いつからここにいたのか、わかりません。
石けりあそびにあきたとき、きがつけば、ボクはどこにいるのか、わかりません。
石けりあそびにむちゅうになって、しらないばしょに、きてしまったようです。
空がオレンジ色になっていました。そろそろ、かえるじかんです。
まわりにはだれも、いないようです。まわりはかべばっかりで、せまい道です。
せまい道はむこうにつづいていて、むこうからは、人のいる音がしています。
まえを見ながら、道をあるいていくと、だんだん人のこえが、大きくなってきました。
しょうてんがいが、そこにありました。
たくさんの人がいて、たくさんのものがあって、たくさんのこえがきこえます。
でも、そこにはいつもとちがうものが、ありました。
いいえ、あったのではなく、なかったのです。
そのしょうてんがいをあるく人たちには、みんな、あたまがないのです。
くびからしたしかない人たちが、たくさん、あるいてます。
ここはおばけのくにです。
そうおもって、いちもくさんに、かけだしました。
しょうてんがいから、くびなし人からにげようと、はしりだしました。
そのとき、まえからあるいてきていた人に、ぶつかってしまいました。
「おやおや、あぶないじゃないか」
せびろをきたおとこの人はいいました。
「おや、きみはなんであたまがついているのかな?」
ボクはおばけにつかまりました。
たぶん、ひあぶりとか、はりのやまをあるかされたりとか、させられます
まちがいありません。おかあさんがいってました。
でも、そのおじさんは、やさしいこえでいいました。
「よし、おじさんがとってあげよう。このままだと、いろいろまずいからね」
しんせつなおじさんは、ボクのあたまをポンっとはずしてくれました。
すこしのあいだ、くらいなにもないせかいが、ひろがっていたような気がします。
おじさんはボクのめのまえにいて、ごめんね、とあやまっていました。
「そうだね、きみはまだ、かおなしでなにもできないんだった、すこしづつやっていかないといけないね」
おじさんはまず、カシャンとボクの目をとりはずしました。
くらいせかいです。なにもみえないせかいです。
「目がないからみえないとおもっちゃいけないよ。目はいらないんだとかんがえてごらん」
「耳がないからきこえないとおもっちゃいけないよ。耳はいらないんだとかんがえてごらん」
「鼻がないからにおいがわからないとおもっちゃいけないよ。鼻はいらないんだとかんがえてごらん」
「口がないからはなせないとおもっちゃいけないよ。口はいらないんだとかんがえてごらん」
おじさんはいいます。
おじさんはかおがないのに、だいじょうぶです。だから、ボクもだいじょうぶです。
ちかくにいたこどもたちが、目のまえにあつまっています。
目はないのに、みえています。せいこうです。
「やあ、わたしのかおがみえているようだね。じゃあ、つぎは耳をとってあげよう」
カチンとおとがして、ボクの耳がはずれました。それでもみんなのこえがきこえます。
ボクはやればできる子です。
もう、だいじょうぶだとおもいます。
「じゃあ、つぎはあたまをはずすばんだ。あたまがなくてもかんがえられるとかんがえてごらん」
おじさんはいいました。こどもたちがボクを見ています。
でも、ボクはおもいました。
あたまでかんがえているんだから、あたまがなくなったらなにもかんがえられないんじゃないかな。
おじさんはそれにこたえていいました。
「きにしなくていいんだよ。ここでは、じてんしゃはタイヤがなくても走るし、がめんはないのにテレビは見られるし、あたまはなくてもかんがえられるんだ」
ボクはやればできる子です。
そうおもったときには、もう、あたまははずれていました。
「おめでとう、これでもう、だいじょうぶだ。さあ、みんなあたらしいなかまのきみをまってるよ」
あたまは、おじさんがどこかへもっていってしまいました。
もう、あたまはいらないので、ちょうどよかったです。
あたまがないみんなと、あたまがないボクは、いっしょにあそんでいます。
そらはずーっとオレンジ色で、いつまであそんでいても、おこられません。
ボクにはもう、家はいらないのです。
ここでは家がなくてもいきていけるのです。
おとなや、としうえの人たちのなかには、足や手がない人もいます。
それに、ここにはあのおじさんよりもとしうえの人がいません。
あのおじさんは町長さんなのかもしれません。
そして、いつのまにか、あたらしい人がふえて、むかしの人がいなくなるのです。
あたま、足、手、そして、からだもいらなくなったとき、ここからちがうところへいけるのでしょうか。
ボクは、そこにいってみたいとおもいます。