駅前のロータリー沿いのくるっと曲がった歩道の、くるっとしたところ。
おじさんは、いつもそこにいた。
冬でも裸足で、やさしく窪んだ目の色は、すこし濁っていた。
おじさんは、たいてい歩道の方を向いて座っている。
忙しく行き交う人たちを、見ているようで、見ていないようで。
その表情は、どんな感情も表れていないような、どんな感情もごちゃ混ぜになったようなものだった。
おじさんは、あまり眠らない。
夜でも、静かに座っていることが多い。
たまに眠くなると、アンモナイトみたいに丸くなって眠る。
まるまってまるまって、ぐるぐるぐるぐるまわって、
とても遠くを夢に見る。
その日の朝、おじさんはいつもの場所で、けれど、いつもと違って、
歩道に背を向けて、立っていた。
ロータリーの真ん中に植えられている木が、剪定されているのを見ているようだった。
夜になっても、おじさんは同じ姿で立ち続けていた。
木は、前の年に伸びた枝をすっかり切り落とされて、丸くこんもりと整えられていた。
切り落とされた枝は、いつものおじさんの場所に積まれていた。
おじさんは、切り落とされた若い枝を持って、ゆっくりと、
まるで、そこしか歩けないほど細い道を渡っているように、ゆらゆらと、歩いていった。
そうして、木の前まで来ると、手に持った枝を木に差しはじめた。
頭をそっとなでて慰める時のような、やさしくて、やわらかくて、胸が苦しくなるような仕草で。
おじさんは、そうやって、切り落とされた枝を1本ずつ運んでいった。
その様子は、まるで踊っているようで、
踊りながら、泣いているようにも、笑っているようにも見えるおじさんは、とてもきれいで、
それは、もう、まともに見ていられないくらいだった。
次の朝、おじさんは、いつものように歩道を向いて座っていた。
目を閉じて、眠るように笑っていた。
その背中の向こうで、あの木が花を咲かせていた。
まだ冬の匂いの残る、きりきりとした朝だった。