物語の作法・課題2 奥野美和(1)

(無題)

わたしのおうちのトイレには
じょおうばちがすんでいます。

じょおうばちは、
つよくて
やさしくて
うつくしくて
じょおうさまで
はちです。

じょおうばちは、
トイレにすわって
くびをぐっとあげたところに
います。

わたしのすんでいるトイレには
おんなのこがやってきます。
おとうさんやおかあさんは、わたしに
きづきません。

おんなのこは
おおきくて
げんきで
かわいくて
しょうがくせいで
にんげんです。

おんなのこは、いま、
いろんなしつもんをするのに
こっているようです。

「じょおうばちさんは、どうしてぶんぶん
とばないの」

「とべないの」

「どうして」

「かごのなかにいるからよ」

「つまらなくないの」

「そうね。つまらないわね。
あなたみたいにそとにでて、
たいようのひかりをあびて、
わらったり、なやんだり、おこったり、
でんぐりがえしをしてみたいわ」

おんなのこは、うでをくんでなやみました。

じょおうばちさんが
でんぐりがえしをするには
どうしたらいいんだろう。

なんにちも
なんにちも
かんがえたけれどわかりません。

かべをひっかいてみたり、
うちわでぱたぱたしてみたり、
きりふきでみずをかけてみたり。

いろいろやってみたけれど
どれもだめです。

じょおうばちはいいました。
「いろいろやってくれありがとう。
わたしはかべにいるのもすきなのよ。」

おんなのこはなっとくできません。

「いっしょにでんぐりがえしがしたいのに」

そのことばにじょおうばちはほほえみます。

「あなたが、わたしにきづいてくれたこと
ほんとうにかんしゃしているの。いままで、
わたし、ひとりぼっちだったから」

おんなのこはむねがぎゅうっとなりました。

あるひ。
がっこうからかえると、しらないおじさんが
いました。

「きょうはトイレのかべがみをなおしに
ぎょうしゃのおじさんがきてるから
じゃましちゃだめよ」

おかあさんはおんなのこにいいます。

あわててトイレにいってみると、
じょおうばちがいません。

あれ。
どこ?どこ?
きょろきょろあたりをみまわすと。

ここ!
ここよ!

こえがしました。

あわててふりかえると、
はがされて、すみにおかれたかべがみから
じょおうばちがこっちをみていました。

かなしそうなこえ。

そのとき。
おんなのこはいいことをひらめきました。

はさみをもってきて、
じょおうばちのまわりをきりとったのです。

だっしゅつせいこう!

おんなのこと、じょおうばちは
にこっとわらって
でんぐりがえしをしました。

おしまい。