「物語の作法」課題提出板の検索

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和美 の検索結果(ログ9-)


宮田和美 自己紹介 2002年05月07日(火)23時10分38秒
課題(親記事)/朗読テキストの紹介と自己紹介 への応答

はじめまして。イメージ文化2年の宮田和美です。
先週、授業で藤代冥砂さんの「野生の森」
をよみました。
詩です。

先に死なないと約束してしまったので1999年の元旦から肉食を断ってみた

という一文ではじまります。
これは雑誌「SWITCH」2000年1月号
(発行(株)スイッチ・パブリッシング)に、のっていました。
正直いって、
わたしはとくべつ藤代冥砂がすき
というわけではありません。
ただ、
時間の経過とか、人との別れとか、
いつかやってくる「あたり前」を受け入れられない、
惜しんでしまう
あいやら情やらてんこもりなところがすきです。

ほかにはくるり、岡崎京子、キテレツ大百科、
にんげんていいな、Cocco、
グレープフルーツがすきです。
よろしくおねがいします。


宮田和美 1A「ワンモアタイムワンモアチャンス(笑)」 2002年05月07日(火)23時54分10秒
課題(親記事)/箱を題材とした創作 への応答

ナガオにうたってと何度もせがんだ山崎まさよしのページには、いっしょに山崎邦正の「ヤマザキ一番!」と山崎ハコの曲ものっている。
わたしはこの人たちの曲は一度たりとも聞いたことがないし(ヤマザキ一番はどこかでちらっと聞いた気がする)、山崎ハコにいたっては男か女かすら知らない始末だ。
ただ、
ナガオがうたっている間、このページをひらいてちらちらと視線をおとしながら、今日はなにをうたってもらおうかと考えていたわたし、のゆるんだ頬をこの人たちに知られている。
三人の山崎、略してサンザキ。

あのころ、ナガオは自分がうたってる最中にわたしがおしっこかなんかしに行くと、必ずといってもいいほどふきげんになった。だからわたしは自分のうたを一曲、犠牲にしなくてはいけない。
部屋にもどると、演奏だけがにぎにぎしく騒いでる中で、ナガオはよく目を閉じていた。白いテーブルの、ウーロン茶のグラスの隣には、上下さかさまに置かれためがね(プラスチック製の、こい紺色のフレーム。雑誌にのっていてかわいいとわたしがすすめた)が、わたしに背を向けている。ふう。
「ただいま。」
おおきな声でそう言ってから、ナガオが目を開けるまでのほんの少しの間が、いちばんざわざわした。いちばんこわかった。
もう、ナガオの顔色なんてうかがう必要もない。
生活の7割をナガオとわたしの心配に費やす必要もない。
電話の沈黙におびえる心配もない。
だいじょうぶ。だいじょうぶ。

「おい、おまえの番」
さくちゃんの声に顔をあげると、それとほぼ同時にギターのがちゃがちゃした音が耳をつんざき、ベースの音がおなかにずーんときた。なんだかうたう気がしなかったので
「ごめん、おしっこ」と言って部屋からでた。


宮田和美 1B「ワンモアタイムワンモアチャンス(笑)」 2002年05月30日(木)22時13分14秒

ナガオに歌ってと何度もせがんだ山崎まさよしの曲がのっているページには、いっしょに山崎邦正の「ヤマザキ1番!」と山崎ハコの曲ものっている。わたしは彼らの曲は一度たりとも聞いたことがなかったし、山崎ハコにいたっては男か女かすら知らない始末だ。
ただ、
ナガオがうたってる間、このページを開いてちらちらと視線をおとしながら今日は何をうたってもらおうかと考えていたころのわたし、のゆるんだ頬をこのひとたちは知っている。
三人の山崎、略してサンザキ。
あのころ、ナガオは自分がうたってる最中に、わたしが席を立つと決まってふきげんになった。だからわたしは自分のうたを一曲、犠牲にしなくてはいけない。
部屋に戻ると、演奏だけがにぎにぎしく騒いでいる中で、ナガオはよく目を閉じていた。白いテーブルの、ウーロン茶のグラスの隣には、上下さかさまに置かれた眼鏡が、わたしに背を向けている。ふう。
「ただいま」
大きな声でそう言ってからナガオが目を開けるまでのほんの少しの間が、一番こわかった。
こわかった。
もう、ナガオの顔色なんてうかがう必要もない。生活の7割をナガオとわたしの心配についやす必要もない。電話の沈黙におびえる必要もない。
大丈夫、大丈夫。


「おまえのばん」
直の声がして顔を上げると、それとほぼ同時にがちゃがちゃしたギターの音が耳をつんざき、ベースの音が、おなかにずーんときた。なんだか歌う気がしなかったので、
「ごめん、おしっこ」
と言い残してその場をはなれた。
トイレの水道を思いっきりひねって水を出し、手を洗い、髪をなおして全身を鏡で見てみる。ちょっと笑ってみたりなんかしてたら、入り口のドアを押すおねえさんと鏡ごしに目が合った。はずかしいので逃げるようにそそくさとトイレを出て、212番の部屋をさがす。212番。その下に、いやに明るい顔のキャラクター。
ドアにはめこまれているガラスから中を覗くと、直は真剣な顔で画面をみつめている。手にはマイク。ドアを開けるとへたくそな「OVER DRIVE」がどっと耳に入ってきた。しかも男の声だし。わたしは笑って、バカじゃんと言って笑って、間奏になっても笑ってて、もう大丈夫だと思って本を開いた。この顔を、三人の山崎、略してサンザキに見せつけてやった。


おしまい

宮田和美 2A タイトル未定 2002年05月30日(木)22時34分24秒

いいことがあった。
あの子と笑ってバイバイができた。おとくな買い物をした。1年かかって、やっと仲よしになれた。
ちょっと前、会いたいなーって思ってたひとに、もう一度あいたいなって思えた。
気のせいかもしれないけど、せみの鳴き声が聞こえた。
町が色こくみえる。わたしの中のなにかが、むきむきと根をはり、育っていくのがわかる。
すれちがうひとがみんな、昔から知ってるいろんな誰かに見えた。

今日は月曜だっけって、ふと思った。あ、ちがう。木曜じゃんか。
でも、いいのだ。
わたし曜日は、今日が月曜。

宮田和美 3A「塀のぼり」 2002年05月31日(金)01時41分58秒

「ナガオ。」できるだけさりげなく呼んでみる。

あのね、ちいさいころ住んでた家にはね、マンションだったんだけど、目の前に公園があったの。狭くて、ぶらんことか砂場とか、ありきたりなものしかなかったんだけど、毎日近所の子たちとそこで遊んでた。

「ねむそうやね、寝起き?」
「ねみい、3限ずっと夢みてたし。なんかでかいミニカーに追われてた。」
「なにそれ、あつはなついみたいな?」
「ぜんぜんちげーよ」

公園にはね、となりの建物と仕切るための塀、そのころのわたしの背よりか全然たかいやつがあったんだけど、一時期、わたしたちのあいだで、塀のぼりが流行ったの。公園をかこんでるパイプでできた柵を足場にして、塀によじのぼるの。はじめはちょっと年上の、っていっても小学4年とかだけど、それくらいの不良ぽい子たちがやってたんだけど、そのうち同い年とか年下の子たちもやりだして、中には運動神経がいい女の子もいた。

「ナガオ、こないだテレビ出てたでしょ」
「は?何それ」
「ほら、アカペラ歌うやつ。あれでナガオが制服着て、高校生のふりしてうたってんのみた」
「なにそれ、夢の話?」
「ちっがうよバカ」

そのころやってたアニメでね、わたしすんごい好きなのがあったんだけど、主人公の女の子がスポーツ万能で、負けん気がつよくて、男の子みたいな女の子だった。わたしすっごいその子に憧れてさ、その子みたいになりたくて、だから、塀くらいのぼれなくちゃ、って思ってた。でも本当はこわくて、絶対そんなことしたくないし、臆病だからのぼらなかったんだけど、なんでわたしはこうなんだろうってずっと思ってた。

「じゃーもう帰るから、4限の出席票、俺のも出しといてね」ナガオは笑って歩きだした。
「はあー?死ね」つられてわたしも笑った。
「出しといてねー」ナガオが笑う。
「死ねっ」笑う。
しだいに小さくなってゆくうしろすがたをぼんやりと眺めながら、ほっぺたの筋肉が徐々にもとにもどっていくのを確かめる。
ふう、
たのしかった。
ゆっくりくるり、まわれ右をして、学校へむかった。

西日のあたる、橋の欄干のかげに足を沿わせて歩く。立ち止まって、ちょっとだけ両腕を宙にあおがせてみる。眼下には、わたしの影。怯えることなく、しっかりと、果敢にも欄干に立っている19歳のわたしの影。
のぼれなくっても平気。のぼってるふりなんて、いくらでもできる。主人公になれる。
ずるくなったよなあ。すこしだけ笑って、わたしはまた歩きだした。


おしまい

宮田和美 3B「塀のぼり」 2002年06月05日(水)13時36分01秒

「ナガオ。」できるだけさりげなく呼んでみる。

あのね、ちいさいころすんでた家はね、マンションだったんだけど、目の前に公園があったの。狭くて、ぶらんことか砂場とか、ありきたりなものしかなかったんだけど、毎日近所の子たちとそこで遊んでた。

「ねむそうやね、寝起き?」
「ねみい。3限中ずっと夢みてた。なんかでかいミニカーに追われてた」
「なにそれ、あつはなついみたいな?」
「ぜんぜんちげーよ」

公園にはね、となりの建物と仕切るための塀、そのころのわたしの背よりか全然高いやつがあったんだけど、一時期、わたしたちの間で塀のぼりがはやったの。公園をかこんでる、鉄のパイプでできた柵を足場にして、塀によじのぼるの。はじめはちょっと年上の、っていっても小学5年とかだけど、それくらいのちょっと不良ぽい子たちだけがやってたんだけど、そのうち同い年とか年下の子たちもやりだして、なかには運動神経のいい女の子もいた。

「ナガオ、こないだテレビ出てたでしょ」
「は?何それ」
「ほら、アカペラ歌うやつ。あれにナガオが制服着て、高校生のふりしてうたってるの見た」
「なにそれ、夢のはなし?」
「ちっがうよバカ」

そのころね、やってたアニメでね、わたしすごい好きなのがあったんだけど、主人公の女の子はスポーツ万能で、負けん気がつよくて、男の子みたいな女の子だった。わたしすっごいその子に憧れてさ、その子みたいになりたくて、だから、塀くらいのぼれなくちゃって思ってた。でもこわくて、絶対そんなことしたくなくて、臆病だからのぼらなかったんだけど、なんでわたしはこうなんだろうって、ずっと思ってた。

「じゃーもう帰るから、4限の出席表、おれのも出しといてね」ナガオは笑って歩きだした。
「はあー?死ね」つられてわたしも笑った。
「だしといてねー」ナガオが笑う。
「死ねっ」笑う。
しだいに小さくなってゆくうしろすがたをぼんやりと眺める。ほっぺたの筋肉がもとにもどっていくのを確かめる。ナガオ。米粒大の背中に向かって、心の中でつぶやいてみた。
ナガオ、あのね、ちいさいころすんでた家はね、白いマンションだったんだけど、目の前に小さな公園があったの。つよくつよく思ったら、振り返ってくれるかしら。そんなはずないけど。
あーあ。ずっと聞いてほしかったことはみんな、ナガオを目の前にして、泡になってしまう。別にいんだけど。楽しかったから。そう思い直したらなんかいいような気がしてきたので、まわれ右をして学校へむかった。
西日のあたる、橋の欄干の影に足を沿わせて歩く。立ちどまって、ちょっとだけ両腕を宙にあおがせてみる。下をみると、わたしの影。おびえることなく、しっかりと、果敢にも欄干に立っている、19歳のわたしの影。
ナガオって呼んだ。でかいミニカー、ちっがうよバカ、高校生のふりとか、死ね、しねしね。
6歳のわたしは、こんなこと言わなかった。恐がりで、きらわれるのがいやで、わたしは何ひとつ変わってないのに、言えるようになってしまった。
おとなはみんな、うそつきだ。
そーだよ。のぼれなくっても平気、うそなんて簡単につける。主人公になれる。
ずるくなったよなあ。少しだけ笑って、わたしはまた歩きだした。

おしまい

宮田 和美 4A いばらぎのおばあちゃんのこと 2002年06月15日(土)21時22分41秒

2002年2月8日、いばらぎのおばあちゃんが死んだ。97歳だった。私はこのことを、夜の10時ごろかかってきた奈良のおじいちゃんからの電話で知った。
いばらぎのおばあちゃんは奈良に住む母方のおばあちゃんのお母さんで、わたしにとってはひいおばあちゃんにあたる。
このことを聞いたとき、わたしはべつにかなしいとは思わなかった。ただ、とてもびっくりして、反射的に、深刻な顔をしなくちゃいけないんだなって思った。
おかあさんがきょうこおばさんにでんわしていた。それをみて、なんとなく兄弟がうらやましくなった。それとわたしも誰かびっくりさせたくなって、おにいちゃんに携帯で電話してみた。したら留守電だった。
「かずみ。いばらぎのおばあちゃんが死にました。では」
言葉にすると思った以上に重くてドキッとした。電話を切ると、画面にねこのキャラクターがでてきて、「なんかニュース?」ってふきだしに書かれてた。ああ、ニュースだとも。なんか軽々しくてむかついた。けど、ただふりしてるんだから、わたしだって同じだ。
明日のバイト休めるかなって思った。忌引き、っつうもんをわたしは体験したことがない。やすみてえ、堂々と休みてえ。もし、ひいおばあちゃんが死んだから休みますと言ったら、社員は「それはそれは・・・」とまるで理由を聞いたことが死因のような、その日にシフトを入れたことが死因のような、申し訳なさそうな声を出すだろう。ちょっとうっとり。だからお通夜とお葬式に出たいなって思った。
死人に目はあるのかな、見えるのかなって思った。おかあさんが「もう97にもなるとおともだちもみんな死んでるだろうから、さみしいお葬式になるだろうね」と言った。死人は目が見えねえから、そんなの関係ないでしょ、って思った。けど上から見てるならかわいそうかも。もし見てるならたとえ別れを惜しむ人でなくとも、いたほうがいい。絶対にいい。
こんなことを考えてたら、ふとおばあちゃんがわたしを上から見てたらどうしようって思った。きっとわたし、憑かれてしまう。
おかあさんがきょうこおばさんとの電話を切って、
「さいご、辛かったろうにねえ。かわいそうにね、おばあちゃん、女手ひとつで6人の子供を育てたのよ」と言った。はあー?なにこいつ、って思った。おばあちゃんが生きてたころには、まるで生きてること自体が悪いみたいに言っていたのに、死んだら途端に手のひらかえやがって、と思った。けど、涙目のおかあさんを見てたらなにもいえなくなった。老いへの不安、がそこにあった気がした。
おばあちゃんとの思い出。中1の正月。奈良へ帰ったときにはじめて(おそらくはじめてじゃないんだろうけど、わたしにとってははじめて)会った。92歳だった。しわしわの腕が、どこまでもまっすぐだったのを覚えている。1日中、テレビのある居間にいて、何十回も6人の子供たちのプロフィールを話すもんだから(しかも何言ってるんだか全然わからん)、わたしはすっかり居間恐怖症になって、おばあちゃんを避けまくっていた。
それ以来、おばあちゃんとは会っていない。おばあちゃんが病院に入ってから、時々夕食のときの話題(わるくちみたいなものだったけど)にのぼる程度だった。
おばあちゃんの死、おばあちゃんとの思い出。
ひょっとしたらわたしの中で「いばらぎのおばあちゃん」は、とっくの昔に死んでしまっていたのかもしれない。

宮田 和美 5A 大きな川 2002年06月15日(土)21時53分42秒

大きな川
都会の大きな川は、車がびゅんびゅん走っていて、1歩でも足を踏み入れたら即死です。

白い花
名前も知らない白い花が通学路に咲いていて、とても素敵な、いいにおいがするので当分のあいだ、わたしは元気でいられるはずです。

ありとだんごむし
遊歩道にあるベンチに座ってわかればなしをしていたら、足元をありのむれがだんごむしを運んでいて、なんだか、別れるとかやめるとかそうゆうのがどーでもよくなってきました。
 

宮田 和美 6A おにいちゃん 2002年06月15日(土)23時01分49秒

まだわたしとおにいちゃんが赤ちゃんだったころ、おかあさんはお昼寝をしているわたしたちを家に残して、近くの丸正まで買い物に行っていたらしい。ある日、おかあさんが買い物を終えて帰ってくると、ものすごい泣き声がギャースカ響いてた。おかあさんがあわてて飛んでいくと、おにいちゃんはわたしのはえたばっかの髪の毛を、おもいっきしつかんでやがった。おぼえてないけど。

わたしとおにいちゃんが幼稚園にかよっていたころ、毎朝、わたしたちはおかあさんといっしょに歩いて通園していた。わたしは、家を出たらまずおにいちゃんに「手をつなごう」と言ってからおかあさんに「手をつなごう」と言った。そしたらおにいちゃんはおかあさんの手、つなげないもんね。ざまあみそずけ。なんつって、毎朝ほくそえんでいた。

あのころ、わたしはおにいいちゃんをはずかしがっていた。おにいちゃんの走り方がはずかしい。サザエさんのエンディングみたいだから。おにいちゃんの背の低いところがはずかしい。いっつもわたしのほうがおねえちゃんと間違われるから。おにいちゃんの歌のうたいかたがはずかしい。休めの体勢のまま横にゆれて、人形劇に人形みたいだから。ほっぺが赤いのもはずかしい。おでこにあるほくろもはずかしい。

わたしとおにいちゃんは年子だからか、よくおそろいのものを買ってもらった。英語教室に行くときのかばんもそう。スヌーピーの絵がついていて、合成の革でできた四角いスリーウェイのかばん。わたしもおにいちゃんもそれを、リュックのように背負っていた。わたしはだいだい、おにいちゃんは青。
かばんはとってもお気に入りだったのだけれど、わたしは英語教室に行くのがいやだった。同い年の子たちと仲良くなれないのがまずいやだったし、外人の先生が言う「ハーイ、カァー、ズゥーー、ミィー」というまるで人をばかにしたようなあいさつもいやだった。おもちゃのドル札で買い物をしても、せっかくそれで買ったパンダのぬいぐるみを先生にかえさなくちゃいけないのもいやだった。だから毎週月ようと金ようはユウウツだった。
おにいちゃんは教室に行くとき、あんまり喋らなかった。もともとおとなしいほうだからそれほどふしぎじゃなかったけれど、あんまり喋らなかった。わたしがあまりにもふきげんに、いやいやオーラを発しながら歩いていたからかもしれない。おにいちゃんはよく、わたしの5メートルくらい先でちんたら歩くわたしを待っていた。

その日もわたしは、なるだけゆっくりゆっくり歩いていた。おにいちゃんは黙ってわたしを待っていた。いつもの定位置、5メートル先で。
わたしがおにいちゃんに追いつくと、おにいちゃんは小さな声で言った。
「すごろく、しようか」
すごろく。できないじゃん。すごろくないし、ここ外だし、歩いてるし。
「口でやるの。しゃべってやるの」
ふうん、できるもんならやってみな。わたしは半信半疑、むしろ挑戦的に言った。
「むかしむかし、あるところにおじいさんたおばあさんがいました。おじいさんは山へしばかりに、おばあさんは川へ洗濯にいきました。」
なんだ、フツーの昔話じゃんか、そう思いながらわたしは聞いていた。
「おばあさんが川で洗濯をしていると、むこうから大きなももがどんぶらこ、どんぶらこと流れてきました。いち、ひろう。に、ほっとく。どっち?」
「えっ」
「どっち」
「い、いち」
「えーと、おばあさんがももを拾おうとしたら、おばあさんはももに、食べられてしまいました。はい、どうする」
「たすけてーって言う」
「ええっと、おばあさんはももの中からたすけてーって言いました。すると、えっと、山から帰ってきたおじいさんが川にやってきました。いち、たすける。に、たすけない」
「に、たすけない。」
「えーっ、たすけないの?」
おにいちゃんは英語教室に行きと帰りにすごろくをしてくれた。おにいちゃんの即興すごろくはたのしくて、おにいちゃんがめんどくさいからやだって言っても、やってとせがんだ。いつのまにか、わたしは英語教室へ行くのがいやじゃなくなっていた。


宮田和美 7A「日々のかけら」 2002年06月17日(月)16時51分50秒

6月15日(土)

どうして手をつなぎたがらないの、って聞かれて
わたしがいやなのは
手をつなぐことじゃなくて
一度つないだらその手をはなせなくなる
弱いわたしなんだなって気づいた。


アイボリー

冬にちょっとだけ恋をしていた
ひとの家に、ひさしぶりに行った。
流しにはそのころと同じ
アイボリーの食器用洗剤。
ごはんの後、食器を洗っていたら
その、傷んだきゅうりみたいな、黒胡椒みたいな
独特のへんなにおいがして、
なんとなく、
洗いものがおわっても
つい何度も手を鼻のところに持っていってた。





宮田 和美 8A 「ワイルドターキー」 2002年06月18日(火)18時42分55秒

ワイルドターキーからスピリッツの最新刊を買った。
ワイルドターキーは私住む町の駅にいるホームレスっぽいひと。青いビニールシートの上におそらくに拾ってきたであろう雑誌を並べて売っている。小柄で、しわくちゃで、そしておそろしく格好いい。
濃い茶色のジャケットをMr.マリックのように肘までたくし上げ、中にはきっぱりと鮮やかな青のシャツを着ている。ボタンを3つほどはずした胸元には、金の鎖がにぶく光っていて、黒のスラックスをはいている。胡麻塩あたまは意外にもきれいに刈られていて、薄茶の細長いサングラスの奥にはぎらりと光るちいさな目がみえる。
その、人ひとりは殺したことがありそうな風貌に敬意をこめて、私は彼のことを勝手にワイルドターキーと名づけて、心の中で呼んでいた。
ワイルドターキー、いかしたオヤジ。

ワイルドターキーからスピリッツの最新号を買った。
その日、私はごきげんで、何が私をそうさせていたのか覚えてないけど、とにかく地上から3センチくらい浮いちゃうくらいごきげんだった。じゃあそれに便乗して、ワイルドターキーから雑誌を買いましょう、と私は思いついた。
すいません、と声をかけてみた。どきどきした。ワイルドターキーは初め、私に気付かなかった。私はスピリッツを手にとってこれください、と言った。
「・・・・になります」
ワイルドターキーの声は、想像していたよりもずっと弱々しくて私はえ?と聞きかえした。彼の後ろには、無造作に古新聞が積まれた黒い折りたたみの椅子が置かれていて、その下には空のコカコーラのペットボトルと割り箸のつっこまれたカップヌードルの容器がころがっている。
「百円になります」
私は財布から百円をとりだすと、おそるおそる差し出した。黒く汚れた傷だらけの、がさがさの手。
ほんとうは逃げたかった。けれど雑誌をうけとるとき、ちょっと照れ笑いになった。ワイルドターキーは「はい、ありがとね」と言いながら、のそのそと新聞をつんだ椅子に歩いていった。
まるで何事もなかったかのように。
帰り道、私は嬉しいような、中途半端にかなしい、やりきれないような気持ちになって、自転車を思いきり飛ばした。
うちに帰って、久しぶりに読んだスピリッツは、期待していたよりもおもしろくなかった。

宮田 和美 9A 日々のかけら そのに 2002年06月21日(金)22時36分53秒

1

目のまえをとおり過ぎる、急行列車の窓に
ぼんやりと私の顔がうつって
まだ、生きてるんだなあアタシ
って気づいた。






二月の早朝は、しらじらしくて、哀しい。
日はすっかりのぼりきって、明るいというのに
一体どうして
こんな気持ちになるんだろうって考えてたら、ネオンが
点けっぱなしの東京タワーと目が合った。
ああ、これだ。
二月の早朝は、変わってくことに慣れなくて
気がついたら置いてけぼりの
あたしの孤独と、よく似てるんだ。



3 

道端で、子供が三輪車に乗っていた。
子供は、三輪車にのりながら、すぐそばで
立ち話をしている母親らしきひとに向かって
「見て!!」訴えていた。叫んでた。
私は元気がなかったので、
黙れガキ。みっともない。
って思ってた。
けれど、あんなふうに叫べたら
今よりちょっとは楽になるんだろうなって思うと、
すこしだけうらやましくなった。



紺色めがね

見立ててよっていわれたから
表参道のめがね屋さんで、生まれてはじめて
めがねを探してみた。
絶対これかっちいいぜ、って私がすすめたのは
紺色の、プラスチックフレームの、四角いやつ。
それなのに、
紺色めがねは二ヶ月ともたなかった。目が疲れるらしい。
「やっぱさ、慣れてるやつのがいんじゃない」と私が言ったら、
次の日からもとのめがねに戻った。
でも、ほんとうは、それより前から気づいていた。
例えば私がトイレとかで席を立つたびに
めがねを外して、目を閉じてたから。
それを見るのが、見て見ぬふりをするのが
あまりにも辛かったから。




「見てごらん、オムレツの月だよ。あれ一緒にたべよう。せえの、ぱく」
って恋人と電話で話す小説があるの、すてきよね。
って隣にいる友達に話してたけど、
ほんとは、となりに話すふりして
前を歩いているなんとかくんに話しかけていたのです。





宮田和美 10A 日々のかけら そのさん 2002年06月26日(水)14時02分17秒

朝、うちを出るとき、部屋のそーじしろとか脱いだ靴下そこらへんにころがしとくなとか、そうゆうしょーもないことで親と泣くほどけんかした。目にナミダをためながら、背中に浴びせられる親の言葉を無視してうちを出た。外が思った以上にさむくて、けど上着とりにのこのこ戻るのもしゃくだから、だいじょうぶだいじょうぶって自己暗示をかけながら自転車に乗る。サドルが異様に高くて、そういえばきのう親父がわたしのチャリンコ使ったんだって思い出して、もどしとけよって心ん中で思いっきし叫んどいたけど、直すのも面倒だからそのまま乗った。
駅に自転車をおいて、改札まで歩きながら足元に目をやった。そしたら明らかにスカートと靴がちぐはぐで、あー、やっちまった。あのとき親への怒りにまかせて玄関に出しっぱなしの靴を何も考えずにはいて出てきたことに後悔しつつ改札を抜けた。時計がもう3時をまわっていた。きのうたしか1時に家でて古着屋みにいこうって計画立ててたのに、なんでこんなに時間くってんだよってガックリきた。ホームに電車が来てたからそれにとび乗った。電車に揺られながらなんだか無性にむかむかくるのは親のせいだと思って、親への仕返しを考えてたら駅についてたので、いそいで電車をおりた。したら駅ひとつ間違えて、手前の駅でおりてた。あーもう。次の電車を待つのもなんとなく情けなくてやだったから、歩いていくことに決めた。
あとちょっとで目的地につくってところに青山ブックセンターを発見。そういやここはまんが立ち読みできんじゃん、寄ってこーって入っていった。白くて明るくて、ひろびろとしてた。けどまんがはほとんどビニールかかってて、しかもまんが少なくて、なんだよここ本店のくせにしけてんなぁオイって思いながら、ビニールのかかってなかった安野モヨコの『ハッピーマニア』の文庫版を手にとった。妙にはまって、1巻から4巻まで一気読みした。たちっぱなしだから足とか腰とかくたくただけど、5巻で終わりみたいだからガンバって!って自分を励ましつつ読み続けたら、おわりじゃねーの。6巻どこよ、重田とタカハシどうなるのか気になるじゃないってフラストレーションたまりまくった。でも楽しかったから満足して本屋出ようとしたら、もう8時かよ!6時半までに帰ってサザエさん見るって決めてたのに、もうサザエさん一家寝てる時間じゃねえの?ちくしょう。つうか古着屋、全然みてないし。ばかじゃんアタシとか思いながら、目的地を目の前にしてとぼとぼと引き返した。外はすっかり夜で、昼間よりもさらに寒い。ハッピーマニアたのしかったからいいよってなぐさめながら歩く。
かえりみち、まんがの世界から帰ってこれなくて、自分が重田カヨコのような、タカハシみたいな彼氏がいるような気がして、あーちげー、戻ってこーい、現実はもっとしょぼくれてるぞーって自分にいい聞かせた。現実に戻ると、それはそれで割とむなしい。
電車に乗って、駅について、つかれたなあって思いながらとぼとぼ歩いてたら、行きに乗ってきた自転車をおきざりにしてることに気づいた。はあーっとためいきをついて、めんどくせえと思いつつ来た道を引き返した。駅前のパチンコ屋から行進曲みたいな音楽が流れてきた。あいかわらずのけばけばしい照明。ここはアタシが元気あろーがなかろーがいつもにぎやかだなあ。行進曲にあわせて手をふって行進してみたらなんとなく楽しくなった。チャリンコに乗ったらサドルが高くてまたびっくりしたけど、怒るほどのことじゃないなっておもいながら家にむかってペダルをこいだ。









宮田和美 11A 日々ののかけら そのよん 2002年06月26日(水)14時57分27秒

まゆ毛を抜く

眠る前に、返しそびれたCDをききながらまゆ毛を抜いていた。
なんでこんなにいい曲なんだろう
って思いながらまゆ毛を抜いていたら
つーん、て鼻にきて
くしゃみしたくなったけど
でも、あとちょっとのところでくしゃみは出なくて
なみだ目のまま、鼻をおもいっきしすすって
ずびずばいいながらまゆ毛を抜きつづけた。
なんでこんなにいい曲なんだろう
なんでこんないい曲をいいっていうひとなのにうまくいかなかったんだろう
出そうで出ないくしゃみに頼らなくても、上手に泣けたらいいのに。

宮田和美 12A なにもない自由 2002年06月26日(水)15時51分25秒



ひさしぶりに会った。
ファミレスで、
私はカフェラテたのんで
むこうは中生たのんだ。
それから
キャロルキングの新しいアルバムの話とか
岡崎京子のまんがのこととか
土曜にあるサークルの飲み会のこととか
今日行くと言っていたヤマト運輸のバイトの面接のこととか
そういう、どーでもいい話をたくさんした。
「私たちが夏まで続いたら、お母さんが花火大会見においでって。ぎょうざとビール用意して待ってるからって」
このことを言った瞬間、私はほんとうは別れたくないのかもしれないって気づいた。
けど、そんな気持ちとは裏腹に、この言葉が別れ話スタートのきっかけとなった。




風呂にながながと入った。さみしいんだってよくわかった。
けどそれはあのひとがいなくなったことじゃなくて、彼氏がいなくなったことが。
(でも本当に?)
あたまん中でずっとぐるぐる曲が流れていて、
なんの曲かはよく覚えてないんだけど
エンディングテーマだな、って思った。
それは、誰かを強く思うような、幸せなんだけど哀しいような、
遠くに、ずっとずっと遠くにちいさな光があるような
終わりでもあるけど始まりでもある、昔みた青春映画のようなエンディングテーマだった。

宮田 和美 13A 「ひびのかけら そのご」 2002年06月28日(金)00時58分55秒

あじさい

渋谷は雨で、私は傘をさしながら、花屋の店先に並んでいる白いあじさいをながめていた。
「ポカリスエットはアルカリ性でしょ、ポカリの缶って青いじゃん、だからリトマス試験紙は青くなるの。そう覚えれば一発じゃん」
6月の明月院で手をつなぎながら、あのひとはわらっていった。21にもなってリトマス試験紙の区別もできないの、って苦笑しながら。
わたしたちはたくさんのあじさい、ほんとうにたくさんの青いあじさいに囲まれていた。きれいだった。
で、それとあじさいの花の色とアルカリ性が青っていうのと、一体どう関係があるのって私がたずねると
「だから青いあじさいはアルカリ性で、赤っぽいあじさいは酸性なんだよ」
っていってた。
あのときはへえ、雑学王じゃんとかいってわらってた。
けど、今、白いあじさいをながめながら、
そもそもあじさいにとっての酸性アルカリ性っていったい何だ?この白いあじさいは何なんだ?中性か?って考え込んでいた。
雨はまだ降っている。



すきになったひと

あんたさ、自分が男のどこをすきになってんのか自分でもさっぱりわかってないでしょ、って言われたので、アタシは過去すきになった男の子のどこに惹かれていたのか思い出そうとこころみた。
小学校3年生のときにすきになった、となりの席の前田くんはハンサムでやさしかった。毎週金曜の給食のとき(アタシの通ってた小学校は金曜だけパンじゃなくてごはんだった)、箸でもったおかずをおとさないように、左手のお茶わんの上に一度持っていってから食べる、その動作が新鮮で、びっくりしてすきになった。
小学4年のときにすきになった山田くんは、顔がキン肉マンにでてくるラーメンマンに似ていて、となりの席だった。
ある日、テレビ番組しりとりっていうのをふたりでやっていて、アタシが「り」のつく番組が思い出せなくてうなってたら、山田くんは「臨時ニュース」ってさらりと言って、それがかっこよくてすきになった。
小学5年にすきになった高橋くんはプロゴルファー猿みたいな顔をしていて、足がはやかった。高橋くんは胸につけている名札の安全ピンを手のひらの皮に通して、手に名札をつけたりする珍芸の持ち主だった。
ある日、新しい芸、アロンアルファを手の親指と人差し指にぬってぎゅーってくっつけたあとそれを離すという意味不明な技を授業中にあみだしていた。
ところが、アロンアルファをつけた指は冗談抜きで離れなくなってしまった。それからどうなったかは覚えてないけど「おい、どうしよう、これ」ってオロオロしている高橋くんをみて、一緒にオロオロしてるうちにすきになっていた。
この3人の共通点はなんだろう、ってうとうとしながらかんがえてた。

となりの席、かしら。

宮田 和美 14A「日々のかけら そのろく」 2002年06月29日(土)14時01分24秒



なんにもわかってない
なんにもわかってない
留守電とか着歴とか、あるとうれしいけど、
その500倍のいかりも、不安も、恐怖も
なんにもわかってないわかろうともしてない
もし今度あうことがあったら
でんわをくれた数だけだきしめて
背中にまわした手でそのまま
首でも絞めてやろうかしら





むかつく
殴りたい、ぼこぼこにしてやりたい
むかつく
その声が、ときどき混じる敬語が
抑揚のつよい鼻歌が
2回続けてでるくしゃみが、全部が
むかつく
2人だけで話してるから
こっち向かないから
私を見ないから
興味ないみたいだから
殴りたい、ぼこぼこにしてやりたい
ずたずたに傷つけたい、立ち直れなくさせたい
そして、
わたしの存在の大きさを思い知らせてやりたい


宮田 和美 15A「日々のかけら そのなな」 2002年06月29日(土)21時23分21秒

便所ブラシ立てのこと

高校生のころ、ちょっとだけすきだったひとがいた。
そのひとのすんでいるアパートに、私は一度だけ行ったことがある。
その部屋には、「昔の女」が買ってくれたという黒い小さな冷蔵庫と
無造作に立てかけられた青い夜景のジグソーパズルがあったのをおぼえている。
そのひとのアパートのトイレは洋式で
すみっこに、便器をみがくための、柄のながい白いブラシが立っていた。
ブラシは、お醤油かなにかのペットボトルを半分に切り、
さらに出し入れしやすいようにたてに四角い切りこみの入った
おそらくお手製のブラシ立てに入っていた。
私はもう、そのひとの顔とか、声とか、下の名前とか、どんなふうに笑ったかとか、
たくさんのことを忘れてしまったけど、
便所ブラシ立てのことはなぜかはっきり覚えている。

宮田 和美 15A「日々のかけら そのなな」 2002年06月29日(土)21時24分18秒

便所ブラシ立てのこと

高校生のころ、ちょっとだけすきだったひとがいた。
そのひとのすんでいるアパートに、私は一度だけ行ったことがある。
その部屋には、「昔の女」が買ってくれたという黒い小さな冷蔵庫と
無造作に立てかけられた青い夜景のジグソーパズルがあったのをおぼえている。
そのひとのアパートのトイレは洋式で
すみっこに、便器をみがくための、柄のながい白いブラシが立っていた。
ブラシは、お醤油かなにかのペットボトルを半分に切り、
さらに出し入れしやすいようにたてに四角い切りこみの入った
おそらくお手製のブラシ立てに入っていた。
私はもう、そのひとの顔とか、声とか、下の名前とか、どんなふうに笑ったかとか、
たくさんのことを忘れてしまったけど、
便所ブラシ立てのことはなぜかはっきり覚えている。

宮田和美 16Aひびのかけら そのはち 2002年07月02日(火)10時33分13秒


無視される前に無視をする、というのが
アタシのなかの流儀というかジョートウ手段になってた
ずっと。
やっと気づいた、それがどれだけ痛いことかって。



くもりぞらがすき。くもりぞらもすき。
電車からみえる多摩川は、ゆきがふったみたく白いから。
くもりぞらもいいと思う。



そういえば、高校生のとき
「空がなんで青いかしってる?」ってきいたら
「海が青いからでしょ」
って返されたことがあった。
いとけん元気かなあ。



差別をしてないか、100パーセントしてないか
って問いつめられるとよくわかんなくなるし、
差別と区別ってどうちがうのかとか考え出すともう区別つかんしわけわかランチ。
けど、笑って話せてよかったって思う。
耳の聞こえないひとと、っていうのじゃないと思う。
それもあるのかもしれんけど、それだけじゃない。
あの子と、笑って話せてよかったって思う。



旅立つきみに
1億6000万個のキン消しを贈ろう
と計画した。
けどそんな金ないし、やめたけど、もし、
私が1億6000万個のキン消しを贈ったら
きみは一体どうするんだろうね。
どーせそれでも行っちゃうんだろうけど。




宮田和美 17A 日々のかけら そのきゅー 2002年07月02日(火)22時07分58秒

わたしが生まれた町はものすっごい都会で、山はおろか川も民家もほとんどない。
それでもわたしは、この町に来ると、ところどころに情緒をかんじる。

このへんはほとんど変わらないなあって思いながら景色をながめていた。
自販機に、最近はやっているなんとかちゃんというモデル出身の女の子の顔が張りついているのにきづいた。
そのむこうには、わたしが16歳の冬まで住んでいた白いマンション。
建物の目のまえにあるいっぽんの木は、わたしが生まれた年に植えられたもので、むかしの写真にはひょろひょろの小枝で写っていたのが、いまはもう4階のベランダまですっぽりと隠している。
マンションをながめていたら、自販機のアクリルにうすぼんやりと映るわたしと目が合った。今年で二十歳の顔。
わたしと同い年のあの大きな木は、ほんとうに大きい。
風景はかわらない素振りをみせながら、つめたいほど着実に、年をかさねているんだなあって思った。


宮田 和美 18A 日々のかけら そのじゅー 2002年07月02日(火)22時49分14秒



国立自然教育園

国立自然教育園のまえを通りながら
いつか行こうねって約束してたわたしを思い出した
てさげかばんをどっちの手に持つかとか
それをいつ持ち替えるかとか
そうゆうのを、いちいち気にしてたわたし。
わたしとあのひととのあいだにある
わたしの右手とあのひとの左手のプレッシャー
それがないって、ほんとに気らく。
これこそがなんにもない自由ダ




さみしいわけじゃない
どこにいってもあのひとのことを思い出すけど
それは決してさみしいわけじゃない
たとえ、これがさみしさだとしても
あのひとのいないさみしさじゃない
そんなんじゃない

 

宮田 和美 19A 日々のかけら そのじゅーいち 2002年07月03日(水)00時33分20秒

ベランダに住むぺんぎん

ベランダに住むぺんぎんには生きてる説と生きてない説があった。わたしの中で。それは通学電車からみえるアパートにいて、なんでだかいつも両腕をひろげていた。そして、時々動く。目の錯覚かもしれないけど、わたし的には時々動いていた。
雨が降っていると、ぺんぎんはベランダにいなかった。きっと日本の湿気が肌に合わないのだろう。かわいそうに。
そんなわけで、わたしの中では圧倒的に生きてる説が優勢だった。

そのころ、わたしにはすきなひとがいた。となりのクラスの渋谷くん。一度も話したことがなかったけど、雪国に住む辰巳琢郎みたいなソボクな顔立ちがすきで、昇降口や渡り廊下でみかけてはきゃーっていいながら走って友達に報告しにいった。
わたしは、仲間内で渋谷くんのうわさばなしをするとき、「まるきゅー」という隠語をつかっていた。まるきゅーがトイレに入った。まるきゅーが首に巻いているしましまの長いマフラーがかわいい。まるきゅーが廊下で友達に、ムーンウォークを披露していた。避難訓練のとき、まるきゅーが前にいる岸くんの背中に指で文字書いてて「おまえ漢字つかうなよ」ってつっこまれてたなどなど。
渋谷くんを目で追ってる間、わたしはいつもうふふ、と笑っていた。そして渋谷くんのいないところでも、よく渋谷くんのことを思い出してた。まるきゅーをここへ連れてきたいな、とかまるきゅーにあのぺんぎんを見せたいな、とかそしたら何て言うかしら、とか。
渋谷くんてうちのクラスの田原と仲いいよ、去年の大みそかもあそんだって言ってたし。というアケミの情報をもとに、わたしは田原くんに近づくことに決めた。田原くんはからっとしていて、気さくだから男女ともに友達が多い。
案の定、すんなりと仲良くなれて、わたしは田原くんに思う存分渋谷くんの魅力について話そうとした。そんでもって田原くんづたいにまるきゅーの耳にも入らないかしら…なんていやらしい期待も持ちつつ。
「あー、あいついいやつだよ。彼女いるけど」

が、ちょーん。
本気でへこむのもあほくさいのでアケミやらさんざんまるきゅーネタを聞いてもらった人々にこのことを報告した。ちくしょーとか、生きる意欲消滅とか、もう学校やめますさがさないでくださいとか、さんざんわめきちらして冗談めかしてなぐさめてもらった。
それから、ポッキー食べながら岸くんは彼女いるのかなあとか今日のきれた森先のマネとかして、ひととおり笑ってからばいばいって言ってひとりで帰った。
教室のドアから、みんなのこえがもれてる。くぐもった笑い声。

べつに渋谷くんの何を知ってるってわけでもないし
ただ顔がすきだっただけだし
雪国育ちの辰巳琢郎みたいな男なんて探せばいくらでもいるし
つーか、最悪、辰巳琢郎がいるし。あは
結婚してんのかなーあのひと
つうかまだ芸能人なのかなあ
あいつ京大出てるよねたしか
なんつって、どーでもいいんだけど
そう、どーでもいい、ひまつぶし。
だから、そんな、おちこむことじゃない。

帰り道、いつものようにぺんぎんはいた。いつもの場所で、いつもの体勢で。
あ、置き物じゃんあれ。
そのとき、わたしはやっと気づいた。ぺんぎんは置き物だった。どう見ても、置き物だった。今まで生きていたと思ってたのが嘘のように思えた。それくらい、ぺんぎんは自然に置き物の顔をしていた。
そーだよ、日本の、しかもアパートのベランダでぺんぎんが飼えるわけないし。ばかじゃんわたし。

青い通学電車は、夢からさめたわたしを乗せて、のんびりと走っていった。

宮田和美 20A ひびのかけら そのじゅーに 2002年07月05日(金)21時44分24秒

お年寄りが目の前に立っているのに寝たふりしたり、
学校行くのめんどくて一日中ごろごろしていたり、それが一週間続いたり、
洋服に金つぎこんだり
べつにすきじゃない子とにこにこ喋ったり、
そのくせ気になるひとにはうまく声かけられなかったり、
便器のまえの銀色のパイプに映るブサイクな顔と目が合ったとき、
聞こえた。
あたし、腐ってる。腐ってく音が聞こえる。

宮田和美 21A ひびのかけら そのじゅーさん 2002年07月05日(金)22時28分52秒

Home Sweet Home と書かれたプレートが、わが家の玄関には掛かっている。
お母さんが100均で買ってきたもので、あたしはあれが嫌いだった。
百円で手に入るスイートホームなんてばかみたい。
ばっかみたい、そう思ってた。

宮田和美 22A 日々のかけら そのじゅーよん 2002年07月06日(土)21時04分07秒

まだわたしたちの間柄が、とても恋とは呼べなかった頃、旅先の日光で、やつのためにおみやげを買ったことがある。
鬼の面がついた日光山のおまもり。お面は10センチくらいで、鬼というよりもむしろ痩せこけたやまんばのような顔つきだった。そのくせ瞳にキラキラ光る石が埋めこまれて、満面の笑みを浮かべている。
わたしは、寂れたみやげもの屋でこれを見たとたん「ぶっ」と吹き出してしまった。
そして、この気持ちをぜひとも共有したいと思って、なんじゃこりゃーって大爆笑するやつの顔を思いながらそれを買った。

鬼の面は、今もまだわたしの手元にある。旅行から帰ってきて、恋やら何やらですったもんだしているうちに、渡すタイミングを逃してしまったのだ。
そしていま、わたしたちの間柄は、もう日光山のおまもりじゃ笑えないほどになってしまっていた。

宮田 和美 23A 日々のかけら そのじゅーご 2002年07月07日(日)22時03分16秒

1
本屋さんで、表紙のきれいな文庫本を一冊買った。
この本をいちばん最初にどこで読もうか考えながら外に出た。
見上げると青い空がひろがっていたので、公園を却下して屋上で読むことにした。
空を見るのがすき。みたいときは見て、みたくないときは見なければいいから。
って誰かがいってた。
さみしくなるといつもそこにいて、たまにこうやって屋上に来ても、いやな顔ひとつしないで、きれいで、ほんとうにきせきみたいにきれいで、決してわたしを傷つけない。だから空がすき。


2
7月7日

ベランダから外を見ると、空が申し分なくきれいだったので
夕涼みがてら近くのコンビにまで行った。
男物のサンダルは幅がひろいので、歩いていると足指がどんどん前に出てしまう。
コンビニで折り紙とシュークリームを2つ買った。
アンアンの今週の占いによると、
天秤座は計算外のアクシデントが悲劇に転じる兆しあり、注目株はAB型とフェミニスト、とのこと。ふうん。
コンビニを出て、サンダルをぺたぺたいわせながら歩道橋をのぼる。空を眺めるために。
1年会わないってどんな感じなんだろ。会えない時間が愛育てるのさ、なんつってあたしだったら無理。きっと忘れちゃう。そのひとへの気持ちとか、そのひとの気持ちとか。
歩道橋はきらきら光るアスファルトが敷かれていて、きらきら光ってきれいだった。


宮田和美 24A 白くまくん 2002年07月19日(金)03時28分38秒

けいたい電話だけを持って、お父さんのサンダルをはいて、時計塔によりかかって待っていた。日ようの駅は家族づれとかおばさんたちのグループとかカップルとか全身黒ずくめで長い髪をひとつに束ねた男のひととか、ともかくいろんなひとがいる。わたしはそんないろんなひとたちの絶えず動くさまを眺めていた。遠く、改札のむこうにひとつだけ、見なれた上半身がまぎれているのに気づく。あ。
こうやってみるとナガオも米粒大なんだなあ、と思う。ナガオはずぼんのポッケから切符をだして改札にそれを入れて改札を出てきょろきょろしている。わたしは、うける、と思いながらナーガオー、と呼んだ。手をひらひらと振って。
ナガオはわたしに気づくと一瞬「お」と「ほ」の中間みたいな顔をしてから、どこかちがうところを見ながら、けど体はまっすぐこっちにむかって歩いてきた。
「やっほう」
「おみやげ」といってナガオは白い亀屋万年堂の紙袋をさしだした。なあに?といって、そういえばやっほうってあいさつ、お母さんにださーいって言われたなあって思いながら中身をのぞくと、ナボナが5個、入ってた。わたしの、お母さんの、ナガオの、お父さんの、だとしたらあと一個は誰のだろうとかんがえながらありがとう、と言った。
「ありがとうでも優先順位は白くまくんだから」
うん、とナガオが言って、わたしたちは歩き出した。

「白くまくんを買ったの、夏が来るから」
とナガオにこの間でんわで話した。来るべき夏のための白くまくん。
「しろくま?エアコン?」
「ううん、でもあたしも最初はそうかなって思ったの。あ、白くまくんを買ったのはお母さんなんだけど」
「で、なんなの」
「ないしょ」
「なんだそれ」こんないきさつで、今日わたしたちは白くまくん大会を開くことになった。
うちに帰る途中、大島商店であずきのかんづめとれんにゅうとみかんのかんづめとカルピスを買った。
「おなかすかせてきたかい。お母さんがぎょうざつくってるよ」
「おっ、いいねえ」
お母さんはきっと今ごろ、はりきってぎょうざを包んでいる。わたしがナガオのこと、いっぱい食べるひとだって言ったから。
ナガオは背がたかくてよく食べる。いつもジーンズをはいていて、めがねをかけている。髪は黒くてみじかい。あいかわらずの手ぶらで、でも足元はいつもはいてるトイレにありそうなサンダルじゃなくて、紺色のスニーカーをはいている。
「今日サンダルじゃないね」わたしはなんとなく嬉しくなった。

ただいまの一言がいつもより明らかにちがうのがわかる。うかれてる、けれどよそいきのただいま。
「おじゃまします」というナガオも緊張しているみたいだった。お母さんが台所から顔を出して「あらあ、いらっしゃい」と、逆光だから見えづらいけどそれでもはっきりとわかるよぶんなにこやかさで言った。うちのお母さんはひと見知りだから普段はそのままでも十分陽気なのに、お客さんが来るとへんな朗らかさが全身から出る。
「お母さん、ナガオがナボナくれたよ。あ、こちら、長岡くんです」
「おじゃまします」
わたしもお母さんもナガオも(ナガオはそうじゃないのかもしれないけど)妙にうきうきのような緊張で、へんだった。
「散らかってますけどねえ、どうぞ。これからぎょうざ焼くから、先にビールかしら、うふふ」
お母さんは文字通りうふふ、と笑うと缶ビールとコップと蒸し鶏ときゅうりのたたきを持ってきてくれた。わたしたちは座布団の上にすわって、卓袱台に置かれたきゅうりをぽりぽり食べながらビールを飲んで、つけっぱなしのテレビから流れるのど自慢を見ながらぎょうざが焼きあがるのを待った。ありふれたパステルカラーの舞台の上で、サラリーマンらしき二人組が、安全地帯の「夏の日のハーモニー」を歌い上げていた。部屋中にじゅうじゅうぱちぱちという音と油の香ばしいにおいが充満している。
お母さんの焼くぎょうざは、皮がかりかりしていて、裏返さないから、焼き色のついていないところは茹でたときみたいにつるんとしていて、かじるとじゅわっと熱くて、わたしが言うのもなんだけどかなりおいしい。なんでも10年以上も前に、自動振込みの案内とか定期預金の説明書とかといっしょに銀行においてあった縦長の紙、お料理一口メモの「おいしいぎょうざの作り方」があまりにもおいしくて、いまでもずっとその焼き方にしているらしい。いわばお母さんのおはこ。
「ビール、もう一本飲む?」とお母さんが聞くと、ナガオはあー、と考えてから
「あ、いいです。すいません」といった。
「じゃあご飯よそうわね」
お母さんがジャーを開けた。直線的なかたちの、外側にふちに沿って紺色の水玉がならんだお茶碗に、ナガオのご飯をよそった。見慣れない、まるでうちのものじゃないみたいなお茶碗。
「あたしも」
というと、わたしのいつものお茶碗、全体がうすいピンクで、こいピンクで梅の絵がさっとはかれたように描かれたやつがやってきた。
ナガオはそれをすいませんと言って受け取ると、ぎょうざうまいですと言ってもりもり食べ続けた。
ナガオは食べかたが美しいと思う。初めて会ったとき、はるちゃんと田原くんと、2人の中学時代の同級生、それがナガオとくんちゃんという白くてちっちゃい女の子だったのだけれど、その子と、ナミコと舟山くんとであそんだときから思ってた。きれいにものをたべるひとだなあと。
「ナガオってさ、時々旅館のおかみさんみたいな食べかたするよね」
ナガオは箸を止め、
「なんじゃそりゃ、女っぽいってこと?」
とわからなそうな顔で言った。
「そうじゃなくて、」
うまく言えなくてもごもごしてたら、ナガオは
「つうかおかみさんは料理食わないじゃん、出すほうじゃん」と言った。
美しいというのは出されたものをきれいにたいらげるという意味だけじゃなくて、たとえばお箸をもつ位置とか、ぎょうざをお酢につけてから(ナガオはお酢にラー油を落として食べるのがすきらしい)口に運ぶまで、左手に持ったご飯茶碗をそえるところとか、そういう、ちょっとした仕草が礼儀正しくていいなあと思う。
ぎょうざとお味噌汁と、高野どうふの卵とじと、ちんげん菜をたいたやつ、きゅうりのたたきでわたしはご飯を2杯とちょっと、ナガオは4杯も食べた。
「すげえ食ったー。あ、ごちそうさまでした」
すっかりリラックスしたナガオは大きなからだをのばして、おなかをさすっていた。
「おなかおっきい。ねえ、おなかいっぱいのときおなかおっきいって言うよね?」
「いわねーよ」
「言うって」
「じゃー腹へったときおなかちっちゃいって言うのかよ」
ごろごろしながらそんなことを喋っている最中、わたしはふと気づいた。
「あっ、白くまくん」すっかり忘れていた。
「そうだよ、やろうよ白くまくん」
わたしたちは、今まで動きたくないなーって思ったのがうそのようにてきぱきと卓袱台の上を片付けていった。そして器とか、山盛りの氷とかさっき買ったものを袋ごと持ってきて並べた。そして、真ん中にどんと白くまくん。
「あれ、電動でうごくやつじゃないの?」
うすいダンボールの箱から出てきた白いプラスチックを見てナガオは言った。
「そうだよ、やっぱりかき氷は手動じゃなくちゃ。ナガオかく係りね」
冷蔵庫からうすい紫のお皿を出しながら言う。ヘモグロビンみたいな形、かどうかは知らないけど見るたびにそう思う白たま。しろいのと抹茶味。缶切りとスプーンをお皿のラップの上にのせて持っていく。準備ばんたん。白くまくんは頭のてっぺんにぐるぐる回すのがついていて、頭の中に氷を入れ、ちょうどあごのところに刃がついていて、そこから氷がおちてくる仕組みになっている。あごの下に置かれた器は、ちょうど座っている白くまくんのからだにすっぽり覆われるかたちになる。だからちょっと欲張って大きな器で食べようとすると、白くまくんのからだに合わなくて氷がうまく器に入らない。取っ手とちょうネクタイが水色で、かわいい目をしているのでわたしはけっこう気に入っている。
ががが、とごりごりごり、とどどど、が混ざったようなすごいでかい音を出して、ナガオはひたすら氷をかいている。力もちだなあ、とわたしは感心してしまう。ナガオはあっという間にわたしのと自分のとおかあさんの分の氷をかいてくれた。それぞれ思い思いのもの、わたしはれんにゅうと抹茶と白たま、ナガオは白たまとカルピスとみかん、お母さんは抹茶とあずきと白たまをのせて食べた。
「うまい、あっでもこめかみ痛い」と言いながら氷をざくざくいわせてナガオは食べていた。そうか、このひと、甘いものも食べるんだ。
今年さいしょのかき氷。どう考えてもちょっと早すぎるけど、しゃりしゃりしておいしかった。
いつのまにかチャンネルのかわっていたテレビから、いつのまにか始まってた紀行番組が、ありふれた感じで進んでいった。

宮田和美 標本1A「かえうた仙人」 2002年10月02日(水)19時02分58秒
課題/夢の標本箱の文章 への応答

中学2年のころ仲良くなった仙人がはいっています。
文明堂とハトヤのCMソングは若いころの仕事で、一時期は小林亜星が弟子入りしてた、という自慢話をさんざん聞かされました。
仙人の特技はかえうたなのです。
じゃあなにか作ってと私がねだると、ゴッドファーザーの主題歌のかえうたで「いかの塩辛のテーマ」というのを歌ってくれました。
私があからさまにイマイチだなあって顔をしたので、仙人は機嫌を損ねてとなりにあった箱の中に入り、中から鍵をかけてしまいました。
それ以来出るタイミングがうまくつかめないらしく、仙人はずっと入ったままです。

宮田和美 25A 日々のかけら 2002年10月11日(金)01時44分52秒

かえりみち


目のまえから、空き缶をけりながら
あのこが歩いてきた。
左手には、わたしの知らない女の子の右手。
わたしは、その女の子がどーとかっつうよりも
今朝ねぼうして、そのままで来た
すっぴんの顔がはずかしくて
下を向いて、とっくりに顔をうずめて歩いた。

空き缶はまだからからいってる

すれちがって、しばらくして、
そうっとふりかえって
もういるはずもない道のむこうをみつめた。

なんでうまくできないんだろう。
前みたく、バイバイとか
授業のはなしとか、どうしてできないんだろう。

ほんとうは、わかってる。
いやだったのはすっぴんなんかじゃない。
となりの彼女
そして、すっぴんになれない
厚化粧のわたし。
会いたかったのに、ばいばいって言いたかったのに
彼女なんかつくらないでって言いたいのに
それができない、厚化粧のわたし。

宮田和美 26A 日々のかけら 2002年10月11日(金)03時22分26秒

向かいのホームには人がたくさんいる。
そこに各駅停車がやってきて、とまって、人が降りて人が乗って、
過ぎ去っていった後の向かいのホームは、さっきまでと打って変わって、がらんとしていて、寒々しかった。
そうじきで、くまなくそうじされたあとみたい。

そんなことをぼんやりと考えていたら、
こっちのホームにも電車が入ってきたので、それに乗って、吊り革につかまりながら、わたしは暗い車窓を見る。
きのうまではもっと、暗闇をはしる電車の窓がすきだった。
それなのに、今日のわたしときたら
窓にうつるじぶんの顔を眺めては
なんでこんなにかわいくないんだろうって、
そんなことばっかり考えてる。

もっとかわいかったらいいのにな。ドアのところに立っているあの女の子くらいに。
そうしたらもっと、この恋だってうまくいってたかもしれないのに。
わたしがすきな分だけあのひとも、わたしのことすきでいてくれたかも知れないのに。

宮田和美 標本1B  2002年10月11日(金)21時27分43秒

ほんとだよ。
このあめをたべると
ほんとに世界がきらきらするの
きれいだったな。
一度くちから出しちゃったから、もうあの頃にはもどれないけど。
きれいだったな。
さみしいな。
貝殻は、あの頃のわたしからのおみやげ。

宮田 和美 27A 日々のかけら 2002年10月13日(日)23時39分13秒

デートみたいなこと


たまごぱんみたいな形のヘッドフォンは
もっとちっちゃいやつに変わってた。
ジャケットの中に着ていたTシャツは、
約束してたけどいっしょに行けなくなってしまった
ロッキンフェスのやつだった。

でも、顔をみたら
ああ、そう、こんなだったって
おでこのとこの生え際とか、めがねとか、毛のうすい手とか
体に比べてちっちゃいリュックとか
口のしたの傷とか
すとんと重なる
そう、こんなだった。



「これいいね」
と言ってわたしが見せたのは、
朱色にちかいオレンジで、ジャージみたいな襟のとこだけ黒い
ジップアップのコート。
「うん、かっこいい」
「高度成長期ってかんじの色だよね」
「それはわかんないけど」
こういう風に買い物つきあってもらったりって、
前は全然しなかったよね。
君は、女の子の洋服を見てはかわいいを連発してる。
わたしは君のこと、なんにも知ろうとしてなかったのかもね。
青と黄色のスカートを手に取ろうとしたとき、
腕がちょっとだけくっついた。
そして、そうっと、遠くなる。
今のわたしたちの距離。
ひょっとしたら、これくらい離れてるから、だから君は優しいのかもね。



恋してるときのわたしって、
声がちがうんだって。
知ってます。
ちなみに今日も、変わってました。じつは。



ちがう
あれは恋じゃなかった。
ドラマとかの恋ってきっと、あんなに苦しいものじゃないし、美男美女だし、
もっとドキドキしたり、すっごい会いたくなったり、
いっつも笑ってて、けんかばっかじゃなくて、そんなだから
だからこれも、これからも恋じゃないし、きみとわたしは恋には向いてない。
ってことにしときたい。



クイックジャパン1冊
岡崎京子の漫画3冊
ピチカートファイブのCD1枚
つじあやの1枚

今日、返すもの。

ずっと、返さなきゃって片すみにあって、
でもどう返せばいいのかわかんなくて、どう返したいのかもわかんなくて、
郵送とかもできなくて、今まで持っていたもの。
「長いことごめんね」
そう言って、ABCマートの袋ごと差し出した。
ばいばい。

岡崎京子2冊、やまだないと1冊。
「これかす」って、交換みたいなかんじで出てきた。
「またおかざききょーこかい。ほかの貸せ」
とか言ってみた。
よかった。
これでまた、君と会える



ねえ、わたしのこと送らない?ここで降りてさ。
あとちょっとのところで言えませんでした。
あーあ。なんでだろ




宮田和美 プロットなんか考えてみたり。 2002年11月04日(月)19時53分21秒

●登場人物
・今日子(21)…大学三年。女性。気さくで明るい性格。一見誰とでも打ち解けられるように見えるが、実際は周囲に対して素直になれず、弱音を吐けない。一度わかれた恋人と、もういちどよりを戻す。恋人の気持ちより自分の気持ちのほうが強いのではないかという不安がつきまとっている。電話に出ることを怯え、アリバイを作るために犬小屋で生活をする。        

・ナオ(20)……大学二年。女性。今日子のルームメイト。今日子に恋をしている。過去の恋人は男性である。性格は直球型で素直。今日子への気持ちは強いが深くはない。嫉妬深く、傷つけられたら傷つけ返す。

●あらすじ
(1)今日子とナオが暮らし始める。今日子は白い犬小屋を部屋に置くが、そこに入らない。二人は気ままに楽しく暮らす。
(2)ナオは今日子へ好意を抱きだすが、同時に同性を好きになったことに悩む。そんな時、ナオは友人に「付き合ってほしい」と言われる。答えをあやふやにしたままどっちつかずの関係を続けるナオに今日子は「それは相手を傷つけることだ」と怒る。ナオは今日子に告白する。今日子はナオになんとなく知ってたと言って、キスをする。
(3)ある日今日子は以前の恋人と偶然出会う。長い間片思いをしていた相手であり、付き合っていた間今日子は犬小屋でくらしていた。今日子はナオに内緒で恋人と会いはじめる。
(4)今日子は以前のようにまた犬小屋で生活を始める。ナオはそれを不思議に思うが今日子はナオに何も言えずにいる。
(5)今日子の外泊が多くなる。学校もたびたび休んでいるのを心配して、今日子の友人がアパートをたずねる。何も知らないナオに友人は今日子が会っている男のことと、犬小屋で暮らすようになったいきさつについて話す。ナオはすべてを知っている今日子の友人とその男に嫉妬して、今日子のことを避けはじめる。
        

宮田 和美 プロット 2002年12月04日(水)22時16分35秒

昔すきだったひとを忘れられないいままいまの彼氏とつきあってたら、偶然そのすきだったひとと会い、気持ちがふっかつして彼氏と別れたけれど、その男とも結局うまくいかなかった女の子のはなし。

宮田 和美 28A うたかたラバー 2002年12月15日(日)14時13分15秒

一日のはじまりはいつもありふれて奇跡のようにきれいで眠い

空がきれいっていうことは言い訳になるよね電話していいよね

口の端に泡がたまる先生の話しながら食堂ランチ

誰にでも王子な君をすきになるのをさけるの一生懸命

この恋が錯覚だってわかってる錯覚だってわかってはいる

カラオケで今歌ってるこのうたが君の気持ちでありますように

たとえ犬だからといって女の子をキングと呼んだら傷つきます

いつかくる別れに怯えるくらいなら会わないほうが200倍マシ

もしいつか泳げなくなる日がきたとしてもきらいにはならないでね

朝焼けの車の中でいつかみた本のコピーをふと思い出す

宮田和美 29A 平成12年 2002年12月16日(月)15時25分59秒

図書館の椅子からおしりを3センチ浮かせて声をかけるか悩む

4Bのえんぴつで書くアートだけど読めない君のノートがすき

恋人ができたらきっとしあわせになれると信じていたあの頃

友達の間できのこの名前をつけるのはやって私はなめこ

コンビニの前でないといいながある店に入ってみたいと言った

浅草のお寺のそばの店で君がはいてたサンダルみつけたよ

あのひとの家のトイレにあるブラシ立てはペットボトルのリサイクル品

おみやげを私にいつもくれたのはどっちかっつうと自分のためでしょ?

イルカに乗った君が手を振るTシャツだけが笑える思い出だよね

会えなくて会いたいことすら忘れてたくしゃくしゃの髪もその手も声も


宮田和美 やわらかな光の塔を 2002年12月17日(火)00時23分24秒

すぐそばではじまった恋はのけものにされたみたいなセンチメンタル

会って二月もたたないおまえが愛しいなんて言ってんじゃねえよ

好きな子にみせた好きでもないやつの笑顔がなんでか頭に残る

三人で恋愛できたらいいのにねあたし下北案内するよ

わがままじゃなくて素直で明るくて どうしてあたしはあたしなんだろ

誕生日パーティーの後泣いたのは君がいなくてもいきてる私

高速の光が妙にあたたかい誰にかわかんないけど会いたい


雨が降る前によく吹く風の味 媚にも近い君の優しさ


この日々がいつ途絶えるかわからないそれでも私はやめられない


教室に戻ると誰もいなかったときの孤独も忘れるでしょう

塀の影のぼってみてもあの子にはなれないことはわかっています

校庭で遊ぶみんなを見下ろした 神さまになんてあこがれない





宮田和美 31A 空の高い日 2002年12月17日(火)12時15分08秒

水槽の夕暮れだから君からの電話も無視して泳いでいたい

瀬戸内の小さな島で暮らしたい 子供は一姫二太郎がいい

道なりにひたすら歩いて疲れたら最寄り駅から電車に乗ろう

青白い膜の張られた夜明けからおいてけぼりの東京タワー

宮田和美 32A  2002年12月17日(火)23時56分31秒

あの夜にむりやりはがしたかさぶたはあとが残っていまでも疼く

ミルキーの甘さが喉で波を打つ ゆるしたわけじゃないのに泣ける

いま言ったわたしの言葉暴力をうけてる妻の常套句みたい

また会えてよかったなんて言えませんでも「おはよう」にこめてみました

晴れた日は外に出かけて溢れだす記憶のにおいを抱きしめましょう

この町のどこかに落ちてるかもしれないきみのかけらをさがす道草

ひょっとして会えるかもって期待してタワレコに来て わたしがいるよ

宮田 和美 33A 2002年12月19日(木)02時07分49秒

体から想像つかないほど大きな水の輪を放って泳げ

いっとうに横断歩道を闊歩する 誰も待たない明日があるから

一時間900えんをもらわなきゃ優しくなれないあたしは屁タレ

「自主休講」むかいの女の子の言葉 それ以外は全部英語に聞こえる

でっぱって赤くなってるくるぶしの皮を見つめる 夢じゃないんだ

二十年生きてもイマイチ優しさの言葉のイミがよくわからない

ゴミ箱の上に置き去りのしょうゆを使って豆腐をたべてたでしょ

学バスの運転手さんが陸上をあるいてるのをはじめてみました

両親のどっちかが元ヒッピーで それしか知らないピーちゃんのこと

一日をもっと上手に暮らしたい味噌汁のんで電話をかけて

宮田 和美 33A 2002年12月19日(木)02時07分49秒

体から想像つかないほど大きな水の輪を放って泳げ

いっとうに横断歩道を闊歩する 誰も待たない明日があるから

一時間900えんをもらわなきゃ優しくなれないあたしは屁タレ

「自主休講」むかいの女の子の言葉 それ以外は全部英語に聞こえる

でっぱって赤くなってるくるぶしの皮を見つめる 夢じゃないんだ

二十年生きてもイマイチ優しさの言葉のイミがよくわからない

ゴミ箱の上に置き去りのしょうゆを使って豆腐をたべてたでしょ

学バスの運転手さんが陸上をあるいてるのをはじめてみました

両親のどっちかが元ヒッピーで それしか知らないピーちゃんのこと

一日をもっと上手に暮らしたい味噌汁のんで電話をかけて

宮田和美 34A 2002年12月24日(火)23時07分39秒

いち、に、さん、しい、ご、ろく、しち 目を閉じる 君に笑顔がもどりますよう

のぞきこむ君のうつった水たまり凍らせたなら窓辺に飾ろ

ほか弁のとなりに薬局あるようにいつでも君をすきでいれたら

ごみはごみ箱にって習わなかった? 責めたりしない 早く捨ててよ

サイレンの音が闇夜に溶けていく ありえないこと期待してみる

妄想が疾走してる午前2時朝になったら即失速で

ルイトモは人類みんな友達の略らしいからお茶でもしましょ

君をみた くすぐったくていつもよりうまく塗れないリップクリーム

ぶしつけなほどにじろじろ見てたかも 髪の毛の量 コートのステッチ

人ごみと無縁で君と目が合って 花火見るより花火になりたい

自慢した エステキャッチの人にまで「あたしこれからデートなもんで!」

「ねぎぼうず初めて見たの?」いまなにかべつのことばを言いかけたでしょ

ドアに立つぼくとホームで待っているきみの位置とで相性チェック

 

宮田和美 35A 2002年12月27日(金)02時03分45秒

アマゾンのみどりと黒のイグアナのようなパックで湯上り美人

・ ・ と 宙をただようオルゴール とぎれた旋律 私たちだ ね

あなたにはまだみせたことない場所であなたのくれた星がひかるよ

宮田和美 36A 2002年12月27日(金)22時08分50秒

枕元 見知らぬ贈り物をみたドキドキのようなメールをサンキュ!

気に入りの白いセーター笑われたあの日の私がまだ泣いている

昼休みホフク前進をしながらハンカチ落とししてるの見たよ

傷つけることのできない人からは離れたくなる どうしてだろう

毎日ね寝たりテレビを見ているよ 6年前の色紙と話す

改札でずっと背中を見てたのは振り向く君を傷つけないため


宮田和美 37A 夢をみているような夢です 2002年12月31日(火)01時48分27秒

ぜったいにそこで待っててくれるなら泳げるような気もしなくない

ダッシュしてやっとこさ手に入れたのに心臓いたいの言い訳にギブ

西荻の居酒屋できみと偶然に会って話した夢を見ました

すまんのう その「すまんのう」が原因でけんかしたよね笑っちゃうよね

正しくはあの子でもっていうんだよ 花いちもんめ最後のひとり

薄曇り多摩川 記憶はやわらかい 「二度と」とかって言いたくないけど

ゆりの木の下で落ち葉を踏んでいた 目をつぶったらいないと同じ

わたしの手よりも紙ナプキンで折るバレリーナのが君の手に合う

宮田和美 38A   2003年01月02日(木)16時00分26秒

間違えてリンスを先に手に出したような違和感 胸がざわつく

ミルクティーのみかけだけどカンパイをしようよ(君のコーヒーとキス!)

次はいつ会う?って言ってばっかじゃん そんなに未来のわたしが大事?

宮田和美 39A  2003年01月18日(土)03時47分30秒

タカハシくんは優しいから、きっとやだって言わない。つうかむしろ、やだなんて言わせない。そう思いながら私は、十日ぶりくらいにタカハシくんに声をかけた。
トイレから戻って、自分の机に掛けてあるかばんの中からはさみを取り出すと、私はそのまままっすぐ前をみて、教室のうしろまで歩いた。
「タカハシくん」
タカハシくんはウォークマンで音楽をききながら、あんぱんを食べていた。顔を上げたひょうしに右のイヤホンがぽろっと落ちた。私の顔をみながら、左のイヤホンもとるタカハシくんの目と鼻の中間くらいに、私ははさみをぐいっと差し出した。
「前髪、切って」
責めるように言う私をみて不思議そうな顔をしながらも、タカハシくんはいいよ、といつものおだやかさで言った。のこりのあんぱんを全部くちにいれてもぐもぐしながら、黒いウォークマンのからだにぐるぐるとイヤホンのひもを巻きつけていった。そんなタカハシくんなんかおかまいなしに、ぱちんと音を立ててはさみを机の上におくと、私はすたすたと教室を出た。

LL教室の前のベランダは、思った以上に風がつよく、スカートがめくれないよう、手で押さえながら段差に腰をかけた。空はやわらかい青で、私は顔を上げ、少しだけ力を抜いた。そのときからからとサッシを開けて、タカハシくんが来たので、私はまた、まぶたとまゆの間に力をいれて、唇をぎゅっと曲げる。
タカハシくんは、私の左ななめ前にしゃがむと、「どのくらいの長さにする?」と聞いてきた。私の気持ちも知らないで。だから私はちらっとタカハシくんを見ると、すっごい短くして、といった。
タカハシくんは私の前で立てひざになると、何も言わずに人差し指と中指で、私の前髪をはさんだ。私は目を閉じる。持ち手の黄色い工作用のはさみが、ゆっくり、ぽぽぽと遠慮がちに髪を切ってゆく。風が強いので、切り離されたとたんに髪の毛たちはちりじりに飛ばされてゆく。ばいばい。そう心の中で呟いたのに、首や手や、ひざらへんにもすこし落ちてくるのがわかる。
切られているあいだ、そして切っているあいだ、私たちはそれぞれ無言だった。私はいつ、タカハシくんが私に怒っている理由を聞きだすか待っていた。
言うことは決まっていた。
私のことべつに好きじゃないなら、私につきあってくれなくてもいい。CD貸してくれたりとか、土手で叫ぶとき、となりにいてくんなくてもいいとか、おやつにプリン、食べるのつきあってくんなくてのいいとか、誕生日に箸置きくれたりしなくてもいいとか、コンビニで生産者の顔が見える牛乳の、生産者の顔写真見て、結婚するならどの人がいいかって話とか、目黒の寄生虫博物館行く約束とか、世田谷のボロ市行こうとか、鎌倉行こうとか、夜の始まりから終わりまで、知らない町をひたすら歩くとか、もうそんなの、全部いらない。
あんたなんかいらない。

タカハシくんはなにも言わない。

「できた」という声を聞いて、私は鼻をずっとすすった。タカハシくんの顔をなるべく見ずに、ありがとうと言うと、想像以上に頼りない声が出たので、にげるように校舎の中へ入っていった。
教室にもどるとちゅう、洗面所の鏡と目が合った。ひどい顔だった。目も鼻も赤く腫れていて、おまけに涙でほっぺたにこまかい髪がはりついている。前髪だって、思ったよりも短くはなっていなかったし、じょうずに切れていたけど、でもなんかへんだった。私は鏡の前で、髪の毛を取ろうとした。けれど、指ではらっても、つめでひっかいても、ごしごしこすってもなかなか取れない。仕方がないので蛇口をひねって顔ごと洗った。
つめたい水で、手と顔がびっくりしてる。じんじんつめたく、びっくりした顔のまま、そういえばここでタカハシくんは体育のあとかならず、手を洗ってうがいしてたなあ、とふと思い出した。毎回欠かさずやってるのに、毎年欠かさず風邪をひいてるタカハシくん。そのりちぎなまぬけさに少しだけ笑って、私は顔を上げた。
目の前には、鏡にうつるちょっと笑った私の顔があって、なんだかそれにほっとして、それからすこし恥ずかしくなっていたら、5限がはじまるチャイムが鳴った。私はポッケの中の、梅のど飴をひとつ口に入れて、そうだ、散髪料としてタカハシくんにもあげよう、と思った。
のど飴をひとつにぎりしめて、私は走って教室に向かった。

宮田和美 課題1 自己紹介 2003年04月16日(水)21時32分25秒
▼課題と連絡:課題1/感想文と自己紹介 への応答

私の日常
去年まで両目1.5だった視力が、1.2と1.0になってた。
生まれて初めて行った選挙はサザエさんが見たくて走って行って帰ってきた。所要時間約5分。
銭湯の窓からこぼれるゆげの匂いをよく嗅いでいる。
誰かを好きになると必ずananを読んでるような気がする。

なーんて、こんなことを書いたらまるでかわいい女の子みたい。
本当はそれだけじゃないです。いやもちろんかわいいし愛してやまないのですが、でもそれだけじゃない。

去年はピュア・ラブIIとかいう昼ドラ見てて、学校ほぼ行かなかったし、たまに学校行ったとしてもさみしすぎてお昼にひとりで学食にいられないし、ちょっと気になる子とか見かけたらひィーって逃げるくせに逃げながら「アタシのこと目で追ってろー」とかって、呪いにも近い祈りなんか捧げてみちゃったり、男の子の友達に恋人ができるとなんだかすっごくおもしろくないし。あーやっぱあたしってかわいいなぁー

そんなこんなではじめまして。
イメージ文化3年の宮田和美です。てんびん座のAB型です。
1年のころからこの授業をとっていました。去年は短い物語を中心に書いていたので、つうか力量たりなくてみじかいのしか書けなかったので、今年こそはなんとしても長いものが書きたいです。
好きな小説は町田康の「夫婦茶碗」、江国香織、ねじめ正一「高円寺純情商店街」、角田光代など。
じつは、小説あんまりくわしくないのです。

漫画をよく読みます。魚喃キリコとか南Q太、岡崎京子、高野文子の「るきさん」、やまだないとの「西荻夫婦」、くらもちふさこ、村上かつら、松本大洋、冬野さほ、朝倉世界一、吉田戦車ってあーきりがない。

漫画のようにお手軽で、音楽のようにしぜんと流れて、メールのように日常的で、話しことばに近い小説を書きたいと思っています。

音楽はくるりがすきです。日本の四季もすきです。しけた顔の男がすきです。
よろしくお願いします

宮田和美 課題1/『星兎』の感想 2003年04月23日(水)20時14分37秒
▼課題と連絡:課題1/感想文と自己紹介 への応答

匂い、味、感触その他。
恋愛っていうのは相手の生々しさを見つめる行為かもしれないなー
と、最近気づいた。
『星兎』を読んで、こりゃー恋愛小説だ、と感じた。
うさぎのピンク色の歯茎を、ひくつく鼻を、瞳を、ひげをユーリは臆せずにまっすぐ見つめている。
だから『星兎』は、ある限られた時間を共有した恋人たちの戻ってはこない物語なのだろう、と、わたしは勝手に決めつけた。

時間は淡々と過ぎてゆく。
そしてその思い出たちは、いつかは忘れ去られてしまう。
私は、過去の出来事を思うと「あれは全部夢だったのかしらん?」と考えてしまう。
それくらい、遠くのものになってしまうのだ。
それがあまりにもかなしくて、それを思うだけでかなしいと感じたときに、
私はことばを書き残す。
夢ではなかったということを、日々がきらきらと、まんざらでもなくかがやいていたということの証として。
そして時々読み返して、あーこれから先、こんなことが待っているのなら生きてくのも悪くないなあー、と思ったりするのだ。

ユーリは、この本を読み返して一体何を感じるだろうか。
ふっと獣の匂いが鼻をかすめ、胸の奥をわしづかみにされたような思いで泣くだろうか。
意外とけろっとしてたりして。
いづれにせよ、ユーリがまた、しょうこりもなく誰かとの出会いや恋や別れや、そういったこと全部ひっくるめた、これからの日々に向かっているといいな、と思う。
そして私も恐れずに、幸せになることへ向かってゆけるような、向かわずにはいられないようなことばを紡いでゆきたい、と思う。

宮田 和美 作品1A/ワンモアタイムワンモアチャンス 2003年05月06日(火)15時30分33秒

 ナガオに何度もうたってとせがんだ山崎まさよしの曲がのっているページには、いっしょに山崎邦正の「ヤマザキ1番!」と山崎ハコの曲ものっている。私はその人たちの曲は一度たりとも聞いたことがなかったし、山崎ハコにいたっては男か女かも知らない始末だ。ただ、ナガオがうたっている間、このページにちらちらと視線をおとして今日は何をうたってもらおうかなーと考えてたころの私、のゆるんだ頬をこの人たちは知っている。三人の山崎、略してサンザキ。
 ナガオは自分がうたっている最中に私が席を立つと、決まってふきげんになった。だから私は自分のうたを一曲、ぎせいにしなくてはならない。だだっこで、怒りっぽいくせに、思っていることを口に出さないナガオのわがまま、口に出せないナガオの弱さ。

 「まいちゃん」
 ふいに呼ばれて顔を上げると、それとほぼ同時にギターの音が耳をつんざき、私はなんだか後悔した。いずみくんは私の顔をのぞきこんでいる。うたう気になれなかったので、「ごめーんおしっこー」と言い残して部屋を出た。
 トイレの水道をおもいっきりひねる。水の勢いは痛いほど強くて、ちょっとでも気をゆるめると負けてしまいそうになる。いそがなくちゃ次の曲にいっちゃうと思いながら、目の下に落ちてるマスカラを無理やり指でぬぐい、髪を直す。あぶらとり紙で鼻とかおでことかをふいて、グロスをつけて、全身鏡で全身をチェックする。なんだ私捨てたもんじゃないじゃんとか思って、ちょっと微笑んだりなんかしてたら、入り口のドアを押すおねえさんと目が合った。はずかしいので逃げるようにそそくさとトイレを出て、212番の部屋を探す。

 あの日もこうやっていそいで部屋に戻った。ナガオは目をつぶっていて、私がただいまと言っても目を開けてはくれなかった。心臓がざわざわするのをこらえて隣に座り、ナガオの髪をゆっくりとかす。ただいま。ほっぺたをそっと、肩にくっつけてみる。
 ナガオは目を開けた。目を開けて、じっと私をみつめた。怒ってはいなかった。けれどその目を見て私は、もう二度と許してもらえないような気がした。
 それから三週間、ナガオとは連絡がつかない。私は一日のほとんどを前と変わりなく過ごしている。けれどふとしたきっかけでこのことが頭をかすめた瞬間、途方もない後悔でぐらぐらする。
 どうしてナガオひとりと向き合えなかったんだろう。どうしてだれにでもいい顔をしようとしたんだろう。
 ごめんなさい。ナガオ、ごめんなさい。

 ドアにはめ込まれているガラスから中をのぞくと、いずみくんが大変なことになっていた。ソファーの上に立ち、ジャンプして頭をぶんぶん振りながらうたっている、ひとりで。なんでか知らないけどマイクはアイドルみたいな両手持ちになっている。ドアを開けると私が入れた「Over Drive」がどっと耳に入ってきた。へたくそ。てゆうかもう歌じゃないし。
 いずみくんは優しい。とんちんかんで、激しくずれてるけど、まっすぐにやさしい。私は笑って、申し訳なくなって、もうひとつのマイクを取るとソファーにのぼってうたい始めた。
「あー!ゆめはー!いつまーでーもーさめなーいー!うったっうっかっぜっのようにー!!!」
 いずみくんは私をみて、よれよれになりながらソファーに座った。肩で息をしながら笑ってるいずみくんをみて、私も笑った。そして、恩返しのようにうたい続けた。いずみくんが私をすきでいてくれることに、その存在に。

愛しい日々も  恋も  優しい歌も
泡のように  消えてくけど
あぁ  今は  痛みとひきかえに
歌う  風のように

 本当はわかっていた。ナガオじゃなくちゃだめだってことに。優しくもない、大切にもしてくれないナガオ。でもそれを考えるとどこまでも落ちていけそうなきがしたので、とりあえず今はいずみくんに捧げるロケンロールに専念することにした。 
 テーブルの上のかどの折れた本から三人の山崎略してサンザキが、じっとわたしを見つめていた。
 

宮田 和美 課題2/それでもやっぱり恋へゆく 2003年05月07日(水)15時17分56秒
水落麻理 作品1A かっこわるい恋とか愛 への応答

好きになったもん負けな感じがよかったです。
両思いなのに片思い。
どうにもならない思いの重さの違い。
あーせつねえ。
伝わってきました。
具体的には
「それを越えることは健太に嫌われることなのかもしれないと思う」
「あんなに大喧嘩のあとでもこうして笑える健太はやっぱり私より一枚上手で、
うつむいてしまう私は健太より何倍も健太だけなんだね」
「この人も少しはドキドキしてくれてるのかな?」
とか、あー。わかるわかる
わたしは、「健太が帰ってきてる」からラストにかけてが特にすきで、
二人の思いが近づいたような近づいてないような、よくわかんないけどキスがきもちよくて幸せー
なかんじがすき。
水落さんは恋愛体質なんだなあと思いました。
わたしには書けません。(だからダメなのかちら?)

ラストが気持ちよかったのに対して、
出だしが弱い印象をうけました。
時間の移動、というか、回想への移動というか。
8行目の「何、あけみ!どうしたの、それ!」から回想に入っていますが
それがわかりづらくて、
その後の「朝の挨拶変わりに」の朝という言葉で
えっ、朝なのーって思ってしまいました。
提案としては回想のひとつ手前の文章「周囲の反応は意外に大きかった」の
「周囲」を、職場、とか、出勤したときの、とかに変えてみたらどうでしょう。

人物描写とあけみの感情が混ざってしまっている感じがしました。
具体的な情報が少ないというか。
感想がわるいとかそういうんじゃなくて
もう少し描写がほしいなーと思いました。
同僚の、「心配してるときの顔のお手本みたいな顔」
っていうのがすきです。このひと生き生きしてる感じがする。

あ、「かっこわるい恋とか愛」の愛、に違和感を感じました。
愛じゃーねえなーって、読んでから思った。

長くなっちゃった。
こんな感じです。
水落さんの言葉が持つ、
それでもやっぱり恋へゆく前向きさがすてきです。

宮田和美 課題3/みわんぼんじゅもん 2003年05月14日(水)22時25分53秒
▼課題と連絡:課題3/奥野美和短歌作品の選句・選評 への応答

  どのくらい大きな声が出せるのかわからないまま叫ばないまま

奥野さんのうたの前向きさには
ひとことで前向きさと言っても
強気な前向きさとか、
ギリギリのところで出る前向きさとか、
いろいろあるのかもなぁー、と
ふと思ったりしました。

叫ばないのよ短歌。
このうたは、なんでか知らんけど強い風の中、
足をふんばってひとりで立っている人を想像します。
じゅもんみたいになんども唱えました。


  もういいよ、君のやさしさ あの頃の僕が浮かんで傷つけたくなる

なんなんだろ。もういいよ、やさしさ、浮かんで、君、と僕。
言葉は淡くふわふわと優しいのに、傷つけたくなる。
はっきりいって状況とかあんまり想像つかないけど、ははー
でもなんか、妙に、とっても哀しくなる



  迷うのは行きたい場所があるからで自信をもってきょろきょろしたい

きょろきょろするぜ!キヒヒ
理にかなっててきもちがよいでやんす。

奥野さんの前向きパワーは、いつもアタシの勇気でやんす








管理者:Ryo Michico <mail@ryomichico.net>
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