物語の作法・課題2 東條慎生(2)

かんがえてごらん

 いつからここにいたのか、わかりません。
 石けりあそびにあきたとき、きがつけば、ボクはどこにいるのか、わかりません。
 石けりあそびにむちゅうになって、しらないばしょに、きてしまったようです。
 空がオレンジ色になっていました。そろそろ、かえるじかんです。
 まわりにはだれも、いないようです。まわりはかべばっかりで、せまい道です。
 せまい道はむこうにつづいていて、むこうからは、人のいる音がしています。
 まえを見ながら、道をあるいていくと、だんだん人のこえが、大きくなってきました。

 しょうてんがいが、そこにありました。
 たくさんの人がいて、たくさんのものがあって、たくさんのこえがきこえます。
 でも、そこにはいつもとちがうものが、ありました。
 いいえ、あったのではなく、なかったのです。
 そのしょうてんがいをあるく人たちには、みんな、あたまがないのです。
 くびからしたしかない人たちが、たくさん、あるいてます。

 ここはおばけのくにです。
 そうおもって、いちもくさんに、かけだしました。
 しょうてんがいから、くびなし人からにげようと、はしりだしました。
 そのとき、まえからあるいてきていた人に、ぶつかってしまいました。
 「おやおや、あぶないじゃないか」
 せびろをきたおとこの人はいいました。
 「おや、きみはなんであたまがついているのかな?」

 ボクはおばけにつかまりました。
 たぶん、ひあぶりとか、はりのやまをあるかされたりとか、させられます
 まちがいありません。おかあさんがいってました。
 でも、そのおじさんは、やさしいこえでいいました。
 「よし、おじさんがとってあげよう。このままだと、いろいろまずいからね」
 しんせつなおじさんは、ボクのあたまをポンっとはずしてくれました。

 すこしのあいだ、くらいなにもないせかいが、ひろがっていたような気がします。
 おじさんはボクのめのまえにいて、ごめんね、とあやまっていました。
 「そうだね、きみはまだ、かおなしでなにもできないんだった、すこしづつやっていかないといけないね」
 おじさんはまず、カシャンとボクの目をとりはずしました。
 くらいせかいです。なにもみえないせかいです。

 「目がないからみえないとおもっちゃいけないよ。目はいらないんだとかんがえてごらん」
 「耳がないからきこえないとおもっちゃいけないよ。耳はいらないんだとかんがえてごらん」
 「鼻がないからにおいがわからないとおもっちゃいけないよ。鼻はいらないんだとかんがえてごらん」
 「口がないからはなせないとおもっちゃいけないよ。口はいらないんだとかんがえてごらん」
 おじさんはいいます。
 おじさんはかおがないのに、だいじょうぶです。だから、ボクもだいじょうぶです。

 ちかくにいたこどもたちが、目のまえにあつまっています。
 目はないのに、みえています。せいこうです。
 「やあ、わたしのかおがみえているようだね。じゃあ、つぎは耳をとってあげよう」
 カチンとおとがして、ボクの耳がはずれました。それでもみんなのこえがきこえます。
 ボクはやればできる子です。
 もう、だいじょうぶだとおもいます。

 「じゃあ、つぎはあたまをはずすばんだ。あたまがなくてもかんがえられるとかんがえてごらん」
 おじさんはいいました。こどもたちがボクを見ています。
 でも、ボクはおもいました。
 あたまでかんがえているんだから、あたまがなくなったらなにもかんがえられないんじゃないかな。
 おじさんはそれにこたえていいました。
 「きにしなくていいんだよ。ここでは、じてんしゃはタイヤがなくても走るし、がめんはないのにテレビは見られるし、あたまはなくてもかんがえられるんだ」

 ボクはやればできる子です。
 そうおもったときには、もう、あたまははずれていました。
 「おめでとう、これでもう、だいじょうぶだ。さあ、みんなあたらしいなかまのきみをまってるよ」
 あたまは、おじさんがどこかへもっていってしまいました。
 もう、あたまはいらないので、ちょうどよかったです。

 あたまがないみんなと、あたまがないボクは、いっしょにあそんでいます。
 そらはずーっとオレンジ色で、いつまであそんでいても、おこられません。
 ボクにはもう、家はいらないのです。
 ここでは家がなくてもいきていけるのです。

 おとなや、としうえの人たちのなかには、足や手がない人もいます。
 それに、ここにはあのおじさんよりもとしうえの人がいません。
 あのおじさんは町長さんなのかもしれません。
 そして、いつのまにか、あたらしい人がふえて、むかしの人がいなくなるのです。
 あたま、足、手、そして、からだもいらなくなったとき、ここからちがうところへいけるのでしょうか。

 ボクは、そこにいってみたいとおもいます。