▼「これから卒業する君へ――アラスカ光と風」
いま、店頭に並んでいる『SWITCH』JAN2000 岡崎京子特集号に
星野道夫さんが都内の中学校でした講演録
「これから卒業する君へ――アラスカ光と風」が掲載されています。
これから半年間ほど雪や土の上に寝なくてはいけないんだけれども、
そういうことがまったく苦にならない。
嬉しくて嬉しくてしかたがない。
皆さんもそうだと思うのですが、
自分が本当に好きなことをやっているというのは、
他人がそれを見て辛そうだと思っても、
本人にとってはそれほどではないですよね。
好きなことをやるというのは、そういうことなのだと思います。
みなさんもこれからの人生において
自分が本当にやりたいことを
それが勉強であれ、遊びであれ、仕事であれ、
そういうものをみつけられればいいなと思っています。
(中略)
僕らの人生をいうのはやはり限られた時間しかない。
本当に好きなことを思いきりするというのは、
すごくすばらしいことだと思います。
▼アラスカへ行きたかった星野少年
星野道夫さんは、冒険家になりたかったわけじゃない。
そこが、いわゆる「冒険家」と呼ばれる人々と大きく違っている。
彼は、アラスカに憧れた。
一枚の写真を見て、どうしてもそこへ行きたいと思った。
そしてほんとうに行ってしまう。アラスカがものすごく気に入る。また戻りたい。
どうやったら、アラスカで暮らしていけるか、
それを考えて写真家になったという経緯の持ち主だ。
(鳥海さんMOONSTRUCK池澤夏樹氏の講演録参照)
なんという、直線的な確信犯。
目的意識を持って、好きなものにまっしぐらに向かう姿勢は、すごい。
そこには「写真家」とか「冒険家」という呼び名さえ必要ない。
もちろん、だれもがそんなふうに生きられるわけではない。
『冒険家』になりたくて、冒険を求める人もいるだろう。
『小説家』になりたくて、小説を書く人もいるだろう。
それも悪くない。
でも、それは星野道夫氏の生き方とは少し違う。
星野道夫は、ただまっすぐに星野道夫になっていったのだと思う。
▼心のいちばん深いところにある願い
人が、何になっていくか。
なぜその道をえらぶことになるのか。
実にいろいろな理由があると思うし、いろいろな道筋をたどるのだと思う。
そのどれが、すばらしくて、どれがだめなんてことはない。
だけど、やっぱり星野道夫氏のように生きられるとしたら、それはすてきなことだ。
ほんとうに好きなことは、なんだろう?
ほんとうに望んでいるものは、なんだろう?
心のいちばん深いところにある願いを見つけることは、
実はとてもむずかしいことかもしれない。
だから、いつもいつも、それを自分に問うていかなければならないのではないだろうか。
わたしは、何を望んでいるのだろう。
ほんとうに、何を求めているのだろう。
「女性の時代だ」と言われるようになって久しくなります。男たちと肩を並べて颯爽と仕事をこなすキャリア・ウーマン。家庭や地域社会で、溌剌と生きてゆく女たち。そんな女たちが身の回りに増えていくのは、素敵なことです。
けれども、そんな人を見るたびに、自分だけが取り残されていくようなさみしさを感じている人も、実は、多いのではないでしょうか。
外から見れば、人もうらやむような活躍をしているキャリア・ウーマンでさえ、心の中には、埋めきれない深い穴があるのかもしれません。
いえ、だからこそ、仕事で認められ、他者から評価されたい。それによって、なんとか自分を肯定したい。そんな思いに衝き動かされ、がむしゃらに働いてきた結果が、いまある地位、ということもあるでしょう。
仕事ばかりではありません。家庭でも、よき妻、よき母、よき嫁である自分を証明しようとして、無理な頑張りを続ける。
その結果、自信を得て、深く癒されれば、それに越したことはありません。
けれども、外から高く評価されればされるほど、自分の中に、深いさみしさを感じないではいられない。外面と内面のギャップの大きさに、余計に虚しさが募っていく。
「楽園の鳥」の主人公も、そんな女性です。三十代半ばになる、離婚歴のある童話作家。自分を肯定できるのは、結局は自分だけだと、頭でわかってはいても、それができない。誰かに愛されたい。愛されることによって癒されたい。その強烈な衝動は、彼女を無理矢理、異国へと連れ去ります。バンコク、カルカッタ、カトゥマンドゥ、そしてヒマラヤ山中。自分の中の荒ぶる魂に拉致されたごとくに、旅を続ける主人公。果たして、癒しの時はやってくるのか。主人公の名前は未知花。いつの日にかきっと咲く、未知なる花。
長い旅になると思います。どうか、未知花を見守ってやってください。
というわけで、3月1日より、いよいよ連載開始となりました。一年という長丁場。ヘタらずにがんばっていきたいと思います。
実は、新聞連載は3回目。はじめは、1986年に毎日童話新人賞をいただいたときに、受賞作の幼年童話「ねっけつビスケット チビスケくん」(画/古川タク)を、毎日こども新聞に連載。これが事実上のデビュー作となりました。次は、1988年、初の物語小説「小惑星美術館」(画/小林敏也)を毎日中学生新聞に3ヶ月間連載。少年を主人公とした物語小説のデビュー作となりました。
そして、今回の「楽園の鳥」(画/日置由美子)。大人の、しかも女性を主人公に小説を書くのは、はじめて。物語の舞台も現代です。
童話、物語、そして小説と、各分野デビュー作が、新聞に連載されるというのは、途方もなく幸運な、そして強運なことと感じています。このような機会を与えてくださった新聞社の方、そして読者のみなさまの期待を裏切らない(そして、だれよりわたし自身の期待を裏切らない)作品にしていきたいと思っています。どうか、よろしくお願いします。
なお、この作品は、公明新聞のウェブサイトでも読むことができます。