ハルモニア Voice/寮美千子の詩

寮美千子がSt.GIGAで発表した[voice]と、新作の詩を載せていきます。
★=星の時 ○=水の時 ▲=新作
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○ 炎の化石

Sun, 19 Jan 2025 16:52:56

昏い土の中で目覚め 
魂の命じるままに伸びあがると
ふいに 体を締めつける真っ黒な壁が消えた
双葉に感じる 透明な大気
頭上の遥か彼方で 小さな光が揺れている
遠い 遠い光
木洩れ日だった
ああ 求めていたのはこれだったんだ

光を求めて さらに伸びあがる
小さな両手で 必死に光を受けとめて
それでも 届く光は ほんのわずか
焦がれるように 空を見あげた

季節は巡る 繰り返し巡る
太陽が 真上に来ても
ここは いつも薄暗く 涼しい
森の香りが いっぱいに満ちていた
苔や黴に取り憑かれても 耐え
鹿や猪に踏み潰されないように 祈り
わたしは辛うじて 生きのびた
細い幹のまま 弱々しい葉を伸ばし
精いっぱい背伸びをしても
瓜坊の背丈を超えることさえ できなかった

ある日 傍らの大きな木が ぎしぎしと鳴った
はじめて 木の声を聞いた
「お別れだ ちっこいの。
 おれも昔は おまえみたいだったんだよ」
そして 木は どうと倒れた

そのとたん 光が溢れた
天井が開けて 光が燦々と降りそそぐ
まぶしさに驚きながら
わたしは 緑の若葉を震わせた
葉は 見る見る緑を濃くて 
朝露が きらきらと光った

それからというもの 
わたしは 日々 光へ光へと伸びあがった
少しでも多く光を受けとめようと 
腕を伸ばし 葉を繁らせ 
やがて 悠々と繁る 大きな木になった
リスが駆けのぼり ムササビが飛びつき
渡り鳥たちは 羽を休めながら
遠い世界の 消息を知らせてくれた

そう わたしはあの大木に 
光をもらった
命をもらった
太陽に赤々と燃える命の火をもらったのだ

ほら いまもそこにある
その折れた株が あの木なんだよ
燃えあがる火の形をしているだろう
あれはね 炎の化石なんだ
太陽から分けてもらった火が
ここで燃えていた証なんだよ


2025-1-19 Copyright by RYO Michico
※小畑あきらさんの木の写真に触発された書き下ろし作品。倒木更新をイメージ。
https://www.facebook.com/ryomichico/posts/pfbid0nWtQD4p54oqNWMYAXy7gtsN8Dg1LYbRnf29NwPdXqnmDhtZ1ZvumxiM5BmUJKf4zl

        Copyright by Ryo Michico


○ 雨の歌

Thu, 02 Mar 2017 01:39:47

雨のなかを 鳥が渡る
まるで 翼のある魚のように
希薄な水のなかを
ゆっくりと 泳いでいく

雨のなかで 水が濡れる
まるで 海に沈む湖のように
降りそそぐ 天上の水に
ゆっくりと 浸されていく

雨のなかで 魚が泳ぐ
まるで 翼のない鳥のように
空の記憶のなかを
ゆっくりと 渡っていく

        Copyright by Ryo Michico


○ いただきますのうた・ごちそうさまのうた

Thu, 12 Jan 2017 23:59:26

▼いただきますのうた

おひさまと 大地と水に ありがとう
かがやくいのちを いただきます
おいしくたのしく いただきます

▼ごちそうさまのうた

たくさんの いのちは わたしに なりました
手と手をあわせ ごちそうさま
きょうも げんきを ありがとう


CD「あおによし まんとくん」2009 に収録
作曲/清田愛未 作詞/寮美千子
http://ryomichico.net/sale.html#mantokun

        Copyright by Ryo Michico


▲ 旗を振る ―城山三郎「旗」への返歌

Thu, 23 Oct 2014 02:22:00

旗を掲げたいわけじゃない
ここにいます
と声を上げても届かないから
必死の思いで 旗を掲げる
まるで 救難信号のように
ここにいます ここで生きています
大切にしたいものがあります
どうか 助けてください
と 必死で旗を振る


「運動」をしたいわけじゃない
ただ
大きなものに踏みつぶされ
黙って壊されていくものたちを
なんとか守りたいから
わたしが生きているずうっと前から
そこに あったものが
わたしが死んだ後の世界にも
そのままのうるわしい姿で
そこに居つづけてほしいから
ささやかな旗を掲げ 声を上げる


だから 人々よ
あなたの旗が 赤であろうと 青であろうと
そんなことは かまわない
掲げられた旗に気づいたならば
どうか 耳を傾けてほしい
わたしの声が 聞こえたならば
どうか 応えてほしい
もしも 共感したならば
声をあげてほしい
それが いつか「大きなもの」に届くように


ここには「わたしたち」という名の

得体の知れない生き物はいない

一人一人の

無数の「わたし」がいるだけ

いつしか それぞれの声が重なりあい

やがて 大きな交響になり

倍音の果てで 

一筋の光のような透明な声が
世界に響きわたる日のこと夢見て


旗を掲げ 旗を振る
旗など なくても
ほんとうの声を交わしあえる
世界の到来を求めて



参考:
『旗』 城山三郎

  旗振るな
  旗振らすな
  旗伏せよ
  旗たため

  社旗も 校旗も
  国々の旗も
  国策なる旗も
  運動という名の旗も

  ひとみなひとり
  ひとりには
  ひとつの命

  走る雲
  冴える月
  こぼれる星
  奏でる虫
  みなひとり
  ひとつの輝き

  花の白さ
  杉の青さ
  肚の黒さ
  愛の軽さ
  みなひとり
  ひとつの光

  狂い
  狂え
  狂わん
  狂わず
  みなひとり
  ひとつの世界
  さまざまに
  果てなき世界

  山ねぼけ
  湖しらけ
  森かげり
  人は老いゆ

  生きるには
  旗要らず

  旗振るな
  旗振らすな
  旗伏せよ
  旗たため

  限りある命のために    

出典:城山三郎詩集『支店長の曲がり角』

        Copyright by Ryo Michico


▲ ぼくたちが かみさまになるころ

Thu, 23 Oct 2014 02:19:37

ぼくたちが かみさまになるころ
やわらかな木でできた町家は
新建材のチープな家に置き換わっているだろう

ぼくたちが かみさまになるころ
なつかしい煉瓦建築は粉々に壊されて
ろくでもないビルディングがそびえているだろう

ぼくたちが かみさまになるころ
緑なす田畑は 耕し手を失って
灰色の太陽電池ファームになっているだろう

ぼくたちが かみさまになるころ
南の島の海では 珊瑚たちが死に絶え 
ジュゴンは遠い記憶のなかにしかいないだろう

ぼくたちが かみさまになるころ
平城宮跡の地下水は枯渇し
地下の木簡の千年図書館は失われているだろう

ぼくたちが かみさまになるころ
半減期2万4千年のプルトニウムは
まだ半分にも減っていないだろう

ぼくたちが かみさまになるころ
異常気象は地球を吹き荒れ
人間も動物も飢えに苦しむだろう

ぼくたちが かみさまになるころ
人々はぼくらを恨むだろう
なぜあのとき 方向転換してくれなかったのかと

ぼくたちが死んで かみさまに祀りあげられるころ
祖霊なんてたいしたもんぢゃないやと
怒りとともに 迎え火が焚かれるだろう

ぼくたちが かみさまになるころ
果たして人類は 生きてのびているのか
緑なす地球は すこやかなのか

ぼくたちが かみさまになるころ
ぼくらを恨む者も 弔う者もいない地球に
人類消滅を祝う風が吹いているだけかもしれない

たっぷりと放射性物質と化学物資を含んだ風が

だから かわろうよ
いますぐ かえようよ
かみさまに なるまえに
にんげんで いるうちに

        Copyright by Ryo Michico


▲ 二十歳のへ言祝ぎ  碧斐さんに捧げる   2014/7/28

Tue, 29 Jul 2014 22:02:41

その髪の美しく流れおちることにも
その立ち姿のりんとしたことにも
少女は気づかないまま 時の舟に乗り
いつしか海原へと漕ぎだしている

あお は碧空の碧
どこまでも澄みわたる青い空
ひ は斐伊川の斐
あやなしながら流れる赤き川

その昔 八つの頭と八つの尾を持つ暴れ龍に
八鹽折の酒を飲ませて なだめた神がいた
その神自身が 荒ぶる神
乱暴狼藉ゆえに 天から追放された痴れ者だった
神は 一人の乙女を救うため
乙女を櫛にして わが髪に挿し戦った

ああ 暴れる龍に打ち勝ったのは
荒ぶる神だったのか
それとも その髪に挿された 
櫛である乙女だったのか

乙女が 荒ぶる神を手なづけたのではない
乙女のなかに眠る荒ぶる魂が
荒ぶる神の心に共鳴し
もつれた髪を梳るように
整然とした力に変換して
驚くべき知恵と力とを湧きいでさせたのだ

だから 乙女よ
もっと 暴れるがいい
大声で 叫ぶがいい
好きなだけ 解き放つがいい
おのれの魂を

あお は碧海の碧
どこまでも深く青い海
ひ は緋色の斐
天空に耀く太陽の色

父と母の願いを込めてつけられた 
その名に守られているから
荒れた海も 凪いだ海も 
いつでも あなたを祝福している
あの水平線の果てまでも

大海原に漕ぎだした乙女に 祝福あれ!

        Copyright by Ryo Michico


○ 大空にバンザイ!

Mon, 20 May 2013 15:30:04

なにもいらない なんにもいらない
どこまでも澄みわたる 大空を見あげれば
大きく手を挙げて バンザイをしたくなる
そんなわたしが いるだけでしあわせ

なにもいらない なんにもいらない
青空にふいに出た 虹を見てうれしくて 
その空を指させば きれい!って声あげる
そんなあなたが いるだけでしあわせ



環水平アークの出た日に寄せる詩。
Tomonori Sekineさんの言葉に、触発されて書きました。

        Copyright by Ryo Michico


▲ ナウマン博士の歌

Tue, 22 Jan 2013 14:22:44

緑なす山々も大地も
すべては大海原に呑みこまれた
太古の奇しき生き物たちは
深き海の底で安らかに眠る
やがて大いなる力で押し上げられ
再び 輝ける日の光のなかへ
そして人類がやってきた
誰が知る この詩の結末を?
誰が知る この詩の結末を?


糸魚川ジオパーク 叙事的音楽劇「大地の祈り ナウマン博士の夢」より
ナウマン博士の言葉を寮美千子が意訳

        Copyright by Ryo Michico


▲ 翡翠麗し

Tue, 22 Jan 2013 14:19:15

微かな風に  震え怯えて
白露の玉   零すぬえ草
大和人らが  統べる地なれど
祈りの心   大地に満ちて
我らは死なず 永久に滅びず

野にある草の 芽生えるごとく
緑は萌える  永久に常磐に
祈りは満ちる この国原に
ああ永遠に  時の果てまで
翡翠の玉に  緑麗し

微かな風に  震え怯えて
白露の玉   零す人草
大和人らが  統べる地なれど
祈りの心   大地に満ちて
我らは現在も ここに息づく

野にある草の 芽生えるごとく
緑は萌える  永久に常磐に
祈りは満ちる この国原に
ああ永遠に  時の果てまで
翡翠の玉に  緑麗し

翡翠の玉に  命麗し



※ 零す(こぼす)
  統べる(すべる)
  永久に(とわに)
  常磐に(ときわに)
  国原(くにはら)
  永遠(とこしえ)
  翡翠(ひすい)
  現在(いま)

糸魚川ジオパーク 叙事的音楽劇「大地の祈り ナウマン博士の夢」より

        Copyright by Ryo Michico


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