に任命されたときに授かったものだという。
そこにはその時の日付と、当時の言葉で「征夷大将軍」を表す文字が添えられている。
歴代の征夷大将軍は皆同じような勲章をもらっていたと言われているが、現物が見つかったのはこれが初めて。
家康は常にこれを左胸につけていたとされている。

世界の原石

深谷 公一

大きな大きな国でもらった
小さな小さな青い石
この中には海の世界が詰まってるんだ
正しく祈るとだんだん緑色になって
大地と生命が生まれるんだけど
放っておくと灰色になって
ただの石になっちゃうんだって
でも正しく祈れた人は
まだいないんだよ

白い迷宮

深谷 公一

これは迷宮です。
黒の迷宮。
飲み込んだ者を決して逃さず、放さない。
ずっと昔々から、それは変わっていません。
迷宮と言えば秘密があると相場が決まっていますが……
何があるのかはまだ分かっていません。
皇帝陛下の遺産か、はたまた手に負えない悪夢か。
何故かですって?
まだ帰ってきた人が居ないからです。
黒く無いじゃないか、ですって?
迷い人の骨で白く染まったのです。

最期-ケツマツ-

石黒 美穂

明日から辞めよう「正義のヒーロー」を わりと世の中平和だし 
警察まかせでいいんじゃない? 炉端のゴミは とうにあきらめ 
カルク自分の事を考える 俺はまだ あきらめるにゃはやぃ
コンビニのガラスがそう語ってくれた
さて今日でお終い「正義のヒーロー」は 壊れた更衣室 カーテンを
いつものクリップでトメテ 着替えたなら ぽいっと…… いつものはゴミ箱へ 赤い花は最後の咲き乱れ ひらりと舞って 駆け抜けてゆく
『きゃーたすけて!――ははは 無駄な抵抗はよせ――あ あらわれました 彼です 名もなき正義のヒーローが またあらわれました!――キャーかっこいぃ』
次回は110番へ通報願います★

落語幽霊 〜世界中にコマネチ〜

武井 杉作

「さて、今日ご紹介する商品は『落語幽霊』です。この折り紙を
説明書に従って幽霊のカタチに折って頂くと、主人にとりつき、
巧みな落語をしゃべりはじめます。
笑いのツボを敏感に察知するため飽きません。
ぐちゃっと握りつぶしていただければ効果は消えます。
『ソレデソレデ、カンジンノオネダンノホウハ!?(外人)』
これに『漫才幽霊』『コント幽霊』もお付けして、ナント!
いちまんきゅうせんはっぴゃくえんでのご奉仕です!」
一週間後、世界はお笑い幽霊で支配されていた。何も考えずに
ひたすら笑っていられるだけの生活。それはきっと素敵なものだろう。
「コマネチ!」「よしなさい!」

標本1B

宮田 和美

ほんとだよ。
このあめをたべると
ほんとに世界がきらきらするの
きれいだったな。
一度くちから出しちゃったから、もうあの頃にはもどれないけど。
きれいだったな。
さみしいな。
貝殻は、あの頃のわたしからのおみやげ。

歩いた先の新しい世界

奥野 美和

話すことって楽しいな
そう思えた
軽い夕やけ
帰り道

くしゃみをしたら
これが出てきた

ガールフレンド

奥野 美和

どこまでも 
歩いていこうよ 
ガールフレンド

悲しむことも、 
悩むことも 
不安に思うことも 
自信を持って、ね!

きっとわたしたちの体は 
無限大の可能性 
秘めている

あ、そのお洋服かわいい。

光の欠片

小川原 君依

還る場所がまだあったとき
席を並べていた友と行く路がてら
僕の周りは光に満ちていて。
世界の隅に置き去りにされいた
ただ静かに揺らめく光の欠片を
無邪気になって集めていた。
―還るべき場所へ
受け入れてくれる人に見せようとして―…
(それは、牙をもった鋭い光だったけれど)
庭の片隅に―埋められてしまったけれど。

KATZE

齋藤 亮

彼が七瀬と知り合ってから、一年が過ぎようとしていた。
初めて彼女に贈り物をした時、彼は既に七瀬のことを愛していた。
同じ家で暮らし、同じ空気を吸うようになり、
彼女も自分を愛してくれていると思っていた。

ある日、七瀬は見知らぬ男を連れてきた。背の高い男。
親しげに話す彼女は、今まで見たことがないぐらい楽しそうで。
直感で、俺では七瀬の恋人にはなれないんだな、と理解した。

愛する人と初めて出逢った公園へと走った彼は、
砂場に光るビー玉を見つけ、初めて彼女に贈った物を思い出した。
そして暮れ始めた空を見上げて、「にゃあ」と鳴いた。

行商人お薦めの一品

滝 夏海

「旅人さんよ、この中には
 赤ん坊の最初の微笑み
 ってのが入ってんだ」
 男は小瓶をちらつかせて自慢気に言った。

「幸運のお守りですか?」
「いいや、惚れ薬さ」

旅する彼等の昔の話

斎藤 多佳子

「じゃあ、このサイコロで決めよう」
首から下げたサイコロを手にして彼はそう言った。
「よし、大きいほうを出したほうが勝ちだ」
いきがる僕に彼は首を横にふる。
「いや、1の目を出した方が勝ちさ。
たった一つの宝物を手にする奴は1回で多くを手にする奴じゃない。
たった一つの赤い目をずっとずっと追える奴さ」
彼はにやりと笑って賽を投げる。
僕はズルイと笑って賽を見る。
放り出されたサイコロは空高くに舞い上がり光にさらされ輝いた。

夢プラグ

東條 慎生

夢プラグ取扱説明書
 本製品は切断されたかに見えるコードの拡散端子部分にて脳波を
 受信し、膨大な夢のエネルギーを大幅に低減させ、通常の映像信
 号として扱うことを可能にした画期的製品です。
使用方法
1.当プラグをビデオデッキの入力端子に接続して、録画予約を
  してから、そのすぐ近くで眠ってください。
2.時間があえばその時見た夢を録画でき、そのまま再生すれば
  奇妙奇天烈な夢の世界をご家庭のテレビでお楽しみ頂けます。
注意事項
1.使用継続時間約10分 2.耐用使用回数1回

冬眠

山口 文女

くたびれて、石ころ蹴飛ばす帰り道。
そんなとき、ポッケにどんぐりひとつ。
どんぐりは秘密の穴ぐら。
かわいた落ち葉を毛布にして……。

冬眠しよう。
どんぐりにもぐりこもう。
こころが温まったらニョキっと起きるよ。
じゃぁ、またね。おやすみなさい。
……Zzz。

ひとつぶの×××

横田 裕子

何処へ行きたい?
 何処へ行きたい?
 遥かな空の果てに 皆が楽園と信じて疑わない
 あるはずのない楽園
陽の光の温もりが届かない 地の奥底に
 あるかもしれない 地下帝国
 行き場のない君に捧げる
 ひとつぶの・・・・×××

 

越智 美帆子

この中に詰まっているラメの一つ一つは、
過去と現在と未来の出来事。

 

越智 美帆子

くゆる紫煙を眺めながら、
ラズベリーの香で部屋を満たし、
くつろげることの幸せ。

食べかす

横田 裕子

食べることに飽きてしまっても
食べることを止められない旅人の
ある日の食事


物語の作法ホームページへ