物語の作法・課題2 竹野陽子(1)

(無題)

 ごくふつうのちいさなまちに、すきまくんというおとこのこがいました。
すきまくんはいつもひとりぼっちでいろんなまちからまちへたびをしています。
すきまくんはいつもひとりぼっちです。それはどうしてでしょう。
すきまくんは、ふつうのひとにはみえないのです。
すきまくんはみちのすみっこにちいさなはなをさかせたり、
しらないあいだにひとのこころをやさしいきもちにさせたりしながらたびをしています。
すきまくんはふつうのひとにはみえません。つまりすきまくんはにんげんではないのです。
だけどもしとくべつにすきまくんのすがたがみえてしまったとき、
びっくりさせてはいけないので、ふつうのにんげんのおとこのこのかっこうをしています。
ただ、ふつうのひとにはみえないので、すきまくんがどんなかっこうをしているのか、
すきまくんがどこにいるのか、いいえ、すきまくんというおとこのこがいるということも、
あまりしられていないのです。
 あるひ、すきまくんがいつものように、みちのすみっこにちいさなおはなをさかせながら
あるいていると、こうえんにおとこのこがひとり、ぽつんとさみしそうにしゃがんでいるのが
みえました。すきまくんはそーっとちかくをとおって、まわりにちいさなおはなをさかせて、
げんきずけてあげようとおもいました。すきまくんがそーっとちいさなおはなをさかせると、
そのおとこのこがすきまくんにはなしかけてきました。
「このおはな、きみがさかせてくれたの?」
すきまくんはおどろきました。ふつうのひとにはじぶんのすがたはみえないことを
すきまくんはしっていたからです。
「きみにはぼくのすがたがみえるの?」
「うん。みえるよ。」
すきまくんはうれしくなりました。しかもじぶんとおなじくらいのおとこのこです。
すきまくんはおとこのこのそばへよりました。
「きみはどうしてひとりでいるの?」
すきまくんがたずねると、
「いつもパパとママがおしごとでかえりがおそくてさみしいんだ。おともだちは
とっくにおうちにかえってあったかいごはんをたべているのに。」
おとこのこはなきだしそうなかおをしていいました。
すきまくんは、じぶんをみつけてくれたこのおとこのこをなんとかげんきにしてあげたくて、
こうえんじゅうをはしりまわって、こうえんじゅうにちいさなはなをさかせてあげました。
「うわー、すごーい!」
おとこのこはたちあがって、めをキラキラさせました。
「おいでよ。」
すきまくんはおとこのこにてをさしのべ、ふたりはてをつないでこうえんを
はしりまわりました。すると、あとからあとからちいさなおはながさいて、こうえんは
まるでおはなばたけのようになりました。おとこのこはすっかりげんきをとりもどし、
にっこりわらってとてもうれしそうでした。それをみてすきまくんはもっとうれしくなりました。
 そこへ、おとこのこのおかあさんが、おしごとのかえりみちでこうえんのまえを
とうりかかりました。
「ママー!」
おとこのこはおおきなこえでさけぶと、ママのところへかけよりました。
「ママ、みて。すごいでしょ。あのこがさかせてくれたの。」
ママはやさしくほほえんで、
「きれいね。」
といいました。
「でも、おともだちなんてどこにいるの?」
「えっ!」
おとこのこがふりむくと、さっきまでいっしょにかけまわっていたすきまくんのすがたが
どこにもみあたりません。キョロキョロとあたりをみまわしても、どこにもすがたはみえません。
おかしいなとおもっているとママが、
「さあ、かえってごはんをたべましょう。」
と、にっこりわらっていうので、すきまくんのことはわすれてママといっしょにおうちに
かえってゆきました。
 すきまくんは、そのようすをずっとみていました。すきまくんはずっとこうえんにいたのですが、
おとこのこはげんきをとりもどすとどうじにすきまくんがみえなくなってしまったのでした。
すきまくんは、ちょっぴりさみしかったけど、おとこのこがげんきになってくれたので
まあいいかとおもって、こうえんをでて、またたびをはじめました。
 あなたのすんでいるまちでももし、みちばたにちいさなはながさいいていたなら、
それはすきまくんがとおったしるしなのかもしれません。

   おわり