町の外れには、ねこが住んでいました。
ねこはわがままでくいしんぼう。みんなからきらわれていました。
あるとき、おなかがすいたねこは、いつものようにかりにでかけました。
あたたかい日差しにさそわれて野原へいくと、おいしそうなひよこたちがあそんでいます。これはしめたと、ねこは、そのうちの一羽をつかまえ、いそいで家にもどりました。
ねこは、ひよこをすぐ食べようとしましたが、
「そうだ、もっと大きくそだってからのほうがおいしいかもしれない」
それは、とてもよい考えのように思えました。
ねこはさっそく、ひよこにいろいろ食べさせて太らせようとしました。
ひよこはごはんのたびに、よろこんでぺろりとたいらげます。
そしておれいにうたをうたいます
ぴよぴよぴぴぴ ぴるるるる
とてもかわいい声で、それをきくと、ふわふわと、まるでたんぽぽのわたげになったような気分になるのです。
ねこは、いつのまにか、そのうたをきくのが楽しみになっていました。
「おかあさん、ごはんごはん」
ひよこは、自分にご飯をくれるねこを、おかあさんだと思っていました。ひよこはおかあさんが大好きでした。
おかあさん、とよばれるたびに、ねこはなんだかてれくさくてうれしくて、ひよこにどんどんごはんをあげました。
そしてひよこはまたうたいます。
ぴよぴよぴぴぴ ちるるるる
ひよこは、どんどん太っていきました。
「そろそろ食べごろかな」
とねこは思いました。しかし、ひよこを食べてしまうと、もう、うたがきけなくなるのです。
「まだまだ、だめだな。もっと太らせてからのほうが、きっとおいしい」
ねこは、自分にいいきかせました。
そしてきがつくと、ねこの家にあった食べものはもうほとんどなくなっていました。
こんどこそ、ねこはひよこを食べようとしました。
「おかさん、どうしたの」
しかし、ねこは、ふしぎそうにこちらを見つめるひよこを、食べることなどできませんでした。ねこもひよこをとてもすきになっていたのです。
ねこはこまりました。ひよこと自分の、ふたりぶんの食べ物がどうしてもひつようなのです。でなければ、いつかきっとがまんできずに自分はひよこを食べてしまう。
そうおもったねこはたべものをさがし外へ出かけました。
ねこはもりにむかいました。ひさしぶりに、鳥をつかまえて食べようと思ったのです。しかし、おなかがへってうまくいきません。
「ねこがきた、ねこがきた。きらわれ者のねこが来た」
鳥たちはおおあわてで逃げていきました。
ねこは、川で魚をとろうと思いました。しかし、やはりおなかがへってうまくいきません。
「ねこだねこだ、みんな逃げろ」
魚はあっというまに、川のおくふかくにかくれてしまいました。
しかたがないので、ねこは町に下りていきました。
「だれか、食べものを下さい」
ねこは、生まれてはじめて、あたまを下げておねがいしました。
しかし、だれもねこのたのみをきいてくれません。それどころか、
「きらわれ者のねこめ、いいきみだ」
「わたしの子どもを食べたばつだ。さまあみろ」
「ねこなんか、いなくなれ」
と、町のひとたちはねこに石をなげます。
それでもねこは、いっしょうけんめいたのみました。なんどもなんども頭を下げて。
すると、一羽のにわとりがこういいました。
「その子はきっとわたしの子どもだよ。野原でねこにさらわれたんだ」
にわとりは、ねこのほんとうのおかあさんでした。
「きっと、ふとらせてたべるきだったんだろう」
「まだぶじなんだ。まにあってよかった」
「その子をたすけにいこう」
「ねこは出ていけ。ねこをひよこに近づけるな」
「そうだ、でていけ。にどとこの町にくるんじゃない」
そうして、ねこは町から追い出されてしまいました。もう、自分の家にもかえれません。
しかし、ねこはほっとしていました。これで自分がひよこを食べてしまう心配はありません。ひよこはきっと、町のひとたちがめんどうを見てくれるでしょう。
だけど、もうにどと、ねこは自分を「おかあさん」とよんでくれたひよこに会えません。もうにどと、あの大好きなひよこのうたをきけません。
そう思うと、ねこはとても悲しくなって、生まれてはじめての涙をながしました。
そして、ひとりでしずかに泣きながら、そっと町をはなれました。
ねこが出ていったと知ったひよこは、大声で泣き出しました。
ひよこをむかえにきた町のひとたちと、ひよこの本当のおかあさんは、とてもおどろきました。
ひよこはけっしてねこの家をはなれようとはしませんでした。そして、うたをうたいはじめました。
ぴよぴよぴぴぴ ぴるるるる
ぴよぴよぴぴぴ ちるるるる
おかあさんが大好きだったあのうたです。
ひよこはうたいつづけました。そうすれば、おかあさんがかえってくると思ったのです。
そのうたは、町の中にまでひびきわたりました。
町のひとたちは、急いでねこをさがしましたが、もうどこにもねこの姿はありませんでした。
町外れの家には、大きな大きなにわとりが一羽住んでいます。
そのにわとりは、ふしぎなことに、コケコッコーとはなきません。
ぴよぴよぴぴぴ、とまるでひよこのようにうたうのです。
おかあさんがもどってきたときに大好きだったうたをきかせようと、にわとりは今でも、ひよこだったころと同じように、
ぴよぴよぴぴぴ ぴるるるる
ぴよぴよぴぴぴ ちるるるる
とうたっているのでした。