「物語の作法」課題提出板の検索

※空白も1つの文字として扱われます。複数語による絞り込み検索はできません。
 表示方法: 表示する
検索範囲:(ログ番号を入力:「0-8」で2001年度分、「9-20」で2002年度分、「21-31」で2003年度分、「-10」で0から10まで、「25-」で25以降すべて)
 ※エラーが出る場合、検索範囲をせまくしてください

横田裕子 の検索結果(ログ9-)


横田裕子 自己紹介 2002年05月04日(土)05時03分15秒
課題(親記事)/朗読テキストの紹介と自己紹介 への応答

 文学科3年の横田裕子といいます。
去年一緒だった方も初めましての方も、どうぞ宜しくお願いします。

昨年、食べ物をテーマにしたちょっとした話を書いてみたら、結構面白かったので今年はそれで(時々濃ゆく)いってみたいな、と思ってます。


 中島みゆき・作詞「明日なき我等」より一部抜粋

 過ぎた日々と明日とは 支えあう弥次朗兵衛
 昨日を捨てても 明日だけが 運命として そこにあるわけじゃない


 みゆきさんの曲って「女のドロドロした情念」を歌ったものが多いですが。私はそういう曲でなくても言葉の使い方、選び方が「上手いなぁ」と思います。日本語を大事にしてる、というか。

横田裕子 1A 無題 2002年05月06日(月)23時13分11秒
課題(親記事)/箱を題材とした創作 への応答

SSにしても短すぎな感じです・・・しかも締め切り寸前・・・・。


花々がふんわり柔らかく敷き詰められた箱。
その中にすっぽり収まった、体。
頬を薄紅に染めた顔は崩れることなく穏やかで、寝かせると瞳を閉じ起こすとばさばさと長いまつげを上げる人形のようだ。このまま抱き起こしたら瞼が動き出すのではないか、と思ってしまう。
寝顔は綺麗だった。どんな夜もその顔を見る度に全てを許せた気がした。
笑ったり拗ねたり、ふと見せる切な気な表情もその一瞬が写真と同じに記憶に閉じ込められている。
それが今、目の前に存在するのは寝顔だけのままになった。寝顔と呼ぶには穏やか過ぎるかも、知れない。
モノを収める入れ物を箱と呼ぶなら、冷たい体が収まっている棺も箱の一種だ。
それなら、魂を封じ込めておく肉体も「箱」。魂を入れる為だけにこの世にある「箱」。
それも、「箱」と言えるのは魂を宿している間だけであって、中身を失った箱は二度とその中を満たすことなく、「箱」としての存在価値も消されるのだ。

空になった「箱」は、花に埋もれそうになりながら安らか過ぎる面をつけた只の肉の塊になった。




横田裕子 2A 無題 2002年07月04日(木)21時23分00秒

 冷たいパイプ椅子の上に、パサリと引っ掛けられたワンピース。朱と、黄と、紅と、そして夕暮れ色が複雑に絡み合った模様は、アジア系の雑貨屋で見つけた掘り出し物だ。さらさらと肌触りが良く、値段の割には物が良かった。
 床の上に置き去りになった食べかけのソルダム。齧った跡がてらてらと光り、そこから遥か遠い南国の匂いが零れ落ちている。真夏の朝の、青梅街道の向こうに立ち込める靄を一掴み持ってきたような、ぬるい空気の塊が果実を包み込んで無造作に転がっている。あと数時間もしたら、この部屋の湿気と気だるい暑さで腐敗を始めるだろう。

 鍵がかけられた箱の中は、殺風景でありながら日常生活の匂いがする。
 例えば、引出しがひとつふたつ付いただけの平机とパイプ椅子、安物のベッドだけがミニチュアの家具の如く箱の中にぽんぽんと置かれている。そこに食べかけの果実と脱ぎ捨てられたワンピースを付け加えただけで途端に生活臭溢れる空間になる。
 その空間に時間が流れていることを示すものは。
 手のひらに時折強く突き刺さる爪と、一筋の跡を残して混じりあう滴。
 半開きになったカーテンから差し込む光が眩い橙から冷ややかな青白色に変わり。
 ただ、それだけ。
 薄桃色の空気と止め処なく垂れ流される意味を為さない言葉たち、果実と汗の窮屈な匂い。一緒くたになった全てで箱は膨れ上がる。
 
 真夜中を疾走する小さな箱は、一夜限りの闇夜の館。


横田裕子 4A 「変わり玉」 2002年08月29日(木)11時52分39秒

いつも素通りしていて気にも留めていなかった菓子屋の前を、今日も変わらず通り過ぎようとしている。
 どの位前からこの地で営んでいるのか、かなり古びた菓子屋でいつだったかちちょっと中を覗いたら袋詰めになった煎餅やかりんとうが並び、その中で鮮やかなフィルムに包まったラムネ菓子が妙に派手だった。最近の子供が喜びそうなキャラクターのおまけつきやスナック類は1つも見当たらなかった。
 そこだけ時代が止まってしまったような雰囲気に好奇心をくすぐられ、私の足はその菓子屋へ出向く。人が入っていくのを見たことがないような店なのに、何かに呼ばれた気がしたのだ。
 引き戸をそっと開けるとこの店を一人で切り盛りしているかと思われる、老女の皺がれた「いらっしゃいませ」の声とともに、棚に並んだ瓶詰めの飴玉が視界に入った。桃色であったり水色だったり透き通った橙であったり。いずれも決して自然とは言い難いチープな色の砂糖菓子たち。
 子供の頃、こういった「色」のついた菓子に目を輝かせていたのをおぼろげに思い出す。母はいい顔をしなかったが近所の駄菓子屋で色とりどりの菓子を選ぶのが、至福の一時だった。甘いだけで果物の味とは遠くかけ離れていても、食べたあと舌が変な色になっていたりしても、なけなしの小遣いで心を捉える魅力が手に入るのが、嬉しかった。そんな単純なことで小さな幸せを噛みしめていた頃から片手では足りないくらいの年月が経つ。真っ白いスケッチブックに原色の絵の具は眩しく、1ページ1ページにぎっしりと描かれている。小さな発見や感動を描き込めるような心は、随分前に忘れてしまったような気がする。
 色褪せていく、小さな幸せ。
 何時までも鮮やかなのは、傷跡。

 家に戻って、テーブルの上に買ってきた瓶詰めの飴玉を置く。
 ラベルには「いちご」と書いてあるが、いちご色というには何とも不自然な、透き通った赤。かき氷の時のように、舌が飴玉と同じ色に染まってしまいそうだ。
 銀色の蓋を開けて、一粒口に放り込む。
 いちごの味など殆どしない作りものの香りと甘さ。
 昔食べた味と同じ。こんな味なのに喜んで買ってたなんて。
 あの頃の自分の気が知れないな、と思いながらスーツを脱ぎ下着のままで鏡を覗いて化粧を落とす。
 ティッシュで拭い取った口紅は、飴玉と同じ色。
 前歯で飴玉を挟んで、もう一度鏡を覗き込む。
 舐めかけの飴玉は透き通っててらてらと光り、それが好きで何度もやっていた記憶がある。
 紅い飴は、ルビーに良く似た色をしている。
 ルビー、ルビー、ルビー・・・・ルビーの指輪。
 駄菓子屋通いをしていたあの頃、母のルビーの指輪に憧れて、ビーズを繋げて作った指輪に大粒の紅いビーズを付けた。
 ルビーの指輪、ルビーの指輪、ルビーの指輪・・・・ルビーの指輪。
 人生最大の大恋愛だと思っていた私をそっけなく置き去りにして、どこかへ行ってしまった男が、残していったのがルビーの指輪。私の元から立ち去る後姿は飄々として後ろめたさの欠片もなく、私はぐしゃぐしゃのずたぼろで無駄とは思いながらも泣き狂っていた。
 あのあと私は、ショックで体重が10キロ減り友人たちから死神みたい、と言われた。
 
 小さくなったルビーを、私はひと思いにがりがりと噛み砕いた。


横田裕子 標本2A 食べかす 2002年10月22日(火)21時41分51秒

食べることに飽きてしまっても
食べることを止められない旅人の
ある日の食事

横田裕子 6A 生き方、ってさ。 2002年11月12日(火)22時27分31秒

失敗とか恥とか後悔とか傷とか、自分にとってかっこわるい
と思う何もかもが
気づかないうちに色鮮やかなひとつの絵になってたりする
かっこよく生きようとじたばたする
その姿は自分では直視できないくらいにハズカシイ
誰かはそれを見て輝いてる、と言うかも知れないけど
気付くはずもない自分は
いつも何かでもがきながら 一生
かっこわるく生きていくんだと 思う

横田裕子 呪縛 2002年12月04日(水)18時12分42秒

1.
分厚い灰白色の空から、ざらざらざら・・・と落ちてくる雨粒が、天窓のガラスにぶつかっては壊れる。脆いガラス球が粉々になって流れていくのを、俺はベッドの上に寝転がって見ている。
あの日の空の四角の中は、高い青空であったり、群青のビロードの上に広がった星空であったりした。切り取られた空を眺めるふたりは、四角な窓枠の中で標本箱に入った虫みたいだった。箱の中の虫たちは、空の下でもぞもぞとうごめいていた。
繰り返し紡ぎだされる、甘ったれた戯言。
そしてある日を境に虫は一匹だけになった。
別れを切り出してきたのは確かに彼女の方からで、ここから先に続く道をふたりで歩いていけるのだろうか、という今となっては酸っぱくて青臭くて思い出しただけでジンマシンが出てしまいそうな不安が理由だった。ぐらぐらと安定の悪いつり橋を渡るような日々の末に。
わずかに甘い記憶を時間の谷間に置きっぱなしにして、ふたりの糸はぷっつりと切れた。
別れた次の日から、出会った頃のむず痒さもじゃれ合ってばかりの子供じみた日々も、全部忘れてしまうつもりでいた。
勿論、唖然ぼう然としたのは嘘ではない。ただそれを表に出したくなくて、隠そうとする術というのが「全てを忘れること」だった。ぐずぐず落ち込む姿を他の誰かの目にさらすことを恥じていた、当時の俺がとった「逃げ道」だった。
耳を塞いでも聞こえてくる彼女の声と、目をつぶっても瞼の裏に映るその姿に捕まらないように。
別れ、というより最後に見た彼女の笑顔が何よりも堪えた。
俺が一番好きな、とびきりの笑顔で。
それを知っていて意図しているかのような表情と、しかし心の底から染み出てきた「さよなら」だった。
 そして俺に背を向けた姿は、潔く勇ましく、いつかプレイしたゲームの女勇者みたいで、残された俺はずたぼろになったモンスターそっくりで。
 あの時の醜態は自分の中のどこにも残したくなくて、きっちり封印した。
 しておいた「つもり」だった。
 鍵をかけて二度と思い出せないように。

 2.
 高校を出てからもうすぐ両手を使わないと数えられない年月が経つ。
 調理系専門学校を経由した俺は、居酒屋の厨房に立つようになった。
 時にはカウンターに立ち色鮮やかなカクテルも作った。すべて漢字二文字の名前をつけたオリジナルのカクテルの評判は上々だった。
 そして今夜もカウンターでシェーカーを振っている。
 閉店の1時間前で、客は仕事帰りと思われる女性がが一人。
 金曜の夜だけあって月曜から今日までの疲れが一気に噴き出したような顔をして、テーブルに頬杖をついている。
 スーツと化粧の鎧を纏い、素顔に戻る時間はきっとわずかな間なのだろう。
 出来上がったカクテルは、足のついた小さなグラスの中でゆらゆらと揺れ、女の紅いルージュの中へ吸い込まれていく。
 女はカクテルを片手に閉店の準備をしようとしている俺の姿を、飽きもせずに眺めていた。時折メールを打ちながら。
 「どなたかと待ち合わせですか」
 「私は一人で飲む方が好きなの・・・時と気分によるけどね」
 「じっくり味わえますからね」
 「そんなのじゃなくて」
 女は空になったグラスをテーブルに置く。グラスの縁にライトが当たってチカリと星が飛んだ。
 何か、見透かされている気がした。俺はこの女の事は何一つ知らないはずなのに、その瞳に捕まえられた気分で、片付けものをする手の動きが鈍くなった。
 女は、きっと俺の事を知っている。俺の過去を知っている。
 そして封印した記憶の中身を今更になってぶちまけられそうな恐怖を感じる。
 視線に身動きできなくなってしまわないよう、俺は明後日の方を向いて仕事を続けた。
 知らない、知らない、知るものか。
 気が付くと、女は席から姿を消していた。時間が時間なのでそそくさと会計を済ませて帰ったらしい。
 最後のグラスを洗い終わったところで、閉店の時間になった。
 
 深夜2時の空気は冷たい、を通り越して痛い、という感覚に近い。
 けれども澄んだ空気で星が綺麗に見えそうだ、と思った。
 階段を下りてゆくと、出口のところに人影があった。
 さっきの女性客だった。
 心の底が「げっ」と叫んだ気がした。
 気づかない振りをして通り過ぎようとすると。
 「・・・ハシバくんでしょ?あなた、ハシバ セイジでしょ」
 ハシバ セイジ。俺の名前。なんで、この女が。
 「そうですけど・・・どうして知ってるんですか」
 「やぁだ、忘れちゃったんだ。高校、一緒だったじゃない〜キクチ コズエよぉ」
 まだ酒が残っているのか、ほんのり赤い顔をしている。
 「俺、そんな人知りませんよ、人違いじゃないですか」
 「あ、ひどーい。そんな言い方するんだぁ」
 「・・・・酔ってません?」
 「酔ってなんかないわよぉ〜〜」
 「分かりましたってば。もう遅い時間ですし送って行きますよ、」
 「そ・の・ま・え・に!」
 人差し指を俺の鼻先に突きつけて女が声を荒げた。マニキュアがキラリと光った。
 「ほんとにあなたが私のことを知らないのか、確かめてからね」
 「確かめる?」
 「そう、高校を出て随分経ってるものね。お互い変わって当然よね。でも変わらない部分だってあるわけじゃない?その変わらない部分が分かったら、私を思い出せるでしょ?」
 「だから、俺はキクチコズエなんて人、知りませんってば!」
 「じゃぁ、こっちきてよ、思い出させてあげるわ!」
 ぐい、と腕を引っ張られて俺は自宅とは反対方向の道を歩き出していた。
 ふらふらと駆けながら、普段は気にも留めない繁華街のネオンが、やけに毒々しい程鮮やかに感じた。
 
 3.
 湧き出る泉に深く身を沈めて息を吐いた。
 決して久しぶりではないはずの、煮え立った湯のような熱さに火が灯った。
 繁華街を潜り抜け、連れてこられたところは・・・・ホテルだった。
 そんな事で思い出させようだなんて。
放心状態で入り口で立ち止まったら、またもや強引に中へ引きずり込まれてしまう。
 そして、身に付けた鎧の全てを取り払った姿が、目の前に居る。
ギッ、と寝台が軋む度に定かではないが、見覚えあるような気がする顔が仮面から覗いた。
 もしかするとそれは記憶の欠片にもなっていないものかも知れない。
 思い出させる事ができるなら思い出させてみろ。
 自分で、そう呟いたのだと思う。
 自分にしか聞えない声で。
 そしてがむしゃらに熱情を女にぶつけた。この夜ごとぶち壊してしまうような勢いで。
 いつしか目をつぶったままになっていて、今度は瞼を上げるのが怖くなった。
 見てはいけないものを見てしまうような恐怖が心を走る。
 暗闇の中で声だけが執拗に溢れ出して俺を捕らえて離さない。ゲームの中の、トラップに掛かったように。じたばたともがくほど、底なし沼に嵌ってゆく。
 「・・・・・セイジ」
 女性特有の、甘く鼻にかかったような声が、零れ落ちた。
 それに答えるように、俺は瞼を上げてしまう。
 その途端。
 俺の中でガチャリ、と重く錆付いた音がした。
 視界に入ったのは紛れも無く封印した記憶の中の彼女だった。
 幾千年の眠りから覚めた妖怪のように、「あの日」の事が生々しく甦る。自分が記憶の中に留めておくのを恐れ、恥とした日が脳裏にプレイバックする。
 馬鹿!!
 何て事を思い出させるんだ。
 涙が、ぼろぼろと落ちる。口惜しいのと怒りと・・・その懐かしさと。
 俺は、もう彼女から逃れることはできない。この記憶を封印したとしても、今度はそれに付き纏われて生きていかなければならない気がした。
 彼女は俺の記憶の鍵を解く術を知っているのだ。そして俺をこの記憶に縛り付けてゆくのだ。
 永久に。
 
 
 

横田裕子 8A「8割方実話な短歌」 2002年12月28日(土)20時44分58秒

まだ蒼い月を見上げて飛び乗った始発電車の井の頭線

恋愛の相談私にしてみても経験不足何も出ないよ

午前5時はぁっち白いため息とコーヒー色が闇に溶けてく

明け方の渋谷の駅を駆けて行く夜遊び疲れのブーツが響く

君の事忘れたくても忘れない忘れもしないウルトラマリン

もういちどキスはしたいと思うけど好きになれないきっとならない

抱くという意味を知らずにいた頃の純な自分にもう戻れない

がむしゃらに走り続けて傷ついてそして僕らは大人になって

背伸びして追いつけなくてつまづいて小さな恋は遮二無二もがく

甘い恋夢見ることにもう飽きただって私は子供じゃないし


横田裕子 9A「さらに実話な短歌 12月28日編」 2002年12月28日(土)20時52分50秒

真夜中の渋谷の街の居酒屋でうちら三人短歌で談義

眠らない渋谷の夜は長すぎてネオンがやけに瞳に染みる

横たわる長い黒髪さらさらと座布団の上広がっている

年末の午前0時の居酒屋でぶつぶつ歌うすぎざく一人

夜更かしはやっぱり苦手私には早寝早起きそれがジョーシキ

いつだって良くも悪くもマイペースそれが私の性格だから

こうやって歳を食うって悲しいね時間の中で汚れていくね

横田裕子 10A 階段 2003年02月25日(火)11時13分22秒

かつかつ、冷え切った音が響く。
いずれか終わるかもしれない螺旋階段を、ゆっくり昇ってゆく。
 昇りだしたなら、後戻りはできない。昇るスピードに合わせて足をつけた所から順に透き通った空間になる。気付いて見下ろせば闇の海。
 階段を昇ってゆく者に私は、早く来てね、と言う。
 早く来てね。待ってるから。疲れたなんて言わないで。あなたが行くべき所は只ひとつ。この階段の終わりだけなのだから。
 旅人は、黙って足を進める。崩れていく階段がいつしか彼を追い立てるように空を作る速度を増していく。闇に呑みこまれまいと、彼は一段飛ばし二段飛ばしで猛然と駆け上がる。
 汗がつぅ、と額から一筋流れ落ちた。薄青のシャツが肌に吸い付いて体の線を浮き出しにする。汗で大きな染みのできた布地の下で、背筋力115kgを物語り見慣れた筋肉がうねる。
 幾つも筋を作る汗も、荒さを増していく息も、一点を目指す瞳も、全て私のため。私のために、彼は昇り続ける。
 だから、私は彼が辿り着いたら思い切り抱きしめよう。
 どこかで耳に触れた「無限抱擁」という言葉しにままを、彼に与えよう。

 近くとも遠くとも言えない彼方から、足音が聞こえる。
 足音の主が、私を求め手を伸ばそうとしているのが分かった。動かない空気の中を伝染する、電流に似た光弾。
 それは、私の体を貫く。私は駆け寄る旅人を抱きとめる。
 瞬間、体がふぅっと闇に放り出されたような気がした。離れないように、誰にも引き離されないように。
 崩れた階段は跡形もなく消えていた。

 

横田裕子 11A バレンタインの余波 2003年02月26日(水)19時10分41秒

自分から 手放した恋 見送って 思いがひとつ はるか彼方に

大きな手 ぎゅっと握った 帰り道 大好きだよと 口には出さず

ふくよかな ココロでいたい いつまでも だけどカラダは スリムでいたい

我侭は 女の嗜み っていうならば 我侭言って 拗ねてみたかった

薄闇で 君の体の 重みを感じ そっと呟く 「重いんだけど」

首筋を 滑るくちびる 温かく 早く食べてよ もったいぶらず

バレンタイン、 なんてクールで いたけれど 今年も作った 甘い誘惑



横田裕子 課題1 自己紹介 2003年04月15日(火)20時47分50秒
▼課題と連絡:課題1/感想文と自己紹介 への応答

 文学科4年の横田です。

 去年はさっぱり作品を書けなかったですが、今年は書く時間が増える(かも知れない)ので本気出して頑張って・・・・みます。
 書くのは大体超短編、というかひとつの話の中のワンシーン(ばっかり)。かなり気まぐれに短歌。短編のはもっと綺麗な言葉で濃い世界が書けたらな、と思ってます。
 本については作家ではなく内容で選んで読むので、一様には言えないですが森茉莉の「恋人たちの森」に少しばかり影響されている気がします。
 中島みゆきとGLAYのTAKURO氏が書く詞の、言葉の使い方がとても好きです(歌も大好きです)。
 毎度の方も初めましての方もどうぞよろしくお願いします。

横田裕子 課題1/感想文「星兎」 2003年04月23日(水)14時32分16秒

うさぎという生き物は、独りきりにされ続けるとあまりにも淋しすぎて死んでしまう、という話を聞いたことがある。「うさぎ」がユーリのところに転がり込んできて、夜中しきりにドーナツを食べに行きたがったりしたのは、そうたした淋しさに怯えていたのだと思う。死ぬことはなくても淋しさを紛らすため、あるいは忘れるために、心のどこかに自分と似たような孤独を抱えたユーリを選んだのだ、と。「うさぎ」はユーリと一緒に居られたことをとても嬉しく思っていたのだろうけれど、長いような短いような時間を過ごしてきた後に、「忘れなくてすむんなら、宇宙が終わるまで忘れない」と心から言って貰えたことが一番嬉しく、そう思ってもらえたことが月へと向かう力になっていたのかも知れない。ユーリと出会った時から月へ帰るその日がこないようにと願っていて、共に過ごした時間を通して最後に自分へ向けられた言葉をまっすぐに信じたことが、「うさぎ」にとって孤独を飛び越えることのできる絆になっていたのだ、と思った。自分の隣にいなくても、自分を忘れないでいてくれる相手がいるのが本当の絆なのではないかと、独りになるのが耐えられなくて淋しさをなめあっているようにしか見えない人間が教室中に溢れていた高校時代をうっすら思い出した話だった。

横田裕子 作品1 ふたつの月 2003年05月10日(土)22時42分36秒

部屋に充満した空気を一気に解き放とうと、窓をいっぱいに開けた。
 甘く重い空気と入れ替わって夜の匂いが流れ込んできた。草と、夜風と、昼間は決して触れない匂いの全て。
 今宵の月はまだ細い。
 ほの明るい月明かりを目当てに、フルムーンを期待していたのに。
 蒼白い月は冷たく光っている。手を伸ばせば手首の辺りからすっぱり切れてしまうのだろう。そして月も一緒に赤く染まっていくんだろう。血が月から滴って、ドロップのように闇の中をぽたりぽたりと落ちるのかも知れない。
 腕にちりちりとした痛みが走る。
 綺麗な弧を描いた跡。爪痕。点々と腕に妙な模様を描いている。
 月明かりも常夜灯も無い部屋は夜の色と同化して、その中で無心に眠る横顔。そ知らぬ顔をして寝息を立てている。ほんの10数分前とはあまりにも違う、穏やかな時間。
 寝台が軋んでいる時、彼女は僕の腕や背中に爪を立てるのが癖になっている。痛い、と心底思ってしまうのだがそれだけ彼女が感じてくれている証拠だから、僕は合えて何も言わない。序々に指に力が篭ってゆき、一番最後に大きく体が揺れた瞬間、爪はきつく食い込んでくる。そうやって付いた爪痕は暫く消えない。消えないほどに深い痕が付く。代わりに僕は彼女に真っ赤な花びらを散らす。色白の肌に良く映える。
 花びらが散る度に生温かい水を指先で弄ぶような、ちゃぷん、という音が部屋に落ちる。
 爛れた空気。
 爪痕に何かが触れた。
 熱を持った爪痕を、ちろちろと柔らかな赤い舌がなぞる。
 明日の天気は快晴、しかも気温が上がるらしい。
 暑くても薄着ができないようにしてやろう、と思った。
 
 暗闇の中に、蒼い月と赤い月。
 

横田裕子 作品2 ポラロイドカメラ 2003年08月05日(火)15時46分32秒

写真の整理をした。パステルカラーのペンでけばけばしい程に落書きを入れたそれは、ついこの間まで持ち歩いていたポラロイドカメラで撮ったもの。いつしか面倒になって使わなくなってしまった。
ただ、とにかく気に留めた被写体があるとカメラを構えた。
人であったりモノであったり。
カメラがポラロイドだったのは、その場で四角い枠に収まった被写体を見たかったから。現像に出している時間を待てなかったから。
そんな私の我侭が、その場限りの思い出と共に床に散らばっている。
出会った先で携帯番号を交換したついでに撮っては満足したり笑い転げていた時間たち。
写真の中で、私と映っている相手は同性もいれば異性もいる。
しかし、今現在確実に連絡を取り合っている相手は殆どいない。
彼ら、彼女らはどうしているだろうか。
幾度となく思っては携帯を手に取り、何かに心を縛られたような気分に駆られて番号を押す前に手が止まる。
思い出を作りたくてシャッターを押し続けた私は、過ぎ去った空間に置き去りにされている。そしてその空間を通り過ぎていった彼らはそれぞれの行く道を彼らなりに、きっと歩いている。そんな彼らに後ろから声を掛けることは歩いてゆくのを邪魔しているのと変わらないと思った。
そして残ったのは彼らと出会う前から関わってきた者たちだった。
ごく身近な距離の中の。
増やそうと思っても増やせないものはある。

インスタントな恋、インスタントな友情なんて結局思い出にもならなかった。

横田裕子 作品3A 炎天下で見た夢 2003年08月09日(土)18時11分16秒

夕食に 肉じゃが作った どうせなら あなたのために 作りたかった
タイミング いつも悪くて フライング 未だ走れず 君までの距離
汗滲む バトルスーツが 脱げなくて 私を笑う 夏の太陽
諦めの 悪さはきっと 宇宙一 時には仇に 時には武器に
アルバイト 鍛え磨いた この腕は 日に焼けまるで 鉄腕アトム
幸せを 指で作った フレームに 彼氏はTシャツ 彼女は浴衣
水蜜を ひとくち齧ると 甘い水 私のだって 負けないからね
お米とぐ ひとり立ってる 台所 後ろに君が いればいいのに
見栄張って 買ったマニキュア 籠の底 誰かの為に 出番待ってる
待ってるよ 振り向いたなら そっこーで 尻尾振って 抱きついてやる
極上の アイスクリームが 溶けるよな 熱い吐息で 部屋を満たして
散り際も 綺麗な花を 咲かせたい 叶わぬ恋も 無駄じゃないはず
夕立で 濡れた路面の 灰色に シグナルレッドの 花咲き乱れ
ガラス戸に 有り得ない夢 描いてる 嵐みたいに 泣けたらいいのに
触れただけ キスのひとつで はしゃいでた 君の姿が 心許なく
雲行きは 気まぐれ風で 変わってく 恋はギャンブル 出たとこ勝負
無意識に 横目で見てる 気になって 煙草くゆらす いつもの仕種
悔しさに 泣かない強さ あったなら 誰か私の 涙腺締めて


横田裕子 課題11 夢の標本箱 2003年09月23日(火)22時34分10秒
▼課題と連絡:課題11/夢の標本箱2003 への応答

「世界一重い手錠」
 私が持ってる装飾品の中で一番重い 手錠
 私には大きすぎるから あなたの指に
 付けたら最後 手錠になって
 私が許さないと外れないから
 あなたがどこへも 行ってしまわないよう
 
 あなたの指にはめられるはずもないのに
 ぴかぴかに磨いて 願をかける

「異世界へワープ」
 このタッグを下げた君が
 アイツに狙われるか
 もしくは
 アイツが憎むべきソイツに
 助け出されるかは
 君の運次第
 人生は でたとこ勝負

「井の中の・・・」
 こんななりだけど
 私の出身は砂浜じゃない
 由比ガ浜とか湘南とかだなんて言わないでよ
 だって私は知ってる
 ゆらゆら揺れる波の模様
 差し込んでくる柔らかな陽の光
 群れなす魚
 砂に埋もれる奴には知らないこと
 だけど

 私は知らなかった
 水平線から昇る朝日が
 すごくすごく 綺麗だって こと
 
 「」
 大切なもの達を失くさないように
 あれもこれも止めておく
 テレビで見た料理のレシピに
 忘れちゃいけない約束
 いつも目につくところに
 ココロも一緒に
 ココロがあったら安心できるもの
 姿が無くても一緒にいるような気がするもの

 「夜に垂らしたひとしずく」
 いつもと違う化粧をしたら
 性格変わるかも と思って
 ひいたルージュは赤いワインと同じ色
 重ねた唇は糖度70%のいちごジャムの味
 そんな夜はルージュと同じ色のワインのにおい
 
 
 
 

横田裕子 課題11/夢の標本箱2003・改訂版 2003年10月02日(木)15時37分02秒
▼課題と連絡:課題11/夢の標本箱2003 への応答

「手錠」
 あなたの指にはめられるはずもないのに
 ぴかぴかに磨いて 願をかける

「どこかの軍隊のタッグ」
 走れ 走れ
 逃げろ 逃げろ
 アイツが敵になるか 味方になるか
 人生は でたとこ勝負

「井の中の・・・」
 水底の貝殻は外界を知らず
 自分が誰よりも海の美しさを知ってると
 言い張ってる
 
 
 「ピン」
 交わされることのない約束と一緒に
 ココロも一緒に留めておく
 君のココロと
 私のカケラ
 
 

 「夜に垂らしたひとしずく」
 いつもと違う化粧をしたら
 性格変わるかも と思って
 ひいたルージュは赤いワインと同じ色
 重ねた唇は糖度70%のいちごジャムの味
 そんな夜はルージュと同じ色のワインのにおい
 

横田裕子 大掃除の時に出てきたガラクタ 2004年01月04日(日)21時39分53秒

20代 お肌の角を 曲がっても 根性だけは 曲がっちゃだめさ
指先で いちごのジャムを 唇に 今宵のキスは 甘く溶けて
1000本の 涙の跡が 消える頃 古いかさぶた そっと剥がした
ひとつ星 そこしか見えぬ 頑固者 飛べない鳥は また夢を見る

「ゆでたまご」
タマゴの殻に
小さなヒビを入れる
傷付けないで
つるつる剥いて
そして そっと歯を立てて

「ロッキングチェア―」
受け止めることに
疲れきったあなたが座る
椅子の背もたれになれたら
けれど椅子はあなたには
まだ小さすぎて

「見栄を張りたいお年頃」
白いスニーカーを
黒いミュールに履き替えて
紅いルージュの
青いりんごは
熟れていくのを待っている

「やつあたり」
愛だけで
地球はほんとに救えるの
それだけだったら
何度目なのさと
悪態をついた夜

「ふたりではんぶんこ」
眠れない夜は
火照った手のひらのせい
冷たいコップの水じゃだめで
誰かのカラダをぎゅっと抱きしめて
熱を分けてあげたい

横田裕子 五行詩・その2 2004年01月13日(火)21時25分06秒

「記憶」
 ガラクタを処分するように
 余計な記憶(モノ)をごっそり
 捨てられたらいいのに
 今頃になって古傷が
 痛む事なんてないのに

「満月」
 飲んで泣いて帰る道
 真ン丸い月がこっちを見てた
 背筋を伸ばして睨み返したけど
 私はただの
 負け犬でしかなかった

「あやとり」 
 赤い毛糸で家をつくる
 ここは指掛けあそこは外して
 壊れぬように気をつけて
ふたりが辿って巡り合った
あの糸の色ね

「日めくりめくり」
 紙一枚をめくる度
 一日を重ねた毎日が過ぎてく
 新しい何かとの出会いも
 めくりめくって
 巡ってくる

「後悔」
 気が付いてからじゃ
 もう遅い けれど
 気が着く前に対処できるほど
 器用じゃないってことに
 気が付いてしまった

「謎解き」
 かすかな仕種を交わして
 瞳を覗きあって
 口で言うのがもったいなくて
 それでも答えを探すけど
 知ってるのは カラダだけ

「半熟卵〜ゆでたまご・続き」
 可愛くて可愛くて
 何度も指先で撫でて
 歯を立てたら とろり
 私の中もあんな風に
 なっているんだろうか

「ささやかな幸せ」
 寒いホームで頬張る肉まん
 仕事場で見る朝焼け
 夜明け前の満月
 あなたの傍じゃなく
 あなたを想う「時間」

「鍵穴」
 この穴にぴったりの
 鍵を持ってるのはだぁれ
 その鍵の持ち主こそが
 私の中に入ってもいい
 資格を持ってるの

「癖」
 硬くなった足の皮を
 ひんむいちゃうのも
 ヘンな食べず嫌いも
 無駄だと分かっててもまだ好きなのも
 私の悪い癖
 

管理者:Ryo Michico <mail@ryomichico.net>
Powered by CGI_Board 0.70