物語の作法・課題2 宮田和美(1)

てのなかのゆうひ

「のんちゃん のんちゃん ぱぱだけにおしえて だいじょうぶ だれにもいわない のんちゃんほんとは なにがほしいの?」
あしたは6月6日 のんちゃん5さいのたんじょうび
「いやだよ おしえないもん ひんとはね けーきやさんせっとじゃないよ とびはねるわんちゃんでもないよ」
ぱぱは くびをかしげたままです のんちゃんは そんなぱぱをおいて おふとんのなかに はいりました
「おやすみなさい むにゃむにゃむにゃ……」

そのばん のんちゃんは ゆめをみました
ゆめのなかで のんちゃんは あたたかいおれんじいろのなかを あるいていました よこをみると うすいぴんくのふわふわに きんのれーすが ふちどりされています
「うわあ きれい」
のんちゃんはいいました
いったいこのみちは どこにつづいているのでしょう せかいでいちばん しあわせなところに つづいているのかもしれません
「ままに だっこされてるみたい」
のんちゃんは おもいました
そうしてどんどんあるいていくと だんだん だんだんまぶしくなって まっしろで なんにもみえなくなったころ……

めのまえの ふわふわぴんくが やさしくちぎれ おおきなゆうひが かおをだしました あたりはきんいろに そまります
のんちゃんは りょうてを いっぱいにひろげながら なぜだか なきたくなりました
「いいなあ いいな そうだ のんちゃんこれがいい おたんじょうびに ゆうひがほしい のんちゃんだけの きれいなゆうひ」

あさです
のんちゃんは おふとんから のそのそと おきました さあ ゆうひは どこにあるのかな?
まくらのしたには ありません おといれにもないし てーぶるのうえには めだまやきとみかんがあるけれど これもちょっと ちがいます
あきらめかけていた そのときです なんと のんちゃんの ちいさなおてての ちいさなちいさな つめのなかに あの おおきなおおきな ゆうひのおれんじが きゅうくつそうに いるではありませんか!
のんちゃんは びっくり!
「ままが おけしょうして くれたのかしら?」
のんちゃんは てを ぐうにして ようちえんに いきました

ようちえんで のんちゃんは すべりだいを すべっているときも おうたを うたっているときも ずっとゆうひが きになりました
でも うっかり てをひらいたら せんせいに しかられちゃいます
みんなが おままごとを しているあいだ のんちゃんは ひとりで おといれに いきました
おといれは うすぐらくて ぶきみです だれかが かげに とけているような きがしたので のんちゃんは さっと あたりを みまわしました
ごくんと つばを のみこんで のんちゃんは ぐうにしていたおててを ひらきました すると……

「あっ!!」
のんちゃんは めを まるくして おどろきました おれんじゆうひは いつのまにかおわり
まっくらくらの よるが はじまっていたのです おとうさんゆびから あかちゃんゆびまで ちっちゃなつめは みーんなまっくろ
ゆうひはどこ? おとしてきちゃったのかな? のんちゃんは かがみで めや はなのあなや おくばの つめたところまで みました
うわばきとくつしたを ぬいで あしのつめも みましたが どこにもありません のんちゃんは かなしくなって ついに なきだしてしまいました

でもね のんちゃん つめのなかを じーっと みてごらんなさい まっくらくらの つめのなかに ちいさなほしが きらきら きらきら またたいていますよ

おしまい