物語の作法・課題2 鈴木一業(1)

ミーコがふってくる

 ミーコはどこにでもいるふつうのおんなのこです。いつもどろだらけで、かみのけなんかはごしゃごしゃです。めはキラキラとかがやいています。ミーコはうたをうたうのがだいすきです。どこでもうたをうたっています。ほらほら、きこえてきたよ。あそこにいるよ。
 よいてんきです。あたまのうえでたいようがピカピカしています。ミーコはすこしとおくのおかのうえにいました。
 おかのうえは、ピンクの花がたくさんさいています。ここからはミーコのすむまちがおもちゃみたいにちいさくみえます。おかのうえは、ミーコのひみつのばしょなのです。

 「まんまるまっかなおひさまキラリ。きょうもなぜだかうきうきうきうき。」
 ミーコのうたがきこえてきました。
 ミーコのうたごえはすごくおおきくて、おかのしたのまちまでとどきます。するとまちのみんなははたけしごとのとちゅうでも、
 「ああ、きょうもよいいちにちになりそうだなあ。」
 なんていって、きもちよくわらうのです。
なかには、ラジオをつけっぱなしでミーコのうたをぼーっときいている人もいます。ミーコのこえを、てんしのこえだとおもっているひともいます。それくらいミーコのうたごえはかわいいのです。

 ミーコはいつもおかのうえですることがあります。それはいっぽんの木にみずをやることです。その木はミーコがうまれたとき、おかあさんとおとうさんがうえたものです。
 ミーコはバケツいっぱいのみずを木にかけながら、またうたいだしました。
 「ねえねえたくさんのんだらねえ。きっとモリモリでかくなる。」
 バケツのみずがなくなったら、こんどはぞうかいんでごしごしあらいながらうたいます。
 「ツルツルピカピカきれいになって。いつかはミーコもきれいにしてね。」
 ミーコはごしゃごしゃのかみをなでながらなんだかわくわくしてきました。

 そのときです。ミーコのまわりがざわざわしてきました。ちいさなちいさなこえがたくさんきこえてくるのです。
 「ミーコさん、ミーコさん」
ミーコはどきどきして、わくわくして、びっくりして、まんまるでおおきなめをいっそうキラキラさせました。 
 ちいさなこえがまたいいます。
 「ミーコさん、ミーコさん。」
 ミーコはみみをすまして、そのこえのするほうをみてみました。なんとそれはあしもとのピンクの花のこえでした。たくさんのピンクの花が、ミーコのことをみていました。

  「ミーコさん、おねがいがあります。きいてください。」
 「どうしたの。びっくりしたわ。」
 ミーコはゆっくりとしたこえでいいました。でもほんとうはびっくりしてしかたがなくて、はやくちになりそうでした。
 ピンクの花がもうしわけなさそうにいいます。
 「じつはさいきん雨がふらなくて、わたしたちはのどがカラカラなんです。ちいさなこどもたちももうやせてますますちいさくなってしまっています。どうかバケツのみずをすこしわけてもらえないでしょうか。」
 なんてかわいそうなんでしょう、とミーコはおもいました。みずをあげたいわ。でもこまったことに、バケツはからっぽです。

 「ごめんなさい。ばけつのなかにはもうなにもないの。」
 ミーコがそういうと、ピンクの花はかなしそうにしたをむいてシンとしてしまいました。
ちいさなこどもの花たちはいまにもなきだしそうです。でもどうにかみずをあげたいとおもったミーコは、かんがえました。そして雨をふらせるためにうたをうたうことにしたのです。
 「ポロポロしっとりあまつぶひとつ。モクモクおおきなくもひとつ。」
 ミーコのこえはつづきます。
 「キラキラたいようよっといで。ちいさななみだをとめとくれ。」
 するとどうでしょう。いっしゅんたいようがひかったとおもうと、じわじわとかげがおおきくなってきました。
 ひとつ、ふたつ、みっつ。雨がふってきたのです。

 おおきな雨のつぶが、ちいさな花たちにあたります。またざわざわとしはじめました。
 まちのほうもさわがしくなってきました。なにせひさしぶりの雨です。おとなもこどももおおはしゃぎしています。
 ミーコはまだうたっています。どうやらたのしくてやめられないようです。雨のつぶのひとつひとつにミーコがうつって、まるでたくさんのミーコがふってきているようです。
 まちやおかのうえは、うたと雨につつまれてミーコだらけになっているのでした。
 ミーコはどこにでもいるふつうのおんなのこです。いつもどろだらけで、かみのけなんてごしゃごしゃです。めはキラキラとかがやいています。たぶんきみのちかくにもいるよ。