水草生う水の深きを悲しまず | 四方田犬彦 | |
ただひたすらに昇りゆく泡 | 寮美千子 | |
碧い空街角ノイズ耳塞ぐ | 高橋阿里紗 | |
光に溶けるバーガーの紙 | 小川美彩 | |
私から差しだす右手つなぐ恋 | 竹野陽子 | |
フランス映画は理解できない | 奥野美和 | |
色彩を抱えたこども駈けだして | 鈴木一業 |
1. | 打ち捨てられた星座を回す | 西浦多樹 | |
2. | 億万の蝶海峡を渡る | 寮美千子 | |
3. | 鏡に映る未来の幻 | 東條慎生 | |
4. | 限りない夢空へと放つ | 東條慎生 | |
5. | 踵を返し放った言葉 | 東條慎生 | |
6. | キリコの街に閉じ込められた | 杉山千絵 | |
7. | 空(くう)彷徨える紅い風船 | 小橋美加 | |
8. | 仮病の午後の退屈しのぎ | 鈴木一業 | |
9. | 転んだぐらいで泣くな息子よ | 松永洋介 | |
10. | 坂の途中に林檎ポロポロ | 鈴木一業 | |
11. | 坂道の果て汽船横切る | 寮美千子 | |
12. | ざわめくカフェのボサノバの風 | 鈴木一業 | |
13. | 食卓の上にペッパーレッド | 小川美彩 | |
14. | 死んだ木馬が踊る明け方 | 西浦多樹 | |
15. | 畳のほこりが零れる季節 | 仲田純 | |
16. | 天使に逢えなく欠伸する | 仲田純 | |
17. | 遠くで吠ゆる犬の声聞く | 横田裕子 | |
18. | 溶けだしながら季節を廻す | 杉山千絵 | |
19. | ネイルカラーの色重ねゆく | 横田裕子 | |
20. | 博物館の中のベーゴマ | 松永洋介 | |
21. | 蜂蜜色に輝ける月 | 横田裕子 | |
22. | 日々の挾間を行き交い遊ぶ | 杉山千絵 | |
23. | 広い犬小屋狭い大空 | 小川美彩 | |
24. | 星は白抜き縞は紅白 | 松永洋介 | |
25. | モグラの穴に青を捨て行く | 仲田純 | |
26. | 大和撫子顔は山姥 | 寮美千子 | |
27. | 輪郭を思い出した砂漠 | 西浦多樹 | |
28. | わたがし探すきつねのお面 | 小橋美加 | |
29. | 笑顔の花が呼んだ薫風 | 杉本茅 | |
30. | 幸せ運ぶは羽根がなくても | 杉本茅 | |
31. | ステップたたとん誰の足にも | 杉本茅 |
水草生う水の深きを悲しまず | 四方田犬彦 | |
ただひたすらに昇りゆく泡 | 寮美千子 | |
碧い空街角ノイズ耳塞ぐ | 高橋阿里紗 | |
光に溶けるバーガーの紙 | 小川美彩 | |
私から差しだす右手つなぐ恋 | 竹野陽子 | |
フランス映画は理解できない | 奥野美和 | |
色彩を抱えたこども駈けだして | 鈴木一業 | |
億万の蝶海峡を渡る | 寮美千子 |
参加者がそれぞれ3句を選んだ結果の集計です。
選句の際には、作者名は伏せられていました。
▼ 2. 億万の蝶海峡を渡る 寮美千子
(選:西浦、杉山、松永)
西浦:なんて美しい……色という色が背中の向こうから気配を消して押し寄せる。それらは頬をかすめると、瞬時に蝶という形を纏い、蒼の橋を渡ってゆく。広大な空間を吹き抜ける風にも似た、速度と清涼感。とても好きです。
杉山:まるで無関係と思ったことがきっかけで、否応無しに始まってしまう。始まったら止まらない。無いかもしれない終わりに向かい続ける。危うくて、切実で、少しぶきみな気がした。
松永:第三句から街の風景が続いていたところへ、前の句の「色彩」に着いて、しかし色彩と呼ぶにはあまりに美しい、夢のような大自然のイメージが一気に展開している。写真では撮れそうにない。
▼ 1. 打ち捨てられた星座を回す 西浦多樹
(選:杉山、東條)
杉山:繰り返す朝、繰り返す夜、打ち寄せ続ける時間から放り出されて、朽ちる事も、忘れる事もできず、すぐ傍に懐かしい気配だけを感じながら存在し続ける。そんな状態から輪の中に戻って、安心した。
東條:天球儀かはたまたそらを回すのか。そんな曖昧な雰囲気。
▼ 3. 鏡に映る未来の幻 東條慎生
(選:高橋、小橋)
高橋:未来が有る子供の表現が希望的で好きです。
小橋:まだ、先のわからない未来が見えた気がして駆け出したのかなと思ったので。
▼ 5. 踵を返し放った言葉 東條慎生
(選:高橋、杉山)
高橋:反抗期か?!みたいな可愛らしさがあって好きです。
杉山:その言葉を受け止めた時には、もう、放った者は去ってしまっている。色彩をなくして、言葉だけが残って、途方に暮れる。
▼ 6. キリコの街に閉じ込められた 杉山千絵
(選:西浦、東條)
西浦:これを選ぶ理由は簡単。私も前の句から“キリコの街”が真っ先に浮かんだからです。オブジェと化したような生命感のない街。引きのばされた影。不安が染み込んだ奇妙な静寂。その中を子どもが無邪気に色を抱えて駈けてゆく。「閉じ込められた」のは、街の方かも?
東條:デ・キリコのあれかな。タイトルなんだっけ。
▼ 8. 仮病の午後の退屈しのぎ 鈴木一業
(選:小川、小橋)
小川:
小橋:映画の世界から、そろそろ現実に戻ってみたくなったので。
▼11. 坂道の果て汽船横切る 寮美千子
(選:西浦、松永)
西浦:なんだか白昼夢を見ているような感じがする。小さな物語が透けて見えるような気もします。たとえばこんな……その世界には“色運び屋さん”がいて、その汽船が見える人にだけ見つけられる港から港へ、物や感情や出来事などから採取した色が運ばれてゆくのです……
松永:駈けだしたのは坂道で、視点を移せばパノラマ・ビュー。降りそそぐ陽光の開放感にあふれている。
▼14. 死んだ木馬が踊る明け方 西浦多樹
(選:高橋、東條)
高橋:子供=遊園地。な発想が素直。でもひねくれてますね(笑)あんまり相応しくないかな? と思ったんですが、個人的に大好きな雰囲気なので……。
東條:回転木馬が浮かびました。無人の遊園地でひとつ蠢くメリーゴーランド。
▼20. 博物館の中のベーゴマ 松永洋介
(選:鈴木、小川)
鈴木:こどもの頃への回帰。僕は「ベーゴマ」で遊んだ。そんな頃を思い出す。すこし切ない。
小川:
▼30. 幸せ運ぶは羽根がなくても 杉本茅
(選:奥野、小橋)
奥野:なくても……自分の足で幸せを見つけます!
小橋:羽根がなくても子供は天使なんだよ、って言ってるのかな? 子供が駆け出す先には、幸せが転がっている気がするので。
▼31. ステップたたとん誰の足にも 杉本茅
(選:奥野、小川)
奥野:リズムが軽快でよい。
小川:
▼ 7. 空(くう)彷徨える紅い風船 小橋美加
鈴木:「紅い」と「色彩」の連想。一瞬が永遠につながるような感覚。「こども」はもしかしたら「風船」なのだろうか。イメージが膨らむ。
▼21. 蜂蜜色に輝ける月 横田裕子
奥野:蜂蜜色の月! つやつやしていておいしそう。子どもたちが、この月をじいっとみつめている。その瞳の中にも蜂蜜色の月。なんだか、希望に溢れているなあ。すてき!
▼28. わたがし探すきつねのお面 小橋美加
松永:情緒のある、しかし“映画の一場面のような”というのとは違う(観音開きを回避した)、子どもの風景。「わたがし」は「わたしが」に見えてしまうので「綿菓子さがす」としたほうがいいように思いますがどうでしょうか。
▼29. 笑顔の花が呼んだ薫風 杉本茅
鈴木:こどもの無邪気なイメージ。「抱えた」「色彩」は、「笑顔の花」だったのか。素直で気持ちいい。