「物語の作法」課題提出板の検索

※空白も1つの文字として扱われます。複数語による絞り込み検索はできません。
 表示方法: 表示する
検索範囲:(ログ番号を入力:「0-8」で2001年度分、「9-20」で2002年度分、「21-31」で2003年度分、「-10」で0から10まで、「25-」で25以降すべて)
 ※エラーが出る場合、検索範囲をせまくしてください

滝 夏海 の検索結果(ログ9-)


滝 夏海 自己紹介 2002年05月07日(火)20時16分14秒
課題(親記事)/朗読テキストの紹介と自己紹介 への応答

〆切ぎりぎりですが、初めまして、表現文化学科2年の「たき なつみ」と言います。今まで書いていたモノは小説とも詩とも言えないような物語の欠片ばかりで、「だからどうした」とツッコミを入れたくなるようなモノも多く。それでも、自分の中にある世界を少しでも形にしていきたいという欲求は止まらず。この講義で、まとまったモノが書けるように頑張っていきたいです。
これから一年、宜しくお願いします。

私が自己紹介代わりに選んだ文章は、水蜜桃調査猿の「ゼンマイ巻きの手順」でした。
これはクラフト・エヴィング商會が書いた『どこかに○いってしまった○ものたち』(筑摩書房)という本のP88〜91にあるものですが、水密調査猿という物が不思議ならば、説明の図が怪しいなど、とにかく胡散臭い。
この本は商品カタログになっていて、吹き出してしまう物から思わず欲しくなってしまう物まで様々な品が紹介されています。
けれども中表紙に書かれている本の別名は『クラフト・エヴィング商會不在品目録』。今となってはもうどこにも存在しない商品達のカタログなのです。
また、今回は読みませんでしたが彼らの別の本『らくだこぶ書房21世紀古書目録』『ないもの、あります』なども、商品カタログの形になっています。
最近では『じつは、わたくし、こういうものです』が新聞に載っていたりと、大分有名になってきたようで。
基本的にどの本も一話(?)が短く作られているので、通学や授業前のちょっとした時間にも読めてお薦めです……文庫ではないので、ちょっぴり鞄が重くなりますが(笑)

クラフト・エヴィング商會の本は、どれも独特の世界を作り上げています。実際には存在しない、あり得ない物を作りながらも、その細部にまで拘り考えられているからでしょう。私はその世界に浸るのが好きで、浸りながらも「う〜む」と唸るのが好きで、時々「やられたっ」と笑うのが好きなのです。

滝 夏海 1A (タイトル未定) 2002年05月07日(火)20時19分46秒
課題(親記事)/箱を題材とした創作 への応答

駆け込み投降、しかもまだ走り書き程度です。でも、期限が過ぎてしまうので。
=================================


 ダンダン、ダン、ダンダンダン。
 断続的に響く鈍い音に起こされた。固いベッドから身を起こせば、目に入るのは開けっ放しのドアと、そのあるべき空間を埋める白い壁、いや、壁に見えるほど巨大な箱。真っ白な、箱。あれが来てから、何日くらいが経ったのだろうか。いい加減見飽きた風景にうんざりして、溜息をついた。
 大型犬を飼っている知り合いは、みんな言う。
「最初はこんなに小さかったのよ?」
 何かを掬うように両手を広げ、懐かしそうに微笑む。
 同じ事を、俺は言いたい。
「最初はあんなに小さかったんだ」
 そう、最初は。

 それはバイトに行ってる間に、アパートの一室、俺の所に入り込んでいた。
 玄関のドアを開けると見えた、リビングの床の、箱。
 みかん箱ほどのそれは見た目より重く、どけようとしたが押しても蹴っても動かなかった。大澤の仕業かと電話をしてみたが、違うと言われた。東京に出てきて1ヶ月、友人といえるような人物は彼だけの俺には、他に心当たりなど無かった。

 ダダン、ダンダン…ダン。
 再び聞こえてきた鈍いが派手な音。どうやら、玄関の方から聞こえてくるらしい。誰かがドアを叩いている、そんな感じだった。
 視線をそちらへ向ける。とはいっても、箱にリビングを占拠されている現在、箱と壁の間──おそらくシンクが邪魔で成長出来なかった部分だろう──からほんの僅かに見えるだけ。応答しようにも、これでは無理だ。
「おーーーい、誰だ、誰か居るのか!?」
 ベッドの上からとりあえず叫んでみるも、返事は無し。
「居るなら…居るんなら、返事しろよっ!!」

 ああ、そういえば数日前もこうやって叫んでいたっけ。
 どかせないままリビングに放置していた箱は徐々に体積を増し、みかん箱から引っ越し用段ボール中・大・特大サイズとなり、ある晩突然タンスくらいにまで大きくなり…部屋の入り口を塞いだ。
 開け放してあったドアと箱との隙間から手を伸ばすことは出来るが、頭までは入らない。箱自体を壊そうともしてみたが、何度試しても駄目だった。それだけじゃない。携帯の表示は圏外になり、箱の重みで部屋が歪んだのか、窓が開かなくなった。出入り口がないのでしょうがなく割ろうとしたが、防弾ガラスにでも変化したのか、辞書をぶつけようが椅子で殴ろうがびくともしなかった。
 俺は叫んだ。叫べば隣が気付いてくれるだろうと期待して、何度も何度も声を上げ続けた。
 声が嗄れる頃、期待は焦りへ、やがて虚しさに変わっていた。
 おかしな事はそれだけじゃない。その日以来、何も食べていない。水すら飲んでいない。排泄もしない。なのに俺は生きている。どういうことなんだ、これは。
 それとも、生きていると思っているだけで──。

『三宅ぇ、三宅三宅、みぃやっけくーん。いーかげん起きなっさーい』
 さっきまでとは違う音が、暢気な声が微かに聞こえてくる。
 ぼんやりとしていた視点が、急に定まっていく。散らばっていた思考を、掻き集める。
 籠もっているけどあれは、あの声は。
「大澤、大澤なんだな、そこにいるのは!?」
 狂った世界から逃れられる最大のチャンスかもしれない。その為には、なにがなんでも大澤には気付いてもらわなければならなかった。
 ベッドから飛び降り、箱に近付いていく。ドア枠との隙間に顔を寄せ、名前を呼んだ。
 祈るように。

 けれども外から聞こえてくるのは全て、叫びに対する答えではなかった。
『居ないのか?』
 また、ドアを叩く音。
『ガッコ何日休む気なんだ。いいかげんにしろよ』
 だんだんと焦れてくる声。まずい、このままでは帰られてしまう。
『ったく、しょーがねぇな…あいつの番号はっと』
 番号?…携帯か。相手は?きっと、いや絶対に俺に決まってる。だが、俺の携帯はベッドサイドの充電器に突っ立ったまま、ウンともスンとも言わない。そうだ、なぜか圏外で通じるわけが。
『…ぁ、もしもし?俺だけど…え?…お前ねぇ、名前表示されてるんだろ?で「俺」ったら本人以外誰が居るんだよ』
 おい、大澤は、一体誰と話して──そうか、俺にかけたわけじゃなかったんだな。
 そう思うと少しがっかりした。
 けれども、そうではなかった。そうだった方が、どれほど良かっただろう。
『でさ、おまえんちの前なんだけど、開けてくんない?居るんだろ?…はいはい分かったから、早くしろよ』
 ──今、なんて言った。おまえんちの前?大澤が居るのは、俺の家の前、だろ。
 あいつは誰と話してるんだ?

 ワケが分からなかった。目を丸くし、声のするの方を見ることしか出来なかった。
 カチャッという軽い金属音が耳に入り、血の気が下がった。聞こえたのは、玄関先。続いて、ギッと何かの軋む音。挨拶する声。バタバタした足音。
 隙間から見えている玄関のドアは、一度も動いていないというのに。
 この部屋には、俺以外に居ないというのに。閉じこめられた、俺以外に。

 あぁ、大澤の声がする。さっきよりも近く。ずっと近く。
 箱の、目の前にあるあの忌まわしい箱の中から、楽しそうな会話が聞こえてくる。
 笑い声すら、聞こえてくる。
 どうして。
 なんで。
 大澤…お前、どこに居るんだよ。
 誰と喋ってるんだよ。
 俺はここだ、ここに居るんだ。
 箱に縋り付くように崩れ落ち、何度も何度もその真っ白な壁を叩いた。
「大澤…おおさ、わ……お…ぉさわ…気付よ。気付いてくれ、よ…っ」


『そういや、前ここに違う奴住んでたような──や、気のせいか』
『ん、そうだよ』

滝 夏海 1B「狭間」 2002年06月26日(水)19時59分23秒

タイトルを付け、前半部分を中心に書き換えました。

-------------------------

 ダンダン、ダン、ダンダンダン。
 断続的に響く鈍い音に起こされた。固いベッドから身を起こせば、目に入るのは開けっ放しのドアと、そのあるべき空間を埋める白い壁、いや、壁に見えるほど巨大な箱。真っ白な、箱。あれが来てから、何日くらいが経ったのだろうか。いい加減見飽きた風景にうんざりして、溜息をついた。
 大型犬を飼っている知り合いは、みんな言う。
「最初はこんなに小さかったのよ?」
 何かを掬うように両手を広げ、懐かしそうに微笑む。
 同じ事を、俺は言いたい。
「最初はあんなに小さかったんだ」
 そう、最初は。

 あの日バイトからアパートに帰って来た俺は、自室へ入るなり妙な違和感に首を傾げた。玄関のドアノブを掴んだまま、視線を動かしてみた。まず玄関、そこから真っ直ぐに見通せるリビング、その先のたった1つだけの洋間へ続く開いたドア。中にあるベッドの端が視界に入ったところで、動きを巻き戻す。そのドア、玄関ではなく洋間とリビングを仕切るドアの前に、見知らぬ箱が置いてあった。
 自分で開けた記憶があるから、玄関の鍵が掛かっていたと自信を持って言える。2度開ける事なんて出来るものか。じゃあ出掛ける前はどうだったかというと、あんなもの無かったはずだ。位置的に邪魔すぎて、あれじゃ俺が転けてる。
 一体いつ、誰が持ってきたんだ。
 とりあえずどけようとしたがみかん箱ほどのそれは見た目より重く、押しても蹴っても動かなかった。ということは、これを運んだ奴は余程の怪力に違いない。
 東京に出てきて1ヶ月足らず、この住所を知っている人物など親と故郷の友達、それに大学で出来た友人と呼べそうな奴が一人だけ。大澤という名のそいつなら可能性はあると思ったが、次の日訊いてみたら大きく首を振って違うと言った。



 ダダン、ダンダン…ダン。
 再び聞こえてきた鈍いが派手な音。どうやら、玄関の方から聞こえてくるらしい。聞き覚えのある音。誰かがドアを叩いている、そんな感じだった。
 視線をそちらへ向ける。とはいっても、箱にリビングを占拠されている現在、箱と壁の間──おそらくシンクが邪魔で成長出来なかった部分だろう──から僅かに見えるだけ。応答しようにも、これでは無理だ。
「おーーーい、誰だ、誰か居るのか!?」
 ベッドの上からとりあえず叫んでみるも、返事は無し。
「居るなら…居るんなら、返事しろよっ!!」

 ああ、そういえば数日前もこうやって叫んでいたっけ。
 どかせないままリビングに放置していた箱は徐々に体積を増し、みかん箱から引っ越し用段ボール中・大・特大サイズとなり、ある晩突然タンスくらいにまで大きくなり…部屋の入り口を塞いだ。動かせない上に成長するなんて、卑怯じゃないか。
 開いているドアと箱との隙間から手を伸ばすことは出来るが、頭までは入らない。箱自体を壊そうともしてみたが、何度試しても駄目。白壁、もとい箱の側面は殴れば殴るほど手が痛くなる立派なものであり、カッターで傷つけることすら出来なかった。それだけじゃない。携帯の表示はいつの間にか圏外になっていたし、箱の重みで部屋が歪んだのか、窓が開かなくなった。出入り口がないのでしょうがなく割ろうとしたが、辞書をぶつけようが椅子を叩きつけようがびくともしなかった。あの時は思わず防弾ガラスだったのかと驚いたが、安アパートの一室にそんなものあるか。
 俺は叫んだ。叫べば隣が気付いてくれるだろうと期待して、何度も何度も声を上げ続けた。
 声が嗄れる頃、期待は焦りへ、やがて虚しさに変わっていた。
 おかしな事はそれだけじゃない。その日以来、何も食べていない。水すら飲んでいない。排泄もしない。なのに俺は生きている。どういうことなんだ、これは。
 それとも、生きていると思っているだけで──。



『三宅ぇ、三宅三宅、みぃやっけくーん。いーかげん起きなっさーい』
 さっきまでとは違う音が、暢気な声が微かに聞こえてくる。
 ぼんやりとしていた視点が、急に定まっていく。散らばっていた思考を、掻き集める。
 籠もっているけどあれは、あの声は。
「大澤、大澤なんだな、そこにいるのは!?」
 狂った世界から逃れられる最大のチャンスかもしれない。その為には、なにがなんでも大澤には気付いてもらわなければならなかった。
 ベッドから飛び降り、箱に近付いていく。ドア枠との隙間に顔を寄せ、名前を呼んだ。
 祈るように。


『居ないのか?』
 また、ドアを叩く音。どうしても届かない。あいつに聞こえてない。
『ガッコ何日休む気なんだ。いいかげんにしろよ』
 だんだんと焦れてくる声。まずい、このままでは帰られてしまう。
『ったく、しょーがねぇな…あいつの番号はっと』
 番号?…携帯か。相手は?きっと、いや絶対に俺に決まってる。だが、俺の携帯はベッドサイドの充電器に突っ立ったまま、ウンともスンとも言わない。そうだ、なぜか圏外で通じるわけが
『…ぁ、もしもし?俺だけど…え?…お前ねぇ、名前表示されてるんだろ?で「俺」ったら本人以外誰が居るんだよ』
 おい、大澤は、一体誰と話して──そうか、俺にかけたわけじゃなかったんだな。
 そう思うと少しがっかりした。
 けれども、そうではなかった。そうだった方が、どれほど良かっただろう。
『でさ、おまえんちの前なんだけど、開けてくんない?居るんだろ?…はいはい分かったから、早くしろよ』
 ──今、なんて言った。おまえんちの前?大澤が居るのは、俺の家の前、だろ。
 なあ、あいつは誰と話してるんだ?

 ワケが分からなかった。目を丸くし、声のするの方を見ることしか出来なかった。
 カチャッという軽い金属音が耳に入り、血の気が下がった。聞こえたのは、玄関先。続いて、ギッと何かの軋む音。挨拶する声。バタバタした足音。
 隙間から見えている玄関のドアは、一度も動いていないというのに。
 アパートのこの部屋には、俺以外に居ないというのに。閉じこめられた、俺以外に。

 あぁ、大澤の声がする。さっきよりも近く。ずっと近く。
 箱の、目の前にあるあの忌まわしい箱の中から、楽しそうな会話が聞こえてくる。
 笑い声すら、聞こえてくる。
 どうして。
 なんで。
 大澤…お前、どこに居るんだよ。
 誰と喋ってるんだよ。
 俺はここだ、ここに居るんだ。
 箱に縋り付くように崩れ落ち、何度も何度もその真っ白な壁を叩いた。
「大澤…おおさ、わ……お…ぉさわ…気付よ。気付いてくれ、よ…っ」


『そういや、前ここに違う奴住んでたような──や、気のせいか』
『ん、そうだよ』

滝 夏海 2A「そんな2人」 2002年07月10日(水)17時35分57秒

「俺さ、ちっさい頃から手、大きいらしいんだよね」
 予備校帰りの電車の中でそんなこと言い出したのは同じ授業取ってる男で、性別越えて妙に気が合うのでこうやって一緒に帰ってるんだけど、なんでこんな話題になったのかは知らない。
「ピアノ習ってた時、先生に「ピアノやるのに良い手」って言われたり」
「へぇ、じゃあオクターブ軽く届くんでしょ」
「余裕余裕」
 そうなんだいいなぁ、なんて相槌打つけど大して内容は聞いて無い。でも、他愛ない会話のこの空気は嫌じゃない。温くて気持ちいい。
 言葉適当に聞き流しながら、少し上にある顔とか目の前のシャツとか腕に引っかかってるリュックとか眺めてたら、彼の後ろで揉みくちゃになってる灰色・黒スーツの群や必死に居場所探してる白いヒールと、それを観察出来るだけの自分の周りの空間に気付いた。
 良いヤツだな。
 お礼に相槌のバリエーション、増やしてみた。こっちからもネタ振ってみた。背中を押し付けた扉から伝わる電車の振動が、自分の鼓動みたいに骨に響いて心地良い。
「…ね?」
 声に視線上げたら、顔の30センチくらい前で広げられた右手が見えた。何言ってるか解ったから、鞄右手に持ち直して左手出した。手首のとこ合わせて重ねたら、何も塗ってない短い私の爪の先よりちょっと上に、赤黒い線。第一関節の、谷折り線。男女の骨格差。
 なんだか少し、悔しかった。
「うわっ、ちっさい、可愛い!!」
「ばか、これでも女じゃ手の大きい部類に入るんだよ」
 子供みたいな顔で笑って私の指先に関節折って被せてくるから、重ねた手を叩くようにペシッて打ち合わせた。

滝 夏海 3A「スイカ」 2002年07月10日(水)18時35分39秒

 夏だった。
 一年前の8月の事だった。祖母が近所のスーパーでスイカを一個丸々買ってきた。ムーミンママに姿形や仕草がよく似た祖母が、ムーミンママのように前掛けしてハンドバッグ下げて、それは嬉しそうに小玉スイカを運んできた。母が冷蔵庫の野菜室を整理して、スイカを丁寧に納めた。父と私は小躍りして喜んだ。隣の和室にいた半寝たきりの祖父は、何も知らなかった。
 3日後のおやつの時、母がスイカを取りだした。そそそ、と走っていって母の持っているそれをノックしたら、ポンポンとアホっぽい音がした。食べ頃だ。私は二階に行き、父を呼んだ。2人でスキップしながらリビングに入ると、テーブルの上に大きな皿があった。その上には三角に切り分けられたスイカが乗っていた。イタリアの国旗を思わせるその色合い、滴る甘そうな汁、見ただけでもシャリシャリ感が伝わってくる切り口。幸せ。それぞれが小皿にまず1つずつ取り、席に着いた。
 ところで我が家のリビングには長方形のテーブルが1つ、その片側にごく普通の背もたれ付きの椅子が2つ、反対側に背もたれのないベンチ式の椅子が1つ、主賓席(または、お誕生日席)の位置から少し離れた場所にソファが1つ。また、窓の傍に籐製の肘掛け付きの椅子が1つあり、これが離れてはいるがベンチの真後ろに当たる。覚えていただけただろうか。
 さて各人の席だが、祖母と母が椅子に、父がソファに、そして私がベンチにと座っていた。覚えていただけただろうか。
 いただきます、の唱和と共にスイカにかぶりつく家族。平和な一時だった。
 だった。過去形である。
 ここから先は、スローモーションでお伝えしたい。
 満面の笑みで口を開ける私。背を丸めスイカに齧り付いた時、ベンチから落ちた。敗因は胡座をかいていたことであろう。バランスは崩れたものの重心はまだ前気味なわけで、当然、背ではなく尻からずり落ちる。スイカをしっかりと両手で持ったまま、足をベンチの上に残して尻が着地する。が、勢い止まらず、今度は背が後ろに倒れていく。状況が把握出来ないまま、私は仰向けに倒れていき。
 先ほど書いたことを思い出してもらいたい。ベンチの後ろには何がある。
 籐製の椅子がある。
 頭の辿り着いた先は、低い位置に取り付けられた太い籐で編まれた肘掛けだった。
 ゆっくりぶつかった為、さほど痛くはなかった。上向いてると口の中のスイカが飲み込みにくい、なんて暢気なことを思っていたくらいである。……後から、軽い吐き気に襲われたが。
 この時、祖母は手からスイカを落とし、母は慌てて駆け寄り、もっとも私に近かったはずの父は、スイカと皿を両方の手に持っていて助けられなかった、などと言ったが為に母に怒られた。老人ホームのデイケア・サービスに出掛けていた祖父は、何も知らなかった。
 蝉が鳴いていた。
 夏だった。

滝 夏海 4A「昼下がり交響楽団」 2002年07月23日(火)19時14分10秒

タクトが振られた。

まずはティンパニーの如く低音で響く心臓の音。
木琴なアナログ時計も持ち前の正確な刻みで参戦。
2つの刻みが微妙にずれて個性的なリズムが完成。

お次は蝉の第一ヴァイオリン君と第二ヴァイオリン君、
仲良し二匹の呼吸のあった二重奏。
今日も独創的なメロディーを奏でております。

おっとここで種類不明鳥のフルートとピッコロ登場。
猫のオーボエ君も張り切って演奏しております。
どうやらクラリネット犬は本日休業のようです。

微かに聞こえてくる派手な音はなんでしょう?
あれはコントラバスde通過電車でございます。
アナウンステープ嬢の魅惑のソプラノと共にお楽しみ下さい。

一所懸命頑張っているのは
ホルンになったマフラー装備のバイクさん。
調子が外れっぱなしで四苦八苦。

さあ、盛り上がってきたところで今回のメイン。
隣のチビちゃんの雄叫び、はい、どうぞ!
「ママー、ママー、ママァァァァァァッ!!」

良いですねえ、ナイスですねえ、不協和音交響曲。


どうやら昼寝はできないらしい。

滝 夏海 5A「そうよ、これも愛なのよ」 2002年09月24日(火)12時21分31秒

 あら、あなたどなた?って一応聞いてあげてるけど、挨拶代わりに聞いただけで本当に誰か尋ねている訳じゃぁなくってよ。ところであなた、何のご用?これはちゃんとした質問だから答えなさいな。
 え?あたしとダーリンの話が聞きたいですって?
 あなたも好きねえ、そういう話……いいわよ、聞かせてあげてもよくってよ。あたしとあの方の全てを焦がすような愛の物語。覚悟なさい。

 あたしとあの方が初めて会った時、あたしはまだ幼いヒヨコだったわ。場所は縁日か、ですって?冗談じゃないわっ。あんなケバケバして下品な色で飾られた、娼婦のような方々とは一緒にしないでちょうだい。あたしはね、由緒正しきニワトリなの。あの方のお祖父様がやってらっしゃる養鶏場、そこであたしは生まれ育ち、そして彼と出会ったわ。お休みが取れて帰省した彼は養鶏場の仕事を手伝っていたの。ああっ、なんて親思い、もとい祖父思いの孝行息子なんでしょう。その彼が数多くいるヒヨコの中から選び拾い上げ、手に乗せたヒヨコ。それが、あたし。あたし達は一目で恋に落ちたわ。彼はあたしに笑いかけて、こう言うの。
「キミは一番の美人さんだね。いや、ヒヨコだから美鳥さん、かな」
 その笑顔の爽やかなこと。あたしはうっとりと見惚れていたわ。それに嬉しかった。今まで、あれ程嬉しかった言葉は無かったわ。
 そしてお祖父様のご厚意で、あたしはあの方に引き取られる事になったの。

 ヒヨコだったあたしにあの方がまず、名前を付けて下さったの。
 ポンパドール。
 素敵だわ、ポンパドール。昔西欧の偉い方に愛された寵姫の名前でもあるのよ。あぁ、あたしってばなんて博識なのかしら。鳥頭なんて言わせないわ。これほどまでに気品に満ちた名前、あなた他にご存知?

 一緒に暮らすようになってから、あの方は甲斐甲斐しくあたしの世話をして下さったわ。食事にお風呂。そして同じベッドで休むの。時々寝返りするあの方に押し潰されそうになったわ。でも愛しい彼に殺されるならば本望よ。こうやって無事生きてるけれど。
 幼子のあたしは何一つあの方にしてさしあげることが出来ず、幸せでも歯痒い毎日だった。せめて、と彼の愛撫に愛らしく微笑み愛らしい鳴き声をあげて答えるだけ。

 やがてあたしはレディになるの。それは、そう、喜ばしい事でもあり淋しい事でもあったわ。何故って大きくなったあたしは、もう彼の寝室には居られなくなってしまったから。あたりまえよね。淑女たるもの慎みを持って暮らさなければいけないの。その変わりに、庭で寝室に一番近い場所に小さな家を一軒建ててくれたわ。誰?小屋だろう、なんて意地悪を言うのは。いいの、あたしにとっては家なの。そして彼は毎朝毎晩、あたしの家を訪ねて声をかけてくれるのよ。

 大人になったあたしは、今までの恩を返すように卵を産み始めたの。でも華奢で病弱なあたしには、毎日なんて無理。一日おきにしか産む事が出来ないの。それでも彼は、とても喜んでくれるわ。もちろん彼がその卵を食べていることは知ってるのよ。けれども、ねえ考えてみて。あたしの産んだものが、あたしの一部が、あたしとあの方の子どもになったかもしれないものが、あの方に吸収されあの方の一部となり、あの方として生きているの。素晴らしいっ、素晴らしいわっ。究極の愛の形ね!
 卵を食べた日は、あの方はお出かけになる前にあたしの家に寄って伝えてくれるのよ。
「今日は目玉焼きにしたよ」
「玉子焼きにしたら、綺麗に焼けてね」
「ゆで卵も、なかなかだね」
 そうしてとろけんばかりの笑顔で、愛の言葉を囁くの。
「美味しかったよ、ありがとう」
 あぁぁっ、愛だわっ!!愛し愛されているのだわっ!!

 今日もあたしは卵を産んだの。この子はどういう方法であの方の中に入っていくのかしら。
 その前に、モーニングコールをしなければね。
 さぁ、ダーリン、朝よ、起きてちょうだい!
 コケーッココココココココココッ、コケーーーーッ!!!

 愛してるわ。

 (完)

滝 夏海 標本1A「海が隠していた時間」 2002年10月02日(水)22時42分45秒
課題/夢の標本箱の文章 への応答

人間が海で生きる為に必要なもの
人魚の国特製機械仕掛けの心臓を一つ
その中に月の光を二粒 星の光も同じく二粒
真珠貝の溜息を三粒 幼い人魚の涙を一粒

けれどもどうしても見つからない あと一粒の何か
時間切れになった王子様は 海の底に消えました

代わりに入った一粒は 彼に恋した人魚のこころ

滝 夏海 標本2B「行商人お薦めの一品」 2002年10月16日(水)20時11分51秒
課題/夢の標本箱の文章 への応答

「旅人さんよ、この中には
 赤ん坊の最初の微笑み
 ってのが入ってんだ」
 男は小瓶をちらつかせて自慢気に言った。

「幸運のお守りですか?」
「いいや、惚れ薬さ」

滝 夏海 6A「言葉のスケッチ:その1」 2002年10月20日(日)18時01分14秒

月の時間 ただ1人
ぬくもりに包まれるお湯の中でも
自分を抱きしめるベッドの中でも
泣くことは出来ないのに

太陽の時間 人の群
プラットホームで電車を待つ間や
授業中隣の窓へ視線を移した瞬間
何故だろう ひどく泣きそうになる

滝 夏海 7A「言葉のスケッチ:その2」 2002年10月20日(日)18時02分20秒

善ってなんですか
悪ってなんですか

正義ってなんですか
平和ってなんですか

幸せって一体何なんですか

本当は誰にもわからない
だから自分で探そう

滝 夏海 8A「言葉のスケッチ:その3」 2002年10月20日(日)18時04分16秒

自分をみて
隣をみて
町をみて
国をみて
世界をみて
宇宙をみて

もう一度自分をみたら
小さな発見

滝 夏海 9A「言葉のスケッチ:4」 2002年11月04日(月)23時24分28秒

ねぇ
僕の全てを
あなたが壊してよ

頭も心も何もかも
とうの昔に狂っているのだから

ねぇ
最後まで残ったネジを
あなたが外してよ

そうしたら
きっと 僕は幸せ

滝 夏海 10A「望郷の詩」 2002年12月06日(金)23時25分18秒

 帰りたい──どこへ?
 帰りたい──どこかへ

 それは突然自分を襲う
 在りもしない感覚
 急に独りぼっちになった気がして
 切なさに胸を押さえ

 息苦しくなり
 喘ぐ様にして空を見上げ
 ビルの間に小さく覗く空を見上げ

 遠く遠くの
 空を、海を、山を、森を、畑を、草原を

 ひどく懐かしい何処かを思い出す
 思い出せるわけがないのに

 母の代から既に都会で生まれ育っていた私には
 田舎と呼べるものは無く
 故郷は、文字の意味を失い
 また、何度も引っ越しをするものだから
 実家ですらその場所ではなく

 テレビで繰り返し見る風景を
 メディアで繰り返しみる物語で
 故郷という物の姿を、その一般像を
 描き、作り上げられた物を
 それこそが故郷だと
 思い出すべき理想の対象だと
 幼い頃から刷り込まれ

 記憶ではなく記録によって感じる
 それは──

 帰りたい──どこへ?
 帰りたい──どこかへ

 あの場所へ。

滝 夏海 11A「おひさまひとつ ふたつ」 2002年12月23日(月)01時02分09秒

座ってるキミの背中に頬を当て夢見るあたし 日溜まりの猫

あの歌が好きなわけじゃなくて キミが歌うあの歌が好きなんです

天の邪鬼はあなた譲りよMyMother だんだん似てきて腹立たしいわ

照れながらカノジョの話するキミが可愛らしくて憎たらしくて

気を抜くと涙になって溢れ出すもう届かない好き・好き・好き……

アトピーの痒さもキミの思い出も消えてしまえと叫ぶ寝付けない夜

滝 夏海 12A「讃美歌、うたって」 2002年12月25日(水)19時51分25秒

恋人がサンタクロース 店先でサンタクロース 見つけちゃったよ

24、25とまた空いてるの 母の溜め息 父の微笑み

祝いましょ マリアの息子の誕生日 ケーキにろうそく 何本立てる?

サンタさん 可愛いあたし、くださいなっ 靴下の中入らないけど

滝 夏海 12A「あおいろ」 2003年01月18日(土)01時19分21秒

水の色は
水ではなく
水に映り込んだ空の色

空の色は
空ではなく
空を突き進む光の色

光の色は
なんの色?
私が見ている世界の色

私の色は
私ではなく
あなたが創り出す新しい色

滝 夏海 課題1「自己紹介」 2003年04月15日(火)23時36分55秒
▼課題と連絡:課題1/感想文と自己紹介 への応答

 初めましての方も、そうでない方も、今年一年よろしくお願いします。
 表現文化学科3年目の滝といいます。

 小説や詩や歌詞にも手を出してますが、そのどれにも満たないスケッチのような文章の欠片を基本にして書いてます。

 好きなジャンルは?と問われると困ります。が、ジャンルはともかく、日常から少しはみ出てしまった世界が読むのも書くのも好きなようです。或いは非現実的な世界の日常。

 去年は短いモノをぽつぽつ書いては発表してました。今年は例え作品の本数(番号?)は少なくなっても、今までよりも長めの物語を一つ中心に据えてじっくりしっかりやってみたいと企んでいます。

滝 夏海 課題1「自己紹介2」 2003年04月16日(水)11時08分19秒
▼課題と連絡:課題1/感想文と自己紹介 への応答

 前の文を書きながらもやもやしていたものが、寮先生の言葉で少し形になりました。
 自己紹介文を提出し直します。

==============================

 表現文化学科3年目の滝といいます。

 日常ってなんだと思いますか?
 当たり前ってなんだと思いますか?
 現実ってなんだと思いますか?
 楽しいモノかもしれない、つまらないモノかもしれない。でもごく普通に使われている言葉の裏側に、その言葉には含まれない当て嵌まらないもっともっと面白いモノが隠されているんです。絶対に。
 その面白いモノは、綺麗なモノだったり怖いモノだったりどうでもいいモノだったりと様々です。それをちょっと拾い集めて形を作り直す、これが私の文章です。世界を創るのではありません。世界を見る、世界を探り当てるんです。

 今までは少し見つけては書き、見つけては書き、と小説に満たないスケッチのような文章を基本に書いてきました。今年はそれだけではなく、弱点である「長い物語を書く」事を克服する為にこの講義中、一つの物語を中心に据えてじっくりしっかりやってみたいと思っています。

滝 夏海 課題1/感想文「小惑星美術館」 2003年04月21日(月)23時38分33秒
▼課題と連絡:課題1/感想文と自己紹介 への応答

 私たちは一体何歳頃から、当たり前という言葉を使い出すのだろうか。

 「知らない」ということと「知ろうとしない」ということは別物である。知らない事は知れば良い。例え答えに辿りつけなくても、知ろうとした時の経験・課程は違う答えを与えてくれる。でも「知ろうとしない」は「思考しない」と同じこと。余計な事は知らなくて良い。それで充分生きられる。温室の中で幸せに暮らせる。
 それって本当?
 たしかに、それで幸せだと感じる人は居るだろう。現代では、少なくないかもしれない。だけど私には耐えられない、知的好奇心を抑えられた世界なんて。れんがの月の子ども達だって、そう。表に現れていないだけで、心の奥底には「知りたい」が沢山積もっている。
 別の世界の『ユーリ』と出逢い、小惑星美術館の謎を解き、真実を知り、彼らはマザーに飼われたヒトから人間になった。過ぎた親切から解放された。
 記憶を消す事を決めた人々を非難する事は、私には出来ない。失った物に対する幸せな記憶が、時には残酷であるということを知っているから。けれど、ガイアを殺したのはその人々だから、自分たちがやった事なんだから、逃げては欲しくなかった。本当はたぶん、記憶を持ったままでいなければ、いけなかった。ガイアを取り戻す為に。新しい死の星を創らない為に。
 『ユーリ』の住んでいた世界が、もう一つの世界で言われた箱船かどうかは分からない。別の宇宙の話や遠い未来の話なのかもしれない。『ユーリ』は彼なりの答えを見つけた。手を伸ばして精一杯の答えを掴んだ。それでいいんだと思う。

 私たちは多くの事を知り、多くの事を学び、その経験から自分の真実・現実そして植え付けられた「当たり前」を見直した上での新しい当たり前を捕まえる。それが成長というものなのだろうか。

滝 夏海 作品1A「蝶の名前」 2003年04月23日(水)18時53分33秒

<Side:A>
 カーテンから透ける9月の光が煩い。顔を顰め避けるように寝返りを打つ。ついでに薄手の毛布から手を伸ばし、目覚ましを叩く。細めた目で表示を見るとセット時刻より幾分早い午前六時四十一分。その中途半端な時間が何となく嫌だ。嫌だったが、二度寝するには時間が足りない。やっぱり遮光カーテンを買おう。そう心に決めながら渋々ベッドから抜け出す。もう二ヶ月で不要になるかもしれないが。
 そういえば、夢を見ていたような気がする。内容は憶えていないから、大した夢じゃあないのだろう。

<Side:B>
 セピア色の風景。
 剥き出しのコンクリート、見覚えのある大きな建物。
 無機質なステージで、白い影が踊る。

<Side:A>
 流れる水の音で意識が戻る。取り落としそうになる歯ブラシを握り直し、慌てて蛇口を閉める。口から垂れる歯磨き粉入りの唾液を手の甲で拭い、鼻からゆっくりと息を吸い、吐く。
 棚に放り投げた腕時計を見ると、鏡に向かってからゆうに十五分は経過。電車に乗り遅れないよう、支度に戻る。
 けれども、あのイメージが頭から離れない。

<Side:B>
 セピア色の風景。オフィス街のビル群。
 エントランスを抜けると、剥き出しのコンクリートの
 壁、壁、壁。
 四方を囲まれた無機質なステージで、一人の少女が踊る。
 白いスカートが、舞い揺れる。

<Side:A>
 激しい揺れに続く頭部への鈍い痛みで目が覚める。どうやら急カーブでの揺れに対応しきれず、額を電車の扉に打ち付けたらしい。車内のあちこちで似た状況が見えたが、どうでもよい。網棚から落ちかけている茶の革鞄を奥へと押しやり、体制を立て直し再び手摺りに凭れ目を閉じる。

<Side:B>
 少女が足を上げる。スカートが持ち上がる。
 少女がくるくる回る。スカートが円形に広がる。
 少女が高く飛び、音もなく着地する。スカートがふわりと靡く。
 少女が手を伸ばす。

<Side:A>
 発車ベルに急かされながら人の流れに逆らわずに車外、そして駅の外へ。秋といえども蒸し暑い日本、狭い空間で熱源に揉まれていれば汗もかく。ネクタイは緩めずワイシャツの襟首に人差し指をかけ、僅かながら風を通す。依然、休むことなく人波に流され続け、その波も横断歩道で一度止まる。

<Side:B>
 少女が手を伸ばす。
 抱き上げられるのを待ち望むように。
 落ちてくる物を受け止めるように。
 否、其れは

<Side:A>
 人は歯車に過ぎない。それは全体主義の話ではなく、個人主義への批判でもない。事実だ。
 信号が青になる、止まっていた群れが動き出す。一方向へ、同方向へ。本流から支流へ分かれビルに飲み込まれもするが、逆流は許されない。しようとも思わない。全体の意思。
 ふと、振り返る。後ろから前へと流れていた波が、今度は此方に向かって襲いかかってくる。いやそんな事はない。襲いかかるほどの関心など、波は持っていない。追い越す人々に肩を肩で押され、波の一部に戻る。そういえば、何故振り返ったのだろうか。分からない。理由などないのだろう。

<Side:B>
 エントランスの真上には、多角形の空。
 飾り気のない吹き抜けから少女を見下ろす、天の蒼。
 セピアを彩る、透明な蒼。
 少女が手を伸ばす。
 抱き上げられるのを待ち望むように。
 落ちてくる物を受け止めるように。
 否、其れは

<Side:A>
 歯車は全体であり個である。単体では役に立たず、一つ抜けただけで全てを無に変える。全体に動かされ、全体を動かす。連動。
 流れの傍らに一カ所、無人の空間があった。ビルとビルの隙間、エアーポケットに身体を滑り込ませる。何かをしたい訳ではない。して言えば気紛れ。其処から覗く流れは、笛吹に導かれる鼠の行進のようで滑稽だった。うっすらと嗤いを浮かべ天を仰ぎ見る。真上には多角形の空。
 あのイメージを思い出す。
 少女の真似をして、手を伸ばす。
 抱き上げられるのを待ち望むように。
 落ちてくる物を受け止めるように。
 否、其れは

<Side:A&B>

 解放

<Side:C>
 流れのざわめきが途切れた。訪れる静寂。無。セピア色のあのイメージが、朝から脳裏を離れないあのイメージが襲ってくる。強烈な不安。辺りを見回すが、取り囲む無機以外に何も見えず。流れは何処へ消えた。彼らは何処へ行った。空を見上げれば、同じ多角形の蒼。其れが急に遠のいたようで。取り残されたようで。
 堪らず、大通りへ走り出る。

<Side:B>
 少女は手を上方へ広げたまま、ゆっくりと此方へ振り向く。
 顔の辺りがぼやけていて、表情が分からない。
 静かに手を下ろし、二三歩近付いてくる。
 スカートが足にまとわりつく。
 肩口に乗っていた黒い髪が、背中へと流れ落ちる。
 そして、口を開く。声が、聞こえない。

<Side:A>
 ビル間から抜け出ると、途端にぶつかるざわめき。横から押し付ける人波。岸辺に引っ掛かった枝のように流れを分断する自分に気付く。振り返れば、其処には人の居ない隙間。前を向けば人の波。
 と、視界の端にひらひらとはためく白い影が映る。邪魔者への迷惑そうな視線を受けながら波を掻き分け、其方へと渡ってゆく。逃げるような、誘うような影を追い。先へ、もっと先へ。

<Side:C>
 先へ、もっと先へ。
 先へ、もっともっと先へ。
 影を追って十字路を右へ曲がる。流れの抵抗が消える。はっとして周りを見回す。また、だ。また誰も居なくなってしまった。それを確認している間に、影も見失う。不自然な静けさに自分自身の呼吸音が煩く焦りが怖れになる。目を閉じ、胸元のシャツを握りしめる。シャツが、駅へ降りた時よりも汗ばんでいる。

<Side:A>
 十字になった各道路に別れ人は流れる。信号で止まり、落とした荷物を拾う或いは靴ひもを結び直す誰かを飲み込み、そうしながらも決まったリズムで流れ続ける。その内の何人かは気付いただろう、群れの中にほんの小さな隙間があることに。流れに逆らい移動するような、空気の点があることに。けれども一人として気が付きはしないだろう、その点を避けるように己が動いていることに。全ての人がそうであることに。

<Side:B>
 手を下ろして少女が近付く。
 肩に乗っていた長い髪が、動き共に揺れて背中へと落ちる。
 目の前で足を止める。
 表情は見えないが、此方を見つめているくらい判断出来る。
 そして口を開く。声が
 ああ、声が聞こえない。
 何を言っている、いや、言っているのかも分からない。
 唇が動く。声が、音が

<Side:C>
 呼ばれた気がする。実際に声が聞こえた訳ではないが、何かが呼んでいる気がする。眉を寄せ薄く目を開け、荒い呼吸のまま蹌踉めきながら足を進める。静かすぎて耳鳴りすらしてくる。歩いているのか躰を引きずっているのか曖昧な意識で、道を曲がり角を横断歩道を移動してゆく。しているのだと、思う。
 いくつもの分岐点を過ぎ、やがて知る事実。
 膝に手を置き上半身を支え、辿り着いた建物を見上げる。あのイメージの建物を思い出す。なんだ此処だ。職場じゃあないか。無意識に口元が疲れた笑いを刻む。
 一つ深呼吸をして、エントランスを抜ける。
 耳鳴りが、止む。

 エントランスを抜けると、剥き出しのコンクリートの
 壁、壁、壁。
 四方を囲まれた無機質なステージで、一人の少女が踊る。
 白いスカートが、舞い揺れる。
 少女が足を上げる。スカートが持ち上がる。
 少女がくるくる回る。スカートが円形に広がる。
 少女が高く飛び、音もなく着地する。スカートがふわりと靡く。

 そして少女は此方へゆっくりと振り返る。

  「待ってたわ。お帰りなさい」

 待たれる理由はさておき、お帰りなさいと言われる覚えはない。
 そもそも、彼女は誰だ。
 その黒い髪を白い服を人形のような顔を、何処かで見たような気がする。でも思い出せない。引っ掛かったまま、出てこない。

  「あなたは私を知らない。でも、私は知ってる。
   いつも、見てる。
   此処で、この場所で」
「君を見かけた事など、無い」
  「でも私はずっと此処に居た。
   此処に居る。
   誰も気付かない、でも居る」

 少女は舞を再開する。手を揺らめかせ、足を伸ばし、スカートをはためかせる。お帰りなさいお帰りなさい、と口ずさみ。

  「ねえ、あなたは其処に居ると思う?
   コギト・エルゴ・スム
   それは本当の事だと思う?」
「君が居るというなら、俺も居るのだろう」
  「私という世界の端末は居るわ。
   でもそれが私という個体とは限らない。
   私の世界に私は居るわ。
   それが存在の有無の決定的な証拠にはならない。
   あなたの世界に私は居ないわ。
   それが存在の有無の決定的な証拠にはならない」
「思春期の子どもでもあるまいし、今更何故そんなことを考えさせる。俺の世界に俺が居る。君の世界に君が居る。それで充分じゃあないか」
  「でも他の人は居ない。それが怖かったんじゃないの?」

 大きく手足を動かし同じ振りを繰り返し飛び舞う彼女の他に、誰も居ない。そう、確かにさっきまではそれが怖く思えた。今は?……もう何も感じない。何も考えたくはない。

  「誰もが認識する世界。
   誰も認識しない世界。
   どちらも同じ世界。
   今、あなたは此方側を見ている。
   今まで、あなたは彼方側だけを見ていた。
   ただ、それだけ」

<Side:A>
 オフィス街のとあるビルに、何人もの人が流れてくる。ロビーにエレベーターにと人は分散し、不規則な規則でを形作る。彼らは自分の意思で若しくは仕事上やむなく、ビル内を行き来する。縦横無尽に。
 ある一カ所を除いて。

<Side:C>
  「見ているのかしら?
   見るように仕向けられているのかしら?
   あなたは考えているの?
   私は考えているの?
   それとも」

 単調な踊りに段々と意識が霞んでは戻りを繰り返す。間近で振られる少女の手が輪郭を失い、また形作られ。なにがどうなっているんだ。

  「人は歯車。
   世界を構築する物の一つに過ぎない。
   けれども、世界とは何かしら?
   一体何の事なのかしら?」
「何が言いたい」
  「答える必要があるの?
   あなたは、解っているのに」
「解らない。だから訊いているんだ」

 解らない。違う、解りたくない。
 解っているということを知りたくない。

  「世界と個が、表裏で。
   個の意思は全体の意思で。
   ねえ、それじゃあ個って何なのかしら?」
「君は此の世界唯一の個であり、全体。俺はあの世界の全体の一部分であり、個」
  「唯一の個は、存在していると誰が証明してくれるの?」
「世界が」
  「世界って、ねえ世界って何?
   個の集合体が世界なら、私は私にしか証明出来ない」
「それで良いんだろう。確かなものなど、何も有りはしない。存在すると信じ込む事しかできない」
  「信じているの?
   信じ込まされているの?」
「自分の意思で信じている、と信じる」
  「存在しないかもしれなくても?」

 縋るような声に、目を見開く。
 その瞬間、少女が、見えた。意識が澄んでゆくのが分かる。
 真正面から向けられている彼女の瞳が、滲み。
 そこに映っていた男の姿が、瞳に滲み。
 広い世界に一人きりで居た彼女と世界に溶け込んでいた自分が重なる。かけ離れているようでいて、本当は同じ存在なんだと気づかされる。
 と同時に思い出す。彼女は、あの少女だ。朝から何度も見ていた、あのイメージの少女だ。
 そして。
 込み上げる笑いを抑えるよう深く息を吸う。

「分かった、言ってあげるよ君の欲しい言葉を」

 そう知っている、彼女が何を望んでいるのか。

「完全に思い出したよ、君は夢に出てきた少女だ。毎日毎日夢に出て来ては、同じ事を繰り返して訊く少女だ」

 少女がそっと目を伏せ、唇に笑みを掃く。呼吸に合わせて、スカートが揺れる。
 短い沈黙。
 答え合わせをしようか。

「真実は、関係ない。本当の事など、どうだって良い。信じていればその間だけは必ず存在する」

  「ありがとう」

 少女の声と共に、足の力が抜けてゆく。重力に従い崩れるように膝をつき、頭は首の据わらない幼子よろしく後方へと凭れ、仰向く。
 エントランスの真上には、多角形の空。
 飾り気のない吹き抜けから少女を見下ろす、天の蒼。
 セピアを彩る、透明な蒼。
 少女が手を伸ばす。
 抱き上げられるのを待ち望むように。
 落ちてくる物を受け止めるように。
 否、其れは

  「戻りなさい、あなたの世界に」

 解放

  「きっとまた、私は迷い、あなたを呼ぶ。
   あなたは私を忘れる。夢だと思う。
   けれどまた、答えをくれる」

 少女は手を上方へ広げたまま、ゆっくりと此方へ振り向く。
 顔の辺りがぼやけていて、表情が分からない。
 静かに手を下ろし、二三歩近付いてくる。
 スカートが足にまとわりつく。
 肩口に乗っていた黒い髪が、背中へと流れ落ちる。
 そして、口を開く。声が、聞こえない。
 声が、声が、声が、あああああああ

<Side:A>
 鞄が足元に落ちる。意外に響く音に我に返る。握っていたはずの右手が強張ったように痛い。大体、何故エントランス脇なんかで膝をついているんだ。自分が何をやっていたのか疑問に思い記憶を探るが、どうにもはっきりしない。近くから呼ぶ同僚の声に左手を挙げ合図し、僅かに首を傾げ腑に落ちぬまま鞄を拾いエレベーターの方へと向かって行く。まあ良い、この感覚も直ぐに消えるだろう。



 俺は世界の夢を見る
 世界は俺の夢を見る


(完)

滝 夏海 課題2/かっこわるいかっこよさが見える文 2003年05月07日(水)18時44分52秒
水落麻理 作品1A かっこわるい恋とか愛 への応答

すらっと読めるし気持ちいい。女性向けのコミックにありそうだし、9時台や10時台のドラマにもなりそう。でも、まだ物足りない。読み終わった後の印象が、薄いんです。キレイで透明で、だけど手で掬っても指の間からこぼれ落ちてしまってあまり残らない、水みたいな文章だなと思いました。もう少し細かい部分(地の文の言い回しなど)に気をつけたり書き込んだりするだけで、だいぶ良くなると思います。
例えば年齢。OLの幅は広すぎますから、だいたい何歳くらいなのか見当の付くキーワードを入れた方が主人公が見えやすくなります。他に、健太とつき合って長いのか、とか想像出来るようなほんの小さなエピソードを加えてみたり。
そうすれば、コップといわずにピッチャーや盥で掬って飲み干して「あぁ、満足した」と言える所までなるんじゃないでしょうか。

滝 夏海 作品2A「タイトル未定/プロット1(あらすじのみ)」 2003年05月07日(水)23時58分06秒

<あらすじ>
 ある日こだまは学校をさぼる。何が嫌だというわけではないが、なんとなく何もかもが嫌でつまらなかった。気の向くままに自転車を走らせていると、見知らぬ道に入り込んでしまう。霧の立ちこめる道の先には青い扉と青年。近づいてきたこだまに青年は言う「扉を潜ると違う世界へ行ける。気に入ればずっと暮らす事も出来る」と。考える期間は3ヶ月、それまでに決めるという約束でこだまは扉を潜る。
 扉を通り抜けたこだまは、不思議な世界を目にする。扉の前にいた青年が住むというどこに居ても見えるほど高い、真っ白な塔。一年中雨の森。世界を一周する、端のない川。赤い煉瓦の街。猫の耳や犬のしっぽの生えた、人では有り得ない住人達。そしてこだまと同じように迷い込んだ人々。こだまはそこでのどかで楽しい日々を過ごす。
 その世界でこだまは1人の少年と親しくなる。少年はこだまのことを「エコー」と呼び、自分も彼女も元々この世界の住人であると言う。しかしこだまにはそんな記憶は無い。住人だったと言い続ける少年と、否定するこだま。だがなんとなく見覚えのある風景や住人、何故か知っていた場所・習慣に出会い、段々とこだまは自分の記憶に疑問を持ち始める。
 さらに、知れば知るほどはっきりとしてくる、世界の不自然さ。霧に囲まれて一定範囲から出られない世界、成長しない住人、存在しない死。あとから教えられた住人になる条件「なりたい体を得る代わりに、今までの記憶を消すこと」。
 悩むこだまを置いて、他の迷い込んだ人々は帰る者と姿を変えて残る者に分かれていく。
 期限が迫り、あの青年なら、一番知りたい事を知っているのではないかと思い、こだまは塔を登る事を決める。最上階の部屋は壁一面に本が並び、中央には白い扉が置かれている。そこに居たのは最初にあった青年と、こだまのことをエコーと呼ぶ少年。真実を知りたがるこだまに、青年は一冊の本を渡す。開くとエコーと呼ばれていた時の事が、断片的に映像として頭に浮かんでくる。自分はこの世界の住人だった事、迷い込む人々に興味を抱き、人の体を得て彼らの世界へ出ていった事など、全てではないが思い出すこだま。そして本来戻るはずのないこだまを、少年の想いが呼び寄せたことを知る。その上で、こだまはエコーではなくこだまとして生きる事を選ぶ。
 別れを告げ、白い扉を潜るこだま。また少年も世界との別れを決め、後を追うように扉を潜る。
 気が付くとこだまは元の道に戻っている。時は動いておらず、脇には倒れた自転車。不思議な世界の事を忘れ何もなかったように自転車をこぎ出すこだま。世界の記憶は無いが、扉を潜る前よりも気持ちは前向きで明るくなっていた。

滝 夏海 課題3/「女の子」のリアル 2003年05月14日(水)18時11分18秒
▼課題と連絡:課題3/奥野美和短歌作品の選句・選評 への応答

1:ちょっとだけ腕をつかんでみたくなった くやしい、わたし恋をしている

そう、くやしいの。腕をつかんでみたくなったり、髪に触りたくなったりと、手がむずむずして「あっ」と思う気持ちはとても可愛いと思う。この子は腕を掴んだのかな、掴めなかったのかな、掴まなかったのかな、とこの後を想像しても楽しい。負けず嫌いな「女の子」の歌で、共感しました。


2:本日は家族でナベをしますのでデートは5時で切り上げます

恋の歌は「相手」と「自分」(と「恋敵」)に焦点を当てたモノが多いけど、この歌はそこに「家族」を出してくる。「家族でナベ、だから5時で切り上げる」と言える事から見える2人の距離が良い。


3:さみしいと言ったらすべてがこぼれてくそんな気がして手で確かめる

口に出せない、という事で不安な気持ちが表されている。手で確かめても一時しのぎにしかならない、どうにもならない切なさが伝わってきます。

滝 夏海 課題6/さびしいイメージが強く残る詩達 2003年06月02日(月)23時53分42秒
▼課題と連絡:課題6/外島理香作品1〜17の詩の批評 への応答

他の方も言っているように、外島さんの詩は全体的に孤独・孤立を感じさせます。
とっても個人的な事ですが、一時期マイナスの要素が溜まると詩を書いていた事があり、それを思い出しました。

一番印象に残った作品は作品2A/「大都会の喧騒〜27階の非常階段〜」 です。
詩でありながら1人芝居やモノローグを思わせる文章なので、声で聞いても面白いと思います。
ただ一つだけ気になったのは3段落目
こんな音
聞き続けていたら
僕は気が狂ってしまうであろう

ここで「であろう」という言葉を使ってますが、音の流れとして「だろう」の方が良いのではないでしょうか。

滝 夏海 課題4/そよ風に雨粒光る 2003年06月03日(火)23時20分17秒
▼課題と連絡:課題4/恋の歌三首 への応答

重要なとこだけいつも聞き逃す 明日の事とか誰が好きとか
授業中 うたた寝してる横顔をそっと見つめてそっと笑って

困ってる笑顔が一番好きだから キミ専門のいじめっ子になる

叫んでも 振り向く人はもういない 泣く場所探して街を彷徨う
あたしたちカイとゲルダになれないの 涙もキミに辿りつけない
行かないで あの日素直に言えてても きっと今頃後悔してる

滝 夏海 課題7/「記憶の空の果て(仮)」を考える 2003年06月09日(月)19時50分35秒
高橋阿里紗 作品1/「記憶の空の果て(仮)」プロット への応答

この作品のプロットからリアリティのある世界観を作る時、いくつかの方法が考えられます。
1つは、島本君の言うように「日本が破綻している」など徹底した近未来にしてしまう方法。
1つは、五十嵐さんの言うような近未来でも「学園都市」のような世界にしてしまう方法。
私は他にパラレルワールドを挙げておきます。近未来の日本のようで、プロットにあるものなら教育システム自体がどこか違う。その世界では日本がアメリカから離れようと試みている。現在の社会を見て、将来を考えるよりも造り替えちゃいたい人にお勧めします。

プロットを読んで気になったのはメールの扱いです。
軍の関係者と外の人とのメールって、平気なんですか?虎視眈々と独立を狙っているような状況なら、軍事関係は厳しくなっていて、メールは盗聴されるか検閲がかかってるように思うのですが。主人公達はそれを分かっててメールしているのでしょうか。(この疑問は新海誠の「ほしのこえ」というメールと遠距離恋愛と宇宙戦争を使ったアニメ作品でも思ったんですが、あれは読まれていても問題のない内容でした)
もしメールを小道具として使いたいのであれば、こんなものを考えてみました。例えばメールの形だけではなく送信方法(今なら電話回線なんでしょうか)も今とは違っていて、現代有る送信方法が旧時代の物として忘れ去られていたが、主人公達はその方法を知り扱う為の道具も手に入れる。ちょっと無理がありますね。

少しきつい事を言うと、このプロットだけだと、どうしても「軍や親殺しやトラウマが格好よくって使ってみました」というだけの背景設定の薄い少女小説にしか受け止められませんでした。
この作品はきちんと設定を作り込んで書けば、読み応えのあるものになります。けれども設定があまくなってしまうと、上に書いたようなものになってしまいます。物語上「キャラがしっかりしていれば多少設定が甘くても面白い」といった作品にはけしてなりません。便利そうでいてなかなか難しい小道具ばかりなので、頑張ってください。

滝 夏海 作品2B「タイトル未定/プロット2(世界観:概要)」 2003年06月09日(月)23時48分56秒

【住人が認識している世界】
・世界
時空の狭間を漂っている。塔に世界の管理者が住み、秩序を守る。外と繋がる【扉】が存在し、そこから外の人が迷い込むことがよくある。同じ場所に【扉】が開いている期間は一巡り(一年)で、四季の最後の「嵐の月」が来ると【扉】は閉まり移動を始める。

・地形
塔を中心とした円形で、端に向かうと霧が濃くなる。外へと歩いていてもいつの間にか内側へ戻ってしまう。森や低い山、川、湖が存在するが、高い山や海はない。丸一日歩き続ければ円の直径を端から端まで行ける広さ。

・時間
時間はあり日本のような四季が存在するが「年」という感覚が無い。季節が一巡りして嵐の月が来たら、また始めに戻る。「年」単位で積み重ならない。

・住人
人数は分からず、いつの間にか増えたり減ったりする。「居なくなる」けど「死」なない。

・旅人
迷い込んだ人々。持てなすのが礼儀。

・住居、街
多国籍な雰囲気の街が一カ所。他は森や草原に一二件ずつ。



【実際の世界(小説内であまり使わない設定)】
・場所
遥か未来。スペースコロニー(もしくは星)に建設されるが途中で放置された、癒しを目的としたテーマパーク。本星(地球)とはだいぶ離れている。ドーム型。本来は【扉】が本星とを繋ぐ役目をするはずだったが、バグによりパークとは時代の違う本星とを繋いでしまう。

・住人
人工知能を組み込み人に近い要素で造られた機械仕掛けの人形。パークに来た客を持てなすための存在。学習はするが外見的な成長はしない。
 *現在は機械の体に乗り替えた人間達が「住人」となっている。外から来て住み着いた人間がほとんどだが、管理者などパークにとって重要な役割を持つ者は、元研究開発スタッフ。

滝 夏海 作品2C「タイトル未定/プロット3(主要登場人物)」  2003年06月14日(土)01時47分00秒

<主要登場人物>

・こだま
15才、中学3年(6年制私立で受験生ではない)
3人家族(父、母)ひとりっ子
いろいろ考えていて行動がワンテンポ遅れる為に、とろいと思われがち。芯はしっかりしているが、決断力に欠ける。
現実に退屈していたが、不思議な世界を知る事で自分のいた世界を再確認する。

・エコー
10代半ばの少女。不思議な世界の住人(以下、住人)。
街ではなく1人で森に住む。
好奇心旺盛で、旅人や彼らのいた世界の強く惹かれる。
結局住人だった時の記憶を消し、旅人達の世界に行き「こだま」として暮らし始める。


・(名前未定)
10代前半の少年。住人。管理者の補佐役。物事をすぐに忘れる住人とは違い、比較的長く(記憶力の良い人間程度)記憶を持ち続ける。
やんちゃ。時々大人びた表情を見せる。
エコーの事が好きで、こだまにもしつこく付きまとう。
こだまを住人に戻そうとするがこだまと過ごすうちに考えを変え、最後は記憶を持ったまま彼女を追って同じ世界に旅立つ。


・(名前未定)
20代後半の青年。世界の管理者。
普段は塔に住み【扉】を管理する。【扉】がどこかと繋がった場合は、旅人の案内役も務める。他に住人の記憶を【本】として保管、管理したり、世界の隅々を監視し補佐役に指示を出す。
物静かな印象を与える容姿や行動、しゃべり方。感情の起伏が少ない。
記憶を消すということに疑問を持っているが、管理する為の他の方法も見つからず半ば諦めている。


他に迷い込んだ人々の中でこだまと仲良くなる人を2〜3人。

滝 夏海 課題9/「るりえの帰還」の批評 2003年06月25日(水)18時23分53秒
古内旭 作品1B「るりえの帰還」 への応答

設定自体は面白いが物語としていまいちぴんと来ない、というのが一番初めに読んだ時の感想でした。それはリアルに感じさせる部分よりも、違和感(それも話の筋以外での)が目立ってしまうからではないかと思います。

まずみんなが書いているように、主人公達が年齢以上に大人び過ぎている点。
彼らが大人びている、ということをもし使う必要があるのならば、もっと彼ら以外の登場人物を出してきて際だたせなければなりません。彼らの中の誰かが大人びている、のならばその人物以外は年相応の(と読み手が思う)考え方や言葉遣いになるでしょう。

他に言葉遣いについて言うなら、地の文が回想している蓮田と当時の蓮田が混ざっているように思えるのですが。混ぜるなら混ぜるで、言葉遣いの違いをはっきりさせて書かないと年齢差が消えてしまうし、そうでなければ徹底的に回想の形を取った方がすっきりします。

回想の仕方も気になります。
この話の2/3は回想シーンで、しかもそのほとんどが小学校時代です。その後にざーっと残りの年数を埋めるような話が入り、走るようにして今の話が入り、締めが来ます。その所為でしょうか、私だけかもしれませんが夢落ちの物語を読んだような気になってしまいました。

そして何より気になったのが、話の流れと場面転換でした。
空想 → 今 → 小学校時代 → その後 → 今、となっていますが始めが飛びすぎです。いっそのこと流れを作らずにきっぱりと2〜3のパートに分けてしまってもいいのでは。


最後に付け足しですが、クラリネットを吹くシーンがやたらとリアルで笑えました。
そうなんだよ親指痛いんだよねぇ、と。

滝 夏海 課題10/瓜屋香織さんの短歌の選歌と感想 2003年07月09日(水)23時35分45秒
▼課題と連絡:課題10/瓜屋香織さんの短歌の選歌と批評 への応答

 技術面では荒い部分が多く目立ってしまいますが、それ以上に見ているモノが面白い。意表をつくようでいて、なんとなく納得させてしまう勢いが瓜屋さんの短歌の言葉にはあると思います。迷いましたが、次の3句を選びました。


・飛び込みたい 人が詰まった 電車の中 飛び散る私を 見せてやりたい

 ああ、なんて迷惑な人なんだろう。と吹き出してしまいました。後ろ向きな行動のはずなのに妙に前向きに見えるところが好きです。


・フツウの子 制服着ると 強くなる 鎧みたいね 何を守るの

 「制服を着る生活」から少し離れたから言える歌なんじゃないでしょうか。この歌の「ね」は話しかけるようでいいと思いました。


・人が見る 私とあたしが見るあたし どっちがホント どっちニセモノ

 5・7・5で切ってしまったのが、勿体ない。予想外の角度から見た言葉が多い作品の中、真っ正面から投げられていたので余計に印象に残りました。私自身は「私」も「あたし」も全部自分の一部でしかないと思ってます。

滝 夏海 課題11/夢の標本箱2003 2003年09月24日(水)16時19分47秒
▼課題と連絡:課題11/夢の標本箱2003 への応答

(カギ括弧からが本文、その上の一文がタイトル)


まず一枚、と彼は言う

「昔、偉大な魔法使いが
 あらゆる国を駆け回り
 あらゆる物を閉じ込めた。
 一枚残った空きカード
 寂しがり屋だから
 あんまり覗き込むと
 君を吸い込むよ    」



王族星、と次を出す

「え、知らないって?
 とある王国の伝説だよ。
 姫の星と王子の星。
 光は届くのに
 触れる事は叶わない
 切ない恋の物語    」



この蝶は、と指し示す

「魔法の時間が化石になると
 砂糖菓子になるんだってさ」



不思議だろ、と呟く

「その国で使うランプは
 時を燃料とするそうだ。
 今でも燃え残った時間達が
 ほら          」



最終章、と僕を見る

「物語はこれでお終い。
 さぁ、サイコロを振って
 君の人生を進めなさい 」

滝 夏海 作品3A「キャンディ・カラー」 2003年10月13日(月)01時40分10秒

忍耐や努力・根性嫌いです 負けず嫌いが呟く本音

女にはなりきれないでカフェテラス 膝小僧とルージュのおしゃべり
騒がしい口に突っ込むロリポップ 今度は話ちゃんと聞くよね
カレのため キミが選んだそのマフラー あたしの方がもっと似合うよ
「好きだよ」と口の中で転がしてガリッと噛んだ 今日はやめとこ

頷いてそうだと言って慰めて 反論批判 キミには不要

キミのこと あとで嫌いになる前に忘れちゃうから ちょっと待ってて

手を伸ばし握りつぶした青い鳥 もう逃がさない もう追いかけない

滝 夏海 課題14/「サイケデリック」を考える 2003年10月21日(火)22時40分26秒
▼課題と連絡:課題14/越智美帆子作品2A「サイケデリック」批評 への応答

 次の授業に出られないので、感想だけでも提出します。

 私は幻想小説が好きなので、先がどうなるんだろうかとちょっとどきどきしながら読み始めました。文章の表現方法でひっかかる部分はありましたが、世界やおおまかな流れでは楽しめました。が、最後まで読んだ時「あぁ」と妙に納得してしまいました。何が「あぁ」なのかと言うと、監禁というネタが「あぁ」なんです。これ、意外性があるようでいて、一部の人間には意外性が無いネタなんです。一部の人間というのは、ネット小説を読んでる人間やネットでイラストを見て回ってる人間なんですが。幻想の世界と手錠、監禁。医療系写真素材を使うようなサイトで最近溢れてるモチーフですよね。おかげで食傷気味。どうせ監禁にするならもっと捻っても良かったのでは。

 表現でひっかかったのは色の扱い方です。
 サイケデリックの通り原色を中心に色々な色がでてくるんですが、どうしても浮き上がってきません。色は見えるんです。でも、わっと目にはいるような色にならないんです。だからどうしても小説の印象が淡い水彩画。色を意味する単語が物の名前と一緒に出てきて、その説明使われる事が多いせいかもしれません。
 他に「カラフル」「どぎつい」という単語が出てきます。便利な単語ですがそれに依存してしまうと逆に色はぼやけてしまいます。例えば風船のシーン。「カラフルな風船」だけではなく「赤や黄色や青やとにかく俺には表せないほど沢山あるカラフルな風船」のようにちょっと付け加えるだけで変わりませんか?アイスクリームも「どぎつい」だけではなく、「ワゴンから覗くアイスクリームの自己主張しすぎた赤」とか。

 文体に関しては、自分に関する「思った」「言った」もしくは「俺」を出来るだけ消してしまうやりかたもあります。そこまでやらないにしても、部分部分過剰な感じがしたので、そういったものの整理をするともっと雰囲気がでるのでは。

 この手の小説で重要な事は、やっぱり独特の世界観でしょう。今のままではまだまだ物足りません(個人的に、ですが)。もっと世界を深め、言い回しを作り上げていけば読者を引きずり込む物になるし、そうなったものを読んでみたいと思います。

滝 夏海 課題20/「連星」を読んで 2003年12月03日(水)00時20分48秒
▼課題と連絡:課題20/東條慎生作品1A「連星」批評 への応答

 頭がくらくらしました。論理パズルを解いている気分です。
 手紙を繰り返し読んでいると、まるで『わたし』という3文字が主義主張をしているような不思議な感じがしてきます。一人称で語る、のではなく、一人称が語る。
 この小説の大きなポイントはやはり、あなたの書いた小説の主人公=手紙を書いた『わたし』、あなた=『連星』の主人公である『わたし』=『連星』での東條氏、『連星』の書き手である東條氏、というところでしょうか。考えた事を整理して書こうと思ったんですが、まだ混乱しているのでこれ以上のことは無理そうです。

 内容以外では、形式の事が気になります。
 この小説は、手紙ではなく電子メールの形を取っています。手書きよりもつらつらと長く書けるのは電子メールの特徴です。でも、手紙よりもすぐに送れる、というのも特徴としてあげられます。
 せっかくこの形式にしたのだから、もうちょっと切ってみてはどうでしょうか。読んだ感じでは「論文について」「手紙が届いた事」「それに関して考えた事」の3つに切れそうです。また、その合間に「『秋月氏』からの返事が届いた」と仮定して返事に対する文章(例えば「君は〜〜と書いていたが」など)を組み込むと、もっとメールという形が生きてくると思います。実際に返事を小説内で書か無くて良いとは思いますが。

 ところで秋月氏が一番謎なのは、私だけですか?

滝 夏海 課題21/「森乙女の呪い」を読んで 2003年12月10日(水)00時10分52秒
▼課題と連絡:課題21/古内旭作品3「森乙女と呪い」批評 への応答

 古内さんの作品で毎回のように思う事なんですが、映画(や小説)のあらすじを読んでいるようでした。
 世界観はなんとなく解るし、物語や場面の情景も浮かぶのですが、表面をざーっと撫でているようで盛り上がりません。今回、登場人物の心の動きがほとんどわからない分、余計にそう感じられました。そのせいで物語っぽさとは逆に、説明っぽい部分が目について、多い気がしてしまいます。台詞が入る時『「●●」と誰々は言って(叫んで)』という形が連続して出てくる事も、説明っぽく感じてしまう要素でしょう。
 これが、例えばRPGゲーム(アドベンチャーでも可)に付属しているおまけ的なプロローグだったらそれでも良いのかもしれません。世界に関する基本的な知識を紹介し、主要人物の関係を教え、さぁこれから宝玉を探しに行こう!と。

 外枠についてはこれくらいで、内容についてですが。
 たしかにツッコミどころの多い話ですが、作者がどれくらい意図してやっているのか判らないので、その辺りは授業中他の方の感想やツッコミとそれに対する反応を見て考えたいと思います。
 個人的に、ツッコミをいれたかったのは、初めの方にあった<明日の風>亭で森乙女がチンピラと喧嘩をしている場面の地の文「森乙女はまるで体操の技のように一瞬で起き上がった。」こんな世界設定の中で「体操の技」って。
 あと、気になっているのは、宝玉を使って森乙女(外見)は何をしたかったのか。凍結した精神の解放=魂が元の器に戻る、ということなんですか?それとも、外見そのままで意識だけ戻るんですか?(それなら、また凍結しそうですが)「精神の解放」「魂を呼び戻す」だけではどちらなのか判らなかったもので。

 ところで凍結したナターチカの精神を戻すのに宝玉を使うかどうかってところで、「カーシャを復活させてから、彼女にナターチカを戻してもらう」という選択肢が最初っから無かった事になっているのはわざとでしょうか。ラズーヒンなら言い出しそうかな、と。で「復活するという確証がない」とかなんとか森乙女(外見)に返されたり。

 最後に純粋な感想なんですが。
 地下倉庫であれだけ罠に引っ掛かり魔物に襲われたにも関わらず「我々は不要なものまで盗む気は無い」の後に「サルーハンという魔法使いは、悪人ではなかろう?」なんて言えちゃう森乙女(外見)にすごいと思いました。

滝 夏海 今日も私は欠片を見付ける 2004年04月14日(水)01時06分04秒
▼課題と連絡:課題1/自己紹介 への応答

 息の仕方を知っているように、歩き方を知っているように、幼い頃から何故だか分からないけど物語の欠片の見つけ方を知っていた。ふっと何かを見るだけで(見えないモノも含め)、違う世界へ飛べた。いや、違う世界なんだけど、自分にとっては生活空間と同じ世界だと思ってた。今だって、街を歩けば、欠片の方から飛びかかってくる。でも、それらはあまりにも欠片過ぎて、どうして良いか分からず途方に暮れる。パズルのように組み合わせれば『物語』として通用するだろうが、その作業の上手くない私は文字へ移せなくて、欠片を溜め込んでばかりいる。そうして頭が重くなるからしょうがなく、とりあえず、という形でそれぞれの話を書き出してみる。短いそれらは、やっぱり欠片でしかないけれど。

 というわけで、表現文化学科4年の滝です。この講義は、今年で3年目になります。
 自己紹介のネタに困り「自分が書く理由」を探してみたら、上のような内容が出てきました。普通に語ったら頭がおかしいと思われそう(出だしなんて特に)ですが、こんな事を言っても「物語を書くから」の一言が付くと「ちょっと変わった奴」で済むというのが一番の理由だと思います。空想大好き人間が行き着いた道。
 就活や卒論で忙しくなりそうですが、今年の目標は2つ。1つは前回少し纏まりかけた物語を、もっと形にする事。もう1つは、就活中面接で「言葉の使い方が面白い」と言われたので、それをマイナスではなく武器にできるように、他の人の文を参考にしながら磨く事。
 これから1年間、よろしくお願いします。

滝 夏海 批評1/テンポの先へ 2004年04月20日(火)01時18分33秒
▼課題と連絡:批評課題1/稲葉祐子「冷凍庫には入れないでください」 への応答

1▼夜のサーカス

ガンガラガン、と風が吹き
今日の終わりを告げました
途端に世界は華やいで
偽者の光が差し込みます

我がもの顔で車が走り
サーカスみたいな猛獣だらけ
何を信じたら いいのかな

僕は光にくらまされ
歩くのがやっと なのでした
猛獣に食べられないうちに
家に帰らなければなりません

夜はまだまだ長いから
眠らなくてはなりません

 語尾と単語の選び方など言葉の使い方が少し気になる詩もいくつかありますが、これはその文章的な言葉使いと詩のイメージが、上手く合わさっているのではないでしょうか。猛獣だけど「サーカス」と付くと、怖そうなのに飼い慣らされてそうでもあって。世界や自分を少し離れてみている感じが出ていて良いと思いました。ただ、最後の2行がどこから繋がっている(連想されている)のか分からず、ちょっと余分に見えました。


15▼洗濯の必要

痛みはたたんで隅に寄せ
汚れたこころは洗います
今日は晴れていますので
明日までには乾くでしょう

昨日も今日も洗濯日和
明日もずっと洗濯日和
必要なのは雨ではなくて
乾いた空気と洗剤です

 どこかで聞いた事のあるような内容ですが、テンポが良いので一票。文字で見るより、口に出した方が楽しめる詩です。青空を見て、ふっと呟きそう。
 個人的な好き嫌いの話になりますが、この詩は4行より2行で区切り、「昨日も〜」からの2行と「必要〜」からの2行を入れ替えた方が、声に出した時気持ちいいかな、と。これは本当に個人の趣味の話ですから。


36▼どうしようか

どうしようか
お金もないし
君には何もあげられない
並んで笑っていようかな
せめて愛の言葉くらい
君に贈れるといいんだけど
私には愛が何なのか
まだよく解からないのです
君の欲しいものすらも
まだよく解からないのです

 とっても直球な詩で、好きです。稲葉さんの詩は、気持ちとそれを表した言葉と詩全体のイメージとが微妙にズレて複雑に見えるだけで、実はとっても素直な詩だと思うんです。それが表れているのが36『どうしようか』と37『無題』。困っている姿もまた可愛らしかったので、こっちを選びました。

 「テンポは良いけど、もう一歩」というのが全体的な感想です。それはたぶん、どこかで聞いた事のあるフレーズが多かったり、語っている内に主題から違う方へ逸れてしまったり(意図してすり替えるのは別)、どこにピントを合わせて良いか迷ってしまう部分があるからでしょう。フレーズとしてよく使われる物はテンポも良く、耳に気持ちいいのですが、その分さらっと流れてしまう怖れがあります。音の流れやテンポに拘るのも良い事だと思いますが、もっともっと稲葉さんならではの言葉の使い方をしていけば、心に引っ掛かる詩が増えるのではないでしょうか。

滝 夏海 課題2/とりのかご 2004年04月22日(木)01時50分05秒
▼課題と連絡:課題2/松本潮里作品とのコラボレーション への応答

【鳥を探して】

 もうどれくらい走っているんだろう。手足が重くてしょうがない。息は上がり、喉は耳障りな音を立てる。
(でも、探さなきゃ、探さなきゃ、あの子を、籠を、探さなきゃ、探さなきゃ)
 ずっとそればかりを考えて、気持ちだけで足を動かす。探さなきゃ、探さなきゃ、と声を出さずに呟いて。普段ならとっくに限界が来ているはずなのに、いまだに私の足は草を踏みしめ体を前に運んでいる。この草原の遠くに見える点を目指して。風は無く空は変に青く、絵の具を流したようなそこにスプレーで描いた雲が貼り付いている。これは現実じゃなくて、私は眠っているんだ、目が覚めれば終わるんだ。そう思っても不安な気持ちは変わらず、逆に増えるばかり。目標の点も霞むようで、時々強く目を瞑る。片手で頻りに胸を撫でては、拳を作り、それでも足は先へもっと先へ。
 あの点に辿り着いたからといって、全てが終わるとは限らないのに。
 けれど何かに向かって走らずにはいられなくて。

 それからどれくらい経ったんだろう。点は一足事に大きくなって、私はその正体を知った。
 壁のないテントのような物と、倒れたいくつもの木馬。
 そして、金色の鳥籠を持った女の子。
 あれ程探していた一人と一つを見付けても何を言えば良いのか分からなくて、それを誤魔化すように深呼吸をした。実際、まだ息は荒い。一回、二回、三回……四回目で伝えなければならない言葉を思い出し、五回目の後に口を開くが上手く言えずにまた間が空く。彼女が私をじっと見る。風くらい吹けば、少しは気分も変わるのに。自然の音すらない沈黙が落ち着かない。
「嫌よ」
 先に強い口調で投げつけたのは、私ではなく女の子の方だった。
「お願い」
「嫌」
「お願い」
「嫌。返さないから」
 どこか懐かしい白いワンピースを着た姿が、一歩遠ざかる。慌てて踏み出そうとしたら、死体になった木馬の目が睨んだように見えて、慌てて視線を逸らす。もうそれ以上進めなかった。
「これないの?自分がやったくせに」
 ふっと笑うような声で彼女が喋る。
「動いてたのよ。あたしが捕まる前は。知ってるでしょ?」
(知らない、こんな風景、私は知らない)
「動いてたの。みんなきちんと並んで。あなたが捕まえる前は」
「知らないわ、そんなの」
「オルゴールみたいな音楽が鳴ってて、いろんな色の布を掛けた馬が、踊ってたのよ。ぐるぐる、ぐるぐるって、パパもママも、みんな一緒にぐるぐる、ぐるぐるって」 
「何を言ってるの?知らないわっ」
 頭が混乱する。パパやママが誰の親の事を指すのか分からない。知ってると言われても思い出せない。話を続ける彼女の声が煩くて、両手で耳を押さえて蹲る。それでもまだ声は聞こえてきて、唇を噛んで首を振る。
「……憶えて、ないの?」
 急に声が近づいて、驚いて顔を上げると、女の子が真上から寂しげな目で見下ろしていた。
「あんなに好きだったのに、忘れちゃったの?」
「何の話をしているの?」
「本当に、分からないの?」
「だから」
「遊びに行く度に乗って、絵もいっぱい描いて、あの木馬で冒険に行くんだってお話まで創って」
「分からないわ。分からないのよ……あなたが逃げたから」
「違う」
「籠から出て、籠も持って逃げたから、何もかも分からなくなったのよ」
「話をすり替えないで」
「いいえ、あなたのせいよ。私を見捨てて逃げるから」
「違う、逃げた事と思い出せない事は、関係ない!」
 大きな身振りで否定するから、彼女の腕が振り下ろされるたびに手にした籠がガシャンガシャンと音を立てる。その下には細い足首。手を伸ばせば届きそうな、距離。そう、そっと…そっと……。
「ねえ、あなたが逃げて、私これからどうやって夢を見ればいいの?どうやって未来を想像すればいいの?やり方が分からないの。あなたが居ないから」
「やめてっ!!」
 伸ばした手が足に触れようとした瞬間、女の子は跳ぶように後ずさった。獲物を失った手を握り締め、ゆっくりと立ち上がる。
「ねえ、どうして逃げるの?私達、一緒でしょ?あなたは私でしょ?」
「じゃあ、どうして捕まえるの?一緒なら、離れていても平気でしょ?」
「平気じゃないわ。今、既に困ってるもの。ねえ、帰ってきて、私に夢を見せてよ」
「あたしは……」
 女の子が胸の前で拳を作る。唇を歪ませ眉を下げ、目が、潤んでくる。
「あたしは、ただ飛び回りたいだけなの。前みたいに、好きなだけ」
「私の側で飛べばいい」
「そうしてた。自由に飛び回って、あなたの元に戻ってた。それなのに籠に入れたじゃない」
「だってあなたが、逃げるから」
「逃げないわっ」
「嘘よ、今、こうして逃げてるでしょ」
「籠から出たかっただけなの」
「じゃあもういいでしょ。帰ってきてよ」
「…籠に入れない?」
「入れるわ。だって、逃げるから」
 こうして話している間も、彼女は少しずつ少しずつ距離を空けていく。私は大きく息を吸い、彼女だけを見つめ──つまり極力木馬を見ないようにして──同じ速度で間を詰めていった。
「どうして分かってくれないの」
 ぽつ、と彼女が言葉を落とす。言葉と一緒に、雫も落ちる。目が、赤い。
「どうして、そんな大人になっちゃったの。あたしが居なくても、夢なんて見れるでしょ?子どものあたしに頼らなくても、大人のままで見れるでしょ?あたしを離してよ。籠にいれないでよ。いつだって、戻って来るから」
「今、戻ってきて」
「まだ駄目。駄目なのよ」
 ゆるゆると、女の子が首を振る。私と同じ色の髪が、静かに揺れる。
「それならせめて、籠だけでも返して」
「嫌よ」
 彼女がきっと睨み付ける。
「籠が返ったら、今度はあたしを捕まえるんでしょ?そんなのは嫌。もう、嫌なの」
 俯き、大きく首を震わせる。はたりはたりと髪が頬にぶつかっていた。
「だからあたし、これを捨ててくるの。ずっとずっと遠くに、捨ててくるの」
 言い終わると同時に、彼女はくるりと私に背を向け、またどこかへと走り出した。私は追わなければいけない。あの子が居なければ、未来を空想する事もできない。あの子に去られたら、退屈な大人になってしまう。短く息を吐いて気合いを入れると、木馬の群れから出る為に、地面を蹴った。

滝 夏海 課題3/脱出 2004年05月05日(水)09時12分34秒
▼課題と連絡:課題3/松本潮里「空からの回帰」とのコラボレ への応答

【空からの回帰】

「これよ、これしかないわ」
 壁に付いている木の板を見てリノは言った。その板は僕もさっきから眺めていて、この狭い廊下の壁のど真ん中になんの意味もなく取り付けられているいかにも怪しげな存在だった。しかも形が「凹」とそっくりで、2つの頂点にはコート掛けのような突起がくっついていた。ああリノ、君が次に何を言うのか僕には分かるよ。だって僕らはここに掛けられそうな物を一つずつ持っている。そして華奢な君の背中に付いた右側だけの翼が、得意げにぱたぱたと揺れているんだ。
「翼をここに掛けるのよ。片方ずつ、丁度2枚あるじゃない」
 ほら来た。
「でもリノ、ちょっと安直過ぎないか?」
「そんなことないわよ」
「ないって言うほど調べてたっけ?」
「だって分かんないじゃない。それ説明書っぽいけど、読めないし」
 リノは板の真下に貼られている紙を指差し、黄ばんだそれの表面にはもう文字だったものの名残しかなかった。同じような紙が壁の端にも貼られていて、絵の付いたそれはポスターみたいだけど、やっぱり文字は読みとれないから本当にポスターだったのかどうかは判らなかったし、絵も今の僕らにはあんまり関係が無さそうだった。
「だけど、他にもあるだろ?あの扉とか」
「調べたわよ。で、中は何もありませんでした」
「横のスイッチは?」
「押したけど変化無し」
「じゃあ」
「しつこいわねー、アイテムは2重3重に意味があるのが基本でしょ」
 いらいらと長い髪を掻き上げて、リノは自分の翼を外して右の突起に引っ掛けた。右側に広がる翼が付いた木の板は、骨格模型みたいだった。あの空中庭園を抜ける為に使った翼、森の中の宝箱に入っていた翼、どうしても片方ずつしか付けられなかった翼。その翼が本当にここで、辿り着いたこの建物の中で役に立つんだろうか。
「ほら」
 さっさとしろと言うみたいに、僕の方を振り返り残った左側をばしばし叩いた。板はとっても怪しいけど、他にヒントがないのも確かだった。僕は大きな溜息をついて、木の板に翼を引っ掛けた。
 ガタン。
 突然足元から大きな音がして、僕は慌てて右側へ飛び退かなければならなかった。吃驚して元いた場所を見たら、左足の乗っていた床が凹んでいた。その向こう側はもう少し低く凹んでいて、さらに向こう側はもっと低く凹んでいた。つまり「地下へ続く階段が現れた」っていう事。それだけならもちろん僕も喜んだんだけど、階段にはちょっと問題があった。得意そうにしていたリノが、唇を曲げた。
「何、これ」
 うん、リノ、僕もそう思ってたんだ。この階段は、水に浸っていた。地下から溢れ出てきてるんだ。しかもたっぷりあるようで、周りの床も水浸しになってしまった。
「どうする?」
「何言ってるのよ、行くに決まってるでしょ」
「水の中だよ?」
「馬鹿ね、水を潜ると別世界っていうのも基本じゃない」
 キュッと唇を引き怒ったような顔で言うリノは強がってるようにも見えて可愛かったけど、それとこれとは別問題だった。
「本当にそれって、基本なの?」
「質問ばっかり、うるさいわね。私は行くわよ、次のステージへ」
「ちょっと待ってってば」
「怖いんなら、私が通ってから来れば?」
 焦る僕を置いて、リノはさっさと階段を降りていく。そして3段目に足を乗せたところで止まって、こっちを見たんだ。唇が動いて何か言おうとして、だけどその瞬間足元の水が大きく波打った。
「リノ!!!」
 僕の叫びと同時にリノの体が水に飲まれて……そして消えてしまった。
 やっぱり罠だったんだ。

 目の前が真っ暗になった。
 闇の中に真っ白なENDの文字がじわりと浮かび上がる。

 軽い機械音がして、急に光が差し込む。眩しさに目を細める。上を覆っていた蓋が開ききると、体を起こして背伸びをする。そのまま横を見る。半分に割れたカプセルの中から同じように腕を天井に上げている梨乃の姿が見える。俺はカプセルから出て、腕や肩を回しながら近づいていく。
「だから待てって言ったろ?」
「しょうがないじゃん、あれが正しいって思ったんだからさー」
 ゲームの時と違って短い髪を掻き上げ、梨乃はまた横たわってこっちを睨む。あの世界より少し目が小さくて、少しぽっちゃりしていて、少し大人な梨乃。俺だってそう、あそことは少しずつ違う外見。でもそんな事はどうでもいい。俺達にとって大事なのは、そこじゃない。
「次はちゃんと、意見聞くよ」
「と言って聞いた例しは無し、ってな」
「あはは、ごめんごめん」
 笑いながら謝る梨乃を置いて、自分のカプセルに戻る。固まった首を戻すように回すと、風景も一緒になってぐるっと回る。壁も天井もやたらと遠い。2つカプセル以外何もない、正方形の部屋。だだっ広いだけの空っぽの部屋。扉も換気システムも隠されていて、素人の俺達じゃ分からない。
 内部ボタンを操作し、蓋を閉める。また軽い機械音がする。スピーカーとマイクをオンにする。いつものように、梨乃の声が飛び込んでくる。
「でさ、考えたんだけど」
「何?」
「あのスイッチ、やっぱりなんかあるよ」
「それって、梨乃の言う『基本』だろ。で、俺も考えたんだけど」
「うん、何?」
「翼引っ掛けた後、階段降りる前にスイッチ押してみたら変化あるかも」
「ああ、そっかー。やってみよう」
 合図をするでもなく、当たり前のように同じタイミングでゲームの準備をする。スタートボタンに人差し指を乗せる。出られるという確証は無い。でもたった1つのヒントだから、試してみるしかない。
「本当に次は暴走すんなよ」
「はいはい、すみませんー。運命共同体だもんね」
「アホ」
 そして、一呼吸置いてボタンを押す。たぶん梨乃も同時にスタートしたはずだ。ここに来てから何度も繰り返された動作。ゲームをクリアする為に。ここから出る為に。

 落ちるような気持ちの悪い浮遊感に目を閉じる。
 深呼吸してからそっと開くと、空中庭園の扉が見えた。

 隣にはリノ。右側に翼が付いているから、どうやら少し前のシーンみたいだ。背中の方を振り返ったら、肩越しに僕の翼が見えた。僕らは顔を見合わせて、二人で静かに扉を押した。ゆっくりと扉が開いた。
 それからぎゅっと肩を組み、僕らは不器用に翼を動かした。二人三脚みたいに飛んでいった。

滝 夏海 批評2/コラボレーションという事 2004年05月12日(水)01時14分24秒
▼課題と連絡:批評課題2/「空からの回帰」とのコラボレ作品の選評 への応答

その1:【瓜屋香織/還る】
 『コラボレ』という点ではこの作品が一番だと思います。絵を説明しすぎず、しかし離れず。特別な人に出会いその人の特別になりたい、そんな女の子の気持ちをうたっているのでしょうか。でもなんででしょう「ごめんなさい、あなたとは縁がなかったの」というお断りの台詞にみえてしまうのは。

その2:【露木悠太/SWEET ART MUSEUM】
 他の作品は絵を「お題」として扱っているのに対し、この作品は挿絵のように生かしていると思います。それならいっそ、絵のタイトルを『アリーと雲』ではなくそのまま『空からの回帰』として挑戦しても面白かったのでは。現実の作者は松本潮里さんだけど、小説の中ではメアリー・ホワイトでも問題は無いでしょうし。

その3:【圓山絵美奈/手にしている私】
 「あ、もしかしたらこの子、下りずにまた戻ってくるのかもしれない」と思わせる雰囲気が好きです。それだけで選びました。余談ですが、最後の一行を初め「あたりまえな逃げ方をするのは簡単なんだ。変わった逃げ方をしなきゃ」と読み間違えました。その時受けたインパクトが、まだ残ってます。

<番外>
 作品としてなら越智さんの【夢】が一番好きです。ただ、今回はコラボレという事なので、もう少し絵との接点があればな、と思いました。それから作品の最後に「〜過信しすぎだと思うのだが………。」とありますが、この「思う」という単語に戸惑いました。それまで三人称だと思っていた作品が、最後の最後で語りだったような書き方をされているという違和感。これはわざとでしょうか?

滝 夏海 合評報告/脱出 2004年06月08日(火)00時43分41秒

【脱出】

【合評会での意見のまとめ(発言順)】
城所さん:現実を引きずっている性格が面白い。「ここから出る為に」の「ここ」とはどこなのか。

土橋さん:最後の方で語尾の「た」が続くのは、良くもあるが違和感もある。特にラストの一行が気になる。

高澤さん:漫画を読んでいるみたい。読みやすい。ゲームという説明はないが、わかる。

松本さん:ゲームという日常で親しみのあるものに近いので、読みやすく、食い付きやすい。『リセット』というのがポイント。

野島さん:次々に読みたくなる。あっという間に読めてしまう。

稲葉さん:面白い構造をしている。映像で見せられているようで、想像力がいらない→逆に入り込みにくかった。

【合評を終えて感じた事】
 合評会・掲示板での色々な意見感想、ありがとうございました。自分の見えていた部分と見えなかった部分などの学ぶべき箇所以外に、意図しない効果など面白いものもありました。
 合評会、及び掲示板での感想で一番多かったのは「漫画ようで読みやすかった」というものでした。私自身、松本さんが掲示板で「「今」っぽい」と書かれたように、ライトノベルズの文章感覚を特に意識してやっていました。雰囲気やリズムが「漫画のよう」なのは狙っているのでいいのですが、逆に書き込みすぎ・説明しすぎて「漫画のよう」になってしまう部分もあり、この加減がまだまだできていません。でも今はこの書き方が自分に合っているようなので「漫画のよう」が欠点にならないよう、上手くつき合っていきたいと思います。
 今回の課題では、この物語に辿り着くまで4つの設定を考えました。「絵の少女が自分につけられていく物語に反発して自分の意思で動こうとする」話から始まり「少女二人が研究所から逃げる」「羽を与えられた少女となんでも見える眼を与えられた少年が世界から逃げる」「アドベンチャーゲームの主人公がプレイヤーと会話をしながら(でも全て主人公の台詞だけで)謎を解いていく」と少しずつ変化しながら提出版になりました。掲示板の方で「あの絵からゲームが出るとは思わなかった」といった事を何人か書かれていますが、アドベンチャーゲームの好きな私にとってあの絵に描かれている邪魔そうな位置の階段や扉の横の電気コード・狭い廊下などが操作ポイントにしか見えなかっただけです。捻ったのではなく。
 また、城所さんが「絵のシーンがこじつけっぽくなってしまってる」と書かれていますが、その通りです。提出した前の日に設定を思いつきその夜書いているので、文章の長さ以前に考察する時間が足りていません。その足り無さが土橋さんが言っていた「ラストの一文と前の文との流れが気になる」に繋がっています。自分でも気になっていて、粗さと迷いが一番出てしまった部分でしょう。作者の迷いがダイレクトに伝わってしまうという良い勉強になりました。
 意図しない効果としては「リセット」の扱い方がありました。それ程深く考えずに書いたので合評で「リセットの利く怖さ」と聞いてから、逆に自分で納得してしまったくらいです。書き直す時は、この怖さをもっと押し出してみても良いかもしれません。
 これから先、今回出た意見を参考にしながら少しずつ作品を長く書く訓練をしていきたいと思っています。

滝 夏海 批評3/設定とは周りに滲み出る物である 2004年06月08日(火)02時23分21秒
▼課題と連絡:批評課題3/城所洋「私はあなたを○○しています」批評 への応答

 「この作品の主張を述べよ」と言われたら、私は困ってしまうでしょう。プロローグやストーリー展開を見ると、同性愛を中心とした「愛の定義」をテーマに扱っている作品です(この時点で違っていたらすみません)。作者自身も掲示板で「異性愛と同性愛の視点を」と書いてます。けれど、私が読む限りこれは異性愛の視点でしか書かれていません。いくら言葉でレズレズ言っても、その他の発言は「異性愛万歳」としか聞こえないのです。世の中に増え始めたファンタジー的な女性の同性愛もの(所謂百合もの)以上に、なまじ「同性愛と異性愛との葛藤」という形を使っている分差別的に見えてしまうところもあります。作者の意図とは外れるかもしれませんが、この作品なら例えば「樋口と沢村の間に起こる動きを大島サイドから見つめる物語」も成り立ちます。何故作者はこの形を使ったのか、何故同性愛なのか、授業ではまずそこについて聞いてみたいです。
 物語の内容や構造についでてですが、登場人物が少ないと思います。教室や帰り道などワンシーンだけでいいんです、日常を描いた場合周りの人を書かないと薄っぺらいものになります。樋口と沢村の関係も、他の女の子を出して対応の差をみせないと「恋人」という設定が説明だけで終わってしまいます。
 その他にもいろいろと気になる部分はありましたが、全体的にみてやはり設定の掘り下げ方が足りなかったのではないでしょうか。キャラ設定然り、物語の設定然り。掘り下げた物を全部書く必要は無いし、掘り下げなくても書けてしまう物もあります。けれど沢村の口調や地の文の描写など今回違和感を感じた部分は、掘り下げて突き詰める事で回避できたかもしれません。
 最後になりますが、この小説は非常に中途半端な位置にあるという印象を受けました。日常にしては波瀾万丈、メロドラマ的展開にしては前半が普通、青春恋愛物にしては愛について解説しているし、かといって大人かと言えばそうではなく良い感じに高校生のばかっぷりが発揮されている。作者がどこかで迷いながら書いたのでしょうか。個人的な意見ですが、キャラにもっともっと針が振りきれるほどステレオタイプな枠をくっつけ、後半の数日に絞り込んでぎゅっと詰まったストーリーでがんがん読者を振り回してしまった方が、そのステレオタイプと城所さんとのズレが良い意味で出てきたかもしれません。たぶんそっちの方が漫画向きといえば漫画向き。

滝 夏海 課題4/リハビリ 2004年06月17日(木)00時27分24秒
▼課題と連絡:課題4/七夕・コイノウタ5首【日常芸術化計画】 への応答

つまさきが痛くなるまで背伸びしてキスをねだって また笑われて
喉のライン横目で見ながら窓際で並んで食べるファーストフード
珍しくはいたスカート褒められて 膝をあわせて少女の気持ち
設定に舞台に衣装 打ち合わせ キミと愉しむ恋愛ゴッコ

オーディオのスイッチ叩き壁を蹴り あなた消し去るロックンロール
ヘッドフォン耳に押し当て口ずさみ 心の声に気付かない振り
いつかまた出会える奇跡 起きるなら 頬に手の跡付けてあげたい
泣く夜も切ない朝も嫌だから あの人の夢 見ませんように

滝 夏海 批評4/キミとの距離を測る言葉 2004年06月22日(火)23時44分32秒
▼課題と連絡:批評課題4/七夕・コイノウタ選歌と批評 への応答

26.  召し上がれ貴方のへの愛詰まってます 賞味期限は 一週間です
 上の句だけなら可愛らしいけどその辺に転がってそうな言葉ですが、下の句に「賞味期限は〜」と続くだけでくるっとひっくり返されたような気分になりました。また違った可愛らしさ。

63.  この町に 大事な人が いると知り 一人微笑む 夕暮れの駅
 微笑む事ができるのは素敵な事です。もしかしたら微苦笑だったのかもしれないけど。うっかりすると切なくて、微笑むどころじゃない。

94.  不細工な その泣き顔が 愛しくて でもそんなこと 君に言えない
 ああ本当に「君」の事が好きなんだな、と思いました。私なら、そのうち耐えきれずに言ってしまいそう。

143. 水鉄砲笑う君はびしょ濡れで イタズラをした僕が驚く
 子どもっぽいイタズラだったのに、びしょ濡れになってしまった君を見てはっとする僕。青春の1ページな雰囲気で好きです。

165. カンカンカン 君が目の前 通るたび こころに遮断機 そっとおろすの
 君は片想いの人なのか、別れた恋人なのか。現在の恋人や友達の前でも、遮断機をおろしている時があるかもしれない。いくつもの物語が想像できて、それがマイナスになっていない作品だと思います。

滝 夏海 課題5/蹴飛ばしたのはスニーカーだけじゃなくて 2004年06月30日(水)17時17分12秒
▼課題と連絡:課題5/コイノウタ自選三首 への応答

喉のライン横目で見ながら窓際で並んで食べるファーストフード
オーディオのスイッチ叩き壁を蹴り アナタ消し去るロックンロール
ヘッドフォン耳に押し当て口ずさみ 誰かの声に気付かない振り

滝 夏海 課題6/夢の標本箱 2004年09月27日(月)22時52分21秒
▼課題と連絡:課題6/夢の標本箱2004 への応答

『ひとつめの小瓶』
さぁ、妖精をつくりましょ。
はじめにみつける材料、なぁに?

瑠璃色鳥はしあわせを翼のあいだに閉じこめる。
旅から帰ったその鳥に、いちまい分けてもらったら
秘密の薬を振りかけて弱火でとろとろ溶かします。
自由気ままに飛びまわる記憶に染まった、蒼い羽根。
空へつながる、蒼い羽根。



『ふたつめの小瓶』
さぁ、妖精をつくりましょ。
つぎにそろえる材料、なぁに?

ざくろ、きいちご、野ばらのしずく、朝焼けうつしたがらす玉
ぐるりぐるりと混ぜ合わせ、てのひらの上であたためて。
涙をひとつ落としたら、ちいさないのちになりました。
耳をすませばとくとくと鳴り響いている、赤い音。
未来をうたう、赤い音。


『みっつめの小瓶』
さぁ、妖精をつくりましょ。
これからあつめる材料、なぁに?

かたちづくりに必要な魔法のねんどの、その素は
ねむるこどもの吐息から、ちいさなさじで取りだします。
銀のお盆にうつしたら、日陰でゆっくり乾かして。
振りまくだけできらきらと不思議をみせる、金の粉。
夢へいざなう、金の粉。



『よっつめの小瓶』
さぁ、妖精をつくりましょ。
さいごにのこった材料、なぁに?

からだの素材を用意して、生まれる準備はできました。
生まれたばかりのあかんぼう、おなかがすいては悲しがる。
切ないなき声あげぬよう、ごはんも一緒にいれましょう。
食べられるのは大地から優しく育った、草の粒。
緑かがやく、草の粒。



『ひとつの瓶』
さぁ、妖精をつくりましょ!
すべてを瓶に詰めこんで、そっと呪文をとなえます。
三日三晩は月の下、じっくり寝かせて休ませて。
瓶がちいさくことことと、動き出してもまだ我慢。
ノックの音がいち・に・さん、ななつ鳴ったら、さあできあがり。
あとはあなたのお好きなように。
でも気を付けて、彼らはとっても悪戯が好き。
こっそり瓶を抜け出して、悪さをするかもしれないよ。

                          ほらね?

滝 夏海 批評7/女の子モード 2004年10月06日(水)17時48分43秒
▼課題と連絡:批評課題7/加賀麻東加「果実の旋律」批評 への応答

 可愛らしい作品だと思います。途中で照れくさくなって、頬を押さえながら読んでました。とっても女の子。バイクの後ろに乗る時、座る場所や手をかける場所を尋ねては「ここ」と返されるシーンが好きです。私も乗りたい。

 ただ、その内容を話の流れ方やリズムが切ってしまっていて、画質の荒い印象になってしまいます。一文を短くしてみたり、切る場所を変えてみたりといろいろ試してみる事で、自分なりのテンポというものが見えてくるのではないでしょうか。
 折角の一人称なので、もっと女の子の口調で語ってみる、という手もあります。「誰?自閉症の人?いや、スタッフの人だ。」の部分のように、主人公が思った事をぽんぽんぽんと入れると、また違ったリズムが生まれます。やりすぎると逆にだらけますが。

 描写や説明に関してですが、二人の距離が見えにくかったので、測る為の要素が何かもう少し欲しくなります。
 例えば会話。会ってから仲良くなるまでの何気ない日常会話でも、これまでの別れの挨拶でも、なんでも良いんです。地の文に台詞が埋め込まれている部分がありますが、それを掘り起こしてテンポのある会話にするだけでも、変わると思います。

 表面的な事では気になったものが一つ。文の頭の一文字空けです。ネット小説やらなんやらで、これまでの基本事項が壊され新しくなっていく時代なので、ルール云々とは言いません。でも加賀さんのように、一文というか一段落というか、この批評で言えば「可愛らしい〜乗りたい。」のような一つのまとまりが長いタイプの小説は、やはり頭は一文字空けた方が読みやすいと思います。
 視覚的な事なので「私は空けないでいきます」という拘りがあれば、別ですが。現に、ネットで活動している方で「空けたら書けなくなった」という方がいましたから。

滝 夏海 批評8/ひとしずくの想い 2004年10月13日(水)09時14分02秒
▼課題と連絡:批評課題8/菊池佳奈子「音の箱」批評 への応答

【うわばみ】

そうしていつも
僕がどんなにか苦しんで
吐き出したものを
君はやすやすと
のみこんでしまうんだね
大したことないよと
笑顔で
大丈夫だよと
うなずいて

 2・3行目は「吐き出すのに苦しんだ」のか「苦しんだから吐き出した」のか、のみこむのと吐き出す・溜め込むのはベクトルの向きが違うから使う力も違うのではないか、など気になる部分はありますが、そんな事どうでも良いくらいにこの詩が好きです。自分の弱さ・相手を強いと思う気持ち・少しの羨ましさ、いろんな感情がない交ぜになった雰囲気。

【存在】

誰か
私の悲しみを否定して下さい

この酷い想いを
この陳腐な考えを
その根底にある 存在不安を

否定して下さい

私はここにいて良いのだと
私はここにいるのだと

誰か 教えて

「悲しみを否定する」というフレーズに惹かれました。ただ、最後の3行は説明しすぎな感じがするので、無い方が残る印象が強いと思います。

【体温】

かなしくて
くやしくて
どうしようもなく
自分が嫌で
泣きたくて
だけど泣けなくて
そんなあの日
ずっととなりで
空を見ていた
君の体温が
やさしくて
あたたかくて
すべてのトゲが
お日様に溶けて
じわりとしみて

僕の目にしずく

 河原の草の上、もしくは屋上で2人並んで空を見上げ、その横にふわんふわんと1行ずつ浮かんでは消える…そんなイメージが浮かびました。絵本のような物語。

【Happiness】

Always Mummy said,
"I love you, Baby,
I love you.
So U must be happy!"

Oftentimes Daddy said,
"I love mum, and
She love you.
So U must be Happy!"

Sometimes Grandma said,
"I love dad, and
He loves mum, and
She loves you.
So U must be HAPPY!"

『人に愛されることは、幸せなことだから』

I must be happy...HAPPY?

 コマ割りして絵を付けたら面白そう。テンポ良く読んでいって、最後は思わず主人公と一緒に「んんん?」と眉間に皺を寄せて首傾げてしまいました。

【おしまいの音】

私の中に
脈々と流れる旋律は

君に合わせて
彼に合わせて
あの子にあわせて
空にあわせて
風にあわせて
お日様にお月様に あわせて

テンポを変えて
リズムを変えて
時にハーモニー
時に独奏
移調転調
B、F、C、G、

終止符知らず
たまにリピート
コーダはまだまだ
先のこと

あらゆるものに共鳴しながら
身体をめぐり 欠片を唄う

この身体朽ち果てるまで。

 綺麗に纏まっていて、読んですぐにすっと体に溶けました。気になるのはタイトル「おしまいの音」おしまいというより、寧ろ振り出しに戻るような気がします。強制的に初めの音に戻させるくらいのイメージのタイトルと付けても良いのでは。

 全体的な事ですが「どこかで聞いた事のあるようなフレーズ」が多く見られます。それは馴染みやすいし、耳に心地よいかもしれません。けれど、どれを読んでも「あれ?どこかで聞いた?」と思わせてしまうのは、勿体ない。「どこかで聞いた事がある」ようだけど「菊池加奈子でしかありえない」部分、例えばテンポ・言葉の選びかた・繋がり、そのような物をもっともっと増やしていくと魅力が文字から外へと押し出されてくると思います。

滝 夏海 批評9/綿100%の肌触り 2004年10月20日(水)16時17分43秒
▼課題と連絡:批評課題9/千田由香莉小説作品の批評 への応答

【あめ色の坂道】

 他のも良かったのですが、設定や話の流れが好みだったのでこれを。
 傘やドーナツ、雨に濡れて乾かしたせいでバリバリになってしまった本など、小道具の使い方が上手いと思いました。丁寧に扱ってるので、唐突だったり無駄な感じがしません。古本屋の描写も、あの古い本独特の匂いが漂ってきます。
 最後の一段落は余剰のような有った方が良いような、迷いどころです。ただ
雨が降る。彼は、「え?」と、聞き返した。ばたばたと傘を叩く雨粒の音が耳に響く。
 この1行だけがくんと躓きます。「雨が降る。」の後すぐに「ばたばたと」へ移ってしまうか、付け加えるかした方がすんなり行くのではないでしょうか。「聞き返した」という表現も断定ではなく、表情など視覚的な要素を強調するとか。声がない方が、次の雨の音がもっと効果的になるのでは。

 千田さんの小説は、さらっとしていて気持ちよく、万人受けしやすいタイプだと思います。漫画で言うと、あいざわ遙とかあの辺り。ちょっと言い方が悪いかもしれませんが、毒にも薬にもならない。でも、あるとほっとする。どんな小説・漫画・ドラマ、どんな媒介でもするすると侵入できるストーリー。それは強みであると同時に「どこかで見たぞ?」という印象を与えてしまう怖さでもあります。言い回しや話の運び方にセンスがあるので、その感覚を大切にして下さい。これから楽しみです。

 ところで、本屋・古本屋・図書館など本に関係する場所と若い人という組み合わせは、最近の流行ですか?ここ1〜2年でそういう話を目にする回数が増えたんですが。

滝 夏海 課題7/なんだかんだ言ってもこの3人から抜け出せない自分 2004年10月27日(水)19時48分24秒
▼課題と連絡:課題7/わたしの勧める3冊 への応答

●クラフト・エヴィング商會著 『ないもの、あります』(2001 筑摩書房)
 『夢の標本箱』を本にした物、というとイメージしやすいでしょうか。クラフト・エヴィング商會は毎回違ったテーマで空想の固まりをでっちあげてくれます。しかも現物(や縮小版)まで作り上げてくれます。この本は実際には無い慣用的な言い回しでのみ存在する「舌鼓」「左うちわ」なる代物を取り扱っているカタログなのです。この本には現物の写真はありませんが。

●別役実著 『淋しいおさかな 別役実童話集』(1973 三一書房)
 別役実の短編童話集、と言っても子どもがこれを読んで喜ぶかは別ですが。どれもこれも、ナンセンスに満ちあふれ、くすっと笑えたり、不条理のままモヤモヤした物を抱えたり、切なくさせてくれます。そしてどれもこれも2度読みする事を勧めます。別役はラストを知った後に読み返すのが面白い。22話あるうち1話くらい、感性を刺激される話があるのではないでしょうか。私は『白いロケットがおりた街』という「SOSを発信するロケットと助けようとする街の人達」の話が好きで、読むたびに泣きそうになります。

●津原やすみ著 『ロマンスの花束』(1992 講談社X文庫)
 最後の最後まで他の人の作品を紹介しようか迷い続けましたが、あまり読まれないのでは無いかという事で、これを。現在はホラーや怪奇物を主に書いている津原泰水が少女小説作家時代に書かれた作品。男性の書いた少女小説(本人は「もどき」だと書いていましたが)の中編が2話入ってます。1話目の『フラッシュライト』はカメラ好きの不器用な少年がよく知らない年上の女性に恋をする物語。2話目の『ヒマワリズム』は美人で気の強い女の子と気弱な男の子との、もどかしい恋愛話。どちらもさほど甘くはなく、不思議な肌触りの作品です。けして上手いとは言わないけど、なんだか読んでしまう。今、持っている技術で青春物を書こうとした時に参考になるのでは、と思い出してみました。個人的に、向上心のない男共を「ゾンビ」と表現する2話目の女の子が好きです。

 ちなみに最近のお気に入りは『ちびギャラリー』というキャラクター系の一コマ漫画(?)「けっ」と言いたくなるような文章に「おいおい、待ってくれよ」と突っ込みたくなる絵が添えられてます。本もあるけど、サイトで見れてしまうのでそちらを紹介。「Bonmoya-zyu Gallery>ボンコーナー>ちびギャラ」と進むと出てきます。癒し系だけど、時々、これで癒されちゃいけない気になる物も。

http://www.bonsha.com/

滝 夏海 作品1/スクールノート 2004年10月27日(水)19時56分05秒

前ならえ・戻れ・気を付け・回れ右っ 左回りのキミと目が合う
あの屋根を越えたらきっと上手くいく 願いを乗せて飛べ!シャボン玉
歌い出す二人の声は寄り添って未来へ繋がるDNA
カレカノジョ 三単現のSを付け アイじゃないよと言い聞かせてる
夕焼けの屋上 冷えて刺さる風 継げない言葉 君の目に赤
卒業で ひとつピリオド打ったなら 今日からキミは見知らぬ誰か

滝 夏海 課題8/創作のヒント 2004年11月03日(水)17時58分55秒
▼課題と連絡:課題8/わたしの勧める3本の映画 への応答

『アリス』1989年 スイス Jan Svankmajer監督
 ビデオ・DVDは2000年に発売。監督はチェコアニメーション作家。読み方は「ヤン・シュヴァンクマイエル」か「ヤン・シュワンクマイエル」かどちらか分からなかったので、アルファベットで表記しておきます。
 あの有名なルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』を元にした、人形アニメーション。といっても、主人公アリスは人間の女の子ですが。この作品を一言で表すと「不気味」。例えば「法廷の白ウサギ」のお腹の中にはおが屑が詰まっていて、それが裂け目から零れてきたり、その裂け目をピンで留めたり。話自体にはかなりア脚色されていますが、細部が妙に原作通り。忠実なアリスではないけれど「これはアリス」としか言いようのない世界。あの広くて不思議な世界が、1つの建物で完結している作りは見事としか言いようがありません。
 文章なり絵なりの創作活動を行う人間として観るにはお薦めの作品です。


『ルビー&カンタン』2004年 フランス フランシス・ヴェルベール監督
 刑務所で出会った2人の男、服役中も密かに復讐の計画を練る寡黙な男・ルビーと、まぬけでおしゃべりなカンタン。必要最低限の言葉しか発しないルビーと同室になったカンタンが、喋りまくる自分に対してけして「煩い、黙れ」と言わない彼を勝手に『親友』だと思いこんだ事から始まるどたばたアクションコメディ。ルビー役がジャンレノなのでそれにつられて観た方もいるのでは。
 あまり変に捻らず、先が読めるんだけど笑っちゃう「うっわ、基本」と言いたくなるようなコメディを久しぶりに観たので紹介。データベースには「痛快」と書かれていますが、それよりは「思わず笑いを漏らす小ネタ集」な感じがします。ラストに関しては物申したくもなりますが。

『茶の味』2004年 日本 石井克人監督
 海外物ばかりになるかもしれないから日本映画を一本紹介しよう、と思ったのでこれを。今期の受講者の提出物を考えると『天国の本屋』を紹介した方が良いのかもしれませんが。「お薦めは?」となると独断と偏見によりこっち。
 なんて事のない日常を描いた作品です。と書くと誤解が生じるのかもしれませんが、そうとしか言いようがありません。田舎で暮らすちょっと変わった人々の、ありふれた日常生活を覗き見ている感じ。淡々とした流れの中で、のんびりと変化していく人々や風景は、観ている私達と同じ。リアリティが無いんだけど「無い」とも言い切れない、「すっごい面白いから観てよ!!」とは言えないんだけど面白い、なんかもういろんな事がどうでも良くなる、そんな作品です。
 ただ1つだけ自信を持って言えるのは「見終わった後に挿入歌『山よ』が耳に残って離れなくなる」という事。気付くと口ずさんでます、あぁ…。

滝 夏海 批評10/正の引っ掛かり・負の引っ掛かり 2004年11月10日(水)16時22分22秒
▼課題と連絡:批評課題10/高澤成江・短編「夏の足跡」の批評 への応答

 高澤さんの作品は、心理描写や情景描写などで惹かれる書き方をしている部分があります。が、今回はそれ以上に技術的な違和感が目立ってしまったように思えます。
 私が一番強く引っ掛かったのは、出だしの短い台詞と地の文が何度か重なっている部分です。方法としては面白いのですが、一人称で書かれている文なので生かし切れてないように感じます。カギ括弧を外し、地の文に埋め込んでしまっても良かったのでは。
 また、他の方も指摘していた「うわあああ」の叫び声や、蝉の鳴く「ジージージー」なども気になります。擬音語の類は情景を彩る要素として有効ですが、入れ方によって逆に安っぽくなってしまいます。蝉は直前の描写が綺麗なので、抜いてしまうか前回の「ファサファサ」のように一捻りした独自の擬音語にした方が、しっくりくると思います。入れないでこの間を表すのはなかなか難しいのですが、そこが腕の見せ所ですよ。
 読んでいて、少し上滑っている印象があるので、登場人物の設定や人間関係、ここに至までの流れなど、もう少し掘り下げてからリライトしてみたらどうでしょう。今は埋もれている良い部分がもっと光ってくると思います。

滝 夏海 批評11/線に沿った視界 2004年11月17日(水)01時24分34秒
▼課題と連絡:批評課題11/雨宮弘輔「暖かい受信」批評 への応答

 使用アイテム・キーワードを見てみると「転校生・登校拒否・携帯電話・忘れ物(落とし物)」と狙っているのか分かりませんが、かなりベタな物語です。ストーリーも「気になる転校生・拾った携帯に謎のメール・彼女と仲良くなってめでたしめでたし」と基本的な展開になっています。にも関わらず、読み終わった後に置いてけぼりを食らった感じが残ります。
 原因は他の方々が指摘しているように、周りが描けていない部分にあると思います。背景描写も動作の描写も、もっとあって良いのでは。また、現在書かれている描写も、描写というよりは主人公の説明のようでぎくしゃくしていて、違和感がぬぐえません。例えば
二通目のメールは夜中に送られてきた。ベッドに寝転がり、眠りにつこうとしていた途端の出来事だ。
 これは「二通目のメールは夜中に送られてきた。ベッドに寝転がり、眠りにつこうとした途端、携帯が震えだした。」くらいの方が、情景が見えやすくなります。こういった「出来事」や「〜なのだ」という語尾は説明口調になってしまうので、入れ方によっては読者が物語の流れから一旦離れてしまう場合が結構あるので、テンポに気を付けてください。
 展開が速い事も、原因の1つでしょう。謎のメールを受け取るシーンは、一晩だけ書いて一週間後にするのではなく、もっと小出しにして、せめて3日分くらいは欲しところです。毎日、生活をきっちり書かなくても「次の晩も、また次の晩もメールは届いた。携帯を拾ってから3回目の夜が来た時、メールの内容が変わった」とか、やりようがあると思います。その中で、相手が杉山さん本人だとなんとなく気付く描写があると、最後も急な感じではなくなります。もしくは、初めから分かっているとか。
 ぶちっと切れるような終わり方は、嫌いではありませんが、それをやるにはこの文章が長いような気がします。ぶった切る文章も、ただのお惚気恋愛物みたいでなんだか内容とあっていないような。
 全体的に言えるのは、主人公が説明しすぎている…というか主人公の説明に頼りすぎているので、周りの事だけではなく彼自身の感情もよく見えてきません。雨宮君は面白い言い回しができる人なので、逆にそれに頼ってしまったような印象を受けました。もう一歩、書き手が全体を見て補っていけば、面白い話になるのではないでしょうか。

 と、批評はこれくらいにして、非常に個人的な感想を少し。
 これだけB組B組と言いながら持ち主が全然違う組でも、良いかもしれません。
 いっそ転校生ではなく自分のクラスの登校拒否(なりかけ)の子とか。
 それで携帯を拾ってから後、その子が来なくなったのでメールの相手はたぶんそうなんだろうな、と主人公が思ってみたり。
 なんて事を、読んでから考えてました。基本的なだけに、いろいろと弄りようのある作品です。

滝 夏海 批評12/視点の移動 2004年11月24日(水)00時47分26秒
▼課題と連絡:批評課題12/露木悠太「不肖の空」と改稿作品の批評 への応答

 書き直しの前と後では雰囲気が変わっているので、どちらがどうと比べるのも難しいのですが、個人的な印象でいうと、作品としては前者に軍配が上がるのではないでしょうか。好みの問題ではありますが。
 「不肖の空」は書き手の目線が比較的主人公に近い所にあります。そのおかげで、作品内での格好付けた言い回しが多少浮いていても「主人公の青さ」として受け止められ、主人公の味となってます。「セルフィッシュ・フィッシュ」ではわざとなのか改稿作業のせいなのかわかりませんが、書き手が主人公から離れています。背後から見ているように。そのせいで、改稿前には主人公に付随されていた青さが書き手の方へと移ってしまいました。若いな、というよりは、頑張って使っているな、という感じで。それがもっと自分のものとして、しかも効果的に使用できたら、もの凄い格好良い作品が書けるのではないかと、密かに期待してます。
 この2作をもっと長い作品にするとしたら「セルフィッシュ・フィッシュ」は主人公に焦点を当てた長編だけど、「不肖の空」はこのクラブハウスを中心にして、ここに集まる人々の事を切り貼りした短編集的な作品でも成り立ちそうですね。あと、露木君の狙いとはずれるかもしれませんが、「セルフィッシュ・フィッシュ」はストロボを焚くように全体は曖昧で部分部分のみを鮮明に描いても面白いかも。

滝 夏海 批評13/吐き出す言葉・伝える言葉 2004年12月01日(水)00時55分05秒
▼課題と連絡:批評課題13/城所洋 詩作品の批評 への応答

 【作品1/張りぼて】
 飾らない素の「僕」を彼女が受け入れてめでたしめでだし…と思いきや、そのすぐ後にくる2行で「僕」が何も解ってない事がわかる。結局「僕」は見た目や思いこみに囚われたままだという、ちょっと皮肉な所が面白いと思いました。
 作品の中で「僕」が器で「彼女」が中身なので、最後の段落の「彼女をちびりと一口と飲んだ」も同じイメージの方がすっきりするかもしれません。「僕に注がれた彼女」とか。

【作品2/泡沫の温もり】
 本来カップと受け皿は同量の水が入る作りになっている、というところから少し深読みして「彼女と僕は初めから合わなくて無理をしていた」と解釈しても面白い作品なのではないでしょうか。
 最後の「醤油とワサビ」が好きです。ティーカップの受け皿に、醤油とワサビ。なんとも言えない、妙な組み合わせ。受け皿は受け皿でしかないのに、カップは単独で成り立っちゃうのが切ない感じです。

 全体的に見て歌詞のような作品が多いと思いました。元々は歌詞として作ろうとしたものもあるのでしょうか?
 言葉を飾る事で、本人の書きたいテーマが見えにくく、できあがった物も少しずれてしまっているような感じがします。シンプルな詩は余計に勇気が要りますが。一度、城所君の直球勝負を見てみたいです。続けてみると、自分でも気付かなかった言葉が出てきて、そこから眠っていた本音が見えたり、と面白いものですよ。

滝 夏海 批評14/(笑)の提供 2004年12月08日(水)15時14分10秒
▼課題と連絡:批評課題14/土橋明奈作品の批評 への応答

【作品3/ベンK】
 途中ややテンポが悪いかな、と感じるのですが私の読むテンポと噛み合わないだけかもしれません。台詞として聞くと、これが丁度良いのかも。ベンKという名前だけで落ちがわかるのに最後まで楽しいのは、友人の丸め込まれっぷりが見事だからでしょうか。
 もう少しキャラをたてて、この2人が朝会ってから放課後別れるまでを数場面に区切って書いても面白いかもしれません。

【作品4/大人】 
 上手くまとまったブラックジョーク風味のショートショート。ベートーベンもブラックなオチですが、向こうは「それを持ってきて良いのだろうか」と悩んでしまうのに対し、こちらは「うわ、やられた」という気持ちでした。
「なあに?トイレなの?おじいちゃん」
 この一言があるだけで、内容ががらっと変わってしまう。今回提出した中では、一番シンプルなのに奥が深い作品だと思います。

 全体的に見ると、土橋さんの作品は軽いコントのようで面白いのですが、ショートショートとしては少し物足りない。ネタ自体は良いので、もう一捻りあったりもう少し違う書き方(まとめ方)をするとそれが光ってくると思います。
 そしてとっても個人的な感想を最後に。何故、益岡。山田だとあれですが、佐藤でも渡辺でも小林でもなく、益岡。ちょっと気になる、益岡。

滝 夏海 課題9/ペットボトル返し(と愉快な仲間達) 2004年12月09日(木)00時54分54秒
▼課題と連絡:課題9/稲生モノノケ光之巻【二十一世紀妖怪カタログ】 への応答

【ペットボトル返し 来る】
 ふと気付くと机の上にあった水筒代わりのペットボトルが立っていた。蓋を下にして。そんな事をやった記憶は無いが、あまり気にしなかった。
 次の日、風呂の後に自室に帰るとやはりペットボトルが立っていた。蓋を下にして。首を傾げる。
 その次の日、わざとペットボトルを横倒しにして出掛ける。帰宅後、部屋の扉を開ける。ペットボトルは立っていた。蓋を下にして。
 これはおかしいと次の夜ペットボトルを倒して退室した後、廊下で待機。扉は細く開けておく。暫くすると部屋の中からかたかたと微かな音が聞こえてくる。そっと扉を押すと、小さな子どもが背伸びをして机の上のペットボトルを掴み、立てようとしているところだった。蓋を下にして。部屋に飛び込み、怪奇現象どころか家宅侵入の現行犯として捕獲。
「あ、あのっあの、僕、怪しい者じゃなくて」
「そんなボケの基本を抑えなくて良いから」
「え、えっと、ど、泥棒なんかじゃなくて、それで」
「要点だけ言いなさい」
「妖怪です」
「妖怪はアヤシイアヤシイって書くの。解る?」
「えーと、だから、その」
 それから1時間かけて聞き出した情報をまとめると、つまりそいつ(男物の格好をしているので、以降は便宜上「彼」という人称代名詞を使う)は妖怪であって、ペットボトルをひっくり返す為だけに存在するらしい。普段は街を徘徊しているが、うちにあった使用済みペットボトルが好みにぴったりだったので、毎日返しに来ていたそうだ。
「僕、人が苦手なんです。最近は夜でも人の居るお店が増えて、やりにくくて困ってるんですぅ」
 とは『彼』の談。
 今でも何故かうちに居る。どうも懐かれたようだ。

【中断爺 遇う】
 昼休み、学食でぼーっとしていると「ちょっと待って」という大きな声が聞こえた。何気なく声のした方を見ると、席を探している女の子と、その後ろから小柄な老人が立ち去る姿。どこぞの教授がセクハラでもしたのかと思ったが、女の子が老人を見ていないようなのでどうやら違うらしい。数十秒後、「ちょっと待って」今度はさっきの女の子から少し離れた席から聞こえてきた。そちらを見ると、そこにも同じ老人の姿がある。品の良い身なりの老人だが、どことなく怪しい。その場からまた立ち去ろうとしたので、目で追う。ゆっくりと入り口の方へ歩き携帯で話しをしている学生の後ろを通る瞬間、老人が手を動かした。そっと学生に触れる。「ちょっと待って」学生が声を荒げた。
 これはどう考えてもおかしな事で、老人が関わっているとしか思えなくて、触れる事が切っ掛けのようで、でもそれって普通の人間じゃありえなくてってことはつまり
「ちょっと待って」
 言ってから慌てて口を押さえる。おそるおそる振り向くと、あの老人が笑顔で立っていた。

【家守大王 求む】
「なんかこっち引っ越してきてから、変な事が多いんだよね」
 ぼそっと呟くと、部屋の隅にいた『彼』がとことこと近付き、どんな事かと尋ねながら隣に座った。
「例えば、キャベツの千切りを一生懸命細く細く切っていたら、後ろから突然「下手」って聞こえてきたり。靴紐が左右纏めて固結びになってたり。2階に誰も居ないのに足音がしたり」
「あー、それ、小鬼ですねぇ。ここの家族って、そういうのに懐かれやすいみたいですよ」
「キミとか?」
「まぁそうなんですけど、それはちょっと置いておいて」
「でも、こっち来てからよ、こういうの」
「うーん、そうですねぇ、前の家はもっと別なのが居て近づけなかったとか」
「別なのって言われても…」
「なにか、ほら、居着いた動物とかいませんでした?」
 そういえばあの家の周りにはヤモリが生息していて、部屋にも一匹住み着いていた。そんな事を告げると『彼』は大きな目をくるっと動かして明るい声で言った。
「家守大王ですね」
 説明するところによると、家守大王とは名前の通りヤモリの親玉で小鬼を喰うらしい。そんな素晴らしい生き物だと知っていたら、何が何でも連れてくるんだった。
「こっちにも来ないかな」
「……ごめんなさい、役立たずで」

【電波喰い 現る】
 夜、友人と携帯電話でメールのやり取りをしていた。会話の途中で、向こうからの連絡が途絶えた。風呂にしても「また後で」の一言も無しに途切れるのは彼女らしくないので、不思議がっていたところ隣に居た『彼』が無言で窓の外を指差した。その先に目を凝らすと、斜向かいの家の屋根に何かが乗っているのが見えた。
「豚? いや、それにしては鼻が細いような」
「電波喰い。夢喰い貘の亜種です」
「で、なんなのあれ」
「無線やラジオや携帯電話の電波を食べる妖怪です」
「食ってどうするのよ」
「さぁ……糧なんじゃないんですか、それが」
「糧ねぇ。じゃあ、喰った電波ってもう出てこないワケ?」
「たぶん」
 しょうがないので友人には開けなかったとでも言って、もう一度送ってもらおう。

「で、いつまで居るの、キミ」
「……そうですよね、邪魔、ですよね、僕」
「ま、いいけど。大した被害は無いし」

管理者:Ryo Michico <mail@ryomichico.net>
Powered by CGI_Board 0.70