ホロニック・プラチナムズ+寮美千子コンサート
AFTER911』原稿全文

・2001年11月17日 ・渋谷/ツインズよしはし



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【写真 酒寄 進一】 和光大学:http://www.wako.ac.jp/xpress/200111ryo/FrameSet.htm
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NHKのアナウンサーはいった。
「これは映画ではありません。現実の映像です」
「これは映画ではありません。現実の映像です」


2001年9月11日、午前8時45分。 ニューヨーク・マンハッタン。
世界貿易センターの北側タワーにアメリカン航空11便が突っ込んだ。
もうもうとあがる黒煙に、一斉にテレビカメラが向けられた。

電波は世界を駈けめぐる。

赤道上空三万六千キロ。
青い地球を見下ろしながら、
暗い宇宙に音もなく浮かぶ 小さな人工の星たちは
燃えあがるマンハッタンのビルの映像を
世界中にまき散らした。
何が映っているか、頓着せず、
鏡のように、ただ反射した。

世界中のテレビがマンハッタンを映した。
「ニューヨークのビルに小型機が衝突した模様です」
「ニューヨークの世界貿易センタービルに、小型機が衝突した模様です」

小型機?
確かに、そう見えたかもしれない。
衝突したのは、ボーイング767。
全長50メートルの旅客機が小型機に見えるほど、そのビルは巨大だった。

まだ誰も知らなかった。
いま、何が起こったのか。
まだ誰も知らなかった。
これから、何が起こるのか。

世界中の目がテレビに釘付けになっているその時に、それは起こった。

青い空を、一機の飛行機が飛んできた。
飛行機は左の翼をわずかに下げ、
斜めに傾きながら、銀色に輝き、ビルに吸いこまれていった。
飛び散る炎と光。立ちのぼる黒煙。

午前9時03分 南側タワーにユナイテッド航空175便が突っ込んだ。

映像は繰り返し流される。

まるで、幻を見ているようだった。
ビルが、少しも固い物に見えない。
ホログラムの幻影に突っこんでいくように
飛行機はすうっとビルに吸いこまれていった。
まるで、そこから招かれているように。

夢のように 美しい夢のように
夢のように 忌まわしい夢のように
夢のように 荘厳な夢のように
夢のように おぞましい夢のように
夢のように 美しい夢のように

飛行機は衝突し、ビルに吸い込まれ、爆発し
飛行機は衝突し、ビルに吸い込まれ、爆発し
飛行機は衝突し、ビルに吸い込まれ、爆発する
繰り返し 繰り返し 繰り返し

アナウンサーは叫んだ。 「これは映画ではありません。現実の映像です」
「これは映画ではありません。現実の映像です」

9時45分。
ワシントンの国防総省にアメリカン航空77便が突っ込む。
まさか、あの鉄壁のペンタゴンが。
マンハッタン島は封鎖。証券取引所は閉鎖。

そして、運命の10時。
おびただしい煙を上げながら、世界貿易センター南側タワーが崩落した。
立ち昇る煙のなか、摩天楼の尖端はしずしずと沈んでいった。

崩れてゆく アメリカが
崩れてゆく 砂の城のように
崩れてゆく 二〇世紀が
崩れてゆく 音を立てて
何千という命を飲みこみながら
崩れていく 世界が 
そこにあると思っていた世界の幻影が
足許から 崩れてゆく

粉塵が襲ってきた。
魔物のようにビルの谷間を駈けてきて、逃げまどう人々を飲みこむ。
一瞬の闇。
世界は夜のように暗くなり、闇が行き過ぎたとき、すべては埃にまみれていた。
火山灰に埋められた古代の都市のように。

そして はっきりと見えてきた。
世界のほんとうの姿が。
わたしたちは知った。
夢が 夢であったことを。
それが形あり、触れることのできる夢でも
やはり 夢でしかなかったことを。

午前10時10分 ユナイテッド航空93便がピッツバーグ郊外に墜落
午前10時30分 世界貿易センター、北側タワーが崩落
午後12時40分 ブッシュ大統領がテロ行為への報復を宣言

▼ その夜、ブッシュ大統領はいった。

邪悪で卑劣な攻撃により数千人の命が失われ、
アメリカは深い悲しみに覆われている。
国は混とんの状態と言える。今日、我々は悪の正体を見た。
しかし、テロリストは失敗した。
彼らはビルの土台を壊すことはできたが、
アメリカの土台を崩すことはできなかったからだ。
アメリカが狙われたのは、我々が自由の主導者だからだ。
我々には緊急の反撃計画がある。米軍には力がある。
アメリカの経済は依然として強い。ビジネスはあす再開される。

▼ メールがまわってきた。

同時多発テロ事件の被害者の方々へ、深く哀悼の気持ちを捧げます。
いま、世界中で同時多発的に祈り、
愛と光を送ろう!という動きが起こっています。
さあ、祈りましょう。同じ日の同じ時間に。
祈りの力が、世界を覆うように。

メールがまわってきた。

いま、日本からできること。
それは、わたしたちの力で、アメリカの新聞に平和の全面広告を出すことです。
1500万円あれば、ニューヨークタイムスに全面広告を掲載できます。
一人一万円でたった1500人。すぐではありませんか!
募金はこちらへ。

メールがまわってきた。

11月11日午前11時11分「イマジン」を歌いましょう。
世界中の人がその時間に歌えば、
時差に従って「イマジン」の歌声は地球をぐるっと一周します。
愛の歌が、地球を包みます。

メールがまわってきた。
メールがまわってきた。
メールがまわってきた。
転送可能。転送をお願いします。

つながりましょう。いまこそ、手をつなぐ時です。
つながりましょう。いまこそ、心をつなぐ時です。
いまつながらなくて、いつつながるの?
さあ、みなさん、手をつないでください。
さあ、みなさん、抱きあってください。
愛しているといいあってください。
転送可能。転送可能。転送をお願いします。

▼ デザイン研究者、山口昌伴はいった。

2001年9月11日、
二一世紀型戦争の開戦を告げる第一矢、第二矢の演じたインスタレーションは、
確たる論理的整合性をもった、荘厳な美の現出だった。
これは原寸モデルによる破壊実験、
ただし実験計画では発想しえない仮定の検証だった。
理路整然とした崩落の光景は有終の美で結ばれた。
その美は建築の終焉を象徴する。
燃料満載機突入に耐える構造物――
それはもう人間の理性の結晶ではないからだ。

▼ フランスの都市学者、ポール・ヴィリリオはいった。

テロの影響で、クアランルプールでもっとも高層の二つの建造物は閉鎖され、
エンパイヤー・ステートビルも空室が増えています。
建築家であればだれでも、防空壕を建設することはできても
防空タワーを建築することはできないことは知っています。
摩天楼は戦略的な規模に達していて、これを防衛することはできないのです。

▼ 未来の歴史書はいう。

かつて、摩天楼というものがあった。
それは、地上から空に向けてそびえる巨大な塔。
二十一世紀初頭、摩天楼は、なぜか地上から姿を消した。
一体、何があったのだろう。

▼ 9月16日。
ブッシュ大統領はいった。

テロリズムに対する、我々十字軍の戦いは、長引くことでしょう。
アメリカ国民は、耐えなければなりません。

9月19日。
アメリカ国防総省は、対テロ軍事報復のために軍隊を派遣。
作戦名は「無限の正義」と名づけられた。
INFINITE JUSTICE
INFINITE には「無限」とともに「神」という意味もある。
どこまでも貫かれてゆく正義。
けれど、誰にとっての正義だろう?

その6日後、宗教的な単語はふさわしくないとして、
作戦名を「不屈の自由」に変更。
ENDUARING FREEDOM
ENDUARING には 「不屈の」とともに「不朽の」という意味もある。
永遠に錆びることのない自由。
けれど、誰のための自由だろう?

▼ 音楽家、坂本龍一はいった。

ぼくは思う。暴力は暴力の連鎖しか生まない。
本当の勇気とは報復しないことではないか。
暴力の連鎖を断ち切ることではないか。
人類の叡智と勇気を誰よりも示せるのは、
世界一の力を自ら動かすことのできるブッシュ大統領、あなたではないのか。

▼ 小泉首相はいった。

アメリカにおいて発生した同時多発テロ事件は、
アメリカのみならず民主主義社会に対する重大な挑戦であり、
強い憤りを覚えます。
我が国は、アメリカを強く支持し、
必要な援助と協力を惜しまない決意であります。

▼ 10月7日、アメリカはアフガニスタン空爆を開始。

ブッシュ大統領はいった。

今回の軍事作戦の名前は「不屈の自由」である。
われわれは自らの大切な自由を守るだけでなく、
テロの恐怖に脅かされることなく生活し、子供を育てる
地上のすべての人々の自由をも、防衛するものである。

アフガニスタンの抑圧された人々は、
アメリカとその同盟諸国の寛容さを知ることになるだろう。
軍事目標攻撃と同時に、われわれは食料、医薬品、生活用品を
アフガニスタンの飢えた男女、子供たちに投下する。
アメリカはアフガンの人々の友人であり、
イスラムの教義を実践する世界中の約10億の人々の友人である。


その友人は、アフガニスタンにミサイルと爆弾8000発を投下。
そのなかには恐ろしい威力を持った燃料気化爆弾も含まれている。
アメリカはもちろん、人道的支援のため、食料も投下した。
食料には「アメリカ国民からの贈り物」と英語で記されていた。
その文字は、砂漠をさまようアフガニスタンの人々には読めなかったが、
暖かい部屋でテレビを見ていた心やさしきアメリカ人には、はっきりと読めた。
「アメリカ国民からの贈り物」と。


爆弾と食料は、同じ黄色に塗られていた。

10月30日 
心やさしきアメリカはラジオでアフガニスタンの人々に呼びかけた。

アフガニスタンのみなさん、ご注意下さい。
我々が落としている黄色い四角の包みは食糧ですが、黄色い缶の方は爆弾です。
最近空爆された地域で、正体不明の黄色い物体に近づく時には注意して下さい。

心やさしき人々からの贈り物は、食料だけではなかったのだ。


アフガニスタン空爆開始直後、
砂漠のどことも知れない場所から、一本のビデオが届いた。
砂の上に座り、岩を背にしゃべる男。
オサマ・ビンラディンの映像は世界を駈けめぐった。
ビンラディンはいった。

全能の神によってアメリカは一撃を加えられ、
その最も大きな建物が破壊された。
北から南まで、東から西まで、アメリカは恐怖で隈無く覆われている。
アメリカが今、味わっているものは、
われわれが味わってきたのと同じものにすぎない。
イスラムの民は八十年以上も、
人間の尊厳を踏みにじられ、流血の屈辱を味わってきた。
神はアメリカを破壊したムスリムの兵士たちを祝福し、彼らを天国に招いた。
今もイラクでは罪のない子供たちが殺されている。
それなのに、それを糾弾する声は聞かれない。
イスラエルの戦車がパレスチナで破壊行為を続けている。
それなのに、だれもそれを直視しようとしない。
ところがどうだ。
剣がアメリカに振り下ろされると、偽善者たちは深い悲しみを表明する。
アメリカはテロと戦っていると、世界に嘘をついてきた。
アメリカはヒロシマで数十万人を殺したが、これは犯罪ではないという。
ところがどうだ。
ナイロビとダルエスサラームで十人のアメリカ人が殺害されたとき、
アメリカは激しく抗議し、アフガニスタンとスーダンを爆撃した。
信仰なき者の頭目であるアメリカと、その同盟国の背後には、
いつも偽善があった。
世界は今、信仰をもつ者と、そうでない者に分かれようとしている。
すべてのムスリムは、宗教を守るために立ち上がらなければならない。
ムハンマドの半島から悪を一掃するため、
信仰の風が吹き、変化の風が吹いている。
平和がパレスチナに訪れ、
信仰なき者のすべての軍がムハンマドの土地を去るまで、
アメリカは平和に暮らせないであろうことを、私は神に誓う。


イスラムの聖典「コーラン」はいう。

汝らの神は、唯一なる神。
そのほかに神は、絶対にない。
慈悲深く、慈愛あまねきアッラーの神よ。

よく聞け。
この世のいのちは、ただ束の間の遊びごと。
ただ束の間の楽しみ。
戯れ言にして、徒なる飾り。
いたずらに誇りあい、
かたみに財産の量と息子の数を競うだけのこと。
よく聞け。
来世こそは、不滅の宿。

イスラムの聖者ハサンはいった。

人間よ。
この世でのおまえの命を売って、
あの世での命を買うがよい。
そうすれば、
現世も来世も、ともにおまえの掌のなか。
人間よ。
あの世でのおまえの命を売って、
この世での命を買おうとしてはならぬ。
そうすれば、
現世も来世も、ともに失うばかりなり。


10月9日。アルカイダは声明を出した。

すべてのムスリムに告ぐ。
ブッシュ大統領が約束した十字軍が、
アフガニスタンとアッラーの神を信じる人々に対して戦いを始めた。
われわれはこの十字軍によるアフガン全土を標的とした空爆の中にいる。
女たちが、子どもたちが、日々殺されている。

アメリカとその同盟国は、長年、テロリズムと呼ばれることなく、
抑圧、迫害、略奪、流血を続けている。
その犠牲者が正義を求めて立ちあがる時、
彼らはわれわれをテロリストと呼ぶ。
それは論理的だろうか。

飛行機でアメリカに激突した若者たちは、善きことを行った。
彼らは戦いをアメリカの中枢に持ち込んだ。
アメリカがわれわれの土地から去らない限り、
飛行機によるアメリカ国土への猛攻撃がやまないことを知るべきだ。
アメリカ人が命を惜しがっているのと同じほどに、
命を捨てることを熱望している数千人のイスラムの若者がいる。

この戦いは信仰と信仰なき者とを際立たせる戦いだ。
アッラーの神がわれわれを勝利に導き、彼らの陰謀を粉砕せんことを。
神の平安と慈悲と祝福があらんことを。

▼ アメリカのユダヤ系作家スーザン・ソンタグはいった。

「卑劣な」という形容を使うならば、
他の人々を殺すためにみずからの命を捨てる人々ではなく、
報復されるおそれのない空の高い場所から他人を殺す人々に使うほうが
ふさわしくはないのだろうか。
また「卑劣な」という言葉が、「臆病」を意味するのだとしたら、
火曜日の虐殺の実行者たちは、けっして臆病などではない。

▼ フランスの都市学者ポール・ヴィリリオはいった。

スター・ウォーズの夢は潰えました。
軍需産業へのすべての投資が、
ニューヨークとワシントンの攻撃で、意味のないものになりました。
いわば人間がもどってきたのです。
自分の生命を犠牲にして、人々を殺戮する用意のある兵士たちが。

湾岸戦争では、ビデオゲームのように、先進的で精密な武器が使われました。
ところがマンハッタンでは、ロボットでなく、人間が戦争を遂行したのです。
そしてその破壊の規模の大きさ、その質、死者の数に、
だれもが驚かされました。
湾岸戦争とコソボで、わたしたちにはみえない形で行われていた大量殺戮が、
目にみえる形で実行されたのです。

▼ 10月31日、タリバンのムタワキル外相はいった。

アメリカのブッシュ大統領とイギリスのブレア首相は、
カラシニコフ銃を持ってここに来て、
野原でタリバン指導者オマル師と決闘をするべきだ。
先に逃げ出すのは、どちらか、卑怯でないのは、どちらか、
その時に、わかるだろう。

▼ アフガニスタンの荒れ地への空爆は続いた。
降りそそぐ爆弾とミサイル。
家を捨て、逃げまどう人々。
国連は、タリバン崩壊後の暫定政権について話し合いをはじめた。
テロリストを裁き、新たな世界を迎えるために。

▼ 聖書はいう。

人を裁くな。
あながたも裁かれないために。
あなたがたは、自分の裁く裁きで裁かれ、
自分の量る計りで量り与えられる。

聖書はいう。

復讐をしてはならない。
悪人に手向かってはならない。
誰かがあなたの右の頬を打つなら、左の頬も向けなさい。

聖書はいう。

敵を愛しなさい。
自分を迫害する者のために、祈りなさい。

▼ ある人が、イエスに尋ねた。
「どうしたら、永遠の命を得られるでしょうか」
イエスは答えた。
「律法に何と書いてありますか」
人は答えた。
「心を尽くし、力を尽くし、主である神を愛しなさい。
そして、あなたの隣人を、あなた自身のように愛しなさい、とあります」
イエスはいった。
「では、そうしなさい。そうすれば、永遠の命が得られる」
人は尋ねた。
「では、わたしの隣人は誰ですか」

▼ 宮沢賢治『銀河鉄道の夜』のなかで、ブルカニロ博士はいった。

みんなはめいめいじぶんの神さまがほんたうの神さまだといふだろう、
けれどもお互ほかの神さまを信じる人たちのしたことでも涙がこぼれるだろう。
それからぼくたちの心がいいとかわるいとか議論するだろう。
そして勝負がつかないだろう。
けれどももしおまへがほんたうに勉強して
実験でちゃんとほんたうの考とうその考を分けてしまへば
その実験の方法さへきまれば
もう信仰も化学とおなじようになる。

けれども、ね、ちょっとこの本をごらん、いいかい、
これは地理と歴史の辞典だよ。
この本のこの頁はね、紀元前二千二百年の地理と歴史が書いてある。
よくごらん紀元前二千二百年のことでないよ、
紀元前二千二百年のころにみんなが考えていた
地理と歴史というものが書いてある。
だからこの頁一つが一冊の地歴の本にあたるんだ。
いいかい、そしてこの中に書いてあることは
紀元前二千二百年ころにはたいてい本当だ。
さがすと証拠もぞくぞく出ている。
けれどもそれが少しどうかなと斯う考えだしてごらん、
そら、それは次の頁だよ。
紀元前一千年だいぶ、地理も歴史も変ってるだろう。
このときは斯うなのだ。
変な顔をしてはいけない。
ぼくたちはぼくたちのからだだって考だって天の川だって汽車だって
ただそう感じているのなんだから

ただそう感じているのなんだから


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11月13日。
タリバンが、カブールから撤退。北部同盟がカブールを制圧した。

北部同盟は進撃し続ける。アメリカから渡された武器で。
タリバンは応戦し続ける。アメリカから渡された武器で。
多国籍軍が介入し、ビンラディンはそれを非難する。


11月14日
イスラエルのペレス外相が毎日新聞に特別寄稿した。
ペレス外相はいう。

ビンラディンは、自分自身を立法者とみている。
そして国家や、法に基づく裁判を必要としない裁判官のつもりだ。
正義の名の下で、殺人をすることに平気で、無差別大量殺人に欲望を満足させているのだ。
暗殺者は自分自身を正義というマントで覆う。
だが、その結末は正義ではなく、殺人者なのだ。

ビンラディンをアメリカに置き換えても、言葉は少しも矛盾しない。


世界は 壊れていく
世界は 壊れていく
世界は 壊れていく
いや 世界はすでに 壊れていたのか

▼ チャック・パラニュークの小説『ファイト・クラブ』の登場人物
タイラー・ダーデンはいった。

変わらぬものはない。
すべてが崩壊しようとしている。

リサイクルや速度制限なんか、意味がないんだ。
臨終を宣告されてから禁煙するようなものだ。
世界を救うのは徹底破壊プロジェクトだ。
徹底破壊プロジェクトは地球が治癒するまで、
人類を冬眠あるいは活動停止に追い込む。

想像してみろよ。
ロックフェラーセンターの廃墟を囲む湿気の多い谷間の森でヘラジカを追い、
骨組みだけになって四十五度に傾いた
スペースニードルの塔のふもとで潮干狩りをする。
立ち並ぶ高層ビルに顔を描いてトーテムポールやティキの像に変身させる。
夕暮れが訪れると、人類の生き残りは空の動物園に逃げ込み、
檻に入って錠を下ろす。
人間を狙う熊やライオンや狼から身を守るために。

1996年に書かれた小説のなかで、タイラー・ダーデンはいった。

アナーキズムが正当化される。
徹底破壊プロジェクトは文明を粉砕し、新たによりよい世界を創り直す。

想像してみろよ。
餌を探すヘラジカがデパートのショーウィンドウの前を行き、
腐りかけた優美なドレスやタキシードが並ぶラックの列を通り過ぎる。
人間は、死ぬまで擦り切れない皮の服をまとい、
シアーズタワーを覆い尽くす手首ほどの太さの葛のつるを伝って登る。
ジャックと豆の木だ。
頭上に広がる水滴のしたたる枝の間をすりぬけて登ると
空気が澄み渡っているおかげで、真夏の太陽に熱く焼かれる、
長さ一千マイル、八車線の放置されたスーパーハイウェイの、
車の通らない相乗り専用レーンでトウモロコシを挽き、
細く切った鹿肉を干す小さな人影が見える。

徹底破壊プロジェクトの最終目標はそれだ。
文明を徹底的にかつ短期に破壊することだ。
地球が治癒するまで、世界が生まれ変わるまで。
文明を徹底的にかつ短期に破壊すること。

■都市の記憶

百年後の廃虚に
いま
棲んでいる

千年後の砂漠に
いま
生きている

無数の窓が 
鏡になって
青空を反射している
だれも 見あげない

区切られた四角い空を
すべる昼の月
よぎる鳥の群れ

大理石の壁のなかで
アンモナイトは 夢見ている
時の彼方を

エレベーター・ホールに
ときおり響く 波の音
だれもが 空耳だと思っている

一万年後に ふたたび海となる地に
いま
都市がある

百万年後に だれが
それを
記憶しているだろう

■神の痕跡 2001

空から 神が降ってきた

燃えながら落ちる 巨大隕石
地上を埋めつくす 恐竜たちの目に 灼きついた
眩い光

言葉を 持っていなかった
だから「神」という呼び名もない
けれど 思った
あれは 神だ と

大いなる水は 沸騰し
無数の塵が 天高く吹きあげ
空は 厚い雲に覆われて
太陽も月も星も 失われた
光なき 絶滅の予言

恐竜たちは 終わりのない冬をさまよう
枯れ果てた森で
灰まみれの草原で
網膜に灼きついた 眩い光の記憶だけを
唯一の救いのように 夢見ながら

そして 
最後の一頭が 大きくひとつ息を吐き
動かなくなった

ただひとつの罪も侵さずに 滅びていった
恐竜 という名の 美しい生き物たち

空から 神が降ってきた

摩天楼に激突する 巨大旅客機
街路を埋めつくす 人々の目に 灼きついた
眩い光の記憶

言葉は あふれていたから
「神」など いくらでもいた
けれども どこにも いなかった
ほんとうの 神なる神は

旅客機は 爆発し
摩天楼は 燃えあがり 砂のように崩れさる
無数の塵が 摩天楼の谷間を走り
空は 厚い雲に覆われて
数え切れない未来が 失われた
光なき 絶滅の予言

人間たちは 戦いの冬をさまよう
瓦礫のマンハッタンで
地雷まみれの砂漠で
網膜に灼きついた 眩い光の記憶だけを
憎しみの証として

そしていつかめぐる春に
地上に降り注ぐものは

まばゆい春の陽射しだろうか
それとも 核ミサイルの閃光だろうか

無数の罪を犯しながら 生きつづける
人間 という名の 愚かな生き物たち
無数の罪を犯しながら 滅びへと向かう
人間 という名の 愛しい生き物たち

神の痕跡は いつも美しい円
荒れ地に刻印された隕石クレーター
珊瑚礁に刻印された核実験クレーター
空に浮かぶ太陽も月も
わたしたちの足許の地球
そして 幼子の吹くシャボン玉も

神の与えたもう痕跡は いつも美しい円


■Je voudrais crever/ボリス・ヴィアンに捧げる

ぼくは くたばりたい
いっそ くたばってしまいたい
この花の森の奥の奥
千の迷路を抜けてたどりつく
有史以前から生きてきた巨きな樹の根本で
ぼくは くたばりたい
いっそ くたばってしまいたい
どこかで知っていたはずなのに
どうしても思い出せない
せつなすぎる花の香りに包まれ
香油を塗りたくられて 薄っぺらな永劫をまどろむ
エジプトの 哀れなミイラを思いながら
ぼくは くたばりたい
いっそ くたばってしまいたい
赤ん坊だったぼくの頬に
やわらかく触れた乳房の感触で
ぼくを執拗に撫でまわす春の風のなかで
まだ見えなかったぼくの目が 微かに感じていた
生まれる前にいた場所に満ち満ちていた
淡い光の渦巻くなかで
ぼくは くたばりたい
いっそ くたばってしまいたい
軽薄な歓びが
生きている不安を足早に追いこす前に
ぼくは くたばりたい
地球とぼくとが
苦痛にすっかり麻痺してしまう前に
完全なる満月に落ちる 都市と人の影が
月を 真空の闇に溺れさせてしまう前に
愚かなことばたちの群れが 
空を覆い尽くして
星々の名をすっかり明らかにしてしまう前に
ぼくは くたばりたい
いっそ くたばってしまいたい
花々が季節を忘れ果ててしまう前に
風と波との区別のつかない一瞬の時間のなかで
四角く区切られた絶望を
まだ いとしいと感じられるうちに
透明な痛みを感じられるうちに
ぼくは くたばりたい
いっそ くたばってしまいたい
生け贄の山羊のように
頭のない首から 空高く太陽を噴きあげ
祝福の打ち上げ花火になって
ぼくは くたばりたい
いっそ くたばってしまいたい
開ききった瞳孔の奥で
真昼の星の輝きを網膜に感じながら
砂のように崩れ落ちる超高層ビルの
崩れゆく音と人々の叫び声を
遠い海のざわめきだと勘違いして
至福の微笑みを
この春の日にゆるやかに舟のように浮かべ
きみの名前を呼びながら
失われたきみの名前を
だれも聴きとることのできない 
かすれた声でつぶやきながら
ぼくは くたばりたい
いっそ くたばってしまいたい

だから だれかぼくを屠殺してくれないか
ゆるやかに磨滅させるのではなく
絶望を降りつもらせるのではなく
この一瞬に
ぼくを 奪ってくれ
ぼくを 葬ってくれ
永遠に
永遠のなかに


夢のように 美しい夢のように
夢のように 忌まわしい夢のように
夢のように 荘厳な夢のように
夢のように 美しい夢のように

飛行機は衝突し、ビルに吸い込まれ、爆発し
飛行機は衝突し、ビルに吸い込まれ、爆発し
飛行機は衝突し、ビルに吸い込まれ、爆発する

「これは映画ではありません。現実の映像です」
「これは映画ではありません。現実の映像です」

崩れてゆく アメリカが
崩れてゆく 砂の城のように
崩れてゆく 二〇世紀が
崩れてゆく 音を立てて
何千という命を飲みこみながら
崩れていく 世界が 
そこにあると思っていた世界の幻影が
足許から 崩れてゆく

世界が 壊れていく
世界が 壊れていく
世界が 壊れていく
いや 世界はすでに 壊れていたのか

■未来のための呪文

世界は少しずつ美しくなる
世界は少しずつ美しくなる
世界は少しずつ美しくなる

何ものにも傷つけられることのない結晶が
ゆっくりと育つように

何ものにも傷つけられることのない結晶が
ごくゆっくりとしか育たないように

世界は少しずつ美しくなる
世界は少しずつ美しくなる
世界は少しずつ美しくなる




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ホロニック・プラチナムズ+寮美千子コンサート
AFTER911』原稿全文

・2001年11月17日 ・渋谷/ツインズよしはし