ある日、山の中をあるいていたら でいだらぼっちにあった。
でいだらぼっちは いま のぼっている 山と 同じくらいに大きくて としおいていた。
「わしもまた 大きくなったもんじゃの。この山も せまくなってきたなぁ。」でいだらぼっちは いった。
でいだらぼっちは ほっておくと、どんどん どんどん どんどん どんどん、大きくなりつづけるのだそうだ。
はじめは ぼくと 同じくらいの 大きさだったって いう。
「まえに 大きくなっちまったときにゃ」でいだらぼっちはいった。
「せかいいっしゅうを したもんじゃった」
「どこにいったの?」と ぼくはきいた。
大きくなりすぎた でいだらぼっちは もっと広くて すみやすいところを さがすため よっこいしょ と 日本をまたいで じゃぶじゃぶじゃぶ と 海をわたって 中国にいきついた。
ねそべって ばんりのちょうじょうと せいくらべもしたし ちどりたちとも なかよくなった。
「でも、あそこは なんとも かんそうしていてな わしのこしのぐあいが またわるくなりおった。」
でいだらぼっちは ようつうもちなのだ。
「それに あの夜の さむさといったら ほねまで切られるようだったんでな。」
そこで でいだらぼっちは じぶんを少しちぎって そこにのこして また たびにでた。
「あのちびが わしくらいに なるころには きっと 中国の きこうにも なれていることじゃろう。」
でいだらぼっちは 少し小さくなった。
でいだらぼっちは みなみにすすんだ。
そこは ベトナムというくにで 人びとは おおらかで じゅんすいだった。
でいだらぼっちは そこが 気に入ったけれど でいだらぼっちを 見たことのない人びとは あまりの大きさに こわがって にげまわった。
でいだらぼっちは またじぶんを いくつもちぎった。
ちびたちは「ざしきわらし」になって みんなと とてもなかよくなった。
でいだらぼっちは みんなを こわがらせないように そっと 海に入っていった。
「あのちびたちが わしくらいに なるころには きっと ベトナムの人たちも わしを こわがらなくなっている ことじゃろう。」
でいだらぼっちは また少し 小さくなった。
じゃぶじゃぶじゃぶ
ついたのは オーストラリアという くにだった。
ここには たくさんのしぜんが のこっていて すむのに とてもいいように思えた。
でも ここにすんでいる人たちは でいだらぼっちを おきゃくとして ていねいにもてなして こういった。
「ここには すでに わたしたちの 神さまが すんでいます。あなたのすることは なにもありません。どうぞ ほかをさがしてください。」
でいだらぼっちは またじぶんをちぎって かれらに わたした。
「あのちびが わしくらいに なるころには きっと あそこの神さまの ゆうしゅうな でしになっている ことじゃろう。」
でいだらぼっちは また少し 小さくなった。
じゃぶじゃぶじゃぶ と 海をこえて つぎについたのは アラビアだった。
ここにはすでに きらびやかで すばらしいまほうが あふれていた。
じゅうたんが空をとび おんがくで へびがおどっていた。
でいだらぼっちが 入りこむよちは なかった。
でいだらぼっちは またじぶんをちぎって まほうつかいに でしいりさせた。
「あのちびたちが わしくらいになるころには きっと せかいじゅうが あのすばらしいまほうで あふれていることじゃろう。」
でいだらぼっちは また少し 小さくなった。
それから・・・・
それから でいだらぼっちは ドイツで おしろのうえにすわり フランスで エッフェルとうにのぼり イギリスで バッキンガムきゅうでんをまたいで ビッグベンのかねをきいた。
でも、ぐんたいが でいだらぼっちを おいだしてしまった。
そして そのどこへでも でいだらぼっちは ちいさなでいだらぼっちを のこしてきた。
「イギリスも いいところじゃったが どうも あそこのかもめは きょうぼうでいかんな。」と でいだらぼっちは のんびりといった。
ぐんたいに おわれるので でいだらぼっちの ようつうは さらにわるくなっていた。
でいだらぼっちは アフリカにわたることにした。
きりんとも ぞうとも らいおんとも なかよくなった。 でいだらぼっちのこしは だんだんよくなっていった。
「アフリカにすもうとも思ったんじゃが」でいだらぼっちは なつかしそうに 目をほそめた。
「あそこには きせつが ふたつしかないんじゃよ。それが わびしくてね」
じゃぶじゃぶじゃぶ と でいだらぼっちは また 海を わたった。
「アメリカで じゆうのめがみに のぼったときは 日本が見えるかと 思ったが だめじゃったなぁ。」
でいだらぼっちは だんだん 日本が こいしく なってきた。
そうして、じゃぶじゃぶじゃぶ と 海をこえて 日本に かえってきたときには でいだらぼっちは もとの大きさに もどっていた。
「それで そのあとは ずっとここにいるの?」と ぼくはきいた。
「そうじゃよ。やっぱり こきょうが いちばんじゃ。」でいだらぼっちはいった。
「なんだか きみを見ていたら ちびたちのことを 思い出したよ。
あのちびたちも そろそろ おおきくなっている ころじゃろう。
ちと、ようすを見に いってみようかの。」
でいだらぼっちは そういうと 立ち上がって また ぼくごと 日本をまたぎこして じゃぶじゃぶじゃぶ と いってしまった。
とおくで でいだらぼっちが 手をふっているのが 見えた。
ちょっとだけ せなかが まがっている ように見えた。
ぼくは ひとりで いつまでも いつまでも でいだらぼっちに 手をふりかえしていた。