物語の作法・課題2 杉山千絵(1)

(タイトル未定)

とびおくんの窓は高い
ここらで一番 空に近い

とびおくんは そこから空を見ている
いつも そこから空を見ている

うれしい時も かなしい時も 空を見ている
とびおくんの涙がこぼれて
窓の下だけ こんもり花が咲いていても とびおくんは気付かない
空を見てるから 気付かない

まるみちゃんは ふかふかで ふわふわで あったかい
だけど ちょっと大きすぎる足のことを とても気にしている

まるみちゃんの足は大きくて ぺったり地面にくっついている
だから まるみちゃんはお散歩が大好きなのに
歩くと すごく疲れてしまう
すぐに お腹が空いてしまう

お腹が空くと まるみちゃんは動けなくなる
動かないでいると まるみちゃんの大きな足に落ちた種が
芽を出して ぐんぐん育って 花が咲く
それで まるみちゃんは すこしさびしくなくなる

今日は まるみちゃん
とびおくんの窓の下で 動けなくなった
さびしくなったので 足に咲いた花を見ていた
いつもよりいっぱい歩いて 遠くに来てしまったから
おにぎり持ったお母さんは なかなかまるみちゃんを見つけられない
花が種になっても まだ 見つけられない
まるみちゃんは どんどん さびしくなる

とびおくんは 空を見ているから
窓の下のまるみちゃんに 気付かない
まるみちゃんは 足ばかり見ているから
頭の上のとびおくんに 気付かない

風が吹いた
とびおくんをなでて
まるみちゃんをなでて
花の種をなでた
種は風に乗って 飛んだ

まるみちゃんは 種を追って空を見た
とびおくんは 種に気付いて下を見た
おにぎり持ったお母さんは まるみちゃんを見つけた

とびおくんは また 空を見る
まるみちゃんは また 足を見る
だけど もう 知ってる
まるみちゃんの中に 空を見てる子が
とびおくんの中に 花を咲かせてる子が 住んでいる

だから もう ちょっとだけ 大丈夫
さびしくなっても そこだけあったかいから
ちょっとだけ 大丈夫